説明

関節変性の治療のための注射用製剤の製造のための天然ポリサッカライドゲルの使用

本発明は、他の天然ポリサッカライドの有無に関わらずヒアルロン酸(又はその塩の一種)及び一種以上のポリオールで構成されているゲル形態における殺菌された注射用水性製剤に関する。滑液のレオロジーと似ているレオロジーを持ち、及び、ヒアルロン酸とポリオール間の相乗作用のおかげで高められた耐分解性を常に有している症例によっては、前記製剤は関節変性の治療において関節腔に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来の他のポリサッカライドの有無に関わらずヒアルロン酸(又はその塩の一種)及び一種以上のポリオールからなるゲル形態の、殺菌された注射用水性製剤に関する。この注射用製剤は、関節変性の治療において関節腔に使用される。
【背景技術】
【0002】
関節は、二つの骨を結合し、お互いに対して可動性が得られるようにする接合である。
【0003】
滑膜関節は特に手足において最も数の多い関節である。これら関節において、骨は、粘性及び弾性であり、並びに滑液と呼ばれる体液で満たされた腔を経て、結合される。
【0004】
滑液は関節の良好な作動及び保護に関与する。それは、制約はあるものの、関節の潤滑又は衝撃の吸収を可能にする、滑液粘弾性の特性が与えられている、ポリサッカライドであるヒアルロン酸からなる。
【0005】
膝の変形性関節症(特に肥満、遺伝、外傷、・・・のような原因による変性)のような関節変性の場合、滑液は変性し(ヒアルロン酸の濃度及び分子量の減少)、及びこの変性は関節の潤滑及び衝撃の吸収のための滑液の容量を減少させる。
【0006】
関節内補充療法(viscosupplementation)による治療は、不足した滑液を置き換えるために関節へゲルを注射することからなる。この関節内補充療法は痛みを緩和又は抑制することができ、そして関節の可動性を復元するために寄与することができる。
【0007】
現在市販されている関節内補充療法用製品はヒアルロン酸を含むゲルである。これらゲルは動物性又は非動物性由来のヒアルロン酸に基づき得、及び架橋(例として、シンビスク(Synvisc):登録商標、デュロラン(Durolan):登録商標)、又は非架橋(例として、シノクロム(Synocrom):登録商標、アルトラム(Arthrum):登録商標、ルブラビスク(Lubravisc):登録商標、ストラクトバイアル(Structovial):登録商標)であり得る。
【0008】
ヒアルロン酸ベースのゲルの残留は関節において低い(数時間から数日)ことは、当業者によく知られている。ローランの、「ヒアルロナン及びその誘導体の化学的、生物学的、及び医学的適用」、ヴェナ−グレン インターナショナル シリーズ(Wenner−Gren International Series)、72巻によると、ウサギ関節における半減期は、1%ヒアルロナン溶液では12時間であり、及び0.5%ヒランビー(Hylan B)では9日間であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この低い残留(関節内のゲルの急速な吸収の動態)はヒアルロン酸の(解重合による)分解によって明らかにされる。関節内のヒアルロン酸の分解の主要因はラジカル分解、37℃での熱分解、及び機械的な分解(酵素分解は関節内の分解の重要な要因ではない)である。関節内補充療法の治療有効性は関節内におけるヒアルロン酸の滞留時間よりも長く持続するけれども、関節内のヒアルロン酸に基づくゲルの残留は製品の有効性の影響を与える顕著なパラメーターである。斯様に、関節内のヒアルロン酸ベースのゲルの滞留時間
が長ければ長いほど、関節内補充療法(痛みの減少、可動性を得る)はより効果的である。よって、関節内のゲルの滞留時間(残留)の増加はヒアルロン酸ベースのゲルを使用した関節内補充療法による治療の有効性を増加させるための重要な点である。
【0010】
ヒアルロン酸の濃度の増加、高分子量のヒアルロン酸の使用及びヒアルロン酸の架橋/グラフト技術がヒアルロン酸ベースのゲルの残留を高めることを可能にすることは、当業者によく知られている。しかしながら、上述した種々のパラメーターの最適化はヒアルロン酸ベースのゲルの残留が関節腔において有意に増加することを可能にするほど充分であるように見えない(市場で入手できる現在の関節内補充療法用ゲルの関節内における半減期は最大でも数日のみである)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
全く予期しえず及び驚くべきである開発において、以下のことが明らかにされた:
− ヒアルロン酸を基にした殺菌された水性製剤中のポリオールの存在は、このゲルの耐分解性を著しく高めることを可能にする
− 殺菌されたゲル内におけるヒアルロン酸とポリオールの強い親和性は、ゲルの外側へのポリオールの放出のためにゆったりとした動態を包含している:ヒアルロン酸とポリオール間のこの親和性は、ポリオールによるゲルの長期間にわたる効果的な保護を相乗作用によりともなう。
− ヒアルロン酸とポリオールの水性製剤の特定の組成物にとって、殺菌することは、汚染されていない滑液の粘弾性特性を実質的に再生する全く驚くべきである粘弾性をこのゲルに与える−ゲルのこれら特有のレオロジー特性は“ヒアルロン酸/ポリオール”相乗効果によって引き起こされる分解への耐性というに特性により長期間維持される。
【発明の効果】
【0012】
それゆえ、本発明は、天然由来の他のポリサッカライドの有無に関わらずヒアルロン酸(又はその塩の一種)及び一種以上のポリオールからなるゲル形態の、殺菌された注射用水性製剤からなる。症例(実施例1及び3参照)において、関節変性の治療に使用されるこの製剤は、滑液に近いレオロジー、及び増加された耐分解性を常に示す。
【0013】
実施例4は、後に示すラジカル、耐熱及び機械的試験を受けた際の、ヒアルロン酸ベースのゲル及びポリオールの最も良い耐性を示している。分解に対するこのゲルの最もよい耐性は関節腔へ注射されたゲルの長期残留を可能にする。
【0014】
実施例5はヒアルロン酸ベースのゲル及びポリオールの熱分解への最もよい耐性を示す。このゲルの熱分解への最もよい耐性は関節腔へ注射されたゲルの長期残留及び使用前の製品の保管期間中における製剤の良好な安定化(製品の期限切れに関して重要なポイント)を可能にする。
【0015】
実施例8はヒアルロン酸及びポリオール間の強い親和性を実証する。関節に注射された、ヒアルロン酸及びポリオールの強い親和性は相乗作用によって分解に対してゲルのよりよい長期間耐性を可能にする。実際に、関節にポリオール溶液を注射した場合、自然な浄化は関節から分子(=ポリオール)をすばやく排出することになる。ポリオールをともなったヒアルロン酸ベースのゲルの場合、ヒアルロン酸とポリオール間の強い親和性により、ゲルの外側へのポリオールの素早い放出(すなわち、関節の外への素早い排出)が抑えられ、及びこうして分解に対するポリオールによるゲルの効果的な長期間の保護が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は組成物Aのゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図2】図2は組成物Bのゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図3】図3は組成物Cのゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図4】図4は組成物Dのゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図5】図5は組成物Eのゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図6】図6は製品P1のゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図7】図7は製品P2のゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図8】図8は製品P3のゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図9】図9は商用製品P4のゲルの粘性率及び弾性率を示すグラフである。
【図10】図10はゲルのフリーラジカルによる分解の動力学を示すグラフである。
【図11】図11はヒアルロン酸/ポリオールの親和性を実証するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例1及び3に、滑液のレオロジーに近いヒアルロン酸ベースのゲル及びポリオールのレオロジーを示す。
【0018】
マズッコ ディー(MAZZUCCO,D)らの出版物、「あらゆる膝関節形成患者の関節液のレオロジー」;ジャーナルオブオルソペディックリサーチ(Journal of Orthopedic Research)、1157−1163頁、2002年では、弾性率G’及び粘性率G’’間の交差周波数は、汚染されていない(非変形性関節症)膝の滑液に対する0.41±0.12Hzと等しいことを示している。この交差周波数の値は、ファム(Fam)らの出版物、「滑液のレオロジー特性」、バイオレオロジー、44巻、59−74頁、2007年によって裏付けられる。この出版物において、ある図は若年者又は高齢者に属する滑液、あるいは変形性関節症の滑液に関して、その率G’及びG’’間の交差周波数が0乃至10Hzであることが示されている。
− 0.41Hzより小さい:G’’>G’、滑液は主に粘性作用を有し、このことは患者が休息している際に関節が強く潤滑にされることを意味する、粘性作用を有する。
− 0.41Hzより大きい:G’>G’’、滑液は主に弾性作用を有し、このことは患者が走る又は跳ねる際に衝撃が強く吸収されることを意味する。
【0019】
本発明の一態様によると、天然由来の他のポリサッカライドの有無にかかわらずヒアルロン酸(又はその塩の一種)及び一種以上のポリオールからなるゲルは、殺菌した後、0.41Hzに近い弾性率G’及び粘度率G’’の交差周波数fcを有する。このように、該ゲルは滑液の粘弾性に近い粘弾性を有している。
【0020】
結果として、本発明の一態様によると、
− fcより小さい:G’’>G’、ゲルは主に粘性作用を有し、このことは休息時に関節が効果的に潤滑されることを意味する。
− fcより大きい:G’>G’’、ゲルは主に弾性作用を有し、このことは患者が走る又は跳ねる際に、衝撃を効果的に吸収すること(関節の保護)を意味する。
【0021】
本発明の一態様によると、交差周波数は0乃至10Hz、好ましくは0.41±0.41Hzである。それ故に、この種のレオロジーは関節、特に膝、腰又は小関節、の機械的な制約に適している。従って、それは、膝又は他の関節の関節内補充療法による変形性関節症の治療において非常に有利である。
【0022】
それ故、本発明は、天然由来の他のポリサッカライドの有無に係わらず、1−100mg/mLのヒアルロン酸(又はその塩の一種)及び0.0001−100mg/mLの一種以上のポリールからなる、滅菌された、ゲル形態の注射用水性製剤の使用に関する。この注射用製剤は、関節変性の治療において関節腔に使用される。
【0023】
ヒアルロン酸は、好ましくはバイオ発酵によって得られ、同時に動物由来から得る事も可能である。その分子量は、0.1乃至10×106ダルトン及び好ましくは2乃至3×
106ダルトンである。
【0024】
ヒアルロン酸の濃度は1乃至100mg/mL、好ましくは10乃至25mg/mLである。
【0025】
ヒアルロン酸と組み合わせて使用することができる天然由来のポリサッカライドは、例えば、コンドロイチン硫酸塩、ケラチン、ケラチン硫酸塩、ヘパリン、ヘパリン硫酸塩、セルロース及びそれらの誘導体、キトサン、キサンタン、アルギン酸塩、及びそれら個々の塩総てから選択される。
【0026】
天然由来のポリサッカライドと同様に、ヒアルロン酸は先行技術に記載された、架橋/グラフト技術によって、架橋又は非架橋、グラフト又は非グラフト化され得る。
【0027】
ポリオールは、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトール又はグルコースの様なその他の環状物から選択される。
【0028】
ポリオール濃度は0.0001乃至100mg/mL及び好ましくは15乃至45mg/mLである。
【0029】
使用される水溶液は、好ましくは緩衝液である。この緩衝液の組成物は、要求される物理化学的特性(pH、オスモル濃度)及びレオロジー的特性を有するように選択される。
【0030】
選択された緩衝液は、好ましくはリン酸緩衝液である。
【0031】
本発明によると、製剤は当業者に公知の、及び好ましくはオートクレーブを用いた技術によって殺菌される。
【0032】
本発明による製剤は関節内へ注射することによって使用され、その容量は、治療される関節の性質に基づいて、0.1乃至20mLであり得る。
【0033】
例として、本発明により製造することができる2種の粘弾性ゲル製剤は以下のようにして供給される。
− ヒアルロン酸及びグリセロールに基づいた粘弾性ゲル
リン酸緩衝液中に20mg/mLのヒアルロン酸(分子量2.5×106ダルトン)及
び20mg/mLのグリセロールを含む殺菌された溶液。
− ヒアルロン酸及びソルビトールに基づいた粘弾性ゲル
リン酸緩衝液中に20mg/mLのヒアルロン酸(分子量2.5×106ダルトン)及
び40mg/mLのソルビトールを含む殺菌された溶液。
【実施例】
【0034】
実施例は本発明を説明するためにあるが、しかし上述の発明を制限するためのものではない。下記実施例において製造される製剤は、ポリオールと共に非架橋の又は架橋したヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)に基づいたゲルである。
【0035】
非架橋の又は架橋したゲルの製造は当業者によって公知の技術に従って実施した。これらゲルの製造に使用されるヒアルロン酸ナトリウムは2.5×106ダルトンに相当する
分子量を有している。架橋したゲルの場合、使用される架橋剤はBDDEであり、使用さ
れる架橋度の定義は:質量(BDDE)/質量(乾燥NaHA)である。
【0036】
ゲルにおけるポリオールの取り込みは、非架橋又は架橋したゲル中にポリオールの必要な量を添加し、そしてそれをスパチュラで10分間(最終ゲルの100gに対して)混合することによって実施した。
【0037】
製造したゲルをガラスシリンジに満たし、続いて湿式加熱(T=121℃)で殺菌した。
【0038】
レオロジー測定をするために使用した粘弾性測定装置(rheometer)は、40mmのフラットジオメトリー、1000ミクロンの間隔、及び37℃の分析温度を備えたAR1000(ティーエイ インスツルメント社製)である。
【0039】
ポリオールの計測はHPLCウルティメイト3000(ダイオネクス社製)及びイオン交換カラムによって実施した。
【0040】
実施例1:本発明による殺菌された注射用製剤の製造
製剤A:グリセロールをともなった非架橋のNaHAに基づいたゲル
− 2.5×106ダルトンのNaHA15mg
− グリセロール20mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
製剤B:グリセロールをともなった非架橋のNaHAに基づいたゲル
− 2.5×106ダルトンのNaHA20mg
− グリセロール20mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
製剤C:プロピレングリコールをともなった非架橋のNaHAに基づいたゲル
− 2.5×106ダルトンのNaHA20mg
− プロピレングリコール15mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
製剤D:マンニトールをともなった非架橋のNaHAに基づいたゲル
− 2.5×106ダルトンのNaHA20mg
− マンニトール15mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
製剤E:ソルビトールをともなった非架橋のNaHAに基づいたゲル
− 2.5×106ダルトンのNaHA20mg
− ソルビトール40mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
製剤F:ソルビトールをともなった架橋したNaHAに基づいたゲル
− 2.5×106ダルトン、架橋度6%のNaHA18mg
− ソルビトール50mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
【0041】
実施例2:実施例1の製剤の物理化学的特性
【表1】

【表2】

【0042】
製剤A、B、C、D、E及びFは等浸透圧であり、及び中性pHを有している。
【0043】
実施例3:実施例1の組成物のレオロジー的特性
製剤A、B、C、D及びEの粘弾性は、周波数(図1乃至図5参照)に基づいて粘度率(G’’)及び弾性率(G’)の斬新的変化を測定することよって特徴付けられる。
これら5種の製剤にとって、率G’及び率G’’の交差周波数は、汚染されていない滑液のそれに近いことに注目する。
下記の表は、個々の製剤及び汚染されていない滑液の交差周波数fcを提供する。
【表3】

【0044】
本発明に説明されているように
− fcより小さい:G’’>G’、ゲルは主に粘性作用を有し、このことは休息時に関節が効果的に潤滑されることを意味する。
− fcよりおおきい:G’>G’’、ゲルは主に弾性作用を有し、患者が走る又は跳ねた際に衝撃を効果的に吸収することを意味する。
【0045】
実施例4:実施例1の製剤の耐分解性
NaHA−ベースのゲルにおけるポリオールの存在がラジカルによるゲルの分解を減少させ得るということを示すために、熱的作用及び機械的な作用、ポリオールをともなったNaHA−ベースのゲル(実施例1の組成物)の分解に対する耐性、及びポリオールをともなわないNaHA−ベースのゲル(比較ゲル)の分解に対する耐性を比較した。
【0046】
実施例1の製剤B、C、D及びEに対して、ポリオールを含まないNaHAベースの比較ゲルは、NaHA(リン酸緩衝液中、分子量2.5×106ダルトン)20mg/mL
を含む非架橋のNaHAベースのゲルである−組成物G。
【0047】
実施例1の組成物Fに対して、ポリオールを含まないNaHAベースの参考ゲルは、NaHA(リン酸緩衝液中、架橋する前には分子量2.5×106ダルトン)18mg/m
Lを含む架橋したNaHAベースのゲルである−組成物H。
【0048】
変性試験は、試験のために酸化剤を試験されるゲルに添加し、一分間、スパチュラで混合を攪拌して均質化し、37℃までにし、さらに0.3%変形させて実施した。
【0049】
このパラメーターがゲルの段階的な分解と同じ意味で、時間と共に増加する点に注目する。製剤B、C、D、E、F、G及びHに対してt=0及びt=15分で測定されたこの値を、下記表に提示する。
【表4】

【0050】
本発明に記載されているように、個々の製剤B、C、D及びEはポリオールを含まないゲル(製剤G)の分解耐性よりも有意に高い分解耐性をもっている。同様に、製剤Fは、対応するポリオールを含まないゲル(組成物H)の分解耐性よりも有意に高い分解耐性をもっている。。
【0051】
従って、ポリオールはゲルを分解から有効に保護している。
【0052】
実施例5:ポリオールの有無にかかわらない製剤の促進老化研究
2つの製剤に40℃の熱促進老化試験を行った。
− 実施例1の製剤B:グリセロールをともなったヒアルロン酸に基づいた溶液
− アルコールの添加なしの製剤G(実施例4に記載)
− 2.5×106ダルトンのヒアルロン酸20mg
− リン酸緩衝液1mLにとって充分な量
【0053】
ゼロ粘度(ゼロせん断時粘度)の測定及び弾性率G’及び粘性率G’’間の交差周波数fcの測定を、3回(t=0、7日後、26日後)実施した。
得られた結果を、下記表に示す。
【表5】

*ND=測定値なし
【0054】
促進老化試験の間、ゼロ粘度の低下及び交差周波数のfcの減少は、製剤B(本発明に従う製剤)の場合の方が、ポリオールを含まない製剤(製剤G)の場合よりも少ない。
【0055】
実施例6:4種の市販されている関節内補充療法用製品及び本発明に従って得られた製剤のレオロジー比較
試験した製品は以下の通りである。
【表6】

【0056】
5種のゲルの試験において、図6乃至図9は、周波数に基づいた粘性率(G’’)及び弾性率(G’)を与える。
【0057】
実施例1によるゲルのみが、汚染されていない滑液の交差周波数(0.41Hz)に近い交差周波数(0.50Hz)を有していることに注目する。
【0058】
下記表は、製品P1乃至P4及び実施例1の組成物Aに関する交差周波数fcの値を組み合せて示したものである。
【表7】

【0059】
(前述の)マズッコ、ディらの出版物によれば、汚染されていない滑液の交差周波数(0.41Hz)は、歩行(0.7Hz)及び走行(3Hz)中の、膝で観測される周波数より低いことが知られている。
【0060】
製品P1乃至P3に関して、交差周波数は3Hzよりも高く、従って、製品は膝が動い
ているとき、衝撃の吸収を可能にする強い弾性を有さない。
【0061】
製品P4はとても低い交差周波数を有し、弾性率は、0.1−10Hzの全周波数幅にわたる粘性率よりも高い。従って、膝が動いているときの弾性は高いが、しかし患者が休息している際の関節の潤滑性はあまり効果的ではない。
【0062】
実施例7:3種の商用の関節内補充療法用製品及び本発明によって得られた製剤の耐分解性比較
試験した製品は次の通りである。
【表8】

【0063】
分解試験は実施例4に記載されている方法に従って実施した。
0.7HzのパラメーターG’の値を徐々に追跡した。
上記のようにして得られたレオロジー曲線は図10である。
本発明によるゲルは、試験された3種の商用の製品よりも有意にゆっくりと分解されるようになったことに注目する。
【0064】
実施例8:強いヒアルロン酸/ポリオール親和性の実証
ヒアルロン酸及びポリオール間の強い親和性、及びそれゆえのポリオールによるゲルの長期間の保護を実証するために、透析によるポリオールの放出の追跡研究を実施した。
【0065】
製剤E(非架橋のNaHA20mg/mL及びソルビトール40mg/mLに基づいたゲル−実施例1)5gを透析膜(No.1)(スペクトラ/ポア(商標登録)、MWCO:12−14000)中に注入した。
【0066】
ソルビトール40mg/mLを含むリン酸緩衝液5gを2番目の透過膜(No.2)(スペクトラ/ポア(商標登録)、MWCO:12−14000)−No.1の透析膜と同じ程度、中に注入した。
【0067】
これらの膜は、磁気で攪拌しながら精製水(=透過浴)50gを含む個々のボトルに置いた。ゲル又は緩衝液を含む膜の外側へのソルビトールの放出に関する動態を追跡するために異なる時間で透過浴において、HPLCによってソルビトール濃度の測定を実施した。
【0068】
時間を追った、ソルビトール濃度の追跡曲線が図11である。
【0069】
ゲル中のソルビトールの放出のための動態は有意に緩衝液中のそれよりゆっくりである。
【0070】
この研究は、ゲル中に存在するヒアルロン酸及びポリオール間の相乗作用を促進する:強いヒアルロン酸/ポリオール親和性は、ポリオールが長期にわたってゲル中に存在することを可能にし、及びゲルに関するポリオールの保護容量は変性に対するゲルの強い長期間の耐性を有することを可能にする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0071】
【非特許文献1】「ヒアルロナン及びその誘導体の化学的、生物学的、及び医学的適用」、ヴェナ−グレン インターナショナル シリーズ、72巻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節腔で使用され、ヒアルロン酸又はその塩の一種及び所望により一種以上の天然由来の他のポリサッカライド、及び一種以上のポリオールを含むゲル形態の殺菌された注射用水性製剤であって、ヒアルロン酸又はその塩の一種、所望により一種以上の天然由来の他のポリサッカライド、及び一種以上のポリオールを含む水性組成物を調製することによって、そして次いで該組成物を殺菌することによって得られる、殺菌された注射用水性製剤。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸が1−100mg/mLで含まれ、及び前記ポリオールが0.0001−100mg/mLで含まれること、並びに得られたゲルが0乃至10Hz、好ましくは0.41±0.41Hzの、弾性率G’及び粘性率G’’の交差周波数を有し、それによって高周波数でG’がG’’より大きいことを特徴とする、請求項1に記載のゲル形態の、殺菌された注射用水性製剤。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸が非架橋であるか、又は本質的に非架橋である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸が架橋している、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項5】
ヒアルロン酸又はその塩の一種の濃度が10乃至25mg/mLであり、及びポリオールの濃度が15乃至45mg/mLである、請求項1又は3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸(又はその塩の一種)は単独で又は混合されて0.1乃至10×106ダルトンの分子量であり、及び前記ポリオールは単独で又は混合物で、グリセロール、
プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、又はグルコースである、請求項1乃至5のいずれかに記載の製剤。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸が2乃至3×106ダルトンの分子量を有している、請求項1乃至6
の何れかに記載の製剤。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸濃度が20mg/mLであり、及びグリセロールの濃度が20mg/mLである、請求項1乃至7の何れかに記載の製剤。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸濃度が20mg/mLであり、及びソルビトールの濃度が40mg/mLである、請求項1乃至7の何れかに記載の製剤。
【請求項10】
前記殺菌がオートクレーブ中で行われる、請求項1乃至9の何れかに記載の製剤。
【請求項11】
ヒアルロン酸又はその塩の一種、所望により天然由来の一種又はいくつかの他のポリサッカライド、及び一種以上のポリオールを含む水性組成物を調製すること、並びに斯様に得られた組成物を殺菌することからなる工程を含む、請求項1乃至10の何れかに記載のゲル形態の、殺菌された注射用水性製剤の製造方法。
【請求項12】
前記殺菌がオートクレーブ中で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
関節変性の治療における関節内注射のための、請求項1乃至10の何れかに記載の製剤の使用。
【請求項14】
前記製剤が0.1乃至20mLの割合で注射される、請求項13に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−531863(P2010−531863A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514043(P2010−514043)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000948
【国際公開番号】WO2009/024670
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(506032369)アンタイス エス.エイ. (6)
【Fターム(参考)】