説明

防弾材料

【課題】軽量でかつ高い耐弾性能を有する防弾材料を提供すること。
【解決手段】全芳香族ポリアミド繊維から構成された防護材料であって、該全芳香族ポリアミド繊維の繊維表面には無機微粉末が0.4〜15mg/mの割合で付着。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、全芳香族ポリアミド繊維を用いた防弾材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、軽量で防弾に対する防護性能が良好な防弾材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、防弾材料として高強度繊維布帛の積層物がよく知られている。その繊維材料として、特開昭52−46700号公報、特開昭57−207799号公報ではアラミド繊維を用いたものが提案されている。また、特開昭57−180635号公報、特開昭62−135358号公報では、高強力ポリエチレン繊維が提案されている。
【0003】
さらに近年は、銃弾に対する防御に関して、一層の関心が高まってきており、より脅威の高いレベルのエネルギーを有する銃弾に対する高い防弾性能が求められるようになってきている。このような市場の要求に対し、アラミド繊維を用いる場合は、耐弾性能を高めるために布帛の積層枚数を増やさねばならず、防弾衣料として用いる場合には、重量増の問題が生じることとなる。
【0004】
また、高強力ポリエチレン繊維を用いる場合には、アラミド繊維と同様に、布帛の積層枚数増による防弾衣料の重量増の問題が生じると同時に、融点が低いために、耐熱性という観点から高レベルでの耐弾性能は十分とはいえない。
【0005】
一方、特開平9−72697号公報では、ポリベンザゾール繊維を繊維材料とした高強度繊維布帛を防弾材料として用いることが提案されている。しかしながら、ポリベンザゾール繊維はアラミド繊維対比耐湿熱性が不良で、経時劣化が起こり易いという問題と、繊維が非常に高価であるため、一般的な防弾材料として用いるためにはコスト高になるという問題が生じる。
【0006】
【特許文献1】特開昭52−46700号公報
【特許文献2】特開昭57−207799号公報
【特許文献3】特開昭57−180635号公報
【特許文献4】特開昭62−135358号公報
【特許文献5】特開平9−72697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解消し、軽量でかつ高い耐弾性能を有する防弾材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、全芳香族ポリアミド繊維の繊維表面に無機微粉末を特定の割合で付着させるとき、上記目的が達成できることを究明し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、全芳香族ポリアミド繊維から構成されてなる防弾材料であって、該全芳香族ポリアミド繊維の繊維表面には無機微粉末が0.4〜15mg/mの割合で付着されていることを特徴とする防弾材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量でかつ高い耐弾性能を有する防弾材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用する全芳香族ポリアミド繊維とは、芳香族ジカルボン酸/芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸等の全芳香族ポリアミドからなる繊維で、例えばポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズアミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタレート、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等、もしくは、これらに第3成分を共重合せしめた共重合体からなる繊維、例えば、コポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維等をあげることができる。なかでもコポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維は高い強度を有すると同時に耐久性に優れているので特に好ましい。
【0012】
全芳香族ポリアミド繊維の強度としては18cN/dtex以上、さらに好ましくは20〜30cN/dtexの範囲が適当である。強度が18cN/dtex未満である場合には、構成する繊維強度が十分でないために優れた防弾性能を得ることが困難となることがある。
【0013】
上記繊維の単繊維繊度及び長繊維で用いる場合のヤーンデニールとも特に限定する必要はないが、好適な単繊維繊度は0.2〜3.0dtex、特に0.4〜2.0dtexの範囲が好適であり、ヤーン繊度は200〜2000tex、特に400〜1700dtexの範囲が適当である。単糸繊度が0.2dtex未満である場合には、毛羽が発生し易くなるために布帛とするための十分な製織性を得ることが困難となることがある。一方、3.0dtexを超える場合には、布帛とした際の繊維の直線性が阻害されるため、繊維の性能を発揮し難くなるため好ましくない。また、ヤーン繊度について、繊度が200dtex未満である場合には、十分な織密度を有する布帛を得ることが困難となるため好ましくない。さらに、2000dtexを超える場合には、布帛の嵩が高くなり、繊維の直線性が阻害されるため、繊維の性能を発揮し難くなるため好ましくない。
【0014】
上記全芳香族ポリアミド繊維の表面には、無機微粉末を0.4〜15mg/mの割合で付着させる必要がある。さらに好ましくは、1.3〜10mg/mの範囲である。無機微粉末の付着量が0.4mg/m未満である場合には、布帛に加工する製織工程のガイド等による摩擦によって繊維が損傷されるなどの問題が生じやすく、また、ガイドローラー等への巻き付きなど良好な工程調子を得ることが困難となるので好ましくない。一方、無機微粉末の付着量が15mg/mを超える場合には、繊維間に存在する該無機微粉末が過剰となり、静摩擦が高くなりすぎるため、かえって耐弾性を低下させるため好ましくない。さらに、製織工程での粉塵や、スカム等が発生し易くなるので好ましくない。
【0015】
該全芳香族ポリアミド繊維表面に付着させる無機微粉末の平均粒径は20μm以下であることが望ましい。さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下のものが、単繊維の表面に均一に付着しやすくなるので好適である。
【0016】
本発明で有効に使用できる無機微粉末は数多く存在するが、珪酸化合物が好適である。なかでも、無水珪酸アルミニウム、アルミノ珪酸ナトリウムから選ばれた1種または2種の混合物が好適である。
【0017】
本発明においては上記全芳香族ポリアミド繊維を布帛として使用し、防弾材料とするが、その際の布帛の織密度は、特に限定する必要はなく、好適な織密度は目付が100g/m2〜350g/m2である。目付は、糸の繊度と織密度に関係するものであるが、目付が350g/m2を越えると、布帛の嵩が高くなり、繊維が織組織を構成するために一般にクリンプと呼ばれるうねりが大きくなってしまう。これにより繊維の直線性が阻害されるために繊維の性能を発揮し難くなる。また、目付が100g/m2未満の場合は、繊維の直線性が高くなるが、織密度が粗くなって織組織の保持性が悪くなり、弾が織目を開く挙動を示すようになり好ましくない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性は、以下の方法に従って評価した。
【0019】
(1)無機微粒子の付着量(DPU-1)
予め仕上げオイルを付与しないアラミドフェルト等の試料を約3gサンプリングする。次いで120℃で1時間乾燥した後に重量A(g)を精秤する。次いで、この試料を800℃の焼却炉中で完全に灰化させ、灰化後の灰分重量B(g)を測定し、次式で計算する。
【数1】

【0020】
(2)無機微粒子の付着量(DPU-2)
上記方法により得られた無機微粒子の付着量の重量%をD(%)、単糸の繊度をS(dtex)、単糸フィラメントの半径をR(μm)として、次式で計算する。
【数2】

【0021】
(3)防弾性能
防弾性能評価は、9mm拳銃を用いて行った。予め10cmの厚みの粘度上に被評価サンプルをベルト等で動かないように固定し、銃口から5mの位置に弾丸が垂直にあたるような角度でセットした。弾丸の速度は一定であるため、サンプルの積層枚数を増減させることにより総目付けを変更し、弾丸がサンプルを貫通しない目付(非貫通最小目付)により評価を行った。評価は同条件で4回繰り返し行い、1回の貫通もない場合に貫通しないと判断する。なお、サンプルの大きさは他のテスト弾丸がサンプルに与えたダメージの影響がない程度に十分大きなものとした。
【0022】
性能評価に用いた弾丸の仕様は9mm弾で形状の種類は鉛が丹銅で覆われたフルメタルジャケットであり、その重量は8.0gである。また、拳銃から発射された弾丸の速度は345m/sであった。
【0023】
[実施例1、2]
水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという)112.9部、パラフェニレンジアミン1.506部、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.789部を常温下で反応容器に入れ、窒素中で溶解した後、攪拌しながらテレフタル酸クロリド5.658部を添加した。最終的に85℃で60分間反応せしめ、透明の粘稠なポリマー溶液を得た。次いで22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMPスラリー9.174部を添加し、中和反応を行った。得られたポリマーの対数粘度は3.33であった。
【0024】
得られたポリマー溶液を用い、孔径0.3mm、孔数267の紡糸口金からNMP30重量%の凝固浴(水溶液)に押し出し湿式紡糸した。紡糸口金面と凝固浴との距離は10mmとした。紡糸口金から紡出された繊維を水洗し、絞りローラに通して表面付着水を除去し、無水珪酸アルミニウムとアルミノ珪酸ナトリウムの比率が1対1である濃度2.0重量%の無機微粉末(無水珪酸アルミニウムの平均粒径1.1μm、アルミノ珪酸ナトリウムの平均粒径2.1μm)の水系分散浴に約1秒間浸漬し、次いで絞りローラに通し、無機微粉末液の付着した糸を得た。引き続いて該糸を表面温度が200℃の乾燥ローラを用いて完全に乾燥させた後、530℃で10倍に熱延伸した。
【0025】
得られた延伸糸に、まずシャワー水量10L/分で水を吹き付けて、延伸糸を十分に湿潤させた。次いで、内径が1.5mm、長さ10mmのエアーノズルを通して200L/分の空気流を噴射した。これらの操作を2回繰り返した後、仕上げ油剤を付着量が1.5重量%となるように付与し、500m/分の速度で巻き取った。得られた繊維のフィラメント数は267本、ヤーン繊度は440dtex、切断強度24.8cN/dtex、初期モジュラス533cN/dtexであった。
【0026】
得られた繊維コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維を用いて、たて、よこの織密度を45本/インチとして目付110g/mの平織物を作成した。この織物を複数枚重ねて防弾試験を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
[比較例1]
10倍に熱延伸された後の、無機微粉末液の付着した糸に、水の吹き付けおよび空気流の噴射処理を行わないこと以外、実施例1と同様にして平織物を作成し、防弾試験を行った。その結果をあわせて表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の防弾材料は、従来の防弾材料と比較して優れた防弾性能を有しているので、軽量で優れた保護用品、あるいは安全用品等の用途分野に展開することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド繊維から構成されてなる防弾材料であって、該全芳香族ポリアミド繊維の繊維表面には無機微粉末が0.4〜15mg/mの割合で付着されていることを特徴とする防弾材料。
【請求項2】
無機微粉末の平均粒径が20μm以下である請求項1記載の防弾材料。
【請求項3】
無機微粉末が、無水珪酸アルミニウムまたはアルミノ珪酸ナトリウムの微粉末である請求項1又は2記載の防弾材料。
【請求項4】
全芳香族ポリアミド繊維が、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載の防弾材料。

【公開番号】特開2006−200055(P2006−200055A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10657(P2005−10657)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】