説明

防振・防音床構造

【課題】材料コストや施工コストを低く抑えて防振・防音効果を発揮させる。
【解決手段】大引根太300の下に二枚のばねを組み合わせて構成される緩衝材である二枚ばね200を必要量取り付ける。このときに用いられる大引根太300は、高さが60mm〜120mmであって、かつ幅が65mm〜150mmである。大引根太300は、一定間隔をおいて配置され、その大引根太300上に床材400が仕上げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振・防音床構造に関し、特に根太の下に二枚ばねの緩衝材を取り付けることにより防振・防音する防振・防音床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から根太とゴムを組み合わせた床の防音方法がある。
【0003】
しかし、根太とゴムとの組み合わせによっては重量衝撃音をほとんど吸収できないことから、ゴムのように非線形性を示すことなく確実に優れた防振・防音性能を確保することが出来る複数枚の板ばねを組み合わせた緩衝材を根太と組み合わせた床の防音方法が考案された(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2741187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、根太とばねを使った緩衝材との組み合わせによっても、用いられる根太の太さによっては所望の防振・防音効果が発揮されないという問題があった。
【0006】
一方で、根太の太さを太くするとしても、費用対効果、取り扱いのしやすさ、もしくは床面から天井面までの高さが決まっている状態から防振・防音改修をする際に、あまりに太い根太を使ってしまうと、所望の室内高が得られないという問題があった。
【0007】
さらに、床スラブを増し打ちすることにより床スラブ厚を増す防振・防音改修を使用とすると、古い集合住宅などの場合には、経年劣化により床スラブの強度が落ちていることや、元々も床スラブ厚が薄いために、床スラブが増し打ちに耐えられず、この手段による防振・防音改修をすることができないという問題があった。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、材料コストや施工コストを低く抑えつつ防振・防音効果を発揮する防振・防音床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記問題を解決するために、根太の下に複数枚の板ばねを組み合わせた緩衝材を取り付けることにより防振・防音する防振・防音床構造において、前記根太が、大引根太であることを特徴とする防振・防音床構造が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防振・防音床構造によれば、複数枚の板ばねを組み合わせた緩衝材と根太が組み合わされ、かつ用いられる根太が、大引根太であるので、材料コストや施工コストを低く抑えつつ防振・防音効果を発揮可能な床面の固有振動にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態に係る防振・防音床構造を示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る防振・防音床構造を示す断面図である。
【図3】二枚ばねに根太を組み合わせるか否かによる防音性能の差を示す実験結果である。
【図4】二枚ばねに根太を組み合わせるか否かによる防音性能の差を示す実験結果である。
【図5】根太の太さを変えたときの軽量衝撃音低減量の差を示す実験結果である。
【図6】根太の太さを変えたときの軽量衝撃音低減量の差を示す実験結果である。
【図7】根太の太さを変えたときの軽量衝撃音低減量の差を示す実験結果である。
【図8】根太の太さを変えたときの重量衝撃音低減量の差を示す実験結果である。
【図9】丸太から変形根太を切り出す様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1および2は、本実施の形態に係る防振・防音床構造を示す断面図である。
【0014】
図1および2に示すように、床スラブ100上に、二枚ばね200を介して大引根太300が配設され、大引根太300上にパーティクルボード410および合板420,430からなる床材400が敷設されている。一の壁から対向する別の壁まで一本の大引根太300によって差し渡される。パーティクルボード410としては、通常用いられる25mm厚のものより厚い30mm厚のものが使用される。
【0015】
二枚ばね200は、床スラブ100と床材400との上下間隔方向に湾曲する板状の複数の弾性部材を備え、各弾性部材は相互に異なるタイミングで弾性変形し始めるように構成されている。床材400は、床面全体が一体化するように仕上げられている。
【0016】
二枚ばね200上に大引根太300が配置されていることにより、床材400上からの衝撃が大引根太300と二枚ばね200により吸収され、床スラブ100および階下に伝わることを防ぐ。より詳細には、床面全体で衝撃を受け、床面全体で受けた衝撃は、その床面を構成するすべての大引根太300下に設けられているすべての二枚ばね200によって吸収される。
【0017】
このため、大引根太300としてある程度の太さ以上の角材が用いることで、一定以上の強度および剛性を有するようにしている。この一定以上の強度および剛性により、荷重がかかった際に大引根太300のたわみを抑止できる。また、壁から壁までの間を一本の根太で差し渡すことにより、かつ床材400が、床面全体が一体化するように仕上げられていることにより、上述のような床面全体で衝撃を受けることができる。
【0018】
本明細書において大引根太とは、大引用材として用いられる太さ・強度の、通常は根太としては用いない太さの根太のことをいい、おおむね高さが65mm〜120mmであって、かつ幅が65mm〜130mmのものをいう。大引根太300として用いられる角材の太さの詳細は後述する。
【0019】
床を仕上げるときには、大引根太300は400mm〜650mm間隔で床スラブ100上に配置され、1つの大引根太300の下には二枚ばね200が複数配置される。1つの大引根太300に対する二枚ばね200の個数は想定される衝撃に応じて変えることができる。たとえば、住宅用より室内運動場用の方が想定される衝撃が大きいので、二枚ばね200の個数を増やしたり、大引根太300の間隔を狭めるなどして、想定される衝撃に適した床面の固有周期に調整することができる。
【0020】
図3および4は、二枚ばねに根太を組み合わせるか否かによる防音性能の差を示す実験結果である。
【0021】
図3(A)は、二枚ばね200上に大引根太300を配置し、大引根太300上に敷設したパーティクルボード410上から衝撃を与えて衝撃音の低減量を表しており、図3(B)は、二枚ばね200上に大引根太300を配置せず、パーティクルボード410上から衝撃を与えて衝撃音の低減量を表している。図4は、図3の表で示した結果の折れ線グラフである。
【0022】
図3および4に示す実験例においては、90mm角のツガ材を大引根太300として使用している。
【0023】
図3および4に示すように、大引根太300を配置せずに二枚ばね200のみで衝撃音を吸収することはできないことがわかる。特に125Hz〜1000Hz付近にいたっては素面衝撃音より衝撃音が大きくなってしまうということがわかる。
【0024】
つまり、二枚ばね200のみによっては衝撃音を吸収することができず、一方で根太のみによっても衝撃音を吸収できないのは周知の事実である。
【0025】
図5ないし7は、根太の太さを変えたときの軽量衝撃音低減量の差を示す実験結果である。図6は、図5(A)の表で示した結果の折れ線グラフであり、図7は、図5(B)の表で示した結果の折れ線グラフである。
【0026】
図5ないし7の実験例においては、二枚ばね200上に根太300を配置し、根太300上に敷設したパーティクルボード410上から衝撃を与えて衝撃音を測定している。図5(A)の実験例においては、大引根太300として70mm角の杉材が使用され、図5(B)の実験例においては、根太300として45mm×55mm角の杉材が使用されている。
【0027】
図5ないし7に示すように、根太300を細くすると衝撃音の低減量が小さくなることがわかる。しかし、根太300として45mm×55mm角の杉材を用いた場合であっても、10dB以上の低減量が得られることから本発明に係る防振・防音床構造が有効であることがわかる。
【0028】
図8は、根太の太さを変えたときの重量衝撃音低減量の差を示す実験結果である。
【0029】
図8の実験例においては、二枚ばね200上に根太300を配置し、根太300上に敷設したパーティクルボード410上から衝撃を与えて衝撃音を測定している。根太300としては、70mm角の杉材および45mm×55mm角の杉材が使用されている。
【0030】
図8に示すように、根太300を細くすると衝撃音の低減量が小さくなることがわかる。根太としては通常の住宅用として40m×45mm角の角材が使用され、45mm×55mm角の角材を使用するのは、室内運動場用などとしてなど想定される衝撃が大きいときに用いられているが、そのような通常のものよりも太い根太である根太300として45mm×55mm角の杉材を用いた場合であっても、125Hz帯域においては1dB強の低減量しか得られないことがわかる。
【0031】
したがって、基準低減量を3dB以上であるとすると、70mm角よりは細くてもいいが、45mm×55mm角よりは太い大引根太300を使用する必要がある。
【0032】
3dB以上の低減量を実現するためには大引根太300をより太いものにする必要があるが、大引根太300の太さを太くすると言うことは床スラブ100から天井までの高さが低い古い住宅に対する防振・防音リフォームにおいては、仕上げた床面から天井までの高さ所望の高さに達しなくなってしまうという欠点を生じさせる。また、太くすると大引根太300の重量が大きくなるので、取り扱いがしづらくなり、施工性が低下し、それに伴い施工コストも増加するという欠点も生じされる。
【0033】
そこで、3dB以上の低減量を実現しつつ、費用対効果を上げて、取り扱いをしやすくし、かつ天井高を一定以上に保つべく図9に示すような変形根太を用いることが考えられる。
【0034】
図9は、丸太500から変形根太510を切り出す様子を示している。丸太500から下端の長さがL1になるように一辺を切り出し、高さL3がL1より短くなるように上端を切り出し、側面の切り出しは行わない。このときの上端の幅がL2であるとすると、L2の長さはL1より長くなる。
【0035】
たとえば丸太500が、90mm角の角材が切り出せる太さのものであって、下端の長さL1が90mmになるように切り出し、高さL3が70mmになるように上端を切り出すと、上端の長さL2がおよそ120mm〜130mmとなる。
【0036】
このような変形根太510を二枚ばね200の上に配置すると、90mm角の大引根太300を配置したときと同等の衝撃音の低減量を得ることができ、かつ床スラブ100から仕上げた床面までの高さを低く抑えることができるので、衝撃音を低く抑えつつ、仕上げた床面から天井までの高さを一定量確保することができるようになる。
【0037】
なお、上述の実施の形態において、大引根太300の下に介装される緩衝材として二枚ばね200を用いる旨の説明をしたが、線形性を有する板ばねを用いた緩衝材であれば二枚の板ばねを有する緩衝材に限定されるものではない。
【0038】
ツガ材の90mm角の角材を(10mあたり、長さ3000mm、以下同じ。)4本敷設して、その敷設した角材全体に力を加えたときにそれぞれの角材が平均して6.56mm沈み込むことを基本とすると、他の代替の大引根太を用いて同等の沈み込みになるように検討するとよりよい住環境、および防振・防音性能を発揮することになる。すなわち、その程度の沈み込みにおさえることができる強度および剛性を有する角材を用いることによって二枚ばねに対して均等に力が分散して伝わることによって防振・防音性能を発揮する。また、過度の沈み込みがあると、悪くすると人が歩くだけで床面が揺れてしまい、住環境等を著しく害する結果となるからである。
【0039】
たとえば、杉材で130mm×70mmの角材を6本敷設して上述と同じ力を加えたときには7.35mm沈み込む。この程度沈み込む強度および剛性しかないとすると大引根太が吸収する力が足りず十分な住環境、および防振・防音性能を発揮することができない。そこで、同様の杉材で130mm×70mmの角材を7本に増やして敷設した状態で上述と同じ力を加えると沈み込みが6.30mmになるので、上述のツガ材の90mm角の角材を4本敷設したときと同等の沈み込み量になるため所定の性能を確保できる。一方で、大引根太の本数を増やすことによって材料コスト、および設置コストなどのコストが増大するため費用対効果の面で本数を増やすことができないこともある。
【0040】
次に、角材を140mm×70mmのものにして6本敷設したときを検討すると、沈み込みが6.83mmとなり、ツガ材の90mm角の角材よりも若干沈み込みが大きいものの、上述のツガ材の90mm角の角材を4本敷設したときと同等の沈み込み量になるため所定の性能を確保できる。
【0041】
また、角材を150mm×70mmのものにして5本敷設したときは、沈み込みが7.648mmとなり所定の性能を確保できない。そこで6本敷設すると、沈み込みが6.373mmとなり、若干材料コストが高くなるものの、上述のツガ材の90mm角の角材を4本敷設したときと同等の沈み込み量になるため所定の性能を確保できる。
【0042】
さらに、角材の単価を抑えるために150mm×60mmのものにしたときは、8本敷設したとしても沈み込みが7.59mmとなり所定の性能を確保できない。
【0043】
一方で、角材の幅をなるべく広く取ればよいかというとそうとも限らない。すなわち、角材の幅が150mmを超えるような広さになると、敷設された角材と床材との接触面積が大きくなるためびびりが生じやすくなる。すなわち、そのびびりが生じないようにするために極端に高い設置精度で角材(大引根太)を設置することが要求される。したがって、設置精度が高いときは所望の効果を発揮することが可能であるが、一般的には設置に対するコストが上がるため好ましい態様であるとは言えない。
【0044】
なお、上記実施の形態において、角材としては杉材を用いる旨の説明をしたが、同等の強度および剛性を備える材であって、材料コスト、設置コストが見合うときには、強度および剛性木材、集成材、その他の材の根太を用いてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
100 床スラブ
300 大引根太
400 床材
410 パーティクルボード
420,430 合板
500 丸太
510 変形根太

【特許請求の範囲】
【請求項1】
根太の下に複数枚の板ばねを組み合わせた緩衝材を取り付けることにより防振・防音する防振・防音床構造において、
前記大引根太が、大引根太にすることにより、床材全体の固有周期を低くすることができることを特徴とする防振・防音床構造。
【請求項2】
前記大引根太が、高さが65mm〜120mmであって、かつ幅が65mm〜130mmであることを特徴とする請求項1記載の防振・防音床構造。
【請求項3】
前記大引根太が一の壁から対向する壁まで一本で差し渡され、かつ前記大引根太上に設けられた床材が一体に振動するように仕上げられることを特徴とする請求項1または2記載の防振・防音床構造。
【請求項4】
前記緩衝材の位置を変更することによって、床材にかかる衝撃に合わせた床材全体の固有周期に変更可能であることを特徴とする請求項1ないし3記載の防振・防音床構造。
【請求項5】
前記大引根太は、90mmの幅が形成されるように丸太を面取りし、その面から70mmの高さを確保するように前記面取りした面に平行に面を形成して作成されることを特徴とする請求項1ないし4記載の防振・防音床構造。
【請求項6】
前記大引根太が、400mm〜650mm間隔で敷設されることを特徴とする請求項1ないし5記載の防振・防音床構造。
【請求項7】
前記大引根太が、高さが60mm〜120mmであって、かつ幅が65mm〜150mmであることを特徴とする請求項1または、3ないし6記載の防振・防音床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−64055(P2011−64055A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268252(P2009−268252)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(507306562)
【Fターム(参考)】