説明

防曇剤及びそれを用いた防曇性樹脂シート

【課題】一方の面に防曇剤層が形成され、他方の面に離型剤層が形成された防曇性樹脂シートにおいて、ロール上に捲きとった捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じり合い、及び捲回物を捲き戻して成形に供する際の防曇剤層と離型剤層の転写が抑制され、防曇性の低下、外観の低下が抑制された防曇剤、及びこの防曇剤を防曇剤層に有する防曇性樹脂シートを提供すること。
【解決手段】界面活性剤(A)とポリアミノ酸(B)の混合物を少なくとも含むことを特徴とする防曇剤、及び、この防曇剤を防曇剤層に有する防曇性樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤、及びこの防曇剤を防曇剤層に有する防曇性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明樹脂シートを熱成形することにより、弁当等の各種食品のワンウェイの食品包装用透明容器の容器本体や蓋体を製造することは広く行なわれている。一方、市場の拡大や消費者のニーズの多様化に伴い、食品包装用容器としての要求性能も高まっており、とりわけ水分を含む内容物を包装し冷蔵保存した場合の容器内面での結露に対する低温防曇性、及び高温の内容物を包装した場合の容器内面での水蒸気の凝集による高温防曇性の向上が強く望まれている。
【0003】
一方、これらの食品包装用容器に用いられる透明樹脂シートに防曇性を賦与するために、従来より、透明樹脂シートの一方の面に防曇剤水溶液を塗布し乾燥させて防曇剤層を形成することが行なわれているが、その防曇剤層が形成された樹脂シートは、ロール上に捲き取った捲回物として製品化され、それを捲き戻しながら熱成形に供される際において、たとえ塗布後の乾燥が十分であっても、ロール状捲回物として保管後、捲き戻す時に防曇剤層が他方の面に移行し(以後この移行する現象を「転写」と言う。)、防曇性の低下を引き起こしていた。
【0004】
また更に、成形時の金型からの剥離性や成形品同士の剥離性等の賦与のために、透明樹脂シートの他方の面にシリコーンオイルのエマルジョン等を塗布し乾燥させて離型剤層を形成することも行なわれているが、その場合にはロール状捲回物として保管時に防曇剤層と離型剤層とが混じりあって、透明シートを白化させてシート外観を悪化させるばかりか、捲き戻す時に防曇剤層の転写とともに離型剤層の転写をも起こして防曇性の更なる低下を引き起こし、それがロール状捲回物としての保管期間の長期化と共に益々顕著になるという問題があった。
【0005】
従来、このような転写の抑制方法、或いは防曇性の賦与方法として、界面活性剤及び高分子化合物からなる防曇剤層を設ける方法が多数提案され、例えば、特許文献1には、ショ糖ラウリン酸エステルと重合度が800以下のポリビニルアルコール、及び、特定粒径以下のシリコーンからなる防曇剤層を設ける方法、特許文献2には、特定HLBのショ糖ラウリン酸エステル、及びポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールから選ばれる水溶性ポリマーからなる防曇剤層を設ける方法、特許文献3には、ショ糖脂肪酸エステル及びアクリル系共重合体からなる防曇剤層を設ける方法、特許文献4には、ショ糖脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体又はポリエチレングリコール、及びポリビニルアルコールからなる防曇剤層を設ける方法等が提案されている。
【0006】
しかしながら、これら高分子化合物を併用する場合、本発明者等の検討によると、ポリビニルアルコールを用いる特許文献1に開示される防曇剤層では、樹脂シートの熱成形時に白化が生じ易く、特定HLB及び水溶性ポリマーを用いる特許文献2に開示される防曇剤層、及び、アクリル系共重合体を用いる特許文献3に開示される防曇剤層では、転写を防ぐことはできるものの防曇性の点で満足のいく結果が得られず、ポリエチレングリコール等を用いる特許文献4に開示される防曇剤層では、転写を十分に抑制できず防曇性の点でも満足のいく結果が得られないことが判明した。
【0007】
【特許文献1】特公昭63−062538号公報
【特許文献2】特開2000−280410号公報
【特許文献3】特開2002−060633号公報
【特許文献4】特開2002−086639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述の従来技術における現状に鑑みてなされたもので、防曇性に優れた防曇剤を提供することを目的とし、特に一方の面に防曇剤層が形成され、他方の面に離型剤層が形成された防曇性樹脂シートにおいて、ロール状に捲き取った捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じりあい、及び捲回物を捲き戻して熱成形に供する際の防曇剤層と離型剤層の転写が抑制され、シートや成形体としての外観の低下等が抑制されると共に、食品包装用透明容器等としたときの低温及び高温防曇性の低下が抑制される防曇剤、及びそれを用いた防曇性樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、防曇剤に高分子化合物としてポリアミノ酸を用いることにより、前記目的を達成できることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、界面活性剤とポリアミノ酸の混合物を少なくとも含む防曇剤を要旨とする。また、上記の防曇剤を含む層が少なくとも1層以上含まれる防曇性樹脂シート、また、樹脂シートの他方の面に離型剤層が形成されている上記防曇性樹脂シートを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温及び高温防曇性に優れた防曇剤を提供することができる。特に、一方の面に防曇剤層が形成され、他方の面に離型剤層が形成された防曇性樹脂シートにおいて、ロール状に捲き取った捲回物を捲き戻して形成する際に、防曇剤層と離型剤層との転写が抑制され、低温及び高温防曇性の低下、及びシートや成形体としての外観の低下等をも抑制される防曇剤及びそれを用いた防曇性樹脂シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に特定はされない。
【0013】
本発明の防曇剤において、防曇剤を構成する(A)成分の界面活性剤としては特に限定はなく、この種の分野において防曇剤に用いられることが知られている界面活性剤等が使用できる。具体的には例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性界面活性剤;脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホカルボン酸塩、アルキル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤;アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。
【0014】
これらのなかで、良好な防曇性を発現する点から、非イオン性界面活性剤が好ましく、同様の点から、ショ糖脂肪酸エステル(A1)又はポリグリセリン脂肪酸エステル(A2)が特に好ましい。ショ糖脂肪酸エステル(A1)とは、ショ糖と脂肪酸とのエステルであり、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては炭素数6〜22の脂肪酸のエステルが好ましく、炭素数8〜18の脂肪酸のエステルがより好ましく、炭素数10〜16の脂肪酸のエステルが特に好ましく、炭素数12のラウリン酸エステルが更に好ましい。また、HLBが12〜17のショ糖ラウリン酸エステルが最も好ましい。
【0015】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A2)とは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであり、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数6〜22の脂肪酸のエステルが好ましく、炭素数8〜18の脂肪酸のエステルがより好ましく、炭素数10〜16の脂肪酸のエステルが特に好ましく、炭素数12のラウリン酸エステルが更に好ましい。グリセリンの結合数は6〜20が好ましく、8〜16がより好ましく、10すなわちデカグリセリンが特に好ましい。中でも、デカグリセリンラウリン酸エステルが最も好ましい。尚、前記界面活性剤は、それぞれ単独でも2種類以上を組み合わせてもよい。
【0016】
又、本発明の防曇剤において、防曇剤を構成する(B)成分のポリアミノ酸としては、1種類以上のアミノ酸の結合体でよく、例えば、ポリアラニン、ポリロイシン等の中性ポリアミノ酸;ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等の酸性ポリアミノ酸;ポリリジン、ポリアルギニン等の塩基性ポリアミノ酸、が好ましいものとして挙げられる。
【0017】
これらのなかで、良好な防曇性を発現する点から、酸性ポリアミノ酸又は塩基性ポリアミノ酸が好ましく、中でもポリグルタミン酸がより好ましく、重量平均分子量1万〜200万のポリグルタミン酸がより好ましく、重量平均分子量10万〜200万のポリグルタミン酸が特に好ましく、重量平均分子量100万〜200万のポリグルタミン酸が更に好ましい。尚、前記ポリアミノ酸は、それぞれ単独でも2種類以上を組み合わせてもよい。
【0018】
本発明において、防曇剤を構成する(A)成分の界面活性剤、(B)成分のポリアミノ酸との質量比は、両成分の合計質量に対して、(A)成分10〜90質量%、(B)成分90〜10質量%であるのが好ましく、(A)成分20〜80質量%、(B)成分80〜20質量%であるのが更に好ましく、(A)成分30〜70質量%、(B)成分70〜30質量%であるのが特に好ましい。(A)成分が前記範囲未満で(B)成分が前期範囲超過では、この防曇剤を有した防曇性樹脂シート自体の防曇性が不十分となる場合があり、一方、(A)成分が前記範囲超過で(B)成分が前記範囲未満では、防曇剤層と離型剤層との混じり合い及び転写を十分に抑制できず、経時的な防曇性の低下を生じ易い場合がある。
【0019】
又、(A1)成分のショ糖脂肪酸エステルと(A2)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルとの質量比が、両成分の合計量に対して、(A1)成分10〜90質量%、(A2)成分90〜10質量%であるのが好ましく、(A1)成分20〜80質量%、(A2)成分80〜20質量%であるのが更に好ましく、(A1)成分30〜70質量%、(A2)成分70〜30質量%であるのが特に好ましい。(A1)成分が前記範囲未満で(A2)成分が前記範囲超過では、この防曇剤を有した防曇性樹脂シートの防曇性のうち特に高温防曇性が不十分となる場合があり、(A1)成分が前記範囲超過で(A2)成分が前記範囲未満では、防曇性のうち特に低温防曇性が不十分となる場合がある。
【0020】
ここで、離型剤層と接触前の防曇性樹脂シート自体の高温防曇性と低温防曇性、並びに、離型剤層と接触経時後の防曇性樹脂シートの経時的な高温防曇性と低温防曇性の評価と定義は、実施例記載の方法で行いそのように定義するものとする。
【0021】
なお、上記質量比は、界面活性剤(A)又はポリアミノ酸(B)が予め溶媒等で希釈され溶液等になっていてそれを配合した場合であっても、その中に含まれる界面活性剤(A)又はポリアミノ酸(B)の固形分又は有効成分の質量の比である。
【0022】
本発明の防曇剤は、固体状、液体状のいずれであってもよい。防曇剤を固体状とするためには、界面活性剤(A)とポリアミノ酸(B)が溶解又は懸濁した液を、そのまま乾燥処理を行なうか、有機物又は無機物に担持した後、乾燥処理して得ることができる。
【0023】
本発明の液体状の防曇剤を得るためには、界面活性剤(A)とポリアミノ酸(B)を、水及びアルコールから選ばれた1種以上の溶媒に溶解もしくは懸濁させればよい。前記アルコールは特に限定されるものではないが、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0024】
本発明において、前記防曇剤を有した防曇性樹脂シートの防曇剤層の膜厚は特に限定はないが、5〜1000mg/mであるのが好ましく、10〜500mg/mであるのが更に好ましく、20〜200mg/mであるのが特に好ましい。防曇剤層の膜厚が前記範囲未満では防曇性自体が不十分となる場合があり、一方、前記範囲超過では、シートが白化し外観が悪くなる場合がある。
【0025】
本発明の防曇性樹脂シートは、上記の防曇剤を含む層が少なくとも1層以上含まれていることが好ましい。また、本発明の防曇性樹脂シートは、樹脂シートの少なくとも一方の面に、前記(A)及び(B)成分を含有する防曇剤層が形成されていて、他方の面にも同様の防曇剤層が形成されていて、両面に防曇性が賦与されているものであってもよいが、他方の面には、成形時の金型からの離型性や成形体同士の剥離性等の賦与のために、シリコーンオイル等を含む離型剤層が形成されたものであることが、本発明の効果をより有効に奏するために好ましい。
【0026】
その離型剤層におけるシリコーンオイルとしては離型効果を有するものであれば特に限定はないが、例えば、メチル水素ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン(炭素数2〜4)変性ジメチルポリシロキサン等が好ましいものとして挙げられる。これらの中で、離型性、安全衛生性等の点から、ジメチルポリシロキサン又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性ジメチルポリシロキサンが更に好ましく、特にジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0027】
又、シリコーンオイルは、25℃での動粘度が、10〜100,000mm/sであるものが好ましく、50〜50,000mm/sであるものが更に好ましく、100〜30,000mm/sであるのが特に好ましい。また、シリコーンオイルは、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0028】
尚、前記離型剤層には、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の界面活性剤や、或いは必要に応じて、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、粘度調整剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、抗菌剤、又は、顔料、染料等の着色剤等が添加されていてもよい。
【0029】
本発明において、前記離型剤層の膜厚は、1〜100mg/mであることが好ましく、3〜70mg/mであることが更に好ましく、5〜50mg/mであることが特に好ましい。離型剤層の膜厚が前記範囲未満では、離型性自体が不十分となる場合があり、一方、前記範囲超過では更なる離型性の向上が認められない場合がある。
【0030】
尚、本発明において、前記防曇剤層及び離型剤層の各膜厚の測定は、面積の分かった防曇性樹脂シート上の防曇剤、及び離型剤を洗浄して洗液を集め、重量法、ガスクロマトグラフィー法、高速クロマトグラフィー法等ですることができるが、膜厚既知のシートを標準サンプルとしてFT−IR(ATR法)により検量線を作成し、膜厚未知の測定値と比較する方法が簡便であるので、それを用いることもできる。
【0031】
本発明の防曇性樹脂シートで対象となる樹脂シートとしては、防曇性の食品包装用透明容器に用いられる樹脂、例えば、ポリスチレン系樹脂、アモルファスポリエチレンテレフタレート(以下、「A−PET」と略記する場合がある)等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、等の熱可塑性樹脂の、未延伸シート、一軸若しくはニ軸延伸シート等が挙げられる。これらの中で、ニ軸延伸ポリスチレンシート、未延伸A−PETシート等が好ましい。尚、樹脂シートとしての厚みは特に限定はないが、0.1mm〜0.7mmであることが好ましい。
【0032】
本発明の防曇性樹脂シートは、通常、必要により前記樹脂シート表面を公知の表面処理方法を用いて、例えばコロナ放電処理により、表面張力を好ましくは50〜60mN/mの範囲に調整し、又は、高周波処理等の処理を施した後、その一方の表面に、溶媒若しくは分散媒を用い、好ましくは0.1〜5質量%の濃度に調整した前記(A)成分と(B)成分の混合物を少なくとも含む防曇剤を、スプレーコーター、エアーナイフコーター、スクィーズロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター等の公知の塗布方法で、乾燥膜厚が前記膜厚となる量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させて防曇剤層を形成させることが好ましい。
【0033】
次いで、他方の面に離型剤層を形成する場合には、他方の面に、0.1〜5質量%程度の濃度に調整した離型剤液を同様の方法で、乾燥膜厚が前記膜厚となる量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させて離型剤層を形成させることにより製造される。尚、防曇剤層と離型剤層の形成順序は逆であってもよい。製造された防曇性樹脂シートは、通常、防曇剤層を外側とし離型剤層を内側として両層が重合するように、ロール状に捲き取られて捲回物とされる。
【0034】
ロール状に捲き取られた防曇性樹脂シート捲回物は、捲き戻されながら、主として、真空成形法、圧空成形法等の熱成形法により、防曇剤層が内面となるように容器本体及び/又は蓋体等に賦形され、防曇性食品包装用容器の容器本体及び/又は蓋体として用いられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例で用いた防曇剤成分としての(A)界面活性剤、(B)ポリアミノ酸、及び離型剤成分としての(C)シリコーンオイルを以下に示す。
【0036】
<(A)界面活性剤>
(A1)−1;ショ糖ラウリン酸エステル
(A2)−1;デカグリセリンラウリン酸エステル
<(B)ポリアミノ酸>
(B)−1 ;ポリグルタミン酸 (重量平均分子量 50万)
(B)−2 ;ポリグルタミン酸 (重量平均分子量150万)
(B)−3 ;ポリアルギニン (重量平均分子量 14万)
<(C)シリコーンオイル>
(C)−1 ;ジメチルポリシロキサン (25℃での動粘度10,000mm/s)
【0037】
又、以下の実施例、比較例における防曇性樹脂シートの性能評価は、以下の方法及び基準に従って行った。特に断りがない限り「○」以上が本発明の対象レベルである。
【0038】
<シートのベタツキ>
防曇性樹脂シートの防曇剤層面を指で押さえ、引き離した時のベタツキ感を以下の基準で評価した。
◎:殆どベタツキを感じない。
○:ベタツキを感じるが、実用上許容できるレベルにある。
△:ベタツキがやや強く、指紋の跡がはっきり残る。
×:ベタツキが激しく、ヌルヌルしている。
【0039】
<シートの透明性>
防曇性樹脂シートの曇価(ヘーズ)を、JIS K7105に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH−300A」を用いて測定(n=5の平均値)し、そのヘーズ値と、肉眼により観察したシート外観の両方を、以下の基準で評価した。
◎:ヘーズ1.5未満、又は白いムラ(転写模様)が全く見られない。
○:ヘーズ1.5〜2未満、又はうっすらとした白いムラ(転写模様)が見られる。
△:ヘーズ2〜3未満、又は白いムラ(転写模様)が目立つ。
×:ヘーズ3以上、又はくっきりとした白いムラ(転写模様)が見られる。
【0040】
<蓋体の低温防曇性>
ポリスチレンシートから開口部180mm×120mm、深さ20mmに熱成形した容器本体(嵌合タイプ)に23℃の水150ccを入れ、一方、本発明の防曇性樹脂シートから、防曇剤層が内面となるように開口部180mm×120mm、深さ30mmに熱成形した蓋体(嵌合タイプ)で蓋をして、5℃のショーケース内に静置し、30分後、及び3時間後における蓋体内面の曇りの発生状況、液膜・水滴の付着状況を目視観察し、それぞれ初期防曇性、防曇持続性として、以下の基準で評価した。
【0041】
◎:蓋体に曇りがなく、液膜が均一であり、内容物の視認性が良好なレベル。
○:蓋体に曇りはなく、液膜が不均一でやや水滴の付着が見られるが、内容物の視認性は問題ないレベル。
△:蓋体に曇りはないが、液膜が不均一でかなりの水滴付着が見られ、内容物の視認性に問題があるレベル。
×:蓋体の一部に曇りが見られるか、蓋体のほぼ全面で水滴付着が激しく内容物の視認が困難なレベル。
【0042】
<蓋体の高温防曇性>
ポリスチレンシートから開口部180mm×120mm、深さ20mmに熱成形した容器本体(嵌合タイプ)に80℃のお湯150ccを入れ、一方、本発明の防曇性樹脂シートから、防曇剤層が内面となるように開口部180mm×120mm、深さ30mmに熱成形した蓋体(嵌合タイプ)で蓋をして、23℃雰囲気に静置し、2分後、及び1時間後における蓋体内面の曇りの発生状況、液膜・水滴の付着状況を目視観察し、それぞれ初期防曇性、防曇持続性として、以下の基準で評価した。
【0043】
◎:蓋体に曇りがなく、液膜が均一であり、内容物の視認性が良好なレベル。
○:蓋体に曇りはなく、液膜が不均一でやや水滴の付着が見られるが、内容物の視認性は問題ないレベル。
△:蓋体に曇りはないが、液膜が不均一でかなりの水滴付着が見られ、内容物の視認性に問題があるレベル。
×:蓋体の一部に曇りが見られるか、蓋体のほぼ全面で水滴付着が激しく内容物の視認が困難なレベル。
【0044】
実施例1〜7、比較例1〜4
二軸延伸ポリスチレンシート(厚み0.3mm)の一方の面にコロナ処理を施した後、コロナ処理した面に、防曇剤として表1に示す防曇剤層組成の1質量%水溶液を、他方の面に、表1に示す離型剤層組成のエマルジョンを、それぞれスプレーコーターで塗布し、塗工面を均一化し、乾燥させた後、防曇剤層を外側とし離型剤層を内側としてロール状に捲き取って捲回物とした。
【0045】
巻き取った直後の捲回物を捲き戻してシートをサンプリングし、防曇剤層の膜厚、及び離型剤層の膜厚をFT−IR(ATR法)により測定し、結果を表1に示した。尚、膜厚の測定は、防曇剤層については1730cm−1付近の、離型剤層については1260cm−1付近の各特性吸収と、ポリスチレンの1940cm−1付近の特性吸収との比を、防曇剤組成又は離型剤組成、及び各膜厚が既知のシートから作成した検量線と比較することで定量した。
【0046】
一方、巻き取った捲回物を20℃で2ヶ月間保管した後、捲き戻したシートのベタツキ、透明性、及び熱成形した蓋体の防曇性を、前述の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から明らかなように、本発明の防曇剤(実施例1〜7)は、その防曇性だけでなく、防曇剤層の透明性において良好な結果を示すことが明らかである。一方、比較例1、2及び4の防曇性樹脂シートではベタツキの抑制が不十分であり、比較例3の防曇性樹脂シートにおいては防曇性自体が十分な性能を発揮できていない。また、実施例1〜7の間で比較すると、実施例1〜5は何れも、実施例6及び実施例7に比較して、更にベタツキ、透明性、防曇性の全てにおいて総合的に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の防曇剤とこの防曇剤からなる防曇層を有する防曇性樹脂シートは、ロール状に捲き取った捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じりあい、及び捲回物を捲き戻して成形に供する際の防曇剤層と離型剤層との転写が抑制され、シートや成形体としての外観の低下等が抑制されると共に、食品包装用透明容器等としたときの低温及び高温防曇性の低下をも抑制される防曇性樹脂シートを提供することができるため、熱成形により防曇性食品包装用透明容器等として広く好適に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤(A)とポリアミノ酸(B)の混合物を少なくとも含むことを特徴とする防曇剤。
【請求項2】
界面活性剤(A)がショ糖脂肪酸エステル(A1)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(A2)からなる群より選択された少なくとも1種を含む請求項1に記載の防曇剤。
【請求項3】
ポリアミノ酸(B)が重量平均分子量1万〜200万のポリグルタミン酸である請求項1又は2に記載の防曇剤。
【請求項4】
界面活性剤(A)とポリアミノ酸(B)との固形分質量比が10/90〜90/10である請求項1〜3のいずれかに記載の防曇剤。
【請求項5】
ショ糖脂肪酸エステル(A1)とポリグリセリン脂肪酸エステル(A2)との固形分質量比が10/90〜90/10である請求項1〜4のいずれかに記載の防曇剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の防曇剤を含む層が少なくとも1層以上含まれることを特徴とする防曇性樹脂シート。
【請求項7】
樹脂シートの他方の面に離型剤層が形成されている請求項6に記載の防曇性樹脂シート。

【公開番号】特開2009−57429(P2009−57429A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224250(P2007−224250)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】