説明

防曇塗料組成物

【課題】低温かつ短時間での硬化性等に優れ、塗膜が良好な防曇性等に優れる防曇塗料組成物を提供する。
【解決手段】特定の構造のアクリルアミドモノマー(A−1)、特定の構造の(メタ)アクリレートモノマー(A−2)、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A−3)のランダム共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)とを含有する防曇塗料組成物であって、前記ランダム共重合体(A)の平均分子量は100,000〜500,000であり、前記ランダム共重合体(A)は、単量体(A−1)、単量体(A−2)および単量体(A−3)の合計が100.0質量部になるよう、50.0〜95.0質量部の単量体(A−1)と、2.0〜49.7質量部の単量体(A−2)と、0.3〜3.0質量部の単量体(A−3)とを含む組成物を重合して生成されている防曇塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のヘッドランプ等の被塗装物上に形成される防曇塗膜の吸水性を改善して防曇性を向上させるための防曇塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプ等の車両灯具において、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨等によってレンズが冷やされ、レンズの内面に水分が結露することによって曇りが生じることがある。その結果、車両灯の輝度が低下し、またレンズ面の美観が損なわれることによりユーザーの不快感を引き起こす場合がある。
【0003】
このようなレンズの曇りを防ぐために、曇りが発生する部位に防曇塗料を塗布する方法が知られている。例えば、本発明者らは、水溶性のビニル系単量体とその他の単量体からなる共重合体を含有し、塗膜自体の吸水性を高めた防曇塗料(特許文献1を参照)を提案している。さらに、ポリアルキレンオキシド基を有するビニル系単量体とカルボキシル基を含有する単量体、その他の単量体からなる共重合体を含有し、硬化剤として金属キレート化合物やブロックイソシアネート化合物を含む防曇塗料組成物(特許文献2を参照)が提案されている。また、本発明者らは、また、本発明者らはブロック又はグラフト共重合体とフッ素系界面活性剤などとを含有する防曇塗料組成物(特許文献3を参照)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−13329号公報
【特許文献2】特開2006−282904号公報
【特許文献3】特開2004−250601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の防曇塗料組成物においては、防曇塗料組成物から作成される塗膜中に適度な密度の架橋構造が形成されるため、塗膜が吸水性を有し、高い防曇性を実現している。ところが、架橋構造の形成がN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基の縮合反応によるため、低温かつ短時間の硬化条件では反応が進行せず、塗膜が架橋不足となり、塗膜の耐水性が低下する問題があった。
特許文献2に記載の防曇塗料組成物では、金属キレート化合物やブロックイソシアネート化合物を硬化剤として用い70℃、15分間という低温かつ短時間な条件下で防曇塗料組成物の硬化を達成している。しかし、防曇塗料組成物から作成した塗膜自体の防曇性が低いため、自動車ヘッドランプレンズ内の曇り止め等の高い防曇性が要求される環境下では十分な防曇効果を提供できなかった。そのため、界面活性剤を添加することによって、防曇塗料組成物から作成された防曇塗膜表面に付着した水分の表面張力を低下させ、防曇塗膜表面に水膜を形成させることにより防曇性を向上させる必要があった。ところが、防曇塗膜表面に水膜が形成されると、その水膜中に防曇塗膜から界面活性剤が溶け出す場合がある。そのため、界面活性剤が溶け出した水膜中の水が局部的に垂れた後に乾燥すると、溶解していた界面活性剤が析出し、水垂れ跡の形が残るといった問題があった。
特許文献3に記載の防曇塗料組成物は、防曇塗料組成物から作成された塗膜の架橋密度が高いことから、界面活性剤を含有することによって防曇塗膜の防曇性が高められている。しかし、界面活性剤を含有しているために、水垂れ跡が残るといった問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、低温かつ短時間での硬化性に優れ、防曇塗料組成物から作成された塗膜が良好な防曇性を発揮することができると共に水垂れ跡による外観不良の発生を抑制し、かつ耐水性に優れる防曇塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の単量体から形成されるランダム共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)とを含有する防曇塗料組成物であって、
前記複数の単量体は下記に示す単量体(A−1)、単量体(A−2)および単量体(A−3)であり、
前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)の含有量がランダム共重合体(A)100.0質量部に対して1.0〜15.0質量部であり、
前記ランダム共重合体(A)の平均分子量は100,000〜500,000であり、
前記ランダム共重合体(A)は、単量体(A−1)、単量体(A−2)および単量体(A−3)の合計が100.0質量部になるよう、50.0〜95.0質量部の単量体(A−1)と、2.0〜49.7質量部の単量体(A−2)と、0.3〜3.0質量部の単量体(A−3)とを含む組成物を重合して生成されており、
上記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)は、下記一般式(6)、(7)、(8)および(9)で表されるブロック化剤のうち少なくとも一つによりブロック化されたポリイソシアネートであることを特徴とする:
単量体(A−1):下記一般式 (1)により表わされる単量体
単量体(A−2):下記一般式 (2)又は(3)で表わされる単量体
単量体(A−3):下記一般式(4)又は(5)で表わされる単量体
【化1】


(上記式中、R1はメチル基またはエチル基である)
【化2】


(上記式中、R2は水素原子またはメチル基であり、n1は0〜3である)
【化3】


(上記式中、R3は水素原子またはメチル基であり、n2は0または1である)
【化4】


(上記式中、R4は水素原子またはメチル基であり、n3は1〜4である)
【化5】


(上記式中、R5は水素原子またはメチル基であり、n4は1〜4である)
【化6】


(上記式中、n5およびn6は、それぞれ0または1である)
【化7】


(上記式中、n7は0または1である)
【化8】


(上記式中、n8およびn9は、それぞれ0または1である)
【化9】


(上記式中、R6、R7およびR8は、それぞれ水素原子またはメチル基である)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防曇塗料組成物は、硬化剤として多官能ブロックイソシアネート化合物を用いているため、防曇塗料組成物のポットライフが長く、低温かつ短時間で硬化可能である。さらには本発明の防曇塗料組成物から作成された塗膜は、良好な防曇性を発揮することができると共に水垂れ跡による外観不良の発生を抑制し、かつ耐水性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における防曇塗料組成物は、後述する単量体(A−1)〜(A−3)からなる単量体組成物を重合して得られるランダム共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)とを含有する。
以下において、防曇塗料組成物の各成分および当該組成物により作成される塗膜について説明する。
【0010】
<単量体(A−1)>
まず、ランダム共重合体(A)を形成する単量体(A−1)すなわち一般式(1)で表わされる化合物について説明する。この単量体(A−1)はランダム共重合体(A)の防曇性を高める機能を有する。一般式(1)においてR1がメチル基又はエチル基の化合物、すなわちN,N−ジメチルアクリルアミド又はN,N−ジエチルアクリルアミドが単量体(A−1)として使用することができる。一般式(1)においてR1がメチル基である化合物は、ランダム共重合体(A)の親水性を向上することができる。その結果、防曇塗料組成物から作成された塗膜が良好な防曇性を発揮することができると共に水垂れ跡による外観不良の発生が抑制されるため、一般式(1)においてR1がメチル基である化合物の使用はより好ましい。また、R1がエチル基よりも炭素数の多いアルキル基の場合にはランダム共重合体(A)の防曇性が低下する。
【0011】
単量体(A−1)の含有量は、単量体組成物100.0質量部に対して、50.0〜95.0質量部であり、60.0〜80.0質量部であることがより好ましい。単量体(A−1)の含有量が50.0質量部より少ない場合には、防曇塗料組成物から作成された塗膜の防曇性が低下し、95.0質量部より多い場合には塗膜の耐水性が低下する。
【0012】
<単量体(A−2)>
単量体(A−2)すなわち一般式(2)又は(3)で表わされる化合物について説明する。単量体(A−2)は、ランダム共重合体(A)の耐水性を高めると共に基材への密着性を高める機能を有する単量体である。単量体(A−2)としては一般式(2)又は一般式(3)で表わされる化合物を使用することができる。一般式(2)においてn1が0又は1で表わされる化合物、すなわちメチル(メタ)アクリレート又はエチル(メタ)アクリレートと一般式(3)で表わされる化合物、すなわちメトキシエチル(メタ)アクリレート又はエトキシエチル(メタ)アクリレートとの内少なくとも1つを用いる場合、ランダム共重合体(A)の親水性が向上する。その結果、防曇塗料組成物から作成された塗膜が良好な防曇性を発揮することができると共に水垂れ跡による外観不良の発生が抑制されるため、そのような化合物の使用がより好ましい。一般式(2)においてn1が3よりも大きい場合、又は一般式(3)においてn2が1よりも大きい場合には、ランダム共重合体(A)の防曇性が低下する。
【0013】
単量体(A−2)の含有量は、単量体組成物100.0質量部に対して2.0〜49.7質量部であり、18.0〜39.5質量部であることがより好ましい。単量体(A−2)の含有量が2.0質量部より少ない場合には防曇塗料組成物から作成された塗膜の耐水性が低下し、49.7質量部より多い場合には塗膜の防曇性が低下する。
【0014】
<単量体(A−3)>
単量体(A−3)すなわち一般式(4)又は(5)で表わされる化合物について説明する。単量体(A−3)はランダム共重合体(A)間に架橋構造を形成させるために必要な単量体である。単量体(A−3)としては、例えば4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。単量体(A−3)は第一級ヒドロキシル基を含有し、第一級ヒドロキシル基はイソシアネート基と反応してウレタン結合を形成する。そのため、ランダム共重合体(A)に単量体(A−3)が組み込まれることで、ポリイソシアネートの有する2つ以上のイソシアネート基が、それぞれランダム共重合体(A)中の第一級ヒドロキシル基と架橋することにより、複数のランダム共重合体(A)がポリイソシアネートを介して架橋される。
【0015】
単量体(A−3)の含有量は、単量体組成物100.0質量部に対して、0.3〜3.0質量部であり、より好ましくは0.5〜2.0質量部である。単量体(A−3)の含有量が0.3質量部より少ない場合には、共重合体の架橋密度が低すぎるため防曇塗料組成物から作成された塗膜の耐水性が低下し、3.0質量部より多い場合には共重合体の架橋密度が高すぎるため塗膜の防曇性低下や水垂れ跡の発生が起こる。
【0016】
<ランダム共重合体(A)>
上述したように、本発明のランダム共重合体(A)は、単量体(A−1)、単量体(A−2)および単量体(A−3)の合計が100.0質量部になるよう、単量体(A−1)を50〜95.0質量部、単量体(A−2)を2.0〜49.7質量部、および単量体(A−3)を0.3〜3.0質量部含有している単量体組成物を重合して形成される。ランダム共重合体(A)を得るための重合方法として、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法等の公知の各種重合方法が採用可能であるが、特に工業的な生産性の容易さと多義にわたる性能面より、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、重合後にそのまま塗料として使用することができる点で溶液重合法が好ましい。ランダム共重合体(A)の溶液重合法による製造方法について以下に説明する。
【0017】
反応容器に重合溶剤としての有機溶剤と単量体(A−1)、単量体(A−2)及び単量体(A−3)とを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら所定の温度に加熱する。次いで、ラジカル重合開始剤を30分から10時間をかけて滴下し、さらに30分から10時間の重合反応を行うことによって共重合体(A)溶液を得ることができる。
著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、塗膜の乾燥、加熱硬化時における溶剤の残留によって被塗装物に対する塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤を使用することが好ましい。係る有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、ターシャリーブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤等が使用される。これらの重合溶剤は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0018】
ラジカル重合開始剤としては一般的に使用される有機過酸化物、アゾ化合物等を使用することができる。有機化過酸化物としてはベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等が挙げられ、アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等が挙げられる。ラジカル重合開始剤は反応容器中に滴下しながら重合を行うことが重合発熱を制御しやすくなる点で好ましい。重合反応を行う温度は使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜変更されるが、工業的に製造を行う上で好ましい重合温度は30〜150℃であり、より好ましい重合温度は40〜100℃である。
【0019】
本発明における共重合体の重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記する)によって測定されるポリスチレン換算で示される重量(質量)基準の平均分子量である(JIS K 7252−1に準拠)。
本発明におけるランダム共重合体(A)の重量平均分子量は100,000〜500,000であり、より好ましくは120,000〜350,000である。ランダム共重合体(A)の重量平均分子量が100,000未満である場合、防曇塗料組成物から作成された塗膜が内部に吸収することができる水分の量が少ないため、水垂れ跡が発生すると共に耐水性も低下する。一方、重量平均分子量が500,000を超える場合、防曇塗料組成物の粘度が高くなるため塗料として取り扱いが困難となる。その結果、防曇塗料組成物の塗装が難しくなり塗膜の外観が悪化する。
【0020】
<多官能ブロックイソシアネート化合物(B)>
多官能ブロックイソシアネート化合物(B)について説明する。
本発明における多官能ブロックイソシアネート化合物とは、一般式(6)、(7)、(8)および(9)で表されるブロック化剤のうち1種以上によりブロック化されたポリイソシアネートである。ここでいうポリイソシアネートとはイソシアネート基を同一分子中に2つ以上含有する化合物を指す。ポリイソシアネートとしては、例えばイソシアヌレート変性ポリヘキサメチレンジイソシアネート、アダクト変性ポリヘキサメチレンジイソシアネート、ビウレット変性ポリヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアヌレート変性ポリ水素化キシリレンジイソシアネート、アダクト変性ポリ水素化キシリレンジイソシアネート、アロファネート変性ポリヘキサメチレンジイソシアネート、アダクト変性ポリイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0021】
本発明における多官能ブロックイソシアネート化合物(B)は、ポリイソシアネートとブロック化剤とを反応溶剤としての有機溶剤に溶解し、触媒存在下で50〜100℃の温度で加熱攪拌して反応させることで得ることができる。触媒としては錫、亜鉛、鉛等の有機金属塩やナトリウムメチラート等のアルカリ金属アルコラートを用いることができる。反応溶剤にはイソシアネート基に対して不活性な有機溶剤を用いる必要がある。イソシアネート基に対して不活性な有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0022】
多官能ブロックイソシアネート化合物(B)中のブロック化されたイソシアネート基は、加熱することでイソシアネート基とブロック化剤とに解離する。ブロック化剤と解離したイソシアネート基はランダム共重合体(A)に含まれる単量体(A−3)の第一級ヒドロキシル基と反応してウレタン結合を形成する。ここで、多官能ブロックイソシアネート化合物(B)を脱ブロック化することにより生成されるポリイソシアネートはイソシアネート基を2つ以上有するため、それぞれのイソシアネート基が単量体(A−3)の第一級ヒドロキシル基と架橋することにより、ランダム共重合体(A)間を架橋することができる。このイソシアネート基と第一級ヒドロキシル基との反応は室温下でも進行してしまうため、ブロック化剤によってブロック化されていないポリイソシアネートを用いた場合には、防曇塗料組成物のポットライフが短くなるという問題が起こる。
一般式(6)又は(7)で表わされる化合物は一般式(8)又は(9)で表わされる化合物よりも低温でイソシアネート基と解離する。そのため、防曇塗料組成物が低温かつ短時間での硬化性に優れるという点で一般式(6)又は(7)で表わされる化合物の使用がより好ましい。
【0023】
多官能ブロックイソシアネート化合物(B)の含有量はランダム共重合体(A)100.0質量部に対して1.0〜15.0質量部であり、好ましくは1.5〜13.0質量部である。多官能ブロックイソシアネート化合物(B)の含有量が1.0質量部より少ない場合には防曇塗料組成物から作成された塗膜の架橋密度が低すぎるため耐水性が低下し、15.0質量部より多い場合には塗膜の架橋密度が高すぎるため塗膜の防曇性低下や水垂れ跡の発生が起こる。
【0024】
<防曇塗料組成物>
防曇塗料組成物は、ランダム共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)とを混合することで得られる。さらに、塗装に適した粘度調整を目的として溶剤を加えて防曇り塗料組成物を希釈することができる。
防曇塗料組成物には、必要によりレベリング剤、酸化防止剤等の慣用の各種添加剤を配合することができる。
【0025】
<防曇塗料組成物から作成された塗膜>
防曇塗料組成物から作成された塗膜について説明する。前記塗膜は防曇塗料組成物を塗装後、加熱硬化することによって得られる。本発明の防曇塗料組成物は低温かつ短時間での硬化性に優れている。ここでいう低温とは150℃以下の温度であり、短時間とは30分以下の時間をいう。防曇塗料組成物の塗装方法としては浸漬法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法が適している。加熱硬化条件としては75〜150℃の温度で5〜180分間であり、110〜120℃の温度で20〜30分間が好ましい。このとき多官能ブロックイソシアネート化合物(B)中のブロック化されたイソシアネート基がイソシアネート基とブロック化剤とに解離し、ランダム共重合体(A)に含まれる単量体(A−3)の第一級ヒドロキシル基とイソシアネート基との間で架橋反応が起こり、ランダム共重合体(A)間に架橋構造が形成される。被塗装物が合成樹脂材料である場合には、加熱硬化する際の温度を合成樹脂材料の熱変形温度以下に設定することが必要である。本発明の防曇塗料組成物から作成される塗膜は自動車用ヘッドランプレンズ内面の防曇塗膜として好適である。自動車用ヘッドランプレンズは一般的にポリカーボネート樹脂が使用され、ポリカーボネート樹脂の熱変形温度は120〜130℃である。従って、自動車ヘッドランプレンズ内面の防曇塗膜の硬化温度は130℃以下であり、120℃以下であることが好ましい。
【0026】
<実施例>
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。
表1〜4では、実施例及び比較例で使用したランダム共重合体および多官能ブロックイソシアネート化合物の原料および性質を示す。
【0027】
〔ランダム共重合体1−1の製造〕
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶剤としての1−プロパノール(以下、NPAと略記する)270gと、単量体(A−1)としてのN,N−ジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと略記する)70.0gと、単量体(A−2)としてのメチルアクリレート(以下、MAと略記する)29.0gと単量体(A−3)としての4−ヒドロキシブチルアクリレート(以下、4−HBAと略記する)1.0gとを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら60℃に加熱した。そこへラジカル重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシピバレートの炭化水素希釈品(日油(株)製の商品名:パーヘキシルPV(S))0.54gをNPA30.0gに溶解させたものを4時間かけて滴下した。さらに3.5時間重合を行った後80℃に昇温し、その温度で1.5時間重合を行ってDMAA、MA、4−HBAから成るランダム共重合体1−1の溶液を得た。
【0028】
ガスクロマトグラフィーにて単量体の重合転化率を測定したところ100%であった。また、GPCにて共重合体の重量平均分子量を測定したところ168,000であった。また、このランダム共重合体1ー1の溶液の共重合体濃度は25.1質量%であった。このランダム共重合体1.0g中に含まれるヒドロキシル基のモル数([OH](mmol/g))を次式により計算したところ0.07mmol/gとなった。
[OH](mmol/g)=単量体組成物100.0質量部中の単量体(A−3)の質量(g)×1000/単量体(A−3)のモル質量(g/mol)/100(g)=1.0(g)×1000/144(g/mol)/100(g)=0.07(mmol/g)
【0029】
〔ランダム共重合体1−2〜1−25〕
実施例用のランダム共重合体1−2〜1−20と比較例用のランダム共重合体1−21〜1−25とを重合溶剤又は原料の種類や分子量調節剤、仕込量を変えること以外は、ランダム共重合体1−1に準じた方法で製造した。それぞれのランダム共重合体の原料の種類や仕込量、重量平均分子量及び[OH](mmol/g)を表1〜3に示した。表1〜3における記号は、以下の意味を表している。
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド、
DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド、
MA:メチルアクリレート、
EA:エチルアクリレート、
MMA:メチルメタクリレート、
EMA:エチルメタクリレート、
2−MEA:2−メトキシエチルアクリレート、
2−EEA:2−エトキシエチルアクリレート、
BA:ブチルアクリレート、
BMA:ブチルメタクリレート、
4−HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート、
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、
2−HEAA:2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、
N−MAA:N−メチロールアクリルアミド、
NPA:1−プロパノール、
TBA:ターシャリーブチルアルコール
【表1】


【表2】


【表3】

【0030】
〔多官能ブロックイソシアネート化合物2−1の製造〕
温度計、攪拌装置及び冷却管を備えた反応容器に、イソシアヌレート変性したポリヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製の商品名:デュラネートTPA−100、[NCO](mmol/g)=5.25mmol/g)35.0g、ブロック化剤としてのマロン酸ジエチル29.4g(用いたポリイソシアネートのイソシアネート量に対して等モル量)、反応溶剤としてのキシレン35.5gを仕込み、室温で攪拌した状態で触媒としてのナトリウムメチラート(28%メタノール溶液)0.1gを加え、90℃に昇温した。90℃を3時間保ち、IRスペクトルによりイソシアネート基が消失したことを確認した。キシレンを脱溶剤し、イソシアヌレート変性したポリヘキサメチレンジイソシアネートをマロン酸ジエチルによりブロック化した多官能ブロックイソシアネート化合物2−1を得た。
【0031】
多官能ブロックイソシアネート化合物1.0g中に含まれるブロック化剤によりブロックされたイソシアネート基のモル数([NCO](mmol/g))を次式により計算したところ2.85mmol/gとなった。
[NCO](mmol/g)=使用したポリイソシアネート化合物の[NCO](mmol/g)×使用したポリイソシアネート化合物量(g)/{使用したポリイソシアネート化合物の量(g)+使用したブロック化剤の量(g)}=5.25(mmol/g)×35.0(g)/{35.0(g)+29.4(g)}=2.85(mmol/g)
【0032】
〔多官能ブロックイソシアネート化合物2−2〜2−10〕
多官能ブロックイソシアネート化合物2−2〜2−10を原料の種類や仕込量を変えること以外は多官能ブロックイソシアネート2−1に準じた方法で製造した。それぞれの多官能ブロックイソシアネート化合物の原料の種類や仕込量及び [NCO](mmol/g)を表4に示した。
なお、表4における記号は以下の意味を表している。
イソシアヌレート変性HDI:イソシアヌレート変性したポリヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製の商品名:デュラネートTPA−100、[NCO](mmol/g)=5.25mmol/g)、
アダクト変性HDI:アダクト変性したポリヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製の商品名:デュラネートP301−75E、[NCO](mmol/g)=2.84mmol/g)、
ビウレット変性HDI:ビウレット変性したポリヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製の商品名:デュラネート24A−100、[NCO](mmol/g)=5.34mmol/g)、
イソシアヌレート変性HXDI:イソシアヌレート変性したポリ水素化キシリレンジイソシアネート(三井化学(株)製の商品名:タケネートD−127N、[NCO](mmol/g)=3.07mmol/g)、
アダクト変性HXDI:アダクト変性したポリ水素化キシリレンジイソシアネート(三井化学(株)製の商品名:タケネートD−120N、[NCO](mmol/g)=2.50mmol/g)、
アロファネート変性HDI:アロファネート変性したポリヘキサメチレンジイソシアネート(三井化学(株)製の商品名:タケネートD−178N、[NCO](mmol/g)=4.36mmol/g)、
アダクト変性IPDI:アダクト変性したポリイソホロンジイソシアネート(三井化学(株)製の商品名:タケネートD−140N、[NCO](mmol/g)=2.39mmol/g)
【表4】

【0033】
〔実施例1〕
(1)防曇塗料組成物の製造
ランダム共重合体1−1の溶液400gにジアセトンアルコール200g、メチルイソブチルケトン400gを加えて固形分を10質量%に調整した。この混合液に多官能ブロックイソシアネート化合物2−1を2.9g加え、防曇塗料組成物を得た。
【0034】
(2)塗膜試験片の作製
上記防曇塗料組成物をポリカーボネート樹脂板に硬化後の塗膜の膜厚が5μmとなるようにスプレーコート法にて塗装を行い、25℃で1分間乾燥を行った後、120℃、20分間で加熱硬化を行い、塗膜試験片を得た。なお、低温かつ短時間での硬化性を評価するために加熱硬化条件を120℃、24時間とした塗膜試験片についても同様の方法により作成した。
【0035】
(3)防曇塗料組成物及び防曇塗料組成物から作成した塗膜性能の評価
実施例1の塗膜試験片の塗膜性能を測定し評価した。各項目の測定方法は以下の通りである。
【0036】
(ポットライフ)
上記防曇塗料組成物を製造直後及び防曇塗料組成物を製造後に30℃で24時間放置した後にフォードカップNo.4を用いて各々の流下時間を測定(JIS K5600−2−2に準拠)し、防曇塗料組成物のポットライフを次の2段階で評価した。
◎:塗料の流下時間が変化していない。
×:塗料の流下時間が長くなっている。
【0037】
(防曇性)
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、塗膜試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から30秒後の曇りの有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価が○以上であれば実用上問題なく、◎であればより好ましい。
◎:全く曇らない。
○:曇りは認められないがわずかに塗膜表面が荒れている、又は塗膜表面に水膜が形成されている。
×:曇りが認められる。又は塗膜表面が荒れている。
【0038】
(水垂れ跡)
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、塗膜試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に30秒間連続照射した後、試験片を垂直に立てた状態で室温にて1時間乾燥させた。乾燥後に水垂れ跡の有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価が○以上であれば実用上問題なく、◎であればより好ましい。
◎:水垂れ跡が認められない。
○:水垂れ跡は認められないが、わずかに塗膜表面が荒れた状態である。
×:水垂れ跡が認められる。
【0039】
(耐水性)
防曇塗料組成物を塗装後120℃、20分間及び120℃、24時間の加熱硬化条件で作成した塗膜試験片を40℃の温水に240時間浸漬し、室温にて1時間乾燥した。その後、常温で呼気を10秒間吹きかけ、曇りの有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価が○以上であれば実用上問題なく、◎であればより好ましい。
◎:全く曇らない。
○:一瞬わずかに曇るがすぐに曇りが晴れる。
×:曇りが認められる。
【0040】
(低温かつ短時間での硬化性)
防曇塗料組成物を塗装後120℃、20分間及び120℃、24時間の加熱硬化条件で作成した塗膜試験片の耐水性の評価結果から下記の3段階で評価した。なお、評価が○以上であれば実用上問題なく、◎であればより好ましい。
◎:120℃、20分間の加熱硬化条件により作成した塗膜及び120℃、24時間の加熱硬化条件により作成した塗膜の耐水性の評価結果が共に◎、あるいは共に○である。
○:120℃、20分間の加熱硬化条件により作成した塗膜試験片の耐水性の評価結果が○であり、かつ120℃、24時間の加熱硬化条件により作成した塗膜試験片の耐水性の評価結果が◎である。
×:120℃、20分間の加熱硬化条件により作成した塗膜試験片の耐水性の評価結果が×であり、かつ120℃、24時間の加熱硬化条件により作成した塗膜試験片の耐水性の評価結果が◎、○、×のいずれかである。
【0041】
実施例1における防曇塗料組成物の組成を表5、塗膜性能の評価結果を表7に示した。なお、表5及び6における記号は次の意味を表している。
DAA:ジアセトンアルコール、
MIBK:メチルイソブチルケトン
[NCO]/[OH]:表4における[NCO](mmol/g)×防曇塗料組成物中の多官能イソシアネート化合物(B)の量(g)/表1および2における[OH](mmol/g)×防曇塗料組成物中のランダム共重合体(A)の量(g)
【0042】
〔実施例2〜23及び比較例1〜8〕
実施例2〜23の防曇塗料組成物を原料の種類や仕込量を変えること以外は実施例1に準じた方法で製造し、塗膜試験片を作製して塗膜性能の評価を行った。
実施例2〜23の防曇塗料組成物の原料の種類や配合量を表5および6に、塗膜性能の評価結果を表7および8に示した。また、比較例1〜8の防曇塗料組成物の原料の種類や配合量を表9に、塗膜性能の評価結果を表10に示した。
【表5】


【表6】


【表7】


【表8】


【表9】


【表10】

【0043】
表5〜8に示されるように、実施例1〜23の防曇塗料組成物はポットライフが24時間以上であり、120℃、20分という低温かつ短時間の塗膜硬化条件で作成された塗膜は優れた防曇性を有しており、水垂れ跡も発生せず良好な耐水性を有していた。それに対し、表9および10に示されるようにブロック化していないポリイソシアネート化合物を用いた場合(比較例1)には、防曇塗料組成物のポットライフが短くなった。
防曇塗料組成物に含まれる多官能ブロックイソシアネート化合物(B)がランダム共重合体(A)100.0質量部に対して1.0質量部以下である場合(比較例2)には、防曇塗料組成物から作成された塗膜の架橋密度が低くなり耐水性が低化した。
防曇塗料組成物に含まれる多官能ブロックイソシアネート化合物(B)がランダム共重合体(A)100.0質量部に対して15.0質量部以上である場合(比較例3)には防曇塗料組成物から作成された塗膜の架橋密度が高くなり過ぎて塗膜の防曇性が低下し、水垂れ跡が発生した。
ランダム共重合体(A)を形成する単量体組成物100.0質量部に対して単量体(A−1)の含有量が50.0質量部よりも少なく、単量体(A−2)の含有量が49.7質量部よりも過剰な場合(比較例4)には防曇塗料組成物から作成された塗膜の防曇性が低下した。
ランダム共重合体(A)を形成する単量体組成物100.0質量部に対して単量体(A−1)の含有量が95.0質量部よりも過剰であり、単量体(A−2)の含有量が2.0質量部よりも少ない場合(比較例5)には、防曇塗料組成物から作成された塗膜の耐水性が低下した。
ランダム共重合体(A)の重量平均分子量が100,000よりも小さい場合(比較例6)には防曇塗料組成物から作成された塗膜の耐水性が低下し、水垂れ跡が発生した。
ランダム共重合体(A)を形成する単量体組成物100.0質量部に対して単量体(A−3)の含有量が0.3質量部よりも少ない場合(比較例7)には、防曇塗料組成物から作成された塗膜の耐水性が低下した。
ランダム共重合体(A)を形成する単量体組成物100.0質量部に対して単量体(A−3)の含有量が3.0質量部よりも過剰な場合(比較例8)には、塗膜の架橋密度が高くなり過ぎて塗膜の防曇性が低下し、水垂れ跡が発生した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単量体から形成されるランダム共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)とを含有する防曇塗料組成物であって、
前記複数の単量体は下記に示す単量体(A−1)、単量体(A−2)および単量体(A−3)であり、
前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)の含有量がランダム共重合体(A)100.0質量部に対して1.0〜15.0質量部であり、
前記ランダム共重合体(A)の平均分子量は100,000〜500,000であり、
前記ランダム共重合体(A)は、単量体(A−1)、単量体(A−2)および単量体(A−3)の合計が100.0質量部になるよう、50.0〜95.0質量部の単量体(A−1)と、2.0〜49.7質量部の単量体(A−2)と、0.3〜3.0質量部の単量体(A−3)とを含む組成物を重合して生成されており、
上記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)は、下記一般式(6)、(7)、(8)および(9)で表されるブロック化剤のうち少なくとも一つによりブロック化されたポリイソシアネートであることを特徴とする防曇塗料組成物。
単量体(A−1):下記一般式(1)により表わされる単量体
単量体(A−2):下記一般式(2)又は(3)で表わされる単量体
単量体(A−3):下記一般式(4)又は(5)で表わされる単量体
【化1】


(上記式中、R1はメチル基またはエチル基である)
【化2】


(上記式中、R2は水素原子またはメチル基であり、n1は0〜3である)
【化3】


(上記式中、R3は水素原子またはメチル基であり、n2は0または1である)
【化4】


(上記式中、R4は水素原子またはメチル基であり、n3は1〜4である)
【化5】


(上記式中、R5は水素原子またはメチル基であり、n4は1〜4である)
【化6】


(上記式中、n5およびn6は、それぞれ0または1である)
【化7】


(上記式中、n7は0または1である)
【化8】


(上記式中、n8およびn9は、それぞれ0または1である)
【化9】


(上記式中、R6、R7およびR8は、それぞれ水素原子またはメチル基である)

【公開番号】特開2012−7033(P2012−7033A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142577(P2010−142577)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】