説明

防毒マスク用吸収缶

【課題】本発明の目的は、紙を主成分とした素材を缶体に使用し、内部の吸収剤を容易に取り出して、産業廃棄物に分類される吸収剤と紙に分類される缶体とを分別して廃棄できる、防毒マスク用吸収缶を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、内部に有毒ガスの吸収剤(5)を収容し、缶底(7)の底部に防毒ガスの面体と連結される吸気孔(6)を設け、且つ、缶上蓋(2)に外気を通過させる通気孔(1)を設けた防毒マスク用吸収缶において、缶上蓋(2)及び缶底(7)が、紙を絶乾重量で45%以上含有する紙とプラスチックの混合素材で構成されていることを特徴とする、防毒マスク用吸収缶を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防毒マスク用吸収缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防毒マスク用吸収缶は、防毒マスクにおいて有毒ガスを濾過又は無毒化する、取り替え可能な消耗部品である。従来の防毒マスク用吸収缶は、金属または樹脂で成形した缶体内に吸収剤を収容し、顔面に装着する面体と連結する部分に吸気孔を設け、その反対側には外気を通過させる通気孔を設けた構造となっている。通気孔の形状は通常は格子状のものを設けていた(特許文献1)。
【0003】
最近の環境汚染等の問題から防毒マスク用吸収缶は廃棄に当たっては中に収納されている吸収剤と空の吸収缶とに分離して廃棄することが求められるようになってきている。従来の吸収缶においては、缶上蓋に設けた通気孔用の格子状の支えを一本一本切断して、吸収剤を取り出し、分離しているため、吸収剤の取り出しが煩瑣であった。また、金属製では産業破棄物として埋め立てに回す必要があり、埋め立てゴミの減量にならないという問題があり、プラスチック製においてはプラスチックの種類により、燃焼ガスの問題等で、燃焼できなかったり、また、燃焼熱が高く、ゴミ燃焼炉の寿命を短くするなどの問題があるため、それらの問題を解決できる防毒マスク用吸収缶の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】実開昭62−33860号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では廃棄に当たって、防毒マスク用吸収缶中に収納されている吸収剤を容易に取り出すことができ、かつ空のガス吸収缶を廃棄の際に燃焼させることができ、更に従来のプラスチックのように、燃焼炉の温度を高くしないような、防毒マスク用吸収缶を提供しようとするものである。
本発明者らはそこで、まず、防毒マスク用吸収缶に、可燃性でかつ燃焼温度もプラスチック比べて低い紙を絶乾重量で45%以上含有する、紙とプラスチックの混合素材(以下場合により単に混合素材とも言う)を使用すること検討した。しかし、このような紙を主成分とする混合素材を使用した場合、従来のプラスチックのように射出成形により製造しようとすると、流動性が著しく悪く、通気孔用の格子部分は従来のもののように細くすることは困難であり、更に、無理に通常の格子状の通気孔にすると、素材の強度が低いことから、該吸収缶の中に密に収納された吸収剤による内圧のため吸気孔面が変形してしまい、破損の恐れが生じることが判った。また、これを避けるために充分な強度を持つよう、従来の格子枠の厚さを増すとガス吸収剤の収納に支障をきたし、格子枠の幅を増すと通気孔の合計面積が小さくなり、吸気抵抗が大きくなるという問題が生じた。さらに、該吸収缶は通常、吸気孔を有する缶底(缶胴を含む:以下同じ)の部分と、通気孔を有する缶上蓋の部分に分けて製造され、ガス吸収剤を缶底に収納した後、缶上蓋を圧着する必要があるが、該混合素材を用いて両者を常法で射出成形した場合には、接着部分におけるプラスチック量の不足から、接着性が充分でなく、該継ぎ目の気密性を充分に保てないおそれが生じるという問題が判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、通気孔の形状を、従来の細い放射線状の格子枠でなく、複数の一定の大きさ、例えば一つの通気孔の面積が0.1〜1.5cm程度の大きさの通気孔とし、且つ、通気孔間の間隔を適当、例えば最も近づいた部分で、3〜10ミリメートル程度とし、射出成形の方法及び缶体と缶上蓋の接着方法を工夫することにより、該混合素材を用いても充分な強度と気密性を保ったまま、十分な通気面積を確保できる防毒マスク用吸収缶を製造しうることを見出した。しかも、全く意外なことに、該混合素材を用いてそのように製造された該吸収缶は、外周付近の通気孔に適当な棒等を差し込み、缶の縁を台に、通気口面をテコのようにして持ち上げると、缶上蓋の通気孔部分全体が容易に剥がれ、内部の吸収剤を容易に取り出すことができるという効果が達成されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1.内部に有毒ガスの吸収剤を収容し、缶底に防毒ガスの面体と連結される吸気孔を設け、且つ、缶上蓋に外気を通過させる通気孔を設けた防毒マスク用吸収缶において、缶上蓋及び缶底が、紙を絶乾重量で45%以上含有する紙とプラスチックの混合素材で構成されていることを特徴とする、防毒マスク用吸収缶、
2.缶上蓋の通気孔が、通気孔一つあたり0.1〜1.5cmの面積であり、通気孔間の最も近い部分で3〜10ミリメートルの間隔で、且つ、該通気孔の総面積が前記吸気孔の総面積以上になるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の吸収缶、
3.缶上蓋に設けられた通気孔の形状が円状又は楕円状である上記1又は2に記載の吸収缶、
5.次の(イ)〜(ハ)の工程;
(イ)紙を絶乾重量で45%以上含有する素材を使用し、60〜100℃に加温した金型を用いて、缶上蓋及び缶底を成型する工程、
(ロ)缶上蓋及び缶底の間に吸収剤を収容する工程、
(ハ)缶上蓋に缶底を溶着させる工程、
からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸収缶の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、紙を主成分とした素材を缶体に使用し、気密性を保ち且つ吸気抵抗が低い防毒マスク用吸収缶を製造することが可能となる。そして、この吸収缶は、缶体の通気孔側をハサミ又はドライバー等の適当な棒で剥がして、中の吸収剤を取り出すことが可能であり、産業廃棄物に分別される毒気を含んだ吸収剤と、紙に分別される缶体とを分離して廃棄することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1〜4は、本発明の防毒マスク用吸収缶の一実施例を示した図(図1は正面図、図2は断面図、図3は背面図)である。図4は、缶上蓋と缶胴との接着部分の一実施例を示す、拡大断面図である。図5は、本発明の吸収缶を防毒マスクの面体に装着した一実施態様を示した図である。以下、この図1〜5を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の防毒マスク用吸収缶は、缶上蓋(2)、及び、缶胴を一体として含む缶底(7)からなる。この他に缶胴部分を別に成型して3つ以上の部品から構成することも可能であるが、気密性を保つ観点から、缶上蓋(2)、及び、缶胴を一体として含む缶底(以下特に断らない限り、缶底といった場合同じ意味で使用する)(7)の2つの部品から構成されることが好ましい。缶底(7)には、防毒ガスの面体(10)と連結される吸気孔(6)を設け、缶上蓋(2)には外気を通過させる通気孔(1)を設けている。そして、該缶内には、缶内に隙間が出来ないよう一杯に吸収剤(5)が密に収納されている。
【0010】
本発明の防毒マスク用吸収缶の特徴の一つは、缶体(缶上蓋及び缶底)に、紙を絶乾重量で45%以上含有する紙とプラスチックの混合素材を使用することである。「紙を絶乾重量で45%以上含有する紙とプラスチックの混合素材」としては、例えば、紙とオレフィン系樹脂を混練して一体とした混合素材が挙げられる。ここで「紙」とは、白質紙及びパルプのみならず、新聞、雑誌及び牛乳パック等の古紙、並びに、ケナフ及びバカス等の水溶性植物性繊維をパルプ化したものも含むものである。また、「絶乾重量で45%以上」とは、水分のない完全に乾燥させた重量(絶乾重量)で比較した場合に、紙の組成が45%以上であることを意味する。好ましくは、紙を絶乾重量で51%以上含有する該混合素材を使用する。該混合素材中の紙分の含量の上限は、押出成形に使用できる範囲内であればよいが、通常60%以下、好ましくは55%以下程度である。市販で入手出来る好ましい該混合素材としては、北越パッケージ株式会社製のEペレット(商品名)等が挙げられる。Eペレットは紙を絶乾重量で少なくとも51%以上含有する。該混合素材は基本的には紙とプラスチックからなるが、場合によりさらに他の成分、組成物等を絶乾重量で0〜6%含有していてもよい。
【0011】
また、本発明の防毒マスク用吸収缶の好ましい形態の一つは、缶上蓋(2)に設けた通気孔(1)の一つあたりの面積が0.1〜1.5cm 程度であり、該通気孔間の間隔が、最も近いところで大凡3〜10ミリメートル程度であることである。
通気孔一つあたりの面積は、通気面積を確保するためにある程度の大きさが必要であるが、大きくしすぎると格子の強度が弱くなり、又、内部の吸収剤部分がはみ出す恐れがあるため、通気孔一つあたり0.1〜1.5cm 程度とすることが好ましい。より好ましくは、0.2〜1cmである
【0012】
通気孔の形状は特に問わないが、円状又は楕円状のものが好ましい。通気孔間に形成される蓋部(3)の通気孔間の最も狭い部分における太さは、大凡3ミリメートル以上、好ましくは4ミリメートル以上であり、且つ、大凡10ミリメートル以下、好ましくは8ミリメートル以下、更に好ましくは6ミリメートル以下である。通気孔をこのように形成することにより、該混合素材を缶体に使用した場合であっても、密に充填された吸収剤の内圧に耐えて変形せず破壊等の怖れはなく、十分な通気面積が確保でき、しかも、容易に該蓋部の通気孔部分全体を剥がすことが出来、内部の吸収剤を容易に取り出すことが可能となるものである。ここで、円状又は楕円状とは、真円又は楕円のみならず、周の大部分が曲線で一部が直線となっている形状をも意味するものである。
通気孔の数は、その大きさ等により異なるので一概に言えないが、通気孔の面積の合計(一つあたりの通気孔の面積×通気孔の数)が吸気孔の面積の合計よりも大きくなるような数とし、通常は6〜100個、好ましくは18〜54個である。通気孔の面積の合計が吸気孔の面積の合計よりも小さいと、吸気抵抗が大きくなる。通気孔の配置の仕方は、等間隔に配置することが好ましく、等間隔かつ回転対称に配置することがより好ましい。
なお、通気孔の総面積が該蓋部における通気孔のついている平面部の全面積に対して、3〜7割程度、好ましくは4〜6割程度、更に好ましくは4〜5割程度となるようにするのが好ましく、該通気孔の配置場所は、前記の条件を満たしながら、該蓋部の中心部側に出来るだけまとめて均一に配置するのが好ましい。このようにすることにより、廃棄時における通気孔部分をよりはがれやすくすることが出来る。
【0013】
内部に収容する吸収剤(5)としては、活性炭が主に使用されるが、対象ガスに合わせて適宜化学処理した活性炭を用いることができ、また、シリカゲルその他の防毒ガスマスクの吸収剤として使用可能な市販の吸収剤を用いることができる。通常、吸収剤(5)は、吸収剤確保用布の中に充填された形で、吸収缶内に収容される。吸収剤確保用布としては、天然繊維若しくは合成繊維の織布、編布若しくは不織布、又は、紙若しくは多孔性フィルム等を使用することができ、空気浄化用フィルタが組み込まれたものを使用してもよい。
【0014】
本発明の防毒マスク用吸収缶は、例えば、次のようにして製造することが出来る。
まず、(イ)紙を絶乾重量で45%以上含有する素材を使用し、60〜100℃に加温した金型を用いて、缶上蓋及び缶底を成型し、(ロ)缶上蓋及び缶底の間に吸収剤を収容し、次に、(ハ)缶上蓋で缶底にふたをした上、上下より弱い圧力をかけて超音波を照射して溶着させ、必要に応じて、ラベル貼付、塗装又は刻印などをして製造することができる。
本発明の製造方法の特徴の一つは、上記(イ)の工程で、加温した金型を用いることである。この工夫により、流動性の低い素材を使用しても割れにくい缶体を成型することが可能となる。本発明の製造方法のもう一つの特徴は、上記(ハ)の工程で、圧着させるのではなく超音波照射等により溶着させることである。この工夫により、紙を主成分とする素材を使用した部品を接着させる場合にも、変形すること又は割れることが無く、気密性が保たれるよう完全に接着させることが可能となる。
(イ)の工程は、通常、混合素材を、必要に応じて充分乾燥し、押出機中に充填し、該混合素材の温度を100〜180℃程度、好ましくは150〜180℃程度、より好ましくは、160℃〜180℃に加熱し、80〜100℃に加温した金型に、該押出機から該混合素材を注入することにより、缶上蓋及び缶底を成型する。金型の中央部分から熱した素材を注入することが効率的であるため、缶上蓋の中央部分(4)は孔が塞がれた状態となっていてもよい。(ロ)の工程は、通常、缶底(7)に不織布を充填し、その上に活性炭などの吸収剤を充填し、その上を不織布で覆って、最後に、缶上蓋(2)を蓋のせすることにより行う。(ハ)の工程は、両者を密着させることができればどのような方法でも支障はないが、通常、超音波での溶着が好ましい。缶上蓋(2)及び缶底(7)の接着部分の拡大断面図を図4に示す。接着する部分には溶着代(溶着シロ)(9)を設けることが好ましく、超音波を照射させると振動による摩擦熱が生じて溶着代(9)が溶解し、缶上蓋(2)と缶底(7)を接着させることができる。
【0015】
缶底に設ける吸気孔(6)は、通気孔と異なり面積を大きくする必要がないため、いかなる形状であってもよく、例えば、図3に示されるような通常の格子状のものとすることができる。吸気孔側から内部の吸収剤を取り出すことはないため、吸気孔間の格子(8)は厚みを持たせることができ、幅も細いものであってよい。
本発明の吸収缶は、例えば、図5に示すように、人体の呼吸器部分にあてがう面体(10)に吸収缶(11)を連結して使用する。
【実施例】
【0016】
市販のEペレット1000gを射出成型機に投入して、樹脂温度を約170℃〜180℃になるように混練して、予め60℃〜100℃に予熱した金型に注入し、吸収缶の缶上蓋及び缶底をそれぞれ成形した。缶底の内部一面に、不織布を敷き、その上に炭素粉末を直接密に充填し、その上に不織布及び缶上蓋をその順序で被せ、超音波溶着機に載せ上下から押さえながら、両者の接触部に超音波を照射して、缶上蓋と缶底を密着させ、吸収剤を封入した。缶上蓋部分はゆがむこともなく、封入することができた。できた吸収缶の缶上蓋と缶底部分の接続部における気密性を調べたところ、空気漏れ等もなく全体が密着していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の防毒マスク用吸収缶は、産業廃棄物に分別される毒気を含んだ吸収剤と、紙に分別される缶体とを分離して廃棄することができ、環境に優しく廃棄コストの低い吸収缶として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の吸収缶の正面図である。
【図2】本発明の吸収缶の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の吸収缶の背面図である。
【図4】缶上蓋及び缶胴の接着部分を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の吸収缶を面体に装着した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 : 通気孔
2 : 缶上蓋
3 : 通気孔間に形成される蓋部
4 : 缶上蓋の中央部分
5 : 吸収剤
6 : 吸気孔
7 : 缶底
8 : 吸気孔間の格子
9 : 溶着代
10: 面体
11: 吸収缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に有毒ガスの吸収剤を収容し、缶底に防毒ガスの面体と連結される吸気孔を設け、且つ、缶上蓋に外気を通過させる通気孔を設けた防毒マスク用吸収缶において、缶上蓋及び缶底が、紙を絶乾重量で45%以上含有する紙とプラスチックの混合素材で構成されていることを特徴とする、防毒マスク用吸収缶。
【請求項2】
缶上蓋の通気孔が、通気孔一つあたり0.1〜1.5cmの面積であり、通気孔間の最も近い部分で3〜10ミリメートルの間隔で、且つ、該通気孔の総面積が前記吸気孔の総面積以上になるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の吸収缶。
【請求項3】
缶上蓋に設けられた通気孔の形状が円状又は楕円状であるである請求項1又は2に記載の吸収缶。
【請求項4】
次の(イ)〜(ハ)の工程;
(イ)紙を絶乾重量で45%以上含有する素材を使用し、60〜100℃に加温した金型を用いて、缶上蓋及び缶底を成型する工程、
(ロ)缶上蓋及び缶底の間に吸収剤を収容する工程、
(ハ)缶上蓋に缶底を溶着させる工程、
からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸収缶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate