説明

防水クリップ

【課題】シール体のリップ部が変形するのを防止し、シール体の止水性能を保持する。
【解決手段】パネル部材の取付け孔に挿入するアンカーと、アンカーの基部側に位置する皿部と、皿部とパネル部材の表面との間で止水機能を果たすシール体とを備えた防水クリップであって、アンカー12および皿部16からなるクリップ本体10に対し、シール体30が多色成形によって一体化されているとともに、このシール体の少なくともリップ部34が皿部16の外周よりも内側に収められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両ボデー等のパネル部材に予め開けられている取付け孔にアンカーを挿入することによってパネル部材に結合されるとともに、その結合状態においてパネル部材の取付け孔の周囲をシール体によって止水する構成の防水クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防水クリップについては、例えば特許文献1に開示された技術が既に知られている。この技術では、アンカーを備えた剛性の高い樹脂材からなるクリップ本体に対し、柔軟な樹脂材からなるシール体が一体に成形されている。このシール体は、クリップ本体の基板の外周部において一体化され、かつアンカーの周囲を囲む皿形状のリップ部を備えている。この皿形状のリップ部が、パネル部材に対する防水クリップの結合状態においてパネル部材の表面に密着することで、取付け孔の周囲を止水する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−9668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている防水クリップのように、柔軟な樹脂材からなるシール体がクリップ本体の基板外周に位置した構成では、シール体のリップ部が外力を受けやすい状態になっている。このため、防水クリップの梱包時、あるいはパネル部材の取付け孔にアンカーを手探りで挿入するような作業時に、シール体のリップ部が変形すると、シール体による止水性能が損なわれる。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、シール体のリップ部が変形するのを防止し、シール体の止水性能を保持することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
所定のパネル部材に対し、その取付け孔に挿入することで結合することが可能なアンカーと、アンカーの基部側に位置してパネル部材の表面に押付けることが可能な皿部と、皿部とパネル部材の表面との間で止水機能を果たすことが可能なシール体とを備えた防水クリップであって、アンカーおよび皿部からなるクリップ本体に対し、シール体が多色成形によって一体化されているとともに、このシール体の少なくともリップ部が皿部の外周よりも内側に収められている。
【0007】
好ましくは、シール体のリップ部が、その先端部を皿部の中心に向けて湾曲もしくは傾斜したリップ形状に設定されていることである。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、クリップ本体に対して多色成形されているシール体の少なくともリップ部が、クリップ本体における皿部の外周よりも内側に収められていることから、シール体のリップ部はクリップ本体の皿部で常に保護されている。このため、防水クリップの梱包時やパネル部材に対する結合作業時にシール体のリップ部が変形するのを防止し、シール体の止水性能を保持することができる。
【0009】
また、シール体のリップ部が、その先端部を皿部の中心に向けた湾曲形状に設定されていることにより、リップ部に万一変形を生じさせるような事態が生じても、シール体が皿部の外方へめくれるように変形するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】防水クリップの外観を表した斜視図。
【図2】防水クリップの外観を表した平面図。
【図3】防水クリップの外観を表した正面図。
【図4】図3のA−A矢視方向の断面図。
【図5】防水クリップの一部を表した縦断面図。
【図6】図5の一部を拡大して表した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
図面に示されている防水クリップは、車両に配線されるワイヤハーネスをボデー等のパネル部材(図示省略)に留めるために使用されるタイプが例示されている。この防水クリップは、クリップ本体10とシール体30とによって構成されている。クリップ本体10は、比較的剛性の高いポリアセタール(P0M)等の樹脂材による一体成形品であり、シール体30は止水性に優れたエラストマー(TPE)等の柔軟な樹脂材で成形されている。そして、クリップ本体10とシール体30とは、後述のように2色成形(多色成形)によって相互に一体化されている。
【0012】
クリップ本体10は、アンカー12、皿部16およびテープ巻き部22に大別される。アンカー12は、クリップ本体10の基板ともいえる基部14の上面から突出した角筒形状の支柱12aと、この支柱12aの両側から張り出した一対の弾性爪12bとを備えている。アンカー12をパネル部材に開けられた所定の取付け孔に挿入することにより、両弾性爪12bが支柱12aに対して軸心方向へ撓みながら取付け孔の中に入り込み、かつ取付け孔の縁に弾性によって係合するのは周知のとおりである。これによってクリップ本体10(防水クリップ)がパネル部材側に結合される。
【0013】
クリップ本体10の皿部16は、アンカー12の基部14の外周から斜め外方へ張り出した円形皿状をしている。クリップ本体10がパネル部材側に結合された状態において、皿部16の外周部がパネル部材の表面に押付けられ、クリップ本体10の取付け姿勢を安定させる等の機能を果たす。
【0014】
クリップ本体10のテープ巻き部22は、基部14の下面側に位置し、小径の頸部20を介して該基部14に結合されている。テープ巻き部22は、頸部20から両方向へ延びた板形状をしており、このテープ巻き部22にワイヤハーネスを添わせて共にテープで巻き付けることにより、クリップ本体10とワイヤハーネスとが結合される。なお、基部14の下面には、頸部20から基部14の外周方向へ延びる複数個(4個)の補強リブ15が設けられている(図4)。
【0015】
シール体30は、クリップ本体10の基部14に対して多色成形によって一体化されている。このシール体30は、アンカー12の軸心を中心とした環状に設定されているとともに、その構成はベース部32とリップ部34とからなっている。前述のようにクリップ本体10がパネル部材側に結合された状態においては、TPE等の柔軟な樹脂材で成形されたシール体30のリップ部34がパネル部材の表面に密着し、アンカー12が挿入されている取付け孔周辺の止水機能を果たす。
【0016】
シール体30のベース部32は、基部14の上面と、皿部16の下側における基部14の外周面とにわたって連続している(図5および図6)。すなわち、基部14には、図4で示す周方向の4箇所において上下に貫通した貫通孔18が開けられており、ベース部32はこれらの貫通孔18を通じて皿部16の上下で連続している。
【0017】
シール体30のリップ部34は、基部14の上面側に位置するベース部32から上方へ延びており、かつその先端部がアンカー12の軸心(皿部16の中心)に向かって湾曲している。そして、リップ部34は、ベース部32も含めて皿部16の外周よりも内側に収まっている。
シール体30は、前述のようにP0M等の樹脂材によって一次成形されたクリップ本体10を基材とし、TPE等の樹脂材によって二次成形される。なお、二次成形にあたっては、各貫通孔18の箇所において基部14の下面側からTPE等の溶融樹脂材を射出することで効率よく成形できるとともに、クリップ本体10に対してシール体30が適正に一体化される。
【0018】
上記のように構成された防水クリップにおいては、柔軟な樹脂材からなるシール体30のリップ部34が、比較的剛性の高い樹脂材からなる皿部16の外周よりも内側に収められていることから、この皿部16によってリップ部34は常に保護されている。したがって、防水クリップの梱包時やパネル部材に対する結合作業時においてリップ部34が変形するのを防止することができる。また、リップ部34の先端部を内向きに湾曲させた形状にしたことで、シール体30が皿部16の外方へめくれるように変形するのを抑えることができる。
【0019】
さらに、クリップ本体10の基部14とテープ巻き部22とを小径の頸部20によって結合したことにより、ワイヤハーネスからテープ巻き部22に作用する外力が頸部20によって緩衝され、外力が基部14側にまで伝わることが抑制される。このため、シール体30による止水性能が外力によって変化するといった事態を解消できる。
【0020】
なお、図面で示すシール体30のリップ部34は、その先端部を内向きに湾曲させた形状に設定されているが、例えばV字リップにおける内側のリップ部のように先端部を内向きに傾斜させたリップ形状であってもよい。
【符号の説明】
【0021】
10 クリップ本体
12 アンカー
14 基部
16 皿部
30 シール体
34 リップ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパネル部材に対し、その取付け孔に挿入することで結合することが可能なアンカーと、アンカーの基部側に位置してパネル部材の表面に押付けることが可能な皿部と、皿部とパネル部材の表面との間で止水機能を果たすことが可能なシール体とを備えた防水クリップであって、
アンカーおよび皿部からなるクリップ本体に対し、シール体が多色成形によって一体化されているとともに、このシール体の少なくともリップ部が皿部の外周よりも内側に収められている防水クリップ。
【請求項2】
請求項1に記載された防水クリップであって、
シール体のリップ部が、その先端部を皿部の中心に向けて湾曲もしくは傾斜したリップ形状に設定されている防水クリップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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