説明

防水剤の浸透促進方法及び防水剤の浸透検査方法並びに電線の防水処理方法

【課題】被覆電線の芯線間に防水剤を浸透させる際に浸透剤の浸透を促進するようにした防水剤の浸透促進方法を提供する。
【解決手段】複数の芯線12を被覆した電線11の芯線間に防水剤17を浸透させる方法であって、電線11の被覆13の表面温度を50℃以上に加温して、電線11に防水剤が浸透する際の被覆の膨張を助け、防水剤の浸透促進の効果を得るようにし、これによって、被覆電線の芯線間に防水剤を浸透させる際に浸透剤の浸透を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にワイヤーハーネス等を構成する電線の接続端子との接続部から防水剤を浸透させて止水する防水剤の浸透促進方法及び防水剤の浸透検査方法並びに電線の防水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車においてワイヤーハーネスの車外に取り付けられたアース端子の圧着部等から吸い上げられた水が電線の芯線間から浸水し、その先のコネクタ(接続部)や補機等に到達して電気的な不具合を生じさせる問題に対処すべく電線の芯線間に防水剤を充填して芯線間を伝わる水を防ぐようにしている。
【0003】
このような防水方法としては、少なくとも両端の導体端を露出した被覆電線の一端を、防水絶縁性のシールド剤に埋め込んで保持し、その被覆電線の他端から空気吸引して被覆電線の内部を負圧にしてシールド剤を導体の素線間に吸い込ませて充填させ、シールド剤による密栓状態の導体を有する防水電線とする防水方法(例えば、特許文献1参照)、或いはアース用電線を止水処理するにあたり、その一方の端末に対して流動性を有する止水剤を供給し、その止水剤の供給中または供給後にアース用電線の他方の端末から当該アース用電線の被覆材の内側のエアを吸引して減圧することにより止水剤を被覆材の内側に浸透させる止水処理方法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【0004】
また、防水剤の浸透によるシール性の検査方法としては、ジョイント部としての中間ジョイント部及びその近傍を防水材料で覆った状態で、被覆電線の端末部にエアチューブを接続し、真空ポンプにより被覆電線の被覆部の内部を真空引きし、真空引きによる負圧により防水材料を中間ジョイント部及びその近傍に吸着させる。そして、真空引き時の真空度を圧力センサで検出することにより、中間ジョイント部のシール状態の良否を判定するようにした検査方法がある(例えば、特許文献3参照)。また、水没試験と呼ばれる方法で、防水部の他端より加圧し止水部分を水中に沈め気泡の発生の有無を見る方法もある。
【特許文献1】特開平6−84416号公報(2ページ、図1)
【特許文献2】特開2004−355851号公報(4−5ページ、図2)
【特許文献3】特開2004−158444号公報(7−8ページ、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2等に開示されているような負圧により防水剤を芯線間に吸引する方法は、電線長が長いと芯線間より吸引しても、芯線間を通る際の抵抗が大きいため、実際に吸引できる力は非常に小さい。これは、圧力が所望の負圧に達しているにも係わらず空気の流量が殆どないことからも明らかである。
【0006】
例えばAVSS0.5電線の芯線間を−70kPaの負圧で一端より吸引した場合、他端に防水剤を供給しない状態で圧力を測定すると、電線長が200mmのときも2000mmのときも共に−70kPaに達しているが、このときの流量は、電線長が150mmのとき2.5ml/min,1500mmのとき0.6ml/minと大きく異なっており、実際に吸引している力は非常に小さい。
【0007】
また、負圧を付加したときの真空度を検査する方法は、特許文献3に記載されている方法であれば、真空度は容易に発生するため、信頼性が低く、どこまで防水剤が浸透しているかは不明である。また、水没試験は、防水剤がどこまで浸透しているかは不明であるだけでなく、浸透した防水剤を浸透部から排除する力が働く破壊試験であり、製品の試験に採用することはできない。
【0008】
更に、確実なシール性を得るためには確実に防水剤が浸透していなければならず、シール性能は、防水剤の浸透した距離により決定されるためどこまで防水剤が浸透しているかを外部より非破壊で確認する方法が強く求められている。
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、被覆電線の芯線間に防水剤を浸透させる際に浸透剤の浸透を促進するようにした防水剤の浸透促進方法、及び防水剤の浸透度合いを非破壊で検査して外部から確認可能とした防水剤の浸透検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の請求項1に記載の防水剤の浸透促進方法は、複数の芯線を被覆した電線の前記芯線間に防水剤を浸透させる方法であって、前記電線の被覆の表面温度を50℃以上に加温することを特徴としている。
【0011】
電線の被覆を、被覆にダメージを与えない50℃以上の温度で温めることにより被覆の柔軟性が増して膨張し易くなる。また、防水剤も温められることにより粘度が低下するために浸透し易くなる。そして、防水剤は、電線の芯線間の隙間及び芯線と被覆との隙間に毛細管現象により浸透する。このとき、被覆が柔軟性を有しているために容易に膨張し、各芯線間の隙間及び芯線と被覆との間の隙間が広がったところに防水剤が容易にかつ良好に浸透していく。そして、防水剤が浸透した後被覆の温度が低下して収縮し防水剤を締め付ける。これにより、防水剤による電線の防水性能が向上する。
【0012】
また、本発明の請求項2に記載の防水剤の浸透促進方法は、請求項1に記載の防水剤の浸透促進方法において、前記電線の一端から防水剤を浸透させ、他端から吸引して電線の内部圧力を外気圧未満とすることを特徴としている。
【0013】
電線の他端から電線内の空気を吸入して電線の内部圧力を外気圧よりも低い負圧として一端から電線内への防水剤の浸透を更に容易とする。
【0014】
また、本発明の請求項3に記載の防水剤の浸透促進方法は、請求項1又は請求項2に記載の防水剤の浸透促進方法において、前記防水剤を浸透させる場所が予め電線と他の導体とを接続した部分であることを特徴としている。
【0015】
電線の芯線と接続端子等の他の導体との接続した部分から防水剤を浸透させる。この場合接続端子と芯線とを圧着して接続する場合には圧着接続部から電線内に防水剤を浸透させて止水する。
【0016】
また、本発明の請求項4に記載の防水剤の浸透検査方法は、複数の芯線を被覆した電線の前記芯線間に防水剤を浸透させ、前記電線外径の変化から前記防水剤の浸透度合いを検査することを特徴としている。
【0017】
電線の芯線間の隙間に防水剤が浸透するとこれに伴い電線の被覆の外径寸法が大きく(太く)なる。従って、電線の防水剤を浸透させる前の外径寸法と防水剤を浸透させた後の外径寸法を測定して電線外径の変化から防水剤の浸透の度合いを確認することができる。
【0018】
また、本発明の請求項5に記載の防水剤の浸透検査方法は、請求項4に記載の防水剤の浸透検査方法において、前記電線外径の変化は寸法測定器により検査することを特徴としている。
【0019】
電線外径の変化を寸法測定器により精密に測定する。この場合寸法測定器としてデジタル寸法測定器を使用すると寸法測定が容易である。そして、外径変化から電線内への防水剤の浸透度合いを検査し、確認する。
【0020】
また、本発明の請求項6に記載の防水剤の浸透検査方法は、複数の芯線を被覆した電線の前記芯線間に防水剤を浸透させ、前記電線外径の変化量から前記防水剤の浸透量及び浸透距離を検査することを特徴としている。
【0021】
電線の芯線間の隙間に防水剤が浸透するとこれに伴い電線の被覆の外径寸法が大きく(太く)なる。従って、電線の防水剤を浸透させる前の外径寸法と防水剤を浸透させた後の外径寸法を測定して電線外径の変化量から防水剤の浸透量及び防水剤を供給した箇所からの浸透距離を検査して確認する。これにより、非破壊で製品の最大耐シール圧を予測することができる。
【0022】
また、本発明の請求項7に記載の防水剤の浸透検査方法は、請求項6に記載の防水剤の浸透検査方法において、前記電線外径の変化量は2台以上の寸法測定器を用いて電線の長さ方向の2箇所以上の外径を測定することにより防水剤の浸透距離を検査することを特徴としている。
【0023】
2台以上の寸法測定器を用いて電線の長さ方向の2箇所以上の外径を測定して防水剤の浸透距離を検査する。例えば、必要浸透長さがAmm必要な場合に、Amm位置とB(>A)mm位置に寸法測定器を配置する。防水剤の粘度等によって異なるがシリコーン接着剤等の防水剤を滴下後所定時間t1秒以内にAmm位置の外径が変化し、所定時間t2(>t1)秒以内にBmm位置の外径が変化すれば合格とする。そして、これ以上の時間を要する場合は防水剤が変質して粘度が高くなっていることを意味し、また、Bmm位置は膨らんだにも拘わらずAmm位置が膨らまない場合は、防水剤が芯線間の隙間の全断面に行き渡らず、一部の経路のみ通ってBmm位置まで浸透してしまったことを意味し、その場合にも止水性能が十分でないので不良と見なす。
【0024】
また、本発明の請求項8に記載の防水剤の浸透検査方法は、前記請求項1乃至請求項3の何れかに記載の防水剤の浸透促進方法により電線の芯線間に防水剤を浸透させて防水処理を行い、前記請求項4乃至請求項7の何れかに記載の防水剤の浸透検査方法により浸透度合いを検査することを特徴としている。
【0025】
電線の被覆を、被覆にダメージを与えない50℃以上の温度で温めて被覆の柔軟性を増させて膨張し易くして電線の芯線間の隙間及び芯線と被覆との隙間に毛細管現象により防水剤を浸透させて止水処理を行い、電線の防水剤を浸透させる前の外径寸法と防水剤を浸透させた後の外径寸法を測定して電線外径の変化量から防水剤の浸透の度合いを検査して確認する。これにより、非破壊で製品の最大耐シール圧を予測することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、被覆電線の芯線間に防水剤を浸透させるときに電線を温めることにより電線被覆が柔らかくなり、電線被覆を膨張させる力も小さくて済むために防水剤が浸透しやすくなる。また、電線被覆を温めることにより防水剤も温められることとなり、一般的な防水剤は温められることにより粘度が低下するために浸透し易くなる。また、電線被覆が膨張して芯線間の隙間及び芯線と被覆との間の隙間が広がったところに防水剤が浸透した後、被覆が収縮して防水剤を締め付けるため防水性能が向上する。
【0027】
また、外部より非破壊で防水剤の浸透を検査して確認することができる。また、電線被覆が防水剤を浸透させた場所からどの位置まで大きく(太く)なっているかを測定することにより、防水剤がどこまで浸透しているかを容易に確認することができる。また、防水剤の浸透距離が外部から分かるため非破壊で製品の最大耐シール圧を予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、毛細管現象(毛管現象)を利用して複数の芯線を被覆した被覆電線の端末から芯線間の隙間及び被覆と芯線との間の隙間に防水剤を浸透させる際に、防水剤の浸透を促進させるようにしたものである。また、電線内に防水剤を浸透させた後の被覆の膨張による電線外径の変化を検出して非破壊にて防水剤の浸透度合いを確認するようにしたものである。
【0029】
周知のように毛細管現象は、液体で満たされた容器の中に極めて細い管(メニスカス管)を鉛直に立てると管内の水面が管外の液面より上がるか又は下がる現象で、管内の液面の高さは、接触角が直角よりも小さい(ぬれる)液体(例えば、ガラスに対する水)では管内の液面は上がる。いま、図1に示すように細管1内の液面の上昇した高さをH、液体2の表面張力をγ、細管1と液体2との接触角をθ、液体2の密度をρ、重力加速度をg、細管1の半径をrとすると、H=2×γ×cosθ/(ρ×g×r)で表される。また、このとき発生する細管1内の圧力pは、p=ρ×g×Hで表される。
【0030】
例えば、1μmの隙間に浸透する防水剤としてのシリコーンの高さHは3.9mとなり、このときの浸透する圧力pは38kPaにも達する。従って、被覆電線の複数の芯線間に毛細管現象を利用して防水剤を浸透させる場合、前記圧力pにより電線の被覆が膨張し、膨張することにより被覆内の圧力が低下して安定する。
【0031】
図2は、本発明に係る防水剤の促進方法及び防水剤の浸透検査方法を実施するための電線の止水処理装置を示す。図3に示すように電線11は、複数本の芯線(素線)12が絶縁被覆13により被覆された被覆付電線で図2に示すように電線11の一側端部11aの被覆13が剥ぎ取られて芯線12が他の導体、例えば接続端子14の圧着部14aに圧着されて電気的及び機械的に接続されている。電線11の他側端部11bは、吸引装置15に接続されている。
【0032】
接続端子14の圧着部14aの上方位置に防水剤供給機16が配置されており、圧着部14aに液体状の防水剤(止水剤)17を供給するようになっている。尚、防水剤としては、例えば信越シリコーン製シリコーン接着剤(KE3420)がある。また、防水剤17を供給する付近の電線11の下方位置に被覆13を温めるための熱源18が配置されている。この熱源18としては、例えば赤外線ヒータがある。熱源18は、被覆13にダメージを与えない程度の熱量で被覆13を温め、被覆13に柔軟性を持たせて容易に膨張し得るようにしている。
【0033】
また、防水剤17を供給する付近の電線11の真上位置、例えば熱源18の真上位置に寸法測定器、例えばデジタル寸法測定器19が配置されている。このデジタル寸法測定器19は、電線11の被覆13の外径寸法を測定して、防水剤17の電線11内への浸透度合いを検出する。
【0034】
以下に作用を説明する。まず、デジタル寸法測定器19により予め電線11の外径、即ち被覆13の外径Dを測定しておく(図3)。また、熱源18により電線11を被覆13にダメージを与えない程度の熱量で加温して被覆13に柔軟性を持たせておく。次に、吸引装置15により電線11の他端部11bから吸引して電線11の内部圧力を外気圧未満(負圧)とし、電線11の一側端部11aに圧着接続した接続端子14の圧着部14aに防水剤供給機16から液体状の防水剤17を供給する。
【0035】
被覆13を温めることにより防水剤17も温められることとなるが、当該防水剤17は温められることにより粘度が低下するために浸透し易くなる。そして、防水剤17は、図4に示すように電線11の芯線12間の隙間及び芯線12と被覆13との隙間に毛細管現象により浸透する。このとき、被覆13が柔軟性を有しているために容易に膨張し、各芯線12間の隙間及び芯線12と被覆13との間の隙間が広がったところに防水剤17が容易に浸透していく。そして、防水剤17が浸透した後被覆13の温度が低下して収縮し防水剤17を締め付ける。これにより、防水性能が向上する。
【0036】
防水剤17を浸透させた後デジタル寸法測定器19により電線11の外径、即ち被覆13の外径Dを再度測定してその変化量δ(=D−D)を検出する。そして、検出した外径変化量により防水剤17が圧着部14a(防水剤17の供給位置)から電線11のどの位置まで浸透しているか(浸透度合い)を検査する。
【0037】
電線11の外径変化量は、電線の線径や被覆の材質により異なるが、外径変化量としては、AVSS2.0Fの場合約5μm、AVSS0.5の場合約1μm、AEX1.25の場合約1μm増加した。
【0038】
また、被覆13の外径変化量から防水剤17の浸透量及び圧着部14a(防水剤17の供給位置)からの浸透距離を検査する。この場合、2台以上のデジタル寸法測定器19を用いて電線11の長さ方向の2箇所以上の外径を測定することにより防水剤17の浸透距離を検査する。
【0039】
例えば、必要浸透長さが10mm必要な場合に、5mm位置と10mm位置に外径寸法測定器を配置する。防水剤の粘度等によって異なるが、前記シリコーン接着剤(信越シリコーン製KE3420、粘度600mPas)の場合を例にすると、防水剤を滴下後0.1秒以内に5mm位置の外径が変化し、0.2秒以内に10mm位置の外径が変化すれば合格とした。
【0040】
これ以上の時間を要する場合は防水剤(シリコーン接着剤)が変質して粘度が高くなっていることを意味する。また、10mm位置は膨らんだにも拘わらず5mm位置が膨らまない場合は、防水剤(シリコーン接着剤)が芯線間の隙間の全断面に行き渡らず、一部の経路のみ通って10mm位置まで浸透してしまったことを意味し、その場合にも止水性能が十分でないので不良と見なした。
【0041】
次に、上記防水剤の浸透促進方法における止水性能を実施例により説明する。
【実施例】
【0042】
(1)防水剤(止水材)として全て信越シリコーン製シリコーン接着剤(KE3420)を使用した。
(2)電線の被覆の加熱温度を、0℃,20℃,30℃,50℃,80℃,及び120℃とした。
(3)評価方法は、各種サイズの電線端末に防水剤を毛細管現象を利用して十分吸い上げさせて十分硬化させたサンプルについて、電線の他端から空気を吹き込み、止水部から空気が漏れる内圧を計測し、50kPa以上を合格とした。
(4)空気の漏れの有無は、被評価部を水に浸けて気泡が出た時点で漏れ有りと判定した。
(5)止水性能を表1に示す。そして、止水性能合格を「○」及び「◎」、不合格を「×」で示した。
【0043】
【表1】

表1から明らかなように常温でも十分な止水性能が出るが、被覆を50℃まで温めると500kPa以上という非常に高い止水性能を得ることが出来るため信頼性向上につながる。
【0044】
また、防水剤(止水剤)として、RTVシリコーン(信越化学KE4895)、瞬間接着剤(東亞合成アロンアルファ)、エポキシ樹脂バンディコ・アラルダイト(2液)、及びウレタン樹脂バンディコ・クインネート(2液)を使用した場合と、
RTVシリコーン(信越化学KE3424G)、ホットメルト(東洋紡バイロショットGM960、グリース(日本石油自動車用グリース)、及びブチルゴム(住友3MEMSパットIIIを使用した場合における止水性能を表2に示した。
【0045】
【表2】

これらの結果から電線の被覆を50℃以上に加温することにより防水剤が浸透し易くなり、極めて良好な止水性能を得ることができた。また、電線外径を測定することにより防水剤の浸透度合いを検出して非破壊で製品の最大耐シール圧を予測することができることが明かとなった。
【0046】
このように電線を温めることにより、電線に防水剤が浸透する際の被覆の膨張を助け、防水剤の浸透促進の効果を得ることができる。また、このときの被覆の膨張による電線外径の変化量を検出することで非破壊にて防水剤の浸透度合いを外部より確認することができる。
【0047】
防水剤を浸透させる電線は、接続端子等の他の導体との接続部を有していなくても良く、また、吸引装置により電線の端末から吸引して負圧を用いることにより、より効果が得られるが、毛細管現象だけでも十分な浸透を得ることができる。また、電線被覆を温めることが重要であり、赤外線ヒータに限るものではなく、同様の機能が有れば、温風式ヒータでも、電線導体への通電加熱でも良い。更に、電線被覆の外径を測定するのは、0.1μm程度の変化を確実に検出できれば良く、デジタル寸法測定器である必要はない。また、電線被覆外径検査は、防水剤を浸透させながら行っても良い。
【0048】
更に、浸透させるのは防水剤だけでなく、電線と他の導体との接続を良好にするための導電性を有する材料でも良く、浸透させる対象物も電線である必要はない。つまり、本発明は、柔軟性を有する外被の中に毛細管現象が働く材料、例えばシリコーン等の液体材料を浸透させる際に、外皮を温めることにより柔軟性が増すことができれば、浸透性の促進効果が得られ、このときの外形寸法を検出することで何処まで材料が浸透しているかを確認できることを示しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】毛細管現象の説明図である。
【図2】本発明の防水剤の浸透促進方法を実施する止水処理装置の構成図である。
【図3】図2に示した電線の防水剤を浸透させる前の断面図である。
【図4】図2に示した電線に防水剤を浸透させた後の断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 細管
2 液体
11 電線
11a 一側端部
11b 他側端部
12 芯線(素線)
13 被覆
14 接続端子
14a 圧着部
15 吸引装置
16 防水剤供給機
17 防水剤
18 熱源
19 デジタル寸法測定器
電線の防水剤を浸透させる前の外径
電線の防水剤を浸透させた後の外径
H 液面の高さ
r 細管の半径
θ 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の芯線を被覆した電線の前記芯線間に防水剤を浸透させる方法であって、
前記電線の被覆の表面温度を50℃以上に加温することを特徴とする防水剤の浸透促進方法。
【請求項2】
前記電線の一端から防水剤を浸透させ、他端から吸引して電線の内部圧力を外気圧未満とすることを特徴とする、請求項1に記載の防水剤の浸透促進方法。
【請求項3】
前記防水剤を浸透させる場所が予め電線と他の導体とを接続した部分であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の防水剤の浸透促進方法。
【請求項4】
複数の芯線を被覆した電線の前記芯線間に防水剤を浸透させ、前記電線外径の変化から前記防水剤の浸透度合いを検査することを特徴とする防水剤の浸透検査方法。
【請求項5】
前記電線外径の変化は寸法測定器により検査することを特徴とする、請求項4に記載の防水剤の浸透検査方法。
【請求項6】
複数の芯線を被覆した電線の前記芯線間に防水剤を浸透させ、前記電線外径の変化量から前記防水剤の浸透量及び浸透距離を検査することを特徴とする防水剤の浸透検査方法。
【請求項7】
前記電線外径の変化量は2台以上の寸法測定器を用いて電線の長さ方向の2箇所以上の外径を測定することにより防水剤の浸透距離を検査することを特徴とする、請求項6に記載の防水剤の浸透検査方法。
【請求項8】
前記請求項1乃至請求項3の何れかに記載の防水剤の浸透促進方法により電線の芯線間に防水剤を浸透させて防水処理を行い、前記請求項4乃至請求項7の何れかに記載の防水剤の浸透検査方法により浸透度合いを検査することを特徴とする電線の防水処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−53015(P2008−53015A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227219(P2006−227219)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】