説明

防水性織物および繊維製品

【課題】ソフトな風合いを有するだけでなく優れた防水性を呈する防水性織物、および該防水性織物を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが、織物の経糸および/または緯糸に配されており、経糸カバーファクターCFpが500〜3000の範囲内であり、かつ緯糸カバーファクターCFfが500〜3000の範囲であり、かつCFpとCFfのうち大きい方をCFL、小さい方をCFSとするとき、比CFL/CFSが1.3以上であることを特徴とする防水性織物、および該防水性織物を用いてなる繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトな風合いを有するだけでなく優れた防水性を呈する防水性織物、および該防水性織物を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツ衣料やユニフォーム衣料に使用されている防水性布帛として、織編物等の基布に多孔質または無孔質ポリウレタンをコーティングしたものや、ポリウレタン等の多孔質または無孔質樹脂性フィルムを接着剤によりラミネーションしたものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。多孔質樹脂性薄膜はその孔の大きさにより、また、無孔質樹脂性薄膜は孔が無く吸湿性物質を含有することにより親水性とすることで、雨やその他の水は通さず、湿気(水蒸気)は通すことにより透湿性と防水性を発現している。
【0003】
しかしながら、かかる織物は防水性には非常に優れているが、風合いが硬いという問題があった。また、製造コストが高くなるという問題もあった(例えば、特許文献3参照)。さらには、これらの防水性布帛では、繊維への物理的な摩擦や洗濯によって撥水樹脂やフィルムと基布との剥離が生じ、防水機能が低下するという問題もあった。
この問題を解決するために、単繊維径が1000nm以下の超極細繊維で織物を構成することにより、コーティングやフィルムラミネート等の加工を必要としない、ノンコーティングタイプの防水性織物を得ることが提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、かかる防水性織物はソフトな風合いは呈するもの防水性の点で十分とはいえなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平9−001703号公報
【特許文献2】特開2002−345873号公報
【特許文献3】特許第3718422号公報
【特許文献4】特開2007−2364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ソフトな風合いを有するだけでなく優れた防水性を呈する防水性織物、および該防水性織物を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維径が1000nm以下の超極細繊維で織物を構成する際、織物の経糸カバーファクターと緯糸カバーファクターとの比率を特定の範囲とすることにより優れた防水性が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが、織物の経糸および/または緯糸に配されており、下記式で定義する経糸カバーファクターCFpが500〜3000の範囲内であり、かつ下記式で定義する緯糸カバーファクターCFfが500〜3000の範囲であり、かつ下記に定義するCFLとCFSとの比CFL/CFSが1.3以上であることを特徴とする防水性織物。」が提供される。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。また、CFLはCFpとCFfのうち値の大きい方の数値であり、CFSはCFpとCFfのうち値の小さい方の数値である。
【0008】
その際、前記の比比CFL/CFSが1.3〜2.5の範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。
【0009】
本発明の防水性織物において、織物が前記ポリエステルフィラメント糸Aのみからなることが好ましい。また、織物が平織組織またはその変化組織を有することが好ましい。また、織物に撥水加工および/またはカレンダー加工が施されていることが好ましい。また、織物の耐水圧が1000mmHO以上であることが好ましい。また、織物の通気度が1cc/cm・sec以下であることが好ましい。また、JIS−L1099A1法による透湿度が4000g/m/24h以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の防水性織物を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ソフトな風合いを有するだけでなく優れた防水性を呈する防水性織物、および該防水性織物を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の防水性織物には、単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm)のポリエステルマルチフィラメント糸Aが含まれることが肝要である。かかる単繊維径を単糸繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。一般的に織物の防水性を高めるには、織物を構成する繊維間の空隙をできるだけ小さくすることが有効であり、かかる単繊維径を有するポリエステルマルチフィラメント糸Aが織物に含まれることにより、繊維間の空隙を緻密に埋めることが可能となり、雨などの水滴に対して飛躍的に防水性が向上する。また、蒸気状の汗(不感蒸泄) などの水蒸気は透過でき、衣服内を快適に保つことができる。ここで、単繊維径が10nm未満の場合には繊維強度が低くなるため実用上好ましくない。逆に、単繊維径が1000nmを超える場合には、織物の緻密性が低下して防水性が不十分となり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、丸断面に換算した直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0013】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aのフィラメント数としては優れた防水性を得る上で500本以上(より好ましくは2000〜8000)であることが好ましい。単糸繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、くびれ付扁平、十字形、六様形、あるいは中空形などの異型断面形状であってもよい。
【0014】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aを形成するポリエステルはジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルであってもよい。
【0015】
次に、下記式で定義する経糸カバーファクターCFpが500〜3000の範囲内であり、かつ下記式で定義する緯糸カバーファクターCFfが500〜3000の範囲であり、かつ下記に定義するCFLとCFSとの比CFL/CFSが1.3以上(好ましくは1.3〜2.5、特に好ましくは1.7〜2.0)であることが肝要である。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。また、CFLはCFpとCFfのうち値の大きい方の数値であり、CFSはCFpとCFfのうち値の小さい方の数値である。
【0016】
ここで、前記経糸カバーファクターCFpが500未満であると、十分な防水性が得られず好ましくない。逆に、該経糸カバーファクターCFpが3000より大きいと風合いが硬くなるだけでなく透湿性も低下するため好ましくない。同様に、前記緯糸カバーファクターCFfが500未満であると、十分な防水性が得られず好ましくない。逆に、該緯糸カバーファクターCFfが3000より大きいと風合いが硬くなるだけでなく透湿性も低下するため好ましくない。また、前記の比CFL/CFSが1.3より小さいと十分な防水性が得られず好ましくない。この理由について本発明者らは以下のように推定している。すなわち、前記の比CFL/CFSが1.3以上であると、図2に模式的に示すように経糸と緯糸とで形成される組織間空隙が長方形となり、逆に、該比CFL/CFSが1.3より小さいと、図1に模式的に示すように経糸と緯糸とで形成される組織間空隙が正方形に近くなる。そして、組織間空隙を透過する水滴(球体)は、組織間空隙の短径以下のサイズを有する水滴(球体)のみであるので、組織間空隙の面積が同一であれば、長方形の異型度(長径と短径との比)が大きくなればなるほど、水滴(球体)が組織間空隙を透過しにくくなり防水性が向上する。
【0017】
本発明の防水性織物は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、下記のような海島型複合繊維用の海成分ポリマーと島成分ポリマーを用意する。
海成分ポリマーは、好ましくは島成分との溶解速度比が200以上であればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくなくなる。また、共重合量が10重量%以上になると、本来溶融粘度低下作用があるので、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0018】
一方、島成分ポリマーは、海成分との溶解速度差があればいかなるポリエステルポリマーであってもよいが、前記のように繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。
【0019】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0020】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0021】
次に島数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなるので100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。なお、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので10000以下とするのが好ましい。
【0022】
次に、島成分の径(直径)は、10〜1000nm(好ましくは100〜800nm)の範囲とする必要がある。島成分の径を該範囲内とすることにより、最終的に得られる織物に、単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nmのマルチフィラメント糸が含まれることになる。ここで、島成分の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を島成分の径とする。なお、島成分の径(直径)は、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去したのち、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0023】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0024】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
【0025】
ここで、特に微細な島径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを極細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。このプロセスでは、特に海成分および島成分が共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルに好適である。具体的には60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施し、延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、高倍率延伸を達成することができなくなる。
【0026】
得られた流動状態で延伸された延伸糸は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、定法にしたがって60〜220℃の温度で配向結晶化延伸する。該延伸条件がこの範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、この延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などによって変わってくるが、該配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍で延伸すればよい。
【0027】
かくして得られた海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0028】
また、前記の海島型複合繊維において、その島間の海成分厚みが500nm以下、特に20〜200nmの範囲が適当であり、該厚みが500nmを越える場合には、該厚い海成分を溶解除去する間に島成分の溶解が進むため、島成分間の均質性が低下するだけでなく、毛羽やピリングなど着用時の欠陥や染め斑も発生しやすくなる。
【0029】
次いで、かかる海島型複合繊維を用いて、下記式で定義する経糸カバーファクターCFpが500〜3000の範囲内であり、かつ下記式で定義する緯糸カバーファクターCFfが500〜3000の範囲であり、かつ下記に定義するCFLとCFSとの比CFL/CFSが1.3以上である織物を得た後、前記海島型複合繊維の海成分を温度40〜100℃のアルカリ水溶液で溶解除去する。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
CF=CFp+CFf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。また、CFLはCFpとCFfのうち値の大きい方の数値であり、CFSはCFpとCFfのうち値の小さい方の数値である。
【0030】
ここで、前記の海島型複合繊維のみを用いて織物を織成することが好ましいが、織物重量に対して30重量%以下であれば他の繊維が含まれていてもさしつかえない。例えば、織物に吸水性を付与するために、他の繊維として異型断面繊維や、単繊維表面にボイドやクラックを有する繊維を採用してもよい。また、前記の海島型複合繊維の繊維形態は特に制限されないが、無撚または400T/m以下の甘撚であることが防水性の点で好ましい。さらには、仮撚捲縮加工を施して仮撚捲縮加工糸としたり、空気加工を施して空気加工糸としたり、2本以上の糸条を引きそろえて複合糸としてもよい。
【0031】
編物の組織は限定されず、平織、斜文織、サテン織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるが、防水性の点で図3に示すような平織組織またはその変化組織が好ましい。
【0032】
該織物は精練、リラックス、プレセット、染色、ファイナルセット、撥水加工、カレンダー加工などの各種加工を施してもよい。なかでも、リラックス加工を施すことが好ましい。リラックスによって繊維間空隙を小さくすることができ、防水性を上げるのに好ましい形態となる。さらに、前記の織物は、撥水加工を施すことが好ましい。撥水加工によって化学的相互作用によって防水性が上がる。その際、撥水加工は通常の撥水加工でよく、例えば、フッ素系、シリコン系、ワックス系などの撥水剤を用いた撥水加工が例示される。また、撥水剤をバインダー樹脂とともに織編物に付着させることが、撥水性の耐久性を高める上で好ましい。バインダー樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂などが例示される。さらに、前記の織物は、カレンダー加工を施すことが好ましい。カレンダー加工によって繊維間空隙を小さくすることができ、防水性を上げるのに好ましい形態となる。この際、加熱温度は40℃〜240℃、加圧はニップ圧49〜7840N(5〜800kgf)/cmの範囲であることが好ましい。なお、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去は加工のどの段階で行ってもよく、溶解除去の方法は海成分が完全に溶解除去し得る方法であればいずれの方法で行ってもよい。
【0033】
かくして得られた防水性織物において、経糸カバーファクターと緯糸カバーファクターとが前記の範囲内であるので、図2に模式的に示すように経糸と緯糸とで形成される組織間空隙が長方形となり、水滴(球体)が組織間空隙を透過しにくくなり防水性が向上する。また、該防水性織物には単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが含まれているのでソフトな風合いを呈する。また、透湿性にも優れているので、コーティングやフィルムラミネート等の加工を必要としない、ノンコーティングタイプの透湿防水性織物として好適に使用することができる。その際、耐水圧が1000mmHO以上(より好ましくは1500〜6000mmHO)であることが好ましい。また、通気度が1cc/cm・sec以下(より好ましくは0.05〜1cc/cm・sec)であることが好ましい。また、透湿度が4000g/m/24h以上(好ましくは5000〜10000g/m/24h)であることが好ましい。また、織物表面の撥水性が3級以上(好ましくは5級)であることが好ましい。なお、これらの耐水性、通気度、透湿度、撥水性は前記に記載された構成を採用することにより得られる。
【0034】
次に、本発明の繊維製品は、前記の防水性織物を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の防水性織物を用いているので、ソフトな風合いを有するだけでなく優れた防水性を呈する。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<溶解速度>海・島ポリマーの各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1,000〜2,000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
<経糸カバーファクターCFpおよび緯糸カバーファクターCFfおよびCFLとCFSとの比CFL/CFS>下記式で定義する。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。また、CFLはCFpとCFfのうち値の大きい方の数値であり、CFSはCFpとCFfのうち値の小さい方の数値である。
<耐水圧>JIS L 1092 B法(低水圧法の静水圧法)に従って測定した。
<通気度>JIS L1096−8.27.1A法により測定した。
<撥水性>JIS L1092−6.2(スプレー法)により測定した。
<透湿度>JIS L 1099 A−1法に従って測定した。
<風合い>試験者3人により風合いを官能検査し、「ソフトである」、「普通」、「硬い」の3段階に評価した。
【0036】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=40:60、島数=500の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は50dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は520nmであった。
【0037】
該海島型複合延伸糸を2本合糸してS方向に300回/m撚りをかけたものを経糸に配し、該海島型複合延伸糸単独糸で無撚のものを緯糸に配し、経密度141本/2.54cm、緯密度119本/2.54cmの織密度にて、図3の(1)に示す織組織図に従い通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。該織物生機において、経糸カバーファクターCFpは1455、緯糸カバーファクターCFfは848であった。そして、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。加えて、常法の染色加工を行い、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度170℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工を施し、経糸密187本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmのノンコーティングタイプの防水性織物を得た。
【0038】
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織物の経糸および緯糸全量が均一性に優れた超極細繊維(単繊維径520nmのポリエステルフィラメント糸A)により構成されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1575、緯糸カバーファクターCFfは800であり、CFLとCFSとの比CFL/CFSは1.97であり、耐水圧は1300mmHO、透湿度は7728g/m・24h、通気度は0.04と優れた防水性と透湿性を有していた。また、ソフトな風合いであった。
次いで、該織物を用いてスポーツウェア(ウインドブレーカー)を縫製し着用したところ、優れた防水性と透湿性を有しており、またソフトな風合いを呈するものであった。
【0039】
[実施例2]
実施例1で得られた海島型複合延伸糸を2本合糸してS方向に300回/m撚りをかけたものを経糸に配し、該海島型複合延伸糸単独糸で無撚のものを緯糸に配し、経密度123本/2.54cm、緯密度139本/2.54cmの織密度にて、図3の(1)に示す織組織図に従い通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。経糸カバーファクターCFpは1314、緯糸カバーファクターCFfは991であった。そして、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。加えて、常法の染色加工を行い、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度170℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工を施し、経糸密187本/2.54cm、緯密度159本/2.54cmのノンコーティングタイプの防水性織物を得た。
【0040】
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織物の経糸および緯糸全量が均一性に優れた超極細繊維(単繊維径520nmのポリエステルフィラメント糸A)により構成されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1570、緯糸カバーファクターCFfは946であり、CFLとCFSとの比CFL/CFSは1.66であり、耐水圧は1100mmHO、透湿度は6552g/m・24h、通気度は0.04と優れた防水性と透湿性を有していた。また、ソフトな風合いであった。
【0041】
[実施例3]
実施例1で得られた海島型複合延伸糸を2本合糸してS方向に300回/m撚りをかけたものを経糸に配し、該海島型複合延伸糸単独糸で無撚のものを緯糸に配し、経密度101本/2.54cm、緯密度150本/2.54cmの織密度にて、図3の(1)に示す織組織図に従い通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。経糸カバーファクターCFpは1092、緯糸カバーファクターCFfは1077であった。そして、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。加えて、常法の染色加工を行い、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度170℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工を施し、経糸密170本/2.54cm、緯密度216本/2.54cmのノンコーティングタイプの防水性織物を得た。
【0042】
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織物の経糸および緯糸全量が均一性に優れた超極細繊維(単繊維径520nmのポリエステルフィラメント糸A)により構成されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1427、緯糸カバーファクターCFfは1028であり、CFLとCFSとの比CFL/CFSは1.39であり、耐水圧は1200mmHO、透湿度は7464g/m・24h、、通気度は0(測定限界以下)と優れた防水性と透湿性を有していた。また、ソフトな風合いであった。
【0043】
[実施例4]
実施例1において、染色加工とカレンダー加工との間の工程で、織物をフッ素系撥水剤溶液にパッドし、ピックアップ率70%で搾液し、130℃で3分間乾燥後170℃で45秒間熱処理を行い、これ以外は実施例1と同様にした。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1575、緯糸カバーファクターCFfは800であり、CFLとCFSとの比CFL/CFSは1.97であり、耐水圧は1300mmHO、透湿度は7728g/m・24h、通気度は0.04、撥水性5級と優れた防水性と透湿性と撥水性を有していた。また、ソフトな風合いであった。
【0044】
[比較例1]
実施例1で得られた海島型複合延伸糸を2本合糸してS方向に300回/m撚りをかけたものを経糸に配し、該海島型複合延伸糸単独糸で無撚のものを緯糸に配し、経密度86本/2.54cm、緯密度174本/2.54cmの織密度にて、図3の(1)に示す織組織図に従い通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。経糸カバーファクターCFpは943、緯糸カバーファクターCFfは1239であった。そして、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。加えて、常法の染色加工を行い、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度170℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工を施し、経密度147本/2.54cm、緯密度195本/2.54cmのノンコーティングタイプの防水性織物を得た。
【0045】
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織物の経糸および緯糸全量が均一性に優れた超極細繊維(単繊維径520nmのポリエステルフィラメント糸A)により構成されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1233、緯糸カバーファクターCFは1156であり、CFLとCFSとの比CFL/CFSは1.07あり、耐水圧は350mmHO、透湿度は6120g/m・24h、通気度は0.12と透湿性はあるものの防水性は不十分であった。また、ソフトな風合いであった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ソフトな風合いを有するだけでなく優れた防水性を呈する防水性織物、および該防水性織物を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の織物において、組織間空隙を説明するための模式図である。
【図2】本発明の織物において、組織間空隙を説明するための模式図である。
【図3】本発明において、用いることのできる織組織図である。
【符号の説明】
【0048】
1:経糸
2:緯糸
3:水滴
4:組織間空隙
5:経糸
6:緯糸
7:水滴
8:組織間空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが、織物の経糸および/または緯糸に配されており、下記式で定義する経糸カバーファクターCFpが500〜3000の範囲内であり、かつ下記式で定義する緯糸カバーファクターCFfが500〜3000の範囲であり、かつ下記に定義するCFLとCFSとの比CFL/CFSが1.3以上であることを特徴とする防水性織物。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。また、CFLはCFpとCFfのうち値の大きい方の数値であり、CFSはCFpとCFfのうち値の小さい方の数値である。
【請求項2】
前記の比CFL/CFSが1.3〜2.5の範囲内である、請求項1に記載の防水性織物。
【請求項3】
前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1または請求項2に記載の防水性織物。
【請求項4】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1〜3のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項5】
織物が前記ポリエステルフィラメント糸Aのみからなる、請求項1〜4のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項6】
織物が平織組織またはその変化組織を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項7】
織物に撥水加工および/またはカレンダー加工が施されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項8】
耐水圧が1000mmHO以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項9】
通気度が1cc/cm・sec以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項10】
JIS−L1099A1法による透湿度が4000g/m/24h以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の防水性織物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の防水性織物を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−161890(P2009−161890A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3267(P2008−3267)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】