説明

防水透湿積層体およびそれを用いた防水透湿材

【課題】
極細繊維からなる防水透湿層でありながら層間剥離がほとんどなく、高い通気性、透湿性を同時に具備できる防水透湿積層体およびそれを用いた防水透湿積層材を提供する。
【解決手段】
平均直径が0.02μm〜2μm の繊維からなる積層体において、該積層体を構成する繊維の少なくとも一部が架橋性物質を含む繊維からなり、該架橋性物質を介して繊維同士の少なくとも一部が接合されてなり、積層体の表面に20g/cmの荷重でガムテープを張り付け、剥がしたときに積層体を構成する繊維同士の層間剥離による膜破れがない防水透湿積層体。また、該架橋性物質の主成分がポリイソシアネート系化合物であるとともに、該繊維を構成するポリマーの主成分がポリウレタン系樹脂である防水透湿積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水透湿積層体およびそれを用いた防水透湿材に関する。さらに詳しくは、織編物、不織布、紙、多孔性フィルム、多孔性ボード等と組み合わせることで、フィッシングや登山衣等のアウトドアウェア、スキー関連ウェア、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、ゴルフウェア、テニスウェア、レインウェア、カジュアルコート、屋外作業着、手袋や靴等の衣料、衣料資材分野、また、壁紙や屋根防水シート、瓦等の建築材料、除湿器用フィルム基材などの電気機器部材のような非衣料分野において好適に用いることができる防水透湿積層体に関するものである
【背景技術】
【0002】
従来、透湿性と防水性に優れた防水透湿フィルムや防水透湿複合材を得るためには、ポリマー鎖中に親水性部分を導入する、あるいは低透湿性の樹脂に高透湿性な親水性樹脂をブレンドするというような方法がとられており、いずれの場合も溶剤系樹脂におけるポリマーの改質や、ポリマーブレンドによる種々の検討がなされている(特許文献1および特許文献2参照)。また、布帛の片面に、ポリウレタン重合体の樹脂溶液をコ−テイングし、湿式凝固して得られた微多孔質被膜を有するコ−テイング加工布(特許文献3)や布帛の片面にウレタン樹脂の無孔質膜を貼り合せて得られた透湿性防水布帛(特許文献4)、さらに、延伸フィブリル化させた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を布帛の片面に貼り合わせた透湿性防水布帛も知られている。
【0003】
さらに近年では、新たな防水透湿層の製法として、エレクトロスピニング法が注目されている。この方法で作製した防水透湿層は、透湿性に通気性を兼ね備えた多孔性の極細繊維からなる不織布であり、特に多孔膜を利用した防水透湿層としては同様にフィブリル化された極細ポリテトラフルオロエチレン繊維からなるポリテトラフルオロエチレン多孔膜に匹敵する素材として注目されている(特許文献5)。
【特許文献1】特開平7−9631号公報(特許第3212418号公報)
【特許文献2】特開平7−3148号公報(特許第3272467号公報)
【特許文献3】特開昭55−80583
【特許文献4】特開平7−9631
【特許文献5】特開2007−136970
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の極細繊維からなる多孔膜を利用した防水透湿層は、極細繊維が積層された不織布状構造体であり、膜強度、とくに層間剥離強度が低いといった問題があった。ポリテトラフルオロエチレン多孔膜では、その特徴である通気性を犠牲にしてポリウレタンウレア層を積層するなどの手段をとっているがその効果は十分ではない。エレクトロスピニング法により製造された多孔膜は製法上極細繊維が積層されるだけであり、層間剥離の傾向は顕著であり、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜以上に層間剥離が弱く、実用上問題となる。
【0005】
以上のことから、本発明では、上記問題を解決し、極細繊維からなる防水透湿層でありながら層間剥離がほとんどなく、また、これら防水透湿層に特有の高い通気性、透湿性を同時に具備できる防水透湿積層体およびそれを用いた防水透湿積層材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記した課題を解決するために、次の構成を有するものである。
【0007】
すなわち、本発明は、平均直径が0.02μm〜2μm の繊維からなる積層体において、該積層体を構成する繊維の少なくとも一部が架橋性物質を含む繊維からなり、該架橋性物質を介して繊維同士の少なくとも一部が接合されてなり、積層体の表面に20g/cmの荷重でガムテープを張り付け、剥がしたときに積層体を構成する繊維同士の層間剥離による膜破れがない防水透湿積層体。また、該架橋性物質の主成分がポリイソシアネート系化合物であるとともに、該繊維を構成するポリマーの主成分がポリウレタン系樹脂である防水透湿積層体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極細繊維からなる防水透湿層でありながら層間剥離がほとんどなく、高い通気性、透湿性を同時に具備できる防水透湿積層体およびそれを用いた防水透湿積層材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の、平均直径が0.02μm〜2μm の繊維とは、電子顕微鏡で観察した場合の繊維直径の平均径(任意の個所での測定数N=10)が0.02μm〜2μmであることを言う。積層体とはこれら繊維1本1本が積み重なった構造であり、繊維−繊維間に空隙を有した構造体をいう。
【0010】
繊維の平均直径は、0.02μm〜2μmの範囲であればよいが、好ましくは0.1μm〜1μm、さらに好ましくは0.3μm〜0.6μmである。繊維の直径が0.02μm未満であると繊維紡糸時の制御が難しく、繊維そのものの強度も低くなってしまう。また、繊維径が2μmを超えると、繊維−繊維の空隙が大きくなりすぎ防水性が低くなる恐れがある。
【0011】
繊維直径が0.02μm〜2μmの繊維からなる層には、様々な太さの繊維が混在していてもよく、要求される性能に悪影響がでない範囲で、0.02μmより細い繊維、2μmよりも太い繊維が含まれていてもよく、悪影響が出ない範囲としては0〜5重量%の範囲が好ましい。
【0012】
本発明では、該積層体を構成する繊維の少なくとも一部が架橋性物質により接合されている。架橋性物質としては、元々繊維の少なくとも一部が架橋性物質を含む繊維であってもよい。繊維のすくなくとも一部が架橋性物質を含むとは、
(1)繊維を構成するポリマー中に架橋性物質が含まれる、
(2)繊維自身が架橋性ポリマーからなる、
ことをいう。
【0013】
繊維を構成するポリマーの主成分としては既存繊維、フィルムなどを構成するポリマーが挙げられる。例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、シリコーン系、セルロース系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、タンパク系、ビニル系、フッ素系などが挙げられ、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、N−メトキシシリル化ナイロン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリジメチルシロキサン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、コラーゲン、ゼラチン、絹成分、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−ビニルエーテル共重合体などがあげることができるがこれに限るものではない。
【0014】
なお、繊維を構成するポリマーは、これらのうちの一つの同一成分から構成されていても、複数の成分がブレンド、あるいは共重合されて構成されていてもかまわない。さらには、これらポリマーからなる繊維が構成する不織布は同一繊維種から構成されていても、複数の繊維種から構成されていてもかまわない。
【0015】
本発明の繊維は、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法、複合紡糸法などの紡糸方法で得ることができるが、細い繊維を連続で製造し、ダイレクトに積層体にできる観点から観点からはエレクトロスピニング法が好ましい。エレクトロスピニング法では、溶液紡糸、溶融紡糸いずれかの方法を用いることができ、繊維を構成する成分等によって、任意に選択することができる。溶液紡糸の場合では、繊維を構成するポリマーを溶解できる公知の溶媒を用いることができる。また、溶融紡糸の場合では、熱可塑性を有したポリマーであれば、それぞれのポリマーの融点に応じた温度に加熱し溶融させればよい。
【0016】
本発明の架橋性物質とは、繊維を構成するポリマーが有する官能基、および/または架橋性物質同士が結合できる架橋性官能基をもつ化合物を主成分とするものであり、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、メトキシ基、ビニル基、グリオキサール基などの既知の架橋性官能基を有する架橋性物質があげられるがこれらに限るものではない。架橋性物質は、これらのうちの一つの同一成分から構成されていても、複数の成分から構成されていてもかまわない。
また、架橋性ポリマーとは前記架橋性官能基をポリマー末端、ポリマー側鎖末端に有する化合物、ならびにそれ自身が重合性を有するウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどのUV硬化型ポリマー、電子線硬化型ポリマーなどをあげることができるがこれらに限るものではない。
【0017】
架橋性物質を介して繊維同士の少なくとも一部が接合されてなるとは、繊維と繊維の間隙が実質的に0であり、架橋性物質がもつ架橋性官能基と繊維を構成するポリマーが有する被架橋性官能基、架橋性物質がもつ架橋性官能基同士が結合することによって接着されていることをいう。
【0018】
なお、架橋性物質は、これらのうちの一つの同一成分から構成されていても、複数の成分から構成されていてもかまわない。
【0019】
本発明では、前記構成をとることにより、積層体の表面に20g/cmの荷重でガムテープを張り付け、剥がしたときに積層体を構成する繊維同士の層間剥離による膜破れがないものを得ることができる。層間剥離による膜破れがないとは、剥がした後のガムテープに積層体の一部が付着していないことをいう。
【0020】
公知のエレクトロスピニング法によって作製された極細繊維からなる積層体においてはその構造、特性上、層間剥離は避けられないが、本発明の構成をとることにより非常に大きな効果、すなわち層間剥離を大きく抑制できるようになるのである。
本発明の構成をとらず、架橋をともなった繊維同士の接合がない場合、層間剥離が非常に起こりやすく、膜破れが起きやすく防水透湿層としては不適となるのである。
【0021】
本発明の防水透湿性積層体の目付は、5g/m〜50g/mであることが好ましく、さらに好ましくは8g/m〜20g/mである。5g/m未満であると、積層体そのものの強度が低く十分な防水性が得られない恐れがある。また、50g/mを超えると透湿性や通気性が低下する可能性がある。
【0022】
本発明積層体の厚みは、任意の厚みのものを用いることができるが、風合いや軽量感の観点からなるべく薄いものがよく、10μm〜100μmが好ましい。10μm以下であると繊維の太さにもよるが耐水圧がほとんどない場合がある。また、100μmを超えると、使用状況に応じてムレ感を感じやすくなる可能性がある。
【0023】
本発明は、上記のような防水透湿積層体は、透湿性防水布帛の塩化カルシウム法による透湿度が8000g/m・24hrs以上、酢酸カリウム法による透湿度が50000g/m・24hrs以上、耐水圧が500mmHO以上、フラジ−ル法による通気度が0.5cm/cm・s以上3cm/cm・s以下であることが好ましい。
【0024】
ここでいう塩化カルシウム法とは、JIS L1099−1993A−1法にて測定した値、酢酸カリウム法による透湿度とは、JIS L1099−1993B法にて測定した値をいう。
塩化カルシウム法による透湿度は、8000g/m・24hrs以上であることが好ましい。塩化カルシウム法にて透湿度が8000g/m・24hr未満であると快適性が低下し、衣服内のムレ感を感じることがある。
【0025】
また、耐水圧は、JIS L1091−1998耐水度試験(静水圧法)耐水圧が2000mmHO以下のものをA法(低水圧法)、2000mmHOを超えるものをB法(高水圧法)に準じた方法で測定した値をいう。
【0026】
耐水圧は、その用途に応じ任意に設定すればよいが、500mmHO以上あればよい。用途等に応じ、必要であれば5000mmHO以上、さらには10000mmHO以上であってもよい。
【0027】
フラジ−ル法による通気度とは、JIS L1096−1999通気性A法(フラジ−ル形法)にて測定した値をいう。
【0028】
フラジ−ル法による通気度が0.5cm/cm・s以上、3cm/cm・s以下であることが好ましく、さらには0.8cm/cm・s以上が好ましい。0.5cm/cm・sを下まわると使用状況に応じてムレ感を感じやすくなる可能性があり、3cm/cm・sを超えると充分な防水性や防風性が得られない恐れがある。
【0029】
本発明の防水透湿積層体は、接着剤を介して布帛(織編物、不織布等)、紙、多孔性フィルム、多孔性ボードなどの基材に貼り合わせることで、フィッシングや登山衣等のアウトドアウェア、スキー関連ウェア、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、ゴルフウェア、テニスウェア、レインウェア、カジュアルコート、屋外作業着、手袋や靴等の衣料、衣料資材分野、壁紙や屋根防水シート、瓦等の建築材料、除湿器用フィルム基材などの電気機器部材のような非衣料分野の防水透湿材とすることができる。
【0030】
前記の防水透湿材は、基材の上に本発明の防水透湿積層体を直接積層させる方法、離型紙上などへ本発明の防水透湿積層体を形成した後、接着剤を介して布帛へ貼りつける方法などで作製することができる。
【0031】
このとき用いられる接着剤は、ウレタン系、エポキシ系、メラミン系、ポリアミド系など、の既知の接着剤を用いることができる。
【0032】
ここで本発明の架橋性物質の主成分はポリイソシアネート系化合物であることが好ましい。ポリイソシアネート系化合物が好適に利用できる理由として、多くの被架橋性官能基と架橋するとともに、単独でも湿気硬化することがあげられる。湿気硬化とは水分の存在により、イソシアネートが分解し、アミノ末端となることによりウレア結合を形成、自己架橋、硬化する作用である。この作用によりポリイソシアネート系化合物では被架橋物である繊維を構成するポリマーとの結合、自己架橋により高い接着性を得ることができる。
【0033】
ポリイソシアネート系化合物としては、芳香族系ポリイソシアネートならびに脂肪族系ポリイソシアネートのいずれも利用でき、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの2量体および3量体、トリメチルプロパン変性による3量体などを適宜用いることができる。防水透湿層であることで繊維構造物に接するといった観点から、無黄色タイプである脂肪族系ポリイソシアネートがより好適であり、ヘキサメチレンジイソシアネートの2量体および3量体、トリメチルプロパン変性による3量体、これらイソシアネートの一部を例えばポリエチレングリコールなどで変性し自己乳化性を付与した水分散タイプなどが好ましく利用できる。
【0034】
なお、ポリイソシアネートは、同一成分から構成されていても、複数の成分から構成されていてもかまわず、他の架橋性物質と併用してもかまわない。
【0035】
また、本発明において、繊維を構成するポリマーの主成分がポリウレタン系樹脂であることが好ましい。樹脂層を繊維構造物に接着した場合の風合い、ストレッチ性に優れていること、また、厚み、伸びが異なる基材を積層した場合においても、追随性が非常に優れたものとなり、接着性も優れているためである。
【0036】
ポリウレタン系樹脂とは、ポリイソシアネートとポリオールを反応せしめて得られる重合体を主成分として含むものである。
【0037】
水系樹脂ではジアミンによる鎖伸長の際、ウレア結合などの結合が導入され、ポリウレタンウレアとなる場合があるがウレア部分が含まれていても良い。
【0038】
イソシアネート成分としては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートの単独またはこれらの混合物を用いることができる。
【0039】
イソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネートなどを用いることができる。ポリイソシアネートは、樹脂膜の強度、耐溶剤性および耐光性などの観点から、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)が好適である。
【0040】
また、ポリオール成分としては、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、およびポリカーボネート系ポリオールなどを用いることができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびポリヘキサメチレングリコールなど、ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオールとアジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの2塩基酸との反応生成物やカプロラクトンなどの開環重合物など、ポリカーボネート系ポリオールとしてホスゲン法、エステル交換法等で合成される芳香族ポリカーボナート、脂肪族ポリカーボナートなどを用いることができる。その他、エーテル/エステル系、アミド系、シリコーン系、フッ素系、種々の共重合系などが適宜利用できるが、本発明はこれらに限るものではない。
ポリオールは、樹脂膜の強度と耐加水分解性の観点から、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールおよびポリヘキサメチレンカーボネートが好適であり、また透湿性の観点から、ポリエチレングリコールを主成分としたポリウレタン樹脂が好適である。
【0041】
本発明の製造方法の一例としてエレクトロスピニング法での積層体を製造、さらに防水透湿材とする場合の説明をおこなう。
【0042】
繊維を構成する主成分がポリウレタン系樹脂、架橋性物質がポリイソシアネート系化合物である場合を例示する。
【0043】
溶剤系ポリウレタン系樹脂溶液の樹脂固形分に対し、3〜10wt%のポリイソシアネート系化合物を溶解し、紡糸溶液を準備する。樹脂の種類、架橋性物質の種類、添加量は所望する用途などによって適宜調整すればよい。
【0044】
離型基材(布、紙、フィルムなど)上にエレクトロスピニング法により、平均直径が0.02μm〜2μmの繊維からなる積層体を形成させ、ポリウレタン系樹脂の溶剤を乾燥、蒸発させることで、プレ積層体を得ることができる。
【0045】
このとき、より強固な接合が要求される場合には、乾燥後、樹脂の軟化点付近の温度まで上昇させることで繊維−繊維間の密着性を向上させ、接合強度をより高いものにすることも可能である。
【0046】
次に、離型基材上のプレ積層体を湿気硬化させることにより、プレ積層体を構成する繊維−繊維間に架橋が形成され、層間剥離が非常に高いものとなる。湿気硬化の条件としては、例えば室温で72時間、40℃65%RHの雰囲気中で48時間硬化させることで硬化が完了する。
【0047】
湿気硬化後のプレ積層体を離型基材から剥がすことによって本発明の防水透湿積層体を得ることができる。
【0048】
ここで、離型基材は積層体が簡単に剥離できるものであれば、特に限定されるものではないが、剥離時に積層体の層間剥離が起きないような、離型性が高いものが好ましい。タフタ織物、フィルムおよび紙など、表面が平滑で、しかもその表面が支持上に形成させる樹脂膜に対し、親和性が低いものであり、具体的には、シリコーン樹脂などの離型剤を塗布したタフタ織物、離型紙やフィルム、およびポリプロピレンをラミネートした離型紙などを挙げることができる。
【0049】
つづいて、本発明の防水透湿積層体をラミネートした防水透湿材の製造方法の一例を説明する。
【0050】
離型基材上の本発明の防水透湿積層体上に接着剤を塗布する。
このとき用いられる接着剤の塗布方法は、ナイフコ−タ、バ−コ−タ、グラビアコ−タなどを使用して、全面、線状、格子状または点状に塗布し、次いで、接着剤中に溶剤を含んでいる場合には、必要に応じ、60℃〜130℃程度の温度で溶剤を除去する。
通気度の観点からは、接着剤を点状に付与することが好ましい。
また、必要に応じ、接着剤を布帛に塗布してもよい。
次に、上記布帛と離型紙上に積層された本発明の防水透湿積層体を、接着剤を介して貼り合わせる。
【0051】
貼り合わせ方法としては、本発明の防水透湿積層体と繊維布帛とを接着剤がこれらの間に挟まれるように重ね合わせ圧着させる。この際、接着剤のタイプに応じ、80℃〜150℃程度の温度をかけながら圧着させてもよい。
貼り合せた後、必要に応じ、0〜100時間、30℃〜90℃の温度でエ−ジングを行なった後、離型紙を剥離する。
【0052】
離型紙を剥離し、得られた防水透湿素材は、必要に応じ、フッ素系、シリコン系などの撥水剤を用い公知の撥水加工などをおこなっても良い。
【0053】
また、本発明の防水透湿積層体上にさらに樹脂膜を付与する場合は、離型紙を剥離した後、直径が2μm以下の繊維からなる層上にグラビアコ−タ、ナイフコ−タ、ダイコ−タ、ロ−タリ−捺染機等を用いた公知の方法により、樹脂液を塗布、必要に応じ乾燥し、樹脂層を付与することができる。また、別途離型紙上に形成した樹脂フィルムに接着剤を塗布し、本発明の防水透湿積層体を接着剤を介し貼り合わせ、本発明の防水透湿積層体上に樹脂層を形成するなどの方法で付与することもできる。
布帛素材は、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、アセテ−ト、レ−ヨン、ポリ乳酸などの化学繊維、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維やこれらの混繊、混紡、交織品であってもよく、特に限定されるものではない。また、それらは織物、編物、不織布等どのような形態であってもよい。また、布帛は既知の方法により、染色、捺染をはじめ、制電加工、撥水加工、吸水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工などが施してあってもかまわない。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、本発明に用いた基布、評価方法について以下に示す。
例中の「%」は質量%である。
[基布]
1.ナイロンタフタ
糸使い 78デシテックス−68フィラメント(タテ、ヨコ)
織り密度 116×88本/2.54cm
目付 72g/m2
[評価方法]
1.繊維の平均直径の測定(μm)
電子顕微鏡観察により任意の繊維10本の直径の平均値を平均直径とした。
【0055】
10-3μmオーダーは切り捨てた。
2.積層体の厚み(μm)
電子顕微鏡観察により断面厚み測定をおこなった。
3.目付け(g/m2
100cmの大きさの試料質量を測定し、1平方m当りの質量に換算した。
4.透湿度(g/m・24hrs)
酢酸カリウム法 JIS L1099−1993B法にて測定した。
塩化カルシウム法 JIS L1099−1993A−1法にて測定した。
なお、塩化カルシウム法、酢酸カルシウム法ともに、24時間当りの透湿量に換算した。
5.耐水圧(mmHO)
JIS L1091−1998耐水度試験(静水圧法)耐水圧が2000mmHO以下のものをA法(低水圧法)、2000mmHOを超えるものをB法(高水圧法)に準じた方法で測定した。
水圧をかけることにより試験片が伸びる場合には、試験片の上に高密度ナイロンタフタを重ねて、試験機に取り付けて測定をおこなった。
なお、単位は、A法(低水圧法)と比較しやすいように、B法(高水圧法)においても水柱の高さmmHOで換算し記した。
6.通気度(cm/cm・s)
JIS L1096−1999通気性A法(フラジ−ル形法)にて測定した。
7.層間剥離による膜破れの有無
布テープ(No.600)(積水化学工業株式会社製)を長さ10cm×幅2cmのサイズにカットし、長さ方向5cmを20g/cmの荷重をかけ防水透湿積層体に張り付け、2.5cm/秒の速さで剥がしたときの層間剥離による膜破れの有無を確認した。剥がした後のテープに積層体の一部が付着していない、膜破れがないものを「○」、剥がした後のテープに積層体の一部が付着している、膜破れがあるものを「×」とした。
実施例1
架橋性物質を含むウレタン樹脂液(“サンプレン”HMP−17A 100部(難黄変型ポリエーテル系ウレタン樹脂:三洋化成工業株式会社製)、ジメチルホルムアミド 30部、イソシアヌレート型ポリイソシアネート3部)をNEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット(カトーテック株式会社製エレクトロスピニング装置)により離型紙(ポリプロピレンコ−テイング品)上に紡糸、積層させたのち、130℃で3分間乾燥させた。その後、72時間室温で放置することにより、硬化を完了させ、離型紙を剥離することで積層体を得た。得られた積層体を“アサヒガード”AG710(旭硝子株式会社製)4%で撥水処理後、評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
付与いたしました。
実施例2
湿気硬化型ホットメルトタイプウレタン樹脂 “タイホ−ス”NH300(大日本インキ化学工業株式会社製)をジメチルホルムアミドに溶かした30%溶液を、NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット(カトーテック株式会社製)により離型紙(ポリプロピレンコ−テイング品)上に紡糸、積層させたのち、130℃で3分間乾燥させた。その後、72時間室温で放置することにより、硬化を完了させ、離型紙を剥離することで積層体を得た。得られた積層体を“アサヒガード”AG710(旭硝子株式会社製)4%で撥水処理後、評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例3
アルコール可溶性ナイロン “トレジン”F−30K(ナガセケムテックス株式会社製)をエタノールに溶かした30%溶液を、NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット(カトーテック株式会社製)により離型紙(ポリプロピレンコ−テイング品)上に紡糸、積層させたのち、110℃で3分間乾燥させたのち、150℃で2分間熱処理を行った。その後、離型紙を剥離することで積層体を得た。得られた積層体を“アサヒガード”AG710(旭硝子株式会社製)4%で撥水処理後、評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例4
水系シリコーン樹脂 BY22−826(東レダウコーニング株式会社製)を、NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット(カトーテック株式会社製)により離型紙(ポリプロピレンコ−テイング品)上に紡糸、積層させたのち、110℃で2分間乾燥させた。その後、離型紙を剥離することで積層体を得た。得られた積層体を“アサヒガード”AG710(旭硝子株式会社製)4%で撥水処理後、評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例5
架橋性物質を含む溶剤可溶性フッ素系樹脂(“セフラルソフト”(セントラル硝子株式会社製)をジメチルホルムアミドに溶かした30%溶液 100部、架橋製物質トリアリルイソシアヌレート10部)を、NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット(カトーテック株式会社製)により離型紙(ポリプロピレンコ−テイング品)上に紡糸、積層させたのち、80℃で3分間乾燥させた。その後、電子線照射装置“キュアトロン”(株式会社NHVコーポレーション製)により200kGy照射することでより、硬化を完了させ、離型紙を剥離することで積層体を得た。本積層体を評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例6
ウレタン樹脂液(“サンプレン”HMP−17A 100部(難黄変型ポリエーテル系ウレタン樹脂:三洋化成工業株式会社製)、ジメチルホルムアミド 30部)と湿気硬化型ホットメルトタイプウレタン樹脂 “タイホ−ス”NH300(大日本インキ化学工業株式会社製)をジメチルホルムアミドに溶かした30%溶液)をNEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット(カトーテック株式会社製)により離型紙(ポリプロピレンコ−テイング品)上に2本ノズルで同時に紡糸、積層させたのち、130℃で3分間乾燥させた。その後、72時間室温で放置することにより、硬化を完了させ、離型紙を剥離することで積層体を得た。得られた積層体を“アサヒガード”AG710(旭硝子株式会社製)4%で撥水処理後、評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例7
実施例1の本発明防水透湿積層体の片面にグラビアコ−タを用い湿気硬化型ホットメルトタイプウレタン樹脂 “タイホ−ス”NH300(大日本インキ化学工業株式会社製)を110℃に加熱し、溶融させ、ドット状に付与した。次に、この接着剤を付与した面とナイロンタフタを重ね合わせニップロ−ルを用い圧着した。圧着した後、70℃で72時間エ−ジングした。エージング後、“アサヒガード”AG710(旭硝子株式会社製)4%で撥水処理後、評価した性能を表1に示した。
布帛と組み合わせても防水透湿素材として十分な性能を発現するとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例8
ジメチルホルムアミドで希釈しない以外は実施例1と同様に作製した積層体を評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
実施例9
ジメチルホルムアミド60部で希釈する以外は実施例1と同様に作製した積層体を評価した性能を表1に示した。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるとともに、層間剥離のない、本発明の防水透湿積層体であった。
比較例1
架橋性物質を除く以外は実施例1と同様にし、積層体を得た。この積層体は透湿性、耐水性、通気性に優れるが、層間剥離がおこる防水透湿積層体であった。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径が0.02μm〜2μm の繊維からなる積層体において、該積層体を構成する繊維同士の少なくとも一部が架橋性物質を介して接合されていることを特徴とする防水透湿積層体。
【請求項2】
該積層体の表面に20g/cmの荷重でガムテープを張り付け、剥がしたときに積層体を構成する繊維同士の層間剥離による膜破れがないことを特徴とする請求項1記載の防水透湿積層体。
【請求項3】
該架橋性物質の主成分がポリイソシアネート系化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の防水透湿積層体。
【請求項4】
該繊維を構成するポリマーの主成分がポリウレタン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防水透湿積層体。
【請求項5】
布帛上に、請求項1〜4のいずれかに記載の防水透湿積層体を設けてなる防水透湿材。

【公開番号】特開2010−84252(P2010−84252A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252821(P2008−252821)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】