説明

防水靴

【課題】 優れた防水性が得られる上、製造効率に優れ、また、設備費が嵩まず、多品種少量生産に適した防水靴を提供する。
【解決手段】 防水靴1は、靴本体2の下面に本底3を接合してなる。靴本体は、表地41が複数枚の熱可塑性樹脂製表地材41a,41bを高周波溶着によって継ぎ合わせることにより形成されている甲被4と、下面周縁部に甲被の吊り込まれた下縁部43が接合されている中底5と、上面周縁部が甲被の下縁部に高周波溶着によって接合されている熱可塑性樹脂製下面シート6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防水性を備えた靴に関する。
【背景技術】
【0002】
レインシューズ等の防水靴としては、通常のブーツの接合部に防水糊や防水テープを使用して防水性を高めたもの、モールド内に熱可塑性樹脂等を加圧注入して靴本体または靴全体の成型を行う「インジェクション製法」によるもの、靴型モールド内にPVCペーストを流し込み、モールドの周囲を加熱してPVCペーストをゲル化させた後、ゲル化していない余分なペーストをモールド外に排出し、さらに加熱してモールド内に残されているゲル化した皮膜を完全に固化する「スラッシュ製法」によるもの等が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
しかしながら、接合部に防水糊や防水テープを使用した防水靴の場合、設備費が嵩まず、製品の多様化が容易である反面、防水性が十分とは言えず、加工精度のバラツキ等により防水性が安定しないという問題があった。また、上記の防水靴の場合、吊り込まれた甲被の下縁部(特に爪先部分と踵部分)に多数のシワが生じるため、これらのシワをバフによる研磨や熱プレスにより平らにしてから本底を接合する必要があり、作業効率がよくない上、接合不良に起因する水漏れが生じ易いという問題もあった。
また、インジェクション製法による防水靴の場合、防水性の面では優れているものの、モールドのコストが高くつくため、モデルチェンジが容易でないという問題があった。同様に、スラッシュ製法による防水靴においても、設備費が嵩むという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−127514号公報
【特許文献2】特開2005−262659号公報
【特許文献3】特開平9−207242号公報
【発明の概要】
【0005】
この発明の目的は、優れた防水性が得られる上、製造効率に優れ、また、設備費が嵩まず、多品種少量生産に適した防水靴を提供することにある。
【0006】
この発明による防水靴は、靴本体の下面に本底を接合してなり、靴本体は、表地および裏地を有しかつ表地が複数枚の表地材を継ぎ合わせることにより形成されている甲被と、下面周縁部に甲被の下縁部が接合されている中底と、上面周縁部が甲被の下縁部に高周波溶着によって接合されている熱可塑性樹脂製下面シートとを備えているものである。
【0007】
この発明の防水靴によれば、靴本体の下面が、甲被の下縁部に高周波溶着された下面シートで構成されているので、同シートにより靴内部への下方からの水の侵入が確実に阻止され、優れた防水性が得られる。しかも、この発明の防水靴によれば、甲被の下縁部と下面シートとを高周波溶着によって接合した後、本底を接合するので、吊り込まれた甲被の下縁部にシワが生じたとしても、そのまま下面シートと高周波溶着すれば、熱によりシワが伸びた状態で両者が隙間なく接合されるので、余分な工程が不要となって製造効率の向上を図ることができ、また、当然の事ながら、この点が防水性の向上にも寄与している。さらに、この発明の防水靴にあっては、通常のブーツ等とほぼ同様の製法によって製造することができ、設備費が抑えられるので、多品種少量生産に適している。
【0008】
この発明による防水靴において、複数枚の表地材が熱可塑性樹脂製であって、高周波溶着により継ぎ合わせられているのが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、甲被の表地材どうしの継ぎ目からの水の侵入を確実に阻止することができるので、防水靴としての防水性が更に向上し、また、表地材どうしの継ぎ合わせ作業を簡単迅速に行うことができるので、生産性も向上する。
【0010】
複数枚の表地材を構成する熱可塑性樹脂としては、高周波溶着が可能なものであれば特に限定されないが、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)が用いられる。
【0011】
表地材をTPU製とすれば、従来のポリウレタン樹脂製の合成皮革等と比べて強度に優れているため、傷による水の侵入が確実に防水され、また、ゴム弾性に富むため、成形や接合に伴ってシワ等が生じ難い。
また、表地材をTPU製とする場合において、より好ましくは、TPUの表面にポリウレタン樹脂を積層したものが用いられる。TPUは表面加工性の面ではやや劣るが、その表面にポリウレタン樹脂(PU)を積層すれば、表面に所要の加工を施すことが容易となり、防水靴のデザイン性を向上させることが可能となる。
【0012】
この発明による防水靴であって、複数枚の熱可塑性樹脂製表地材が高周波溶着により継ぎ合わせられているものにおいて、複数枚の表地材の隣り合う縁部に継ぎ代が設けられ、これらの継ぎ代が表面どうしを重ね合わせた状態で高周波溶着されかつ裏面側に折り込まれており、さらに、継ぎ代を含む表地材どうしの継ぎ目部分が、表地材の厚さ方向に加圧されながら高周波溶着されている場合がある。
【0013】
上記構成によれば、2次的な高周波溶着によって、表地材どうしの継ぎ目がなくなるか又は目立たなくなるので、インジェクション製法やスラッシュ製法による一体成形の防水靴とほぼ同様の優れた外観が得られる。また、厚さ方向の加圧下での高周波溶着により、継ぎ代を含む表地材どうしの継ぎ目部分が平坦化されるので、同部分が足に当たって履き心地を損なうおそれがない上、甲被の強度および防水性の向上にもつながる。
なお、上記の場合、高周波溶着に先立って、継ぎ代を表地の裏面に折り重なった状態に保持するように、表地の裏面にテープを貼っておくようにしてもよい。これにより、高周波溶着の仕上がりが良好となり、また、高周波溶着後に継ぎ代が立ち上がって履き心地を損なうおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施形態を示すものであって、防水靴の全体斜視図である。
【図2】防水靴の縦断面図である。
【図3】防水靴の爪先部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う防水靴の甲被の部分拡大横断面図である。
【図5】2枚の表地材の継ぎ代どうしを高周波溶着する工程を示す斜視図である。
【図6】高周波溶着された継ぎ代を裏面側に折り返した状態を示す部分拡大平面図である。
【図7】表地の裏面にテープを貼る工程を示す部分拡大平面図である。
【図8】表地材どうしの継ぎ目部分を高周波溶着する工程を示す部分拡大平面図である。
【図9】表地と裏地とを接合する工程を示す部分拡大平面図である。
【図10】甲被をラストに吊り込んで中底と接合する工程を示す縦断面図である。
【図11】(a)は甲被の下縁部に下面シールを高周波溶着する工程を示す縦断面図であり、(b)は下面シールの平面図である。
【図12】靴本体に本底を接合する工程を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜12を参照して、この発明の実施形態を以下に説明する。なお、これらの図に示した防水靴は右足用のものである。
【0016】
図1および図2に示すように、この実施形態の防水靴(1)は、靴本体(2)と、靴本体(2)の下面に接合された本底(3)とよりなる。
図2および図3に示すように、靴本体(2)は、甲被(4)と、下面周縁部に甲被(4)の下縁部(43)が接合されている中底(5)と、上面周縁部が甲被(4)の下縁部(43)に高周波溶着によって接合されている熱可塑性樹脂製下面シート(6)とを備えている。甲被(4)は、互いに接合された表地(41)および裏地(42)を有している。表地(41)は、複数枚の熱可塑性樹脂製表地材(41a)(41b)を高周波溶着によって継ぎ合わせることにより形成されている。
【0017】
この実施形態では、表地(41)は、左右2枚の表地材(41a)(41b)で構成されている。但し、3枚以上の表地材を継ぎ合わせて表地を構成することも可能である。
表地材(41a)(41b)の材料は、高周波溶着が可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等が使用される。また、熱可塑性樹脂と他の材料とを積層したものを用いてもよく、この場合、少なくとも表面が熱可塑性樹脂により構成されている必要がある。表地材(41a)(41b)の好適な材料としては、基布にTPU層を積層し、さらにTPU層の表面にPU層を積層したものが挙げられる。この場合、TPU層の厚みが約150μm、PU層の厚みが約20〜30μmとなされる。上記の材料を使用すれば、TPUの有する強度やゴム弾性に加えて、PUの有する表面加工性が得られるため、例えば表面にシボ等の凹凸加工を施すことができ、それによって防水靴のデザイン性が高められる。
【0018】
図4に示すように、2枚の表地材(41a)(41b)は、これらの前後各縁部に設けられた継ぎ代(411)を表面どうし重ね合わせた状態で高周波溶着しかつ裏面側に折り込むことにより、継ぎ合わせられている。継ぎ代(411)の幅は特に限定されないが、通常2〜3mm程度となされる。
表地(4)における表地材(41a)(41b)どうしの継ぎ目部分(44)の裏面には、継ぎ代(411)を表地(4)の裏面に折り重なった状態に保持するようにテープ(7)が貼られている。テープ(7)の基材の材料は特に限定されないが、例えば布等が用いられる。
継ぎ代(411)を含む表地材(41a)(41b)どうしの継ぎ目部分(44)は、表地材(41a)(41b)の厚さ方向に加圧されながら高周波溶着されている。これにより、表地材(41a)(41b)どうしの継ぎ目がなくなるか又は目立たなくなり、従って、甲被(4)は、インジェクション製法やスラッシュ製法による防水靴とほぼ同様の外観を呈するものとなっている(図1参照)。
【0019】
裏地(42)は、通常、接着剤により表地(41)の裏面に接合される(図3、4参照)。但し、裏地(42)の履き口部分については、例えば合成皮革等よりなる帯状の補強材(図示略)とともに、表地(41)に縫着されている。
なお、図示は省略したが、裏地(42)についても、複数の裏地材を縫合等により継ぎ合わせて構成することが可能である。この場合、裏地(42)の継ぎ目を表地(41)の継ぎ目と一致させるようにするのが好ましい。
裏地(42)の材料は特に限定されないが、例えばポリウレタンフォーム等よりなるクッション材にメリヤス生地等の伸縮性裏打ち材を裏打ちしてなるものが用いられる。
【0020】
甲被(4)の履き口の後端には、縦長帯状の摘み部材(45)が逆U形に折り曲げられた状態で縫着されている。この摘み部材(45)は、例えば合成皮革、ビニールレザー等の非伸縮性材料によって形成される。
また、図示は省略したが、甲被(4)の履き口の一部を、上記の表地(41)および裏地(42)に代えて、ゴム糸入り布、ゴム糸入り織布等の伸縮性部材によって構成するようにしてもよい。
【0021】
中底(5)は、例えばパルプボード、レザーボード等から形成されるが、甲被(4)の下縁部(43)と下面シート(6)とを高周波溶着する点を考慮して、パルプボード等の紙を主材とするものを用いるのが好ましい。
中底(5)は、その下面の周縁部が、ラスト(L)に吊り込まれた甲被(4)の下縁部に、接着剤等により接合されている(図10参照)。なお、ラスト(L)についても、甲被(4)の下縁部(43)と下面シート(6)とを高周波溶着する点に鑑み、アルミニウム製のものを用いるのが好ましい。
【0022】
下面シート(6)は、中底(5)とほぼ同様の輪郭形状を有するものであって、その上面周縁部が全周にわたって甲被(4)の下縁部(43)に高周波溶着されている。通常の靴のように甲被の下縁部および中底の下面に本底を接着剤によって接合する場合、寸法精度のバラツキや接合不良等に起因して、両者の間に隙間が生じ、防水性が損なわれるおそれがある。一方、この実施形態のように下面シート(6)を高周波溶着によって甲被(4)の下縁部(43)に接合すれば、同シート(6)と甲被(4)の下縁部(43)との間に隙間が生じることがないため、本底(3)との接合の具合にかかわらず、靴(1)内部への下方からの水の侵入が確実に防止され、きわめて高い防水性が得られる。
下面シート(6)の材料は、表地材(41a)(41b)の材料と同様に、高周波溶着が可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等が使用される。また、熱可塑性樹脂と他の材料とを積層したものを用いてもよく、この場合、少なくとも上面が熱可塑性樹脂で構成されることを要する。
【0023】
本底(3)は、接着剤により靴本体の下面に接合されている。
本底(3)の材料は、特に限定されないが、例えばエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等の合成樹脂が用いられ、主としてインジェクション製法により一体成形される。
この防水靴(1)の場合、靴本体(2)への本底(3)の接合に際してさほど高い防水性が要求されないため、本底(3)の形状や材料に関する制約が少なく、本底(3)のバリエーションを容易に増やすことが可能である。
【0024】
上記の防水靴(1)の製造方法の一例を、図5〜図12を参照して以下に説明する。
まず、熱可塑性樹脂シートを所定形状に裁断して2枚の表地材(41a)(41b)を作る。各表地材(41a)(41b)の前後縁部には、継ぎ代(411)を設けておく。そして、図5に示すように、2枚の表地材(41a)(41b)をこれらの前後各縁部の継ぎ代(411)の表面どうしが重なるように合わせて、ウェルダー(図示略)により継ぎ代(411)を高周波溶着する。溶着された継ぎ代(411)は、裏面側に折り返される(図6参照)。
【0025】
次に、図7に示すように、表地(4)における表地材(41a)(41b)どうしの継ぎ目部分(44)の裏側にテープ(7)を貼り付けて、継ぎ代(411)が表地(4)の裏面に折り重なるようにする。
【0026】
この状態で、継ぎ代(411)を含む表地材(41a)(41b)どうしの継ぎ目部分(44)を、表地材(41a)(41b)の厚さ方向に加圧しながら、ウェルダーによって高周波溶着する(図8参照)。これにより、継ぎ目部分(44)がシームレス化されるとともに平坦化される。
【0027】
その後、図9に示すように、表地(41)の裏面に接着剤等によって裏地(42)を接合する。また、図示は省略したが、履き口の後端に摘み部材(45)を縫着する。こうして、甲被(4)が出来上がる。
【0028】
次いで、図10に示すように、甲被(4)をラスト(L)に吊り込み、吊り込まれた甲被(4)の下縁部(43)を中底(5)の上面周縁部に接着剤によって接合する。なお、図10に示す工程では、接合作業の都合上、中底(5)が上となるように配置されるので、図10では上記説明と上下逆になっている(図11、12も同様)。
【0029】
さらに、図11(a)に示すように、ウェルダー(図示略)を用いて、甲被(4)の下縁部(44)に下面シート(6)の上面周縁部を高周波溶着によって接合する。なお、この際、図11(b)に示すように、下面シート(6)の上面に予め両面粘着テープ(8)を貼り付けておき、同シート(6)が中底(5)の下面に仮止めされるようにしておくのが好ましい。このようにすれば、高周波溶着中に下面シート(6)が不意に動いて接合に不具合が生じるのを防止することができる。
以上の工程を経て、靴本体(2)が組み立てられる。
【0030】
最後に、図12に示すように、靴本体(2)の下面に本底(3)を接着剤により接合する。こうして、図1〜4に示す防水靴(1)が得られる。
【0031】
以上のように、この実施形態の防水靴(1)の場合、靴本体(2)の外周を構成する表地材(41a)(41b)および下面シート(6)が高周波溶着によって接合されているので、きわめて高い防水性が得られる。また、この実施形態の防水靴によれば、甲被(4)の下縁部(44)に下面シート(6)を接合する際、高周波溶着によって甲被(4)の下縁部(44)のシワが伸びるため、従来技術のように下縁部(44)の表面を予め平坦化しておく必要がなく、製造効率に優れている。しかも、この実施形態の防水靴(1)は、通常のブーツとほぼ同様の製法によって製造することができるので、設備費が嵩まず、多品種少量生産に適している。
【符号の説明】
【0032】
(1):防水靴
(2):靴本体
(3):本底
(4):甲被
(41):表地
(41a)(41b):表地材
(411):継ぎ代
(42):裏地
(43):甲被の下縁部
(44):甲被の継ぎ目部分
(5):中底
(6):下面シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴本体(2)の下面に本底(3)を接合してなり、靴本体(2)は、表地(41)および裏地(42)を有しかつ表地(41)が複数枚の表地材(41a)(41b)を継ぎ合わせることにより形成されている甲被(4)と、下面周縁部に甲被(4)の下縁部(43)が接合されている中底(5)と、上面周縁部が甲被(4)の下縁部(43)に高周波溶着によって接合されている熱可塑性樹脂製下面シート(6)とを備えていることを特徴とする、防水靴。
【請求項2】
複数枚の表地材(41a)(41b)が熱可塑性樹脂製であって、高周波溶着により継ぎ合わせられていることを特徴とする、請求項1記載の防水靴。
【請求項3】
複数枚の表地材(41a)(41b)が熱可塑性ポリウレタン樹脂製であることを特徴とする、請求項2記載の防水靴。
【請求項4】
複数枚の表地材(41a)(41b)の隣り合う縁部に継ぎ代(411)が設けられ、これらの継ぎ代(411)が表面どうしを重ね合わせた状態で高周波溶着されかつ裏面側に折り込まれており、さらに、継ぎ代(411)を含む表地材(41a)(41b)どうしの継ぎ目部分(44)が、表地材(41a)(41b)の厚さ方向に加圧されながら高周波溶着されていることを特徴とする、請求項2または3記載の防水靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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