説明

防汚処理剤

【課題】各種基材に塗布して防汚層を形成したときに水系および油系の汚れが付着しにくく、かつ基材表面に付着した各種汚れを、たとえ発泡基材であってもその表面を傷つけることなく、容易に除去できる防汚処理剤を提供すること。
【解決手段】アクリル樹脂エマルジョンとゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョンとからなる皮膜形成成分と平均粒子径1〜10μmの真球状シリコーンゴムビーズとを分散媒体中に分散含有してなることを特徴とする防汚処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内若しくは屋外において汚染環境に曝される基材の表面に塗布することにより、基材表面に付着した汚れを容易に除去することができる水性の防汚処理剤に関し、さらに詳しくは各種基材の表面に塗布することによって、これらの基材に付着した水性および油性の汚れの除去を容易にし、かつ弾性や滑り性を付与することで、基材に耐スクラッチ性を持たせることができる水性防汚処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種基材において口紅、クレヨンなどの顔料系の油性の汚れやカレー、醤油などの染料系の汚れは、力を入れて拭き取っても落ちにくい汚れであり、結果的には、各種基材の表面状態を汚す結果となっていた。また、発泡させた状態の各種基材はその表面強度が低下しており、施工時にヘラによる破損が生じる場合があった。
【0003】
上記の問題を解決するために、各種基材表面に防汚処理剤により防汚層を形成することが提案されているが、従来の防汚処理剤による処理では水性および油性の両方の汚れの除去性能と耐スクラッチ性を両立させることは困難であった。例えば、一般的な常温液体のシリコーンオイルやパラフィン系ワックスの使用は基材表面に滑り性を付与できるものの、油性汚れの防止性は低く、常温固形のパラフィン系ワックスからなる防汚処理剤は、発泡性各種基材に適用する場合、発泡温度が融点を超えることが多く、基材表面に良好な滑り性を付与することが困難である。また、発泡時の温度に耐え得る一般的なアクリル系樹脂ビーズを含む防汚処理剤を使用すれば、汚染の除去性は良好であるが、基材表面に充分な滑り性を付与することが難しく、汚染除去に際して基材表面に傷がつきやすく耐スクラッチ性が不十分であった(以上特許文献1〜3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−25180号公報
【特許文献2】特公平8−6069号公報
【特許文献3】特開平5−9409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、各種基材に塗布して防汚層を形成したときに水性および油性の汚れが付着しにくく、かつ基材表面に付着した各種汚れを、たとえ発泡基材であってもその表面を傷つけることなく、容易に除去できる防汚処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、アクリル樹脂エマルジョンとゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョンとからなる皮膜形成成分と平均粒子径1〜10μmの真球状シリコーンゴムビーズとを分散媒体中に分散含有してなることを特徴とする防汚処理剤を提供する。
【0007】
上記本発明においては、アクリル樹脂エマルジョン(A)とゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョン(B)との固形分比率が、質量比でA:B=95:5〜75:25であること;真球状シリコーンゴムビーズの含有量が、全固形分の5〜50質量%であること;分散媒体が、水を主成分とし、水が分散媒体の80質量%以上を占めることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の防汚処理剤を基材表面に塗布して防汚層を形成することを特徴とする基材の防汚処理方法を提供する。この方法において防汚処理剤の塗布量は、固形分として1〜50μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明によれば、各種基材(但し壁紙を除く)に塗布して防汚層を形成したときに水性および油性の汚れが付着しにくく、かつ基材表面に付着した各種汚れを、たとえ発泡基材であってもその表面を傷つけることなく、容易に除去できる防汚処理剤を提供することができる。
【0010】
すなわち、真球状シリコーンゴムビーズを滑り剤として使用することで、汚染除去性を保ちつつ、耐スクラッチ性を付与することができ、また、油性汚れ除去性の低下を抑え、耐スクラッチ性も大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
本発明で使用するアクリル樹脂エマルジョンとは、(メタ)アクリル酸エステルを主モノマーとして水中で乳化重合または懸濁重合して得られるものであって、使用するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヒドロキシエチルなどのエステルであり、これらのモノマーに加えて、少量の(メタ)アクリル酸、塩化ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸のグリシジルエーテル、ジビニルベンゼンなどの他の共重合可能なモノマーや多官能モノマーを共重合させてもよい。このようなアクリル樹脂エマルジョンは市場から入手して本発明で使用することができる。特に好ましいアクリル樹脂は、固形分が20〜50質量%でガラス転移温度が30〜60℃のものである。
【0012】
本発明で使用するゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョンとは、水を蒸発させることでシリコーンゴム皮膜を形成するエマルジョンであって、例えば、信越化学(株)から、X−51−1309、X−51−1300、X−51−1319、PolonMF40などの商品名で入手して使用できる。これらのエマルジョンは、固形分が20〜50質量%で使用できる。また、本発明で使用するゴム皮膜形成性シリコーンは、乾燥後の伸びが200〜1000%、硬度が10〜100、引っ張り強さが0.5MPa以上であることが好ましい。このようなゴム皮膜形成性シリコーンの使用は、弾性による塗工面に対する力の緩和、シリコーンゴム由来の離型性による滑り性の付与の効果を与え、塗布物の耐スクラッチ性向上の要因となると考えられる。
【0013】
本発明で使用する平均粒子径1〜10μmの真球状シリコーンゴムビーズとは、シリコーンゴム微粒子が水中に分散したものである。このような水中分散真球状シリコーンゴムビーズは、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)から製品名DY33−430、DY33−440F、33Additiveなどとして入手して本発明で使用することができる。
【0014】
本発明の防汚処理剤は、上記の成分を混合することで得られる。上記成分の配合割合については、アクリル樹脂エマルジョン(A)とゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョン(B)とは、それらの固形分比率が、質量比でA:B=95:5〜75:25であることが好ましい。上記A成分の割合が上記範囲よりも少ないと充分な油性汚れの除去性能が得られず、一方、上記A成分の割合が上記範囲よりも多いと充分な耐スクラッチ性が得られない。
【0015】
また、前記真球状シリコーンゴムビーズの含有量は、全固形分の5〜50質量%であることが好ましく、上記真球状シリコーンゴムビーズの割合が上記範囲よりも少ないと充分な滑り性、耐スクラッチ性が得られず、一方、上記真球状シリコーンゴムビーズの割合が上記範囲よりも多いと充分な油性汚れの除去性能が得られず、また、皮膜強度の低下により、充分な耐スクラッチ性も得られない。
【0016】
本発明の防汚処理剤の分散媒体は、水を主成分とし、その他アルコールなどの水溶性の有機溶剤を含有してもよいが、水が分散媒体の80質量%以上を占めることが好ましい。また、本発明の防汚処理剤の全固形分は約5〜30質量%であることが使用上便利である。
【0017】
本発明における防汚処理剤には、通常、配合することが可能な各種添加剤、例えば、防腐剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、分散剤、沈降防止剤、増粘剤など、本発明の効果に影響しない程度に配合することが可能である。
【0018】
本発明の防汚処理方法は、前記本発明の防汚処理剤を基材表面に塗布して防汚層を形成する。この際の防汚処理剤の塗布量は、固形分として1〜50μmであることが好ましい。また、上記防汚処理剤の塗布方法は特に限定されるものではなく、スプレー塗布、ローラー塗布などの何れの方法によって塗布してもよい。このようにして形成された防汚層面は主成分であるアクリル樹脂の汚染除去性を維持し、かつ滑り性を有している。
【0019】
本発明の防汚処理が適用される基材としては、例えば、紙、不織布、木工ボード、ポリエチレンやポリエステルなどの樹脂成形品などが挙げられる。また、前記有機質基材の他、ガラス基材、コンクリートなどの無機質硬化体や金属基材などの無機質基材が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の文中の「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0021】
実施例1および比較例1
(1)防汚処理剤の調製
アクリル・スチレン共重合体のエマルジョン(商品名:ニカゾールRX−1033、日本カーバイド工業(株)製)20部(固形分)、真球状シリコーンゴムビーズ(商品名:33Additive、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、平均粒径3μm)を4部(固形分)、ゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョン(商品名:X−51−1300、信越化学(株)製)を3部(固形分)、水70部、その他各種添加剤3部とを配合して本発明の防汚処理剤を得た。
【0022】
(2)比較例の防汚処理剤の調製
アクリル・スチレン共重合体のエマルジョン(実施例1と同じ)27部(固形分)、水、その他各種添加剤を73部とを配合して比較例の防汚処理剤を調製した。
【0023】
(3)フィルムへの塗布
ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布量(wet)25μm(固形分として7μm)で前記本発明および比較例のそれぞれの防汚処理剤を塗布後、130℃で10分乾燥させて実施例および比較例の試験用塗布フィルムを得た。
【0024】
<滑り性の評価>
摩擦測定装置により、実施例および比較例のそれぞれの塗布フィルムの塗布面同士の静止摩擦係数ならびに動摩擦係数を測定した。

【0025】
実施例2および比較例2
不織布に実施例1および比較例1で使用したそれぞれの防汚処理剤をバーコーターNo.9で固形分基準で6μmの厚さに塗布し、130℃で2分乾燥させて防汚層を形成した。
比較例3
防汚処理物を塗布しない実施例2と同一の基材。
【0026】
次に実施例2、比較例2、3で得られた防汚処理物に表2に示す汚染物質を付着させ、防汚性を評価した。なお、拭き取りは付着後1日経過してから行った。

【0027】
試験方法:水および家庭用液体洗剤で拭き取り。
<対汚染判定方法>
5:汚れが残らない
4:ほとんど汚れが残らない
3:やや汚れが残る
2:かなり汚れが残る
1:汚れが濃く残る
【0028】
<表面強度(耐スクラッチ性)>
5:変化無し
4:表面に少し変化あり
3:表面が破れて不織布表面もしくは表層部分が見える
2:表面が破れて紙などの裏素材が見える(長さ1cm未満)
1:表面が破れて紙などの裏素材が見える(長さ1cm以上)
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上の本発明によれば、各種の基材に塗布して防汚層を形成することにより、汚染除去性能と耐スクラッチ性を併せ持つ防汚処理剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂エマルジョンとゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョンとからなる皮膜形成成分と平均粒子径1〜10μmの真球状シリコーンゴムビーズとを分散媒体中に分散含有してなることを特徴とする防汚処理剤。
【請求項2】
アクリル樹脂エマルジョン(A)とゴム皮膜形成性シリコーンエマルジョン(B)との固形分比率が、質量比でA:B=95:5〜75:25である請求項1に記載の防汚処理剤。
【請求項3】
真球状シリコーンゴムビーズの含有量が、全固形分の5〜50質量%である請求項1に記載の防汚処理剤。
【請求項4】
分散媒体が、水を主成分とし、水が分散媒体の80質量%以上を占める請求項1に記載の防汚処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚処理剤を基材表面に塗布して防汚層を形成することを特徴とする基材の防汚処理方法。
【請求項6】
防汚処理剤の塗布量が、固形分として1〜50μmである請求項5に記載の防汚処理方法。

【公開番号】特開2006−274122(P2006−274122A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97463(P2005−97463)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】