説明

防汚性塗料用樹脂組成物

【課題】環境への負荷を抑制し、船舶や水中構造物等への汚損生物の付着や大気への臭気の発生を抑制することができる優れた防汚性を有する塗料用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】生分解性化合物と熱可塑性樹脂とを含む。また、生分解性化合物とアナターゼ型酸化チタンと熱可塑性樹脂とを含む。生分解性化合物が、セルロースエステル系化合物、および、一般式(1)で表される単位を含む化合物から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましい。
【化1】


(式中、R1 はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2 はHまたはメチル基を表し、nは0〜4の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境調和型の防汚性塗料用樹脂組成物し、より詳しくは、船舶や、水中導入管、橋脚、網その他の水中構造物、漁網等の各種道具に付着する、微生物や動植物等の水棲付着生物による汚損や、地上の各種建造物に対する大気浮遊物による汚染に対し、これを抑制する塗膜の成形に好適な防汚性塗料用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船底部、海底通信ケーブル、輸送パイプライン、観測ブイ、浮標、オイルフェンス、シルトプロテクター、橋脚、火力または原子力発電における冷却水路、工業用冷却水路、波力発電ブイ、海洋開発や海洋土木工事に関連する各種機器、養殖用漁網、漁具等の長期にわたって水中に浸漬される器物、設備および構造物には、フジツボ、ムラサキイガイ、ヒドロ虫、セルプラ、コケムシ、ホヤ、海綿等の付着動物や、アオサ、アオノリ、シオミドロ、ヒビミドロ、シオグサ、ミル等の藻類および藍藻類、珪藻類、細菌等のスライムを形成する付着微生物(以下これらを総称して「汚損生物」ともいう)が付着し、このため、上記機器、器物、設備、構造物等は種々の損失を被る。
【0003】
例えば、船舶に汚損生物が付着した場合、船体と海水の摩擦抵抗が増大し、船速の低下、燃費消費量の増加を招く。また、船底の汚損による運行休止や清掃費用等の経済的損失等、汚損生物は保守および運行上、多大の経済的損失をもたらす。また、橋脚等の海洋に構築されている構造物では、耐久性を高めるために塗布されている防食被覆膜が汚損生物によって劣化あるいは腐食し、その結果、構造物の耐用期間が短くなる。また、ブイ、その他の構造物では、浮力の低下、水没を起こす。また、発電所の復水器および各種工場の熱交換器等の冷却用水路においては、取水時の抵抗が増したり、熱交換効率の低下が起こったり、また、水路から脱落した生物塊による復水器、熱交換器の性能低下等、種々の損害損失が発生する。さらに、魚貝類の養殖漁網に汚損生物が付着した場合、網自体の耐久性が損なわれたり、汚損生物が網目を覆い尽くすことから、海水の流出入を阻害して酸素不足を招き、その結果、養殖魚貝類に対する呼吸困難による死滅や、細菌等の増殖の助長によりノルカディア病、ベルデニア病等魚病の発生による被害を被ることに至る。
【0004】
また、地上の各種建造物に対しても、大気中の浮遊物の付着による汚染や、汚染が高じて腐食を受ける。
【0005】
このように、水中構造物等への汚損生物の付着や、地上建造物等への汚染物の付着は産業上極めて大きな損害をもたらす。従来、汚染抑制可能な塗膜を形成するため、防汚剤と加水分解型樹脂とを配合した高い防汚性を有する防汚塗料が使用されている。防汚剤としては、亜酸化銅やロダン銅等の重金属化合物、テトラメチルチウラムジスルフィドやジメチルジチオカルバミン酸亜鉛等のカルバミン酸化合物等が用いられ、加水分解型樹脂としてはTBTOペンダントアクリル樹脂、シリルエステル系アクリル樹脂等が用いられている。かかる防汚塗料による塗膜は加水分解型樹脂の加水分解性によって塗膜表面が徐々に分解して(削れて)、常に、活性な防汚剤が塗膜表面に現れ、その結果、長期間安定した防汚性を発揮し続ける。
【0006】
また、環境への負荷を考慮し、天然素材または生分解性合成素材を利用し自然環境下で分解可能としたスルホン酸金属塩共重合乳酸系樹脂を用いた塗料が報告されている(特許文献1、2)。
【0007】
しかし、これらの防汚剤や加水分解型樹脂においては、海洋環境への汚染が懸念され、また、臭気が発生するという問題がある。海洋環境への負荷を抑制し、臭気の放出がなく、優れた防汚性を有する塗料用組成物の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2001−323052
【特許文献2】特開2000−136346
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、環境への負荷を抑制し、船舶や水中構造物等への汚損生物の付着や大気への臭気の放出を抑制することができる優れた防汚性を有する塗料用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討を進めた結果、生分解性化合物と熱可塑性樹脂とを含むことにより、環境への負荷を抑制した防染性塗料用樹脂組成物が得られることの知見を得た。特に、生分解性化合物が酢酸セルロース誘導体、あるいは特定のポリエステル系樹脂を含むとき、更にこれらと熱可塑性樹脂としてアクリル系樹脂とを用いた場合、環境への負荷を抑制し優れた防染性を有することの知見を得た。
【0010】
更に、生分解性樹脂と熱可塑性樹脂およびアナターゼ型酸化チタンを含有することにより、環境への負荷を抑制し、より優れた防汚性を有する防染性塗料用樹脂組成物が得られることを見い出した。これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、生分解性化合物と熱可塑性樹脂とを含む防汚性塗料用樹脂組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、生分解性化合物とアナターゼ型酸化チタンと熱可塑性樹脂とを含む防汚性塗料用樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防染性塗料用組成物は、環境への負荷を抑制し、船舶や水中構造物等への汚損生物の付着や大気への臭気の発生を抑制することができる優れた防汚性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物は、生分解性化合物と熱可塑性樹脂とを含むものである。また、本発明の防汚性塗料用樹脂組成物は、生分解性化合物とアナターゼ型酸化チタンと熱可塑性樹脂とを含むものである。
【0015】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物に用いる生分解性化合物は、加水分解や微生物分解等により、環境への負荷が少ない物質に分解されるものであり、塗膜表面において分解され、塗膜の表面から付着する汚損生物や汚染物質を除去する作用を有する。かかる生分解性化合物としては、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、脂肪族ポリアミド、セルロースやキチン、キトサン等の多糖類、ポリペプチド、澱粉、カラギーナン等を用いることができるが、エステル系化合物を好ましいものとして挙げることができる。これらの生分解性化合物は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
かかるエステル系化合物としては、酢酸セルロースやその誘導体などのセルロースエステル系化合物、ポリ(2−ヒドロキシイソ酪酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、あるいはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールとコハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなる脂肪族ポリエステルやその誘導体、さらにはポリ(ブチレンサクシネート・テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)などの脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルの共重合体や、天然直鎖状ポリエステル系樹脂などを挙げることができる。これらは特に、雨水や河川、海水など水中に溶出した際には水中で加水分解や微生物分解等により水や二酸化炭素にまで分解され、塗膜からの溶出による環境汚染を抑制することができる。
【0017】
更に、エステル系化合物として、生分解性、加水分解性および塗膜物性の点から好ましいものとして、一般式(1)で表される単位を含む化合物(以下、ポリエステル(1)化合物という。)を挙げることができる。
【0018】
【化1】

【0019】
一般式(1)中、R1 はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2 はHまたはメチル基を表し、nは0〜4の整数を表す。ポリエステル(1)化合物としては、一般式(1)で表される単位を90モル%以上、好ましくは95モル%以上を含むものが好ましい。特に、一般式(1)で表される単位として、乳酸単位を80モル%以上、好ましくは90モル%以上含むことが、塗膜物性上、コスト上好ましい。この場合、L−乳酸単位とD−乳酸単位のモル比(L/D)は1〜9、特に1〜5であることが好ましい。L/Dが9以下であれば、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどの汎用溶剤に対し充分な溶解性を得ることができ、塗料化が容易となる。一方、L/Dが1以上であれば、L−乳酸単位過剰となりコスト的に有利である。
【0020】
また、上記ポリエステル(1)化合物は、金属が導入されていることが好ましい。上記ポリエステル(1)化合物に導入可能な金属としては2価の金属が好ましく、この中でもマグネシウムとカルシウムが環境調和という点で優れている。1価または3価の金属を加水分解速度や還元粘度を制御する等の目的で、導入することも可能であるが、1価の金属は高分子量化が困難となり、3価の金属を多量に導入した場合はゲル化する場合がある。
【0021】
上記ポリエステル(1)化合物中の金属濃度としては、10〜300eq/106g、好ましくは30〜200eq/106gの範囲である。金属濃度が10eq/106g以上であれば、加水分解が適度な速度で進行し防汚効果を得ることができる。一方、300eq/106g以下であれば、加水分解の進行速度を制御して防汚効果を持続して得ることができると共に、溶媒に対する溶解性が低下することがなく塗料製造効率の低下を抑制することができる。
【0022】
上記ポリエステル(1)化合物の分子量は、後述する熱可塑性樹脂との関係において、塗膜成分がその使用目的に応じたガラス転移温度(Tg)や還元粘度を有するように、適宜調整することが好ましい。上記ポリエステル(1)化合物の分子量として、例えば、数平均分子量として、30,000〜60,000を挙げることができる。
【0023】
塗膜成分のガラス転移温度(Tg)としては、船底や海中構造物の防汚性塗料に使用する場合には、30℃以上であることが好ましく、より好ましくは35℃以上である。Tgが30℃以上であれば、塗膜表面に粘着性が生じてしまい、実用上問題が生じる。また、漁網用防汚性塗料の場合には、Tgは−10℃以上30℃以下であることが好ましく、より好ましくは−10℃以上25℃以下である。Tgが25℃以下であれば、漁網が剛直になるのを抑制し、作業性を阻害するのを抑制し、また、塗膜の剥離を抑制することができる。また、Tgが−10℃以上であれば、漁網が粘着性を帯びるのを抑制することができる。
【0024】
ここで、Tgは、DSC測定により測定した値を採用することができる。
【0025】
上記生分解性化合物は、その酸価が20〜1000eq/106gであることが好ましく、より好ましくは30〜500eq/106gである。酸価が20eq/106g以上であれば、加水分解が適度な速度で進行し防汚効果を得ることができる。酸価が1000eq/106g以下であれば、加水分解の進行速度を制御して防汚効果を持続して得ることができると共に、溶媒に対する溶解性が低下することがなく塗料成形効率の低下を抑制することができる。
【0026】
ここで、酸価は、クロロホルム15mlおよびメタノール5mlの混合溶媒に、樹脂0.8gを溶解し、これをナトリウムメトキシドのメタノール溶液で滴定する方法により得られた値を採用することができる。
【0027】
上記生分解性化合物は、還元粘度(ηSP/C)が0.2〜1.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8dl/gである。還元粘度が0.2dl/g以上であれば良好な塗膜物性を得ることができる。一方、還元粘度が1.0dl/g以下であれば、加水分解が適度な速度で進行し防汚効果を得ることができる。
【0028】
ここで、還元粘度は、クロロホルムに125mg/25mlの濃度に溶解し、温度25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した値を採用することができる。
【0029】
上記生分解性化合物の製造方法としては、脂肪族ポリエステルの場合、脂肪族のジカルボン酸、多価アルコール、オキシ酸、酸無水物モノマーから公知の触媒を使用し、加熱、減圧し直接脱水重縮合させる方法や、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン等の環状モノマーを公知の開環重合触媒を使用し、窒素雰囲気下、加熱することにより開環重合させる方法や、高分子量の脂肪族ポリエステルを、ジオール、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸などを解重合の開始剤を用いて分解する方法等を挙げることができる。
【0030】
また、酸無水物、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アルコールあるいはジオール等を、重合開始剤や末端変性剤や末端停止剤として、重合前や重合中あるいは重合終了時に添加し、酸価を調整することができる。
【0031】
上記ポリエステル(1)化合物に金属を導入する方法としては、ポリエステル(1)化合物が脂肪族ポリエステルの場合、重合開始剤あるいは重合成分として、ヒドロキシカルボン酸の金属塩、ジカルボン酸の金属塩、またはジオールの金属塩を使用する方法や、低分子量の脂肪族ポリエステルを金属で鎖延長する方法等を挙げることができる。
【0032】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂は、塗膜としての機械的強度などを得るために用いられる。熱可塑性樹脂としては、狭義の熱可塑性樹脂に加え、熱可塑性エラストマーも使用することができる。具体的には、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、ABS、ASA、AES等のスチレン系樹脂(St系樹脂)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂(Ac系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂)、ポリアミド系樹脂(PA系樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(PEs系樹脂)、(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)等のエンジニアリングプラスチックス、PC/ABS等のPC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABS等のPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/PP等のPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PC/PBT等のPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、PP/PE等のポリオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂アロイ等のポリマーアロイ、ポリエチレン、(超)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン等のポリ−α−オレフィン類、エチレンプロピレンゴム、エチレンブテン共重合体、エチレンブテンターポリマー等のα−オレフィン同士の共重合体類、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体等のα−オレフィンと各種モノマーとの共重合体類等のポリオレフィン系樹脂、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン、アクリル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、またコアシェル型ポリマーとしては、MBS(メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合体)、アクリル系、シリコーン系、AES(アクリロニトリルエチレンピロピレンゴムスチレン共重合体)系等を挙げることができる。これらは1種を、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、特にアクリル系樹脂を上記酢酸セルロースなどのセルロースエステル系化合物や、ポリエステル(1)化合物の生分解性化合物との組み合わせにおいて、好ましいものとして挙げることができる。
【0033】
上記熱可塑性樹脂としては、防汚性塗料用組成物が所望の還元濃度を有し、塗膜成分が使用目的に応じたガラス転移温度(Tg)を有するように、上記生分解性化合物との関連において、その単量体単位や分子量を適宜選択することができる。
【0034】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物に用いるアナターゼ型酸化チタンは、受光によりヒドロキシラジカルを発生し、このラジカルの作用により、汚損生物を死滅させ、若しくは汚損生物の接着物質を酸化分解させ、または汚染物質を酸化することにより、塗膜に防汚性を付与するものである。塗膜中に発生したヒドロキシラジカルは、付着防止作用を発現した後速やかに水に変化するため、環境に与える負荷は極めて小さい。アナターゼ型酸化チタンは、ルチル型酸化チタンや、ブルッカイト型酸化チタンと比較して光触媒性が高く、防汚性が高いため好ましい。
【0035】
アナターゼ型酸化チタンと生分解性化合物と熱可塑樹脂との配合量としては、生分解性化合物100質量部に対してアナターゼ型酸化チタンが5〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜100質量部である。アナターゼ型酸化チタンの配合量が5質量部以上であれば、塗膜において充分な防汚性を得ることができ、200質量部以下であれば、塗膜の劣化を抑制することがきる。また、熱可塑樹脂は、生分解性化合物100質量部に対して5〜100質量部配合するのが好ましい。熱可塑樹脂の配合量が5質量部以上であれば、塗膜において充分な防汚性を得ることができ、100質量部以下であれば、塗膜の劣化を抑制することができる。
【0036】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物は、上記アナターゼ型酸化チタンの他、他の防汚剤を含有していてもよい。防汚剤としては、亜酸化銅、ロダン銅、ジンクジメチルジチオカーバメート、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等の公知のものを適用することができるが、環境負荷の低減という観点から、天然物系防汚剤を使用することが好ましい。具体的には、タンニン酸やカテキン等のタンニン類、イソチオシアネート類、ゲラニオール、ファルネソール等のテルペン類、ビタミンK3やアセチル化ビタミンK3 等のビタミン類、メチレンビスチオシアネート等のチオシアネート類等を挙げることができる。
【0037】
更に、本発明の防汚性塗料用樹脂組成物は、必要に応じて他の添加物を含有していてもよい。具体的には、顔料、粘度調整剤、レベリング剤、沈降防止剤、可塑剤、植物油やシリコーンオイル等のオイル類等を挙げることができる。これらは、適宜必要量を使用することができる。
【0038】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物を製造するには、上記各物質を溶媒・分散媒と共に、混合・攪拌し、液状とする方法を挙げることができる。混合方法としては、各物質の添加する順番はいずれであってもよいが、生分解性化合物と熱可塑性樹脂と溶媒・分散媒とを混合した後、アナターゼ型酸化チタンや、必要に応じて他の添加物を加え、ボールミル、グラインドミル、ロールミル、スピードランミル、ペイントシェーカー等の適宜分散装置を使用することができる。
【0039】
使用する溶媒・分散媒としては、トルエンやキシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、イソプロピルアルコールやブチルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、さらにはテルペン系炭化水素系、テルペン系炭化水素としては、タービノーレン、トリシクレン、カンフェン、テルピネン、ミルセン、ピネン、水添リモネン、d−リモネンなどを挙げることができる。また、環境や作業上の安全性のため水を用いてもよい。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
このようにして得られる防汚性塗料用樹脂組成物中の固形分濃度は塗膜の使用目的によって適宜選択することができる。例えば、漁網に使用する場合は20〜30質量%、また船底塗料等として使用する場合は40〜60質量%とすることができる。
【0041】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物を用いて塗膜を成形するには、本発明の防汚性塗料用樹脂組成物をそのまま使用し、または、必要に応じて添加物を添加し塗料を調製し、基材上に塗膜を成形する。塗膜を成形する基材としては、船舶、各種漁網、港湾施設、オイルフェンス、橋梁、海底基地、各種パイプ等の水中構造物や、地上の建造物などを挙げることができ、これらの基材表面上に、ウオッシュプライマー、塩化ゴム系またはエポキシ系等のプライマー、中塗り塗料等の塗膜を成形したものであってもよい。基材上に塗料を塗工する方法としては、刷毛塗り、吹き付け塗り、ローラー塗り、沈漬塗り等の方法を挙げることができる。塗工後、適宜加熱、風乾などにより乾燥し塗膜を得ることができる。
【0042】
得られる塗膜の乾燥塗膜厚さとしては、必要に応じて選択することができ、例えば、50〜400μmとしてもよい。
【0043】
本発明の防汚性塗料用樹脂組成物を用いて得られる防汚性塗膜においては、水中生物や大気中の汚染物質の付着を抑制するため、塗膜から分離されて水中や大気中に放出される生分解性化合物やその分解物は、加水分解や微生物分解等により、最終的に水や二酸化炭素にまで分解される。特に、アナターゼ型酸化チタンを含有する場合、その光触媒作用により、水中生物や大気汚染物質を分解し、優れた防汚性を有すると共に、生分解性化合物やその分解物が塗膜外へ放出されても、環境に与える負荷は極めて少ないものである。
【0044】
このような塗膜の消費量としては、30ノットで流れる海水中に浸漬した際、塗膜の減少速度が3〜20μm/月の範囲であることが好ましい。塗膜の減少速度が3μm/月以上であれば、加水分解が適度な速度で進行し防汚効果を得ることができる。また、塗膜の減少速度が20μm/月以下であれば、加水分解の進行速度を制御して防汚効果を持続して得ることができる。塗膜の減少速度は、使用する生分解性組成物の酸価、還元粘度およびポリエステル(1)化合物中の金属濃度、あるいは使用する添加剤の量や種類等によって調整することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の防汚性塗料用樹脂組成物を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
[防汚性塗料用樹脂組成物の調製]
酢酸セルロース(三菱レイヨン社製)とメタブレンP710(三菱レイヨン社製)とを表1に示す割合(単位はg)でアセトン140gに溶解後、d−リモネン20gを添加し、防汚性塗料用樹脂組成物(1−1〜1−3)を得た。
【0047】
[塗膜の調製・評価]
得られた防汚塗料用樹脂組成物をそれぞれ120mm×120mm×2mmのガラス板(旭製作所製)にウェット厚み300μmでバーコーター塗布、風乾し塗膜を成形し、サンプル(1〜3)を調製した。
【0048】
瀬戸内海の小方沖に固定している筏の水面下1.5mに、サンプルを浸漬し、生物付着性を評価した。評価は目視により、5:非常に良好、4:良好、3:やや不良、2:不良、1:非常に不良、の5段階で評価した。生物付着性の評価結果を表2に示す。
【0049】
[比較例1]
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコにPGM(プロピレングリコールメチルエーテル)17部およびキシレン59部およびエチルアクリレート5部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、メチルメタクリレート17部、エチルアクリレート60部、粉末である亜鉛のジアクリレート塩(浅田化学社製)8.75部、粉末である亜鉛のジメタクリレート塩(浅田化学社製)9.25部、PGM18.79部、水2.2部、キシレン10部、連鎖移動剤(日本油脂社製ノフマーMSD)1部、AMBN9部からなる亜鉛のジ(メタ)アクリレート塩が溶解しないため不透明となっている溶液を滴下ロートから6時間で等速滴下した。滴下終了後にt−ブチルパーオクトエート0.5部とキシレン7部を30分で滴下した、さらに2時間撹拌した後キシレンを7.46部添加して、加熱残分44.2%、ガードナー粘度A以下を有する不溶解物が混合した白色液1を得た。
【0050】
白色溶液1を用いて、実施例1と同様にして塗膜を調製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2]
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコにキシレン120部、n−ブタノール30部を仕込み、撹拌しながら105℃に昇温した。続いて、滴下ロートからアクリル酸エチル59部、アクリル酸2−エチルヘキシル26部、アクリル酸15部、AIBN3部からなる混合物を3時間で等速滴下した。滴下終了後2時間撹拌して、さらにAIBN1部を加え、加熱残分39.7%、ガードナー粘度+Jの特性値を有するワニスを得た。
【0052】
次に、冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、得られたワニス100部、ナフテン酸20部、水酸化銅7部を加え、120℃に昇温して2時間攪拌し、この間生成する水(2.6g)を脱水後、加熱残分51.9%、ガードナー粘度+Hの特性値を有する樹脂液2を得た。
【0053】
樹脂液2を用いて、実施例1と同様にして塗膜を調製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
[実施例2]
BE−400(東洋紡社製)とメタブレンP710(三菱レイヨン社製)とを表3に示す割合(単位はg)でキシレン120gに溶解後、d−リモネン20gを添加し、防汚性塗料用樹脂組成物(2−1〜2−3)を得た。
【0057】
得られた防汚塗料用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして塗膜を調製し、評価を行った。結果を上記比較例1、2と共に表4に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
[実施例3]
(3−1)
酢酸セルロース50gをアセトン80gに溶解させ、その後アナターゼ型酸化チタン(A190:堺化学製)(以下同じ)20g、弁柄20g、沈降防止剤2g、メタブレンP710(三菱レイヨン社製)20gを加え混合、分散することにより、防汚塗料用樹脂組成物(3−1)を得た。
(3−2)
酢酸セルロース40gをアセトン80gに溶解させ、その後アナターゼ型酸化チタン20g、メチレンビスチオシアネート20g、弁柄20g、沈降防止剤2g、熱可塑樹脂20gを加え混合、分散することにより、防汚塗料用樹脂組成物(3−2)を得た。
【0061】
得られた防汚塗料用樹脂組成物(3−1)、(3−2)を用いて、実施例1と同様にして塗膜を調製し、評価を行った。結果を表5に示す。比較例として120mm×120mm×2mmのガラス板(旭製作所製)を用い、同様に行った。
【0062】
【表5】

【0063】
[実施例4]
ポリエステルの調製
(製造例1)
DL−ラクチド500g(L−乳酸/D−乳酸=1)、重合開始剤としてグリコール酸4.56g、開環重合触媒としてオクチル酸スズ141mgをフラスコ内に加え窒素雰囲気下、190℃で初期重合を行った。真空下で脱モノマーを行った後、無水コハク酸8.00gを添加、反応させた。さらにマグネシウムアセチルアセトナートを5.56g添加し、真空状態で脱アセチルアセトナートおよびマグネシウムによる鎖延長を行い、最終的にポリエステルAを得た。
(製造例2)
重合開始剤として乳酸カルシウム3.28gを使用し、無水コハク酸として1.80gを用いた他は製造例1と同様にして、ポリエステルBを得た。
【0064】
得られたポリエステルA、Bについて、金属濃度、酸価、還元粘度およびL−乳酸/D−乳酸比を以下のようにして測定した。結果を表6に示す。
1.金属濃度
仕込み量から計算して求めた。
2.還元粘度
クロロホルム25mlに樹脂を125mg溶解し、25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した。
3.酸価
クロロホルム15mlおよびメタノール5mlの混合溶媒に、樹脂0.8gを溶解し、これをナトリウムメトキシドのメタノール溶液で滴定することにより求めた。
【0065】
【表6】

【0066】
(4−1)
アセトン80gに酢酸セルロース50gを溶解した替わりに、トルエン80gにポリエステルA50gを溶解した他は実施例(3−1)と同様にして防汚塗料用樹脂組成物(4−1)を得た。
(4−2)
アセトン80gに酢酸セルロース40gを溶解した替わりに、キシレン80gにポリエステルB50gを溶解した他は実施例(3−2)と同様にして防汚塗料用樹脂組成物(4−2)を得た。
【0067】
得られた防汚塗料用樹脂組成物(4−1)、(4−2)を用いて、実施例1と同様にして塗膜を調製し、評価を行った。結果を表7に示す。比較例として120mm×120mm×2mmのガラス板(旭製作所製)を用い、同様に行った。
【0068】
【表7】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性化合物と熱可塑性樹脂とを含む防汚性塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
生分解性化合物が、セルロースエステル系化合物、および、一般式(1)で表される単位を含む化合物から選ばれる1種または2種以上を含む請求項1記載の防汚性塗料用樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1 はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2 はHまたはメチル基を表し、nは0〜4の整数を表す。)
【請求項3】
生分解性化合物とアナターゼ型酸化チタンと熱可塑性樹脂とを含む防汚性塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
生分解性化合物が、セルロースエステル系化合物、および、一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種または2種以上を含む請求項3記載の防汚性塗料用樹脂組成物。
【化2】

(式中、R1 はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2 はHまたはメチル基を表し、nは0〜4の整数を表す。)

【公開番号】特開2007−291229(P2007−291229A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120518(P2006−120518)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】