説明

防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物及び水中構造物

【課題】 特には水中構造物に塗装され、水中構造物の表面への水生生物の付着・生育を防止するために好適であり、その効果の持続性が良好で、環境安全衛生問題を解決した防汚塗膜を与える防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物でコーティングされた水中構造物を提供する。
【解決手段】 (A)ベースポリマーとして、1分子中に少なくとも2個の珪素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)加水分解性基を1分子中に2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、及び
(C)イオン性液体:(A)成分に対して0.01〜30質量%
を配合してなる防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物でコーティングされた水中構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材として好適な室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物に関し、特に、船舶、港湾施設、ブイ、パイプライン、橋梁、海底基地、海底油田掘削設備、発電所の導水路管、養殖網、定置網等(以下、「水中構造物」という)に塗装して、これらの表面への水生生物の付着・生育を防止するために好適な防汚塗膜を与える室温硬化型の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物の硬化物でコーティングされた水中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、室温でゴム状弾性体を与える室温硬化性シリコーンゴム組成物としては種々のものが知られている。室温硬化性シリコーンゴム組成物(以下、「RTV」という)から得られる硬化ゴムは、他の有機系ゴムに比較して優れた耐候性、耐久性、耐熱性、耐寒性等を具備することから種々の分野で使用され、特に建築分野においては、ガラス同士の接着用、金属とガラスとの接着用、コンクリート目地のシール用等に多用されている。また、近年では、建築物、プラント類、水管内面、水管外面等のコーティング材として広く利用されるようになってきた。
【0003】
しかし、このRTVの主成分であるオルガノポリシロキサンは、帯電し易い性質を有し、大気中の塵埃を吸着し易いため、硬化したシーリング材若しくはコーティング材の表面が経時的に著しく汚れてきて美観を損ねるという問題があった。この問題を解決する方法として、例えば、RTVにポリオキシエチレン基、ソルビタン残基、二糖類残基等を有する界面活性剤を添加配合せしめる方法が提案されている(特開昭56−76452号公報:特許文献1、特開昭56−76453号公報:特許文献2)。しかし、前記の方法によって十分満足できる効果を得るためには、界面活性剤を多量に添加することが余儀なくされるために、RTVのシーリング材若しくはコーティング材としての重要な機能である接着性の低下をきたすという欠点がある。
【0004】
また、水中構造物が設置され又は就航すると、その飛沫部から没水部表面にわたって、海、河川等の水中に棲息しているフジツボ、ホヤ、セルプラ、ムラサキイガイ、カラスガイ、フサコケムシ、アオノリ、アオサ等の水生生物が付着・生育して種々の被害が発生する。例えば、船体に生物が付着した場合、水との摩擦抵抗が増大し、航行速度の低下が生じ、一定の速度を維持するためには燃料消費量が増加し、経済的に不利である。また、港湾施設等の水中又は水面に固定させておく構造物に生物が付着すると、これらが有する個々の機能を十分に発揮することが困難となり、基材を侵食することもある。更に、養殖網、定置網等に生物が付着すると網目が閉塞して魚類が死亡してしまうことがある。
【0005】
水中構造物への水生生物の付着・生育の防止対策としては、有機錫化合物、亜酸化銅等の毒性防汚剤を配合した防汚塗料を構造物に塗装して対応していたが、水生生物の付着・生育はほぼ防止できたものの、毒性防汚剤を用いているために、塗料の製造や塗装時において環境安全衛生上好ましくなく、しかも水中において塗膜から毒性の防汚剤が徐々に溶出し、長期的にみれば水域を汚染するおそれがあることから、その使用が法的に禁止されることとなった。一方、水生生物の付着・生育の防止効果があり、毒性防汚剤を含有しない塗料としては、塗膜の表面張力を低くして防汚性を付与させるものとして、RTVに流動パラフィン又はペトロラタムを配合した無毒性防汚塗料が提案されている(特開昭58−13673号公報:特許文献3、特開昭62−84166号公報:特許文献4)。また、反応硬化型シリコーン樹脂の硬化に伴う体積収縮によって、相溶性が乏しく非反応性の極性基含有シリコーン樹脂が表面へにじみ出し、反応硬化型シリコーン樹脂のもつ低表面張力と相俟って防汚性を示す無毒性防汚塗料組成物(特許第2503986号公報:特許文献5、特許第2952375号公報:特許文献6)も提案されている。しかしながら、前記無毒性防汚塗料組成物は、相溶性が乏しく非反応性の極性基含有シリコーン樹脂がSi原子にC−C結合を介してエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が付加しているポリオキシエチレン基を有するシリコーン樹脂、又はSi原子にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド基を介して分子末端にアルコキシ基が導入されたシリコーン樹脂をオイルブリードさせているために、環境安全衛生に問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−76452号公報
【特許文献2】特開昭56−76453号公報
【特許文献3】特開昭58−13673号公報
【特許文献4】特開昭62−84166号公報
【特許文献5】特許第2503986号公報
【特許文献6】特許第2952375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、特には水中構造物に塗装され、水中構造物の表面への水生生物の付着・生育を防止するために好適であり、その効果の持続性が良好で、環境安全衛生問題を解決した防汚塗膜を与える防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物の硬化物でコーティングされた水中構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するため、環境安全衛生の高い各種添加剤による防汚効果を鋭意検討した結果、イオン性液体を添加することにより、優れた防汚性が得られることを見い出した。
【0009】
即ち、本発明では、環境安全衛生を第一とした上で防汚性を有する組成物を鋭意検討したものであり、従来使用されていたブリードオイル成分であるオキシアルキレン変性シリコーンやメチルフェニルシリコーン、ジメチルジフェニルシリコーンといった未だ環境安全性データが不十分である成分を使用せず、環境安全性データが十分揃っている各種添加剤を利用することを考えて検討を行った。
【0010】
そこで、各種イオン導電性化合物を検討した結果、4級アンモニウム塩等は初期の水中構造物表面への水生生物の付着・生育を防止できるが、その効果の持続性がなく、実用的ではなかった。しかしながら、イオン性液体の場合は、水中構造物表面への水生生物の付着・生育を防止し得ると共に、その効果の持続性が良好で、環境安全衛生問題を解決した防汚塗膜を与える室温硬化性のオルガノポリシロキサン組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、
(A)ベースポリマーとして、1分子中に少なくとも2個の珪素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)加水分解性基を1分子中に2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、及び
(C)イオン性液体:(A)成分に対して0.01〜30質量%
を配合してなる防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物の硬化物でコーティングされた水中構造物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物より得られる塗膜は、無毒であり、環境面において何らの問題もなく、且つ、長期間にわたって水生生物の付着・生育を防止し、優れた防汚性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、下記(A)〜(C)成分を配合してなるものである。
(A)ベースポリマーとして、1分子中に少なくとも2個の珪素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン
(B)加水分解性基を1分子中に2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物
(C)イオン性液体
【0014】
[(A)成分]
本発明の(A)成分であるジオルガノポリシロキサンは、本発明の縮合硬化型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)であり、1分子中に少なくとも2個の珪素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサンが用いられるが、下記一般式(1)で表わされる、分子鎖末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンを用いることが好ましい。
【0015】
【化1】

(式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基、Aは独立に酸素原子又は炭素原子数1〜8の2価炭化水素基、Yは独立に水酸基又は加水分解性基であり、mは0〜2の整数、nは25℃における粘度が20〜1,000,000mm2/sとなる数である。)
【0016】
上記Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α−,β−ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基で置換された基、例えば、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基等を例示することができる。これらの中で、メチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0017】
また、上記Aは酸素原子又は炭素原子数1〜8の二価炭化水素基であり、Aの二価炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、シクロへキシレン基等のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基等のアリーレン基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基、及び上記アルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基から選ばれる二価炭化水素基などが挙げられ、酸素原子、エチレン基が好ましい。
【0018】
上記オルガノポリシロキサンの分子鎖末端における水酸基以外の加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;ビニロキシ基、イソプロペニルオキシ基、1−エチル−2−メチルビニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等のケトオキシム基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等のアミノキシ基;N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等のアミド基等が挙げられる。これらの中でも、アルコキシ基が好ましい。
mは0〜2の整数であるが、Yが水酸基の場合は、mは2が好ましく、Yが加水分解性基の場合は、mは0又は1が好ましい。
【0019】
この(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、25℃における粘度が20〜1,000,000mm2/s、好ましくは100〜500,000mm2/s、より好ましくは1,000〜50,000mm2/sであるような重合度のものがよい。前記粘度が20mm2/s(25℃)未満であると、物理的・機械的強度に優れたコーティング塗膜を得ることが困難となる場合があり、逆に1,000,000mm2/s(25℃)を超えると組成物の粘度が高くなりすぎて使用時における作業性が悪くなる場合がある。
なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定した25℃における値である。
【0020】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【化2】

(上記各式中、R及びYは上記と同様であり、nは25℃における粘度が20〜1,000,000mm2/sとなる数、m’は0又は1である。)
これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0021】
[(B)成分]
本発明の(B)成分であるシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、本発明の組成物を硬化させるために必須の成分であって、1分子中にケイ素原子に結合する加水分解可能な基を少なくとも2個有することが必要とされ、下記一般式(2)で表わされるシラン及び/又はその部分加水分解縮合物であることが好ましい。
【0022】
1aSiX4-a (2)
(式中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基、Xは独立に加水分解性基であり、aは0〜2の整数である。)
【0023】
上記加水分解可能性基(X)としては、上記(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子鎖末端における水酸基以外の加水分解性基として挙げたものが同様に例示されるが、アルコキシ基、ケトキシム基、イソプロペノキシ基が好ましい。
【0024】
この(B)成分であるシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、その分子中に前記したような加水分解可能な基を少なくとも2個有することが必須である他には特に制限はないが、好適には加水分解可能な基を3個以上有することが好ましく、また、ケイ素原子には加水分解可能な基以外の基が結合していてもよく、更に、その分子構造はシラン又はシロキサン構造の何れであってもよい。特に、シロキサン構造のものにあっては直鎖状、分岐鎖状又は環状の何れであってもよい。
【0025】
上記の加水分解可能な基以外の基(R1)は、非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0026】
本発明の(B)成分であるシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の具体例としては、例えば、エチルシリケート、プロピルシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリプロペノキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリ(メチルエチルケトキシム)シラン、ビニルトリ(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリ(メチルエチルケトキシム)シラン、プロピルトリ(メチルエチルケトキシム)シラン、テトラ(メチルエチルケトキシム)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリ(メチルエチルケトキシム)シラン、3−クロロプロピルトリ(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリ(ジメチルケトキシム)シラン、メチルトリ(ジエチルケトキシム)シラン、メチルトリ(メチルイソプロピルケトキシム)シラン、トリ(シクロへキサノキシム)シラン等及びこれらの部分加水分解縮合物が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0027】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して0.5〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。前記配合量が0.5質量部未満であると架橋が不十分となる場合があり、また、逆に20質量部を超えると硬化物が硬くなりすぎたり、経済的に不利となるという問題が発生する場合がある。
【0028】
[(C)成分]
本発明の(C)成分であるイオン性液体は、本発明の組成物を特徴づける重要な成分である。ここで、イオン性液体とは、室温で液体である溶融塩であり、常温溶融塩とも呼ばれるもので、特に、融点が50℃以下、好ましくは−100〜30℃、より好ましくは−50〜20℃のものをいう。このようなイオン性液体は、蒸気圧がない(不揮発性)、高耐熱性、不燃性、化学的安定である等の特性を有するものである。
【0029】
イオン性液体は、好ましくは4級アンモニウムカチオンとアニオンとからなる。この4級アンモニウムカチオンは、イミダゾリウム、ピリジニウム又は式:R24+[式中、R2は、水素原子又は炭素原子数1〜20の有機基である]で表されるカチオンのいずれかの形態である。
【0030】
上記式中、R2で表される有機基としては、例えば、炭素原子数1〜20の一価炭化水素基、アルコキシアルキル基等が挙げられる。より具体的には、例えば、メチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;エトキシエチル基(−CH2CH2OCH2CH3)等のアルコキシアルキル基等が挙げられる。また、R2で表される有機基のうちの2個が結合して環状構造を形成してもよく、この場合には、2個のR2が一緒になって2価の有機基を形成する。この2価の有機基の主鎖は炭素のみで構成されていてもよいし、その中に酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、例えば、2価炭化水素基[例えば、炭素原子数3〜10のアルキレン基、式:−(CH2b−O−(CH2c−〔式中、bは1〜5の整数であり、cは1〜5の整数であり、b+cは4〜10の整数である〕]が挙げられる。
【0031】
前記式:R24+で表されるカチオンの具体例としては、メチルトリn−オクチルアンモニウムカチオン、エトキシエチルメチルピロリジウムカチオン、エトキシエチルメチルモルフォリニウムカチオン等が挙げられる。
【0032】
前記アニオンとしては特に制限はないが、例えば、AlCl4-、Al3Cl8-、Al2Cl7-、ClO4-、PF6-、BF4-、CF3SO3-、(CF3SO22-、(CF3SO23-が好ましく、PF6-、BF4-、CF3SO3-、(CF3SO22-がより好ましい。
【0033】
上記4級アンモニウムカチオンとアニオンとからなるイオン性液体としては、例えば、メチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、下記構造式:
【化3】

で表されるエトキシエチルメチルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、下記構造式:
【化4】

で表されるエトキシエチルメチルモルフォリニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。上記イオン性液体は、1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0034】
(C)成分の配合量は、(A)成分に対して0.01〜30質量%であり、好ましくは0.05〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%である。0.01質量%未満の場合、目的の防汚効果が得られず、30質量%を超える場合、コスト面で問題となる。
【0035】
[その他の配合成分]
本発明の組成物中には、硬化をより促進させるための触媒を添加してもよい。このような硬化用触媒としては、縮合硬化型の室温硬化性組成物に使用されている種々のものを使用することができ、具体例として、鉛−2−エチルオクトエート、ジブチルすずジオクトエート、ジブチルすずアセテート、ジブチルすずジラウレート、ブチルすず−2−エチルヘキソエート、鉄−2−エチルヘキソエート、コバルト−2−エチルヘキソエート、マンガン−2−エチルヘキソエート、亜鉛−2−エチルヘキソエート、カプリル酸第1すず、ナフテン酸すず、オレイン酸すず、ブタン酸すず、ナフテン酸チタン、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛等の有機カルボン酸の金属塩;テトラブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)チタネート等の有機チタン酸エステル;オルガノシロキシチタン、β−カルボニルチタン、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)等の有機チタン化合物、有機チタンキレート;アルコキシアルミニウム化合物、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン等のアミノアルキル基置換アルコキシシラン;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等のアミン化合物及びその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、臭酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン;下記式:
【0036】
【化5】

等のグアニジン化合物及びグアニジル基含有シラン若しくはシロキサン等を挙げることができる。これらは単独でも2種以上を組合わせても使用することができる。
【0037】
上記硬化用触媒を用いる場合、その使用量は特に制限されず、触媒としての有効量でよいが、通常、(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部であることが好ましく、特に0.1〜10質量部であることが好ましい。この触媒を用いる場合、この触媒の含有量が上記範囲の下限未満の量であると、架橋剤の種類によっては得られる組成物の硬化性が不十分となるおそれがあり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0038】
また、本発明の組成物には、補強又は増量の目的で充填剤を用いてもよい。このような充填剤としては、例えば、煙霧質シリカ、沈殿シリカ等の親水性シリカ、これらのシリカ表面をヘキサメチルジシラザン又は環状ジメチルシロキサン、ジメチルジクロロシラン等で疎水化処理したシリカ、石英、けいそう土、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化鉄、カーボンブラック、ベントナイト、グラファイト、炭酸カルシウム、マイカ、クレイ、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、ガラス繊維、ポリ塩化ビニルビーズ、ポリスチレンビーズ、アクリルビーズ等を挙げることができる。これらの中でも、BET比表面積が10m2/g以上、特に50〜500m2/gである親水性シリカ及び/又は疎水性シリカを用いることが好ましい。
【0039】
上記充填剤を用いる場合、その使用量は特に制限されるものではないが、通常、(A)成分100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、特に5〜30質量部であることが好ましい。これらの充填剤を用いる場合、この充填剤の含有量が上記範囲の下限未満の量であると、硬化後のゴム物性が低下するおそれがあり、一方、上記範囲の上限を超えると、組成物の粘度が高くなりすぎて混合及び施工時の作業性が悪くなるおそれがある。
【0040】
なお、本発明で使用される組成物には、必要に応じて可塑剤、顔料等の着色剤、難燃性付与剤、チキソトロピー剤、防菌・防バイ剤、アミノ基、エポキシ基、チオール基等を有する、いわゆるカーボンファンクショナルシラン(例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやアミノプロピルトリエトキシシランなど)等の接着向上剤等の所定量を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜添加配合することは何ら差し支えない。
【0041】
本発明の組成物は、上記成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。また、このようにして得られた組成物の硬化条件としては、常温で硬化するものであり、特に限定されるものではない。
【0042】
本発明の組成物は、船舶、港湾施設、ブイ、パイプライン、橋梁、海底基地、海底油田掘削設備、発電所の導水路管、養殖網、定置網等の水中構造物にコーティングすることができ、該組成物の硬化塗膜は、無毒であり、環境面において何らの問題もなく、且つ、長期間にわたって水生生物の付着・生育を防止し、優れた防汚性を示すものとなり得る。
【0043】
なお、本発明の組成物の水中構造物へのコーティング量としては特に限定されるものではないが、硬化膜厚が10〜1,000μm、特に50〜500μmとなる量とすることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部は質量部を示したものであり、粘度は回転粘度計により測定した25℃での測定値を示したものであり、比表面積はBET法により測定したものである。
【0045】
[実施例1]
25℃において粘度が1,500mm2/sのα,ω−ジヒドロキシ−ジメチルポリシロキサン90部、比表面積が200m2/gの煙霧状シリカ15部を均一に混合し、150℃で2時間加熱減圧混合した。これにビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン12部と、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1部を減圧下で均一になるまで混合した。更に、メチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1部を減圧下で均一になるまで混合して組成物を調製した。
【0046】
[実施例2]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをエトキシエチルメチルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0047】
[実施例3]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを、エトキシエチルメチルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに変更し、添加量を0.1部としたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0048】
[実施例4]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを、エトキシエチルメチルモルフォリニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0049】
[実施例5]
25℃における粘度が5,500mm2/sであり、分子鎖両末端がトリメトキシシリルエチレン基で封鎖されたジメチルポリシロキサン90部、比表面積が200m2/gの煙霧状シリカ15部を均一に混合し、150℃で2時間加熱減圧混合した。これにビニルトリメトキシシラン8部と、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)2部及びγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5部を減圧下で均一になるまで混合した。更に、エトキシエチルメチルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1部を減圧下で均一になるまで混合して組成物を調製した。
【0050】
[比較例1]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用しないこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0051】
[比較例2]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを、フェニル基5モル%含有し、25℃における粘度が100mm2/sであり、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0052】
[比較例3]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを、側鎖としてポリオキシエチレン基を含有し、25℃における粘度が100mm2/sであり、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された、HLB値が2のジメチルポリシロキサンに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0053】
[比較例4]
実施例1のメチルトリn−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを、ベンジルトリエチルアンモニウムアセテートの4級アンモニウム塩に変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0054】
<性能試験結果>
上記の実施例及び比較例で得た組成物を、エポキシ系防食塗料(膜厚200μm)を用いて予め塗装した被塗板に、硬化膜厚が300μmになるように塗装して試験塗板とした。このように作製した試験塗板を、23℃,50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。これらの硬化後の試験塗板を神奈川県海岸の沖合いに1.5mの深さで12ヶ月間にわたって懸垂試験を行った。フジツボ等の貝類、海藻類の付着状況を観察し、結果を表1に示した。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベースポリマーとして、1分子中に少なくとも2個の珪素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)加水分解性基を1分子中に2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、及び
(C)イオン性液体:(A)成分に対して0.01〜30質量%
を配合してなる防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(A)成分のベースポリマーが、下記一般式(1)で表されるジオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【化1】

(式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基、Aは独立に酸素原子又は炭素原子数1〜8の2価炭化水素基、Yは独立に水酸基又は加水分解性基であり、mは0〜2の整数、nは25℃における粘度が20〜1,000,000mm2/sとなる数である。)
【請求項3】
(B)成分が、下記一般式(2)で表わされるシラン及び/又はその部分加水分解縮合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
1aSiX4-a (2)
(式中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基、Xは独立に加水分解性基であり、aは0〜2の整数である。)
【請求項4】
(C)成分のイオン性液体が、4級アンモニウムカチオンとアニオンとからなるイオン性液体である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
更に、充填剤としてBET比表面積が10m2/g以上の親水性シリカ及び/又は疎水性シリカを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防汚性縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物の硬化物でコーティングされた水中構造物。

【公開番号】特開2006−83211(P2006−83211A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266636(P2004−266636)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】