説明

防炎ブラインド用スラット

【課題】防炎ブラインド用スラットは、電波障害の恐れが無く、かつ防炎製品としても高度の防炎性能を発揮する。また、臭素系難燃剤を使用しないことから、環境面においても優れた防炎ブラインド用スラットを提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂組成物からなる防炎ブラインド用スラットであって、前記ポリカーボネート樹脂組成物がポリカーボネート樹脂(A)100重量部、有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)0.003〜1.0重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)0.1〜1.5重量部および光拡散剤(D)0.15〜1.5重量部を必須成分としてなる防炎ブラインド用スラット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した防炎性能を有する防炎ブラインド用スラットに関する。更に詳しくは、特定の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物からなる防炎ブラインド用スラットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラインド用のスラットには、スチール、アルミニウム合金などの金属が素材として使用されてきた。しかしながら、金属は電波を反射する性質があり、金属製スラットをブラインドに装着するとテレビの受信状態が悪化、すなわち電波障害を引き起こすことが有り、その改良が求められていた。
【0003】
かかる問題を解決するため、スラットの素材として熱可塑性樹脂を使用する方法が提案されている。(特許文献1)しかしながら、熱可塑性樹脂をスラットとして使用する場合は火災が起きた際の防災安全上の危惧があるため防炎等の性能を付与する必要があるが、特許文献1には防炎製品としての基準である消防法施行規則4条の3第4項及び第7項に規定する防炎製品性能試験基準を満足するような防炎性を備えた熱可塑性樹脂性スラットについては開示されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2000−199391号公報
【0005】
一方、熱可塑性樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等に優れており、かつ自己消火性を備えた難燃性の高い材料であることから、ブラインド用スラットとして注目されている。しかしながら、上述の防炎製品性能試験基準を満足させるためにはポリカーボネート樹脂に多量の臭素系難燃剤等のハロゲン系化合物を配合する必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、臭素系難燃剤を配合した場合、燃焼時に臭素を含んだ燃焼ガスが発生したり、また臭素系化合物が生じたりする可能性があるため、環境面から臭素を含有しない難燃剤の使用が望まれていた。本発明は、臭素系難燃剤を使用せずに優れた防炎性能を発揮するブラインド用スラットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため特定の非臭素系化合物、繊維形成型の含フッ素ポリマーおよび光拡散剤を特定量配合することによって、高度に防炎化され、かつ安定した防炎性能を有するポリカーボネート樹脂製の防炎ブラインド用スラットが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物からなる防炎ブラインド用スラットであって、前記ポリカーボネート樹脂組成物がポリカーボネート樹脂(A)100重量部、有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)0.003〜1.0重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)0.1〜1.5重量部および光拡散剤(D)0.15〜1.5重量部を必須成分としてなることを特徴とする防炎ブラインド用スラットを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防炎ブラインド用スラットは、電波障害の恐れが無く、かつ防炎製品としても高度の防炎性能を発揮する。また、臭素系難燃剤を使用しないことから、環境面においても優れた防炎ブラインド用スラットを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0011】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0012】
これらは、単独又は2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0013】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0015】
本発明にて使用される有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)としては、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩やそのアルカリ土類金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩やそのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。なかでも、パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩が好適に使用できる。
【0016】
有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.003〜1.0重量部である。さらに好ましくは0.01〜0.1重量部、より好ましくは0.05〜0.2重量部の範囲である。配合量が0.003重量部未満では、防炎性能が低下するので好ましくない。また、1.0重量部を超えると、衝撃強度や成形加工性が悪化するので好ましくない。
【0017】
本発明で使用される繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)としては、ポリカーボネート樹脂(A)中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成するものがよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。また、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体も繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)として好適に使用される。当該ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体は、例えば、三菱レイヨン社製メタブレンA3800として入手できる。
【0018】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.1〜1.5重量部である。配合量が0.1重量部未満では、燃焼時の炭化面積が大きくなり、防炎性能が低下するので好ましくない。また、1.5重量部を超えるとポリカーボネート樹脂組成物の造粒加工や得られたペレットを用いた押出成形が困難となることから、安定生産に支障をきたすので好ましくない。この配合量は、好ましくは、0.3〜1.0重量部、より好ましくは0.4〜0.8重量部の範囲である。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)に対し、上記の有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)および繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)をそれぞれ単独で配合するのみでは十分な防炎性を示さない。すなわち、ポリカーボネート樹脂(A)に対し、成分(B)および(C)を配合することにより相乗的効果が得られ、炭化面積の広がりを抑制し、かつ高度な防炎性能を有する防炎ブラインドのスラット用難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0020】
本発明にて使用される光拡散剤(D)としては、炭酸カルシウム、シリカ、シリコーン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、リン酸チタン、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウム、マイカ、ガラスフィラー、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの無機系拡散剤、シリコーンゴム状弾性体、ポリメチルシルセスキオキサン、アクリル系、スチレン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ナイロン系、メタクリレート−スチレン系、フッ素系、ノルボルネン系などの有機系拡散剤などが挙げられる。なかでも、シリコーン系拡散剤が好適に使用できる。当該シリコーン系拡散剤は、例えば、東芝シリコーン(株)製トスパール120として商業的に入手可能である。
【0021】
光拡散剤(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.15〜1.5重量部である。配合量が0.15重量部未満では、光を透過させ、まぶしくなるためブラインド用スラットとして好ましくない。また、1.5重量部を超えると衝撃強度ならびに成形加工性が悪化するので好ましくない。この配合量は、好ましくは、0.2〜1.0重量部、より好ましくは0.3〜0.6重量部の範囲である。
【0022】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の熱安定剤、酸化防止剤(リン系やフェノール系酸化防止剤)、着色剤、蛍光増白剤、離型剤、軟化材、帯電防止剤、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)等の添加剤、衝撃性改良材、他のポリマーを配合してもよい。
【0023】
本発明の防炎ブラインドのスラット用難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に使用される各種配合成分の混合順番や混合方法には特に制限はなく、公知の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー等による混合が可能であって、その混合物を通常の一軸または二軸押出機により容易に溶融混練することができる。
【0024】
また、防炎ブラインド用スラットを得るための成形方法としては、特に制限はなく、公知の異型押出成形法、Tダイ押出成形法、カレンダー成形法等を用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」は重量基準に基づく。
【0026】
表2および3に示す配合成分、配合量に基づき、タンブラーを用いて各種配合成分を混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX−30(軸直径=30mmφ、L/D=41))により、280℃の温度条件にて溶融混練し、各種ペレットを得た。
【0027】
使用した配合成分は、それぞれ次のとおりである。
ポリカーボネート樹脂:
ビスフェノールAおよびホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住友ダウ社製カリバー200−3、粘度平均分子量28000、
以下「PC」と略記)
有機芳香族硫黄化合物の金属塩:
パーフルオロブタンスルホン酸カリウム
(バイエル社製バイオウエットC−4、以下「金属塩」と略記)
繊維形成型の含フッ素ポリマー:
ポリテトラフルオロエチレン含有粉体
(三菱レイヨン社製メタブレンA3800、以下「PTFE」と略記。)
光拡散剤:
シリコーン系光拡散剤
(東芝シリコーン(株)製トスパール120、以下「光拡散剤」と略記。)
【0028】
評価方法は、以下のとおりである。
(シートの作成)
得られた各種樹脂組成物のペレットを、押出シート成形機(田辺プラスチックス製単軸40mmシート押出機)を用いて、スクリュウ回転数90rpm、溶融温度280℃の条件にて幅300mm、厚み0.7mmおよび2mmのシートを成形した。
【0029】
(防炎性能試験片の作成)
得られた厚み0.7mmのシートを用いて、防炎性能試験片として幅190mm、長さ290mmの試験片を作成した。
【0030】
(防炎性能)
得られた防炎性能試験片を、温度105℃の恒温乾燥機の中に1時間放置の後、シリカゲル入りデシケーター中に4時間保管した。次いで、消防法施行規則4条の3第4項及び第7項に規定する防炎製品性能試験基準(45°メッケルバーナー法)に準拠して、定められた測定項目につき防炎性能の評価を行った。防炎性能試験の合格基準を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
上記測定項目の詳細条件は、それぞれ以下のとおり:
2分加熱:3試験片について各2分間着火し、いずれも着炎にいたらなければ、合格と判断する。着炎に至った場合、残炎時間、残じん時間、炭化面積の合格基準に準じて合否判定する。いずれか1つでも基準を満たさない場合不合格とする。2分加熱で着炎に至り、かつ基準を満たしたものについては着炎後6秒加熱を行う。
着炎後6秒加熱:2試験片について着炎から6秒後に着火源を遠ざけ、2分加熱と同様の合格基準に準じて合否判定する。
残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が、有炎燃焼を続ける時間の長さであり、残じん時間とは、火の種が残り燻っている状態を続ける時間の長さをいう。また、炭化面積とは試験後の試験片の穴が空いた部分および、その周辺の炭化層を含んだ部分の面積をいう。
【0033】
(光拡散性)
得られた厚み2mmのシートを用いて、自動変角光度計(村上色彩技術研究所製ゴニオフォトメータGP−1R)により光拡散性(D50)を以下の手順で求めた。自動変角光度計の光源からの直進光線を試験片の法線方向から当て、可動式受光器にて透過光の強度を測定し、法線方向からの角度に対して透過率をプロットし、直進光透過率の50%の透過率になるところの角度(D50)を求めた。単位は「度」であり、光拡散性(D50)が13度以上を合格とした。
【0034】
(光線透過率)
得られた厚み0.7mmのシートを用いて、光線透過率測定試験片として幅50mm、長さ70mmの試験片を作成し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所製HR−100)により透過率T%を測定した。透過率T%が67%以上を合格とした。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
本発明の構成要件をすべて満足する実施例1〜7の樹脂組成物は、防炎性能、光拡散性および光線透過率のすべてにおいて好ましい結果を示した。
【0038】
一方、本発明の構成要件を満足しない比較例1〜6の樹脂組成物は、防炎性能、光拡散性および光線透過率の何れかにおいて劣っていた。
比較例1は、金属塩の配合量が規定範囲の下限よりさらに少ないため、防炎性能が不合格となった。
比較例2は、金属塩の配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、光線透過率が不合格となった。
比較例3は、PTFEの配合量が規定範囲の下限よりさらに少ないため、防炎性能が不合格となった。
比較例4は、PTFEの配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、光線透過率が不合格となった。
比較例5は、光拡散剤の配合量が規定範囲の下限よりさらに少ないため、光拡散性が不合格となった。
比較例6は、光拡散剤の配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、光線透過率が不合格となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂組成物からなる防炎ブラインド用スラットであって、
前記ポリカーボネート樹脂組成物が、
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)0.003〜1.0重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)0.1〜1.5重量部および光拡散剤(D)0.15〜1.5重量部を必須成分としてなる、
ことを特徴とする防炎ブラインド用スラット。
【請求項2】
前記有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)が、パーフルオロブタンスルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1記載の防炎ブラインド用スラット。
【請求項3】
前記有機芳香族硫黄化合物の金属塩(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.05〜0.2部であることを特徴とする請求項1記載の防炎ブラインド用スラット。
【請求項4】
前記光拡散剤(D)が、シリコーン系光拡散剤であることを特徴とする請求項1記載の防炎ブラインド用スラット。

【公開番号】特開2011−122390(P2011−122390A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282539(P2009−282539)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(396001175)住化スタイロンポリカーボネート株式会社 (215)
【Fターム(参考)】