説明

防爆型無線機、及び防爆型無線機の充填剤充填方法。

【課題】製造工程の管理が容易であり、充填剤の注入が短期間に行え、注入場所に空気だまりが残らないハンディ型無線機の充填剤の充填構造と充填方法。
【解決手段】上面解放の箱型のシャシ1底面に間隔をおいてプリント基板2が対向して配置され、前記プリント基板2に部品を実装した防爆型無線機において、前記プリント基板2に充填剤注入口2aと共に前記充填剤注入口2aから離れた位置に複数の空気排出口2bが設けられ、前記充填剤注入口2aに充填剤注入口との間に隙間が生じるよう充填剤注入ノズル3を差し込み前記充填剤注入口2aから充填剤を注入し、前記充填剤注入口から空気排出口に至る充填剤の流路の流動抵抗が増大し前記充填剤注入口と充填剤注入口との間の隙間からも充填剤が流出し、前記プリント基板上面が充填剤で覆われた後、前記充填剤注入ノズル3を抜き取り放置しプリント基板上面が一様に充填剤で覆われた状態で充填剤を高温硬化させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は防爆型無線機に係わり、特に、ハンディ型防爆無線機及びハンディ型防爆無線機の充填剤充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来防爆型無線機において、プリント基板に引火性ガスが触れないようにするため、プリント基板を樹脂製の充填剤で覆う手法が用いられている。図7〜図9によりその従来の手法について説明する。
【0003】
先ず、図7に示す箱型のシャシ11にはプリント基板12と樹脂板13が図示していないリブに締着されている。プリント基板12の上面には図示していない電子部品が実装されている。プリント基板12には充填剤注入口12aと空気排出口12b、12b…が設けられている。充填剤注入口12aに充填剤注入ノズル3を位置合わせして充填剤注入ノズル3によりプリント基板12とシャシ11の間に図8に示す樹脂5を注入する。
【0004】
樹脂5はシャシ11とプリント基板12の間に流れ込み、空気排出口12b、12b…から空気を押し出しながら図の右方向に侵入してシャシ11とプリント基板12の間を満たす。図8に樹脂5がシャシ11とプリント基板12の間に注入された状態を示している。この状態では充填剤注入口12aや空気排出口12b、12b…から樹脂5が溢れた状態となる。全ての空気排出口12b、12b…から樹脂5が溢れたことによりシャシ11とプリント基板12の間の樹脂5の注入の完了を確認する。
【0005】
次に、図9に示すように、充填剤注入口12aから充填剤注入ノズル3を引き抜き、樹脂板13の充填剤注入口13aに充填剤注入ノズル3を位置合わせして充填剤注入ノズル3により樹脂板13とプリント基板12の上面の間に樹脂5を注入する。なお、図9には示していないが、樹脂板13とプリント基板12の上面の間にプリント基板12に実装された電子部品が存在する。このようにプリント基板12の上下面を覆うように注入された樹脂5は高温硬化されてプリント基板12の導電部を覆い防爆性能が得られる。
【0006】
上記、図7〜図9に示す従来のプリント基板を樹脂製の充填剤で覆う手法によると、シャシ11とプリント基板12の間への樹脂5の注入が完了した時点で、充填剤注入口12aからの樹脂5の注入を停止する。しかしながら、樹脂注入が完了したと判断しても、実際には空気が残っている可能性がある。
【0007】
また、プリント基板の上面側に樹脂を注入するときには、この部分には電子部品が存在し、シャシ11とプリント基板12の間で樹脂の流路が狭くなる所があり、場所により充填の進行度がばらつき充填に要する時間が長くなるという問題があった。
【0008】
さらに、プリント基板12とシャシ11の間に樹脂を注入する工程と、樹脂板13とプリント基板12の上面の間の間に樹脂を注入する工程とで充填剤注入ノズル3を差し替えなければならず、工程の管理や手間に時間がかかるという問題があった。
【0009】
特開2006−14576号公報に開示された電気接続箱に置ける実施の形態1では、回路基板(プリント基板)11の上にポッテイング材を満たすことで、回路基板11に設けたポッテイング材注入口から筐体20の底面に形成された凹部50と回路基板11の裏面間の空間にポッテイング材が流れ込み、前記空間を満たした後、ポッテイング材が前記空間に通じた筒部54から回路基板11の表面側に溢れだし回路基板11の表面に実装された電子部品の周囲を覆う。このときポッテイング材は重力で筐体20の底面に形成された凹部50に流れ込むためにポッテイング材の注入に時間がかかかるという問題があった。
【0010】
また、特開2006−14576号公報に開示された電気接続箱に置ける実施の形態2では、回路基板11に設けたポッテイング材流入口51から注入ノズルで凹部50に流し込む。そして、ポッテイング材流入口51から最も離れた位置の空気排出口52からポッテイング材が溢れはじめたら、注入ノズル60をポッテイング材流入口51から抜き取り、注入ノズル60により回路基板11の上方からポッテイング材を流し込む。
【0011】
この実施の形態2では、回路基板11の下方の凹部50にポッテイング材を注入する工程と、回路基板11の上方からポッテイング材を流し込む工程とで注入ノズル60の位置を変えなければなければならず、工程の管理や手間に時間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開2006−14576号公報、段落0043〜段落0048、図1〜図7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は上記した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、製造工程の管理が容易であり、充填剤の注入が短期間に行え、しかも、充填剤注入場所に空気だまりが残ることのないハンディ型無線機の充填剤の充填構造および充填剤の充填方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の防爆型無線機は、上面解放の箱型のシャシ底面に間隔をおいて対向するようにプリント基板を前記シャシ内部に配置した防爆型無線機において、前記プリント基板は充填剤を注入する充填剤注入ノズルを挿入するための充填剤注入口と、1または複数の空気排出口とを有し、前記充填剤注入ノズルの先端と前記充填剤注入口との間には予め定められた面積の第1の隙間が設けられ、前記充填剤注入口から前記充填剤注入ノズルを挿入して前記シャシと前記プリント基板との間の空間に充填剤を充填することで前記空間内の空気を排出し、さらに、充填を継続することで充填剤を前記空気排出口からプリント基板上面に溢れさせ、さらに、前記第1の隙間からも充填剤を溢れさせることにより、前記空間と前記プリント基板の上面の上方まで充填剤が充填されて高温硬化されるものである。
【0014】
また、前記防爆型無線機において、前記プリント基板を支えるリブが前記シャシ底面の周囲角部に形成され、前記プリント基板外周部とシャシ内壁との間に第2の隙間が設けられ、前記リブ上面の一部に設けた切り欠きと前記第2の隙間とにより前記空気排出口が形成されているものである。
【0015】
また、前記各防爆型無線機において、前記プリント基板上面へ充填剤が略均一に溢れるように前記第1の隙間と前記空気排出口の面積と配置とを設定したものである。
【0016】
この発明の防爆型無線機の充填剤の充填方法は、上面解放の箱型のシャシ底面に間隔をおいて対向するようにプリント基板が前記シャシ内部に配置される防爆型無線機の充填剤の充填方法において、充填剤注入ノズルの先端との間に予め定められた面積の第1の隙間を設けたプリント基板上の充填剤注入口から前記シャシと前記プリント基板の間の空間に充填剤を注入し前記空間内の空気を前記プリント基板に設けた1または複数の空気排出口より排出させるステップと、前記空間に充填剤を充填後さらに充填を継続し、前記第1の隙間と空気排出口から充填剤を前記プリント基板上面に溢れさせるステップと、前記第1の隙間と空気排出口から溢れる充填剤によって前記プリント基板上面を略水平に覆うステップと、前記プリント基板上面が充填剤で覆われた後充填剤注入ノズルを抜き取り、充填剤を硬化させるステップと、を含むものである。
【0017】
また、前記防爆型無線機の充填剤の充填方法において、前記充填剤注入口から充填剤注入ノズルにより前記空気排出口から充填剤が溢れでるまでの間前記シャシを傾斜させる治具により前記空気排出口より前記充填剤注入口を上側位置とするものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明の防爆型無線機の充填剤の充填構造および充填方法によれば、プリント基板とシャシ底面との間に空気を残すことなく、容易に充填剤を過不足なく充填できるので、製造コストが安く、品質が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施例1である防爆型無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【図2】同充填構造の他の状態を示す概略断面図である。
【図3】同充填構造のさらに他の状態を示す概略断面図である。
【図4】同充填構造のさらに他の状態を示す概略断面図である。
【図5】同充填構造のさらに他の状態を示す概略断面図である。
【図6】この発明の実施例2であるハンディ型防爆型無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【図7】従来の防爆型無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【図8】同充填構造の他の状態を示す概略断面図である。
【図9】同充填構造のさらに他の状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下この発明を実施するための形態を実施例に即して説明する。
【実施例1】
【0021】
この発明の実施例1である防爆型無線機の充填剤の充填構造を図1〜図5により説明する。図1はこの発明の実施例1である防爆型無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【0022】
図1に示すシャシ1は箱型に形成されており、プリント基板2の下面がシャシ1の底面と対向するようにプリント基板2がシャシ1の図示していないリブに締着される。プリント基板2にはU字形の充填剤注入口2aと空気排出口2b、2b…が設けられている。空気排出口2b、2b…は充填剤注入口2aから離れた位置に形成されたスルーホール拡大丸穴である。
【0023】
本構造では、シャシ1の底面とプリント基板2の下面との間の空間の充填時には流動抵抗を軽減するために無線機本体を傾け、充填剤の自重で流れやすくしている。すなわち、シャシ1は傾け治具4に載置され、充填剤注入口2aが上方となるようにシャシ1が傾斜している。この状態で充填剤注入口2aの円弧形状部に円筒形の充填剤注入ノズル3を置合わせし、充填剤注入ノズル3から合成樹脂製の充填剤である樹脂5が充填される。
【0024】
そして、樹脂5は前記空間の空気を空気排出口2b、2b…から押し出してこの空間を満たす。シャシ側充填後、そのまま充填を継続し空気排出口2b、2b…や充填剤注入口2aから溢れた充填剤でプリント基板2表面を覆うが、特定の箇所より溢れる量が多い場合、プリント基板2上面で充填剤が平坦になるまでに長時間を要するようになる。よって複数の箇所より充填剤をプリント基板2上面に略均一に溢れさせるようにすることで充填剤が平坦となるまでの時間を短くしている。
【0025】
前記空間充填完了時に充填剤が空気排出口2b、2b…や充填剤注入口2aから均等に溢れるにようにするためには、シャシ内部空気が排出され充填剤が満たされたことによる流動抵抗発生時に過度の溢れ出しを抑制することと、充填剤注入口2aの隙間と空気排出口2b、2b…から同時に、かつ略均一に溢れ出すようにする必要がある。
【0026】
前記空間の充填が完了した状態では、充填剤注入口2aの隙間と各空気排出口2b、2b…それぞれには等しく大気圧がかかっているため、プリント基板2上面に溢れる量は充填剤注入口2aの隙間と各空気排出口2b、2b…のそれぞれの面積に比例する。
【0027】
充填剤が充填剤注入口2aで溢れ出す量と各空気排出口2b、2b…で溢れ出す量を均一にするために、充填剤注入口2aと充填剤注入ノズル3の隙間の面積に対して各空気排出口2b、2b…のそれぞれの面積が略等しいように設定している。
【0028】
このように、空気排出口2b、2b…の数、大きさ、位置を最適とすることにより樹脂5がプリント基板2の上面に略水平状態となるように溢れさせることができ、水平となるまでに放置する時間を短縮することが可能となっている。
【0029】
充填剤注入口2aの位置と大きさ、各空気排出口2b、2b…の位置と大きさは設計事項であるが、充填剤注入口2aと各空気排出口2b、2b…はプリント基板2上で対称の位置であることが望ましく、プリント基板2上に均等(等間隔)かつ対称に配置することで、複数の箇所から略同時かつ均一に溢れ、略水平にプリント基板2表面を充填剤で覆うことがでる。
【0030】
なお、プリント基板2の外周付近に、充填剤注入口2aと各空気排出口2b、2b…が配置され、プリント基板2上面の中央部の充填が遅れ略均一とならない場合は、必要に応じて中央部に適当な空気排出口を設けてもよい。また、プリント基板2上面の部品配置により充填剤が流れにくい箇所には適当な排出口を設けてもよい。
【0031】
図2および図3に樹脂5がプリント基板2の下面とシャシ1の底面との間を流れる様子が示されている。このとき、シャシ1は傾斜しているので樹脂5は充填剤注入口2aから離れた方向に容易に流れる。そして、空気排出口2b、2b…から溢れるようになる。
【0032】
図4は全ての空気排出口2b、2b…から樹脂5が溢れた状態を示しており、この状態となると、シャシ1は傾け治具4から取り上げて図5に示すように水平状態とする。この状態に放置することにより重力により樹脂5の表面は水平となる。その後、樹脂5は高温硬化されてプリント基板2の上下面が硬化された樹脂5の充填剤で覆われた状態となる。
【0033】
このように、プリント基板2の上面に溢れる樹脂5は殆ど全てがプリント基板2の下面を流れるので、プリント基板2の下面を流れる樹脂の量が多く、プリント基板2の下面に残る空気がなくなる。
【実施例2】
【0034】
図6はこの発明の実施例2である防爆型無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。この例では、シャシ6の下面周囲に角部リブ6aが形成され、シャシ6の下面中央部にプリント基板2をねじ7で締着するための締着用リブ6bが形成されている。角部リブ6aの一部に切欠き6cが設けられており、プリント基板2の対応する位置にも切り欠きを設けることにより空気排出口が形成されている。他の構成は実施例1と同様である。
【0035】
この例によると、プリント基板2の周辺部に大きい空気排出口が形成され、樹脂5の停滞部分を少なくすることができ、プリント基板2の下面の空気をさらに容易に押し出すことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明の防爆型無線機の充填剤の充填構造および充填方法によると、プリント基板の導電部が完全に充填剤で覆われるため、発火性雰囲気で使用されるハンディ型無線機に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 シャシ
2 プリント基板、2a 充填剤注入口、2b 空気排出口
3 充填剤注入ノズル
4 傾け治具
5 樹脂
6 シャシ、6a 角部リブ、6b 締着用リブ、6c 切欠き
7 ねじ
11 シャシ
12 プリント基板、12a 充填剤注入口、12b 空気排出口
13 樹脂板、13a 充填剤注入口、13b 空気排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面解放の箱型のシャシ底面に間隔をおいて対向するようにプリント基板を前記シャシ内部に配置した防爆型無線機において、
前記プリント基板は充填剤を注入する充填剤注入ノズルを挿入するための充填剤注入口と、1または複数の空気排出口とを有し、
前記充填剤注入ノズルの先端と前記充填剤注入口との間には予め定められた面積の第1の隙間が設けられ、
前記充填剤注入口から前記充填剤注入ノズルを挿入して前記シャシと前記プリント基板との間の空間に充填剤を充填することで前記空間内の空気を排出し、さらに、充填を継続することで充填剤を前記空気排出口からプリント基板上面に溢れさせ、さらに、前記第1の隙間からも充填剤を溢れさせることにより、
前記空間と前記プリント基板の上面の上方まで充填剤が充填されていることを特徴とする防爆型無線機。
【請求項2】
前記プリント基板を支えるリブが前記シャシ底面の周囲角部に形成され、前記プリント基板外周部とシャシ内壁との間に第2の隙間が設けられ、
前記リブ上面の一部に設けた切り欠きと前記第2の隙間とにより前記空気排出口が形成されていることを特徴とする請求項1の防爆型無線機。
【請求項3】
前記プリント基板上面へ充填剤が略均一に溢れるように前記第1の隙間と前記空気排出口の面積と配置とを設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の防爆型無線機。
【請求項4】
上面解放の箱型のシャシ底面に間隔をおいて対向するようにプリント基板が前記シャシ内部に配置される防爆型無線機の充填剤の充填方法において、
充填剤注入ノズルの先端との間に予め定められた面積の第1の隙間を設けたプリント基板上の充填剤注入口から前記シャシと前記プリント基板の間の空間に充填剤を注入し前記空間内の空気を前記プリント基板に設けた1または複数の空気排出口より排出させるステップと、
前記空間に充填剤を充填後さらに充填を継続し、前記第1の隙間と空気排出口から充填剤を前記プリント基板上面に溢れさせるステップと、
前記第1の隙間と空気排出口から溢れる充填剤によって前記プリント基板上面を略水平に覆うステップと、
前記プリント基板上面が充填剤で覆われた後充填剤注入ノズルを抜き取り、充填剤を硬化させるステップと、
を含むことを特徴とする防爆型無線機の充填剤の充填方法。
【請求項5】
前記充填剤注入口から充填剤注入ノズルにより前記空気排出口から充填剤が溢れでるまでの間前記シャシを傾斜させる治具により前記空気排出口より前記充填剤注入口を上側位置とすること、
を特徴する請求項4に記載の防爆型無線機の充填剤の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−40840(P2011−40840A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184026(P2009−184026)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】