説明

防眩フィルム

【課題】本発明にあっては、液晶ディスプレイ表面に設けた際に、高いコントラストを有すること、指紋拭き取り性能を有すること、高価な帯電防止剤を使用せずに保護フィルム剥離時の帯電を抑えることを満たす防眩フィルムを提供する。
【解決手段】透明基材と、その一方の面上に防眩層を備える防眩フィルムであって、トータルヘイズ(Hz)が1.0%以上8.0%以下の範囲であり、暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下であり、アルカリ処理後の水接触角が90度以上140度以下であり、摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下であることを特徴とする防眩フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓やディスプレイなどの表面に設けられる防眩フィルムに関する。特に、液晶ディスプレイ(LCD)、CRTディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、プラズマディスプレイ(PDP)、表面電界ディスプレイ(SED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などのディスプレイの表面に設けられる防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、ELディスプレイ、および、プラズマディスプレイなどのディスプレイにおいては、視聴時にディスプレイ表面に外光が映りこむことによる視認性の低下を防ぐために、表面に凹凸構造を備える防眩フィルムをディスプレイの表面に設けることが知られている。
【0003】
防眩フィルムを形成する技術としては、例えば、バインダマトリックス形成材料中に粒子を混入させた塗液を塗布し、バインダマトリックス中に粒子を分散させることにより、防眩フィルム表面に凹凸構造を形成する技術が知られている(特許文献1)。
このようにして形成される凹凸構造を表面に備える防眩フィルムにおいては、表面凹凸構造により防眩フィルム入射する外光が散乱することにより、外光の像が不鮮明となり、ディスプレイ表面に外光が映りこむことによる視認性の低下を防ぐことが可能となる。
【0004】
バインダマトリックスと粒子を用いた防眩フィルムにあってはさまざまな技術が開示されており、例えば、以下のような技術が開示されている。
・バインダマトリックス樹脂と球形粒子と不定形粒子を併用する技術(特許文献2)。
・バインダマトリックス樹脂と複数の粒径の異なる粒子を用いる技術(特許文献3)。
【0005】
また、以下のような技術も開示されている。表面に凹凸構造を設けることにより外光の映りこむことによる視認性の低下を防ぐことができるが、同時にギラツキが発生するというトレードオフの関係を解消する方法として内部ヘイズを設けることで透過光を散乱させてギラツキの原因であるレンズ効果を抑制する技術があるが、透過光が散乱することでコントラストが低下するという問題があった(特許文献4)。
【0006】
また、ディスプレイの表面帯電による塵埃の吸着や静電気の発生に加え、液晶ディスプレイにおいては水平方向に電荷をかけるVA(Vertical Alignment)モードやIPS(In−Plane Switching)モードでは静電気により発生する表示の乱れを抑制する為に帯電防止性を付与する技術もあるが、透過率の低下や最表面に帯電防止層を形成するものでは、液晶セルとの間に偏光板が存在する為に上記効果が薄く、静電気の発生を防止できないという問題があった(特許文献5)。
【0007】
そこで、最表面の防眩性フィルムではなく、液晶セルにより近い偏光板と液晶セルを接着させる粘着層に帯電防止性を付与する技術もある(特許文献6)。
【0008】
このように様々な目的で様々な構成の防眩フィルムが開示されている。
ディスプレイの前面に用いられる防眩フィルムの性能は場合、ディスプレイによって異なる。言い換えると、ディスプレイの解像度や使用目的などにより最適な防眩フィルムは異なる。したがって、目的に応じた形で多様な防眩フィルムが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−18706号公報
【特許文献2】特開2003−260748号公報
【特許文献3】特開2004−004777号公報
【特許文献4】特開2000−314875号公報
【特許文献5】特開2002−254573号公報
【特許文献6】特開2003−294951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ディスプレイの最表面に用いられる防眩フィルムにあっては映り込みを抑制する機能が求められていたが、顧客要求が高まるにつれ、テレビ用のモニターのように使用者とディスプレイとの距離が離れた位置から視認する用途では、映り込みを抑制しながら高いコントラストを有する高い視認性が求められるようになっている。一方、ノートパソコンやデスクトップパソコンのような近い位置から視認する用途では、パネル解像度の高精細化の要求に伴い、表示した画像がチラチラする現象(ギラツキ)の低減も求められるようになっている。また、近年、ディスプレイ表面に付着した指紋や皮脂等の付着汚れ拭き取り性などの防汚性の付与が求められると共に、高付加価値機能を選択することによるコストダウンの要求もある。
【0011】
しかし、高い防眩性とコントラストの向上は相反する特性であり、コントラストを向上させるために表面凹凸を小さくし、クリア化すると外光を散乱しなくなるために防眩性が低下してしまい、両者を両立することは困難であった。
【0012】
具体的には、防眩フィルムは防眩層表面に凹凸構造を備えることにより、防眩フィルム表面に入射する外光を散乱させ、防眩フィルム表面に映りこむ外光の像を不鮮明とするものである。防眩層がバインダマトリックスと粒子からなる場合、防眩層表面の凹凸は粒子が単独あるいは複数が凝集して表面から突出することによって形成される表面ヘイズと内部散乱粒子による透過光の散乱による内部ヘイズにより形成される。
【0013】
ギラツキを解消する方法としては、透過光を散乱させ、ギラツキの原因であるレンズ効果を抑制する手法、つまり、内部散乱粒子を添加することによる手法が用いられてきた。
【0014】
しかしながら、表面ヘイズ及び内部ヘイズを大きくすることは、トータルへイズを大きくすることになり、コントラストの低下につながる。防眩フィルムにおいて、高い防眩性とコントラストの向上は、トレードオフの関係にあり両者を両立することは困難であった。
【0015】
また、従来の防眩フィルムにあっては高い防眩性能によって表面に付着した指紋や皮脂等の汚れが目立ちにくいために、防眩フィルムに対して高い防汚性を要求されることはなかったが、コントラストの向上を目的としたクリア化された防眩フィルムにあっては付着した汚れが目立ち易い傾向にあり、高いコントラストと十分な汚れ拭き取り性の両立が求められている。
【0016】
さらに、従来の防眩フィルムにおいては高付加価値品のために防汚性の付与と共に帯電防止性を付与していたが、帯電防止機能を付与することはコストアップにつながることから必要な機能のみを選択して付与することによるコストダウンの要望が求められている。
【0017】
しかしながら、重合性基を有する含フッ素化合物により防汚性を付与するとフッ素が電荷を持つことから、従来の帯電防止機能を有さない防眩フィルムと比較し、表面電位が高くなってしまい、帯電性が大きく損なわれ不具合を起こすことから帯電防止機能が必要であり、コストダウンが進まなかった。
【0018】
そこで、本発明にあっては、防眩フィルムとして(A)高いコントラストを有すること、(B)十分な防眩性を有すること、(C)高い防汚性を有すること、(D)少ない帯電量であること、を満たす防眩フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明としては、透明基材と、その一方の面上に防眩層を備える防眩フィルムであって、(a)前記防眩フィルムのJIS−K7105−1981で規定されるトータルヘイズ(Hz)が1.0%以上8.0%以下の範囲内であり、且つ、(b)前記防眩層が暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下であり、(c)前記防眩層のアルカリ処理後の水接触角が90度以上140度以下の範囲内であり、
前記(a)と、(b)、(c)で規定された数値範囲をすべて満たしており、且つ、摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下であることを特徴とする防眩フィルムである。
【0020】
また、請求項2に係る発明としては、前記防眩層の防眩層形成用塗液のバインダマトリックスが、電離放射線硬化型アクリル系材料であって、且つ、前記防眩層形成用塗液のバインダマトリックスに含む粒子が、メタクリル酸メチルであり、さらに、前記防眩層形成用塗液に重合性基を有する含フッ素化合物を含有していることを特徴とする請求項1に記載の防眩フィルムである。
【0021】
また、請求項3に係る発明としては、請求項1乃至2のいずれかに記載の防眩層のJIS−K5600−1999で規定される平均膜厚が4μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の防眩フィルムである。
【0022】
また、請求項4に係る発明としては、請求項1乃至3のいずれかに記載の防眩フィルムと、当該防眩フィルムの防眩層非形成面に第1の偏光板を備えたことを特徴とする防眩性偏光板である。
【0023】
また、請求項5に係る発明としては、観察者側から順に、請求項4に記載の防眩性偏光板と、液晶セル、第2の偏光板、バックライトユニットをこの順に備え、前記防眩性偏光板の防眩層非形成面側に液晶セルを保持していることを特徴とする透過型液晶ディスプレイである。
【発明の効果】
【0024】
上記構成の防眩フィルムとすることにより、請求項1に記載の発明によれば、防眩フィルムのJIS−K7105−1981で規定されるトータルヘイズ(Hz)が1.0%以上8.0%以下の範囲であり、且つ前記防眩層の暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下であり、且つ前記防眩層のアルカリ処理後の水接触角が90度以上140度以下であり、且つ摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下にすることにより、防眩フィルムとして(A)高いコントラストを有し、(B)十分な防眩性を有し、(C)高い防汚性を有し、(D)少ない帯電量であること、を満たすことができる。
【0025】
また、透明基材上に塗布された電離放射線硬化型アクリル系材料で、防眩層を形成することにより、ディスプレイ表面に設けた際に十分なクラック耐性と鉛筆硬度を有することができ、メタクリル酸メチルを含む粒子にあっては、バインダマトリックス形成材料との相性が良く、バインダマトリックス中における粒子の挙動を容易に制御することができる。さらに防眩層に重合性基を有する含フッ素化合物を少なくとも含有することにより、防眩フィルム表面における防汚特性を併せ持たせることができる。
【0026】
また、さらに十分なクラック耐性と鉛筆硬度を有することができ、フィルムのカールの度合いを抑えることができる為、加工工程の際にも取り扱い易い利点を持った防眩フィルムが得られる。さらに、ディスプレイで表示する画像が鮮明であり、外光や照明のある環境で使用しても、画像の十分な視認性が得られる。
【0027】
よって、本発明による防眩フィルムは、高いコントラストと十分な防眩性を有しながら、高い防汚性と帯電をしないことを満たすことができ、前記防眩フィルムを用いれば、前記発明の効果を有する、透過型液晶ディスプレイを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例の防眩フィルムの断面模式図である。
【図2】本発明の一実施例の防眩フィルムを用いた透過型液晶ディスプレイである。
【図3】本発明の一実施例のダイコーター塗布装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に本発明の防眩フィルムの断面模式図を示した。
【0030】
本発明の防眩フィルム(1)は、透明基材(11)上に防眩層(12)を備える。本発明の防眩フィルム(1)の防眩層(12)は、バインダマトリックス(120)と粒子(121)を含む。
【0031】
本発明の防眩フィルムにあっては透明基材上に防眩層形成用塗液を塗布することにより形成されるが、本発明のバインダマトリックス形成材料とは防眩層形成用塗液の固形分から粒子を除いたものを指す。
【0032】
したがって、バインダマトリックス形成材料には、必要に応じてアクリル系材料の他に光重合開始剤や表面調整剤等の添加剤、熱可塑性樹脂等も含まれる。
【0033】
本発明の防眩フィルムにあっては、透明基材と、その一方の面上に防眩層を備える防眩フィルムであって、前記防眩フィルムのJIS−K7105−1981で規定されるトータルヘイズ(Hz)が1.0%以上8.0%以下の範囲であり、且つ前記防眩層の暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下であり、且つ前記防眩層が重合性基を有する含フッ素化合物を少なくとも含み、且つ前記防眩層のアルカリ処理後の水接触角が90度以上140度以下であり、且つ摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下であることを特徴とする。
【0034】
また、前記防眩フィルムのJIS−K7105−1981で規定されるトータルヘイズ(H)が1.0%以上8.0%以下の範囲内である。防眩フィルムのトータルヘイズ(H)が1.0%を下回る場合にあっては、凹凸の度合いが小さく、外光を十分に散乱することができなくなる為に、十分な防眩性を備える防眩フィルムとすることができなくなってしまうと共に、得られたフィルムを高精細ディスプレイに貼り合せた際、ギラツキが発生する場合がある。一方、トータルヘイズ(H)が8.0%を上回る場合にあっては、コントラストが低下し白茶け感の強い防眩フィルムとなってしまう。
【0035】
また、ここで示しているトータルヘイズ(H)とは、防眩フィルムの表面凹凸だけに起因する表面ヘイズ(H)と、防眩層内部だけに起因する内部ヘイズ(H)を足した値(H+H)が、防眩フィルムのトータルヘイズ(H)(または、全体ヘイズともいう。)を示すものである。
【0036】
なお、防眩層の内部ヘイズは、JIS−K7105−1981に準じて透明粘着剤等を用いて防眩層表面の凹凸をキャンセルした状態にて防眩フィルムを測定することで内部ヘイズを求めることができる。
【0037】
また、防眩層の暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下の範囲内である。防眩層の暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%を上回る場合、上記トータルヘイズの範囲内であっても白茶け感の強い防眩フィルムとなってしまう。防眩層の暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下であれば、コントラストの高い黒表示が引き締まったフィルムを得ることができる。
【0038】
なお、コントラストの低下率は、防眩フィルムが無い状態にて測定した値からの防眩フィルムのコントラストの低下率を示すものである。
【0039】
また、防眩層が重合性基を有する含フッ素化合物を少なくとも含んでいる。防眩フィルムにあっては、防眩層に重合性基を有する含フッ素化合物を添加することにより、防眩層形成時にフッ素系化合物と防眩層を形成するアクリル材料が結合することができ、布等で防眩層表面を複数回拭いても防眩層を維持することができる。重合性基を有しない含フッ素化合物の場合には、化合物が防眩層表面に浮いた状態にて存在するために、布等で拭くことで表面から取り去られてしまうこととなり、フッ素化合物が防眩層表面に定着しない欠点がある。また、高い防汚性を付与する化合物としてシリコーン系化合物も挙げられるが、シリコーン系化合物を添加した場合にも同様の不具合が生じてしまう。
【0040】
さらに、防眩層のアルカリ処理後の水接触角が90度以上140度以下の範囲内である。アルカリ処理前の水接触角が上記範囲内であっても、防眩層のアルカリ処理後の水接触角が90度を超える場合、十分な汚れ拭き取り性能を発揮しないだけでなく、耐久性も劣ってしまう。また、防眩層形面と反対の面に粘着層を設ける等してディスプレイの最表面に配置したり、そのまま偏光板用保護フィルムとして使用したりする場合には、十分に接着させるためには透明基材上に最外層を形成した後、鹸化処理を実施することがあり、アルカリ処理による耐久性が求められる。防眩層のアルカリ処理後の水接触角が140度を超える場合は、特性面には不具合を生ずることなく高い防汚機能を有するが、材料が高価であるために防眩性フィルムとしての用途には適さない。
【0041】
なお、アルカリ処理とはアルカリ液の中に該フィルムを適切な時間浸漬して実施される。アルカリ液に浸漬した後は、該フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗し、乾燥する処理のことである。
【0042】
加えて、摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下の範囲内である。摩擦帯電圧の絶対値が1.0kVを超える場合、静電気により埃が付着しやすかったり、防眩フィルム表面に保護フィルム等を貼り合せる後工程における加工では剥離帯電により静電気が発生し、加工に適さなかったりする。摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下の範囲内であれば、実使用上、問題とはならない。
【0043】
なお、摩擦帯電圧とは防眩フィルム表面を擦ることにより発生した静電気を表面電位測定することにより得られる。
【0044】
また、本発明の防眩フィルムにあっては、スチレンとメタクリル酸メチルの共重合体からなる粒子またはメタクリル酸メチルからなる粒子を用いることにより、バインダマトリックス形成材料との相性が良く、分散状態に偏りが生じず、バインダマトリックス中における粒子の挙動を容易に制御することができ、外観上の粗密ムラを抑えることができる。
特に、メタクリル酸メチルの単重合体またはスチレンとメタクリル酸メチルの共重合体であることが好ましい。
【0045】
また、防眩層の塗膜形成に際しては、JIS−K5600−1999で規定される平均膜厚が4μm以上10μm以下の範囲内とすることが好ましい。防眩層の平均膜厚が4μmを下回る場合、十分な鉛筆硬度を確保することができない。また防眩層の平均膜厚が10μmを上回る場合にあっては、コスト高になることに加え、防眩フィルムを曲げた際の防眩層の曲率半径が大きくなる為に塗膜最表面にかかる力が大きくなるので十分なクラック耐性を備える防眩フィルムとすることができなくなってしまう。また、防眩層の硬化収縮が大きくなり、基材との応力差が大きくなりフィルムのカールの度合いを抑えることができないために、加工工程の際に取り扱いが困難であり、加工の際に基材端部に浮きが生じることで破断や泡噛み等の不具合が生じてしまうことがある。
【0046】
なお、平均膜厚(T)は、電子マイクロメーター、全自動微細形状測定機により求めることができ、粒子の粒子径(R)は光散乱式粒径分布測定法により測定することができる。
【0047】
本発明の防眩フィルムは、必要に応じて、反射防止性能、帯電防止性能、電磁波シールド性能、赤外線吸収性能、紫外線吸収性能、色補正性能等を有する機能層が設けられる。これらの機能層としては、反射防止層、帯電防止層、電磁波遮蔽層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、色補正層等が挙げられる。なお、これらの機能層は単層であってもかまわないし、複数の層であってもかまわない。機能層は、色補正性能を有する反射防止層というように、1層で複数の機能を有していても構わない。また、これらの機能層は、透明基材と防眩層の間に設けても良いし、防眩層上に設けても良い。また、本発明にあっては、各種層間の接着性向上のために、各層間にプライマー層や接着層等を設けても良い。
【0048】
図2に本発明の防眩フィルムを用いた透過型液晶ディスプレイを示した。図2(a)の透過型液晶ディスプレイにおいては、防眩フィルム(1)を、一方の面に貼り合わせた第1の偏光板(2)を防眩層非形成面に備えた防眩性偏光板(200)、液晶セル(3)、第2の偏光板(4)、バックライトユニット(5)をこの順に備えている。このとき、防眩フィルム(1)側が観察側すなわちディスプレイ表面となる。
【0049】
図2(a)にあっては、防眩フィルム(1)の透明基材(11)と第1の偏光板(2)の透明基材を別々に備える透過型液晶ディスプレイとなっている。
【0050】
バックライトユニット(5)は、光源と光拡散板を備える。液晶セル(3)は、一方の透明基材に電極が設けられ、もう一方の透明基材に電極及びカラーフィルターを備えており、両電極間に液晶が封入された構造となっている。液晶セル(3)を挟むように設けられる第1、第2の偏光板にあっては、透明基材(21、22、41、42)間に偏光層(23、43)を挟持した構造となっている。
【0051】
また、図2(b)にあっては、透明基材(11)の一方の面に防眩層(12)を備えた防眩フィルム(1)と、当該防眩フィルムの防眩層非形成面に、偏光層(23)、透明基材(22)を順に備えて、防眩性偏光板(210)を形成し、防眩性偏光板(210)、液晶セル(3)、第2の偏光板(4)、バックライトユニット(5)をこの順に備えている。このとき、防眩フィルム(1)の防眩層(12)側が観察側すなわちディスプレイ表面となる。
【0052】
図2(b)にあっては、防眩フィルムの防眩層非形成面に、第1の偏光板として、偏光層(23)と透明基材(22)をこの順に備えた防眩性偏光板(210)を備えた透過型液晶ディスプレイとなっている。
【0053】
図2(a)と同様に、バックライトユニット(5)は、光源と光拡散板を備える。液晶セルは、一方の透明基材に電極が設けられ、もう一方の透明基材に電極及びカラーフィルターを備えており、両電極間に液晶が封入された構造となっている。液晶セル(3)を挟むように設けられる第1、第2の偏光板にあっては、透明基材(11、22、41、42)間に偏光層(23、43)を挟持した構造となっている。
【0054】
また、本発明の透過型液晶ディスプレイにあっては、他の機能性部材を備えても良い。他の機能性部材としては、例えば、バックライトから発せられる光を有効に使うための、拡散フィルム、プリズムシート、輝度向上フィルムや、液晶セルや偏光板の位相差を補償するための位相差フィルムが挙げられるが、本発明の透過型液晶ディスプレイはこれらに限定されるものではない。
【0055】
次に、本発明の防眩フィルムの製造方法について示す。
【0056】
本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、少なくとも電離放射線によって硬化するバインダマトリックス形成材料と粒子を含む防眩層形成用塗液を透明基材上に塗布し、透明基材上に塗膜を形成する工程と、バインダマトリックス形成材料を電離放射線により硬化させる硬化工程を備えることにより透明基材上に防眩層を形成することができる。
【0057】
バインダマトリックス形成材料としては、電離放射線硬化型アクリル系材料を用いることができる。電離放射線硬化型アクリル系材料としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような単官能または多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。またこれらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0058】
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示している。たとえば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタアクリレート」の両方を示している。
【0059】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
前記2官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0061】
前記3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0062】
また、ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有アクリレートを反応させることによって得られる化合物を用いることができるが、具体的には、共栄社化学社製、UA−306H、UA−306T、UA−306I等、日本合成化学社製、UV−1700B、UV−6300B、UV−7600B、UV−7605B、UV−7640B、UV−7650B等、新中村化学社製、U−4HA、U−6HA、UA−100H、U−6LPA、U−15HA、UA−32P、U−324A等、ダイセルユーシービー社製、Ebecryl−1290、Ebecryl−1290K、Ebecryl−5129等、根上工業社製、UN−3220HA、UN−3220HB、UN−3220HC、UN−3220HS等を用いることができる。
【0063】
また、バインダマトリックス形成材料としては、電離放射線硬化型アクリル系材料の他に熱可塑性樹脂等を加えることもできる。熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を使用できる。熱可塑性樹脂を加えることにより、透明基材と防眩層との密着性を向上させることができる。また、熱可塑性樹脂を加えることにより、製造される防眩フィルムのカールを抑制することができる。
【0064】
また、電離放射線として紫外線を用いる場合、防眩層形成用塗液に光重合開始剤が加えられる。光重合開始剤は、公知の光重合開始剤を用いることができるが、用いるバインダマトリックス形成材料にあったものを用いることが好ましい。光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類等が用いられる。光重合開始剤の使用量は、バインダマトリックス形成材料に対して0.5重量部〜20重量部である。好ましくは1重量部〜5重量部である。
【0065】
本発明に用いられる粒子としては、アクリル粒子(屈折率1.49)、アクリル・スチレン粒子(屈折率1.49〜1.59)、ポリスチレン粒子(屈折率1.59)、ポリカーボネート粒子(屈折率1.58)、メラミン粒子(屈折率1.66)、エポキシ粒子(屈折率1.58)、ポリウレタン粒子(屈折率1.55)、ナイロン粒子(屈折率1.50)、ポリエチレン粒子(1.50〜1.56)、ポリプロピレン粒子(屈折率1.49)、シリコーン粒子(屈折率1.43)、ポリテトラフルオロエチレン粒子(屈折率1.35)、ポリフッ化ビニリデン粒子(屈折率1.42)、ポリ塩化ビニル粒子(屈折率1.54)、ポリ塩化ビニリデン粒子(屈折率1.62)、ガラス粒子(屈折率1.48)、シリカ(屈折率1.43)等を用いることができる。なお、本発明にあっては、粒子は複数種の粒子であっても構わない。
【0066】
本発明に用いられる透明基材としては、ガラスやプラスチックフィルムなどを用いることができる。プラスチックフィルムとしては適度の透明性、機械強度を有していれば良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等のフィルムを用いることができる。中でも、トリアセチルセルロースフィルムは複屈折が少なく、透明性が良好であることから好適に用いることができ、特に、本発明の防眩フィルムを液晶ディスプレイ表面に設けるにあっては、透明基材としてトリアセチルセルロース(厚み35μm〜80μm)を用いることが好ましい。
【0067】
また、図2(b)で示したように、透明基材の防眩層が設けられる面の反対側の面に偏光層を設けることも可能である。このとき、偏光層としては、ヨウ素を加えた延伸ポリビニルアルコール(PVA)からなるものを例示することができる。このとき、偏光層は透明基材に狭持されている。
【0068】
防眩層形成用塗液には、必要に応じて溶媒を加える。溶媒を加えることにより、粒子やバインダマトリックスを均一に分散させ、また、防眩層形成用塗液を透明基材上に塗布するに際し、塗液の粘度を適切な範囲に調整することが可能となる。
【0069】
本発明においては、透明基材としてトリアセチルセルロースを用い、トリアセチルセルロースフィルム上に他の機能層を介さず直接防眩層を設ける場合には、防眩層形成用塗液の溶媒として、トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させる溶媒とトリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させない溶媒の混合溶媒を用いることが好ましく、混合溶媒を用いることによりトリアセチルセルロースフィルムと防眩層界面において十分な密着性を有する防眩フィルムとすることができる。
【0070】
このとき、トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させる溶媒としては、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、またアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびエチルシクロヘキサノン等の一部のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させない溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトンなどの一部のケトン類などが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
また、本発明にあっては、防眩層のアルカリ処理後の水接触角を90度以上140度以下の範囲とするために重合性基を有する含フッ素化合物が添加される。重合性基を有する含フッ素化合物としては、例えば、アルキル基の水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたフルオロアルキル基(パーフルオロアルキル基)を備え、且つ、炭素−炭素不飽和二重結合を有している化合物を例示することができる。
【0073】
このような本発明の重合性基を有する含フッ素化合物としては、オプツールDAC(ダイキン工業(株)製)、SUA1900L10、SUA1900L6(新中村化学(株)製)、UT3971(日本合成(株)製)、ディフェンサTF3001、ディフェンサTF3000、ディフェンサTF3028(大日本インキ(株)製)、ライトプロコートAFC3000(共栄社化学(株)製)、KNS5300(信越シリコーン(株)製)、UVHC1105、UVHC8550(GE東芝シリコーン(株)製)などが挙げられるが、防眩層のアルカリ処理後の水接触角を90度以上140度以下の範囲とする作用を有するものであればこれに限定されるものではない。
【0074】
本発明にあっては、塗布、形成される防眩層(塗膜)においてハジキ、ムラといった塗膜欠陥の発生を防止するために、防眩層形成用塗液に表面調整剤と呼ばれる添加剤を加えても良い。表面調整剤は、その働きに応じて、レベリング剤、消泡剤、界面張力調整剤、表面張力調整剤とも呼ばれるが、いずれも形成される塗膜(防眩層)の表面張力を低下させる働きを備える。
【0075】
また、本発明の防眩層形成用塗液においては、塗液中に先に述べた表面調整剤のほかにも、他の添加剤を加えても良い。ただし、これらの添加剤は形成される防眩層の透明性、光の拡散性などに影響を与えないほうが好ましい。
【0076】
機能性添加剤としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、屈折率調整剤、密着性向上剤、硬化剤、などを使用でき、それにより、形成される防眩層に帯電防止機能、紫外線吸収機能、赤外線吸収機能、といった、防眩機能以外の機能を持たせることができる。
【0077】
防眩層形成用塗液は透明基材上に塗布され、塗膜を形成する。例えば、防眩層形成用塗液を透明基材上に塗布するための塗工方法としては、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ダイコーターを用いた塗工方法を使用できる。中でも、ロール・ツー・ロール方式で高速で塗工することが可能なダイコーターを用いることが好ましい。また塗液の固形分濃度は、塗工方法により異なる。固形分濃度は、重量比でおおよそ30〜70重量%であればよい。
【0078】
次に、本発明のダイコーター塗布装置について説明する。図3に本発明のダイコーター塗布装置の模式図を示した。本発明のダイコーター塗布装置は、ダイヘッド(30)と塗液タンク(32)が配管(31)によって接続され、送液ポンプ(33)によって、塗液タンク(32)の防眩層形成用塗液がダイヘッド(30)内に送液される構造となっている。ダイヘッド(30)に送液された防眩層形成用塗液はスリット間隙から塗液を吐出し、透明基材(11)上に塗膜が形成される。巻き取り式の透明基材(11)を用い回転ロール(35)を使用することにより、ロール・ツー・ロール方式により連続して透明基材上に塗膜を形成することができる。
【0079】
塗液を透明基材上に塗布することにより得られる塗膜に対し、電離放射線を照射することにより、防眩層が形成される。電離放射線としては、紫外線、電子線を用いることができる。紫外線硬化の場合は、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク等の光源が利用できる。また、電子線硬化の場合はコックロフトワルト型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される電子線が利用できる。電子線は、50〜1000KeVのエネルギーを有するのが好ましい。100〜300KeVのエネルギーを有する電子線がより好ましい。
【0080】
なお、硬化により防眩層を形成する工程の前後に乾燥工程を設けてもよい。また、硬化と乾燥を同時におこなってもよい。特に、塗液がバインダマトリックス材料と粒子と溶媒を含む場合、形成された塗膜の溶媒を除去するために電離放射線を照射する前に乾燥工程を設ける必要がある。乾燥手段としては加熱、送風、熱風などが例示される。
【0081】
以上により、本発明の防眩フィルムは製造される。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を示す。
【0083】
(実施例1)
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム製TD−80U)を用いた。バインダマトリックス形成材料として、アクリル系材料であるペンタエリスリトールトリアクリレート(94.5重量部、屈折率1.48)と、光重合開始剤であるイルガキュア184(チバ・ジャパン製)(5重量部)と、重合性基を有する含フッ素化合物であるオプツールDAC(ダイキン工業製)(0.4重量部)を用意した。また、粒子として、屈折率1.53のメタクリル酸メチルを含む粒子を用意し、あわせて100重量部とした。
【0084】
また、溶媒として、トルエン(70重量部)とジオキソラン(30重量部)を用意し、バインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を混合し防眩層形成用塗液とした。
【0085】
そしてダイコーター塗布装置を用いトリアセチルセルロース上に防眩層塗液を塗布し塗膜を得た。得られた塗膜に対し、乾燥をおこない塗膜に含まれる溶媒を除去し、その後、高圧水銀灯を用いて酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJ/cmの紫外線照射することにより塗膜を硬化させ、透明基材上に防眩層を備える防眩フィルムを作製した。得られた防眩層の平均膜厚(H)は5.8μmであった。
【0086】
(実施例1)の粒子屈折率(n):1.53、防眩層の平均膜厚(T):5.8μm、粒子含有量(重量部):5重量部、粒子径:5.0μm、含フッ素化合物含有量:0.4重量部を基準として、それぞれの防眩層の平均膜厚(T)、粒子屈折率(n)、粒子含有量(重量部)、粒子径(R)、含フッ素化合物含有量(重量部)の値を変化させて(実施例1)〜(実施例6)及び、(比較例1)〜(比較例3)の防眩フィルムを作製した。なお、(比較例2)にあっては、含フッ素化合物として重合性基をもたないフッ素系添加剤:F470(DIC製)を用いた。具体的な内容について以下に説明する。
【0087】
(実施例2)は、(実施例1)の防眩層について、平均膜厚(T):8.0μmに変化させた例である。
【0088】
(実施例3)は、(実施例1)の防眩層について、平均膜厚(T):4.9μmに変化させた例である。
【0089】
(実施例4)は、(実施例1)の防眩層について、平均膜厚(T):6.4μm、粒子径(R):4.0μm、粒子の屈折率(n):1.53、粒子含有量(重量部):3.0重量部に変化させた例である。
【0090】
(実施例5)は、(実施例1)の防眩層について、含フッ素化合物含有量(重量部):0.6重量部に変化させた例である。
【0091】
(実施例6)は、(実施例1)の防眩層について、含フッ素化合物含有量(重量部):0.2重量部に変化させた例である。
【0092】
(比較例1)は、(実施例1)の防眩層について、平均膜厚(T):5.9μm、粒子径(R):4.0μm、粒子の屈折率(n):1.54に変化させた例である。
【0093】
(比較例2)は、(実施例1)の防眩層について、平均膜厚(T):5.7μm、含フッ素化合物として重合性基をもたないフッ素系添加剤:F470に変化させた例である。
【0094】
(比較例3)は、(実施例1)の防眩層について、含フッ素化合物含有量(重量部):1.0重量部に変化させた例である。
【0095】
特に説明のないものは、(実施例1)の操作に準じるものとする。
【0096】
なお、(実施例2)〜(実施例6)及び、(比較例1)〜(比較例3)にあっては、バインダマトリックス形成材料(アクリル材料、光重合開始剤、含フッ素化合物)、溶媒は(実施例1)と同一の材料を用いて、(実施例1)と同一のダイコーター塗布装置により塗布する。また、乾燥条件、紫外線照射条件は(実施例1)と同じ条件で防眩フィルムを作製した。
【0097】
(表1)に、(実施例1)〜(実施例6)及び、(比較例1)〜(比較例3)の防眩層作製に用いた防眩層形成用塗液について示す。
【0098】
(実施例1)〜(比較例6)及び(比較例1)〜(比較例3)で得られた防眩フィルムについて、「平均膜厚(T)」、「粒子の屈折率(n)(バインダマトリックス(n))」「粒子径(R)」の測定をおこなった。以下にそれぞれの測定方法を示す。
【0099】
「平均膜厚(T)」
電子マイクロメーター(アンリツ製K351C)を用いJIS−K5600−1999に準じて、有効表面領域全体に一様に分布させた規定箇所の局所膜厚(t)測定をおこない、平均した膜厚を平均膜厚(T)とする。なお、有効表面領域を0.1m四方、規定箇所数を10点とした。
【0100】
「粒子の屈折率(n)(バインダマトリックス(n))」
微粒子の屈折率の測定方法としては、以下の3方法があり、微粒子の特性によりいずれかの方法により適用する。
【0101】
一つ目の方法としては、外挿法と言われる方法で、微粒子が溶媒に溶解することを利用した方法で、粒子の溶解している濃度とその屈折率から外挿により粒子の屈折率を求めている。この方法は粒子が溶液に溶解しなければならないという前提がある。
【0102】
二つ目の方法としては、ベッケ線法と言われる方法で、プレパラート上に微粒子をセットし、分散液を滴下した後、顕微鏡により微粒子の縁の内側と外側に生じるベッケ線を目視により観察する。この時、鏡筒を上下させ、ベッケ線が確認できるまで、分散液の屈折率を調節し、分散液の屈折率から求める方法である。粒子が非常に小さい場合、ベッケ線の確認が困難である。
【0103】
三つ目の方法としては、液浸法と言われる方法で、ベッケ線法とよく類似しており、分散液の屈折率を変え、光を照射して分散液中の微粒子による散乱光が目視により見えなくなった時の屈折率を微粒子の屈折率としている。しかし、液浸法は目視により散乱光の変化を観察しているため、どうしても主観的な要素が入ってくる。
【0104】
本発明の粒子の屈折率(n)は、三つ目の方法である液浸法により測定した。
【0105】
バインダマトリックスの屈折率(n)は、粒子を除いたバインダマトリック形成材料と溶媒からなる塗液を塗布、乾燥、紫外線硬化させたものを用いベッケ線検出法(液浸法)により測定した。
【0106】
「粒子径(R)」
粒子の粒子径(R)は光散乱式粒径分布測定法により測定した。
【0107】
具体的には、粒子径の測定方法の一つのグループに、光散乱/回折法があり、光散乱式粒径分布測定法は、その粒径、粒径分布の測定法の一つで、流体中に浮遊する微小な粒子に光が当たって生じる散乱現象は、粒子の大きさ、屈折率、入射光の波長などで変化するが、粒子の大きさと散乱光量との関係が既知である条件下で散乱の光量とその発生数を計測すれば粒径分布が求められるものである。その求められた粒径分布より、中心となる粒子径を特定する方法である。また、本発明では用いなかったが、JIS−Z8901に準拠する幾つかの方法によっても粒子径を測定することはできる。
【0108】
(表1)に実施例及び比較例で得られた防眩フィルムの「平均膜厚(T)」、「粒子の屈折率(n)(バインダマトリックス(n))」「粒子径(R)」の評価結果を示す。
【0109】
【表1】

【0110】
また、(実施例1)〜(比較例6)及び(比較例1)〜(比較例3)で得られた防眩フィルムについて、以下の方法で、(1)トータルへイズ(2)コントラスト、(3)摩擦帯電圧、(4)水接触角、(5)の評価をおこなった。以下にそれぞれの評価方法を示す。
【0111】
「トータルヘイズ」
ヘイズメータ(日本電色工業製NDH2000)を用いJIS−K7105−1981に準じてヘイズを測定した。
【0112】
「コントラスト」
液晶モニター(BUFFALO社製FTD−W2023ADSR)に防眩フィルムを粘着剤を介して貼り付け、輝度計(コニカミノルタ製LS−100)を用いて液晶モニターの白表示時の輝度(白輝度)、黒表示時の輝度(黒輝度)を測定し、白輝度を黒輝度で除した値をコントラストとした。測定環境下は暗室条件にて測定した。このとき、防眩フィルムの測定値を防眩フィルムが無い状態で測定した値を100%とし、低下した割合を低下率とした。
【0113】
「摩擦帯電圧」
黒色のプラスチック板に粘着剤を介して貼り付け、25℃−50%の環境下にて防眩層の表面をベンコットン(旭化成株式会社製ベンコットンM−3)にて3往復拭いた後、デジタル静電電位測定器(春日電機株式会社製KSD−0103)にて帯電量の測定をした。
【0114】
「水接触角」
接触角計(協和界面化学株式会社製CA−X型)を用いて、乾燥状態(20℃−65%RH)で直径1.8mmの液滴を針先に作り、これを防眩層の表面に接触させて液滴を作った。接触角とは、固体と液体とが接触する点における液体表面に対する接線と固体表面とがなす角であり、液体を含む側の角度で定義した。液体としては、蒸留水を使用した。
【0115】
なお、水接触角は防眩フィルムをアルカリ処理した後に測定を行った。アルカリ処理とは50℃に加温した1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬して実施される。アルカリ液に浸漬した後は、該フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗し、十分に乾燥する処理のことである。
【0116】
(表2)に実施例及び比較例で得られた防眩フィルムの「トータルへイズ」、「コントラスト」、「摩擦帯電圧」、「水接触角」の評価結果を示す。
【0117】
【表2】

【0118】
よって、(実施例1)〜(実施例6)にあっては、(比較例1)〜(比較例3)の防眩フィルムと比較して、(A)高いコントラストを有し、(B)十分な防眩性を有し、(C)高い防汚性を有し、(D)少ない帯電量であることを備えた防眩フィルムを得ることができた。さらに(実施例1)にあっては、全ての項目を満たすことができる高い防眩性を備えた防眩フィルムとすることができた。
【符号の説明】
【0119】
1 防眩フィルム
11 透明基材
12 防眩層
120 バインダマトリックス
121 粒子
T 防眩層の平均膜厚
2 第1の偏光板
21 透明基材
22 透明基材
23 偏光層
200 防眩性偏光板
210 防眩性偏光板
3 液晶セル
30 ダイヘッド
31 配管
32 塗液タンク
33 送液ポンプ
35 回転ロール
4 第2の偏光板
41 透明基材
42 透明基材
43 偏光層
5 バックライトユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、その一方の面上に防眩層を備える防眩フィルムであって、
(a)前記防眩フィルムのJIS−K7105−1981で規定されるトータルヘイズ(Hz)が1.0%以上8.0%以下の範囲内であり、且つ、
(b)前記防眩層が暗室条件下でのコントラスト低下率が3.0%以下であり、
(c)前記防眩層のアルカリ処理後の水接触角が90度以上140度以下の範囲内であり、
前記(a)と、(b)、(c)で規定された数値範囲をすべて満たしており、
且つ、摩擦帯電圧の絶対値が1.0kV以下であることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項2】
前記防眩層の防眩層形成用塗液のバインダマトリックスが、電離放射線硬化型アクリル系材料であって、且つ、前記防眩層形成用塗液のバインダマトリックスに含む粒子が、メタクリル酸メチルであり、
さらに、前記防眩層形成用塗液に重合性基を有する含フッ素化合物を含有していることを特徴とする請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の防眩層のJIS−K5600−1999で規定される平均膜厚が4μm以上10μm以下であることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の防眩フィルムと、当該防眩フィルムの防眩層非形成面に第1の偏光板を備えたことを特徴とする防眩性偏光板。
【請求項5】
観察者側から順に、請求項4に記載の防眩性偏光板と、液晶セル、第2の偏光板、バックライトユニットをこの順に備え、前記防眩性偏光板の防眩層非形成面側に液晶セルを保持していることを特徴とする透過型液晶ディスプレイ。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−174976(P2011−174976A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37123(P2010−37123)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】