説明

防藻機能を有する水処理装置

【課題】 水処理に必要な生物活性を維持しつつ藻類の発生を防止するのに十分な効果を発揮することのできる水処理装置を提供すること。
【解決の手段】 被処理水を接触させて不純物を除去するための生物膜を表面に形成した充填材を内部に配設した水処理槽と、その上部開口を遮蔽して槽内部に進入する可視光を実質的に完全に遮断する覆蓋とからなり、内部に520〜570nmの波長領域の光を発する緑色発光ダイオードを設置したことを特徴とする水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理槽内における藻類の発生を有効に防止することのできる水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川や湖沼の水質汚濁のため上水道原水の水質が悪化し、凝集沈殿、砂過のような従来の浄水技術では十分に良質な上水水質が得られないため、原水の水質を改善することを目的として、従来の浄水プロセスの前処理として、水処理槽の内部に配設したハニカム状のチューブや粒状の充填材の表面にバクテリアによる生物膜を形成し、これに被処理水を接触させて原水中の濁質、細菌等の浮遊物やアンモニア、臭気物等の溶存性物質を除去することが広く行われている。
しかしながら、このような生物処理法においては、充填材の表面に緑色の糸状性藻類が付着し、生物膜が肥大してろ材の目詰まりを起こすため、処理効率を低下させる。
【0003】
水処理槽に蓋をして遮光すれば藻類の発生を防げるが、水温が低い場合には生物活性が弱まり、遮光しないときと比べて特にアンモニア性窒素の除去効率が大幅に低下する。
かかる問題点を解決するため、処理槽の上部を緑色の透光性の遮光板で覆うことにより槽内部に入る光の波長を調整する方法及びそれに用いる遮光板が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平7−73707号公報
【特許文献2】特許第2702081号公報
【0005】
上記の遮光板は、透明のガラスやプラスチックの表面に緑色の染料を塗ったり、熱可塑性の樹脂に緑色の顔料を混ぜたものを成形することにより作製するとされているが、このような緑色の染料や顔料を用いて作製した遮光板では、水処理に必要な生物活性を維持しつつ藻類の発生を完全に防止する効果を十分に発揮させることが困難であり、また、長期間の使用において、染料や顔料の変褪色、プラスチック素材の劣化等により、遮光板を長期間使用し、かつ、上記効果を持続させることは難しかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたもので、水処理に必要な生物活性を維持しつつ藻類の発生を防止するのに十分な効果を発揮することのできる水処理装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、可視光を完全に遮蔽する覆蓋を用い、緑色藻類のクロロフィルの吸収率が低い緑色波長域の光を適時生物膜に照射することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、被処理水を接触させて不純物を除去するための生物膜を表面に形成した充填材を内部に配設した水処理槽と、その上部開口を遮蔽して槽内部に進入する可視光を実質的に完全に遮断する覆蓋とからなり、内部に520〜570nmの波長領域の光を発する緑色発光ダイオードを設置したことを特徴とする水処理装置にある。
前記水処理装置は、前記緑色発光ダイオードを前記水処理槽又は前記覆蓋の内面に設置したものとし、また、前記覆蓋の外面に前記緑色発光ダイオードの電源として太陽電池を設置したものとすることができる。
また、前記覆蓋は遮光性物質を多量混合した合成樹脂からなるのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る水処理装置は、覆蓋により可視光を完全に遮蔽するとともに、緑色発光ダイオードにより緑色藻類の光合成に必要としない緑色波長域の光を適時生物膜に照射することができるので、水処理に必要な生物活性を維持しつつ藻類の発生を防止するのに十分な効果を発揮することができる。
また、本発明に係る水処理装置は、緑色光源として発光ダイオードを用い、必要な時期に必要な範囲で点灯すればよいので、消費電力が極めて小さく、さらに、太陽電池を設置すれば、太陽発電だけで消費電力を賄うことができるので、通常電力は不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の一実施態様を示す上水道原水の前処理に用いる水処理装置の概略断面図である。被処理水1は水処理槽2の内部に配設した充填材3内を移動する間に充填材3の表面に付着した微生物により処理される。水処理槽2の下部に散気管4が設けられており、ここから空気を吹き込むことにより溶存酸素の補給を行う。また、内部に充填材3を配設した水処理槽2を併設し、被処理水1を複数回処理することができる。
この水処理槽2はコンクリート製又は鋼製であり、光は水処理槽2の上部の開口部からしか入らないようになっており、開口部を覆蓋5で覆っている。
覆蓋5の内面には緑色発光ダイオード6が設置されており、通電すると緑色光を出して充填材3の表面を照射する。一方、覆蓋5の外面には電源として太陽電池7が設置されている。
【0010】
本発明において用いられる覆蓋5は、水処理槽2の開口部から内部に進入しようとする可視光を実質的に完全に遮断し、可視光のうち少なくとも500〜600nmの波長領域の緑色光以外の光が充填材の表面に照射されないようにするものであり、クロロフィルの光合成を阻害することにより緑色藻類の発生を抑制する。
覆蓋5の材料としては金属、コンクリート、ガラス等の無機材料でもよいが、耐蝕性、強靱性、軽量性等の点で合成樹脂材料が望ましく、例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂の射出成形品や真空成形品、ガラス繊維強化不飽和ポリエステル製品、反応射出成形によるノボルネン系樹脂製品等を挙げることができる。
覆蓋5の材料が合成樹脂の場合、水処理装置の内部に進入しようとする可視光を覆蓋5により実質的に完全に遮断するため、表面に金属箔等の遮光層を設けてもよいが、合成樹脂材料中にカーボン、金属酸化物等の黒色顔料、酸化チタン等の白色顔料、雲母等の遮光性物質を多量混合する方法が有効であり、可視光の透過率は少なくとも1%以下、好ましくは0.1%以下に抑えることが必要である。
【0011】
本発明においては、通電により520〜570nmの波長領域の光を発する緑色光を出して充填材3の表面を照射することのできる緑色発光ダイオード6を水処理槽2の内部に設置することが必要であり、緑色発光ダイオード6は、水処理槽2の内面又は、図示したように、覆蓋5の内面に直接設置することができるが、覆蓋5から吊り下げるようにしてもよい。
覆蓋5により可視光の内部への進入を実質的に完全に遮断された水処理槽2においては、水温が低い場合には、水処理槽2の内部に配設した充填材3の表面に形成した生物膜の活性がかなり低下するので、緑色発光ダイオード6を通電により適宜発光させ、生物活性を維持することができる。発光する緑色光は、緑色藻類の光合成に必要のない520〜570nmの波長領域の光であるので、緑色藻類の発生を抑制する効果には影響しない。
【0012】
緑色発光ダイオード6の電源としては、通常の電力配線、蓄電池等、特に制限はないが、図示したように、覆蓋5の外面に太陽電池7を設置し、これから水処理槽2の内部に設置した緑色発光ダイオード6に通電するようにすれば、緑色発光ダイオード6の消費電力は太陽電池7で十分賄える。
【実施例】
【0013】
図1に示されるような構造の水処理装置を用い、上水道原水の前処理を行った。
上記水処理装置において、水処理槽2の内部に多数のハニカムチューブ状の充填材3を配設するとともに、水処理槽2の下部に溶存酸素の補給を行う散気管4を設け、槽内に光が入らないように開口部を覆蓋5で覆った。覆蓋5としては、カーボン配合ノボルネン系樹脂を反応射出成形してなり、厚さ5mmの湾曲板状体を用い、その内面に緑色発光ダイオード(日亜化学工業社製のNSPGF50S)6を多数設置するとともに、外面に電源として太陽電池7を設置した。
【0014】
上記水処理装置を用い、矢印方向に通水して被処理水1が充填材3内を移動する間に充填材3の表面に付着した微生物により被処理水1を処理したところ、緑色発光ダイオード6を通電により適宜発光させ、充填材3の表面に緑色光を照射することにより、生物膜の活性を増加させ、水処理能力を高水準に維持することができた。
【0015】
一方、覆蓋5によって可視光の水処理槽2内への進入が阻止された結果、緑色光の充填材3表面への照射にもかかわらず、緑色藻類の発生は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の水処理装置は、上水道原水の浄化に用いられるばかりでなく、接触酸化法などによる下水処理にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施態様を示す水処理装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 被処理水
2 水処理槽
3 充填材
4 散気管
5 覆蓋
6 発光ダイオード
7 太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を接触させて不純物を除去するための生物膜を表面に形成した充填材を内部に配設した水処理槽と、その上部開口を遮蔽して槽内部に進入する可視光を実質的に完全に遮断する覆蓋とからなり、内部に520〜570nmの波長領域の光を発する緑色発光ダイオードを設置したことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記緑色発光ダイオードを前記水処理槽又は前記覆蓋の内面に設置した請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記覆蓋の外面に前記緑色発光ダイオードの電源として太陽電池を設置した請求項1に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記覆蓋が遮光性物質を多量混合した合成樹脂からなる請求項1に記載の水処理装置。

【図1】
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