説明

防蝕コンクリート槽の施工方法及び防蝕コンクリート槽

【課題】 施工及び施工管理が簡単で、内容液の漏れを確実に感知でき、槽構造自体が断熱性をもつ防蝕コンクリート槽の施工方法及び防蝕コンクリート槽を得るにある。
【解決手段】 コンクリート躯体1の内面に耐腐食性の防蝕樹脂層を積層する防蝕コンクリート槽において、コンクリート躯体1の内面に耐腐食性の厚みのあるプライマー液3を塗布する工程と、2枚のシート状ガラス繊維生地2a,2b間を多数のガラス繊維束2cで連結した中空ガラス織物2を前記プライマー液3の表面に積層してプライマー液3の一部を同中空ガラス織物2の繊維間に含浸させる工程と、前記プライマー液3の完全な固化前に同プライマー液3と同じ成分の防蝕液8を中空ガラス織物2の表面に塗布して同防蝕液8を充分に中空ガラス織物2の繊維に含浸させてガラス繊維束2cを起立させる工程と、この工程の後の時間経過により前記プライマー液3及び防蝕液8の固化を待つ工程とを備える防蝕コンクリート槽の施工方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はコンクリート槽の防蝕構造に関し、特に、防蝕コンクリート槽の施工方法及び防蝕コンクリート槽に関する。
【0002】
【背景技術】周知のように、コンクリート構造の薬品貯槽や廃液槽においては、内容液による腐食を防止するため、コンクリート表面を耐腐食性のFRPライニングで覆っているが、長期間に亙る使用に際しては、コンクリートの構造クラックは避けられない。つまり、コンクリートの構造クラックが生じた場合、FRPライニングにも亀裂や破損が生じるおそれがあるけれども、このような事態が感知されずに放置されると、内容液が地下へ浸透し、知らぬうちに、土壌汚染事故が起こることがある。
【0003】このような内容液漏れによる土壌汚染事故を防止するため、従来では、図6及び図7に示すような防蝕コンクリート槽が提案されている。即ち、図6の符号”A”はコンクリート躯体であり、このコンクリート躯体Aの内面は内容液に対して耐腐食性のある多数枚のFRPの防蝕シートBで覆われる。つまり、接着剤層Cを介してコンクリート躯体Aの内面に接着される各防蝕シートBは、流出内容液が流入できるリーク溝Dを相互間に形成する僅かに離間した状態とされ、これらのリーク溝Dの表面は対応防蝕シートBの表面に樹脂溶接されるFRPテープEで塞がれる。
【0004】そして、コンクリート躯体Aの内面の稜線部には”C”字状断面の樋状部材Fが接着剤等で固定され、これらの樋状部材Fの内部とコンクリート躯体Aの中空ガラス織物方内面のリーク溝Dとが互いに連絡される。したがって、このような構造の防蝕コンクリート槽では、コンクリートの構造クラック等により防蝕シートBに亀裂や破損が生じた場合、流出する内容液の一部が近くのリーク溝D中へ流入し、樋状部材Fを通って底部の樋状部材F中に溜るから、底部の樋状部材F中に漏洩液を検知するリーク検出器Gを位置しておけば、内容液漏れによる土壌汚染事故を未然に防止できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、緻密なリーク溝Dの配列のためには、防蝕シートBやFRPテープEの数が増え、コンクリート躯体Aの内面への防蝕シートBの接着やFRPテープEの樹脂溶接の手間や時間が著しく増加すると共に、FRPテープEの全体が完全に液密に貼られないと、内容液の一部がリーク溝D中へ流入してしまうから、同FRPテープEの接着状態の管理がやっかいであった。また、断面積の小さなリーク溝Dの場合、防蝕シートBやFRPテープEの破損が大きいと、流出する内容液の一部が流体抵抗の大きな細いリーク溝Dに効果的に流入せず、リーク状態を確実に検知できない場合があった。さらに、コンクリート構造の薬品貯槽等においては、槽自体に保温機能、即ち断熱能力が要求される場合があるが、前述したような構造では、このような機能を付加することが困難であった。
【0006】本発明の目的は、以上に述べたような従来の防蝕コンクリート槽の問題に鑑み、施工及び施工管理が簡単で、内容液の漏れを確実に感知でき、槽構造自体が断熱性をもつ防蝕コンクリート槽の施工方法及び防蝕コンクリート槽を得るにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】この目的は、本発明によれば、コンクリート躯体の内面に耐腐食性の防蝕樹脂層を積層する防蝕コンクリート槽において、コンクリート躯体の内面に耐腐食性の厚みのあるプライマー液を塗布する工程と、2枚のシート状ガラス繊維生地間を多数のガラス繊維束で連結した中空ガラス織物を前記プライマー液の表面に積層してプライマー液の一部を同中空ガラス織物の繊維間に含浸させる工程と、前記プライマー液の完全な固化前に同プライマー液と同じ成分の防蝕液を中空ガラス織物の表面に塗布して同防蝕液を充分に中空ガラス織物の繊維に含浸させてガラス繊維束を起立させる工程と、この工程の後の時間経過により前記プライマー液及び防蝕液の固化を待つ工程とを備える防蝕コンクリート槽の施工方法を提案するものである。
【0008】後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、1)前記プライマー液及び前記防蝕液はビニルエステル系樹脂である防蝕コンクリート槽の施工方法、2)前記施工方法により得られた防蝕コンクリート槽、3)前記コンクリート躯体の底面を覆う前記中空ガラス織物の内部空間中に位置されて同内部空間中への内容液の流出を検知するリーク検出器を備える防蝕コンクリート槽、4)前記リーク検出器は、パイプ内を前記内部空間に連絡した状態としてコンクリート躯体内面を覆う前記中空ガラス織物に下端部を固定された検出用パイプの内部に位置される防蝕コンクリート槽が説明される。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、図1から図5について本発明の実施例の詳細を説明する。図1及び図2は本発明により得られた防蝕コンクリート槽を示し、この防蝕コンクリート槽のコンクリート躯体1の内面全体は、詳細を後述する手法で処理される複数枚の中空ガラス織物2で覆ってある。即ち、この中空ガラス織物2とは、図3に示すように「2枚のシート状ガラス繊維生地2a,2b間を多数のガラス繊維束2cで連結した状態の織地」であり、柔軟な同中空ガラス織物2は、例えば蝶理株式会社から販売されている商品名「パラビーム」として市場で入手できる。
【0010】なお、図1及び図2の符号”3”は例えばビニルエステル系樹脂で構成される耐腐食性のあるプライマー液であり、このプライマー液3はコンクリート躯体1の内面に対する中空ガラス織物2の貼着の前に同内面に塗布され、その一部が中空ガラス織物2の繊維間に含浸される。また、面積のある中空ガラス織物2の隣接部表面にはFRPテープ4が接着剤等で接着されるから、後述のようにガラス繊維束2cの起立により生じる同中空ガラス織物2の内部空間2dは、槽内部から隔絶される。
【0011】また、槽内部には耐腐食性樹脂からなる検出用パイプ5が付設され、同検出用パイプ5の内部には前記中空ガラス織物2の内部空間2d中へ流入した内容液を検知できるリーク検出器6が落し込まれ、リーク検出器6のリード線6aは検出用パイプ5の内部を通って外部へ導出される。即ち、図4に示すように、前記検出用パイプ5は下端部寄りの部分にフランジ5aを有し、このフランジ5aはコンクリート躯体1の底面を覆う中空ガラス織物2の表面に樹脂溶接され、このフランジ5aの下方に突出した下端部の連絡孔7は、同中空ガラス織物2の内部空間2dに連絡されるから、任意箇所の中空ガラス織物2の破断により、コンクリート躯体1の底面を覆う中空ガラス織物2の内部空間2d中に内容液が流出すると、検出用パイプ5の内部に落し込まれるリーク検出器6が感応し、同リーク検出器6の警告信号により液漏れが警告される。
【0012】図5(a)〜(d)は本発明による防蝕コンクリート槽の施工手順を示し、コンクリート躯体1の乾燥後にコンクリート内面の下地処理を終了すると、(a)に示すように、コンクリート躯体1の内面に厚みのあるプライマー液3が塗布される。このプライマー液3としては、例えばビニルエステル系樹脂等のように耐腐食性があり、しかも、固化後に容易に破断しない性質をもったものがよい。
【0013】プライマー液3を塗布した後、図5(b)に示すように、同プライマー液3の固化前にプライマー液3に中空ガラス織物2が積層され、中空ガラス織物2の生地2bがプライマー液3に密着される。したがって、この工程では、中空ガラス織物2の生地2bの繊維間にプライマー液3の一部が毛細管現象により含浸され、同中空ガラス織物2はプライマー液3によってコンクリート躯体1の内面に貼着される。
【0014】この後、図5(c)に示すように、中空ガラス織物2の表面の生地2aにはプライマー液3と同一樹脂で構成する防蝕液8が塗布され、この防蝕液8が同生地2aに含浸されるが、これらのプライマー液3及び防蝕液8の含浸が進行すると、これらの樹脂液はガラス繊維束2cにも到達し、毛細管現象によりこれらの各ガラス繊維束2cに含浸し、各ガラス繊維束2cが図5(d)に示すように、自然に起立し、この状態を保ったまま、一定時間の経過後には固化し、中空ガラス織物2の内部にガラス繊維束2cで維持された流路の広い内部空間2dが自動的に形成されることになる。
【0015】図示実施例の防蝕コンクリート槽は、以上のような構造であるから、プライマー液3及び防蝕液8が含浸された中空ガラス織物2により防蝕機能を維持されるけれども、中空ガラス織物2の内部空間2dは内容液が通常では流入しない断熱空間として機能する。したがって、同内部空間2dの存在により防蝕コンクリート槽の内部の保温が行われるけれども、内容液の冷却(加熱)が望まれる場合には、中空ガラス織物2の内部空間2dに冷却液または冷却ガスを流過させて、冷却ジャケットとして機能させることもできる。勿論、このような冷却(加熱)の場合、複数枚からなる中空ガラス織物2を複数系統の冷却液(加熱液)通路に区分することができる。
【0016】また、コンクリートの構造クラック等により何れかの中空ガラス織物2が破壊した場合、破壊された中空ガラス織物2の内部空間2d中へ内容液が流入するが、この内部空間2dは流路断面が大きな流体抵抗の小さな流路であるので、同内部空間2d中へ流出内容液の一部が確実に流入する。そして、何れかの中空ガラス織物2の内部空間2d中に流入した内容液は重力により下方に流下し、最後には、コンクリート躯体1の底面を覆う中空ガラス織物2の内部空間2d中に溜るから、この内部空間2d中に位置してあるリーク検出器6で内容液の流出を確実に検知できる。
【0017】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、施工や施工管理が簡単で、耐腐食性樹脂槽の破壊による内容液の流出を直ちに感知できるから、土壌汚染を未然に防止できる。そして、本発明の中空ガラス織物の内部空間は断熱空間として機能するから、必然的に保温(断熱)機能があり、同内部空間を内容液冷却(加熱)のために利用できる用途の広い防蝕コンクリート槽を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による防蝕コンクリート槽の要部斜視図である。
【図2】同防蝕コンクリート槽の要部拡大斜視図である。
【図3】同防蝕コンクリート槽に用いる中空ガラス織物の拡大図である。
【図4】同防蝕コンクリート槽の検出用パイプ基部の要部拡大図である。
【図5】(a)〜(d)は本発明による防蝕コンクリート槽の施工工程図である。
【図6】従来の防蝕コンクリート槽の要部斜視図である。
【図7】同防蝕コンクリート槽の要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
1 コンクリート躯体
2 中空ガラス織物
2a,2b 生地
2c ガラス繊維束
2d 内部空間
3 プライマー液
4 FRPテープ
5 検出用パイプ
6 リーク検出器
7 連絡孔
8 防蝕液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンクリート躯体の内面に耐腐食性の防蝕樹脂層を積層する防蝕コンクリート槽において、コンクリート躯体の内面に耐腐食性の厚みのあるプライマー液を塗布する工程と、2枚のシート状ガラス繊維生地間を多数のガラス繊維束で連結した中空ガラス織物を前記プライマー液の表面に積層してプライマー液の一部を同中空ガラス織物の繊維間に含浸させる工程と、前記プライマー液の完全な固化前に同プライマー液と同じ成分の防蝕液を中空ガラス織物の表面に塗布して同防蝕液を充分に中空ガラス織物の繊維に含浸させてガラス繊維束を起立させる工程と、この工程の後の時間経過により前記プライマー液及び防蝕液の固化を待つ工程とを備えることを特徴とする防蝕コンクリート槽の施工方法。
【請求項2】 前記プライマー液及び前記防蝕液はビニルエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の防蝕コンクリート槽の施工方法。
【請求項3】 請求項1記載の施工方法により得られた防蝕コンクリート槽。
【請求項4】 前記コンクリート躯体の底面を覆う前記中空ガラス織物の内部空間中に位置されて同内部空間中への内容液の流出を検知するリーク検出器を備えることを特徴とする請求項3記載の防蝕コンクリート槽。
【請求項5】 前記リーク検出器は、パイプ内を前記内部空間に連絡した状態としてコンクリート躯体内面を覆う前記中空ガラス織物に下端部を固定された検出用パイプの内部に位置される請求項4記載の防蝕コンクリート槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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