説明

防錆シート及びその製造方法並びに該シートを用いた防錆容器

【課題】防錆性能に優れることはもとより、耐熱性が高く熱成形性に優れる防錆シートとその製造方法、並びに該シートを用いた防錆容器を提供する。
【解決手段】気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂からなる中間層12と、ポリプロピレン系樹脂からなり、中間層12の表裏両面に積層された一対の表面層14,16とで構成され、表面層14,16の少なくとも一方16に亜硝酸ナトリウム18が添加されていることを特徴とする。かかる構成により、中間層12と防錆シート10の表面側とを繋ぐ微細孔22が形成されるようになり、中間層12に添加した気化性防錆剤を、亜硝酸ナトリウム18を添加した側のシート表面から徐放させることができる。この結果、亜硝酸ナトリウム18と気化性防錆剤との相乗的作用によって幅広い種類の金属に対して優れた防錆効果を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆を必要とする金属製品を包装するための防錆シート及びその製造方法並びに該シートを用いた防錆容器に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品を錆や変色から守るため、いわゆる「防錆包装」が行われているが、この防錆包装として、従来より、金属製品を防錆油にドブ漬けし、余分な油分を拭き取った後、これをポリエチレン等の包材で包装する方法が採られている。しかしながら、この方法では、包装時の防錆油塗布・残油拭き取り作業や開包時の脱脂洗浄作業など、各工程で多大な労力や時間が必要であり、効率的でないという問題があった。
【0003】
そこで、近年、気化性防錆剤を練り込んだ様々な種類の金属製品包装用フィルムが開発されており(例えば、特許文献1参照。)、かかるフィルムで金属製品を直接包装する方法が広く行われるようになってきている。
【0004】
ここで、「気化性防錆剤」とは、常温でゆるやかに気化し、その気体が金属表面に吸着され、目に見えない防錆被膜を形成して金属の錆を防ぐ薬剤(化合物)のことであり、例えば、ベンゾトリアゾールがその一例として挙げられる。
【0005】
このように、気化性防錆剤を練り込んだ樹脂フィルム(防錆フィルム)を使用すれば、金属製品に防錆油を塗布する必要がなく、包装作業を行うだけで防錆作業を完了させることができ、極めて効率的に防錆包装を行うことができる。
【特許文献1】特開平10−86966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、気化性防錆剤は熱による影響を受けやすく、例えば気化性防錆剤として代表的なベンゾトリアゾールの場合、昇華点が200℃であり、約260℃で熱分解する。したがって、この様な気化性防錆剤を樹脂フィルムに混練する場合、フィルム製造工程における樹脂の押出加工温度を考慮すると、ポリプロピレン系樹脂などの押出加工温度が高い樹脂を適用するのは困難である。
【0007】
この点について詳述すると、ポリプロピレン系樹脂の押出加工温度は、通常240℃前後であるため、ポリプロピレン系樹脂にベンゾトリアゾールなどの気化性防錆剤を練り込んでフィルムを押出成形すると、成形時に加わる熱により気化性防錆剤がガス化して樹脂中の気化性防錆剤が消失するか、或いは消失しない場合であっても添加濃度が不均一となり、均質性が要求される工業製品として不適格なものとなる。また、ガス化した気化性防錆剤による発煙や異臭のため、製造現場の環境が悪化するという問題も生じる。
【0008】
したがって、防錆フィルムのベース樹脂として、熱可塑性樹脂の全てが適用できる訳ではなく、実質的にエチレン−酢酸ビニルや低密度ポリエチレンなどといった比較的融点の低いものに限られていた。このため、得られる防錆フィルムは耐熱性に乏しいものであった。
【0009】
また、防錆包装を必要とする金属製品が複雑な形状の重量物である場合、当該製品の輸送や取扱いのためにトレーやカップなどのプラスチック成形容器が用いられる。ここで、この成形容器に気化性防錆剤を練り込むことができれば、金属製品の防錆をより効率的に行うことができるが、上述のように、気化性防錆剤を練り込める樹脂は、実質的にエチレン−酢酸ビニルや低密度ポリエチレンなど比較的融点が低く、成形性に乏しい樹脂に限られていた。このため、気化性防錆剤を練り込んだプラスチック防錆容器は未だ実現していなかった。
【0010】
それゆえに、本発明の主たる課題は、防錆性能に優れることはもとより、耐熱性が高く熱成形性に優れる防錆シートとその製造方法、並びに該シートを用いた防錆容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載した発明は、「気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂からなる中間層(12)と、ポリプロピレン系樹脂からなり、中間層(12)の表裏両面に積層された一対の表面層(14)(16)とで構成され、表面層(14)(16)の少なくとも一方(16)に亜硝酸ナトリウム(18)が添加されている」ことを特徴とする防錆シート(10)である。
【0012】
この発明の防錆シート(10)では、少なくとも一方の表面層(16)に亜硝酸ナトリウム(18)が添加されているので、当該層(16)の近傍に配置した金属(とりわけ鉄)の錆を防ぐことができる。なお、亜硝酸ナトリウム(18)の防錆メカニズムについては定かではないが、その吸湿作用により周辺雰囲気の湿度を下げる働きと、大気中の腐蝕性ガス(例えば、HCl,H2S,SO2など)の中和とによるものと考えられている。
【0013】
また、表面層(16)に亜硝酸ナトリウム(18)を添加すると、シート成形時に加わる熱により、亜硝酸ナトリウム(18)に吸収されていた水分が水蒸気となって膨張し、亜硝酸ナトリウム(18)の周りに微細な空洞(20)が形成されると共に、近接する微細な空洞(20)同士が繋がることによって中間層(12)と防錆シート(10)の表面側とを繋ぐ微細孔(22)が形成されるようになる。このため、中間層(12)に添加した気化性防錆剤を、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した側のシート表面から徐放させることができ、これによっても該表面の近傍に配置した金属(とりわけ非鉄金属)の錆を防ぐことができる。
【0014】
このように、本発明の防錆シート(10)では、亜硝酸ナトリウム(18)と気化性防錆剤との相乗的作用によって幅広い種類の金属に対して優れた防錆効果を発揮することができる。
【0015】
また、本発明の防錆シート(10)は、中間層(12)及び表面層(14)(16)を構成する基材が全てポリプロピレン系樹脂で構成されているので優れた成形性を有する。
【0016】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の防錆シート(10)において、「亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)の厚さが10μm以上で且つ100μm以下である」ことを特徴とするもので、これにより、中間層(12)に添加した気化性防錆剤をシート(10)の表面から効果的に徐放させることができる。
【0017】
ここで、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)の厚さが10μm未満である場合には、表面層(16)の形成が困難になるばかりでなく、表面層(16)に添加した亜硝酸ナトリウム(18)の剥離や脱落が多くなると共に、後述するシート製造時にガス化した気化性防錆剤をシート(10)内に封じるのが困難になる。逆に、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)の厚さが100μmより大きい場合には、亜硝酸ナトリウム(18)の剥離・脱落やシート製造時におけるガス化した気化性防錆剤の拡散は生じないものの、中間層(12)に添加した気化性防錆剤がシート表面から十分に拡散できなくなる。
【0018】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載の防錆シート(10)の製造方法に関し、「気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂層の表裏両面を、少なくとも一方に亜硝酸ナトリウム(18)が添加されたポリプロピレン系樹脂で挟むようにして共押出した後、直ちに冷却する」ことを特徴とする防錆シート(10)の製造方法である。
【0019】
防錆シート(10)の基材としてポリプロピレン系樹脂を使用し、これを押出成形する場合、その押出加工温度は概ね240℃程度となる。そうすると、ポリプロピレン系樹脂に添加した気化防錆剤の一部は昇華してガス体になる。
【0020】
しかしながら、本発明では、気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂の表裏両面を、少なくとも一方に亜硝酸ナトリウム(18)が添加されたポリプロピレン系樹脂で挟むようにして共押出しているので、ガス化した気化性防錆剤が周辺大気中に拡散するのを防止することができる。そして、共押出しした樹脂を直ちに冷却するようにしているので、ガス化した気化性防錆剤を直ちに凝固させてシート中に固定することができる。
【0021】
したがって、ポリプロピレン系樹脂に添加した気化性防錆剤のほぼ全てを金属製品の防錆に寄与させることができると共に、ガス化した気化性防錆剤に起因する製造現場環境の悪化を防止することができる。
【0022】
請求項4に記載した発明は、「請求項1又は2に記載の防錆シートを熱成形してなる金属製品収容用の防錆容器であって、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)が金属製品の収容面を形成するように成形した」ことを特徴とする防錆容器である。
【0023】
上述したように、本願発明の防錆シート(10)は、基材としてポリプロピレン系樹脂を使用しているので、成形性に優れたものである。したがって、このようなシート(10)を熱成形して得た防錆容器は、軽量性や耐ストレスクラッキング性など容器特性に優れると共に、防錆性にも優れたものとなる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1又は2に記載の発明によれば、少なくとも一方の表面層に亜硝酸ナトリウムを添加しているので、当該層の近傍に配置した金属の錆を防ぐことができる。また、表面層に亜硝酸ナトリウムを添加することにより、中間層と防錆シートの表面側とを繋ぐ微細孔が形成されるようになるので、中間層に添加した気化性防錆剤を、亜硝酸ナトリウムを添加した側のシート表面から徐放させることができる。この結果、亜硝酸ナトリウムと気化性防錆剤との相乗的作用によって幅広い種類の金属に対して優れた防錆効果を発揮することができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂層の表裏両面を、少なくとも一方に亜硝酸ナトリウムが添加されたポリプロピレン系樹脂で挟むようにして共押出しているので、ガス化した気化性防錆剤が周辺大気中に拡散するのを防止することができ、また、共押出しした樹脂を直ちに冷却するようにしているので、ガス化した気化性防錆剤を直ちに凝固させ、シート中に固定することができる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば、容器特性と防錆性とに優れた防錆容器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図示実施例に従って詳述する。図1は、本発明の防錆シート(10)の一例を示す部分拡大概略図である。この図が示すように、本実施例の防錆シート(10)は、中間層(12)と、該中間層(12)の表面に積層した表面層(14)および(16)とで構成された三層構造のシートである。
【0028】
中間層(12)は、ポリプロピレン系樹脂に気化性防錆剤を添加して形成した層である。この中間層(12)を構成するポリプロピレン系樹脂としては、例えばプロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体等が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素原子数2もしくは4〜10のα−オレフィンが挙げられる。なお、このポリプロピレン系樹脂は、プラスチックの中で最も比重が軽いため、得られるシート(10)は軽量性に優れたものとなる。
【0029】
気化性防錆剤は、常温でゆるやかに気化し、その気体が金属表面に吸着され、目に見えない防錆被膜を形成して金属の錆を防ぐ薬剤(化合物)であり、具体的には、ベンゾトリアゾール,ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(ダイカン),ジシクロヘキシルアンモニウムサリシレート,モノエタノールアミンベンゾエート,ジシクロヘキシルアンモニウムベンゾエート,ジイソプロピルアンモニウムベンゾエート,ジシクロヘキシルアンモニウム・シクロヘキサンカルボキシレート,シクロヘキシルアミンシクロヘキサンカルボキシレート,ジシクロヘキシルアンモニウムアクリレート及びシクロヘキシルアミンアクリレートなどが挙げられる。
【0030】
中間層(12)における気化性防錆剤の添加割合は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部の範囲であるのが好ましい。気化性防錆剤の添加割合が0.5重量部未満の場合には、気化性防錆剤の添加効果、すなわち気化性防錆剤による防錆効果が認められず、逆に、気化性防錆剤の添加割合が10重量部より多い場合には、気化性防錆剤の添加効果は十分に発揮されるが、後述するシート成形時に中間層(12)となる樹脂表面の単位面積当たりにガス化する気化性防錆剤の量が増える結果、中間層(12)と表面層(14)(16)との間の層間強度が低下するなど、シートの物性が悪化するようになるからである。なお、中間層の厚さを大きくすれば(厚くすれば)、気化性防錆剤の添加割合を少なくすることができる。
【0031】
以上のように構成された中間層(12)には、必要に応じて酸化防止材,帯電防止材,中和材,滑材,核材,充填材,紫外線吸収材,難燃材および界面活性材などの各種添加材を添加するようにしてもよい。また、本発明の妨げにならない範囲で他の熱可塑性樹脂をブレンドするようにしてもよい。
【0032】
表面層(14)及び(16)は、中間層(12)と同じポリプロピレン系樹脂で構成された層である。このうち一方の層(16)には亜硝酸ナトリウム(18)が添加されている。
【0033】
表面層(14)及び(16)を構成するポリプロピレン系樹脂としては、上述した中間層(12)のものと同様に、例えばプロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体等が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素原子数2もしくは4〜10のα−オレフィンが挙げられる。
【0034】
亜硝酸ナトリウム(18)は、主に鉄に対して防錆効果を発揮する防錆剤であり、粒径が概ね1〜10μm程度の粉体である。この亜硝酸ナトリウム(18)を、表面層(16)を構成するポリプロピレン系樹脂に添加すると、シート成形時に加わる熱により、亜硝酸ナトリウム(18)に吸収されていた水分が水蒸気となって膨張し、亜硝酸ナトリウム(18)の周りに微細な空洞(20)が形成されると共に、近接する微細な空洞(20)同士が繋がることによって中間層(12)と防錆シート(10)の表面側とを繋ぐ微細孔(22)が形成される。このような微細孔(22)が形成されることによって、中間層(12)に添加した気化性防錆剤をシート(10)の表面から徐放させることができる。
【0035】
ここで、表面層(16)に添加する亜硝酸ナトリウム(18)の添加割合は、表面層(16)を構成する材料の総重量に対して3〜15重量%の範囲であるのが好ましく、より好ましくは、5〜10重量%の範囲である。亜硝酸ナトリウム(18)の添加割合が3重量%未満の場合には、亜硝酸ナトリウム(18)の添加効果、すなわち亜硝酸ナトリウム(18)による防錆効果が認められず、逆に、亜硝酸ナトリウム(18)の添加割合が15重量%より多い場合には、亜硝酸ナトリウム(18)の添加効果は十分に発揮されるが、亜硝酸ナトリウム(18)は吸湿性があるので、製造したシートの保管時に亜硝酸ナトリウム(18)がブリードしたり、得られたシートを熱成形する際に発泡が生じるようになるからである。
【0036】
また、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)の厚さは、10μm以上で且つ100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは20μm以上で且つ60μm以下である。亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)の厚さが10μm未満である場合には、表面層(16)の形成が困難になるばかりでなく、表面層(16)に添加した亜硝酸ナトリウム(18)の剥離や脱落が多くなると共に、後述するシート製造時にガス化した気化性防錆剤をシート(10)内に封じるのが困難になり、逆に、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)の厚さが100μmより大きい場合には、亜硝酸ナトリウム(18)の剥離・脱落やシート製造時におけるガス化した気化性防錆剤の拡散は生じないものの、中間層(12)に添加した気化性防錆剤がシート表面から十分に拡散できなくなるからである。
【0037】
なお、本実施例では、一方の表面層(16)のみ亜硝酸ナトリウム(18)を添加する場合を示したが、図2に示すように、中間層(12)の表裏両面に亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)を積層するようにしてもよい。
【0038】
また、表面層(14)(16)には、必要に応じて酸化防止材,帯電防止材,中和材,滑材,核材,充填材,紫外線吸収材,難燃材および界面活性材などの各種添加材を添加するようにしてもよいし、本発明の妨げにならない範囲で他の熱可塑性樹脂をブレンドするようにしてもよい。ここで、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)にさらに高分子型帯電防止材(例えば、三洋化成工業社製のペレスタット(登録商標)300等)を添加すると、表面層(16)の帯電防止性能を著しく向上させることができる。これは、亜硝酸ナトリウム(18)が吸湿してシート表面の保水量が上昇した事と、高分子型帯電防止材による帯電防止作用との相乗的な作用によるものと考えられる。
【0039】
以上のように構成された防錆シート(10)の厚さは目的とする用途に応じて適宜設定することができる。例えば、本実施例の防錆シート(10)を包装フィルムや袋体として使用する場合、その厚さは概ね30μm〜100μmの範囲であるのが好ましく、熱成形容器用の成形材料として使用する場合には、概ね500μm〜数mmの範囲であるのが好ましい。
【0040】
次に、本実施例の防錆シート(10)の製造方法について説明する。まず始めに中間層(12)となるポリプロピレン系樹脂に所定量の気化性防錆剤をドライブレンドし、図示しない押出機に投入して溶融・混練する。そして、溶融・混練した樹脂をストランド状に押出し、冷却後、所定の大きさにカットして中間層(12)用のコンパウンドを調整する。また、表面層(16)となるポリプロピレン系樹脂に亜硝酸ナトリウム(18)をドライブレンドし、図示しない押出機に投入して溶融・混練する。そして、溶融・混練した樹脂をストランド状に押出し、冷却後、所定の大きさにカットして表面層(16)用のコンパウンドを調整する。このようなコンパウンドを調製することによって、ポリプロピレン系樹脂内での気化性防錆剤や亜硝酸ナトリウム(18)の分散性を向上させることができ、外観不良などの発生を防止できる。
【0041】
なお、ポリプロピレン系樹脂内での気化性防錆剤や亜硝酸ナトリウム(18)の分散性に問題がない場合には、このようなコンパウンドを調整せず、樹脂ペレットと気化性防錆剤或いは亜硝酸ナトリウム(18)とをドライブレンドした後、直接、シート成形機に投入するようにしてもよい。
【0042】
続いて、以上のように調製されたコンパウンドを、Tダイやインフレーションダイなどが装着され、三層共押出しが可能な溶融押出成形機(シート成形機;図示せず)に投入し、中間層(12)となる溶融樹脂層の表裏両面を、表面層(14)(16)となる溶融樹脂で挟むようにしてシート状に押出す。
【0043】
ここで、防錆シート(10)の基材としてポリプロピレン系樹脂を使用し、これを押出成形する場合、その押出加工温度は概ね240℃程度となる。そうすると、ポリプロピレン系樹脂に添加した気化防錆剤の一部は昇華してガス体になる。しかしながら、本実施例の防錆シート(10)の製造方法では、気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂の両側を、少なくとも一方に亜硝酸ナトリウム(18)を添加したポリプロピレン系樹脂で挟むようにして共押出しているので、ガス化した気化性防錆剤を溶融したポリプレピレン系樹脂内に閉じ込めることができ、ガス体が周辺大気中に拡散するのを防止することができる。また、気化性防錆剤のガス化に配慮して押出加工温度を極端に下げる必要がないので、高い生産性を維持したまま防錆シート(10)を製造することができる。
【0044】
そして、シート状に押出した樹脂を冷却ロールなどの冷却手段を用いて直ちに急冷することによって、本実施例の防錆シート(10)が完成する。
【0045】
このように、共押出しした樹脂を直ちに冷却することにより、ガス化した気化性防錆剤を直ちに凝固させてシート(10)中に固定することができる。したがって、ポリプロピレン系樹脂に添加した気化性防錆剤のほぼ全てを金属製品の防錆に寄与させることができると共に、ガス化した気化性防錆剤に起因する製造現場環境の悪化等も防止することができる。
【0046】
なお、上述の防錆フィルム(10)の製造方法では、必要に応じて延伸工程などの後工程を加えるようにしてもよい。例えば、本実施例の防錆シート(10)を包装フィルムや袋体として使用する場合、得られたシート(10)を延伸工程に与えて延伸することにより強度等を改善することができる。
【0047】
以上のような方法で製造した防錆シート(10)を用いて金属製品収納用の防錆容器を製造する場合、真空成形や圧空成形などの熱成形法を用いるのが量産性や均質性の面で好ましい。かかる方法で防錆容器を製造する際、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した表面層(16)が金属製品の収容面を構成するように成形するのが好適である。こうすることにより、該容器内に収容した金属製品に対してより効果的に防錆効果を発揮することができるからである。
【0048】
本実施例の防錆シート(10)によれば、少なくとも一方の表面層(16)に亜硝酸ナトリウム(18)を添加しているので、当該層(18)の近傍に配置した金属(とりわけ鉄)の錆を防ぐことができる。また、表面層(16)に亜硝酸ナトリウム(18)を添加すると、シート成形時に加わる熱により、亜硝酸ナトリウム(18)に吸収されていた水分が水蒸気となって膨張し、亜硝酸ナトリウム(18)の周りには微細な空洞(20)が形成されると共に、近接する微細な空洞(20)同士が繋がることによって中間層(12)と防錆シート(10)の表面側とを繋ぐ微細孔(22)が形成されるようになる。このため、中間層(12)に添加した気化性防錆剤を、亜硝酸ナトリウム(18)を添加した側のシート表面から徐放させることができ、該表面の近傍に配置した金属(とりわけ非鉄金属)の錆を防ぐことができる。このように、本発明の防錆シート(10)では、亜硝酸ナトリウム(18)と気化性防錆剤との相乗的作用によって幅広い種類の金属に対して優れた防錆効果を発揮することができる。
【0049】
また、本実施例の防錆シート(10)は、中間層(12)及び表面層(14)(16)を構成する基材が全てポリプロピレン系樹脂で構成されているので優れた成形性を有するものとなる。したがって、このようなシート(10)を熱成形して得た防錆容器は、軽量性や耐ストレスクラッキング性など容器特性に優れると共に、防錆性に優れたものとなる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例をあげて本発明の防錆シートを具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
防錆シートの製造
中間層を構成する原料としてポリプロピレン系樹脂(住友化学(株)製住友ノーブレンFH1016)100重量部に対して気化性防錆剤(米国DAUBERT CROMWELL社製メタルガードMタイプ)を6重量部添加したものを用意すると共に、両表面層を構成する原料としてポリプロピレン系樹脂(住友化学(株)製住友ノーブレンFH1016)90重量%とポリエチレン系樹脂(住友化学(株)製スミカセンF101−1)10重量%とを混合したものを用意した。
【0052】
そして、表面層を構成する原料のうち一方には、原料樹脂94重量%に対して亜硝酸ナトリウムが6重量%となるように、亜硝酸ナトリウム(日産化学工業(株)製)を添加した。
【0053】
続いて、上記各原料をTダイが装着された三層共押出しが可能な溶融押出成形機(シート成形機)にセットし、押出加工温度(シリンダー温度)240℃,樹脂温度240℃の条件で溶融押出しして、中間層の両表面に表面層を積層した溶融シート状物を得た。そして、これを直ちに90℃に設定した冷却ロールで急冷し、厚さ400μmの中間層の両表面に厚さ100μmの表面層が積層された厚さ600μmの三層構造の防錆シートを得た。
【0054】
防錆容器の製造
上記防錆シートを、亜硝酸ナトリウムを添加した表面層が金属製品の収納面を形成するように真空成形し、内径100mm,深さ15mmの丸皿状の防錆容器を製造した。また、比較としてポリプロピレン系樹脂(住友化学工業(株)製 住友ノーブレンFH1016)のみからなる厚さ600μmのシートも同様にして成形容器を製造した。
【0055】
防錆効果の確認
試験片として1.2mm×300mm×500mmの鋼板(JIS G 3141)を用意し、これを防錆シートを用いて成形した防錆容器及びポリプロピレン系樹脂のみからなる成形容器のそれぞれに載置すると共に、各容器それぞれについて通常のポリエチレンフィルム(つまり、防錆剤を添加していないもの)で包装して試料とした。
【0056】
そして、この試料を温度50℃,相対湿度100%の高温多湿雰囲気の試験環境条件下で14日間放置し、試験片の錆及び変色の有無を評価した。
【0057】
この結果、防錆シートを用いて成形した防錆容器では、載置した試験片に錆や変色は見られなかった。これに対し、ポリプロピレン系樹脂のみからなる成形容器では、載置した試験片のうち特に成形容器との接触面に錆及び変色が発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明における一実施例の防錆シートを示す部分拡大概略図である。
【図2】本発明における他の実施例の防錆シートを示す部分拡大概略図である。
【符号の説明】
【0059】
(10)…防錆シート
(12)…中間層
(14)…表面層(亜硝酸ナトリウムなし)
(16)…表面層(亜硝酸ナトリウムあり)
(18)…亜硝酸ナトリウム
(20)…空洞
(22)…微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂からなる中間層と、ポリプロピレン系樹脂からなり、前記中間層の表裏両面に積層された一対の表面層とで構成され、
前記表面層の少なくとも一方に亜硝酸ナトリウムが添加されていることを特徴とする防錆シート。
【請求項2】
亜硝酸ナトリウムを添加した前記表面層の厚さが10μm以上で且つ100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の防錆シート。
【請求項3】
気化性防錆剤を添加したポリプロピレン系樹脂層の表裏両面を、少なくとも一方に亜硝酸ナトリウムが添加されたポリプロピレン系樹脂で挟むようにして共押出した後、直ちに冷却することを特徴とする防錆シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の防錆シートを熱成形してなる金属製品収容用の防錆容器であって、
亜硝酸ナトリウムを添加した表面層が金属製品の収容面を形成するように成形したことを特徴とする防錆容器。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−273121(P2008−273121A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121826(P2007−121826)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(501207799)日泉ポリテック東予株式会社 (1)
【出願人】(591025082)日泉化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】