説明

防錆性および/または導電性に優れた樹脂組成物並びに樹脂組成物被覆部材

【課題】 従来の防錆(防食)方法の利点を生かしつつ、簡便に塗装することができ、しかも溶融めっきと同等以上の優れた防錆特性や導電特性を発揮し、母材に熱脆性が生じることなく、封孔処理等の追加処理が不要で、また厚く塗っても残留応力の心配も無く経年劣化に対応できる施工が可能である無公害型防錆剤として、更に従来の電磁波シールド技術における問題を解消し、施工場所を選ばず従来の塗装方法で均一な塗膜構造を有した電磁波シールド特性を発揮する無公害型電磁波シールド剤として有用な樹脂組成物、およびこうした樹脂組成物を基材表面に被覆した樹脂被覆部材を提供する。
【解決手段】 本発明の樹脂組成物は、(a)鱗箔状微粉末に形成されたZnおよび/またはAlと、(b)鱗箔状微粉末に形成されたCuおよび/またはNiの、少なくともいずれかを含んでなる異種金属のクラッド状鱗箔微粉末を、樹脂に配合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便に塗布することが出来、少量の金属粉の配合で導電性を有し、および/または亜鉛めっきと同等以上の優れた防錆(防食)性を有し、しかも電磁波を遮断する優れたシールド特性をも発揮する樹脂組成物、およびこうした樹脂組成物を被覆した樹脂被覆部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料ではその表面を防食(防錆)することが必要であるが、こうした方法としては、(I)塗料や他の有機樹脂材料によって表面を多層膜で被覆することによって酸素、硫化物、ハロゲン化物等との接触を遮断する塗装方法、(II)溶融亜鉛、溶融亜鉛−アルミニウムに被処理物を一定時間浸漬させ、亜鉛−アルミニウムを付着形成させる溶融めっき方法、(III)亜鉛やアルミニウムをガスフレームやアーク等で溶かし、鉄鋼材料等の表面に付着させ、金属間の電位差による犠牲陽極反応を応用して防錆する金属溶射方法等が知られている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
一方、多様な電子機器類や無線LAN、携帯電話等の普及やユビキタス時代の到来による、電磁波障害や情報漏洩が問題視され、電磁波シールドの重要性が増し様々な電磁波シールド材や電磁波シールド塗料が使用されている。こうした技術としては、金属板の張り合わせ、建築材料に導電性フィラーを混入したシールド板を張り合わせる技術等が知られている。また合成ゴムや合成樹脂に金属性のフィラーやファイバーを混入した電磁波シールド材や電磁波シールド塗料等も提案されている(例えば、特許文献5、6)。更に、金属めっきや金属蒸着などの方法によって、導電性を付与することによって電磁波シールド性を向上させる技術も知られている。
【特許文献1】特開2001−271152号公報 特許請求の範囲など
【特許文献2】特開平9−125221号公報、特許請求の範囲など
【特許文献3】特開平9−3614号公報、特許請求の範囲など
【特許文献4】特開平8−176781号公報、特許請求の範囲など
【特許文献5】特開2002−309107号公報 特許請求の範囲など
【特許文献6】特開平10−316901号公報 特許請求の範囲など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した各種防錆(防食)方法には、夫々下記のような問題があることが指摘されている。まず、(I)塗装による防錆(防食)方法では、主に有機溶剤系塗料が使用されているが、硬度が不足して表面の損傷や損耗による傷が発生し、それらが原因となって大気との遮断機能の劣化や剥離を誘引し、また紫外線に起因する劣化等による損傷で腐食が発生するという問題がある。
【0005】
(II)溶融めっき方法では、10年〜15年の耐食性能があるものの、それを実施するためには溶融亜鉛等に被処理物浸漬のための大型プラントが必要であり、既設鉄鋼構造物のメンテナンスには適用できないという問題がある。特に、薄板鋼鈑や長尺鋼材には溶融温度や浸漬プール、高温による被処理物の歪みなどによる問題から適用できない。
【0006】
最近では亜鉛、アルミニウムの合金めっきの技術も進んでいるが、セラミック炉等の設備にコストがかかり、また使用する有害物質の排水処理にも環境規制が厳しくなり、経済的な面からも問題がある。更に、亜鉛・アルミニウム合金めっきでは、亜鉛とアルミニウムの冷却温度の違いにより、生成する亜鉛とアルミニウムの結晶粒の大きさが異なるために、いわゆる粒界面から腐食が生じ易いという特性上の問題もある。
【0007】
(III)金属溶射方法では、鉄鋼材料表面に直接亜鉛・アルミニウム合金等の機能表面を形成するという特徴があるため、犠牲陽極反応により内部の金属を保護するので、亜鉛めっき以上の耐食性を発揮できるものの、金属溶射のための機械装置(溶射ガン、電源装置、送風装置、線材巻取り送り出し装置、溶射延長コード等)が必要であり、施工効率は職人の技術による決定要素もあり、装置の搬入・整備の負担が大きいことからみても、採算面での検討を必要とし、既設鋼構造物への溶射や狭隘な構造部分への施工には困難性があるといった問題がある。また、亜鉛・アルミニウムを溶かして被処理物の表面に強制的に付着させるためには、鉄鋼構造物表面にショットブラストやサンドブラスト処理を施し、粗面形成剤を用いてアンカー効果を発揮させるという前処理が必要となる。更に、金属溶射による効果を高めるために金属溶射面を厚くすると放熱効果の差による内部ひずみや残留応力の発生によって、金属溶射層のはがれ等の密着性の劣化がみられるという問題もある。しかも、被溶射材表面にスポンジ状の孔が生じるため、封孔処理が更に必要になるという欠点も指摘される。
【0008】
一方、これまで提案されている電磁波シールド方法においても、下記に示すような問題が指摘されている。例えば、金属板の張り合わせ、建築材料に導電性フィラーを混入したシールド板を張り合わせる方法では、狭部や複雑な形状部、凹凸面、合せ部等は施工が不可能であり、平面部においても張り合わせ部の隙間より電磁波が漏れ、導電性テープで塞いでも完全には電磁波を遮断できない問題がある。特に、施工に際しては採算面では施工費が高額になるという欠点がある。また導電性シールド塗料においては、狭部や複雑な形状部、凹凸部の施工は可能で電磁波漏れは防げるが、塗料成分に有機樹脂と有機溶剤(トルエン等)を使用している為に、残存有害物質(ホルムアルデヒト等)の揮発による環境問題、温度や湿気、紫外線に起因する経年劣化によるひび割れからの電磁波漏れが問題として挙げられる。更に、合成ゴム電磁波シートや電磁波シールドフイルムにおいても、継ぎ目に導電性テープで塞いでも、テープの剥がれ等により完全には電磁波を遮断できないという問題がある。
【0009】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、従来の防錆(防食)方法の利点を生かしつつ、簡便に塗装することができ、しかも溶融めっきと同等以上の優れた防錆特性や導電特性を発揮し、母材に熱脆性が生じることなく、封孔処理等の追加処理が不要で、また厚く塗っても残留応力の心配も無く経年劣化に対応できる施工が可能である無公害型防錆剤として、更に従来の電磁波シールド技術における問題を解消し、施工場所を選ばず従来の塗装方法で均一な塗膜構造を有した電磁波シールド特性を発揮する無公害型電磁波シールド剤として有用な樹脂組成物、およびこうした樹脂組成物を基材表面に被覆した樹脂被覆部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得た本発明の樹脂組成物とは、(a)鱗箔状微粉末に形成されたZnおよび/またはAlと、(b)鱗箔状微粉末に形成されたCuおよび/またはNiの、少なくともいずれかを含んでなる異種金属のクラッド状鱗箔微粉末を、樹脂に配合したものである点に要旨を有するものである。この樹脂組成物には、必要によって、Mn,Mg,Mo,Li,CおよびAgよりなる群から選ばれる1種以上の元素の粉末若しくは合金粉末を配合することが好ましい。
【0011】
本発明の樹脂組成物で用いる樹脂としては、一般式、RSi(OR4−N(式中、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、炭素数2〜3のアシル基若しくは炭素数3〜5のアルコキシアシル基であり、Nは0〜2の整数である)で示されるシラン化合物、またはその部分加水分解縮合物からなる硬化性シリコーン樹脂が挙げられる。
【0012】
本発明の樹脂組成物には、必要によって、(1)金属アルコキシド(Siアルコキシドを除く)や水酸化リチウム(LiOH)を含有させることも有用であり、これによって樹脂組成物の特性を更に向上させることができる。
【0013】
上記のような樹脂組成物を基材表面に被覆することによって、防錆性および導電性に優れた樹脂組成物被覆部材が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、鱗箔状微粉末に形成された、(a)鱗箔状微粉末に形成されたZnおよび/またはAlと、(b)鱗箔状微粉末に形成されたCuおよび/またはNiの、少なくともいずれかを含んでなる異種金属のクラッド状鱗箔微粉末を、樹脂に配合することによって、簡便に塗布することができ、少量の金属粉の配合で導電性を有し、および/または亜鉛めっきと同等以上の優れた防錆(防食)性を有し、しかも電磁波を遮断する優れたシールド特性をも発揮する樹脂組成物が実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った。その結果、(a)鱗箔状微粉末に形成されたZnおよび/またはAlと、(b)鱗箔状微粉末に形成されたCuおよび/またはNiの、少なくともいずれかを含んでなる異種金属のクラッド状鱗箔微粉末を、樹脂に配合したものでは、上記目的を達成し得る樹脂組成物が実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
上記(a),(b)の成分は、鱗箔状微粉末のものが使用されるが、「鱗箔状微粉末」とは、薄片状の微細粉末を意味し、スタンピングミルやボールミルを適用することによって製造することができる。例えば、Alでは、Al箔を上記の方法によって、アルミニウムの鱗箔状微粉末とすることができる。また、鱗箔状微粉末に成形させた(a)成分および(b)成分を適宜組み合わせて、振動ミル等によって不活性雰囲気中で衝撃圧力をかけることによって、硬度の違いと衝撃エネルギーによる静電気作用によって粉末表面に他の粉末が不規則的に圧着し、クラッド状鱗箔微粉末となる。
【0017】
本発明の樹脂組成物には、上記(a)成分および(b)成分の少なくともいずれかを含む必要があるが、クラッド状鱗箔微粉末とする組み合わせは、必ずしも(a)成分と(b)成分とする必要はなく、(a)成分同士若しくは(b)成分同士によるクラッド状鱗箔微粉末を使用することも可能である。例えば、鱗箔状微粉末に形成されたZn粉末とAl粉末を振動ミルにて粉砕細鱗片化することにより、母材にあたるZn鱗箔粉末の表面に硬度の低いAl鱗箔粉末が不規則的に圧着して、Zn粉末表面を完全被覆若しくは部分被覆することによってクラッド化し、異種金属の複合材料となる。こうした状況は、(b)成分同士或いは(a)成分と(b)成分の相互においても同様である。但し、(a)成分同士若しくは(b)成分同士を選ぶ場合には、必然的に「Zn粉末およびAl粉末」、或いは「Cu粉末およびNi粉末」のいずれかの組み合わせによって、異種金属のクラッド状鱗箔微粉末を構成することになる。
【0018】
上記(a)成分は、鱗箔状のZnおよび/またはAl微細粉末であるが、その大きさ(粒径)は10〜50μm程度、厚さ1〜10μm程度が好ましく、より好ましくは大きさ:15〜30μm、厚さ2〜6μmのものが良い。また上記(b)成分は鱗箔状のCuおよび/またはNi微細粉末であるが、その大きさ(粒径)は10〜30μm程度、厚さ0.5〜5μm程度が好ましく、より好ましくは大きさ10〜20μm、厚さ1〜3μm程度のものが良い。
【0019】
上記のようなクラッド状鱗箔微粉末を樹脂中に配合することによって、防錆性および/または導電性に優れた樹脂組成物が実現できたのである。こうした構成を採用することによって、上記効果が得られる理由についてはその全てを解明し得た訳ではないが、おそらく次のように考えることができた。即ち、上記のようなクラッド状鱗箔微粉末を樹脂中に配合したものでは、樹脂内での金属粉の均一化が図れると共に、均一な塗膜構造を有するものとなって、防錆性や導電性に優れたものとなると考えられた。
【0020】
本発明の効果を発揮させるためには、クラッド状鱗箔微粉末の樹脂への配合割合は50質量%以上とすることが好ましいが、過剰に配合されると樹脂の割合が少なくなって塗装性が劣化するので、60質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明の防錆剤に使用されるクラッド状鱗箔微粉末は、その大きさ(粒径)は10〜50μm程度、厚さ1〜8μm程度が好ましいが、より好ましくは大きさ20〜40μm、厚さ2〜5μmのものが良い。
【0022】
尚、各成分においてクラッドさせるときの比率は、適宜設定すればよいが、例えばZnとAlを組み合わせる場合には、ZnとAlの合計質量に対して亜鉛成分を70〜95質量%程度の範囲とすればよく、好ましくは85質量%〜95質量%の範囲である。亜鉛とアルミニウムの比率に対する容積が同容量に近くなる程、標準電極電位の差による犠牲陽極効果が際立った防錆効果が発揮される。
【0023】
例えば亜鉛/アルミニウムクラッド状鱗箔微粉末では、各成分が積層されることによって、Alの標準電極電位が−1.662V、亜鉛の標準電極電位−0.762V、鉄の標準電極電位−0.447Vであることから、これら相互間の電位差による犠牲陽極効果によって防錆性が向上することになる。
【0024】
上記(a)成分は防錆性向上に寄与するものであり、上記(b)成分は導電性(電磁波シールド性)に寄与するものである。(a)成分と(b)成分の配合比率については要求される特性に応じて任意に設定すればよい。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、必要によって、Mn,Mg,Mo,Li,CおよびAgよりなる群から選ばれる1種以上の元素の粉末若しくは合金粉末を配合することも有用である。これらの成分は、樹脂中の粉末粒子間のギャップを小さくすることによって、粉末粒子の分散状態をより気密化し、樹脂内での金属粉の均一化および均一な塗膜構造を更に向上させる。これらの成分は、上記(b)成分と同様に、導電性を付与するのにも有効である。これらの効果を発揮させるためには、その配合割合は、樹脂中に1〜12質量%程度が適切である。尚、これらの成分のうち、特に好ましいのは鱗箔状に形成されたC粉末(黒鉛粉末)である。また、これらの成分の配合による効果をより有効に発揮させるためには、その大きさ(粒径)は1〜10μm程度が好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物で用いる樹脂としては、変性シリコーン樹脂、硬化性シリコーン樹脂等、様々な樹脂が使用できその種類については特に限定されるものではないが、後述する一般式(1)で示されるシラン化合物、またはその部分加水分解縮合物からなる硬化性シリコーン樹脂が好ましいものとして挙げられる。
【0027】
硬化性シリコーン樹脂は、従来では末端シラノール基を有する硬化性シリコーン樹脂をトルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解させた、いわゆるシリコーンワニス溶液が多用されているが、これには下記(1)、(2)のような問題がある。
【0028】
(1)低引火点の有機溶剤を必須成分とする。
(2)一般的に硬化塗膜形成には150℃以上で長時間の加熱硬化が必要とされる。このため、硬化に多大なエネルギーを必要とすると共に、応用範囲がライン塗工法に限定され、現場施工は基本的に不可能である。
【0029】
これらの問題があることから、有機溶剤を含有せず、常温硬化が可能な無溶剤常温硬化性シリコーン樹脂として、オルガノアルコキシシランを部分(共)加水分解縮合したシリコーンアルコキシオリゴマーと、必要に応じてこのシリコーンアルコキシオリゴマーの湿気硬化を促進させる硬化触媒の添加を検討し、下記一般式(1)で示される樹脂を用いることによって室温雰囲気下での硬化が可能となり、既設鉄鋼構造物のメンテナンスや屋内外電磁波シールド施工にも適応可能になったのである。
【0030】
上記のような硬化性シリコーン樹脂にクラッド状鱗箔粉末を配合することによって、均一な積層皮膜を形成し、皮膜特性を更に向上することのできる樹脂組成物となる。
【0031】
従来使用されている無機ジンクペイントは、使用する直前に、亜鉛などの粉体を無機高分子シリコーン塗料系に混合するタイプと、変性シリコーンでウォッシュするタイプ等があるが、金属個体成分として亜鉛粉:90〜96質量%程度含有させないと導電性は発揮できない。また、単体鱗片金属粉を混合した有機あるいは無機防錆塗料もあるが、単体金属粉の混合であるため、塗膜内の配列が不規則なために防錆(防食)効果が不均一になり、しかも金属個体成分として亜鉛粉:90〜96質量%程度含有させないと導電性は発揮できない。
【0032】
これに対して本発明による樹脂組成物では、クラッド状鱗箔粉末状を少量配合することによって導電性付与が可能になり、また良好な防錆(防食)性が確保できるようになる。また、金属粉を90〜96質量%配合すると、形成された面が粗面でポーラスとなるため皮膜厚さが100μm以上でなければその効果が発揮されないが、本発明の樹脂組成物による皮膜形成においては皮膜厚さが50μm程度であってもその効果が発揮されるものとなる。本発明の樹脂組成物では、従来の塗装方法と同様に簡便に塗装できるという優れた作業性と、金属粉を減量しても、得られた皮膜は無機ジンクペイント、有機・無機系防錆塗料、溶融亜鉛鍍金や金属溶射方法と同等以上の優れた防錆性を示す他、封孔処理等の面倒な後処理が不要となる等の各種利点を有するものとなる。
【0033】
上記のように、硬化性シリコーン樹脂にクラッド状鱗箔粉末を配合した樹脂組成物では、硬化性シリコーン樹脂の加水分解性反応基−OR(a)が加水分解反応し、金属表面(Me)の水酸基と水素結合的に吸着し、その後脱水縮合反応することにより化学結合(Me−O−Si−OR)し、鉄鋼構造材に強固に接着した皮膜を形成することができる。また、クラッド状鱗箔微粉末とは、加水分解・脱水縮合反応による異種金属結合(例えば、OR―Al−O−Si−O−Zn−O−Si−OR等の部分的化学結合状態)を形成するので、皮膜中に金属粉末をしっかり固定することができ、硬化したシリコーン樹脂には残存有害成分が無く、また優れた耐候性を有しているため、耐久性のある無公害な防錆(防食)性を示すものとなる。
【0034】
本発明で好ましく用いられる硬化性シリコーン樹脂は、アルコキシシリル基を含有するものであるが、これは下記一般式(1)で表されるシラン化合物、またはその部分(共)加水分解縮合物の1種または2種以上の混合物である。
Si(OR4−N …(1)
【0035】
上記一般式(1)中のRは、同一または異なってもよい、炭素数1〜10の非置換または置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基が例示される。
【0036】
また、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数2〜3のアシル基、または炭素数3〜5のアルコキシアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基から選択されるアルキル基、アセチル基等のアシル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基等のアルコキシアルキル基が例示される。
【0037】
上記一般式(1)中のNは、0〜2の整数(N=0、1、2)であるが、樹脂組成物の硬化性、硬化塗膜の表面硬度、基材との密着性等の観点からして、硬化性シリコーン樹脂中で、N=1のシラン化合物および/またはその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、より好ましくは40〜100モル%であるのが良い。また、N=0のシラン化合物および/またはその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、硬化性シリコーン樹脂中で40モル%以下であることが好ましく、N=2のシラン化合物および/またはその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、硬化性シリコーン樹脂中で60モル%以下であることが好ましい。
【0038】
硬化性シリコーン樹脂成分として、N=1のシラン化合物および/またはその部分(共)加水分解縮合物に加えて、N=0のシラン化合物および/またはその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化皮膜(樹脂皮膜)の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多過ぎると皮膜表面にクラックが発生するおそれがあり、N=2のシラン化合物および/またはその部分(共)加水分解縮合物を併用すると、硬化塗膜に強靱性と可撓性が与えられるが、配合量が多すぎると十分な架橋密度が得られないために、表面硬度や硬化性が低下するおそれがある。
【0039】
このようなシラン化合物及びその部分(共)加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、シアノエチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルアリルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシランまたはアシロキシシラン、並びにこれらの部分(共)加水分解縮合物を挙げることができる。
【0040】
これらのシラン化合物および部分(共)加水分解縮合物の前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、防錆剤や電磁波シールド剤として使用した際の硬化性、塗膜(皮膜)特性等の観点からすれば、一般式(1)におけるRがメチル基およびフェニル基から選択される基、Rがメチル基およびエチル基から選択される基であるシラン化合物を用いることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが例示される。
【0041】
部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)〜100量体が挙げられ、好ましくは2〜50量体、更に好ましくは2〜30量体としたものが好適に使用でき、また2種以上のシラン化合物を原料とする部分(共)加水分解縮合物を使用することもできる。
【0042】
本発明の樹脂組成物で用いることのある硬化性シリコーン樹脂としては、上記したシラン化合物またはその部分(共)加水分解縮合物を単独で使用しても良いが、構造の異なる2種類以上のシラン化合物または部分(共)加水分解縮合物を用いることや、シラン化合物と部分(共)加水分解縮合物を併用することも可能である。但し、各成分の混合時や塗装時の揮発性、作業性や、硬化性コントロールの容易さ、湿気硬化により発生するアルコール量といった観点からは、部分(共)加水分解縮合物を必須成分とすることが好ましい。
【0043】
尚、上記のような部分(共)加水分解縮合物は、シリコーンアルコキシオリゴマーとして市販されているものが使用できるが、常法に基づき、加水分解性シラン化合物に対し当量未満の加水分解水を反応させた後に、アルコール、塩酸等の副生物を除去することによって製造することができる。原料の加水分解性シラン化合物として、例えば上記したようなアルコキシシラン類やアシロキシシラン類を使用する場合は、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン等のアルカリ性有機物質等を反応触媒として部分加水分解縮合すればよく、クロロシラン類から直接製造する場合には、副生する塩酸を触媒として水やアルコールを反応させればよい。
【0044】
また、各成分の混合時の作業性、防錆剤・電磁波シールド剤の塗装性や防錆効果・シールド効果を考慮した場合、硬化性シリコーン樹脂成分の25℃における粘度(力学的粘度)は、好ましくは1〜200mPa・s、より好ましくは5〜50mPa・s、更に好ましくは10〜30mPa・s程度とするのが良く、粘度や硬化性の調整目的で上記したシラン化合物を使用することができるし、場合によってアルコール類等の溶剤成分を併用することも可能である。
【0045】
更に、基材との密着性向上を目的としてエポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有するシランカップリング剤を配合したり、塗膜特性向上を目的としてシラノール基含有シリコーン樹脂を一部併用することも可能である。
【0046】
本発明の樹脂組成物には、必要によって(1)金属アルコキシドや(2)水酸化リチウム(LiOH)を含有させることも有効である。このうち金属アルコキシドは、硬化性シリコーン樹脂がなす3次元架橋の間に入り込み、水分と反応して遊離した金属イオンによって皮膜の導電性が向上し、犠牲陽極作用や電磁波シールド特性を強化し、防錆効果・電磁波シールド効果を向上させることができる。
【0047】
金属アルコキシドの種類としては、Al、Li、Sn、Zr、Fe、Zn等の各種アルコキシドが使用できるが、金属のイオン化という観点からしてSiアルコキシドは採用できない。このうち、特にAlアルコキシドが導電性を上げる効果が高く、好ましく用いることができる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、フェノキシ基等を示すことができるが、取り扱いの容易性からして、イソプロポキシ基が好ましい。特に好ましいものとしては、アルミニウムトリイソプロポキシドが挙げられる。
【0048】
上記金属アルコキシドを用いる場合には、アルコール類と併用して良い。このとき用いるアルコールとしては、一価アルコール類が好ましいものとして挙げられ、なかでも2−プロパノールが好ましい。金属アルコキシドの含有量は、金属粉と金属イオンの割合とシリコーン樹脂のゲル化防止という観点からして、樹脂成分100質量部に対して1〜20質量部の範囲とすれば良く、好ましくは8〜15質量部の範囲である。
【0049】
一方、水酸化リチウムを硬化性シリコーン樹脂と混合することによって、上記金属アルコイシドと同様に、部分的に遊離したLiイオンがシリコーン樹脂に導電性を付与し、硬化性シリコーン樹脂がなす3次元架橋の間に入り込み、皮膜の導電性が向上し、犠牲陽極作用や電磁波シールド特性を強化し、防錆効果・電磁波シールド効果を向上させることができる。
【0050】
水酸化リチウムは水和物と無水和物が使用できるが、硬化性シリコーン樹脂との混合時に水和物が混入していると、加水分解反応による粘度上昇が生じ易いので、無水和物を用いることが好ましい。
【0051】
上記水酸化リチウム無水和物を用いる場合の含有量は、樹脂成分100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲とすれば良く、好ましくは0.5〜2質量部の範囲である。
【0052】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて(硬化性シリコーン樹脂を使用する場合)、アルコキシシリル基を含有する硬化性シリコーン樹脂を湿気硬化させるための硬化触媒を使用しても良い。そのような硬化触媒としては、リン酸等の酸類;トリエタノールアミン等の有機アミン類;ジメチルアミンアセテート等の有機アミン塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩;炭酸水素ナトリウム等の有機酸のアルカリ(土類)金属塩;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノアルキルシラン化合物;オクチル酸亜鉛等のカルボン酸金属塩;ジオクチル錫ジラウレート等の有機錫化合物;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン酸エステル類;アセチルアセトンアルミニウム塩等の金属キレート化合物等が挙げられる。
【0053】
この硬化触媒の配合量は、使用する硬化性シリコーン樹脂成分および硬化触媒の種類や所望する硬化速度によって異なるが、少な過ぎても多過ぎても硬化性、作業性、保存安定性や塗膜特性に悪影響があるため、一般的には硬化性シリコーン樹脂成分100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲とすれば良く、好ましくは0.5〜10質量部の範囲で配合するのが良い。
【0054】
本発明の樹脂組成物には、使用目的に応じて本発明の効果を妨げない範囲で、上記成分に加えて各種の顔料、染料、充填剤、接着性改良剤、レベリング性向上剤、無機および有機の紫外線吸収剤、保存安定性改良剤、可塑剤、老化防止剤等を添加することは任意である。
【0055】
本発明の樹脂組成物を製造するに当っては、クラッド状鱗箔微粉末を樹脂中に配合すればよいが、具体的には、まず樹脂成分および金属アルコキシドを十分混合したものを分散攪拌機に入れ、ここに(a)成分および/または(b)成分からなるクラッド状鱗箔微粉末を所定量添加・混合して60分〜120分攪拌すれば良い。尚、この混合時には、水分の混入によってアルコキシ基等の加水分解性基が加水分解してしまうことを防ぐ目的で、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0056】
本発明の樹脂組成物が被覆される基材としては、防錆性を付与することを目的とする場合には鋼材や鋳鉄等の鉄鋼材料が代表的なものとして挙げられ、電磁波シールド性を付与することを目的とする場合には木材、石膏ボード材、コンクリート系材、プラスチック材を挙げることができる。このときの被覆方法(塗布方法)としては、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り法等を挙げることができ、更に現場塗装を行うことも可能である。また、樹脂組成物の被覆量としては、基材の種類や目的によっても異なるが、一般的には硬化後の塗膜厚さが150〜30μmの範囲となるようにすれば良く、好ましくは100〜60μmの範囲である。
【0057】
樹脂組成物の硬化条件については特には限定されないが、空気中の湿分によって硬化して皮膜を形成するものであるため、特に加熱等の操作は必要とせず、室温雰囲気下で30分間〜2時間程度放置することにより乾燥し(表面タックフリー状態)、更に数時間〜数日間の放置によって硬化反応を完結させることができる。この際に、塗装する基材や塗膜特性に対して悪影響を与えない範囲で更に加熱処理を行うことは任意とされるが、乾燥工程の初期段階から高温に曝すと、硬化性シリコーン樹脂中のシラン化合物が蒸発してしまったり、硬化に必要な水分が供給されなくなるため好ましくない。
【0058】
本発明による樹脂組成物は、化学的結合によって異種金属をブリッジ状に結合させ、金属間内部電子の共有により経時的により強固になり、割れ、剥離することなく半永久的に結合する皮膜を形成することができ、こうした皮膜を基材表面に被覆したものでは防錆性および導電性に優れた樹脂組成物被覆部材となる。
【0059】
以下、実施例によって本発明の作用効果をより具体的に示すが、本発明は下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜設計変更することも可能であり、これらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0060】
本発明の樹脂組成物における成分として、下記(A)〜(H)のものを準備し、これらの成分を用いて、下記実施例1〜16、比較例1〜10の樹脂組成物を調整した。
【0061】
A)成分(クラッド状鱗箔粉末)
(A−1):クラッド成分比率が、亜鉛/アルミニウム微粉末合計100質量%に対して、亜鉛粉末:88質量%、アルミニウム粉末:12質量%;大きさ(粒径):20〜40μm、厚さ1〜5μm(純度98%)
(A−2):クラッド成分比率が、亜鉛/アルミニウム微粉末合計100質量%に対して、亜鉛粉末:90質量%、アルミニウム粉末:10質量%;大きさ(粒径):20〜40μm、厚さ4〜7μm(純度98%)
(A−3):クラッド成分比率が、ニッケル/アルミニウム微粉末合計100質量%に対して、ニッケル粉末:90質量%、アルミニウム粉末:10質量%;大きさ(粒径):15〜30μm、厚さ3〜6μm(純度98%)
(A−4):クラッド成分比率が、ニッケル/銅微粉末合計100質量%に対して、ニッケル粉末:98質量%、銅粉末:2質量%;大きさ(粒径):15〜30μm、厚さ3〜6μm(純度98%)
(A−5):クラッド成分比率が、亜鉛/アルミニウム/銅微粉末合計100質量%に対して、亜鉛粉末:90質量%、アルミニウム粉末:9.5質量%、銅粉末:0.5%;大きさ(粒径):20〜40μm、厚さ4〜7μm(純度98%)
(A−6):クラッド成分比率が、ニッケル/アルミニウム微粉末合計100質量%に対して、ニッケル粉末:95質量%、アルミニウム粉末:5質量%;大きさ(粒径):15〜30μm、厚さ3〜6μm(純度98%)
(A−7):クラッド成分比率が、ニッケル/銅/アルミニウム微粉末合計100質量%に対して、ニッケル粉末:99.5質量%、銅粉末:0.4質量%、アルミニウム粉末:0.1質量%;大きさ(粒径):15〜30μm、厚さ3〜6μm(純度98%)
(B)成分(硬化性シリコーン樹脂)
(B−1):メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度:5、粘度5mPa・s
(B−2):メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度:25、粘度:15mPa・s
(B−3):メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度:10、粘度:35mPa・s)
(B−4):メチルトリメトキシシラン70モル%とジメチルジメトキシシラン30モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度:20、粘度:100mPa・s)
(B−5):ジメチルジメトキシシラン
(C)成分(金属アルコキシドまたは水酸化リチウム)
(C−1):アルミニウムトリイソプロポキシド
(C−2):水酸化リチウム
(D)その他の成分(硬化触媒、溶剤)
(D−1):ジ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム
(D−2):テトライソプロポキシチタン
(D−3):無水エタノール
(E)成分(鱗箔状に形成されたニッケル微粉末)
(E−1)大きさ(粒径):10〜30μm、厚さ1〜5μm(純度98%)
(F)成分(粒状に形成されたニッケル微粉末)
(F−1)大きさ(粒径):7〜10μm(純度98%)
(G)成分(鱗箔状に形成された黒鉛微粉末)
(G―1)大きさ(粒径):4〜8μm
(H)成分(粒状に形成された銀微粉末)
(H―1)大きさ(粒径):0.5〜2μm(純度98%)
【0062】
[実施例1]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):62質量部、(B−2):18質量部、(B−5):2質量部を攪拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して撹拌混合した。この(B)、(D)成分の混合物に、更に(C)成分の金属アルコキシドとして(C−1):10質量部を添加して、再度攪拌混合した。
(2)(A)成分として(A−1):100質量部を準備した。
(3)工程(1)で作成した(B)、(C)、(D)成分の混合物:45質量部と、工程(2)で準備した(A)成分の混合粉末:55質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
(4)粘度調整のため、工程(3)で作成した(A)〜(D)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):4質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は60mPa・sであった。
【0063】
[実施例2]
(1)実施例1における各成分の使用量を、工程(2)において、(A)成分(A−2):100質量部を準備した以外は同様の操作を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は50mPa・sであった。
【0064】
[実施例3]
(1)実施例1における各成分の使用量を、工程(1)において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−2):18質量部、(B−3):68質量部、(B−5):2質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒として(D−2):2質量部を添加混合した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は90mPa・sであった。
【0065】
[実施例4]
実施例1における各成分の使用量を、工程(1)において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):40質量部、(B−4):30質量部、(B−5):12質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加混合した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は90mPa・sであった。
【0066】
[実施例5]
実施例1における各成分の使用量を、工程(2)において、(A)成分として、(A−3):100質量部を準備した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は90mPa・sであった。
【0067】
[実施例6]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):59質量部、(B−2):18質量部、(B−5):2質量部を攪拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して撹拌混合した。この(B)、(D)成分の混合物に、更に(C)成分の金属アルコキシドとして(C−1):12質量部を添加して、再度攪拌混合した。
(2)(A)成分として(A−4):94.5質量部を準備した。
(3)(F)成分として(F−1):5質量部と、(G)成分として(G−1):0.5質量部を準備した。
(4)工程(1)で作成した(B)、(C)、(D)成分の混合物:40質量部と、工程(2)、(3)で作製した(A)、(F)、(G)成分:60質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
(5)粘度調整のため、工程(4)で作成した(A)〜(D)、(F)、(G)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):5質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は60mPa・sであった。
【0068】
[実施例7]
(1)実施例6における各成分の使用量を、工程(4)において、(B)、(C)、(D)成分の混合物:45質量部と、工程(2)、(3)で作製した(A)、(F)、(G)成分:55質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した以外は同様の操作を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は50mPa・sであった。
【0069】
[実施例8]
(1)実施例6における各成分の使用量を、工程(1)において、(A)成分として(A−7):8.3質量部、(E)成分として、(E−1):86.2質量部を準備した。工程(4)で作製した(B)、(C)、(D)成分の混合物:40質量部と、工程(2)、(3)で作製した(E)、(F)、(G)成分:60質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
【0070】
粘度調整のため、工程(4)で作成した(B)〜(D)、(E)〜(G)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):5質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は55mPa・sであった。
【0071】
[実施例9]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):71質量部、(B−4):18質量部、(B−5):2質量部を攪拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して撹拌混合した。この(B)、(D)成分の混合物に、更に(C)成分の水酸化リチウムとして(C−2):1質量部を添加して、再度攪拌混合した。
(2)(A)成分として(A−1):100質量部を準備した。
(3)工程(1)で作成した(B)、(C)、(D)成分の混合物:45質量部と、工程(2)で準備した(A)成分の混合粉末:55質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
(4)粘度調整のため、工程(3)で作成した(A)〜(D)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):4質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は50mPa・sであった。
【0072】
[実施例10]
(1)実施例9における各成分の使用量を、工程(2)において、(A)成分(A−5):100質量部を準備した以外は同様の操作を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は50mPa・sであった。
【0073】
[実施例11]
(1)実施例9における各成分の使用量を、工程(1)において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−4):18質量部、(B−3):78質量部、(B−5):2質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒として(D−2):2質量部を添加混合した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は70mPa・sであった。
【0074】
[実施例12]
実施例9における各成分の使用量を、工程(1)において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):49質量部、(B−4):30質量部、(B−5):12質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加混合した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は90mPa・sであった。
【0075】
[実施例13]
実施例1における各成分の使用量を、工程(2)において、(A)成分として、(A−6):100質量部を準備した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は80mPa・sであった。
【0076】
[実施例14]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):71質量部、(B−4):18質量部、(B−5):2質量部を攪拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して撹拌混合した。この(B)、(D)成分の混合物に、更に(C)成分の水酸化リチウムとして(C−2):1質量部を添加して、再度攪拌混合した。
(2)(A)成分として(A−7):94.5質量部を準備した。
(3)(F)成分として(F−1):5質量部と、(G)成分として(G−1):0.5質量部を準備した。
(4)工程(1)で作成した(B)、(C)、(D)成分の混合物:40質量部と、工程(2)、(3)で作製した(A)、(F)、(G)成分:60質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
(5)粘度調整のため、工程(4)で作成した(A)〜(D)、(F)、(G)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):5質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は90mPa・sであった。
【0077】
[実施例15]
(1)実施例14における各成分の使用量を、工程(4)において、(B)、(C)、(D)成分の混合物:45質量部と、工程(2)、(3)で作製した(A)、(F)、(G)成分:55質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した以外は同様の操作を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は60mPa・sであった。
【0078】
[実施例16]
(1)実施例14における各成分の使用量を、工程(2)において、(A)成分として、(A−7):89.5質量部と(E)成分として(E−1):5質量部を準備した。工程(4)で作製した(B)、(C)、(D)成分の混合物:40質量部と、工程(2)、(3)で作製した(E)、(F)、(G)成分:60質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
【0079】
粘度調整のため、工程(4)で作成した(B)〜(D)、(E)〜(G)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):5質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は90mPa・sであった。
【0080】
[比較例1]
実施例1における各成分の使用量を、工程(1)において、(B−1):72質量部、(B−2):18質量部、(B−5):2質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して混合撹拌してた。このとき(C)成分は使用せずに、それ以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は60mPa・sであった。
【0081】
[比較例2]
亜鉛めっき鋼板を準備した。この亜鉛めっき鋼板は、実施例で作製した試験片と同サイズの試験片を浸漬し、塗膜厚を60μmにしたものである。
【0082】
[比較例3]
有機ジンクリッチペイントを準備した。亜鉛含有量が98質量%のアクリル樹脂系の製品を使用した。
【0083】
[比較例4]
無機ジンクリッチペイントを準備した。亜鉛含有量が98質量%のアクリルシルケート樹脂系の製品を使用した。
【0084】
[比較例5]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):59質量部、(B−2):18質量部、(B−5):2質量部を攪拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して撹拌混合した。この(B)、(D)成分の混合物に、更に(C)成分の金属アルコキシドとして(C−1):12質量部を添加して、再度攪拌混合した。
(2)(E)成分として(E−4):94.5質量部を準備した。
(3)(F)成分として(F−1):5.5質量部を準備した。
(4)工程(1)で作成した(B)、(C)、(D)成分の混合物:40質量部と、工程(2),(3)で準備した(E)、(F)成分:60質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
(5)粘度調整のため、工程(3)で作成した(B)〜(D)、(E)、(F)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):5質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は60mPa・sであった。
【0085】
[比較例6]
比較例1における各成分の使用量を、工程(2)において、(E−1):94質量部、(F−1):5質量部、(H−1):1質量部を準備した以外は同様の調整を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は55mPa・sであった。
【0086】
[比較例7]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(B)成分の硬化性シリコーン樹脂として、(B−1):71質量部、(B−2):18質量部、(B−5):2質量部を攪拌混合し、更に硬化触媒として(D−1):8質量部を添加して撹拌混合した。この(B)、(D)成分の混合物に、更に(C)成分の水酸化リチウムとして(C−2):1質量部を添加して、再度攪拌混合した。
(2)(E)成分として(E−4):94.5質量部を準備した。
(3)(F)成分として(F−1):5.5質量部を準備した。
(4)工程(1)で作成した(B)、(C)、(D)成分の混合物:40質量部と、工程(2),(3)で準備した(E)、(F)成分:60質量部を配合し、分散攪拌機を用いて水冷により28℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に攪拌混合した。
(5)粘度調整のため、工程(3)で作成した(B)〜(D)、(E)、(F)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤として(D−3):5質量部を添加して攪拌混合を行い、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の粘度は60mPa・sであった。
【0087】
上記各樹脂組成物について、下記の方法によって防錆性および電磁波シールド性を評価した。尚、防錆性試験は、実施例1〜5、9〜13、比較例1〜4について行い、電磁波シールド性は、実施例6〜8、14〜16、比較例5〜7について行った。
【0088】
[防錆性の試験片作成および防錆性試験方法]
鋼板(材質SPCC、1.0mm×70mm×150mm)をサンドブラスト(細目:平均表面粗度Rz15μm)で表面処理した後、2−プロパノールにて脱脂、洗浄し、エアースプレイガンにて乾燥時60μmの塗膜厚になるように各樹脂組成を塗布し、温度:25℃、湿度:55%の雰囲気下で7日間放置して硬化皮膜とし、試験片とした。
【0089】
上記各試験片について亜鉛めっき試験の一種で促進耐久試験のキャス試験(JIS H8520)に準拠して防錆性試験を行い(試験温度:50±2℃、360時間)、錆の発生の有無を目視にて観察することによって、防錆性を評価した。
【0090】
[電磁波シールド性の測定]
電磁波シールド性については、アドバンテスト(近傍電磁界)によって測定した。このとき、測定試験片は、合板(5mm×200mm×200mm)の表面の埃、汚れを取り除き、エアースプレーガンにて乾燥時80μmの塗膜厚になるように樹脂組成物を塗布し、温度:25℃、湿度:55%の雰囲気下で7日間放置して硬化皮膜とし、試験片とした。
【0091】
各樹脂組成物における各成分の配合量(質量%表示),電気抵抗値、25℃における粘度を下記表1および表2に示す。また各樹脂組成物における防錆性試験結果を、樹脂組成物の硬化性と共に下記表3および表4に示す。また各樹脂組成物における電磁波シールド性については、表5に示す。電磁波シールド性を測定したもののうち、電気抵抗性が低い実施例8の樹脂組成物を用いたときの電磁波シールド性を図1(電界)および図2(磁界)に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
これらの結果から次のように考察できる。まず、本発明で規定する要件を満足する実施例1〜5、9〜13のものでは、優れた防錆性を発揮していることが分かる。また実施例6〜8、14〜16のものでは良好な電磁波シールド性を発揮していることが分かる。また図1、2の結果は、電気抵抗性が低い実施例8のもので0Hz〜1GHzの周波数帯域での範囲で測定したものであるが、高周波数帯域になるに従ってシールド効果が高くなっており、電界においては−60dB以上(マーカー500MHzの周波数帯域)となっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】樹脂組成物による電界のシールド効果を、広い周波数範囲で測定したグラフである。
【図2】樹脂組成物による磁界のシールド効果を、広い周波数範囲で測定したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)鱗箔状微粉末に形成されたZnおよび/またはAlと、(b)鱗箔状微粉末に形成されたCuおよび/またはNiの、少なくともいずれかを含んでなる異種金属のクラッド状鱗箔微粉末を、樹脂に配合したものであることを特徴とする防錆性および/または導電性に優れた樹脂組成物。
【請求項2】
更に、Mn,Mg,Mo,Li,CおよびAgよりなる群から選ばれる1種以上の元素の粉末若しくは合金粉末を配合したものである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂は、一般式、RSi(OR4−N(式中、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、炭素数2〜3のアシル基若しくは炭素数3〜5のアルコキシアシル基であり、Nは0〜2の整数である)で示されるシラン化合物、またはその部分加水分解縮合物からなる硬化性シリコーン樹脂である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
更に、金属アルコキシド(Siアルコキシドを除く)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
更に、水酸化リチウムを含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を基材表面に被覆したものである防錆性および/または導電性に優れた樹脂組成物被覆部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−213909(P2006−213909A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239088(P2005−239088)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(504442469)株式会社シールドテクス (2)
【Fターム(参考)】