説明

防錆用塗布液

【課題】金属表面に塗布された防錆剤の溶剤分が揮発し、当該溶剤に溶解していた樹脂が乾燥皮膜を形成する塗料において、乾燥皮膜が、錆を誘発する水を寄せ付けない、優れた防錆効果を発揮する防錆用塗布液を提供する。
【解決手段】溶剤に揮発性のアルキルシクロヘキサン、炭素数6〜16のイソパラフィン炭化水素から選ばれる1又は2以上の有機溶剤、前記有機溶剤に可溶な樹脂、を配合してなる防錆用塗布液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の防錆および保護を目的とした防錆用塗布液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から金属表面を錆から保護する目的として多くの防錆剤が使用されているが、その防錆剤の多くは潤滑剤としての機能も兼ね備えており、例えば、自動車のドアロック、ヒンジ、スプリング、カギ穴、プラグ、アンテナ等や、自転車をはじめ家庭にある機械や金属製品等に、金属の防錆、可動部の潤滑、電気系統の除湿・防湿を目的として使用されている。前記防錆剤、潤滑剤の多くには、スプレータイプやチューブタイプが採用されている。
また特許文献1には、石油樹脂をパラフィンまたはイソパラフィン等で希釈した王冠用防錆剤が開示されており、無毒性溶剤を使用するため人体に対して安全なものである旨記載がある。
【特許文献1】特開平09−217026号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記防錆剤は、潤滑剤としての機能も兼ね備えるため、溶剤には鉱油等の不揮発性溶剤が採用され、金属表面に塗布された防錆剤の溶剤分は揮発せずに残留する。よって、塗布された防錆剤は、軽い接触等の物理的要因で簡単に剥離することで防錆効果が低下し、また、誤って手や衣服等に付着することは、不快で好ましくない。
また、特許文献1に開示されている発明も、不揮発性溶剤のパラフィン、イソパラフィン等を使用するため、前記課題を同様に有している。
さらに、前記防錆剤、潤滑剤の多くには、スプレータイプやチューブタイプが採用されているため、塗布量の調整が難しく、所望量より多く塗布してしまったり、均一に塗布できなかったりといった不具合を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために完成された発明は、アルキルシクロヘキサン、炭素数6〜16のイソパラフィン炭化水素から選ばれる1又は2以上の有機溶剤、前記有機溶剤に可溶な樹脂、を配合してなる防錆用塗布液である。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、溶剤に揮発性のアルキルシクロヘキサンを採用しているため、金属表面に塗布された防錆剤の溶剤分は揮発し、当該溶剤に溶解していた樹脂が乾燥皮膜を形成する。乾燥皮膜は、錆を誘発する水を寄せ付けないため、優れた防錆効果を発揮する。また、皮膜は乾燥固着するため、軽い接触等の物理的要因で簡単に剥離することはなく、防錆効果を長期間維持することができると共に、誤って手や衣服等に付着することもない。
溶剤分として、アルキルシクロヘキサンに加えて、遅乾燥性溶剤であるイソパラフィン炭化水素を付加的に混合し、溶剤の揮発速度を遅めに調節すると、皮膜が均一に形成され、ゆず肌を防止できる。
また、軟化点110〜130℃程度の樹脂に加えて、軟化点80〜100℃程度の樹脂を樹脂分全量に対して10〜40重量%混合して配合することで、乾燥皮膜が柔らかくなり、粘り性が付与されて、皮膜の密着性が向上する。
さらに、EU規制による有害物質表示義務のない溶剤を採用しているため、人体に対して安全である。
また、本防錆用塗布液を、公知の筆記具容器に入れて使用した場合、塗布液をピンポイントで塗布することができ、所望箇所に所望量を均一に塗布することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態について、以下具体的に説明する。
有機溶剤は、アルキルシクロヘキサンの中から選択できる。アルキルシクロヘキサンとは、具体的には、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン等を指す。本発明では、前記溶剤から任意に選択することができ、単独溶剤又は2種類以上の混合溶剤を用いることができるが、その中でも、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが最も好ましく用いられる。
また、必要に応じて、炭素数6〜16のイソパラフィン炭化水素の中から選択し、さらに付加的に混合できる。イソパラフィン炭化水素の炭素数は、炭素数6〜16が選択できるが、炭素数10〜16が好ましく、さらに炭素数10〜13が好ましい。炭素数6〜16のイソパラフィン炭化水素とは、具体的には、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソヘキサデカンを指す。本発明では、前記溶剤から任意に選択することができ、単独溶剤又は2種類以上の混合溶剤を用いることができるが、その中でも、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカンが最も好ましく用いられる。前記イソパラフィン炭化水素として、例えば、日本油脂株式会社製のNAソルベントシリーズ、「NAS−3」、「NAS−4」等があり、これらはEU規制による有害物質表示義務がないため、人体に対する安全性を配慮した場合好ましい。本防錆用塗布液は、溶剤が揮発した後、樹脂が乾燥皮膜を形成するため、溶剤の揮発速度が速いと均一に皮膜が形成され難く、皮膜に凹凸が生じたり、平滑性を失った、いわゆるゆず肌の状態を形成する場合がある。このゆず肌を防止するために、揮発速度の遅い、前記イソパラフィン炭化水素を遅乾燥性溶剤として、溶剤分全量に対して1〜10重量%を付加的に配合できる。
有機溶剤は防錆用塗布液全量に対して、40〜99重量%を用いることができ、50〜95重量%が特に好ましい。
【0007】
樹脂は、前記溶剤に可溶な樹脂を用い、ロジン樹脂、エステル樹脂、セルロース樹脂、アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂等を用いることができるが、特に、水添石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、石油樹脂、シクロヘキサノン系アルデヒド樹脂、ケトンホルムアルデヒド樹脂、が好ましく用いられる。前記水添石油樹脂として、例えば、荒川化学工業株式会社製のアルコンシリーズ、「アルコンP−70」、「アルコンP−90」、「アルコンP−100」、「アルコンP−115」、「アルコンP−125」、「アルコンM−90」、「アルコンM−100」、「アルコンM−115」、また、前記アルキルフェノール樹脂として、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノルシリーズ、「タマノル510」(軟化点(環球法)75〜95℃)、「タマノル1010R」(軟化点(環球法)85〜110℃)等がある。アルコンシリーズの商品名の番号は、何れも軟化点を表したものである。
本発明では、前記樹脂から任意に選択することができ、単独又は2種類以上を混合して用いることができるが、その中でも、水添石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、が最も好ましく用いられる。本防錆用塗布液は、溶剤が揮発した後、樹脂が乾燥皮膜を形成する必要があるため、軟化点は、110〜130℃程度が望ましいが、軟化点が高い樹脂は引掻き等による物理的要因で全体的にボロボロ剥がれ落ちてしまう不具合もあるため、軟化点80〜100℃程度の樹脂を樹脂分全量に対して10〜40重量%混合して配合することで皮膜を柔らかくし、粘り性を付与させてもよい。
つまり、本防錆用塗布液として、アルキルシクロヘキサン、炭素数6〜16のイソパラフィン炭化水素から選ばれる1又は2以上の有機溶剤、水添石油樹脂、アルキルフェノール樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂、を配合してなる防錆用塗布液も採用可能である。
樹脂は防錆用塗布液全量に対して、1〜60重量%を用いることができ、5〜50重量%が特に好ましい。
【0008】
本防錆用塗布液は、公知のスプレータイプやチューブタイプの容器も採用可能であるが、筆記具の容器を採用することが好ましい。
筆記具の容器としては、フェルトペンと称される繊維タイプの吸収体に繊維タイプのペン芯を採用した筆記具や、塗布液を容器内に入れ、塗布体を押すと開閉弁が開いて容器から塗布液が塗布体へ滲み出る構造であり、フェルトペン、サインペン、修正液塗布具等として広く知られている液体塗布具が採用可能である(例えば実公平3−44099号の発明が開示されている)。そして、部材はそのままで、インキや液状化粧品のみを本防錆用塗布液に置換えて採用できる。フェルトペンタイプの粘度は、2.0〜5.0mPa・s程度、また液体塗布具タイプでは、2.0〜50.0mPa・s程度を採用可能である。
【実施例】
【0009】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。

【0010】
防錆効果確認試験は、次のように行った。
液体塗布具容器(シヤチハタ株式会社製ペイントマーカー)に、各実施例および比較例の防錆用塗布液を入れて、防錆マーカーを作製した。金属には鉄板を用い、当該鉄板の表面に、前記防錆マーカーを用いて防錆用塗布液を均一に塗布し、温度30℃湿度80%に2ヶ月保管した後、さらに温度40℃湿度90%に1ヶ月保管した後の鉄板の状態を目視観察した。
また、皮膜均一性確認試験および皮膜剥離試験は、次のように行った。
皮膜均一性確認試験は、前記防錆マーカーを用いて、前記鉄板の表面に、防錆用塗布液を均一に塗布した後、温度20℃湿度65%に一日保管した後の皮膜の状態を目視及び指触にて観察した。皮膜剥離試験は、前記皮膜の状態を目視観察したサンプルを用い、不織布にて500g荷重で拭き消した後、皮膜の状態を目視観察した。
【0011】
次に、実施例1から実施例4及び比較例の試験結果を表2に示す。

防錆効果確認試験の結果より、実施例1から実施例4及び比較例は、何れも防錆効果が確認された。次に、皮膜均一性確認試験の結果より、溶剤にエチルシクロヘキサンを単独で採用した実施例1及び実施例2では、皮膜の表面に僅かな凹凸が見られたが、実施例3及び実施例4では均一な皮膜が形成された。これは、エチルシクロヘキサン単独では揮発速度が速すぎるため均一に皮膜が形成されないが、遅乾燥性溶剤であるイソパラフィン炭化水素を付加的に混合することで、このゆず肌を防止しているものと推察される。また、比較例では、溶剤が揮発せず皮膜の形成が見られなかった。次に、皮膜剥離試験の結果より、実施例1及び実施例3では、皮膜が僅かに剥離したが、実施例2及び実施例4では、皮膜の剥離が見られなかった。これは、軟化点の低いタマノル510を配合したことで、皮膜が柔らかくなり、粘り性が付与されて、密着性が向上したものと推察される。比較例では、溶剤分と共に、塗布液の大部分が拭き取られてしまった。
【0012】
尚、本発明を前記実施例により説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルシクロヘキサン、炭素数6〜16のイソパラフィン炭化水素から選ばれる1又は2以上の有機溶剤、前記有機溶剤に可溶な樹脂、を配合してなる防錆用塗布液。

【公開番号】特開2008−285619(P2008−285619A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134053(P2007−134053)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】