防音パネル及び防音壁
【課題】100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で、防音効果をより向上させた防音パネル及び防音壁を提供する。
【解決手段】防音パネル14は、鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備え、剛な材料で構成された鋸歯部材16と、少なくとも鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置され、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる少なくとも1つの吸音部材18と、を備える。
【解決手段】防音パネル14は、鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備え、剛な材料で構成された鋸歯部材16と、少なくとも鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置され、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる少なくとも1つの吸音部材18と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋸歯型形状のエッジを利用した防音パネル及び防音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上辺が平坦な直立型の防音壁の上辺に特殊な形状のエッジを有する構造物を取り付けて、同じ高さの上辺が平坦な直立型の防音壁より大きな減音効果が得られるようにした防音壁が知られている(例えば、非特許文献1、特許文献1〜特許文献3)。また、各ユニットの音源側表面に開口を設けると共に各ユニットの内部に防音材を充填して、開口から内部に吸収した騒音を消音させて、防音性能を向上させた防音壁が提案されている(特許文献4、特許文献5)。これらの技術では、二等辺三角形等の同一形状のユニットを繰り返し複数個配列することにより形成したエッジを用いている。
【非特許文献1】R&D KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol.49 No.2(Sep.1999)
【特許文献1】特公昭60−1443号公報
【特許文献2】特開2001−64920号公報
【特許文献3】特開2003−129426号公報
【特許文献4】特開2005−30116号公報
【特許文献5】特開2001−64920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の従来の防音壁では、100Hz〜300Hzの低周波数帯域(低音域)では殆ど減音効果を得ることができない。また、平坦な防音壁の上辺に特殊な形状の構造物を取り付けた他の防音壁としては、いわゆるT型防音壁や先端改良型防音壁などがある。これら他の防音壁では、構造的な見地から、防音壁に取り付ける構造物の形状が制約されている。従来の防音壁に限らず、他の防音壁においても、上記低音域では殆ど減音効果を得ることができない、という問題がある。
【0004】
本発明は、上記問題点を解消するために成されたもので、100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で、防音効果をより向上させた防音パネル及び防音壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備え、剛な材料で構成された鋸歯部材と、少なくとも前記鋸歯部材の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置され、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる少なくとも1つの吸音部材と、を備えた防音パネルである。
【0006】
請求項2の発明は、前記吸音部材は、多孔質材料で構成される請求項1に記載の防音パネルである。請求項3の発明は、前記多孔質材料は、グラスウール又はロックウールである請求項2に記載の防音パネルである。請求項4の発明は、前記多孔質材料は、密度が32kg/m3〜96kg/m3で且つ厚さが25mm〜300mmである請求項2又は請求項3に記載の防音パネルである。
【0007】
請求項5の発明は、前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側に隣接配置された、請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0008】
請求項6の発明は、前記鋸歯部材は、鋸歯部材の鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備えると共に、前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと噛み合う形状の前記予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと前記吸音部材の鋸歯型エッジとが噛み合うように配置された、請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0009】
請求項7の発明は、前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側と受音点側とに隣接配置された、請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0010】
請求項8の発明は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジの各先端部を支持する支持部材を更に備えた、請求項1から7までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0011】
請求項9の発明は、前記鋸歯部材は、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、ベクトルポテンシャBを、受音点から前記鋸歯型エッジに想定された複数の縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該受音点から該始点の各々に向かう複数の第1のベクトルlの各々と、音源から前記縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該音源から該始点の各々に向かう複数の第2のベクトルmの各々との外積を含んで表わしたとき、前記ベクトル・ポテンシャルBの各々と、前記複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和が所定値以下の値になるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0012】
請求項10の発明は、前記鋸歯部材は、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、前記第1の鉛直辺の始端、前記第1の斜辺の終端、前記第2の斜辺の始端、第2の鉛直辺の終端、前記第3の斜辺の始端、及び前記第4の斜辺の終端を同一直線状上に位置させ、前記第1のユニットの高さ及び前記第2のユニットの高さを同一とし、前記第1の所定角度、前記第2の所定角度、前記第3の所定角度、及び前記第4の所定角度の少なくとも2つの所定角度の大きさが各々異なるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0013】
請求項11の発明は、請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の防音パネルを備えた防音壁である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防音パネル及び防音壁によれば、100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で、防音効果をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の一例を示す概略的な斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る防音パネルの構造の一例を示す平面図である。
【図3】(A)は図2に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、(B)は(A)に示す単位ユニットのX-X線での断面図である。
【図4】第1のユニットと第2のユニットとを組み合わせた鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を示す平面図である。
【図5】(A)及び(B)は鋸歯型エッジの先端形状の変形例を単位ユニットで示す図である。
【図6】M型エッジの変形例を単位ユニットで示す図である。
【図7】(A)はグラスウールの吸音特性を示すグラフであり、(B)はロックウールの吸音特性を示すグラフである。
【図8】実験に用いた鋸歯部材の鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を定義する図である。
【図9】実験に用いたM型エッジの形状を具体的に表す図である。
【図10】図9に示すM型エッジを有する鋸歯部材の減音効果を示すグラフである。
【図11】(A)〜(D)は平坦エッジを有する剛板での停留位相点を説明する図である。
【図12】(A)〜(D)はM型エッジを有する鋸歯部材での停留位相点を説明する図である。
【図13】(A)〜(D)は他の鋸歯型エッジを有する鋸歯部材での停留位相点を説明する図である。
【図14】屋外フィールド実験の条件を示す概略図である。
【図15】(A)は3種類の防音壁について最も低い位置にある受音点R1での減音量の測定結果を示すグラフであり、(B)は3種類の防音壁について最も高い位置にある受音点R3での減音量の測定結果を示すグラフである。
【図16】平坦エッジを有する剛板と吸音部材とを併用した防音パネルの構造(比較例)を示す斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る鋸歯部材及び吸音部材を併用した防音パネルの構造を示す斜視図である。
【図18】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の他の一例を示す概略的な斜視図である。
【図19】(A)は図18に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、(B)は(A)に示す単位ユニットの分解斜視図であり、(C)は(A)に示す単位ユニットのA-A線での断面図である。
【図20】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な斜視図である。
【図21】(A)は図20に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、(B)は(A)に示す単位ユニットのB-B線での断面図である。
【図22】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。
【図23】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。
【図24】障壁による回折音場を計算するための座標及びベクトルを説明するための線図である。
【図25】「平坦エッジ」及び「M型エッジ+GW」について、水平距離が5m、10m、20mの各位置での減音量の測定結果をまとめて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
(防音壁の全体構造)
まず、本発明の一実施の形態に係る防音壁の全体構造について説明する。図1は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の一例を示す概略的な斜視図である。図1に示すように、本実施の形態の防音壁10は、従来の上辺が平坦な防音壁12の上辺に、防音パネル14を取り付けて構成されている。上辺が平坦な防音壁12の高さを「H」、防音パネル14の高さを「h」とすると、防音壁10の高さは「H+h」である。防音壁10の高さ「H+h」は、コストや外観の観点から低い方が好ましい。
【0018】
上辺が平坦な防音壁の性能は、騒音の回折に伴う減衰量(回折減衰量)で評価することができる。回折減衰量の予測方法としては、「前川チャート」と呼ばれる回折減衰チャートを用いる方法が、簡便であり広く利用されている。前川チャートによれば、騒音の周波数と行路差とから騒音の回折減衰量を求めることができる。換言すれば、所望の回折減衰量を得るために必要な「防音壁の高さ」を求めることができる。
【0019】
例えば、低音域の250Hzで20.5dBの回折減衰量を得たい場合、前川チャートによれば高さ6mの防音壁が必要になる。詳細は後述するが、本実施の形態の防音パネル14は、100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で防音効果を発揮する。このため、本実施の形態では、防音壁12の高さ「H」を3.0m、防音パネル14の高さ「h」を0.9mとし、合計3.9mの高さの防音壁で同等の回折減衰量を得ることができる。
【0020】
本実施の形態の防音パネル14は、鋸歯型形状のエッジ(以下、「鋸歯型エッジ」という。)を有する鋸歯部材16と、鋸歯部材16の音源側に隣接配置された平板状の吸音部材18と、で構成されている。鋸歯部材16は、鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備えている。平板状の吸音部材18は、少なくとも鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置されている。
【0021】
音源Sで発生した騒音は、複数の経路により受音点Rに到達する。例えば、太い矢印で図示した通り、吸音部材18を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬して受音点Rに到達する。また、吸音部材18を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16で遮断される。更に、太い点線の矢印で図示した通り、音源Sで発生した騒音は、防音パネル14の上辺で回折されて受音点Rに到達する。
【0022】
(防音パネルの構造)
次に、上記の防音パネルの構造について説明する。図2は本発明の実施の形態に係る防音パネルの構造の一例を示す平面図である。また、図3(A)は図2に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、図3(B)は図3(A)に示す単位ユニットのX-X線での断面図である。
【0023】
図2、図3(A)及び図3(B)に示すように、本実施の形態の防音パネル14は、単位ユニットUが水平方向に繰り返し配列された鋸歯部材16を備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。第1のユニットu1はエッジがM字状であり、第2のユニットu2はエッジが逆V字状である。以下では、上記のM字状のエッジと逆V字状のエッジとを有する鋸歯型エッジ又は鋸歯部材16を「M型エッジ」と称する。
【0024】
本実施の形態では、鋸歯部材16は、吸音部材18の受音点側に隣接配置されて、吸音部材18の受音点側の表面の一部を覆っている。これにより、上記の通り、吸音部材18を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬するが、吸音部材18を透過した騒音の他の一部は、鋸歯部材16の第1のユニットu1又は第2のユニットu2で遮断される。
【0025】
ここで、鋸歯型エッジの形状を詳細に説明する。図4は第1のユニットと第2のユニットとを組み合わせた鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を示す平面図である。図5(A)及び図5(B)は鋸歯型エッジの先端形状の変形例を単位ユニットで示す図である。図6はM型エッジの変形例を単位ユニットで示す図である。
【0026】
図4に示すように、第1のユニットu1は、一端側から他端側にエッジを辿ったときに、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺v1、第1の鉛直辺v1の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度α1傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺s1、第1の斜辺s1の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度α2傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺s2、及び第2の斜辺s2の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺v2を組合せた形状を有している。
【0027】
第1のユニットu1の第1の斜辺s1の長さと第2の斜辺s2の長さとは異なる大きさであり、第1の鉛直辺v1の長さ及び第2の鉛直辺v2の長さは、同一の大きさである。
【0028】
また、第1の鉛直辺v1の始端、第1の斜辺s1の終端(第2の斜辺s2の始端と同じ)、及び第2の鉛直辺v2の終端は、同一直線上、例えば水平線上に位置している。第1の斜辺s1の長さと第2の斜辺s2の長さとが異なっているため、第1の所定角度α1と第2の所定角度α2とは異なった大きさとなっている。
【0029】
第2のユニットu2は、一端側から他端側にエッジを辿ったときに、鉛直方向に対して第3の所定角度α3傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺s3、及び第3の斜辺s3の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度α4傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺s4を組合せた形状を有している。
【0030】
第2のユニットu2の第3の斜辺s3の長さと第4の斜辺s4の長さとは異なる大きさであり、従って、第3の所定角度α3の大きさと第4の所定角度α4の大きさとは異なっている。
【0031】
また、第3の斜辺s3の始端、及び第4の斜辺s4の終端は、第1のユニットで説明した直線と同一の直線上に位置している。そして、第3の斜辺s3の終端から第3の斜辺s3の始端が位置している直線までの距離、すなわち、第3の斜辺s3及び第4の斜辺s4によって形成される三角形の高さは、第1の鉛直辺v1の長さ(従って、第2の鉛直辺v2の長さ)と同一の大きさになるように形成されている。
【0032】
このように、第1の鉛直辺v1の始端、第1の斜辺s1の終端、第2の斜辺s2の始端、第2の鉛直辺v1の終端、第3の斜辺s3の始端、及び第4の斜辺s4の終端が同一直線状上に位置し、第1の鉛直辺v1、第2の斜辺s2、及び第2のユニットの高さが同一になっているため、第1のユニットu1の高さ及び第2のユニットu2の高さは同一に形成されている。
【0033】
また、第1の所定角度α1、第2の所定角度α2、第3の所定角度α3、及び第4の所定角度α4の大きさは各々異なっており、第2の鉛直辺v2の終端と第3の斜辺s3の始端とが一致すると共に、第4の斜辺s4の終端と他の第1のユニットの第1の鉛直辺v1の始端とが一致している。
【0034】
なお、上記では、各歯の先端部が尖った鋸歯型エッジの例を図示したが、これに限定される訳ではない。図5(A)に示すように、鋸歯型エッジの各歯の先端部16Cは、平坦に切り取られていてもよい。即ち、先端部16Cは、鉛直辺と斜辺との間又は斜辺と斜辺との間を、水平方向に延びる直線で結んで形成されている。また、図5(B)に示すように、鋸歯型エッジの各歯の先端部は、丸く切り取られていてもよい。即ち、先端部16Cは、鉛直辺と斜辺との間又は斜辺と斜辺との間を、上方に凸な曲線で結んで形成されている。
【0035】
また、単位ユニットUは、第1のユニットu1及び第2のユニットu2以外に、他のユニットを含んでいてもよい。図6に示すように、変形例の単位ユニットは、第1のユニットu1と第2のユニットu2との間に、第1の鉛直辺v1の終端から鉛直方向に対して所定角度α5傾斜して鉛直上方に向かう第5の斜辺s5と、第5の斜辺s5の終端から鉛直下方に向かう上記第1の鉛直辺v1と同じ長さの第3の鉛直辺v3とを備えた形状を有する第3のユニットu3を配置し、第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3を組合せたユニットを下端の一点で連続させて複数個配置することによりエッジを形成したものである。
【0036】
この変形例の第5の斜辺s5の始端は第1のユニットの第1の鉛直辺v1の終端と一致し、第3の鉛直辺v3の終端は第2のユニットu2の第3の斜辺s3の始端と一致しており、第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3は、下端の一点で連続している。また、第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3の斜辺及び鉛直辺で形成される三角形の各々の高さは同一に形成されている。
【0037】
なお、上記では第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3を組合せたユニットを連続させた例について説明したが、第1のユニットu1と第2のユニットu2とを交互に配置し、第1のユニットu1と第2のユニットu2との間、及び第2のユニットu2と第1のユニットu1との間の各々に、第1のユニットu1及び第2のユニットu2と下端の一点で連続させて第3のユニットu3を配置するようにしてもよい。この場合、第3のユニットu3の斜辺の各々を曲線状に形成するようにしてもよく、第3のユニットu3の斜辺の各々を交互に、すなわち一つおきに曲線状に形成するようにしてもよい。
【0038】
また、上記では、第1の所定角度〜第4の所定角度の全ての所定角度の大きさを異ならせる例について説明したが、第1の所定角度〜第4の所定角度のいずれか2つの所定角の大きさを異ならせて他の所定角度の大きさを同じ大きさとしてもよい。
【0039】
(鋸歯部材及び吸音部材)
次に、上記の鋸歯部材及び吸音部材の特性・材料について説明する。
鋸歯部材16は、剛な材料で構成されている。防音パネル及び防音壁の分野で「剛な材料」とは、透過損失TLが40dBよりも大きな材料を意味する。具体的な材料としては、PC(プレキャスト・コンクリート)板などのコンクリート板、鉄やアルミニウムなどの金属板、合成樹脂板、木製の単板や合板、及びこれらの複合板が挙げられる。一般的な防音パネルの厚さは、30mm〜300mmの範囲であり、鋸歯部材16の厚さも同じ範囲としてもよい。しかしながら、上記の意味での「剛な材料」であれば、厚さは特に限定されない。例えば、鋸歯部材16が透過損失TLが40dBよりも大きな材料で構成された板であれば、鋸歯部材16の厚さは1mmでもよい。なお、計算モデルを用いて音場計算を行う場合には、防音パネル及び防音壁の厚さはゼロと仮定される。
【0040】
吸音部材18は、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる材料で構成されている。即ち、入射した音波は吸音部材18を透過するが、透過時に吸音部材18の内部でエネルギー損失が発生する。このような特性を有する吸音部材としては、多孔質材料又は柔軟材料が挙げられる。多孔質材料としては、グラスウール、ロックウール、スラグウール、フェルト、発泡樹脂(連続気泡)、吹付繊維、焼成岩、木毛セメント、木片セメント、軟質繊維、織物、植毛製品等が挙げられる。柔軟材料としては、軟質発泡樹脂(独立気泡)、被膜(塗装)多孔質材料等が挙げられる。これらの中でも、吸音特性に優れる多孔質材料が好ましく、グラスウール、ロックウールが特に好ましい。
【0041】
吸音部材18の厚さは、材料の種類、材料の密度、及び必要とされる吸音率に応じて決まる。一般に、多孔質材料では、密度が32kg/m3〜96kg/m3の範囲であれば、厚さは25mm〜300mmの範囲とすることができる。吸音部材18の吸音特性は、全周波数帯域での「残響室法吸音率」で表される。残響室法吸音率は、JIS A 1409 「残響室法吸音率の測定方法:1998」(ISO 354:1985)に基づいて測定される。以下では、残響室法吸音率を「吸音率」と称する。
【0042】
ここで、グラスウール及びロックウールの吸音特性を例示する。図7(A)はグラスウールの吸音特性を示すグラフであり、図7(B)はロックウールの吸音特性を示すグラフである。図7(A)に示す吸音特性は、厚さ50mmのグラスウール吸音ボードについて、背後空気層なしの条件下で、密度を32kg/m3、40kg/m3、48kg/m3と変化させて測定したものである。図7(B)に示す吸音特性は、厚さ50mmのロックウール吸音ボードについて、背後空気層なしの条件下で、密度を20kg/m3から160kg/m3まで変化させて測定したものである。
【0043】
図7(A)及び図7(B)から分かるように、グラスウール及びロックウール等の多孔質材料は、中高音域において0.8から1.0と非常に高い吸音率を示す。その一方、100Hz〜300Hzの低音域では、中高音域に比べ吸音率が顕著に低下する。例えば125Hzでは、吸音率は0.1から0.3にまで低下する。従って、多孔質材料だけでは、100Hz〜300Hzの低音域での減音効果を得ることはできない。
【0044】
(鋸歯部材による減音効果)
次に、鋸歯部材による減音効果について説明する。
図8は実験に用いた鋸歯部材の鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を定義する図である。図8に示すように、M型エッジの形状パラメータを定義することができる。ここでは、形状パラメータとして、角度α、角度β、角度γ、角度δ、幅w1、幅w2、及び高さhを定義している。これらの形状パラメータを適宜調整することで、減音効果が高くなるように、M型エッジの形状を最適化することができる。なお、上記の形状パラメータの代わりに、各形状パラメータを算出可能な他の形状パラメータを用いてもよい。
【0045】
図9は実験に用いたM型エッジの形状を具体的に表す図である。実験に用いたM型エッジは、第1のユニットu1と第2のユニットu2とを交互に配列して構成されている。第1のユニットu1及び第2のユニットu2の先端部の各々は、水平方向に沿って平坦に切り取られている。第1のユニットu1及び第2のユニットu2の各部に関し、図9に示すように、鉛直方向及び水平方向の寸法がmm単位で規定されている。
【0046】
図10は図9に示すM型エッジを有する鋸歯部材の減音効果を示すグラフである。M型エッジの減音量を実線で図示し、同じ高さの平坦エッジの剛板の減音量を細い実線で図示している。横軸は周波数(単位:kHz)を表し、縦軸は減音量(単位:dB)を表す。減音量ATTは、防音壁を回折して受音点Rに到達する音波の音圧レベルをSPL、音源Sから1m離れた点の音圧レベルをSPL1mとすると、ATT=SPL−SPL1mである。
【0047】
ここで、各点の位置座標を(x、y、z)で表す。地表面と接する防音壁の中心上端部の位置が、原点(0、0、0)である。「x」は、防音壁に直交する方向における、防音壁からの距離を表す。音源S側が負であり、受音点R側が正である。「y」は、防音壁に平行な方向における、防音壁の中心からの距離を表す。「z」は、防音壁の上端部の高さからの距離を表す。地表面側が負である。図10に示す例では、音源Sの位置座標を「S(−2.5、0、−1.5)」とし、受音点Rの位置座標を「R(5、0、−2)」とした。
【0048】
M型エッジの高さを「h(単位:m)」、音速を「c(単位:m/s)」とすると、低域遮断周波数fLは、fL=c/hで近似される。M型エッジでは、同じ高さの平坦エッジと比較して、低域遮断周波数fLにおいて略5dBの減音量が得られている。また、5dB以上の減音量が得られるのは、周波数「fL=c/h」より高い周波数帯域(中高音域)に制限されている。換言すれば、M型エッジでは、入射角≒π/6の場合に、平坦エッジと比較して5dBの減音量を得るための最小周波数は、およそc/hとなる。
【0049】
ここで、鋸歯部材により減音効果が生じる理由を考察する。図11(A)は、平坦エッジを有する剛板100での停留位相点を示す斜視図である。図11(B)〜(D)は、高さ2mの平坦エッジからの回折音を理論計算した結果を示す図である。図11(A)では停留位相点を●(黒丸)で表し、図11(B)では停留位相点を○(白丸)で表す。
【0050】
図11(B)が計算モデルと音源Sおよび受音点Rの位置を示す。音源Sの位置座標は「S(−1.5、0、1.2)」とし、受音点Rの位置座標を「R(5、0、1.5)」とした。図11(C)が障壁回折波のインパルス応答を示す。横軸は時間(単位:ms(ミリ秒))を表し、縦軸は相対的音圧(Amplitude)(単位:N/m2)を表す。図11(D)の実線がインパルス応答のスペクトルを示し、丸印は障壁回折音(平坦エッジ)のマクドナルド厳密解を示す。横軸は周波数(単位:kHz)を表し、縦軸は減音量(単位:dB)を表す。
【0051】
また、図12(A)は、M型エッジを有する鋸歯部材16での停留位相点を示す斜視図である。図12(B)〜(D)の各々は、図11(B)〜(D)と同様に、M型エッジからの回折音を理論計算した結果を示す図である。なお、これらの例では、吸音部材18は設けられていないものとする。
【0052】
計算モデルを用いて計算した音源Sと受音点Rとの間のインパスル応答は、図11(C)に示すように、平坦エッジでは単一パルスになる。これに対して、複数の角部を有するM型エッジでは、図12(C)に示すように、複雑な波形の分散パルスとなり、振幅も数分の1に低下する。
【0053】
これらの波形の相違は、音波の位相が停留する「停留位相点」により説明することができる。図11(A)及び(B)に示すように、平坦エッジでは、音源Sと受音点Rの最短経路と剛板100のエッジとが交差する点が、停留位相点Pとなる。この場合には、1つの停留位相点Pが発生する。このとき、図11(C)に示すように、音源Sから出た音波が防音壁の停留位相点Pを経て受音点に到達するとき、その回折波は1つの大きいパルスとなる。平坦エッジのインパルス応答の振幅は0.0080229である。また、図11(D)に示すように、インパルス応答のスペクトルは、マクドナルド厳密解とほぼ一致する。
【0054】
これに対し、M型エッジでは、図12(A)及び(B)に示すように、音源Sと受音点Rの最短経路と鋸歯部材16のエッジとが交差する点は複数個あり、複数の停留位相点Pが発生する。このモデルのM型エッジは高さ0.9mであり、Mエッジの頂点高さは図11(A)のモデルと同じ2mである。このとき、図12(C)に示すように、M型エッジでは、複数の停留位相点Pを生じることで、伝搬する音波のエネルギーが分散されて複雑な波形の分散パルスとなり、受音される音波の振幅も低下する。M型エッジのインパルス応答の振幅は0.0023837であり、平坦エッジの1/3以下になっている。また、図12(D)に示すように、インパルス応答のスペクトルは、0.6、2kHzにおいてマクドナルド厳密解より10dB程度小さくなっている。これにより、M型エッジによって減音量が増大することが理論計算により検証された。
【0055】
なお、本実施の形態では、鋸歯型エッジは「M型エッジ」に限定されない。図13(A)は、他の鋸歯型エッジを有する鋸歯部材での停留位相点を示す斜視図である。図13(B)〜(D)の各々は、図11(B)〜(D)と同様に、他の鋸歯型エッジからの回折音を理論計算した結果を示す図である。図13(A)〜(D)に示すように、二等辺三角形等、同一形状のユニットを繰り返し複数個配列することにより形成した鋸歯型エッジ16Mを用いてもよい。鋸歯型エッジ16Mによっても、「M型エッジ」と同様に、複数の停留位相点Pが発生して減音量が増大する。
【0056】
(Mエッジの優位性)
上記の通り、鋸歯型エッジは「M型エッジ」には限定されないが、鋸歯型エッジとしては「M型エッジ」が特に好ましい。図12(B)及び図13(B)から分かるように、図12(B)に示す「M型エッジ」では、図13(B)に示す「鋸歯型エッジ16M」に比べてより多くの停留位相点Pが発生するので、より大きな減音量を得ることができる。
【0057】
また、同一形状のユニットを繰り返し配列した鋸歯型エッジ16Mでは、ユニットの各々から回折する多くのパルスが同じ時間間隔で正面の受音点に到達することになることから、櫛形フィルターと同一に作用し、平坦エッジを有する通常の防音壁より騒音レベルが大きくなる周波数帯が発生する可能性がある。
【0058】
鋸歯型エッジとして「M型エッジ」を有する鋸歯部材16は、図24に示すように、ベクトルポテンシャBを、受音点RからM型エッジに想定された複数の縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで受音点Rから始点の各々に向かう複数の第1のベクトルlの各々と、音源Sから縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで音源Sから始点の各々に向かう複数の第2のベクトルmの各々との外積を含んで表わしたとき、ベクトル・ポテンシャルBの各々と、複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和が所定値以下の値になるように、第1のユニットu1及び第2のユニットu2の形状を定めたものである。
【0059】
ここで、障壁のエッジからの境界回折波を、任意形状の剛平面開口からの回折波に対するMaggi−Rubinowicz理論に基づいて、上記の「M型エッジ」の設計理論を詳細に説明する。図24は、障壁による回折音場を計算するための座標及びベクトルを説明するための線図である。
【0060】
図24に示すように、点音源をS、点音源に対する観測点(受音点)をPとし、剛で厚さの無視できる有限長障壁10が存在するとき、受音点Pの速度ポテンシャルは、障壁面の裏側の速度ポテンシャルを0と近似した場合、Maggi−Rubinowicz表示により障壁のエッジΓに沿う線積分によって、以下の(1)式で与えられる。なお、座標は、鉛直上方を正とする鉛直方向のz軸、点音源方向を正とする障壁面に垂直なx軸、障壁面に沿ったy軸を備えたxyz座標を用い、座標の原点を障壁面の中心を通る鉛直線と障壁面の下辺との交点に一致させている。
【0061】
【数1】
【0062】
ここで、dgはΓに沿う微小ベクトルである縁辺ベクトル、太字のlは受音点Pを始点とし縁辺ベクトルdgの始点を終点とするベクトル、太字のmは音源Sを始点とし縁辺ベクトルdgの始点を終点とするベクトル、太字のm’は障壁により生じる音源Sの虚音源S’を始点とし縁辺ベクトルdgの始点を終点とするベクトル、細字のl, m, m’はこれらのベクトルの大きさである。また、d、d’はそれぞれSP間とS’P間の距離、εは観測点である受音点Pが音源Sの照射領域内、領域外にある場合、各々1、0をとる定数、ε’は受音点Pが虚音源SとエッジГとでできる錘面の内部、錘面上、外部にある場合、各々1、1/2、0をとる定数である。
【0063】
上記(1)式の第1項は直接波、第2項は障壁からの反射波、第3項は障壁のエッジΓからの境界回折波を各々表わしている。なお、(1)式において、キルヒホッフ境界条件近似を除けば、その導出過程での数式的操作は厳密である。また、kはω/c(ωは角速度、cは音速)で表わされる波長定数であり、時間因子exp(iωt)は省略した。
【0064】
ここでは、回折界を時間領域で考察する。その理由は、有限長の障壁を対象にしてその頂点エッジからの回折波を取り扱う場合、障壁の両サイドからの回折波や地表面反射波は不要であるので、これらを時間領域において除去するためである。さらに、重要な理由は、三角形状のエッジなど平坦でない頂点エッジからの回折音の特徴抽出は時間領域のインパルス応答によって可能となるからである。
【0065】
従って、ここでは、回折波のインパルス応答表示h(P,t)を用いることとする。インパルス応答は、伝達関数である式(1)を逆フーリエ変換することで、次の(2)式で与えられる。
【0066】
【数2】
【0067】
但し、δ(t)はデルタ関数であり、(2)式の第3項は有限長のエッジに対する線積分で与えられている。以下ではこの線積分で与えられている項を境界回折波のインパルス応答h(t)と呼ぶ。
【0068】
上記(2)式中の境界回折波のインパルス応答h(t)は、ベクトル形式で表現されているが、次の(3)式で示すようにスカラー表示することができる。
【0069】
【数3】
【0070】
但し、θ、θ'は各々ベクトルlとベクトルm、ベクトルlとベクトル m’のベクトル外積の内角であり、n、n’はベクトル外積の単位方向ベクトルである(図24参照)。また、右辺大カッコ内を次の(4)式に示すベクトル・ポテンシャルBと定義する。
【0071】
【数4】
【0072】
ベクトルlとベクトルm、ベクトルlとベクトルm’を、
【0073】
【数5】
【0074】
とすれば、ベクトルlとベクトルm、 ベクトルlとベクトル m’のベクトル外積のx、y、z成分nx,ny,nz、n’xは次の(5)式によって与えられる。
【0075】
すなわち、
【0076】
【数6】
【0077】
とすると、次の関係が存在する。
【0078】
【数7】
【0079】
以上より、境界回折波のインパルス応答は次のような性質を持つ。
(1)境界回折波は、音源Sから放射された音波が障壁のエッジの微小要素d|g|に入射し、その入射点から距離l離れた受音点Pに到達する現象の総和として表わされる。各微小要素の受音点Pに対する寄与はベクトル・ポテンシャルBと縁辺ベクトルdgの内積で与えられる。その振幅は1/lmに反比例し、受音点Pへの到達時間は(l+m)/cである。
(2)ベクトル・ポテンシャルBは、音源と虚音源の2つの寄与から構成される。障壁の裏側の回折波領域では音源からの寄与が大きく、一方、音源側では虚音源からの寄与が大きい。このことは障壁と音源、虚音源、及び受音点により決まるθとθ'の大きさを比較すれば、θは135°程度、θ'は15°程度であることからも理解でき、回折波領域である受音点側の音場を検討する場合には上記(4)式の第2項を無視することができる。
【0080】
従って、上記(3)式を最小にする条件を求めれば、受音点における音場を最小にすることができる。上記(3)式を最小にするためには、近似的に下記(6)式で表わされるベクトル・ポテンシャルBと縁辺ベクトルdgとの内積(スカラー積)の和を最小にする条件を求めればよい。
【0081】
【数8】
【0082】
上記(6)式におけるsinθ/(1+cosθ)・nは音源正面で最大値になり、方向は水平になる。従って、スカラー積sinθ/(1+cosθ)n・dgを小さくするためにはθは大きい程よい。
【0083】
なお、虚音源も考慮する場合には、ベクトル・ポテンシャルBとして以下の(7)式を用いればよい。
【0084】
【数9】
【0085】
以上の通り、鋸歯部材16の鋸歯型エッジを「M型エッジ」とすることで、ベクトル・ポテンシャルBの各々と、複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和は最小になり、受音点Rの音場を最小にすることができる。なお、受音点Rの音場を最小にするのが最適であるが、上記内積の和が、最小付近の所定値以下になるように鋸歯型エッジの形状を定め、受音点の音場を最小付近の所定値以下になるようにしてもよい。従って、上述した通り、「M型エッジ」以外の鋸歯型エッジを用いてもよい。
【0086】
(屋外フィールド実験)
次に、屋外フィールド実験の条件及び結果について説明する。
屋外フィールド実験では、(1)平坦エッジの剛板のみ(図11(A)〜(D)参照)、(2)M型エッジの鋸歯部材のみ(図12(A)〜(D)参照)、(3)M型エッジの鋸歯部材及びGWの吸音部材(図1参照)と、防音パネルの構造が異なる3種類の防音壁について減音量を測定した。以下では、(1)を「平坦エッジ」、(2)を「M型エッジ」、(3)を「M型エッジ+GW」と称する。「M型エッジ+GW」が、本実施の形態に係る防音パネルである。
【0087】
図14は屋外フィールド実験の条件を示す概略図である。高さ1.5mの平坦エッジの防音壁12の上辺に、高さ0.9mの防音パネル14を取り付け、地表から2.4mの高さの防音壁10とした。また、両端からの音波の回り込みを防ぐために、水平方向の長さが30mの防音壁10を構成した。実験に用いた「M型エッジ」の具体的な形状は、図9に示した通りである。この単位ユニット(水平方向の幅:820mm)を、長さ30mにわたって繰り返し配列した。
【0088】
平坦エッジの防音壁12の材料は合板48mmであり、透過損失TLは1000Hzで約30dBである。防音壁12はPCコンクリート板であり厚さは150mmとした。鋸歯部材16の材料は合板であり、鋸歯部材16の厚さは48mmとした。透過損失TLは約30dBである。吸音部材18の材料はグラスウールであり、密度48kg/m3で厚さは50mmとした。なお、このグラスウールの吸音特性は、図7(A)に図示した通りである。
【0089】
「音源S」は、防音壁10からの水平距離が2.5m、地表からの高さが0.15mの位置に配置した。防音壁10からの水平距離が5m、地表からの高さが0mの位置を「受音点R1」、同じく水平距離が5m、地表からの高さが0.75mの位置を「受音点R2」、同じく水平距離が5m、地表からの高さが1.5mの位置を「受音点R3」とした。音源Sである音源スピーカ(エレクトロボイスEV社製、製品名「ZX5−90」)から定常ピンクノイズを放射し、受音点R1、受音点R2、受音点R3の各点に配置した精密騒音計(RION社製、製品名「NA−61」)で、防音壁10を超えて伝搬する騒音の音圧レベルを測定した。測定フィールドは80m×50mの平坦な草地であるが、周辺建物や法面から若干の反射音が到来する。
【0090】
図15(A)は3種類の防音壁について最も低い位置にある受音点R1での減音量の測定結果を示すグラフであり、図15(B)は3種類の防音壁について最も高い位置にある受音点R3での減音量の測定結果を示すグラフである。「M型エッジ」及び「M型エッジ+GW」を用いた測定では、長手方向に沿う音圧変動を考慮してM型エッジのパターン1周期に対応する範囲の平均値を測定値とした。これらの測定結果から、本実施の形態に係る「M型エッジ+GW」では、「平坦エッジ」及び「M型エッジ」と比較すると、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域でさらに5dB程度の減音効果が得られることがわかる。
【0091】
「M型エッジ」では、低周波数帯域で減音効果を得ることができなかった。これに対し、本実施の形態に係る「M型エッジ+GW」では、全周波数帯域で減音効果を得ることができる。これは、グラスウールの吸音特性(低音域では吸収率が非常に低い)からも予測し得ない効果である。特に、高さが僅か2.4mの防音壁により、100Hz〜300Hzの低周波数帯域において、図11(A)等に示す平坦エッジの防音壁の減音効果より5dBも大きい減音効果が得られたことは驚くべき事項である。なお、測定結果に見られる減音量の周波数変動は、中心周波数400Hzにおける減音量の差がほとんど生じていないことを含めて主に地表面からの反射音の影響であると推測される。
【0092】
また、受音エリアを、防音壁10からの水平距離が10m、20mの位置まで広げた場合にも、同様に減音効果の改善が観測された。図25は「平坦エッジ」及び「M型エッジ+GW」について、水平距離が5m、10m、20mの各位置での減音量の測定結果をまとめて示すグラフである。各水平位置において、地表からの高さが0m、0.75m、1.5mの3点を「受音点R」とした。
【0093】
図25に示すように、「M型エッジ+GW」では、各位置の各受音点において、中心周波数400Hzを含む全周波数帯域で、「平坦エッジ」より大きな減音効果が得られている。この結果から、図15(A)及び(B)に示す測定結果で、中心周波数400Hzにおける「M型エッジ+GW」の減音量が「平坦エッジ」及び「M型エッジ」と同程度となった原因は、地表面の影響と考えられる。
【0094】
また、水平距離が5m、10m、20mの各位置で比較すると、水平距離が短い方が、より高い減音効果を得ることができる。また、地表からの高さが0m、0.75m、1.5mの各点で比較すると、地面に近い方が、より大きな減音効果を得ることができる。即ち、回折音の回折角が大きいほど、減音効果が大きくなると共に、低周波数帯域での減音効果が大きくなる。
【0095】
(吸音部材の併用による減音効果の増大)
次に、鋸歯部材及び吸音部材の併用により減音効果が生じる理由を考察する。
図16は平坦エッジを有する剛板と吸音部材とを併用した防音パネルの構造(比較例)を示す斜視図である。図17は本発明の実施の形態に係る鋸歯部材及び吸音部材を併用した防音パネルの構造を示す斜視図である。図16に示すように、比較例に係る防音パネル104は、平坦エッジを有する剛板100と、剛板100の音源側に隣接配置された平板状の吸音部材102と、で構成されている。
【0096】
上述した通り、本実施の形態に係る「M型エッジ+GW」では、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果を得ることができる。この現象を種々の観点から解析しているが、計算モデルを用いた音場計算では、明確な解を得ることは難しい。本発明者等は、本実施の形態に係る防音パネル14の効果が、鋸歯部材16及び吸音部材18の併用による相乗効果であることに着目している。
【0097】
音波は媒質(ここでは「空気」)を伝搬する弾性波であり、空気粒子は音源の振動に従って変位する。平坦エッジであれ、M型エッジ等の鋸歯状エッジであれ、エッジ先端は特異点である。特異点であるエッジ先端では、空気粒子は高速で移動している。図17に示すように、本実施の形態に係る防音パネル14では、鋸歯部材16の鋸歯状エッジのエッジ先端Eの長さ(エッジ長)が、図16に示す剛板100の平坦エッジのエッジ先端Eの長さ(エッジ長)よりも顕著に長くなっている。
【0098】
従って、本実施の形態に係る防音パネル14では、鋸歯状エッジのエッジ長が平坦エッジのエッジ長よりも長く、吸音処理によりエッジ先端Eで発生するエネルギー損失が、平坦エッジを有する剛板100を有する比較例の防音パネル104よりも、効果的に発生するものと考えられる。
【0099】
(防音壁の変形例1)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第1の変形例について説明する。図18は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の他の一例を示す概略的な斜視図である。図19(A)は図18に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、図19(B)は図19(A)に示す単位ユニットの分解斜視図であり、図19(C)は図19(A)に示す単位ユニットのA-A線での断面図である。
【0100】
図18、図19(A)〜(C)に示すように、本実施の形態の防音壁10Aは、従来の上辺が平坦な防音壁12Aの上辺に、防音パネル14Aを取り付けて構成されている。防音パネル14Aは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Aと、鋸歯部材16Aの鋸歯型エッジと噛み合う鋸歯型エッジを有する吸音部材18Aと、で構成されている。図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Aは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Aを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。
【0101】
鋸歯部材16Aと吸音部材18Aとは、互いの鋸歯型エッジが噛み合うように配置され、鋸歯部材16Aの隣接歯間が吸音部材18Aで埋められている。即ち、吸音部材18Aは、少なくとも鋸歯部材16Aの鋸歯型エッジの隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置されている。これにより、吸音部材18を透過した騒音は、鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬し、吸音部材18を透過しない騒音は、鋸歯部材16の第1のユニットu1又は第2のユニットu2で遮断される。
【0102】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、吸音部材を小型化できると共に、防音パネルの薄型化を図ることができる。
【0103】
(防音壁の変形例2)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第2の変形例について説明する。図20は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な斜視図である。図21(A)は図20に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、図21(B)は図21(A)に示す単位ユニットのB-B線での断面図である。
【0104】
図20、図21(A)及び(B)に示すように、本実施の形態の防音壁10Bは、従来の上辺が平坦な防音壁12Bの上辺に、防音パネル14Bを取り付けて構成されている。防音パネル14Bは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Bと、鋸歯部材16Bを挟み込み平板状の吸音部材18B1及び吸音部材18B2と、で構成されている。図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Bは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Bを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。
【0105】
鋸歯部材16Bは、吸音部材18B1の受音点側に隣接配置されて、吸音部材18B1の受音点側の表面の一部を覆っている。また、吸音部材18B2は、鋸歯部材16Bの受音点側に隣接配置されて、鋸歯部材16Bの受音点側の表面を覆っている。これにより、上記の通り、吸音部材18B1を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16Bの隣接歯間を伝搬して吸音部材18B2を透過するが、吸音部材18B1を透過した騒音の他の一部は、鋸歯部材16Bの第1のユニットu1又は第2のユニットu2で遮断される。
【0106】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、鋸歯部材が内部に挟み込まれることで、防音パネルの安定性及び美観が向上する。
【0107】
(防音壁の変形例3)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第3の変形例について説明する。図22は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。本実施の形態の防音壁10Dは、従来の上辺が平坦な防音壁12Dの上辺に、防音パネル14Dを取り付けて構成されている。防音パネル14Dは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Dと、鋸歯部材16Dの音源側に隣接配置された平板状の吸音部材18Dと、で構成されている。
【0108】
図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Dは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Dを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。鋸歯部材16Dは、鋸歯型エッジの各先端部を支持する棒状の支持部材20を更に備えている。棒状の支持部材20は、いわゆる「算木」として機能する。
【0109】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、鋸歯部材の各先端部が支持されることで、防音パネルの安定性が向上する。
【0110】
(防音壁の変形例4)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第4の変形例について説明する。図23は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。本実施の形態の防音壁10Eは、従来の上辺が平坦な防音壁12Eの上辺に、防音パネル14Eを取り付けて構成されている。防音パネル14Eは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Eと、鋸歯部材16Eの音源側に隣接配置された平板状の吸音部材18Eと、で構成されている。
【0111】
図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Eは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Eを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。鋸歯部材16Eは、鋸歯型エッジの各歯を保持する棒状の保持部材22を更に備えている。棒状の保持部材22は、いわゆる「架台」であり、鋸歯型エッジの各歯は「架台」上に設置される。
【0112】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、鋸歯部材の各歯が保持されることで、防音パネルの安定性が向上する。
【0113】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定されるものでない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、本発明には種々の態様が含まれる。例えば、各実施の形態の構成要素を適宜置き換えてもよく、各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせもよい。
【符号の説明】
【0114】
10 防音壁
12 防音壁
14 防音パネル
16 鋸歯部材
18 吸音部材
20 支持部材
22 保持部材
100 剛板
102 吸音部材
104 防音パネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋸歯型形状のエッジを利用した防音パネル及び防音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上辺が平坦な直立型の防音壁の上辺に特殊な形状のエッジを有する構造物を取り付けて、同じ高さの上辺が平坦な直立型の防音壁より大きな減音効果が得られるようにした防音壁が知られている(例えば、非特許文献1、特許文献1〜特許文献3)。また、各ユニットの音源側表面に開口を設けると共に各ユニットの内部に防音材を充填して、開口から内部に吸収した騒音を消音させて、防音性能を向上させた防音壁が提案されている(特許文献4、特許文献5)。これらの技術では、二等辺三角形等の同一形状のユニットを繰り返し複数個配列することにより形成したエッジを用いている。
【非特許文献1】R&D KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol.49 No.2(Sep.1999)
【特許文献1】特公昭60−1443号公報
【特許文献2】特開2001−64920号公報
【特許文献3】特開2003−129426号公報
【特許文献4】特開2005−30116号公報
【特許文献5】特開2001−64920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の従来の防音壁では、100Hz〜300Hzの低周波数帯域(低音域)では殆ど減音効果を得ることができない。また、平坦な防音壁の上辺に特殊な形状の構造物を取り付けた他の防音壁としては、いわゆるT型防音壁や先端改良型防音壁などがある。これら他の防音壁では、構造的な見地から、防音壁に取り付ける構造物の形状が制約されている。従来の防音壁に限らず、他の防音壁においても、上記低音域では殆ど減音効果を得ることができない、という問題がある。
【0004】
本発明は、上記問題点を解消するために成されたもので、100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で、防音効果をより向上させた防音パネル及び防音壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備え、剛な材料で構成された鋸歯部材と、少なくとも前記鋸歯部材の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置され、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる少なくとも1つの吸音部材と、を備えた防音パネルである。
【0006】
請求項2の発明は、前記吸音部材は、多孔質材料で構成される請求項1に記載の防音パネルである。請求項3の発明は、前記多孔質材料は、グラスウール又はロックウールである請求項2に記載の防音パネルである。請求項4の発明は、前記多孔質材料は、密度が32kg/m3〜96kg/m3で且つ厚さが25mm〜300mmである請求項2又は請求項3に記載の防音パネルである。
【0007】
請求項5の発明は、前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側に隣接配置された、請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0008】
請求項6の発明は、前記鋸歯部材は、鋸歯部材の鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備えると共に、前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと噛み合う形状の前記予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと前記吸音部材の鋸歯型エッジとが噛み合うように配置された、請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0009】
請求項7の発明は、前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側と受音点側とに隣接配置された、請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0010】
請求項8の発明は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジの各先端部を支持する支持部材を更に備えた、請求項1から7までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0011】
請求項9の発明は、前記鋸歯部材は、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、ベクトルポテンシャBを、受音点から前記鋸歯型エッジに想定された複数の縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該受音点から該始点の各々に向かう複数の第1のベクトルlの各々と、音源から前記縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該音源から該始点の各々に向かう複数の第2のベクトルmの各々との外積を含んで表わしたとき、前記ベクトル・ポテンシャルBの各々と、前記複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和が所定値以下の値になるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0012】
請求項10の発明は、前記鋸歯部材は、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、前記第1の鉛直辺の始端、前記第1の斜辺の終端、前記第2の斜辺の始端、第2の鉛直辺の終端、前記第3の斜辺の始端、及び前記第4の斜辺の終端を同一直線状上に位置させ、前記第1のユニットの高さ及び前記第2のユニットの高さを同一とし、前記第1の所定角度、前記第2の所定角度、前記第3の所定角度、及び前記第4の所定角度の少なくとも2つの所定角度の大きさが各々異なるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネルである。
【0013】
請求項11の発明は、請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の防音パネルを備えた防音壁である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防音パネル及び防音壁によれば、100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で、防音効果をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の一例を示す概略的な斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る防音パネルの構造の一例を示す平面図である。
【図3】(A)は図2に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、(B)は(A)に示す単位ユニットのX-X線での断面図である。
【図4】第1のユニットと第2のユニットとを組み合わせた鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を示す平面図である。
【図5】(A)及び(B)は鋸歯型エッジの先端形状の変形例を単位ユニットで示す図である。
【図6】M型エッジの変形例を単位ユニットで示す図である。
【図7】(A)はグラスウールの吸音特性を示すグラフであり、(B)はロックウールの吸音特性を示すグラフである。
【図8】実験に用いた鋸歯部材の鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を定義する図である。
【図9】実験に用いたM型エッジの形状を具体的に表す図である。
【図10】図9に示すM型エッジを有する鋸歯部材の減音効果を示すグラフである。
【図11】(A)〜(D)は平坦エッジを有する剛板での停留位相点を説明する図である。
【図12】(A)〜(D)はM型エッジを有する鋸歯部材での停留位相点を説明する図である。
【図13】(A)〜(D)は他の鋸歯型エッジを有する鋸歯部材での停留位相点を説明する図である。
【図14】屋外フィールド実験の条件を示す概略図である。
【図15】(A)は3種類の防音壁について最も低い位置にある受音点R1での減音量の測定結果を示すグラフであり、(B)は3種類の防音壁について最も高い位置にある受音点R3での減音量の測定結果を示すグラフである。
【図16】平坦エッジを有する剛板と吸音部材とを併用した防音パネルの構造(比較例)を示す斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る鋸歯部材及び吸音部材を併用した防音パネルの構造を示す斜視図である。
【図18】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の他の一例を示す概略的な斜視図である。
【図19】(A)は図18に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、(B)は(A)に示す単位ユニットの分解斜視図であり、(C)は(A)に示す単位ユニットのA-A線での断面図である。
【図20】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な斜視図である。
【図21】(A)は図20に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、(B)は(A)に示す単位ユニットのB-B線での断面図である。
【図22】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。
【図23】本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。
【図24】障壁による回折音場を計算するための座標及びベクトルを説明するための線図である。
【図25】「平坦エッジ」及び「M型エッジ+GW」について、水平距離が5m、10m、20mの各位置での減音量の測定結果をまとめて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
(防音壁の全体構造)
まず、本発明の一実施の形態に係る防音壁の全体構造について説明する。図1は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の一例を示す概略的な斜視図である。図1に示すように、本実施の形態の防音壁10は、従来の上辺が平坦な防音壁12の上辺に、防音パネル14を取り付けて構成されている。上辺が平坦な防音壁12の高さを「H」、防音パネル14の高さを「h」とすると、防音壁10の高さは「H+h」である。防音壁10の高さ「H+h」は、コストや外観の観点から低い方が好ましい。
【0018】
上辺が平坦な防音壁の性能は、騒音の回折に伴う減衰量(回折減衰量)で評価することができる。回折減衰量の予測方法としては、「前川チャート」と呼ばれる回折減衰チャートを用いる方法が、簡便であり広く利用されている。前川チャートによれば、騒音の周波数と行路差とから騒音の回折減衰量を求めることができる。換言すれば、所望の回折減衰量を得るために必要な「防音壁の高さ」を求めることができる。
【0019】
例えば、低音域の250Hzで20.5dBの回折減衰量を得たい場合、前川チャートによれば高さ6mの防音壁が必要になる。詳細は後述するが、本実施の形態の防音パネル14は、100Hz〜300Hzの低音域を含む全音域で防音効果を発揮する。このため、本実施の形態では、防音壁12の高さ「H」を3.0m、防音パネル14の高さ「h」を0.9mとし、合計3.9mの高さの防音壁で同等の回折減衰量を得ることができる。
【0020】
本実施の形態の防音パネル14は、鋸歯型形状のエッジ(以下、「鋸歯型エッジ」という。)を有する鋸歯部材16と、鋸歯部材16の音源側に隣接配置された平板状の吸音部材18と、で構成されている。鋸歯部材16は、鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備えている。平板状の吸音部材18は、少なくとも鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置されている。
【0021】
音源Sで発生した騒音は、複数の経路により受音点Rに到達する。例えば、太い矢印で図示した通り、吸音部材18を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬して受音点Rに到達する。また、吸音部材18を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16で遮断される。更に、太い点線の矢印で図示した通り、音源Sで発生した騒音は、防音パネル14の上辺で回折されて受音点Rに到達する。
【0022】
(防音パネルの構造)
次に、上記の防音パネルの構造について説明する。図2は本発明の実施の形態に係る防音パネルの構造の一例を示す平面図である。また、図3(A)は図2に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、図3(B)は図3(A)に示す単位ユニットのX-X線での断面図である。
【0023】
図2、図3(A)及び図3(B)に示すように、本実施の形態の防音パネル14は、単位ユニットUが水平方向に繰り返し配列された鋸歯部材16を備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。第1のユニットu1はエッジがM字状であり、第2のユニットu2はエッジが逆V字状である。以下では、上記のM字状のエッジと逆V字状のエッジとを有する鋸歯型エッジ又は鋸歯部材16を「M型エッジ」と称する。
【0024】
本実施の形態では、鋸歯部材16は、吸音部材18の受音点側に隣接配置されて、吸音部材18の受音点側の表面の一部を覆っている。これにより、上記の通り、吸音部材18を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬するが、吸音部材18を透過した騒音の他の一部は、鋸歯部材16の第1のユニットu1又は第2のユニットu2で遮断される。
【0025】
ここで、鋸歯型エッジの形状を詳細に説明する。図4は第1のユニットと第2のユニットとを組み合わせた鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を示す平面図である。図5(A)及び図5(B)は鋸歯型エッジの先端形状の変形例を単位ユニットで示す図である。図6はM型エッジの変形例を単位ユニットで示す図である。
【0026】
図4に示すように、第1のユニットu1は、一端側から他端側にエッジを辿ったときに、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺v1、第1の鉛直辺v1の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度α1傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺s1、第1の斜辺s1の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度α2傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺s2、及び第2の斜辺s2の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺v2を組合せた形状を有している。
【0027】
第1のユニットu1の第1の斜辺s1の長さと第2の斜辺s2の長さとは異なる大きさであり、第1の鉛直辺v1の長さ及び第2の鉛直辺v2の長さは、同一の大きさである。
【0028】
また、第1の鉛直辺v1の始端、第1の斜辺s1の終端(第2の斜辺s2の始端と同じ)、及び第2の鉛直辺v2の終端は、同一直線上、例えば水平線上に位置している。第1の斜辺s1の長さと第2の斜辺s2の長さとが異なっているため、第1の所定角度α1と第2の所定角度α2とは異なった大きさとなっている。
【0029】
第2のユニットu2は、一端側から他端側にエッジを辿ったときに、鉛直方向に対して第3の所定角度α3傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺s3、及び第3の斜辺s3の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度α4傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺s4を組合せた形状を有している。
【0030】
第2のユニットu2の第3の斜辺s3の長さと第4の斜辺s4の長さとは異なる大きさであり、従って、第3の所定角度α3の大きさと第4の所定角度α4の大きさとは異なっている。
【0031】
また、第3の斜辺s3の始端、及び第4の斜辺s4の終端は、第1のユニットで説明した直線と同一の直線上に位置している。そして、第3の斜辺s3の終端から第3の斜辺s3の始端が位置している直線までの距離、すなわち、第3の斜辺s3及び第4の斜辺s4によって形成される三角形の高さは、第1の鉛直辺v1の長さ(従って、第2の鉛直辺v2の長さ)と同一の大きさになるように形成されている。
【0032】
このように、第1の鉛直辺v1の始端、第1の斜辺s1の終端、第2の斜辺s2の始端、第2の鉛直辺v1の終端、第3の斜辺s3の始端、及び第4の斜辺s4の終端が同一直線状上に位置し、第1の鉛直辺v1、第2の斜辺s2、及び第2のユニットの高さが同一になっているため、第1のユニットu1の高さ及び第2のユニットu2の高さは同一に形成されている。
【0033】
また、第1の所定角度α1、第2の所定角度α2、第3の所定角度α3、及び第4の所定角度α4の大きさは各々異なっており、第2の鉛直辺v2の終端と第3の斜辺s3の始端とが一致すると共に、第4の斜辺s4の終端と他の第1のユニットの第1の鉛直辺v1の始端とが一致している。
【0034】
なお、上記では、各歯の先端部が尖った鋸歯型エッジの例を図示したが、これに限定される訳ではない。図5(A)に示すように、鋸歯型エッジの各歯の先端部16Cは、平坦に切り取られていてもよい。即ち、先端部16Cは、鉛直辺と斜辺との間又は斜辺と斜辺との間を、水平方向に延びる直線で結んで形成されている。また、図5(B)に示すように、鋸歯型エッジの各歯の先端部は、丸く切り取られていてもよい。即ち、先端部16Cは、鉛直辺と斜辺との間又は斜辺と斜辺との間を、上方に凸な曲線で結んで形成されている。
【0035】
また、単位ユニットUは、第1のユニットu1及び第2のユニットu2以外に、他のユニットを含んでいてもよい。図6に示すように、変形例の単位ユニットは、第1のユニットu1と第2のユニットu2との間に、第1の鉛直辺v1の終端から鉛直方向に対して所定角度α5傾斜して鉛直上方に向かう第5の斜辺s5と、第5の斜辺s5の終端から鉛直下方に向かう上記第1の鉛直辺v1と同じ長さの第3の鉛直辺v3とを備えた形状を有する第3のユニットu3を配置し、第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3を組合せたユニットを下端の一点で連続させて複数個配置することによりエッジを形成したものである。
【0036】
この変形例の第5の斜辺s5の始端は第1のユニットの第1の鉛直辺v1の終端と一致し、第3の鉛直辺v3の終端は第2のユニットu2の第3の斜辺s3の始端と一致しており、第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3は、下端の一点で連続している。また、第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3の斜辺及び鉛直辺で形成される三角形の各々の高さは同一に形成されている。
【0037】
なお、上記では第1のユニットu1、第2のユニットu2、及び第3のユニットu3を組合せたユニットを連続させた例について説明したが、第1のユニットu1と第2のユニットu2とを交互に配置し、第1のユニットu1と第2のユニットu2との間、及び第2のユニットu2と第1のユニットu1との間の各々に、第1のユニットu1及び第2のユニットu2と下端の一点で連続させて第3のユニットu3を配置するようにしてもよい。この場合、第3のユニットu3の斜辺の各々を曲線状に形成するようにしてもよく、第3のユニットu3の斜辺の各々を交互に、すなわち一つおきに曲線状に形成するようにしてもよい。
【0038】
また、上記では、第1の所定角度〜第4の所定角度の全ての所定角度の大きさを異ならせる例について説明したが、第1の所定角度〜第4の所定角度のいずれか2つの所定角の大きさを異ならせて他の所定角度の大きさを同じ大きさとしてもよい。
【0039】
(鋸歯部材及び吸音部材)
次に、上記の鋸歯部材及び吸音部材の特性・材料について説明する。
鋸歯部材16は、剛な材料で構成されている。防音パネル及び防音壁の分野で「剛な材料」とは、透過損失TLが40dBよりも大きな材料を意味する。具体的な材料としては、PC(プレキャスト・コンクリート)板などのコンクリート板、鉄やアルミニウムなどの金属板、合成樹脂板、木製の単板や合板、及びこれらの複合板が挙げられる。一般的な防音パネルの厚さは、30mm〜300mmの範囲であり、鋸歯部材16の厚さも同じ範囲としてもよい。しかしながら、上記の意味での「剛な材料」であれば、厚さは特に限定されない。例えば、鋸歯部材16が透過損失TLが40dBよりも大きな材料で構成された板であれば、鋸歯部材16の厚さは1mmでもよい。なお、計算モデルを用いて音場計算を行う場合には、防音パネル及び防音壁の厚さはゼロと仮定される。
【0040】
吸音部材18は、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる材料で構成されている。即ち、入射した音波は吸音部材18を透過するが、透過時に吸音部材18の内部でエネルギー損失が発生する。このような特性を有する吸音部材としては、多孔質材料又は柔軟材料が挙げられる。多孔質材料としては、グラスウール、ロックウール、スラグウール、フェルト、発泡樹脂(連続気泡)、吹付繊維、焼成岩、木毛セメント、木片セメント、軟質繊維、織物、植毛製品等が挙げられる。柔軟材料としては、軟質発泡樹脂(独立気泡)、被膜(塗装)多孔質材料等が挙げられる。これらの中でも、吸音特性に優れる多孔質材料が好ましく、グラスウール、ロックウールが特に好ましい。
【0041】
吸音部材18の厚さは、材料の種類、材料の密度、及び必要とされる吸音率に応じて決まる。一般に、多孔質材料では、密度が32kg/m3〜96kg/m3の範囲であれば、厚さは25mm〜300mmの範囲とすることができる。吸音部材18の吸音特性は、全周波数帯域での「残響室法吸音率」で表される。残響室法吸音率は、JIS A 1409 「残響室法吸音率の測定方法:1998」(ISO 354:1985)に基づいて測定される。以下では、残響室法吸音率を「吸音率」と称する。
【0042】
ここで、グラスウール及びロックウールの吸音特性を例示する。図7(A)はグラスウールの吸音特性を示すグラフであり、図7(B)はロックウールの吸音特性を示すグラフである。図7(A)に示す吸音特性は、厚さ50mmのグラスウール吸音ボードについて、背後空気層なしの条件下で、密度を32kg/m3、40kg/m3、48kg/m3と変化させて測定したものである。図7(B)に示す吸音特性は、厚さ50mmのロックウール吸音ボードについて、背後空気層なしの条件下で、密度を20kg/m3から160kg/m3まで変化させて測定したものである。
【0043】
図7(A)及び図7(B)から分かるように、グラスウール及びロックウール等の多孔質材料は、中高音域において0.8から1.0と非常に高い吸音率を示す。その一方、100Hz〜300Hzの低音域では、中高音域に比べ吸音率が顕著に低下する。例えば125Hzでは、吸音率は0.1から0.3にまで低下する。従って、多孔質材料だけでは、100Hz〜300Hzの低音域での減音効果を得ることはできない。
【0044】
(鋸歯部材による減音効果)
次に、鋸歯部材による減音効果について説明する。
図8は実験に用いた鋸歯部材の鋸歯型エッジ(M型エッジ)の形状を定義する図である。図8に示すように、M型エッジの形状パラメータを定義することができる。ここでは、形状パラメータとして、角度α、角度β、角度γ、角度δ、幅w1、幅w2、及び高さhを定義している。これらの形状パラメータを適宜調整することで、減音効果が高くなるように、M型エッジの形状を最適化することができる。なお、上記の形状パラメータの代わりに、各形状パラメータを算出可能な他の形状パラメータを用いてもよい。
【0045】
図9は実験に用いたM型エッジの形状を具体的に表す図である。実験に用いたM型エッジは、第1のユニットu1と第2のユニットu2とを交互に配列して構成されている。第1のユニットu1及び第2のユニットu2の先端部の各々は、水平方向に沿って平坦に切り取られている。第1のユニットu1及び第2のユニットu2の各部に関し、図9に示すように、鉛直方向及び水平方向の寸法がmm単位で規定されている。
【0046】
図10は図9に示すM型エッジを有する鋸歯部材の減音効果を示すグラフである。M型エッジの減音量を実線で図示し、同じ高さの平坦エッジの剛板の減音量を細い実線で図示している。横軸は周波数(単位:kHz)を表し、縦軸は減音量(単位:dB)を表す。減音量ATTは、防音壁を回折して受音点Rに到達する音波の音圧レベルをSPL、音源Sから1m離れた点の音圧レベルをSPL1mとすると、ATT=SPL−SPL1mである。
【0047】
ここで、各点の位置座標を(x、y、z)で表す。地表面と接する防音壁の中心上端部の位置が、原点(0、0、0)である。「x」は、防音壁に直交する方向における、防音壁からの距離を表す。音源S側が負であり、受音点R側が正である。「y」は、防音壁に平行な方向における、防音壁の中心からの距離を表す。「z」は、防音壁の上端部の高さからの距離を表す。地表面側が負である。図10に示す例では、音源Sの位置座標を「S(−2.5、0、−1.5)」とし、受音点Rの位置座標を「R(5、0、−2)」とした。
【0048】
M型エッジの高さを「h(単位:m)」、音速を「c(単位:m/s)」とすると、低域遮断周波数fLは、fL=c/hで近似される。M型エッジでは、同じ高さの平坦エッジと比較して、低域遮断周波数fLにおいて略5dBの減音量が得られている。また、5dB以上の減音量が得られるのは、周波数「fL=c/h」より高い周波数帯域(中高音域)に制限されている。換言すれば、M型エッジでは、入射角≒π/6の場合に、平坦エッジと比較して5dBの減音量を得るための最小周波数は、およそc/hとなる。
【0049】
ここで、鋸歯部材により減音効果が生じる理由を考察する。図11(A)は、平坦エッジを有する剛板100での停留位相点を示す斜視図である。図11(B)〜(D)は、高さ2mの平坦エッジからの回折音を理論計算した結果を示す図である。図11(A)では停留位相点を●(黒丸)で表し、図11(B)では停留位相点を○(白丸)で表す。
【0050】
図11(B)が計算モデルと音源Sおよび受音点Rの位置を示す。音源Sの位置座標は「S(−1.5、0、1.2)」とし、受音点Rの位置座標を「R(5、0、1.5)」とした。図11(C)が障壁回折波のインパルス応答を示す。横軸は時間(単位:ms(ミリ秒))を表し、縦軸は相対的音圧(Amplitude)(単位:N/m2)を表す。図11(D)の実線がインパルス応答のスペクトルを示し、丸印は障壁回折音(平坦エッジ)のマクドナルド厳密解を示す。横軸は周波数(単位:kHz)を表し、縦軸は減音量(単位:dB)を表す。
【0051】
また、図12(A)は、M型エッジを有する鋸歯部材16での停留位相点を示す斜視図である。図12(B)〜(D)の各々は、図11(B)〜(D)と同様に、M型エッジからの回折音を理論計算した結果を示す図である。なお、これらの例では、吸音部材18は設けられていないものとする。
【0052】
計算モデルを用いて計算した音源Sと受音点Rとの間のインパスル応答は、図11(C)に示すように、平坦エッジでは単一パルスになる。これに対して、複数の角部を有するM型エッジでは、図12(C)に示すように、複雑な波形の分散パルスとなり、振幅も数分の1に低下する。
【0053】
これらの波形の相違は、音波の位相が停留する「停留位相点」により説明することができる。図11(A)及び(B)に示すように、平坦エッジでは、音源Sと受音点Rの最短経路と剛板100のエッジとが交差する点が、停留位相点Pとなる。この場合には、1つの停留位相点Pが発生する。このとき、図11(C)に示すように、音源Sから出た音波が防音壁の停留位相点Pを経て受音点に到達するとき、その回折波は1つの大きいパルスとなる。平坦エッジのインパルス応答の振幅は0.0080229である。また、図11(D)に示すように、インパルス応答のスペクトルは、マクドナルド厳密解とほぼ一致する。
【0054】
これに対し、M型エッジでは、図12(A)及び(B)に示すように、音源Sと受音点Rの最短経路と鋸歯部材16のエッジとが交差する点は複数個あり、複数の停留位相点Pが発生する。このモデルのM型エッジは高さ0.9mであり、Mエッジの頂点高さは図11(A)のモデルと同じ2mである。このとき、図12(C)に示すように、M型エッジでは、複数の停留位相点Pを生じることで、伝搬する音波のエネルギーが分散されて複雑な波形の分散パルスとなり、受音される音波の振幅も低下する。M型エッジのインパルス応答の振幅は0.0023837であり、平坦エッジの1/3以下になっている。また、図12(D)に示すように、インパルス応答のスペクトルは、0.6、2kHzにおいてマクドナルド厳密解より10dB程度小さくなっている。これにより、M型エッジによって減音量が増大することが理論計算により検証された。
【0055】
なお、本実施の形態では、鋸歯型エッジは「M型エッジ」に限定されない。図13(A)は、他の鋸歯型エッジを有する鋸歯部材での停留位相点を示す斜視図である。図13(B)〜(D)の各々は、図11(B)〜(D)と同様に、他の鋸歯型エッジからの回折音を理論計算した結果を示す図である。図13(A)〜(D)に示すように、二等辺三角形等、同一形状のユニットを繰り返し複数個配列することにより形成した鋸歯型エッジ16Mを用いてもよい。鋸歯型エッジ16Mによっても、「M型エッジ」と同様に、複数の停留位相点Pが発生して減音量が増大する。
【0056】
(Mエッジの優位性)
上記の通り、鋸歯型エッジは「M型エッジ」には限定されないが、鋸歯型エッジとしては「M型エッジ」が特に好ましい。図12(B)及び図13(B)から分かるように、図12(B)に示す「M型エッジ」では、図13(B)に示す「鋸歯型エッジ16M」に比べてより多くの停留位相点Pが発生するので、より大きな減音量を得ることができる。
【0057】
また、同一形状のユニットを繰り返し配列した鋸歯型エッジ16Mでは、ユニットの各々から回折する多くのパルスが同じ時間間隔で正面の受音点に到達することになることから、櫛形フィルターと同一に作用し、平坦エッジを有する通常の防音壁より騒音レベルが大きくなる周波数帯が発生する可能性がある。
【0058】
鋸歯型エッジとして「M型エッジ」を有する鋸歯部材16は、図24に示すように、ベクトルポテンシャBを、受音点RからM型エッジに想定された複数の縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで受音点Rから始点の各々に向かう複数の第1のベクトルlの各々と、音源Sから縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで音源Sから始点の各々に向かう複数の第2のベクトルmの各々との外積を含んで表わしたとき、ベクトル・ポテンシャルBの各々と、複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和が所定値以下の値になるように、第1のユニットu1及び第2のユニットu2の形状を定めたものである。
【0059】
ここで、障壁のエッジからの境界回折波を、任意形状の剛平面開口からの回折波に対するMaggi−Rubinowicz理論に基づいて、上記の「M型エッジ」の設計理論を詳細に説明する。図24は、障壁による回折音場を計算するための座標及びベクトルを説明するための線図である。
【0060】
図24に示すように、点音源をS、点音源に対する観測点(受音点)をPとし、剛で厚さの無視できる有限長障壁10が存在するとき、受音点Pの速度ポテンシャルは、障壁面の裏側の速度ポテンシャルを0と近似した場合、Maggi−Rubinowicz表示により障壁のエッジΓに沿う線積分によって、以下の(1)式で与えられる。なお、座標は、鉛直上方を正とする鉛直方向のz軸、点音源方向を正とする障壁面に垂直なx軸、障壁面に沿ったy軸を備えたxyz座標を用い、座標の原点を障壁面の中心を通る鉛直線と障壁面の下辺との交点に一致させている。
【0061】
【数1】
【0062】
ここで、dgはΓに沿う微小ベクトルである縁辺ベクトル、太字のlは受音点Pを始点とし縁辺ベクトルdgの始点を終点とするベクトル、太字のmは音源Sを始点とし縁辺ベクトルdgの始点を終点とするベクトル、太字のm’は障壁により生じる音源Sの虚音源S’を始点とし縁辺ベクトルdgの始点を終点とするベクトル、細字のl, m, m’はこれらのベクトルの大きさである。また、d、d’はそれぞれSP間とS’P間の距離、εは観測点である受音点Pが音源Sの照射領域内、領域外にある場合、各々1、0をとる定数、ε’は受音点Pが虚音源SとエッジГとでできる錘面の内部、錘面上、外部にある場合、各々1、1/2、0をとる定数である。
【0063】
上記(1)式の第1項は直接波、第2項は障壁からの反射波、第3項は障壁のエッジΓからの境界回折波を各々表わしている。なお、(1)式において、キルヒホッフ境界条件近似を除けば、その導出過程での数式的操作は厳密である。また、kはω/c(ωは角速度、cは音速)で表わされる波長定数であり、時間因子exp(iωt)は省略した。
【0064】
ここでは、回折界を時間領域で考察する。その理由は、有限長の障壁を対象にしてその頂点エッジからの回折波を取り扱う場合、障壁の両サイドからの回折波や地表面反射波は不要であるので、これらを時間領域において除去するためである。さらに、重要な理由は、三角形状のエッジなど平坦でない頂点エッジからの回折音の特徴抽出は時間領域のインパルス応答によって可能となるからである。
【0065】
従って、ここでは、回折波のインパルス応答表示h(P,t)を用いることとする。インパルス応答は、伝達関数である式(1)を逆フーリエ変換することで、次の(2)式で与えられる。
【0066】
【数2】
【0067】
但し、δ(t)はデルタ関数であり、(2)式の第3項は有限長のエッジに対する線積分で与えられている。以下ではこの線積分で与えられている項を境界回折波のインパルス応答h(t)と呼ぶ。
【0068】
上記(2)式中の境界回折波のインパルス応答h(t)は、ベクトル形式で表現されているが、次の(3)式で示すようにスカラー表示することができる。
【0069】
【数3】
【0070】
但し、θ、θ'は各々ベクトルlとベクトルm、ベクトルlとベクトル m’のベクトル外積の内角であり、n、n’はベクトル外積の単位方向ベクトルである(図24参照)。また、右辺大カッコ内を次の(4)式に示すベクトル・ポテンシャルBと定義する。
【0071】
【数4】
【0072】
ベクトルlとベクトルm、ベクトルlとベクトルm’を、
【0073】
【数5】
【0074】
とすれば、ベクトルlとベクトルm、 ベクトルlとベクトル m’のベクトル外積のx、y、z成分nx,ny,nz、n’xは次の(5)式によって与えられる。
【0075】
すなわち、
【0076】
【数6】
【0077】
とすると、次の関係が存在する。
【0078】
【数7】
【0079】
以上より、境界回折波のインパルス応答は次のような性質を持つ。
(1)境界回折波は、音源Sから放射された音波が障壁のエッジの微小要素d|g|に入射し、その入射点から距離l離れた受音点Pに到達する現象の総和として表わされる。各微小要素の受音点Pに対する寄与はベクトル・ポテンシャルBと縁辺ベクトルdgの内積で与えられる。その振幅は1/lmに反比例し、受音点Pへの到達時間は(l+m)/cである。
(2)ベクトル・ポテンシャルBは、音源と虚音源の2つの寄与から構成される。障壁の裏側の回折波領域では音源からの寄与が大きく、一方、音源側では虚音源からの寄与が大きい。このことは障壁と音源、虚音源、及び受音点により決まるθとθ'の大きさを比較すれば、θは135°程度、θ'は15°程度であることからも理解でき、回折波領域である受音点側の音場を検討する場合には上記(4)式の第2項を無視することができる。
【0080】
従って、上記(3)式を最小にする条件を求めれば、受音点における音場を最小にすることができる。上記(3)式を最小にするためには、近似的に下記(6)式で表わされるベクトル・ポテンシャルBと縁辺ベクトルdgとの内積(スカラー積)の和を最小にする条件を求めればよい。
【0081】
【数8】
【0082】
上記(6)式におけるsinθ/(1+cosθ)・nは音源正面で最大値になり、方向は水平になる。従って、スカラー積sinθ/(1+cosθ)n・dgを小さくするためにはθは大きい程よい。
【0083】
なお、虚音源も考慮する場合には、ベクトル・ポテンシャルBとして以下の(7)式を用いればよい。
【0084】
【数9】
【0085】
以上の通り、鋸歯部材16の鋸歯型エッジを「M型エッジ」とすることで、ベクトル・ポテンシャルBの各々と、複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和は最小になり、受音点Rの音場を最小にすることができる。なお、受音点Rの音場を最小にするのが最適であるが、上記内積の和が、最小付近の所定値以下になるように鋸歯型エッジの形状を定め、受音点の音場を最小付近の所定値以下になるようにしてもよい。従って、上述した通り、「M型エッジ」以外の鋸歯型エッジを用いてもよい。
【0086】
(屋外フィールド実験)
次に、屋外フィールド実験の条件及び結果について説明する。
屋外フィールド実験では、(1)平坦エッジの剛板のみ(図11(A)〜(D)参照)、(2)M型エッジの鋸歯部材のみ(図12(A)〜(D)参照)、(3)M型エッジの鋸歯部材及びGWの吸音部材(図1参照)と、防音パネルの構造が異なる3種類の防音壁について減音量を測定した。以下では、(1)を「平坦エッジ」、(2)を「M型エッジ」、(3)を「M型エッジ+GW」と称する。「M型エッジ+GW」が、本実施の形態に係る防音パネルである。
【0087】
図14は屋外フィールド実験の条件を示す概略図である。高さ1.5mの平坦エッジの防音壁12の上辺に、高さ0.9mの防音パネル14を取り付け、地表から2.4mの高さの防音壁10とした。また、両端からの音波の回り込みを防ぐために、水平方向の長さが30mの防音壁10を構成した。実験に用いた「M型エッジ」の具体的な形状は、図9に示した通りである。この単位ユニット(水平方向の幅:820mm)を、長さ30mにわたって繰り返し配列した。
【0088】
平坦エッジの防音壁12の材料は合板48mmであり、透過損失TLは1000Hzで約30dBである。防音壁12はPCコンクリート板であり厚さは150mmとした。鋸歯部材16の材料は合板であり、鋸歯部材16の厚さは48mmとした。透過損失TLは約30dBである。吸音部材18の材料はグラスウールであり、密度48kg/m3で厚さは50mmとした。なお、このグラスウールの吸音特性は、図7(A)に図示した通りである。
【0089】
「音源S」は、防音壁10からの水平距離が2.5m、地表からの高さが0.15mの位置に配置した。防音壁10からの水平距離が5m、地表からの高さが0mの位置を「受音点R1」、同じく水平距離が5m、地表からの高さが0.75mの位置を「受音点R2」、同じく水平距離が5m、地表からの高さが1.5mの位置を「受音点R3」とした。音源Sである音源スピーカ(エレクトロボイスEV社製、製品名「ZX5−90」)から定常ピンクノイズを放射し、受音点R1、受音点R2、受音点R3の各点に配置した精密騒音計(RION社製、製品名「NA−61」)で、防音壁10を超えて伝搬する騒音の音圧レベルを測定した。測定フィールドは80m×50mの平坦な草地であるが、周辺建物や法面から若干の反射音が到来する。
【0090】
図15(A)は3種類の防音壁について最も低い位置にある受音点R1での減音量の測定結果を示すグラフであり、図15(B)は3種類の防音壁について最も高い位置にある受音点R3での減音量の測定結果を示すグラフである。「M型エッジ」及び「M型エッジ+GW」を用いた測定では、長手方向に沿う音圧変動を考慮してM型エッジのパターン1周期に対応する範囲の平均値を測定値とした。これらの測定結果から、本実施の形態に係る「M型エッジ+GW」では、「平坦エッジ」及び「M型エッジ」と比較すると、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域でさらに5dB程度の減音効果が得られることがわかる。
【0091】
「M型エッジ」では、低周波数帯域で減音効果を得ることができなかった。これに対し、本実施の形態に係る「M型エッジ+GW」では、全周波数帯域で減音効果を得ることができる。これは、グラスウールの吸音特性(低音域では吸収率が非常に低い)からも予測し得ない効果である。特に、高さが僅か2.4mの防音壁により、100Hz〜300Hzの低周波数帯域において、図11(A)等に示す平坦エッジの防音壁の減音効果より5dBも大きい減音効果が得られたことは驚くべき事項である。なお、測定結果に見られる減音量の周波数変動は、中心周波数400Hzにおける減音量の差がほとんど生じていないことを含めて主に地表面からの反射音の影響であると推測される。
【0092】
また、受音エリアを、防音壁10からの水平距離が10m、20mの位置まで広げた場合にも、同様に減音効果の改善が観測された。図25は「平坦エッジ」及び「M型エッジ+GW」について、水平距離が5m、10m、20mの各位置での減音量の測定結果をまとめて示すグラフである。各水平位置において、地表からの高さが0m、0.75m、1.5mの3点を「受音点R」とした。
【0093】
図25に示すように、「M型エッジ+GW」では、各位置の各受音点において、中心周波数400Hzを含む全周波数帯域で、「平坦エッジ」より大きな減音効果が得られている。この結果から、図15(A)及び(B)に示す測定結果で、中心周波数400Hzにおける「M型エッジ+GW」の減音量が「平坦エッジ」及び「M型エッジ」と同程度となった原因は、地表面の影響と考えられる。
【0094】
また、水平距離が5m、10m、20mの各位置で比較すると、水平距離が短い方が、より高い減音効果を得ることができる。また、地表からの高さが0m、0.75m、1.5mの各点で比較すると、地面に近い方が、より大きな減音効果を得ることができる。即ち、回折音の回折角が大きいほど、減音効果が大きくなると共に、低周波数帯域での減音効果が大きくなる。
【0095】
(吸音部材の併用による減音効果の増大)
次に、鋸歯部材及び吸音部材の併用により減音効果が生じる理由を考察する。
図16は平坦エッジを有する剛板と吸音部材とを併用した防音パネルの構造(比較例)を示す斜視図である。図17は本発明の実施の形態に係る鋸歯部材及び吸音部材を併用した防音パネルの構造を示す斜視図である。図16に示すように、比較例に係る防音パネル104は、平坦エッジを有する剛板100と、剛板100の音源側に隣接配置された平板状の吸音部材102と、で構成されている。
【0096】
上述した通り、本実施の形態に係る「M型エッジ+GW」では、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果を得ることができる。この現象を種々の観点から解析しているが、計算モデルを用いた音場計算では、明確な解を得ることは難しい。本発明者等は、本実施の形態に係る防音パネル14の効果が、鋸歯部材16及び吸音部材18の併用による相乗効果であることに着目している。
【0097】
音波は媒質(ここでは「空気」)を伝搬する弾性波であり、空気粒子は音源の振動に従って変位する。平坦エッジであれ、M型エッジ等の鋸歯状エッジであれ、エッジ先端は特異点である。特異点であるエッジ先端では、空気粒子は高速で移動している。図17に示すように、本実施の形態に係る防音パネル14では、鋸歯部材16の鋸歯状エッジのエッジ先端Eの長さ(エッジ長)が、図16に示す剛板100の平坦エッジのエッジ先端Eの長さ(エッジ長)よりも顕著に長くなっている。
【0098】
従って、本実施の形態に係る防音パネル14では、鋸歯状エッジのエッジ長が平坦エッジのエッジ長よりも長く、吸音処理によりエッジ先端Eで発生するエネルギー損失が、平坦エッジを有する剛板100を有する比較例の防音パネル104よりも、効果的に発生するものと考えられる。
【0099】
(防音壁の変形例1)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第1の変形例について説明する。図18は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の他の一例を示す概略的な斜視図である。図19(A)は図18に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、図19(B)は図19(A)に示す単位ユニットの分解斜視図であり、図19(C)は図19(A)に示す単位ユニットのA-A線での断面図である。
【0100】
図18、図19(A)〜(C)に示すように、本実施の形態の防音壁10Aは、従来の上辺が平坦な防音壁12Aの上辺に、防音パネル14Aを取り付けて構成されている。防音パネル14Aは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Aと、鋸歯部材16Aの鋸歯型エッジと噛み合う鋸歯型エッジを有する吸音部材18Aと、で構成されている。図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Aは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Aを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。
【0101】
鋸歯部材16Aと吸音部材18Aとは、互いの鋸歯型エッジが噛み合うように配置され、鋸歯部材16Aの隣接歯間が吸音部材18Aで埋められている。即ち、吸音部材18Aは、少なくとも鋸歯部材16Aの鋸歯型エッジの隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置されている。これにより、吸音部材18を透過した騒音は、鋸歯部材16の隣接歯間を伝搬し、吸音部材18を透過しない騒音は、鋸歯部材16の第1のユニットu1又は第2のユニットu2で遮断される。
【0102】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、吸音部材を小型化できると共に、防音パネルの薄型化を図ることができる。
【0103】
(防音壁の変形例2)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第2の変形例について説明する。図20は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な斜視図である。図21(A)は図20に示す防音パネルの単位ユニットの構造を示す平面図であり、図21(B)は図21(A)に示す単位ユニットのB-B線での断面図である。
【0104】
図20、図21(A)及び(B)に示すように、本実施の形態の防音壁10Bは、従来の上辺が平坦な防音壁12Bの上辺に、防音パネル14Bを取り付けて構成されている。防音パネル14Bは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Bと、鋸歯部材16Bを挟み込み平板状の吸音部材18B1及び吸音部材18B2と、で構成されている。図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Bは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Bを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。
【0105】
鋸歯部材16Bは、吸音部材18B1の受音点側に隣接配置されて、吸音部材18B1の受音点側の表面の一部を覆っている。また、吸音部材18B2は、鋸歯部材16Bの受音点側に隣接配置されて、鋸歯部材16Bの受音点側の表面を覆っている。これにより、上記の通り、吸音部材18B1を透過した騒音の一部は、鋸歯部材16Bの隣接歯間を伝搬して吸音部材18B2を透過するが、吸音部材18B1を透過した騒音の他の一部は、鋸歯部材16Bの第1のユニットu1又は第2のユニットu2で遮断される。
【0106】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、鋸歯部材が内部に挟み込まれることで、防音パネルの安定性及び美観が向上する。
【0107】
(防音壁の変形例3)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第3の変形例について説明する。図22は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。本実施の形態の防音壁10Dは、従来の上辺が平坦な防音壁12Dの上辺に、防音パネル14Dを取り付けて構成されている。防音パネル14Dは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Dと、鋸歯部材16Dの音源側に隣接配置された平板状の吸音部材18Dと、で構成されている。
【0108】
図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Dは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Dを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。鋸歯部材16Dは、鋸歯型エッジの各先端部を支持する棒状の支持部材20を更に備えている。棒状の支持部材20は、いわゆる「算木」として機能する。
【0109】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、鋸歯部材の各先端部が支持されることで、防音パネルの安定性が向上する。
【0110】
(防音壁の変形例4)
次に、本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の第4の変形例について説明する。図23は本発明の実施の形態に係る防音壁の構造の更に他の一例を示す概略的な平面図である。本実施の形態の防音壁10Eは、従来の上辺が平坦な防音壁12Eの上辺に、防音パネル14Eを取り付けて構成されている。防音パネル14Eは、鋸歯型エッジを有する鋸歯部材16Eと、鋸歯部材16Eの音源側に隣接配置された平板状の吸音部材18Eと、で構成されている。
【0111】
図2、図3(A)に示す例と同様に、防音パネル14Eは、単位ユニットUを水平方向に繰り返し配列した鋸歯部材16Eを備えている。また、単位ユニットUは、互いに形状が異なる第1のユニットu1と第2のユニットu2とを組み合わせて構成されている。鋸歯部材16Eは、鋸歯型エッジの各歯を保持する棒状の保持部材22を更に備えている。棒状の保持部材22は、いわゆる「架台」であり、鋸歯型エッジの各歯は「架台」上に設置される。
【0112】
上記構造の防音パネル及び防音壁によっても、上記の実施の形態と同様に、100Hz〜300Hzの低周波数帯域を含む全周波数帯域で減音効果が得ることができる。また、鋸歯部材の各歯が保持されることで、防音パネルの安定性が向上する。
【0113】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定されるものでない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、本発明には種々の態様が含まれる。例えば、各実施の形態の構成要素を適宜置き換えてもよく、各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせもよい。
【符号の説明】
【0114】
10 防音壁
12 防音壁
14 防音パネル
16 鋸歯部材
18 吸音部材
20 支持部材
22 保持部材
100 剛板
102 吸音部材
104 防音パネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備え、剛な材料で構成された鋸歯部材と、
少なくとも前記鋸歯部材の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置され、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる少なくとも1つの吸音部材と、
を備えた防音パネル。
【請求項2】
前記吸音部材は、多孔質材料で構成される請求項1に記載の防音パネル。
【請求項3】
前記多孔質材料は、グラスウール又はロックウールである請求項2に記載の防音パネル。
【請求項4】
前記多孔質材料は、密度が32kg/m3〜96kg/m3で且つ厚さが25mm〜300mmである請求項2又は請求項3に記載の防音パネル。
【請求項5】
前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、
前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、
平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側に隣接配置された、
請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項6】
前記鋸歯部材は、鋸歯部材の鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備えると共に、前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと噛み合う形状の前記予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、
前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと前記吸音部材の鋸歯型エッジとが噛み合うように配置された、
請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項7】
前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、
前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、
平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側と受音点側とに隣接配置された、
請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項8】
前記鋸歯部材の鋸歯型エッジの各先端部を支持する支持部材を更に備えた、請求項1から7までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項9】
前記鋸歯部材は、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、
を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、
ベクトルポテンシャBを、受音点から前記鋸歯型エッジに想定された複数の縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該受音点から該始点の各々に向かう複数の第1のベクトルlの各々と、音源から前記縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該音源から該始点の各々に向かう複数の第2のベクトルmの各々との外積を含んで表わしたとき、
前記ベクトル・ポテンシャルBの各々と、前記複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和が所定値以下の値になるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、
請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項10】
前記鋸歯部材は、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、
を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、
前記第1の鉛直辺の始端、前記第1の斜辺の終端、前記第2の斜辺の始端、第2の鉛直辺の終端、前記第3の斜辺の始端、及び前記第4の斜辺の終端を同一直線状上に位置させ、
前記第1のユニットの高さ及び前記第2のユニットの高さを同一とし、
前記第1の所定角度、前記第2の所定角度、前記第3の所定角度、及び前記第4の所定角度の少なくとも2つの所定角度の大きさが各々異なるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、
請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の防音パネルを備えた防音壁。
【請求項1】
鉛直方向に延びる鉛直辺と該鉛直方向に対して傾斜した斜辺とを組合せた形状を有する鋸歯型エッジを備え、剛な材料で構成された鋸歯部材と、
少なくとも前記鋸歯部材の隣接歯間を伝搬する音波の経路上に配置され、入射した音波の一部を減衰させ且つ残部を透過させる少なくとも1つの吸音部材と、
を備えた防音パネル。
【請求項2】
前記吸音部材は、多孔質材料で構成される請求項1に記載の防音パネル。
【請求項3】
前記多孔質材料は、グラスウール又はロックウールである請求項2に記載の防音パネル。
【請求項4】
前記多孔質材料は、密度が32kg/m3〜96kg/m3で且つ厚さが25mm〜300mmである請求項2又は請求項3に記載の防音パネル。
【請求項5】
前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、
前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、
平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側に隣接配置された、
請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項6】
前記鋸歯部材は、鋸歯部材の鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備えると共に、前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと噛み合う形状の前記予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、
前記吸音部材は、前記鋸歯部材の鋸歯型エッジと前記吸音部材の鋸歯型エッジとが噛み合うように配置された、
請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項7】
前記鋸歯部材は、鉛直方向の寸法に相当する予め定めた高さの鋸歯型エッジを備え、
前記吸音部材は、前記鋸歯部材と鉛直方向及び水平方向の寸方が等しい平板状であり、
平板状の前記吸音部材は、前記鋸歯部材の音源側と受音点側とに隣接配置された、
請求項1から4までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項8】
前記鋸歯部材の鋸歯型エッジの各先端部を支持する支持部材を更に備えた、請求項1から7までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項9】
前記鋸歯部材は、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、
を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、
ベクトルポテンシャBを、受音点から前記鋸歯型エッジに想定された複数の縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該受音点から該始点の各々に向かう複数の第1のベクトルlの各々と、音源から前記縁辺ベクトルdgの始点の各々までの大きさで該音源から該始点の各々に向かう複数の第2のベクトルmの各々との外積を含んで表わしたとき、
前記ベクトル・ポテンシャルBの各々と、前記複数の縁辺ベクトルdgの各々との内積の和が所定値以下の値になるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、
請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項10】
前記鋸歯部材は、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直上方に向かう第1の鉛直辺、該第1の鉛直辺の終端から鉛直方向に対して第1の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第1の斜辺、該第1の斜辺の終端から鉛直方向に対して第2の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第2の斜辺、及び該第2の斜辺の終端から鉛直下方に向かう第2の鉛直辺を組合せた形状を有する第1のユニットと、
一端側から他端側に辿ったとき、鉛直方向に対して第3の所定角度傾斜して鉛直上方に向かう第3の斜辺、及び該第3の斜辺の終端から鉛直方向に対して第4の所定角度傾斜して鉛直下方に向かう第4の斜辺を組合せた形状を有する第2のユニットと、
を交互に配置した形状の鋸歯型エッジを備え、
前記第1の鉛直辺の始端、前記第1の斜辺の終端、前記第2の斜辺の始端、第2の鉛直辺の終端、前記第3の斜辺の始端、及び前記第4の斜辺の終端を同一直線状上に位置させ、
前記第1のユニットの高さ及び前記第2のユニットの高さを同一とし、
前記第1の所定角度、前記第2の所定角度、前記第3の所定角度、及び前記第4の所定角度の少なくとも2つの所定角度の大きさが各々異なるように前記第1のユニット及び第2のユニットの形状を定めた、
請求項1から8までの何れか1項に記載の防音パネル。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の防音パネルを備えた防音壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−92499(P2012−92499A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237935(P2010−237935)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月7日 日本音響学会 2010年 秋季研究発表会〔講演論文集〕演予稿集」に発表
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月7日 日本音響学会 2010年 秋季研究発表会〔講演論文集〕演予稿集」に発表
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]