説明

防音壁

【課題】一定の遮音性能を有しつつ、風による荷重を緩和することができ、なお且つ、簡単な構造とすることでコストの低減を達成できる防音壁を提供する。
【解決手段】本発明に係る防音壁10は、枠体に包囲された開口部11を開放または閉止するように開閉可能に設けられ、縁部に磁性体からなる被吸着部材132を有する遮音板13と、枠体の開口縁部に、遮音板13に近接または離間する方向へ進退可能に設けられ、遮音板13が閉止状態の時に被吸着部材132を吸着することによって遮音板13を閉止状態で保持し、遮音板13が開放状態の時に遮音板13の移動軌跡から離間する磁石ユニット14と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音の吸収や遮蔽を目的として設置される防音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の走行により発生する騒音としては、車輪やレールの振動から発生する転動音、パンタグラフから発生する集電騒音、車体と空気流との作用から発生する車体空力音、高架橋等の構造物の振動から発生する構造物音等が主要なものとして挙げられる。そして、転動音、集電騒音、車体空力音等の吸収や遮蔽を目的として、鉄道軌道の沿線には防音壁が設置されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ところで、沿線の住宅の高層化が進む近年、より高い防音壁が必要とされている。しかし、防音壁の高さを増すと、風荷重による回転モーメントが強風時に大きくなるため、防音壁が高架橋や橋梁等の構造物上に設置されている場合、これら構造物の負荷が増大する。従って、強風時の負荷にも耐え得る強固な構造とすべく、構造物の補強や根本的な再構築が必要となり、大規模な工事に伴って莫大なコストや時間を要することとなる。そこで、大規模な工事を必要とせず、通常時には一定の遮音性能を有しつつ、強風時には風荷重を緩和することが可能な防音壁が従来提案されている。
例えば、特許文献2には、間隔をおいて立設された支持材間に、複数の防音部材が上下に所定間隔をおいてほぼ水平に配置され、防音部材間に遮音部材が開閉可能に配置され、所定の風圧以上になれば遮音部材が倒れ、防音部材間が開放されるとともに所定の風圧以下になれば遮音部材が復元し、防音部材間が閉塞されるようになされた防音壁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−121599号公報
【特許文献2】特開平09−209316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に示される防音壁は、遮音部材、防音部材、回転軸、支持腕等の多数の部材からなるものであり、その構造は非常に複雑なものとなっている。従って、強風時の風荷重を緩和して安全性の確保が可能となる反面、構造が複雑化することにより、材料費が増加するとともに製作や設置に手間が掛かる、という問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、一定の遮音性能を有しつつ、風による荷重を緩和することができ、なお且つ、簡単な構造とすることでコストの低減を達成できる防音壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る防音壁は、枠体に包囲された開口部を開放または閉止するように開閉可能に設けられ、縁部に磁性体からなる被吸着部材を有する遮音板と、前記枠体の開口縁部に、前記遮音板に近接または離間する方向へ進退可能に設けられ、前記遮音板が閉止状態の時に前記被吸着部材を吸着することによって前記遮音板を閉止状態で保持し、前記遮音板が開放状態の時に該遮音板の移動軌跡から離間する磁石ユニットと、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、遮音板が風荷重を受けない時、若しくは弱い風荷重しか受けない時は、磁石ユニットが遮音板に近接して被吸着部材を吸着することにより、遮音板が閉止状態で保持される。これにより、遮音板が騒音を吸収しまたは遮蔽することによって、一定の遮音性能が確保される。
また、強風によって遮音板の受ける風荷重が大きくなると、磁石ユニットと遮音板とを引き離そうとする力が、磁石ユニットの磁気吸着力を越えて大きくなることにより、磁石ユニットと遮音板との吸着が解除され、遮音板は開放状態となる。これにより、遮音板と枠体との間に空間が形成されるので、この空間を通って遮音板の一方から他方へ風が抜けるので、遮音板に作用する風荷重が緩和される。そして、この時、磁石ユニットは遮音板の移動軌跡から離間した位置へと移動する。
そして、遮音板の開放状態において風が止み、遮音板が開放状態から閉止状態へ戻ると、磁石ユニットはその磁気吸着力によって遮音板に近接した位置へと戻り、被吸着部材を吸着することにより、遮音板が閉止状態で保持される。
【0009】
また、本発明に係る防音壁は、前記磁石ユニットは、前記枠体の底部における開口縁部に設けられ、前記遮音板が開放状態の時に自重で落下することによって前記遮音板の移動軌跡から離間することを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、磁石ユニットが自重で落下することによって遮音板の移動軌跡から離間するので、磁石ユニットを遮音板の移動軌跡から離間させるための機構を別途設ける場合と比較すると、製作工程の簡略化、及び材料費削減によるコストダウンを図ることができる。
【0011】
また、本発明に係る防音壁は、前記磁石ユニットが、前記枠体の側部における開口縁部に設けられるとともに、前記磁石ユニットと前記枠体との間に、前記磁石ユニットの磁気吸着力より弱い力で前記磁石ユニットを前記枠体の側へ引っ張る弾性部材が設けられ、前記磁石ユニットは前記遮音板が開放状態の時に、前記弾性部材の引っ張り力によって前記遮音板の移動軌跡から離間することを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、磁石ユニットが枠体の側部に設けられる場合、遮音板が閉止状態の時は、弾性部材の引っ張り力より強い力である磁石ユニットの磁気吸着力によって、磁石ユニットは遮音板を吸着することによって閉止状態で保持する。一方、遮音板が開放状態になると、磁石ユニットと遮音板との吸着が解除され、遮音板は弾性部材の引っ張り力を受けることにより、遮音板の移動軌跡から離間した位置へと移動する。これにより、風が止んで遮音板が閉止状態に戻る際に、磁石ユニットが邪魔にならない。
【0013】
また、本発明に係る防音壁は、前記磁石ユニットは、その進退方向に略直交する方向へのガタつきが許容された状態で、前記枠体の開口縁部に設けられていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、磁石ユニットは、その進退方向に略直交する方向へのガタつきが許容されているので、強風状態になって遮音板が磁石ユニットから引き離される際に、磁石ユニットが許容されたガタつきの分、遮音板の回動に追従して若干回動する。これにより、被吸着部材の底面や角部が磁石ユニットの表面と摺動する度合いが低減され、よりスムーズな引き離しが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る防音壁は、前記磁石ユニット及び前記枠体の少なくともいずれか一方の表面に、前記磁石ユニットと前記枠体との接触によって生じる振動を緩和する振動緩和材が設けられていることを特徴とする。
【0016】
このような構成によれば、磁石ユニットと枠体との接触によって生じる振動が、振動緩和材によって緩和される。これにより、弱風が吹くたびに磁石ユニットと枠体との接触によるガタつき音が発生することを、未然に防止することができる。
【0017】
また、本発明に係る防音壁は、前記枠体が、前記磁石ユニットをその進退方向へ案内し、且つ、進退方向に略直交する方向へのガタつきを規制するガイド部材を有することを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、ガイド部材の案内を受けることにより、磁石ユニットのよりスムーズ且つ正確な進退が可能となる。また、ガイド部材によって磁石ユニットのガタつきが規制されるので、磁石ユニットと枠体との接触によってガタつき音が発生することを、未然に防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る防音壁は、前記磁石ユニットが、前記ガイド部材によって案内される磁石ホルダと、該磁石ホルダによって回動可能に保持された保持用磁石と、を有することを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、磁石ホルダと保持用磁石という簡単な構成によって磁石ユニットを実現することにより、材料費削減によるコストの低減化を図ることができる。
【0021】
また、本発明に係る防音壁は、前記保持用磁石及び前記被吸着部材は、互いに吸着する各吸着面が、前記遮音板の移動軌跡に沿った曲面形状にそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0022】
このような構成によれば、遮音板に伴って被吸着部材が移動する際に、被吸着部材の角部や底面が保持用磁石の表面と摺動する度合いが低減するため、両者のよりスムーズな引き離しが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る防音壁は、前記保持用磁石は、前記被吸着部材との接触によって生じる衝撃を吸収する衝撃吸収材を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の防音壁。
【0024】
このような構成によれば、磁石ユニットが遮音板に吸着する際に、保持用磁石と被吸着部材との接触による衝撃が衝撃吸収材によって吸収されるので、衝撃による保持用磁石の損傷を防止することができる。
【0025】
また、本発明に係る防音壁は、前記枠体の開口縁部に、前記保持用磁石を覆う防塵カバーが設けられていることを特徴とする。
【0026】
このような構成によれば、保持用磁石が防塵カバーによって覆われているので、大気中の異物等が保持用磁石の表面に付着するのを防止することができる。これにより、遮音板が開放状態から閉止状態へ復元する際に、保持用磁石の被吸着部材に対する吸着が異物等によって阻害されるのを防止できるとともに、保持用磁石の磁気吸着力が異物等によって経時的に損なわれることを防止することもできる。
【0027】
また、本発明に係る防音壁は、開放状態の前記遮音板が閉止状態に戻るまで、前記磁石ユニットを前記遮音板の移動軌跡から離間した位置で待機させる磁石待機機構を更に備えることを特徴とする。
【0028】
このような構成によれば、磁石待機機構の制御の下、遮音板が完全に閉止状態に戻った後に、磁石ユニットが遮音板に吸着するので、磁石ユニットを正確な姿勢で磁石ユニットに吸着させることができる。
【0029】
また、本発明に係る防音壁は、前記磁石待機機構が、前記遮音板が開放状態または閉止状態のいずれであるかを検知する状態検知手段と、前記磁石ユニット及び前記枠体の開口縁部のいずれか一方に設けられ、通電時に前記保持用磁石より強い磁気吸着力を生ずる待機用電磁石と、前記磁石ユニット及び前記枠体の開口縁部のいずれか他方に設けられ、磁性体からなる被吸着体と、前記状態検知手段によって前記遮音板が開放状態であることが検知されている間、前記待機用電磁石に通電し、前記状態検知手段によって前記遮音板が閉止状態であることが検知されると、前記待機用電磁石に対する通電を停止する制御手段と、を有することを特徴とする。
【0030】
このような構成によれば、状態検知手段によって遮音板が解放状態であることが検知されている間、制御手段が待機用電磁石に通電することにより、待機用電磁石から保持用磁石より強い磁気吸着力が生ずる。これにより、保持用磁石の磁気吸着力に拘らず、磁石ユニットは被吸着体に吸着した状態で待機する。一方、状態検知手段によって遮音板が閉止状態であることが検知されると、制御手段が待機用電磁石への通電を停止する。これにより、待機用電磁石の磁気吸着力は失われ、磁石ユニットは、保持用磁石の磁気吸着力によって遮音板に吸着する。このように、磁石待機機構を簡単な構成によって実現することができる。
【0031】
また、本発明に係る防音壁は、前記状態検知手段が、前記遮音板に取り付けられて前記遮音板の開閉に伴って一体的に動作する操作部材と、前記枠体の開口縁部に設けられ、前記操作部材の接触または非接触によってONまたはOFFが切り替わるスイッチ部材と、を有することを特徴とする。
【0032】
このような構成によれば、操作部材がスイッチ部材に接触するか否かによって、スイッチ部材が発する信号のONまたはOFFが切り替わる。これにより、操作部材とスイッチ部材という簡単な構成によって、遮音板が開放状態であるか閉止状態であるかを容易に検知することができる。
【0033】
また、本発明に係る防音壁は、前記状態検知手段が、前記枠体の開口縁部に設けられ、前記遮音板に向かって光を照射してその反射光を検知するか否かによって前記遮音板が開放状態または閉止状態のいずれであるかを検知する光学センサであることを特徴とする。
【0034】
このような構成によれば、枠体の開口縁部に光学センサを設けるという簡単な構成によって、遮音板が開放状態であるか閉止状態であるかを容易に検知することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る防音壁によれば、通常時には一定の遮音性能を有しつつ、強風時には風による荷重を緩和することができ、なお且つ、簡単な構造とすることでコストを低減化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係る防音壁の外観を示す概略斜視図である。
【図2】磁石ユニットの外観を示す概略斜視図である。
【図3】磁石ユニットの変形例を示す概略斜視図である。
【図4】通常使用時における防音壁の使用状態を示す図であって、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図5】弱風状態における防音壁の使用状態を示す図であって、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図6】強風状態における防音壁の使用状態を示す図であって、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図11】本発明の第5実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図13】衝撃吸収材をネジ固定する場合を示す概略断面図である。
【図14】本発明の第7実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図15】本発明の第8実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図16】本発明の第8実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図17】本発明の第9実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図18】本発明の第9実施形態に係る防音壁について、遮音板の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
【図19】本発明の第10実施形態に係る防音壁の側部周辺を拡大した図であって、水平方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1実施形態)
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第1実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係る防音壁10の外観を示す概略斜視図である。
【0038】
防音壁10は、図1に示すように、開口部11が設けられた枠体12と、この枠体12の開口部11に設けられた遮音板13と、枠体12の開口縁部に配置された磁石ユニット14と、を備えるものである。このように構成される防音壁10は、図1に詳細は示さないが、鉄道が走行する鉄道軌道の側方に設置される。
【0039】
枠体12は、図1に示すように、水平方向に延びる下部枠121と、この下部枠121の上に所定間隔で立設された左右一対の側部枠122と、この一対の側部枠122の上端を接続して水平方向に延びる上部枠123と、を具備している。また、下部枠121の上には、所定幅の隙間124を形成するようにして、前後一対の規制部材125がそれぞれ設けられている。そして、下部枠121の規制部材125、上部枠123、及び左右の側部枠122によって四方を包囲されることによって、側面視で略矩形形状の開口部11が形成されている。
【0040】
遮音板13は、騒音を吸収しまたは遮蔽するためのものである。この遮音板13は、図1に示すように、開口部11を塞ぐように設けられた平板状の本体部131と、この本体部131の下端縁部に沿って設けられた被吸着部材132と、を有している。
【0041】
本体部131は、騒音を吸収可能または遮蔽可能な部材からなるものであって、図1に示すように、側面視で略矩形形状を有し、その幅寸法は開口部11の横幅に略等しく、その高さ寸法は開口部11の上下幅より若干小さくなっている。このように構成される本体部131は、その上端縁部が、左右一対のヒンジ部材15を介して上部枠123に取り付けられている。これにより、本体部131は、ヒンジ部材15を支点として前後方向に回動可能であって、図に詳細は示さないが、開口部11を閉止する閉止位置と、開口部11を開放する開放位置とへ移動可能となっている。尚、本体部131の形状は、開口部11の形状に応じて、適宜設計変更が可能である。
【0042】
被吸着部材132は、後述する磁石の吸着力によって本体部131を移動不能に保持するためのものである。この被吸着部材132は、図1に示すように、磁性体からなる略直方体形状の部材であって、その長手寸法は、本体部131の幅寸法に略等しくすなわち開口部11の横幅に略等しく設定されている。このように構成される被吸着部材132は、その長手方向を開口部11の横幅方向に向けた状態で、本体部131の下端縁部に固定されている。尚、被吸着部材132の形状は、開口部11の形状や本体部131の形状に応じて、適宜設計変更が可能である。
【0043】
磁石ユニット14は、遮音板13を吸着することで移動不能に保持するためのものである。ここで、図2は、磁石ユニット14の外観を示す概略斜視図である。磁石ユニット14は、略I型の断面形状を有する磁石ホルダ141と、この磁石ホルダ141の上面に長手方向に所定間隔で列設された複数の保持用磁石142と、を有している。
【0044】
磁石ホルダ141は、図2に示すように、横方向に延びる2個の横片141aと、2個の横片141aを接続して縦方向に延びる縦片141bと、を具備している。そして、2個の横片141aは、その幅寸法が、図1に示す一対の規制部材125の間に形成される隙間124の幅より大きく設定されている。また、縦片141bは、その厚みが、前記隙間124の幅より小さく設定されている。このように構成される磁石ホルダ141は、図1に示すように、その縦片141bが前記隙間124に挿通され、一方の横片141aが隙間124より上方に位置し、他方の横片141aが隙間124より下方に位置している。これにより、磁石ホルダ141は、下側の横片141aが規制部材125に接触する位置まで、遮音板13に近接する上方向への進出が許容される一方、上側の横片141aが規制部材125に接触する位置まで、遮音板13から離間する下方向への後退が許容されている。更に、磁石ホルダ141は、その縦片141bが前後の規制部材125に接触する範囲内で、水平方向への若干のガタつきが許容されている。
【0045】
保持用磁石142は、いわゆる永久磁石であって、図2に示すように、平面視で略矩形に形成された平板状の部材である。このように構成される複数の保持用磁石142が、磁石ホルダ141の横片141aの上に、所定間隔で固定されている。尚、保持用磁石142の形状は本実施形態に限定されず、例えば図3に示すように、保持用磁石142を平面視で磁石ホルダ141の横片141aと略同形状である細長い矩形に形成し、この1個の保持用磁石142を磁石ホルダ141の上に固定してもよい。
【0046】
次に、第1実施形態に係る防音壁10の作用効果について説明する。まず、通常使用時、すなわち無風状態での使用時について説明する。図4は、通常使用時における防音壁10の使用状態を示す図であって、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。尚、図4では、遮音板13の回動軌跡を一点鎖線で示している。
風のない状態では、磁石ユニット14は、その保持用磁石142が被吸着部材132に吸着することにより、下部枠121から浮き上がって遮音板13と一体化した状態となっている。これにより、遮音板13は、閉止状態すなわち開口部11を塞いだ状態となっており、鉄道軌道で発生する騒音は、遮音板13によって吸収または遮蔽されることにより、外部への拡散が防止される。
【0047】
次に、図5は、弱風状態における防音壁10の使用状態を示す図であって、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。図4に示す状態において弱風が吹くと、前述のように磁石ホルダ141には水平方向へのガタつきが許容されているので、風荷重を受けた遮音板13が、ヒンジ部材15を支点として若干回動する。そして、図5に示すように、磁石ホルダ141の縦片141bが規制部材125に接触することによって、遮音板13の回動が停止する。この時、遮音板13が受ける風荷重によって、遮音板13の被吸着部材132と磁石ユニット14の保持用磁石142とを引き離そうとする力が作用する。しかし、弱風状態ではこの引き離そうとする力は微弱であって、保持用磁石142の磁気吸着力を超えることはないため、被吸着部材132が保持用磁石142から離れることはなく、磁石ユニット14は遮音板13と一体化した状態のままである。これにより、遮音板13は依然として閉止状態となっており、鉄道軌道で発生する騒音は、遮音板13によって吸収または遮蔽されることにより、外部への拡散が防止される。
【0048】
次に、図6は、強風状態における防音壁10の使用状態を示す図であって、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。図4に示す状態において強風が吹くと、弱風状態の時と同様に、遮音板13が図1に示すヒンジ部材15を支点として回動し、図5に示すように磁石ユニット14の縦板が規制部材125に接触する。この時、遮音板13が受ける風荷重によって、被吸着部材132と保持用磁石142とを引き離そうとする力が作用する。そして、強風状態では、この引き離そうとする力が保持用磁石142の磁気吸着力を超えて大きくなるため、被吸着部材132が保持用磁石142から引き離される。これにより、図6に示すように、保持用磁石142の磁気吸着力から解放された遮音板13は、回動軌跡に沿って更に回動することにより、開放状態すなわち枠体12の開口部11を開放した状態となる。そして、遮音板13と下部枠121との間には通気空間16が開口する。そうすると、遮音板13に吹き付ける強風が、この通気空間16を通って遮音板13の一方側から他方側へ抜けるので、遮音板13に作用する風荷重が緩和される。
【0049】
一方、磁石ユニット14は、保持用磁石142の被吸着部材132への吸着が解除されると、その自重によって落下することにより、遮音板13の回動軌跡から離間する。そして、図6に示すように、磁石ユニット14は、下側の横片141aが下部枠121に当接した状態となる。
【0050】
このように、第1実施形態の防音壁10によれば、通常使用時には一定の遮音性能を確保しつつ、強風時には風荷重を緩和することによって安全性を確保することができる。また、防音壁10は、遮音板13の下端部に設けた被吸着部材132、下部枠121に設けた規制部材125、及び磁石ユニット14という簡単な構造であるため、コストの低減化を図ることができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図7は、第2実施形態に係る防音壁20について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第2実施形態の防音壁20は、図4に示す第1実施形態の防音壁10と比較すると、磁石ユニット21の構成だけが異なっている。それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図7では図4と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
磁石ユニット21は、図7に示すように、磁石ホルダ211と保持用磁石212とを有する点では第1実施形態と同じであるが、磁石ホルダ211の表面に振動緩和材213が設けられている点で第1実施形態と異なっている。この振動緩和材213は、振動を吸収可能な例えばゴム材で形成されている。このような構成によれば、遮音板13に伴って磁石ユニット21が回動し、図7に示すように磁石ホルダ211と規制部材125とが接触しても、その際に生じる振動が振動緩和材213によって吸収されることで緩和される。これにより、鉄道が通過するたびに、その風圧によって磁石ホルダ211と規制部材125とが接触してガタつき音が発生することを、未然に防止することができる。
【0053】
尚、図に詳細は示さないが、磁石ホルダ211の表面に振動緩和材213を設けることに代えて、規制部材125の表面に振動緩和材213を設けてもよい。また、磁石ホルダ211の表面及び規制部材125の表面の両方に、振動緩和材213をそれぞれ設けてもよい。
【0054】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図8は、第3実施形態に係る防音壁30について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第3実施形態の防音壁30は、図4に示す第1実施形態の防音壁10と比較すると、規制部材31の構成だけが異なっている。それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図8では図4と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
規制部材31は、図8に示すように、所定幅の隙間32を形成するように前後一対に配置されている点では第1実施形態と同じであるが、隙間32に面する規制部材31の縁部に、ころ軸受33(ガイド部材)がそれぞれ設けられている点で第1実施形態と異なっている。このころ軸受33は、磁石ホルダ141の進退方向すなわち上下方向への移動を案内するとともに、進退方向に略直交する方向すなわち水平方向へのガタつきを規制するものである。
【0056】
このような構成によれば、ころ軸受33で案内することによって、よりスムーズ且つ正確に、磁石ホルダ141を遮音板13に近接または離間する方向へ進退させることができる。また、ころ軸受33で磁石ホルダ141の水平方向へのガタつきを規制することによって、鉄道が通過するたびに、その風圧によって磁石ホルダ141と規制部材31とが接触してガタつき音が発生することを、未然に防止することができる。
【0057】
尚、本実施形態では、規制部材31の縁部に、磁石ホルダ141の進退方向に沿って1個のころ軸受33を設けたが、規制部材31の厚みを増す等して、磁石ホルダ141の進退方向に沿って複数のころ軸受33を並べて設けてもよい。
【0058】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図9及び図10は、第4実施形態に係る防音壁40について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第4実施形態の防音壁40は、規制部材125の縁部にころ軸受41が設けられている点で図8に示す第3実施形態と同じであるが、磁石ホルダ42を構成する縦片421bが、同じく磁石ホルダ42を構成する上側の横片421aに対して回動可能に設けられている点で第3実施形態とは異なっている。それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図9及び図10では図4と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
このような構成によれば、規制部材31の縁部にころ軸受41を設けたことにより、第3実施形態と同じ作用効果が得られることに加えて、遮音板13と磁石ユニット14との吸着をスムーズに解除することができるという利点がある。より詳細に説明すると、弱風状態では、図10に示すように、磁石ホルダ42を構成する上側の横片421aは、その上面に固定された保持用磁石422が遮音板13の被吸着部材132に吸着しているため、遮音板13の回動に追従して回動する。一方、磁石ホルダ42を構成する縦片421bは、前述のようにころ軸受41によって水平方向へのガタつきが規制されている。従って、上側の横片421aは、図9に示す状態と比較すると、縦片421bに対して若干傾いた状態となる。
【0060】
そして、図10に示す状態から風が強くなって強風状態になると、遮音板13が受ける風荷重が大きくなって、被吸着部材132と保持用磁石142とを引き離そうとする力が、保持用磁石142の磁気吸着力を超えて大きくなることにより、被吸着部材132が保持用磁石142から引き離される。そして、この時、前述のように上側の横片421aが縦片421bに対して若干傾いた状態になっているため、図8に示す状態から遮音板13が回動することで被吸着部材132が保持用磁石142から引き離される場合と比較すると、被吸着部材132の底面や角部が保持用磁石142の表面と摺動する度合いが低減され、よりスムーズな引き離しが可能となる。これにより、被吸着部材132や保持用磁石142に磨耗や損傷等が生じるのを抑制することができる。
【0061】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図11は、第5実施形態に係る防音壁50について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第5実施形態の防音壁50は、規制部材51の縁部にころ軸受52が設けられている点で図8に示す第3実施形態と同じであるが、被吸着部材53の底面形状及び保持用磁石54の表面形状が第3実施形態とは異なっている。
【0062】
具体的には、図11に示すように、被吸着部材53の底面(吸着面)は凸状の曲面に形成されており、この曲面は、縦断面で遮音板13の回動軌跡に沿った形状、すなわち遮音板13の回動軌跡と同じ曲率半径を有する円弧状に形成されている。一方、保持用磁石54の表面(吸着面)は、被吸着部材53の底面に嵌合するような凹状の曲面に形成されており、この曲面も、縦断面で遮音板13の回動軌跡に沿った形状、すなわち遮音板13の回動軌跡と同じ曲率半径を有する円弧状に形成されている。
【0063】
このような構成によれば、規制部材51の縁部にころ軸受52を設けたことにより、第3実施形態と同じ作用効果が得られることに加えて、遮音板13と磁石ユニット14との吸着をスムーズに解除することができるという利点がある。より詳細に説明すると、図11に示す状態から強風状態になると、被吸着部材53と保持用磁石54とを引き離そうとする力が、保持用磁石54の磁気吸着力を超えて大きくなることにより、被吸着部材53が保持用磁石54から引き離される。そして、この時、前述のように被吸着部材53の底面と保持用磁石54の表面とが、遮音板13の回動軌跡に沿った形状にそれぞれ形成されているため、図8に示す状態から遮音板13が回動することで被吸着部材53が保持用磁石54から引き離される場合と比較すると、被吸着部材132の底面や角部が保持用磁石142の表面と摺動する度合いが低減され、よりスムーズな引き離しが可能となる。これにより、被吸着部材53や保持用磁石54に磨耗や損傷等が生じるのを抑制することができる。
【0064】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図12は、第6実施形態に係る防音壁60について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第6実施形態の防音壁60は、図4に示す第1実施形態の防音壁10と比較すると、磁石ユニット61の構成だけが異なっている。それ以外の構成は、第1実施形態と同じであるため、図12では図4と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
磁石ユニット61は、図12に示すように、磁石ホルダ611と保持用磁石612とを有する点では第1実施形態と同じであるが、磁石ホルダ611と保持用磁石612との間に衝撃吸収材613が設けられている点で第1実施形態とは異なっている。この衝撃吸収材613は、保持用磁石612が被吸着部材132と接触する際に生じる衝撃を吸収するためのものであって、衝撃を吸収可能な例えばゴム材等で形成されている。このような衝撃吸収材613は、接着剤(不図示)を用いて、その底面が磁石ホルダ611に固定されるとともに、その上面に保持用磁石612が固定される。
【0066】
このような構成によれば、磁石ユニット61が遮音板13に吸着する際に、保持用磁石612と被吸着部材132との接触時に保持用磁石612に作用する衝撃は、衝撃吸収材613によって吸収される。これにより、接触時の衝撃によって保持用磁石612が損傷することを防止することができる。
【0067】
尚、衝撃吸収材613の保持用磁石612や磁石ホルダ611への固定方法としては、接着剤による固定に代えて、ネジ固定を用いることもできる。図13は、衝撃吸収材613をネジ固定する場合を示す概略断面図である。この場合、衝撃吸収材613及び保持用磁石612を貫通してネジ挿通孔614がそれぞれ形成され、このネジ挿通孔614に対し、略円筒形状のカラー部材615を挿入される。そして、このカラー部材615を挿通させたネジ616を、その頭部がカラー部材615の上端部に当接する位置まで、磁石ホルダ611に螺合させる。
【0068】
このような構成によれば、ネジ616の締め付け力がカラー部材615に作用し、保持用磁石612や衝撃吸収材613には作用しない。従って、衝撃吸収材613の有する衝撃を吸収する性能が、ネジ616の締め付け力によって損なわれることがなく、保持用磁石612に作用した衝撃が衝撃吸収材613によって確実に吸収される。また、保持用磁石612の上方向への移動がネジ616の頭部によって規制されているので、保持用磁石612や衝撃吸収材613が磁石ホルダ611から脱落することはない。
【0069】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図14は、第7実施形態に係る防音壁70について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第7実施形態の防音壁70は、図4に示す第1実施形態の防音壁10と比較すると、下部枠71を構成する前後一対の規制部材711の構成だけが異なっている。それ以外の構成は、第1実施形態と同じであるため、図14では図4と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
前後一対の規制部材711には、図14に示すように、磁石ユニット72を含めてその上面全体を覆うようにして、防塵カバー73が設けられている。この防塵カバー73は、ゴムや帆布等からなる柔軟なシート状の部材であって、その厚みは、磁石ユニット72を構成する保持用磁石721の磁気吸着力を阻害しない程度に設定されている。
【0071】
このような構成によれば、図14に示すように、磁石ユニット72を構成する保持用磁石721の表面が防塵カバー73によって覆われているので、鉄道の走行時に車輪やレールから大気中に飛散する鉄粉等の異物が保持用磁石721の表面に付着するのを防止することができる。これにより、遮音板13が開放状態から閉止状態に復元する際に、保持用磁石721の被吸着部材132に対する吸着が異物等によって阻害されるのを防止できるとともに、保持用磁石721の磁気吸着力が異物等によって経時的に損なわれることを防止することもできる。
【0072】
尚、防塵カバー73の表面には、雨水の浸透を防止するための撥水処理や、異物の付着を防止するための静電防止コーティング等を施すことが好適である。
【0073】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図15及び図16は、第8実施形態に係る防音壁80について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第8実施形態に係る防音壁80は、図4に示す第1実施形態に係る防音壁10と比較すると、磁石待機機構81を更に備える点で異なっている。この磁石待機機構81は、開放状態の遮音板13が閉止状態に完全に戻るまでの間、遮音板13の回動軌跡から離間した位置で磁石ユニット82を待機させるものである。
【0074】
磁石待機機構81は、図15に示すように、回転軸83によって回転可能に支持されてその一端部が遮音板13に取り付けられたカンチレバー811(操作部材)と、磁石ユニット82の底部に設けられた待機用電磁石812と、下部枠71の上面に設けられた被吸着体813と、カンチレバーの他端部に近接して設けられた電磁スイッチ814(スイッチ部材)と、電磁スイッチ814及び待機用電磁石812に対して電気的に接続された制御部815と、を具備している。尚、電磁スイッチ814及び待機用電磁石812と制御部815との接続を、有線でなく無線で行ってもよい。
【0075】
カンチレバー811は、遮音板13が開放状態か閉止状態のいずれの状態であるかを検知するものである。このカンチレバー811は、図15に示すように、略L字型の形状を有する部材である。このように構成されるカンチレバー811は、水平方向に延びる回転軸83によって回転可能に支持されており、その一端部が、遮音板13を構成する被吸着体813の側面に、回動可能に取り付けられている。
【0076】
待機用電磁石812は、通電時に保持用磁石84より強い磁気吸着力を発揮するものであって、磁石ユニット82を構成する下側の横片821aの底面に固定されている。また、被吸着体813は、磁性体からなる板状の部材であって、下部枠85の上面に埋め込まれている。
電磁スイッチ814は、カンチレバー811の他端に近接して設けられ、カンチレバー811が接触状態の時は制御部815に対してON信号を発し、カンチレバー811が離間状態の時は制御部815に対してOFF信号を発するものである。尚、本実施形態とは逆に、カンチレバー811が接触状態の時にOFF信号を発し、離間状態の時にON信号を発するようにしてもよい。また、電磁スイッチ814から発せられる信号を不図示の保守基地へ送信し、この保守基地で遮音板13の開閉状態を常時モニタリングするようにしてもよい。
制御部815は、電磁スイッチ814からの信号に基づいて、待機用電磁石812の通電または非通電を切り替えるものである。
【0077】
このような構成によれば、図15に示すように、強風状態であって遮音板13が開放状態である時、この遮音板13に一端部が取り付けられたカンチレバー811は、その他端部が電磁スイッチ814から離間した状態となっている。そうすると、電磁スイッチ814がOFF信号を発し、このOFF信号を受けた制御部815は、遮音板13は開放状態であると判断し、待機用電磁石812を通電状態にする。これにより、待機用電磁石812は保持用磁石84より強い磁気吸着力を発揮し、この磁気吸着力によって磁石ユニット82は被吸着体813に吸着している。
【0078】
一方、図15に示す状態から風が止むと、風荷重を失った遮音板13が回動軌跡に沿って時計回りに回動する。これにより、この遮音板13に取り付けられたカンチレバー811は、図16に示すように、遮音板13の回動に追従して回転軸83を支点として反時計回りに回転することにより、その一端部が電磁スイッチ814に接触した状態となる。そうすると、電磁スイッチ814がON信号を発し、このON信号を受けた制御部815は、遮音板13が完全な閉止状態になったと判断し、待機用電磁石812への通電を停止する。これにより、待機用電磁石812の磁気吸着力から解放された磁石ユニット82は、保持用磁石84の磁気吸着力によって、図16に一点鎖線で示すように、下部枠85の上面から浮き上がって遮音板13の被吸着部材132に吸着する。
【0079】
このように、開放状態の遮音板13が閉止状態に戻る時、遮音板13が完全に閉止状態に戻ったことを検知した後に、制御部815が保持用磁石84への通電を停止するので、磁石ユニット82が遮音板13に吸着するタイミングが、遮音板13が完全に閉止状態になるタイミングよりワンテンポ遅れることになる。従って、第1〜第7実施形態のように、開放状態から閉止状態に戻りつつある遮音板13に対して磁石ユニット14,21,61,72が吸着する場合と比較すると、磁石ユニット82がより鉛直な姿勢で遮音板13に吸着する。従って、磁石ユニット82が斜めに傾いた姿勢で遮音板13に吸着し、遮音板13の防音性能が損なわれる等の事態が発生することを防止することができる。
【0080】
尚、本実施形態では、下部枠85の上面に磁性体からなる被吸着体813を設けたが、これに代えて、下部枠85の全体を磁性体で形成してもよい。また、本実施形態では、磁石ユニット82に待機用電磁石812を、下部枠85に被吸着体813をそれぞれ設けたが、これとは逆に、磁石ユニット82に被吸着体813を、下部枠85に待機用電磁石812をそれぞれ設けてもよい。
【0081】
(第9実施形態)
次に、本発明の第9実施形態に係る防音壁の構成について説明する。図17及び図18は、第9実施形態に係る防音壁90について、遮音板13の下端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。第9実施形態に係る防音壁90も、図4に示す第1実施形態に係る防音壁10と比較すると、第8実施形態と同様、磁石待機機構91を更に備える点で異なっている。
【0082】
磁石待機機構91は、図17に示すように、下部枠85に設けられてレーザの発信及び受信を行うレーザセンサ911(光学センサ)と、遮音板13を構成する被吸着部材132に設けられたレーザターゲット912と、磁石ユニット82の底部に設けられた待機用電磁石913と、下部枠92の上面に設けられた被吸着体914と、レーザセンサ911及び待機用電磁石913に対して電気的に接続された制御部915と、を具備している。尚、レーザセンサ911及び待機用電磁石913と制御部915との接続を、有線でなく無線で行ってもよい。
【0083】
レーザセンサ911は、レーザ光を受信する時は制御部915に対してON信号を発し、レーザ光を受信しない時は制御部915に対してOFF信号を発するものである。尚、本実施形態とは逆に、レーザ光を受信する時にOFF信号を発し、レーザ光を受信しない時にON信号を発するようにしてもよい。また、レーザセンサ911から発せられる信号を不図示の保守基地へ送信し、この保守基地で遮音板13の開閉状態を常時モニタリングするようにしてもよい。
制御部915は、レーザセンサ911からの信号に基づいて、待機用電磁石913の通電または非通電を切り替えるものである。
尚、それ以外の構成は第8実施形態と同じであるため、図15及び図16と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0084】
このような構成によれば、図17に示すように、強風状態であって遮音板13が開放状態である時、レーザセンサ911から発せられたレーザ光はレーザターゲット912で反射されないため、レーザセンサ911はレーザ光を受信しない。そうすると、レーザセンサ911がOFF信号を発し、このOFF信号を受けた制御部915は、遮音板13は開放状態であると判断し、待機用電磁石913を通電状態にする。これにより、待機用電磁石913は保持用磁石93より強い磁気吸着力を発揮し、この磁気吸着力によって磁石ユニット94は被吸着体914に吸着している。
【0085】
一方、図17に示す状態から風が止むと、風荷重を失った遮音板13が回動軌跡に沿って時計回りに回動する。これにより、レーザセンサ911から発せられたレーザ光がレーザターゲット912で反射され、レーザセンサ911がレーザ光を受信する。そうすると、レーザセンサ911がON信号を発し、このON信号を受けた制御部915は、遮音板13が完全な閉止状態になったと判断し、待機用電磁石913への通電を停止する。これにより、待機用電磁石913の磁気吸着力から解放された磁石ユニット94は、保持用磁石93の磁気吸着力によって、図18に一点鎖線で示すように、下部枠92の上面から浮き上がって遮音板13の被吸着部材132に吸着する。
【0086】
このように、本実施形態でも、磁石ユニット94が遮音板13に吸着するタイミングが、遮音板13が完全に閉止状態になるタイミングよりワンテンポ遅れることになるため、第8実施形態と同じ効果が奏される。
【0087】
尚、本実施形態では、下部枠92にレーザセンサ911を、遮音板13にレーザターゲット912をそれぞれ設けたが、これとは逆に、下部枠92にレーザターゲット912を、遮音板13にレーザセンサ911をそれぞれ設けてもよい。また、第8実施形態で説明した通り、磁石ユニット94に被吸着体914を、下部枠92に待機用電磁石913をそれぞれ設けてもよい。更に、下部枠92の全体を磁性体で形成してもよい。
【0088】
(第10実施形態)
次に、本発明の第10実施形態に係る防音壁の構成について説明する。第10実施形態に係る防音壁は、遮音板の側部に固定用の機構が設けられるものである。図19は、第10実施形態に係る防音壁100の側部周辺を拡大した図であって、水平方向に沿った断面図である。尚、図19では、遮音板13の回動軌跡を一点鎖線で示している。また、図19では、第1実施形態と同じ構成については図4と同じ符号を付している。
【0089】
本実施形態に係る防音壁100では、図19に示すように、遮音板13の側縁部に沿って被吸着部材101が設けられている。一方、枠体102を構成する左右一対の側部枠103には、所定の隙間104を形成するようにして、上下一対の規制部材105がそれぞれ設けられ、この隙間104を挿通するようにして、磁石ユニット106が設けられている。そして、磁石ユニット106と側部枠103とを連結するようにして、退避用バネ107(弾性部材)が設けられている。
【0090】
退避用バネ107は、いわゆるコイルバネであって、保持用磁石108の磁気吸着力より小さい引っ張り力を有するものである。尚、退避用バネ107の個数は、本実施形態に限定されず、任意の個数とすることが可能である。また、本実施形態では、本発明に係る弾性部材としてコイルバネを用いたが、磁石ユニット106に引っ張り力を付与し得る任意の弾性部材を用いることが可能である。
【0091】
このような構成によれば、図19(a)に示すように、遮音板13が閉止状態の時は、磁石ユニット106は、退避用バネ107の引っ張り力に抗し、これより大きい保持用磁石108の磁気吸着力によって、遮音板13に吸着している。そして、この時、退避用バネ107は自然長より伸張した状態となっており、磁石ユニット106に対して水平方向外側への引っ張り力を付与している。
【0092】
そして、図19(a)に示す状態から強風が吹いて遮音板13が開放状態になると、図19(b)に示すように、保持用磁石108と被吸着部材101との吸着が解除されることにより、磁石ユニット106は、退避用バネ107によって側部枠103の側へ引き寄せられる。これにより、磁石ユニット106が遮音板13の回動軌跡から離間するので、開放状態の遮音板13が閉止状態に戻る際に、磁石ユニット106が遮音板13の回動の邪魔にならないという利点がある。
【0093】
尚、本実施形態においても、第8実施形態の磁石待機機構81や、第9実施形態の磁石待機機構91を更に備える構成としてもよい。また、本実施形態では、遮音板13をその側部で固定する機構だけについて説明したが、第1〜第9実施形態のように遮音板13をその下端部で固定する機構と適宜組み合わせることも可能である。
【0094】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 防音壁
100 防音壁
101 被吸着部材
102 枠体
103 側部枠
104 隙間
105 規制部材
106 磁石ユニット
107 退避用バネ
108 保持用磁石
11 開口部
12 枠体
121 下部枠
122 側部枠
123 上部枠
124 隙間
125 規制部材
13 遮音板
131 本体部
132 被吸着部材
14 磁石ユニット
141 磁石ホルダ
141a 横片
141b 縦片
142 保持用磁石
15 ヒンジ部材
16 通気空間
20 防音壁
21 磁石ユニット
211 磁石ホルダ
212 保持用磁石
213 振動緩和材
30 防音壁
31 規制部材
32 隙間
33 ころ軸受
40 防音壁
41 ころ軸受
42 磁石ホルダ
421a 横片
421b 縦片
422 保持用磁石
50 防音壁
51 規制部材
52 ころ軸受
53 被吸着部材
54 保持用磁石
60 防音壁
61 磁石ユニット
611 磁石ホルダ
612 保持用磁石
613 衝撃吸収材
614 ネジ挿通孔
615 カラー部材
616 ネジ
70 防音壁
71 下部枠
711 規制部材
72 磁石ユニット
721 保持用磁石
73 防塵カバー
74 隙間
80 防音壁
81 磁石待機機構
811 カンチレバー
812 待機用電磁石
813 被吸着体
814 電磁スイッチ
815 制御部
82 磁石ユニット
821a 横片
83 回転軸
84 保持用磁石
85 下部枠
90 防音壁
91 磁石待機機構
911 レーザセンサ
912 レーザターゲット
913 待機用電磁石
914 被吸着体
915制御部
92 下部枠
93 保持用磁石
94磁石ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体に包囲された開口部を開放または閉止するように開閉可能に設けられ、縁部に磁性体からなる被吸着部材を有する遮音板と、
前記枠体の開口縁部に、前記遮音板に近接または離間する方向へ進退可能に設けられ、前記遮音板が閉止状態の時に前記被吸着部材を吸着することによって前記遮音板を閉止状態で保持し、前記遮音板が開放状態の時に該遮音板の移動軌跡から離間する磁石ユニットと、
を備えることを特徴とする防音壁。
【請求項2】
前記磁石ユニットは、前記枠体の底部における開口縁部に設けられ、前記遮音板が開放状態の時に自重で落下することによって前記遮音板の移動軌跡から離間することを特徴とする請求項1に記載の防音壁。
【請求項3】
前記磁石ユニットが、前記枠体の側部における開口縁部に設けられるとともに、
前記磁石ユニットと前記枠体との間に、前記磁石ユニットの磁気吸着力より弱い力で前記磁石ユニットを前記枠体の側へ引っ張る弾性部材が設けられ、
前記磁石ユニットは前記遮音板が開放状態の時に、前記弾性部材の引っ張り力によって前記遮音板の移動軌跡から離間することを特徴とする請求項1又は2に記載の防音壁。
【請求項4】
前記磁石ユニットは、その進退方向に略直交する方向へのガタつきが許容された状態で、前記枠体の開口縁部に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の防音壁。
【請求項5】
前記磁石ユニット及び前記枠体の少なくともいずれか一方の表面に、前記磁石ユニットと前記枠体との接触によって生じる振動を緩和する振動緩和材が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の防音壁。
【請求項6】
前記枠体が、前記磁石ユニットをその進退方向へ案内し、且つ、進退方向に略直交する方向へのガタつきを規制するガイド部材を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の防音壁。
【請求項7】
前記磁石ユニットが、
前記ガイド部材によって案内される磁石ホルダと、
該磁石ホルダによって回動可能に保持された保持用磁石と、
を有することを特徴とする請求項6に記載の防音壁。
【請求項8】
前記保持用磁石及び前記被吸着部材は、互いに吸着する各吸着面が、前記遮音板の移動軌跡に沿った曲面形状にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の防音壁。
【請求項9】
前記保持用磁石は、前記被吸着部材との接触によって生じる衝撃を吸収する衝撃吸収材を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の防音壁。
【請求項10】
前記枠体の開口縁部に、前記保持用磁石を覆う防塵カバーが設けられていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の防音壁。
【請求項11】
開放状態の前記遮音板が閉止状態に戻るまで、前記磁石ユニットを前記遮音板の移動軌跡から離間した位置で待機させる磁石待機機構を更に備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の防音壁。
【請求項12】
前記磁石待機機構が、
前記遮音板が開放状態または閉止状態のいずれであるかを検知する状態検知手段と、
前記磁石ユニット及び前記枠体の開口縁部のいずれか一方に設けられ、通電時に前記保持用磁石より強い磁気吸着力を生ずる待機用電磁石と、
前記磁石ユニット及び前記枠体の開口縁部のいずれか他方に設けられ、磁性体からなる被吸着体と、
前記状態検知手段によって前記遮音板が開放状態であることが検知されている間、前記待機用電磁石に通電し、前記状態検知手段によって前記遮音板が閉止状態であることが検知されると、前記待機用電磁石に対する通電を停止する制御手段と、
を有することを特徴とする請求項11に記載の防音壁。
【請求項13】
前記状態検知手段が、
前記遮音板に取り付けられて前記遮音板の開閉に伴って一体的に動作する操作部材と、
前記枠体の開口縁部に設けられ、前記操作部材の接触または非接触によってONまたはOFFが切り替わるスイッチ部材と、
を有することを特徴とする請求項12に記載の防音壁。
【請求項14】
前記状態検知手段が、前記枠体の開口縁部に設けられ、前記遮音板に向かって光を照射してその反射光を検知するか否かによって前記遮音板が開放状態または閉止状態のいずれであるかを検知する光学センサであることを特徴とする請求項12に記載の防音壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−82571(P2012−82571A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226914(P2010−226914)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】