説明

防食鋼材及びその製造方法

【課題】防汚性及び耐錆性に優れ、長期的に美観保持ができると共に、密着性に優れ、加工工程等で生じる被膜の剥がれや損傷が生じ難い防食鋼材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鉄素地と、鉄素地の表面に設けられた第一層被膜としての亜鉛めっき被膜と、第一層被膜の上に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物から形成された第二層被膜としての亜鉛含有防食被膜とを有する防食鋼材とする。亜鉛の犠牲防食作用を有する亜鉛含有防食被膜を亜鉛めっき被膜に重ねて形成した二層被膜により、鉄素地に優れた防汚性、耐錆性及び密着性を有する耐食層を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄素地に優れた耐食性を付与した防食鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広く公知の方法で製造されている鉄素地の電気及び溶融亜鉛めっき鋼板または後めっきとしての電気及び溶融亜鉛めっきは複数の元素を複合させるなど、亜鉛めっき被膜そのものの耐食性の改善がなされている。亜鉛の防食作用は、亜鉛が鉄よりも電気化学的に卑な金属であるため、鉄より先に溶出し、鉄の溶出を抑える犠牲防食作用である。また、その亜鉛めっき被膜の初期防食性改善や保護効果あるいは後塗装密着性改善の目的で、亜鉛めっき被膜最上面には各種の化成被膜が開発され被膜形成が行われている。
【0003】
また、下記の特許文献に示すように、鉄素地に防食塗膜を形成するための犠牲防食効果のある亜鉛含有金属を含む防食組成物被膜及び塗料による被膜処理が知られている。これらの文献に開示されるように、展着剤の改良や複数の元素を複合させる技術、構成成分の効果的な物理的形状の追及などの研究開発がなされ、防食組成物被膜そのものの耐食性や密着性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−9897号公報
【特許文献2】特開2003−3271号公報
【特許文献3】特開2004−35828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、亜鉛めっき被膜の上面に形成される化成被膜は、加工追従性考慮の被膜であるため柔らかく、過酷な塩害地域では被膜の損傷、磨耗が生じやすい。特に、曲げ部、端面、穴加工部などの接触部となる部位に形成された被膜は損傷や摩耗が生じやすい。また、実使用状況において部品同士が接触する箇所や汚れ等が付着しやすい箇所も被膜の損傷、磨耗が生じやすい。このため、亜鉛めっき被膜に化成被膜を形成した防食鉄素材は、長期的美観保持状況及び耐錆性の点で十分とはいえない。
【0006】
また、特に表面硬度が高く、防錆力の高い無機系接着成分を用いた防食組成物を鉄素材に塗布し、加熱乾燥して定着させた被膜は、非常に高い耐食性を持っているが、被膜単体の柔軟性は十分ではなく、部品接触による処理被膜は鉄素地との接着も十分ではなく、はがれた場合のその部分においては耐錆性が良好とはいえない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、防汚性及び耐錆性に優れ、長期的に美観保持ができると共に、密着性に優れ、加工工程等で生じる被膜の剥がれや損傷が生じ難い防食鋼材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の防食鋼材は、鉄素地と、前記鉄素地の表面に設けられた第一層被膜としての亜鉛めっき被膜と、前記第一層被膜の上に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物から形成された第二層被膜としての亜鉛含有防食被膜とを有することを特徴とする。
【0009】
第一層被膜としての亜鉛めっき被膜を有する鉄素地は、亜鉛の犠牲防食作用によって優れた耐食性を有すると共に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物から形成された第二層被膜としての亜鉛含有防食被膜も、亜鉛の犠牲防食作用によって鉄素地に優れた耐食性を与える。すなわち、本発明は、亜鉛の犠牲防食作用を有する亜鉛含有防食被膜を亜鉛めっき被膜に重ねて形成した二層被膜により、鉄素地に優れた防汚性、耐錆性及び密着性を有する耐食層を形成したものである。
【0010】
本発明の防食鋼材は、前記亜鉛含有防食被膜の亜鉛を含んだ金属含有量が、33〜99重量%の範囲であることが好ましい。また、前記亜鉛含有金属粉末における亜鉛の含有量が、亜鉛含有金属粉末全体に対して24.6〜99.8重量%の範囲であることが好ましい。
第二層の亜鉛含有防食被膜が犠牲防食作用を有する亜鉛含有金属を所定の配合量で含有することによって、第一層の亜鉛めっき被膜の犠牲防食作用との相乗作用で優れた防汚性、耐錆性及び密着性を有する耐食層を形成できる。
なお、前記亜鉛含有防食被膜の厚みは、1〜10μmの範囲であることが好ましい。薄すぎる場合には犠牲防食作用が低下し、厚すぎる場合には割れ等が生じやすくなる。
【0011】
本発明の防食鋼材は、前記亜鉛めっき被膜の上に、無機表面処理膜を有することが好ましい。
亜鉛めっき被膜の表面処理膜は、めっき鋼板加工時のめっき面保護や加工性向上、上層に塗装する場合の塗料密着性及び亜鉛めっきの過大腐食抑制のための高耐食性化などが目的で行われるが、本発明では、亜鉛と相性の良い無機系処理によって、第二層の亜鉛含有防食被膜との接着性をより強固にすることが可能である。
なお、前記無機表面処理膜の厚みは、0.01〜1μmの範囲であることが好ましい。厚すぎる場合には、変形が加わった場合の密着不良等を生じやすくなる。
【0012】
本発明の防食鋼材の製造方法は、亜鉛めっき被膜が形成された鉄素地の前記亜鉛めっき被膜に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物を塗布し、乾燥して亜鉛含有防食被膜を形成する防食塗装工程を有することを特徴とする。
亜鉛めっき被膜を有する鉄素地は、亜鉛の犠牲防食作用によって優れた耐錆性を有するが、その上に亜鉛を含有する亜鉛含有防食被膜を形成することによって、鉄素地に更に優れた防汚性、耐錆性及び密着性を有する二層の耐食層を形成できる。
【0013】
本発明の防食鋼材の製造方法は、前記亜鉛含有防食被膜の亜鉛を含んだ金属含有量が、33〜99重量%の範囲であることが好ましい。また、前記亜鉛含有金属粉末における亜鉛の含有量が、亜鉛含有金属粉末全体に対して24.6〜99.8重量%の範囲であることが好ましい。
亜鉛含有防食被膜が犠牲防食作用を有する亜鉛含有金属を所定の配合量で含有することによって、亜鉛めっき被膜の犠牲防食作用との相乗作用で優れた防汚性、耐錆性及び密着性を有する耐食層を形成できる。
【0014】
本発明の防食鋼材の製造方法は、前記亜鉛めっき被膜に、前記防食組成物を塗布する前に、無機表面処理膜を形成することが好ましい。
亜鉛と相性の良い無機系処理膜を形成することによって、亜鉛めっき被膜に対する亜鉛含有防食被膜の接着性をより強固にすることが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防食鋼材によれば、防汚性及び耐錆性に優れ、長期的に美観保持ができると共に、加工工程等で生じる被膜の剥がれや損傷が生じ難い。
【0016】
本発明の防食鋼材の製造方法によれば、鉄素地に、防汚性及び耐錆性に優れ、長期的に美観保持ができると共に、加工工程等で生じる被膜の剥がれや損傷が生じ難い防食層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の防食鋼材及びその製造方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の防食鋼材は、鉄素地と、鉄素地の表面に設けられた第一層被膜としての亜鉛めっき被膜と、第一層被膜の上に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物から形成された第二層被膜としての亜鉛含有防食被膜とを有する。
【0019】
鉄素地としては、一般構造用圧延鋼材、熱間圧延軟鋼板及び鋼帯、冷間圧延鋼板及び鋼帯、一般構造用軽量形鋼、一般構造用溶接軽量H形鋼等の一般的な炭素鋼を用いることができる。鋼材は錆びやすいので、防錆処理がされることが多い。
【0020】
鉄素地上に設けられる第一層の亜鉛めっき被膜としては、亜鉛めっきされた鉄素地の市販品を用いることができる。また、後付けとして、鉄素地に亜鉛めっき被膜を形成して第一層被膜を形成しても良い。
【0021】
亜鉛めっきには、溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきとがある。溶融亜鉛めっきは、鉄を高温で溶けた亜鉛の中につけて付着させるもので、めっき厚みは一般的に多くなり、防錆力は大きい。電気亜鉛めっきは、めっき槽に鉄をつけて、電気を介して亜鉛をめっきする方法により得られる。めっき厚は薄いが、均一にめっきでき、塗料の付着がよい。
【0022】
亜鉛のみの電気及び溶融亜鉛めっき被膜よりも、基本的耐食性の高い溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき被膜、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき被膜、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−珪素合金めっき被膜、電気亜鉛−ニッケル合金めっき被膜等の複合亜鉛めっき被膜を利用することが好ましい。
【0023】
また、亜鉛めっき被膜の上に、そのまま第二層を設けるようにしてもよいが、第二層被膜の付着性を強固にするため表面処理(化成処理)を行うことが好ましい。第二層被膜の被覆工程で、有機成分の分解等によりはがれ、気泡等の密着不良にならなければ表面処理は無機有機系を問わないが、第一層亜鉛めっき層はもとより、亜鉛を含む第二層被膜との接着性をより強固にすることが可能な、亜鉛と相性の良いシリカ分を含む無機系処理が好ましい。
【0024】
無機表面処理膜の形成方法としては、例えば、特開2008−133510号公報の方法を例示することができる。この表面処理は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基1基含有シランカップリング剤と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシジル基1基含有シランカップリング剤の固形分質量比が0.5〜1.7の割合で配合して得られたSi−Rで表される有機珪素化合物中少なくとも1基はアルコキシ基を含む他は水酸基の有機珪素化合物と、チタン弗化水素酸、ジルコニウム弗化水素酸、りん酸、五酸化バナジウム等バナジウム化合物、硫酸コバルト等コバルト化合物及び酸化チタン等光触媒からなる水系処理剤を塗布し、50〜250℃で乾燥した被膜重量0.05〜2.0g/mの複合被膜を得る。被膜は珪素基盤無機物部と有機物部の規則的かつ微細な混合組織からなり、密着性、柔軟性に優れている。
【0025】
また、特開2000−79370号公報の方法を例示することができる。この表面処理は、重りん酸マグネシウム固形分100重量部、コロイダルシリカ固形分10〜100重量部からなる水系処理剤を塗布し80℃以上で乾燥した被膜重量0.2〜2.0g/mの無機被膜を形成する。または重りん酸マグネシウム固形分100重量部、コロイダルシリカ固形分10〜100重量部及び5〜20重量部からなるノニオン性変性ポリオレフィン、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合水性樹脂等の水分散性を含む水性有機樹脂からなる処理剤を塗布し、80℃以上で乾燥した被膜重量0.2〜2.0g/mの無機有機複合被膜を得る。
【0026】
また、特許3277870号の方法を例示することができる。この表面処理は、シリカ、りん酸塩、モリブデン酸塩、ホスホン酸等防錆剤を含むことができるポリエチレン、ポリアクリル酸、エポキシ樹脂、でんぷん等の水性有機樹脂あるいはシランカップリング剤でシリカ複合化された水性有機樹脂にジチオカルバミン酸基、チオール基、ジチオカルバミン酸塩基、チオール塩基等のキレート化剤配合した処理剤を塗布し、50〜300℃で乾燥した被膜厚0.01〜5μmの有機被膜を得る。
【0027】
これらの処理被膜は、個別に加熱反応等の化学反応別工程を有する場合もあるが、固体または液体状の原材料を所定の割合で、水や液体状の溶媒あるいは樹脂に、溶解あるいは懸濁させた処理液を塗布し、乾燥して得られる。処理被膜の塗布方法は、公知のロールコーター、スクイズコーター、ダイコーター、浸漬法、スプレー法等の任意の方法を採用できる。
【0028】
第一層亜鉛めっき被膜に処理される表面処理の被膜厚は処理種類により異なるが、加工工程による第一層亜鉛めっき被膜に損傷を与えない程度の最低限の厚みがあればよく、被膜厚みは0.01〜1μmが好ましい。1μmを超えると第二層被膜形成後を含めて曲げ等の変形が加わった場合の密着不良を生じやすくなる。
【0029】
本発明においては、第一層被膜の亜鉛めっき被膜の上に、第二層被膜として、防食組成物を塗布し、乾燥して亜鉛含有防食被膜を形成する防食塗装工程を有することに特徴がある。
【0030】
亜鉛含有防食被膜は、亜鉛を含有する金属粉末と無機系結合剤を含む防食組成物を塗布し、加熱乾燥し、定着(固形化)させた被膜硬度の高い(硬い)、鉄に対する犠牲防食効果を持つ被膜である。この被膜の形成には、例えば、特開2003−3271号公報、特許第3124830号、特開2004−35828号公報に示された方法を用いることができる。
【0031】
亜鉛含有防食被膜を形成した後の亜鉛を含んだ金属含有量(被膜形成後の亜鉛等金属含有量)は、防食組成物中の水分等溶媒が加熱乾燥等で失われた後の固形物量に対して、33〜99重量%の範囲が好ましく、50〜95重量%の範囲がより好ましく、より好ましくは75〜95重量%の範囲がさらに好ましい。被膜形成後の亜鉛等金属含有量が33重量%を下回ると鉄に対して絶対的な犠牲防食効果が低下し、また99重量%を超えると無機系結合剤不足になり被膜の密着性及び表面平滑性が低下し、汚れや塩類付着性(長期的美観保持性)及び耐食性を十分に発揮できなくなる。
【0032】
なお、上記被膜形成後の亜鉛等金属含有量33〜99重量%は、塗装前の亜鉛含有金属粉末の配合量としては、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で33〜98重量%に相当する。第二層被膜の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた被覆前の固形物量と、防食組成物の水分等溶媒が加熱乾燥等で失われた被覆後の固形物量との関係は、配合剤のなかで亜鉛等複合金属粉末、無機系結合剤、酸化剤及びpH調整剤の大部分が加熱乾燥時に不変で残留し、加熱安定剤、還元剤及び界面活性剤の大部分は加熱乾燥時に分解蒸発する物質で構成されていることより、第二層被膜を形成する防食組成物構成より加熱安定剤、還元剤及び界面活性剤を除いた組成物構成中に占める亜鉛等複合金属粉末含有量にて推定することが相応しい。
【0033】
亜鉛含有金属粉末としては、鉄に対する犠牲防食効果を持つ亜鉛を含む複数元素及びこれらの化合物で構成された粉末で、金属粉末はそれぞれの元素及びそれらの化合物ごとに単体粉末の混合、または合金状態での粉末でも構わない。亜鉛含有金属粉末の組成としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、錫、珪素及びシリカ化合物、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、チタン、バナジウムなどの金属及びその化合物の粉末、または合金粉末あるいは混合粉末で、単体粉末では亜鉛粉末、アルミニウム粉末、錫粉末等、合金粉末では亜鉛−アルミニウム合金粉末、亜鉛−アルミニウム−SiO合金粉末、亜鉛−ニッケル合金粉末、亜鉛−ニッケル−コバルト合金粉末、鉄−珪素合金粉末等がある。
【0034】
亜鉛含有金属粉末には犠牲防食効果を示す亜鉛が含まれなければならない。亜鉛の含有量は、亜鉛含有金属粉末全体に対して、好ましくは24.6〜99.8重量%の範囲であり、より好ましくは30〜95重量%の範囲である。亜鉛含有量が30重量%になるのは、耐錆性が優秀とされている亜鉛30重量%−錫70重量%合金金属(または各単体粉末の混合)を用いた場合である。亜鉛含有量が95重量%になるのは、耐錆性が優秀とされている亜鉛95重量%−ニッケル5重量%合金金属(または各単体粉末の混合)を用いた場合である。亜鉛含有量が24.6重量%未満であると犠牲防食効果が低下し、99.8重量%を超えると亜鉛のみの被膜と変化なく白錆の発生が目立つようになり、いずれの場合にも耐食性、変色、汚れや塩類付着性(長期的美観保持性)に満足な結果が得られない。
【0035】
亜鉛含有金属粉末中最低の亜鉛含有量になるケースの一例は、亜鉛含有金属粉末に亜鉛−アルミニウム合金を用いて、その合金中亜鉛が最低となるアルミニウム含有量75%、珪素がアルミニウム含有量の0.5%、残量が亜鉛として24.625%の亜鉛合金を使用した場合である。この場合おいてもこの合金組成の犠牲防食性は高く、本発明の目的を達成することができる。
【0036】
亜鉛含有金属粉末中最高の亜鉛含有量になるケースの一例は、亜鉛含有金属粉末に亜鉛−鉄合金を用いて、その合金中亜鉛が最高となる鉄含有量0.2%、残量が亜鉛として99.8%の亜鉛合金を使用した場合である。
【0037】
亜鉛含有金属粉末の中の金属含有量は、亜鉛含有金属粉末が金属展着剤によって表面コーティングされている場合で、コーティング処理後にコーティング処理された亜鉛含有金属粉末を分離乾燥再計量して防食組成物を作成する場合などの金属展着剤の亜鉛含有金属粉末に対する付着量が未知の場合には、金属展着剤の付着分量は金属粉末に含める。
【0038】
亜鉛含有金属粉末形状は、防食効果に優れたラグビーボール状、円柱状を含む球形状ではない厚み0.1〜0.5μm、長さ0.5〜10μm、長さ/厚さ比5〜20の扁平状、棒状、鱗片状等の粉末同士が密接可能な平形状であることが好ましい。平形状金属粉末の製造方法としては、ボールミル、アトライタ等により平板状加工して平形状亜鉛含有金属粉末を製作することができる。
【0039】
第二層被膜を形成する防食組成物には、無機系結合剤を含む必要があり、有機系結合成分は含まない。無機系結合剤は、還元、脱水固化して亜鉛含有金属粉末を締結するため無機結合物を生成しうるもので、例えば、無水クロム酸、水溶性クロム酸等のクロム酸化合物、オルトほう酸等のほう酸化合物、マンガン酸化合物、シリカ、コロイダルシリカ、珪酸ナトリウム、アルキルシリケート及びアルキルシリケート加水分解縮合物などを例示することができる。無機系結合剤の配合量は、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で0.75〜66.25重量%の範囲とすることが好ましい。
【0040】
第二層被膜を形成する防食組成物には、無機系結合剤の他に、酸化剤、金属展着剤、還元剤、加熱安定剤、分散剤、pH調整剤、顔料などを含むことができる。
【0041】
酸化剤は、亜鉛含有金属粉末が高級脂肪酸(油脂)によって表面コーティングされている場合の高級脂肪酸(油脂)の分解剤であり、例えば、過マンガン酸カリウム、三酸化モリブデン、三酸化タングステンなど酸化性酸の金属塩、塩素酸塩、金属酸化物などを例示することができる。酸化剤の配合量は、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で0〜15.75重量%の範囲とすることが好ましい。
【0042】
金属展着剤は、亜鉛含有金属粉末を水等の溶媒に安定分散させるために亜鉛含有金属粉末に被覆するステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸(油脂)、コロイダルシリカ及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤などである。
【0043】
金属展着剤を亜鉛含有金属粉末に展着させる方法としては、(i)10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%の亜鉛含有金属粉末と残量ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸をボールミル、アトライタ等により混合、平板状加工し被覆(被覆厚0.001〜0.01μm)する方法、(ii)前処理溶液全体に対して0.05〜40重量%の粒径10nm以下(好ましくは4〜8nm)のコロイダルシリカを含む、水酸化ナトリウム等のpH調整剤でpH10〜13に調整された水溶液に、ボールミル、アトライタ等により平板状加工した亜鉛含有金属粉末をコロイダルシリカ/亜鉛含有金属粉末重量比0.01〜0.14量を混合し、必要とあればアルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の分散剤としての界面活性剤をこの時点で0.1〜4重量%添加し、10〜80℃で3時間以上、好ましくは5〜72時間攪拌混合し、沈降、またはろ別等して分離する方法、(iii)亜鉛含有金属粉末100重量部に対して0.1〜40重量部のγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤をボールミル、アトライタ等により混合、平板状加工し被覆する方法等を利用することができる。
【0044】
加熱安定剤、還元剤は、無機系結合剤を還元して結合性を持たせたり、加熱乾燥中の水分等溶媒の突沸を防止するもので、例えば、エチレングリコール等のグリコール化合物及びジアセトンアルコール等のα−ヒドロキシケトン化合物など無水クロム酸、水溶性クロム酸等のクロム酸化合物などを例示することができる。加熱安定剤、還元剤の配合量は、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で0〜65.5重量%とすることが好ましい。
【0045】
分散剤は、亜鉛含有金属粉末、無機系結合剤、酸化剤及び顔料などを水等の溶媒に安定分散させる界面活性剤であり、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルフェノールポリエトキシ付加物などを例示することができる。界面活性剤の配合量は、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で0〜10重量%とすることが好ましい。
【0046】
pH調整剤としては、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、塩酸などの防食組成物処理液のpHを調整する薬剤を例示することができる。pH調整剤の配合量は、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で0〜2重量%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
顔料としては、チタン白、シアニンブルー等の着色顔料、マイカ、クレー等の体質顔料、りん酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料を例示することができる。顔料の配合量は、塗装前の防食組成物の水分等溶媒量を差し引いた固形物量に対する配合割合で0〜微量とすることができる。
【0048】
防食組成物の調製は、平形状亜鉛含有金属粉末、無機系結合剤、酸化剤、金属展着剤、加熱安定剤、還元剤、界面活性剤、pH調整剤、顔料などを水または水溶性有機溶媒またはその混合物に適量投入し、均一に混合して行うことができる。しかし、平形状亜鉛含有金属粉末の凝集、不活性化が生じやすく、作業性及び処理液安定性向上のため、平形状亜鉛含有金属粉末にコーティングする方法や処理液を複数に分割して確保する方法等を用いることもできる。
【0049】
例えば、金属剤Aと結合剤Bの2分割にする処理液2分割方法を以下に示す。金属材Aは、金属展着剤で被覆された水中分散性が良好な亜鉛含有金属粉末を、必要により加熱安定剤、還元剤、分散剤と共に、適量の水またはジプロピレングリコール等水溶性有機溶媒またはその混合物に混合して調製することができる。結合剤Bの調製方法としては、無機結合剤と必要により酸化剤、pH調整剤とを適量の水またはジプロピレングリコール等水溶性有機溶媒またはその混合物に混合して行うことができる。これらの金属剤Aと結合剤Bとを使用時に均一に混合して防錆組成物を調製することができる。
【0050】
処理被膜の塗布方法は、第一層被膜の亜鉛合金めっき被膜を脱脂処理後、防錆組成物をコーターによるコーター法、浸漬法、スプレー法等の任意の塗布方法で塗布することができる。なお、標準的な被塗布物である鉄素地に脱脂処理後塗布前に実施されているショットブラスト工程は第一層被膜を損傷させないために省略または必要ならば極めて軽度の処理で塗布することが好ましい。
【0051】
塗布後は、素地温度到達後180℃以上で少なくとも2分以上、好ましくは200℃以上で少なくとも4分以上、より好ましくは260℃以上で少なくとも4分以上加熱乾燥、必要に応じて重ね塗りし、好ましくは被膜厚1μm〜10μmの亜鉛含有防食被膜を形成する。1μmを下回ると、犠牲防食効果が低下し、10μmを上回ると割れ等が生じやすくなる。塗布量と仕上がり被膜厚の関係は被覆組成、第一層被膜により異なるため、適時、確認調整する。
【実施例】
【0052】
(実施例)
防食組成物は、亜鉛含有金属粉末として亜鉛粉末60重量部、アルミニウム粉末40重量部の合計100重量部、無機結合剤としてシリカ25重量部(テトラエトキシシランイソプロピルアルコール処理溶液190重量部、溶液中のシリカ固形分含有量として13重量%)、加熱安定剤、還元剤としてプロピレングリコール60重量部及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル1重量部(合計186重量部)の重量比で混合調製した。
【0053】
溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−珪素合金めっき鋼板の無機被膜処理品(めっき付着量 片面90g/m、厚み約17μm(無機系表面処理被膜約0.65μmを含む))を用いた。加工端面及び穴空け部は素地が露出した状態である。加工端面及び穴空け部を含んだ上に、第二層被膜として、上記シリカ系結合剤及び平形状亜鉛−アルミニウム含有する防食組成物を塗布し、乾燥して亜鉛含有防食被膜I(概算値として亜鉛60重量%、アルミニウム40重量%、被覆加熱乾燥後固形物量に対して亜鉛含有金属含有量約80重量%、被膜厚み約8μm)を形成した。加工端面及び穴空け部は、第二層被膜だけが形成されている。
【0054】
(比較例1)
実施例で使用した、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−珪素合金めっき鋼板の無機被膜処理品(めっき付着量 片面90g/m、厚み約17μm(無機系表面処理被膜約0.65μmを含む))をそのまま用いた。加工端面及び穴空け部は素地が露出した状態である。
【0055】
(比較例2)
実施例で使用したシリカ系結合剤及び平形状亜鉛−アルミニウム含有防食被覆組成物被覆加熱乾燥被膜I(概算値として亜鉛60重量%、アルミニウム40重量%、被覆加熱乾燥後固形物量に対して亜鉛等金属含有推定量約80重量%、被膜厚み約8μm)を鉄素材に直接塗布し、亜鉛含有防食被膜を形成した。
【0056】
(比較例3)
シリカ系結合剤及び平形状亜鉛−アルミニウム−錫含有防食被覆組成物被覆加熱乾燥被膜II(概算値として亜鉛72.5重量%、アルミニウム25重量%、錫2.5重量%、被覆加熱乾燥後固形物量に対して亜鉛等金属含有推定量約80重量%、被膜厚み約10μm)を用いた。
【0057】
(比較例4)
鉄素材に、第一層被膜として、電気亜鉛めっき(被膜厚み約6μm(無機系表面処理被膜約1μmを含む))を形成した。その上に、第二層被膜として、シリカ系結合剤及び平形状アルミニウム含有防食被覆組成物被覆加熱乾燥被膜III(被覆加熱乾燥後固形物量に対してアルミニウム含有概算量50重量%、被膜厚み約10μm)を形成した。
【0058】
(比較例5)
有機塗料系結合剤及び平形状亜鉛−アルミニウム含有防食被覆組成物被覆加熱乾燥被膜(亜鉛、アルミニウム割合不明、被覆加熱乾燥後固形物量に対して亜鉛等金属含有量70重量%、被膜厚み約120μm)を鉄素材に直接形成したものを用いた。
【0059】
(比較例6)
鉄素材に溶融亜鉛めっき(めっき付着量 300g/m、厚み約36.5μm)を形成し、その上にトップコート(性状不明)を形成したものを用いた。なお、端面は鉄素地が露出している。
【0060】
(比較例7)
鉄素地に、電気亜鉛−ニッケル複合めっき(後めっき ニッケル含有量約13重量%、被膜厚み約10μm(無機系三価クロメート表面処理被膜約1μmを含む))を形成したものを用いた。
【0061】
耐食性試験:
耐食性評価はJASO M609−91による複合サイクル試験(塩水噴霧:35℃、5%、2時間、乾燥:60℃、20〜30%RH、4時間、湿潤:50℃、95%RH以上2時間を1サイクル)を継続的に実施して評価した。実施例と比較例の耐食性試験結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
溶融亜鉛めっき鋼板に亜鉛含有防食被膜を設けた実施例は、端面、クロスカット部を含めた全面で2000時間以上赤錆の発生はなく、また平面部の白錆、変色、塩類付着過多発生についても2000時間以上発生はなく、さらに、部曲げを行っても微細クラックが発生する程度で、はがれはなく、比較例1〜7に対して平面部の白錆、塩類付着過多発生時間(防汚性)、赤錆発生時間(耐錆性)及び密着性共に非常に優れていることが認められる。
【0064】
これに対して、溶融亜鉛めっき被膜だけでは、密着性は優れているが、防汚性及び耐錆性がかなり劣り(比較例1)、亜鉛含有防食被膜だけでは、防汚性及び耐錆性が劣り、密着性も劣る(比較例2,3)。電気亜鉛めっき後に、アルミニウム含有防食層を設けた比較例4では、防汚性及び耐錆性が劣り、密着性がかなり劣る。有機系結合剤を用いたアルミニウム含有防食層を厚く設けた比較例5では、耐錆性及び密着性に優れるものの、防汚性がかなり劣る。溶融亜鉛めっき被膜を厚く形成した比較例6では、密着性に優れるものの、防汚性及び耐錆性がかなり劣る。ニッケルを含む亜鉛めっきを形成した比較例7では、密着性に優れるものの、防汚性及び耐錆性がかなり劣る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の防食鋼材は、防汚性及び耐錆性に優れ、長期的に美観保持ができると共に、加工工程等で生じる被膜の剥がれや損傷が生じ難いため、錆びやすい環境の屋外で使用される鋼材として利用することができる。
【0066】
また、本発明の防食鋼材の製造方法は、防汚性及び耐錆性に優れ、長期的に美観保持ができると共に、加工工程等で生じる被膜の剥がれや損傷が生じ難い鋼材の製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄素地と、前記鉄素地の表面に設けられた第一層被膜としての亜鉛めっき被膜と、前記第一層被膜の上に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物から形成された第二層被膜としての亜鉛含有防食被膜とを有することを特徴とする防食鋼材。
【請求項2】
前記亜鉛含有防食被膜の亜鉛を含んだ金属含有量が、33〜99重量%の範囲である請求項1記載の防食鋼材。
【請求項3】
前記亜鉛含有金属粉末における亜鉛の含有量が、亜鉛含有金属粉末全体に対して24.6〜99.8重量%の範囲である請求項1又は2記載の防食鋼材。
【請求項4】
前記亜鉛含有防食被膜の厚みが、1〜10μmの範囲である請求項1〜3のいずれか一に記載の防食鋼材。
【請求項5】
前記亜鉛めっき被膜の上に、無機表面処理膜を有する請求項1〜4のいずれか1に記載の防食鋼材。
【請求項6】
前記無機表面処理膜の厚みが、0.01〜1μmの範囲である請求項4又は5記載の防食鋼材。
【請求項7】
亜鉛めっき被膜が形成された鉄素地の前記亜鉛めっき被膜に、亜鉛含有金属粉末及び無機系結合剤を含有する防食組成物を塗布し、乾燥して亜鉛含有防食被膜を形成する防食塗装工程を有することを特徴とする防食鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記亜鉛含有防食被膜の亜鉛を含んだ金属含有量が、33〜99重量%の範囲である請求項7記載の防食鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記亜鉛含有金属粉末における亜鉛の含有量が、亜鉛含有金属粉末全体に対して24.6〜99.8重量%の範囲である請求項7又は8記載の防食鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記亜鉛めっき被膜に、前記防食組成物を塗布する前に、無機表面処理膜を形成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1に記載の防食鋼材の製造方法。

【公開番号】特開2010−242155(P2010−242155A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91568(P2009−91568)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(390010814)株式会社誠和 (31)
【Fターム(参考)】