説明

防食鋼管

【課題】地際部で確実に防食効果を得ることができる防食鋼管を提供する。
【解決手段】鋼管1と、鋼よりもイオン化傾向の大きな金属からなる陽極金属層3とを備え、鋼管1と陽極金属層3とが電気的に導通している。導電性ポリマーを含む塗料からなり鋼管1を被覆する塗膜層2と、塗膜層2上の地際部となる部分に装着された陽極金属層3とを備える。陽極金属層3は、亜鉛箔、アルミニウム箔、マグネシウム箔、亜鉛−アルミニウム合金箔からなる群から選択される1種の金属箔からなる。金属箔は、導電性粘着剤層を介して、塗膜層2上に装着されていてもよく、金属箔が塗膜層2に直接接触する部分を残して形成された非導電性粘着剤層を介して、塗膜層2上に装着されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公園施設、遊具、標識等の支柱、ポール等に用いられる防食鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公園施設、遊具、標識等の支柱、ポール等には、表面に防食塗装を施した鋼管が用いられている。ところが、前記鋼管は、特にその地際部において雨水や、犬等の動物の尿が掛かりやすく、該地際部から腐食が進行する傾向がある。そこで、前記鋼管の地際部に、前記防食塗装とは異なる防食材料を配置することが行われている。
【0003】
前記防食材料として、従来、鋼よりもイオン化傾向が大きい亜鉛等の金属を用いることが知られている。前記鋼よりもイオン化傾向が大きい金属は、鋼材表面を、該金属からなる金属箔で被覆することにより、前記防食材料として作用する(例えば特許文献1参照)。
【0004】
前記防食材料としての作用は、さらに詳しくは、前記金属箔に亀裂、ピンホール等が発生し、ここから水分等の腐食因子が侵入したとしても、該金属箔が陽極として作用して、鋼よりも先に溶け出すので、鋼が保護されるというものである。前記作用は、自己犠牲防食作用として知られている。
【0005】
前記支柱、ポール等に用いられる鋼管に、前記亜鉛等の金属箔を用いるには、例えば、次のような方法がある。まず、該鋼管の地際部となる部分にマスキングを施し、他の部分に下塗塗料を塗布して下塗塗膜層を形成する。そして、次に、前記マスキングを除去して、前記地際部となる部分に、前記亜鉛等の金属箔、例えば、亜鉛テープを貼着する。前記鋼管は、通常、前記下塗塗膜層及び金属箔上に中塗塗料による中塗塗膜層と、上塗塗料による上塗塗膜層とが、この順に積層されて形成されている。
【0006】
しかしながら、前記鋼管では、前記下塗塗膜層と前記金属箔との間に間隙が生じることが避けられず、前記上塗塗膜層及び中塗塗膜層が剥離すると、前記間隙から水分等の腐食因子が侵入し、該間隙直下の該鋼管が腐食されるという不都合がある。
【特許文献1】特開2005−60803号公報
【特許文献2】特開2006−117748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、地際部で確実に防食効果を得ることができる防食鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、鋼管と、鋼よりもイオン化傾向の大きな金属からなる陽極金属層とを備え、該鋼管と該陽極金属層とが電気的に導通している防食鋼管において、導電性ポリマーを含む塗料からなり該鋼管を被覆する塗膜層と、該塗膜層上の地際部となる部分に装着された陽極金属層とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明では、前記塗膜層は導電性ポリマーを含む塗料からなりそれ自体導電性を備えている。従って、前記陽極金属層は、前記塗膜層を介して前記鋼管と導通を取ることができ、自己犠牲防食作用を得ることができる。
【0010】
また、本発明では、前記塗膜層上の地際部となる部分を除く部分に、上塗塗料からなる上塗塗膜が形成されている場合には、該上塗塗膜と前記陽極金属層との間に間隙が生じ、該間隙から水分等の腐食因子が侵入することが懸念される。しかし、この場合には、前記間隙から侵入した前記腐食因子は、前記導電性ポリマーを含む塗料からなる塗膜層により阻止される。
【0011】
従って、本発明によれば、前記鋼管の地際部で確実に防食効果を得ることができる。
【0012】
また、本発明の防食鋼管において、前記陽極金属層は、亜鉛箔、アルミニウム箔、マグネシウム箔、亜鉛−アルミニウム合金箔からなる群から選択される1種の金属箔からなるものを用いることができる。前記金属箔として、亜鉛箔を用いる場合、例えば、厚さ0.1〜0.2mmのものを用いることができる。
【0013】
また、前記金属箔は、導電性粘着剤層を介して、前記塗膜層上に装着されていることが好ましい。前記金属箔は、前記導電性粘着剤層により前記塗膜層上に貼着することができ、しかも該導電性粘着剤層を介して該塗膜層と導通を取ることができる。
【0014】
前記導電性粘着剤としては、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコーン系粘着剤に導電性フィラーを分散させたものを用いることができる(特許文献2参照)。
【0015】
また、前記金属箔は、該金属箔が前記塗膜層に直接接触する部分を残して形成された非導電性粘着剤層を介して、該塗膜層上に装着されていることが好ましい。前記金属箔は、前記非導電性粘着剤層により前記塗膜層上に貼着することができ、しかも該非導電性粘着剤層が形成されていない部分で、該塗膜層に直接接触して、導通を取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の防食鋼管の構成を示す説明的断面図であり、図2は図1に示す防食鋼管の要部拡大図であり、図3は図1に示す防食鋼管の製造工程を示す説明的断面図である。また、図4及び図5は、既存の防食鋼管の補修工程を示す説明的断面図である。
【0017】
図1に示す本実施形態の防食鋼管1は、例えば、公園施設、遊具、標識等の支柱、ポール等に用いられるものである。防食鋼管1は、全体を被覆する第1の塗膜層2と、第1の塗膜層2上の地際部となる部分に装着された陽極金属層3と、第1の塗膜層2及び陽極金属層3を被覆する第2の塗膜層4とを備えている。
【0018】
第1の塗膜層2は、導電性ポリマーを含む下塗塗料により形成される。前記導電性ポリマーは、ポリ共役π電子系を有する有機ポリマーであり、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等を挙げることができるが、ポリアニリンが好ましい。ポリアニリンの構造式を次式(1)に示す。
【0019】
【化1】

【0020】
前記下塗塗料としては、例えば、変性アルコール55質量%、ブチラール樹脂10質量%、ポリアニリン8質量%、ブラウン顔料4質量%、残部ブタノールからなるものを用いることができる。
【0021】
陽極金属層3は、鋼よりもイオン化傾向の大きな金属からなる金属箔であり、亜鉛箔、アルミニウム箔、マグネシウム箔、亜鉛−アルミニウム合金箔からなる群から選択される1種の金属箔からなるものを用いることができる。
【0022】
陽極金属層3は、図2(a)に示すように、金属箔3aの第1の塗膜層2に対向する面の全面に導電性粘着剤層5aを備え、導電性粘着剤層5aを介して塗膜層2に貼着されていてもよい。また、図2(b)に示すように、金属箔3aの第1の塗膜層2に対向する面に、塗膜層2に直接接触する部分を残して形成された非導電性粘着剤層5bを備え、非導電性粘着剤層5bを介して塗膜層2に貼着されていてもよい。
【0023】
非導電性粘着剤層5bは、例えば、金属箔3aの第1の塗膜層2に対向する面に、島状またはストライプ状に設けることができる。非導電性粘着剤層5bをストライプ状に設ける場合、例えば、金属箔3aの長さ方向に沿って両端縁部に設けられていてもよく(図2(b)はこの態様を示す)、両端縁部を含めてさらに複数条設けられていてもよい。
【0024】
本実施形態では、金属箔3aとして、例えば、厚さ0.1〜0.2mmの亜鉛箔を20〜200mmのテープ状に加工し、一方の面の全面に導電性粘着剤層5aを形成したもの(以下、亜鉛テープと略記する)を用いることができる。
【0025】
第2の塗膜層4は、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂からなる群から選択される1種の樹脂であり、いずれもイソシアネート系化合物を硬化剤とする樹脂からなる上塗塗料により形成される。第2の塗膜層4は、イソシアネート系化合物を硬化剤とする前記いずれかの樹脂からなることにより、第1の塗膜層2を酸性雰囲気とすることができ、ポリアニリンが式(1)で示されるエメラルジン塩から脱水素されて、次式(2)で示されるエメラルジン塩基になることを防止することができる。ポリアニリンは、エメラルジン塩基になると脆くなり、防食鋼管1から剥離しやすくなる。
【0026】
【化2】

【0027】
次に、防食鋼管1の製造工程について説明する。
【0028】
防食鋼管1を製造するときには、まず、図3(a)に示すように、防食鋼管1の全面に前記下塗塗料を塗布することにより第1の塗膜層2を形成する。
【0029】
次に、図3(b)に示すように、第1の塗膜層2の地際部となる部分に導電性粘着剤層5a(図示せず)を介して前記亜鉛テープ3bを貼着し、陽極金属層3を形成する。
【0030】
そして、図3(c)に示すように、第1の塗膜層2及び陽極金属層3上に前記上塗塗料を塗布することにより第2の塗膜層4を形成する。この結果、図1に示す防食鋼管1を得ることができる。
【0031】
前記製造方法は、本実施形態の防食鋼管1を新規に製造する方法を示すものであるが、既存の鋼管を補修することにより本実施形態の防食鋼管1としてもよい。
【0032】
既存の防食鋼管1は、図4(a)に示すように、既存塗膜層6を備えている。そこで、まず、防食鋼管1の地際部を含む部分をけれんすることにより既存塗膜層6を剥離し、剥離部分7の鋼管素地を露出させると共に、該鋼管素地の表面を清掃する。次いで、剥離部分7の防食鋼管1の全面に前記下塗塗料を塗布することにより第1の塗膜層2を形成する。
【0033】
次に、図4(b)に示すように、第1の塗膜層2の地際部となる部分に導電性粘着剤層5a(図示せず)を介して前記亜鉛テープ3bを貼着し、陽極金属層3を形成する。
【0034】
次に、図4(c)に示すように、第1の塗膜層2及び陽極金属層3上にさらに前記下塗塗料を塗布することにより第1の塗膜層2を形成する。この結果、陽極金属層3は、第1の塗膜層2に塗り込められている。
【0035】
次に、図5に示すように、第1の塗膜層2上に前記上塗塗料を塗布することにより第2の塗膜層4を形成する。そして、第2の塗膜層4の上に前記既存塗膜層6を形成している塗料と同一の塗料を塗布し、既存塗膜層6と同一の塗膜層6aを形成する。この結果、図1に示す防食鋼管1を得ることができる。
【0036】
尚、本実施形態では、前記上塗塗料として、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂からなる群から選択される1種の樹脂であり、いずれもイソシアネート系化合物を硬化剤とする樹脂からなる塗料を使用している。しかし、前記上塗塗料は、前記第1の塗膜層2が防食鋼管1から剥離しないものであれば、どのような塗料を使用してもよい。
【0037】
また、本実施形態では、導電性粘着剤層5aまたは非導電性粘着剤層5bを介して金属箔3aを第1の塗膜層2に貼着する場合について説明しているが、陽極金属層3は第1の塗膜層2上に装着されていればよく粘着剤を使用しなくてもよい。前記粘着剤を使用しない場合、例えば、防食鋼管1の円周よりも長めに裁断した金属箔3aを第1の塗膜層2上から防食鋼管1の円周に沿って巻き回し、金属箔3aの長さ方向の端部同士を重ね合わせて巻き締める方法等を採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示す説明的断面図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】図1に示す防食鋼管の製造工程を示す説明的断面図。
【図4】既存の防食鋼管の補修工程を示す説明的断面図。
【図5】既存の防食鋼管の補修工程を示す説明的断面図。
【符号の説明】
【0039】
1…防食鋼管、 2…塗膜層、 3…陽極金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管と、鋼よりもイオン化傾向の大きな金属からなる陽極金属層とを備え、該鋼管と該陽極金属層とが電気的に導通している防食鋼管において、
導電性ポリマーを含む塗料からなり該鋼管を被覆する塗膜層と、
該塗膜層上の地際部となる部分に装着された陽極金属層とを備えることを特徴とする防食鋼管。
【請求項2】
請求項1記載の防食鋼管において、前記陽極金属層は、亜鉛箔、アルミニウム箔、マグネシウム箔、亜鉛−アルミニウム合金箔からなる群から選択される1種の金属箔からなることを特徴とする防食鋼管。
【請求項3】
請求項2記載の防食鋼管において、前記金属箔は、導電性粘着剤層を介して、前記塗膜層上に装着されていることを特徴とする防食鋼管。
【請求項4】
請求項2記載の防食鋼管において、前記金属箔は、該金属箔が前記塗膜層に直接接触する部分を残して形成された非導電性粘着剤層を介して、該塗膜層上に装着されていることを特徴とする防食鋼管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−231508(P2008−231508A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73078(P2007−73078)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(390029698)テック大洋工業株式会社 (10)
【出願人】(598151614)株式会社 サトミ産業 (2)
【Fターム(参考)】