説明

降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置

【課題】本発明は、降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御装置に関し、従来の摺接降下させる開閉扉では、任意のタイミングで降下対象物を降下させることが困難であると言う課題を、本発明により解決することである。
【解決手段】対象物を摺接させて落下させる開閉扉1における摺接用表面に摺接方向に沿って併設されるとともに、前記対象物を降下させる摺接方向と直交する方向に交互に並べて敷設される固定摩擦板4と移動摩擦板3と、前記移動摩擦板3を相対的に移動させる移動手段7及びその移動手段を駆動制御する制御装置を設けてなる、降下対象物を摺接降下させる開閉扉1の摩擦制御装置2とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中若しくは水中に袋詰土砂を降下させて海(水)底面に堤などを構築する際に、前記袋詰土砂を降下させるシャッターにおいて、所望の滑り速度で袋詰め土砂を降下させる場合における、降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダムや湖沼などの水底および海底に潜堤等を構築するには、図6に示すように、土砂などを充填した袋体48、すなわち袋詰め土砂49を水底50に投入して積み上げていた。この袋詰め土砂49の水底50への投入は水面51近くから行っていた。また、この他の袋詰め土砂の沈設方法としては、特公平6−43688号公報の発明が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
前記袋詰め土砂49をシャッタ52ーを開いて降下させる場合に、袋体48の生地に無理な張力が掛からないようにして、袋破損の危険性を避けるようにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−43688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の降下方法では、前記シャッター52が十分に開口された状態で袋体48を降下させようとすると、シャッター52の表面の摩擦係数を大きくすることが必要となり、その場合、袋体48の滑り速度は遅くなるが、摩擦係数が増大するので袋底部の生地を引張り、無理な張力が生じて却って袋破損の危険性が高まるおそれがある。また、摩擦が大きい場合に、必要な開度までシャッターが開いても袋詰め土砂が滑り落ちないことがあり、袋詰め土砂の落下のタイミングが把握できないと共に、左右両側のシャッターから同じタイミングで袋詰め土砂が滑り落ちるとは限らなく、その影響で袋詰め土砂の落下位置が不正確になる可能性が高まると言う課題がある。本発明に係る降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、落下対象物を開閉扉の上で摺接させて降下させる場合に、摺接用表面を、固定摩擦板と移動摩擦板の2種類を用意し、更に、その表面を摩擦係数の大きい部分と摩擦係数の小さい部分とにして、それを前記降下対象物を降下させる方向と直交する方向に交互に並べて敷設するとともに、前記移動摩擦板を固定摩擦板に対して相対的に移動させることで前記開閉扉全体の摩擦係数を変化させることである。
前記開閉扉は、引き戸ではなく一枚の板が開く片開き戸であるか、若しくは、両開き戸の観音開きするものである。前記移動摩擦板の相対的な移動は、開閉扉を閉状態から開状態に移行するために、斜めに傾斜させている途中において行われるものであり、その移動摩擦板の相対的な移動には、一方をスライドさせたり、突出させたり、後退させたりする駆動手段による移動機構により行われる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置によれば、開閉扉を拡開させた後に、落下のタイミングを見計らって移動装置を駆動させ、降下対象物を安全に、そして正確に所定の位置に降下させるように、開閉扉全体の摩擦係数を変えるように制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1−A】本発明に係る降下対象物を摺接降下させる開閉扉1の摩擦制御構造を示す平面図で、上部分が摩擦係数の大の移動摩擦板3がスライド前の状態で、下部分が前記移動摩擦板3のスライド後の状態を示す図である。
【図1−B】同開閉扉1において、その一部斜視図(A)と、移動摩擦板3のスライド前後の変化を示す一部斜視図(B)とである。
【図2】同開閉扉1の断面図で、摩擦係数の大きい移動摩擦板と小さい固定摩擦板との断面図(A),(B)である。
【図3】開閉扉1を袋詰土砂が摺接している状態において、摩擦係数の大きい移動摩擦板がスライドする前と後とを示す説明図(A),(B)である。
【図4】図3におけるa−a線に沿った断面図(A)と中間の断面図(B)とc−c線に沿った断面図(C)とである。
【図5】土砂投入船及び投入枠の断面図で、シャッターが閉じた状態の断面図(A)と、本発明の摩擦制御方法による降下を示す説明断面図(B)と、従来の方法による降下を示す説明断面図(C)とである。
【図6】従来例に係る袋詰土砂の降下方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る降下対象物を摺接させて降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置は、図1に示すように、土砂投入船及び投入枠の底部を開閉する開閉扉である観音開きのシャッターの摩擦係数を制御できるようにして、袋詰土砂が前記シャッターの拡開と共に直ちに滑り落ちないように、ある程度の拡開角度となったところで、前記シャッターが開口してから前記袋詰土砂が滑り落ちるようにするものである。
【実施例1】
【0010】
本発明に係る降下対象物である袋詰土砂を降下させるための開閉扉1における摩擦制御装置2は、図1−A,図1−Bに示すように、前記開閉扉1を構成する観音開きの金属製シャッター1aと、このシャッター1aの摺接用表面を、摩擦係数の大きい部分(以下、移動摩擦板、摩擦係数0.5〜0.8程度))3と摩擦係数の小さい部分(以下、固定摩擦板、摩擦係数0.1〜0.3程度))4とを、前記降下対象物5を降下させる方向と直交する方向に交互に並べて敷設する。
【0011】
図2に示すように、前記移動摩擦板3と固定摩擦板4とは、ピアノの鍵盤の様に櫛刃状に配設され、一方の移動摩擦板3は摺接方向に沿って外側(図2(A)参照)にスライドして移動することができる。また、前記固定摩擦板4はシャッター1aに固定されていて移動しない。この両摩擦板表面の摩擦係数は、所要の摩擦係数の平薄板状材料を、摺接面に貼着して実現させるものである。
【0012】
前記移動摩擦板3は、一つおきに隣り合っている移動摩擦板3とが、直交方向に横架させた剛性な連結バー6で連結されている。この連結バー6は、例えば、油圧シリンダー7で摺接方向の外側に向けてスライドさせられる。
【0013】
前記移動摩擦板3をスライドさせる際には、図示していない制御装置によって前記油圧シリンダー7が駆動され、そのロッド7aが伸長されて係合部6aが外側に押し出されて、前記連結バー6が摺接方向の外側に移動され、各移動摩擦板3がスライドせしめられるものである。
【0014】
前記開閉扉1は、このように、土砂投入船及び投入枠の底部に設けられるシャッター1a,1aに、傾斜した摺接面を有する所要幅で断面形状が三角形状で細長い移動摩擦板3と固定摩擦板4と、スライド用の移動手段である連結バー6と油圧シリンダー7と、油圧シリンダー7の伸縮を駆動制御する制御装置(図示せず)とで、概ね構成されている。
【0015】
図5(A),(B)を参照して、本発明に係る開閉扉1の摩擦係数制御方法について説明する。同図(A)が、土砂投入船及び投入枠9の観音開きのシャッター1a,1aが閉じている状態である。シャッター1aは、開閉バー10によって閉じられている。また、シャッター1aは、底部の両端側に設けられた回転軸9aを中心にして回動するものである。
【0016】
前記シャッター1a,1aの閉じた状態から、図5(B)に示すように、開閉バー10が下に移動してシャッター1a,1aが回転軸9aを中心に拡開する。開口角度がまだ小さいので、袋詰土砂8はシャッター1aの傾斜面の摩擦力で止まっている。
【0017】
更に、前記開閉バー10を降ろしてシャッター1a,1aを大きく開口させる。そして、油圧シリンダー7を制御装置で駆動させてその7aロッドを伸長させ、連結バー6を摺接方向外側にスライドさせる。
【0018】
それにより、図1−B(B)に示すように、各々移動摩擦板3が同方向にスライドする。これにより、袋詰土砂8のシート8aが、図4(A)から同図(C)に示すような状態となり、前記シート8aにおいて移動摩擦板3に接触する部分が少なくなり、固定摩擦板4に主に接触するので、シャッター1a全体としての摩擦係数が小さくなり、前記袋詰土砂8が滑りやすくなる。
【0019】
こうして、袋詰土砂8の一部が十分に拡開したシャッター1a,1aの開口部から下に降下して、その尖塔部分が海底11に到達する。更に、開閉バー10が下に移動することでシャッター1aの開口が大きくなり、袋詰土砂8は中央部が変形しながら、全体が下に落ちて行く。
【0020】
このように、前記開閉扉1を、前記摩擦係数の大きい移動摩擦板3と摩擦係数の小さい固定摩擦板4とのうち、移動摩擦板3を相対的に移動させることで前記開閉扉1全体の摩擦係数を変化させることにより、シャッター1a,1aが十分に拡開された状態にしてから、袋詰土砂8が下にスムーズに落ちるように制御することができる。これにより、袋詰土砂8のシート8aが引っ張られて破けることなどが防止される。また、袋詰土砂8の落下位置も正確に制御することができる。
【実施例2】
【0021】
前記開閉扉1は、引き戸ではなく観音開きの場合で説明したが、場合によっては、一枚の板が開く片開き戸でも可能である。また、前記摩擦係数の大きい移動摩擦板3と摩擦係数の小さい固定摩擦板4とのうちいずれか一方を相対的に移動させるタイミングには、開閉扉を閉状態から開状態に移行するために、斜めに傾斜させている途中において行われるものである。
【0022】
前記移動摩擦板の相対的な移動には、上述の一方をスライドさせることだけに限らず、例えば、摩擦係数の小さい固定摩擦板4の方をジャッキで押し上げて突出させたり、移動摩擦板3の傾斜角度を大きくして沈み込むように調整したりすることで達成することができる。
【0023】
また、開閉扉1の摩擦係数を変化させる方法として、上記以外に、異なる摩擦係数の固定摩擦板と移動摩擦板とに交互に配置して、前記移動可能な移動摩擦板を傾斜摺接面から後退させたり前進させたりする方法もある。このほか、移動摩擦板3を側面から見て比較的大きな円の一部の円弧状に形成しておいて、開閉扉1を側面から見ると、固定摩擦板の表面から上に前記移動摩擦板3の円弧状部分が突出する状態となり、この移動摩擦板3の円弧状部分を固定摩擦板4の間から後退させることで、開閉扉1の摩擦液数が変わるようにしても良い。
【0024】
更に、前記摩擦板3,4は、摺接方向に沿ってその断面形状が先細となる三角形状の傾斜板で説明したが、それにこだわることなく、矩形状の平板であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法とその装置は、土砂投入船及び投入枠による袋詰土砂の降下に適用したが、これに限らず、物流における一般の滑らせる物のをハンドリングする際においても、使用できるものである。
【符号の説明】
【0026】
1 開閉扉、 1a シャッター、
2 摩擦制御装置、
3 摩擦係数の大きい部分(移動摩擦板)、
4 摩擦係数の小さい部分(固定摩擦板)、
5 直交方向、
6 連結バー、
7 油圧シリンダー、 7a ロッド、
8 袋詰土砂、
9 土砂投入船及び投入枠、
10 開閉バー、
11 海底。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を摺接させて落下させる開閉扉における摺接用表面に摺接方向に沿って併設されるとともに、前記対象物を降下させる摺接方向と直交する方向に交互に並べて敷設される固定摩擦板と移動摩擦板と、
前記移動摩擦板を相対的に移動させる移動手段及びその移動手段を駆動制御する制御装置を設けたこと、
を特徴とする降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御装置。
【請求項2】
移動摩擦板の摺接面の摩擦係数は、固定摩擦板の摺接面における摩擦係数と比較して大であること、
を特徴とする請求項1に記載の降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御装置。
【請求項3】
固定摩擦板と移動摩擦板との断面形状は、摺接方向に沿って先細となる三角形状の傾斜板であること、
を特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御装置を形成し、前記開閉扉が閉状態から開状態に移行する途中において、移動手段を制御装置で駆動制御して移動摩擦板を移動させ、開閉扉全体の摩擦係数を変化させること、
を特徴とする降下対象物を摺接降下させる開閉扉の摩擦制御方法。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−209575(P2010−209575A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56258(P2009−56258)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】