説明

限外ろ過膜、ならびに限外ろ過膜の製造および使用の方法

【課題】ヒドロキシアルキルセルロースで親水性にされた表面を有し、約1500L/mを超えるスループットを有する本質的に疎水性の高分子膜基材を提供すること。
【解決手段】さらに、沸騰水および/または蒸気でオートクレーブ処理するか、あるいは沸騰水に浸ける工程を含む膜を製造する方法も提供する。膜は、タンパク質溶液からウイルスを除去するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれている、2005年10月14日に出願した米国仮特許出願第60/726,745号に関係する。
【0002】
本発明は、少なくとも1つの限外ろ過層を有する膜、そのような膜を製造する新規の方法、およびそれらの膜の使用に関する。より具体的には、本発明は、修飾親水性表面を有する限外ろ過膜、それらを製造する方法、および生体分子溶液からウイルスを除去するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
限外ろ過膜および微多孔膜は、圧力式ろ過方法で使用される。膜による分離方法の分野における実践者は、微多孔膜と限外ろ過膜とを容易に区別することができ、一般的には、その用途およびその構造の態様に基づいて区別する。微多孔膜および限外ろ過膜は、別々の、異なる製品として製造され、販売され、使用される。命名法において重なる部分もあるが、それらの製品は、別の実体であり、商業にもそのようなものとして扱われる。
【0004】
限外ろ過膜は、主に、タンパク質、DNA、ウイルス、デンプン、および天然または合成高分子などの可溶性巨大分子を濃縮したり、またはダイアフィルトレーションにかけるために使用される。用途の大半において、限外ろ過は、接線流ろ過(TFF)モードで実行され、そこで、供給液体は膜表面全体わたって通され、膜の細孔のサイズよりも小さい分子が膜を通過し(ろ液)、残りの分子(保持液)は膜の第1の側(一次側)に保持される。流体も通過するので、効率的なTFF動作を維持するために、保持液流をリサイクルまたは保持液に加える必要がある。TFFアプローチを使用する利点の1つは、流体が常時膜の面上を掃くように流れるので、膜表面およびその付近の溶解質のファウリングおよび分極を減らし、膜の寿命を延ばす傾向があるという点である。限外ろ過膜は、さらに、デッドエンドろ過モードで使用することもできる。デッドエンドろ過とは、ろ過される流体流全体がリサイクルまたは保持液流なしでフィルタを通過するろ過のことである。フィルタを通らない物質は、上側(一次側)面上に残される。
【0005】
微多孔膜は、主に、固形物、細菌、およびゲルなどの粒子をデッドエンドろ過モードで液体またはガス流から除去するために使用される。
【0006】
限外ろ過膜は、一般に、スキン非対称膜であり、これは、大半が、膜構造の永続的部分のままである担持材上に作られる。担持材は、不織布もしくは織布、または予備成形膜とすることができる。代替的に、担持される限外ろ過膜は、2つ以上の高分子溶液を同時キャスティングし、続いて、その溶液を凝固させ、少なくとも1つの層が限外ろ過膜となる多層膜を形成することにより形成することができる。
【0007】
ウイルス除去膜フィルタは、治療薬を安全に製造できるようにするためにバイオ産業で使用されることが多くなってきている。これらのフィルタは、生成物タンパク質のすべてではないとしてもその大半が膜を通過できるようにしながら存在しうるウイルスを高率で除去しなければならない。さらに、ろ過は、多孔質フィルタの詰まりにより、早く詰まったり、または不経済なほど遅い流速に低下することがないということが必要である。膜開発分野の実践者は、所望の組合せの特性を有する膜製品を開発することは本当に難しいことであることを理解している。
【0008】
従来技術では、ウイルス除去膜は、典型的には、架橋高分子コーティングを膜の内側多孔質面および表面に重合化することにより親水性であり低たんぱく質結合となるように作られた限外ろ過膜である。以下の説明により制限されることなく、そのようなコーティング方法は、細孔のサイズの分布およびフリーラジカル重合の確率的性質のため、細孔の表面のコーティング厚さをランダムに分布させると考えられる。改善されたウイルス除去膜に必要な許容差は、非常に厳格であるため、コーティング厚さを細かく制御する方法が求められていた。
【0009】
限外ろ過膜によりタンパク質水溶液をろ過してウイルスを除去する場合、膜は、タンパク質が膜を通るのを許しながら、ウイルスの保持の効果をもたらす十分に小さなサイズの細孔を有する。膜は、高いウイルス保持力、それと同時に、高いスループットを有することが望ましい。ウイルス保持能力は、対数減少値(LRV)として定義され、回数10を掛けて、供給液中とろ液中とのウイルス濃度の比が求められなければならない。例えば、LRVが4.0である膜の場合、ウイルス量を10,000(10)分の1に減らすことができるということである。スループットは、完全なファウリングが発生する前に膜の所定の領域を通過できるタンパク質溶液の体積として定義される。本明細書で使用されているように、「完全なファウリング」という用語は、LRVが3.5以上であるウイルス保持を達成する膜でろ過を行う場合に膜の元の流束の10%未満が観察される膜の条件を意味する。一般に、膜を通る流束が高く、膜表面のタンパク質結合が低いと、スループットが増えることが観察される。所与の膜のスループット値は、使用されるたんぱく質の種類および濃度、圧力、イオン強度、および他の試験条件に応じて大きく異なる。典型的な方法条件の下で、条件を満たす限外ろ過膜は、約1000L/m以上のスループットを有する。
【0010】
ウイルス保持膜のより代表的な性能基準は、Vmax法により計算される膜面積である。Millipore Corporation社は、従来から、通常の流量過装置の面積要件を決定するためにVmax法を使用してきた(Millipore Corporation技術ノートAN1025EN00)。この方法は、膜の詰まりが円柱状膜細孔の一様な構造の結果であると仮定する段階的細孔詰まりモデルに基づく。このモデルの支配方程式は以下のとおりである。
(1) t/V=(t/[Vmax*A]+1/[Q*A]
式中、A=ろ過面積(m
V=処理体積(L)
Vmax=t/V対tのプロットの勾配逆数から得られる(L/m
=初期体積流量(L/分*m
=処理時間(分)
式(1)は、以下のようにフィルタサイズを推定するように整理し直すことができる。
(2) A/V=1/Vmax+1/[Q*t
この式中、サイズ設定への寄与は、容積項(1/Vmax)と流れ時間項(1/(Q*t))の両方から得られる。ほとんどの生物医薬品用途は、中間に詰まりを起こす流れであり、したがって、容積と流量の両方がサイズ決定の際に重要である。これは、容積項(1/Vmax)と流れ時間項(1/(Q*t))を両方とも使用すべきであることを意味する。流れ時間項を無視すると、必要な総ろ過面積を決定する際に大きな誤差が生じうる。これが生じる用途の例は、カラム精製工程の前、または深層ろ過工程の後などにおける、バイオバーデン低減工程にある。さらに、多くの緩衝液および媒体用途は、このVmax範囲内にある。Aの値が低いほど、膜は望ましいものとなる。
【0011】
さらに、蛋白質水溶液をろ過する場合、限外ろ過膜は親水性、つまり、水で容易に濡れるようなものでなければならない。膜の親水性を評価する当該方法では、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,880,548号で説明されているような臨界濡れ表面張力(CWST)を測定する。簡単に言うと、多孔質媒体のCWSTは、その表面に、脂肪族アルコールまたは無機塩類の水溶液などの種々の表面張力を有する一連の液体を個別に塗布し、それぞれの液体の吸収または非吸収性を観察することにより決定することができる。ダイン/cmを単位とする多孔質媒体のCWSTは、吸収される液体の表面張力と吸収されないの隣接表面張力の液体の表面張力の平均値として定義される。
【0012】
タンパク質溶液をろ過するために使用される限外ろ過膜の他の望ましい特性は、苛性溶液は使用に先立って膜の保管および殺菌消毒に通常使用されるため苛性安定性を有するということである。
【0013】
米国特許第4,794,002号および第5,139,881号では、親水性表面を有するように修飾された、スルホンポリマー基材膜、例えばポリスルホンまたはポリエーテルスルホンなどの本質的に疎水性の基材で形成された多孔質限外ろ過または微細ろ過膜、さらには、分子量が10,000以上の高分子の不可逆的吸着により形成される親水性表面を有する膜を作るための方法を実現することが提案されている。本発明の一態様では、基材膜の表面は、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロースにより修飾される。膜を製造する方法では、基材膜は、ヒドロキシアルキルセルロースと接触させられ、それにより基材膜上または基材膜内への吸着が生じ、その後、過剰な非吸着修飾ヒドロキシルアルキルセルロースを除去する。
【0014】
米国特許第6,214,382号では、数平均分子量が2,000から8,000である修飾高分子を使用するだけの、米国特許第4,794,002号と本質的に同じ方法により製造される親水性膜を開示している。
【0015】
米国特許第4,413,074号では、ポリスルホンなどの疎水性多孔質膜の表面を親水性にする方法を開示している。疎水性膜は、ヒドロキシアルキルセルロースの溶液および水または水と脂肪族アルコールの混合液などの溶媒中の界面活性剤と接触させられる。次いで、溶媒は、乾燥状態で加熱して、ヒドロキシアルキルセルロースを不溶化することにより膜から除去される。
【0016】
高い流束および低タンパク質結合を生じさせることができるという点で高いスループットを有するタンパク質溶液からウイルスを除去することができる限外ろ過膜を実現することが望ましいであろう。このような膜は、多数のタンパク質溶液バッチからの効果的で経済的なウイルス除去を可能にする。さらに、スループットに悪影響を及ぼすことなく苛性消毒殺菌することができる、そのような膜を実現することが望ましい。
【特許文献1】米国特許第4,880,548号
【特許文献2】米国特許第4,794,002号
【特許文献3】米国特許第5,139,881号
【特許文献4】米国特許第6,214,382号
【特許文献5】米国特許第4,413,074号
【特許文献6】米国公開特許出願第20030217965号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、孔壁に実質的に一様な層を付与する親水性高分子を付着する方法を実現し、その厚さは、重合化の確率的性質ではなくむしろ、付着の熱力学的作用により制御される。親水性高分子と疎水性表面との間の付着を行う初期駆動力は、強いが、第1の層が形成された後、大きく低下するが、それは、表面上の高分子に関連付けられた溶媒の量が少なく、可溶性の高分子は、溶媒を除去しそのような高分子に付着する熱力学的駆動力を持たないからである。これは、親水性高分子の層を制限し、孔壁上のコーティングを実質的に一様にし、それにより、流れの制約を最小にする傾向がある。
【0018】
本発明は、さらに、修飾された親水性表面を有する多孔質膜基材から形成される中空糸またはシート材または単層もしくは多層の担持または無担持限外ろ過膜も実現する。本発明の一実施形態では、限外ろ過膜は、限外ろ過層および平均孔サイズが限外ろ過層の平均孔サイズよりも大きい少なくとも1つの他の層を有する多層膜を含む。この第2の層は、限外ろ過層の担持材を備え、それにより限外ろ過層の流束特性に悪影響を及ぼすことなく強度を増す。本質的に疎水性の基材表面は、ヒドロキシアルキルセルロースを基材表面上または基材表面中に固定化することにより親水性にされる。本発明の範囲は、膜表面へのヒドロキシアルキルセルロースの固定化の特定のメカニズムにより制限されない。これは、吸着、コーティング、架橋、表面への化学結合などにより固定化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一実施形態では、多層膜は、2つ以上の高分子溶液を担体層上に同時キャスティングすることにより形成される。膜用の高分子は、限定はしないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、およびポリフェニルスルホンなどの、スルホンポリマーを含む。次いで、多層溶液は、高分子層の非溶剤と接触させられ、すると、高分子層の凝固および細孔形成を生じ、それにより、本発明で使用される基材多層膜の形成を行う。
【0020】
基材表面を親水性にするために、基材多層膜が、水、または水と他の溶媒との混合液、およびヒドロキシルアルキルセルロースの溶液に浸けるなどして接触させられ、ヒドロキシルアルキルセルロースの基材多層膜上または中への固定化が行われる。次いで、過剰なヒドロキシアルキルセルロースは、水ですすぐなどにより基材膜から場合によって除去される。次いで、膜は、熱水および/または蒸気に曝されるが、これは、例えば、液体水が入っている密閉容器内でのオートクレーブ処理、煮沸、蒸気処理、加熱などにより行うことができる。その結果得られる親水性表面が熱水および/または蒸気でオートクレーブ処理された膜は、従来技術の膜に比べて、高いウイルス保持力を維持しつつ、流束およびスループットを著しく改善することがわかった。この方法で膜上に固定化された親水性コーティングは、さらに、架橋する、生体分子のリガンドなどの特定の化学基を付加する、膜に電荷を付与するなどの目的で化学処理することができる。これらの追加の工程は、当技術分野で知られているすべての適当な手順により実施することができ、化学的バッチ処理、放射線誘導反応などを含むであろう。
【0021】
本発明は、さらに、タンパク質含有溶液からウイルス粒子を除去する方法における本発明の膜の使用を具現化し、膜は、ウイルス粒子の通過を実質的に阻止し、タンパク質の通過を実質的に可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明で使用される疎水性基材膜は、中空糸またはシート材または単層または多層とすることができ、担持または無担持とすることができる。
【0023】
使用される場合、本発明の疎水性多層基材膜は、少なくとも1つの限外ろ過層および少なくとも1つの担体層を有し、スルホンポリマー溶液などの複数の高分子溶液を担体に同時キャスティングして多層液体シートを形成することにより製造される。それ以降、シートは、液体凝固浴槽に浸けられ、これにより相分離を生じさせ、多孔質限外ろ過膜を形成する。限外ろ過(UF)層と微多孔(MF)層との間の細孔サイズの差は、一桁違う可能性がある。さらに、UFおよびMF膜の形成率は異なり、凝固浴槽中でUFが著しく速く形成する。形成後、多孔質膜は洗浄されて、溶媒および他の可溶性物質が除去される。次いで、これはさらに抽出され、それにより一過性の物質を低レベルに減らし、場合によって乾燥させることができる。
【0024】
簡潔さのため、多層同時キャスティング複合限外ろ過膜を製造する方法は、2層例について説明される。ただし、3つ以上の層も、同じ方法で製造することができる。好ましい方法は、2つのスルホンポリマー溶液などの2つの高分子溶液を、層毎に1つずつ作る工程を含む。浸漬キャスティングにより多孔質膜を作るための溶液は、通常、膜の最終的な細孔サイズおよび多孔性(つまり、有孔率、細孔サイズ分布など)を修正し、制御するための高分子、溶媒、および添加剤からなる。
【0025】
適当な本質的に疎水性の基材膜は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、またはポリフェニルスルホンなどのスルホンポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデン、ジフルオロイミド、またはそれらのブレンドなどのポリマー、あるいはポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーなどとのそれらのブレンドから形成することができる。
【0026】
適当な溶媒は、限定はしないが、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはN−メチルピロリドンを含む。
【0027】
多くのポロゲンの例が、当技術分野では使用されており、限定はしないが、ホルムアミド、さまざまなアルコールおよび多価化合物、水、さまざまなポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ならびに塩化カルシウムおよび塩化リチウムなどのさまざまな塩類などの化合物を含む。
【0028】
溶液は、作られた後、移動担体に塗布される。最終膜にウェブが結合していない無担持膜の場合、担体は、通常、ポリエチレンテレフタラートなどのプラスチックフィルム、またはポリエチレンコート紙、または形成された多層膜から容易に取り除ける類似の滑らかな連続ウェブである。
【0029】
便宜上、多孔質基材膜を形成する同時キャスティングプロセスについて、スルホンポリマーを参照して本明細書では説明する。標準的な方法により応用することができる。目的は、第1のスルホンポリマー溶液を担体上に、第2のスルホンポリマー溶液を第1の溶液にコートすることである。非常に好ましい方法は、同時キャスティングであり、コーティングからコーティングまでの間に本質的に時間をかけずに2つの層がコーティングされる。これは、ダブルナイフオーバーロール装置または加圧式デュアルスロットコーティングヘッドで実行できる。同時キャスティングとは、個々の層が相互に本質的に同時にキャストされ、一方のキャスト層から次のキャスト層までの時間間隔が実質的にないことを意味する。この方法は、参照により本明細書に組み込まれる、米国公開特許出願第20030217965号で詳述されている。同時キャスティングでは、層の接合部に制御された細孔サイズ領域を形成することができる。従来技術では、順次キャストされた層と層の間に境界がはっきりした分離線が形成される。比較的開放的な構造から密な構造へ細孔サイズが激しく変化すると、界面のところに保持溶質が望ましくないスピードで蓄積し、その結果、流束が大きく低下する可能性がある。望ましい場合には、シャープな界面は、同時キャスティングプロセスで2つの隣接する層の間の細孔サイズのより細かな変化で置き換えられる。このような界面ゾーンは、多層膜の構造全体の保持挙動に有利である。
【0030】
層が移動担体上に同時キャスティングされた後、液体シートを有する担体は、高分子用の非溶剤である液体に浸けられ、溶媒およびポロゲンとの混和性を有する。これは、相分離を引き起こし、多孔質膜の形成を進める。
【0031】
次いで、形成された複合膜は、通常、担体から分離され、洗浄されて、残留溶媒および他の物質が除去される。次いで、膜を乾燥させることができる。限外ろ過膜は、通常、グリセリンなどの保湿剤とともに、まず最初に洗浄された膜を濃度が5から25重量%のグリセリン水溶液中に浸け、過剰な液体を取り除いてから乾燥工程に進むという方法により乾燥される。乾燥は、水の大半を除去し、細孔の潰れを防ぐ十分な量のグリセリンを残す方法で行われる。
【0032】
代替的に、疎水性高分子を親水性高分子とブレンドすることにより基材膜を調製することができる、親水性高分子は最終生成物中に残る。これは、例えば、ポリエーテルスルホンおよびポリビニルピロリドンの場合に使用される。この方法で作られた膜は、通常、本質的に親水性であるが、本発明の方法を使用して低タンパク結合および他の特性を付与することによりさらに修飾することができる。
【0033】
本発明は、ウイルスを保持するためのLRV値が少なくとも4.0、好ましくは少なくとも5.0であり、初期スループットが1000L/m以上、好ましくは1500L/m以上であり上述の表面修飾親水性高分子膜で作られた親水性表面を有する、単層または多層の苛性耐性のある中空糸またはシートの担持または無担持限外ろ過膜を実現する。本明細書で使用されているような「スループット」という用語は、膜の1平方メートルを通して30psiの定圧、22℃でろ過できるDifko FA緩衝液(150mM NaCI、pH7.2)中の1.45g/Lのウシ血清アルブミン(BSA)溶液の最大量を意味する。本明細書で使用されているように、「完全なファウリング」という用語は、初期LRVが4.0以上であるウイルス保持を達成する膜でろ過を行う場合に膜の元の流束の10%以下が観察される膜の条件を意味する。タンパク質供給物は、非常に多様性があり、観察されるスループットは、特定のタンパク質ロットとメーカーにより大きい場合も小さい場合もあることを理解すべきである。しかし、市販の膜または従来技術により調製された膜と比較したときに、膜スループットの改善は、特定のタンパク質ロット内においては類似する。
【0034】
他の試験供給物も、スループット試験で使用することができる。ウイルスろ過膜の可能な応用の1つは、モノクローナル抗体の溶液を精製することであるため、親水性膜をIgGなどの関連するタンパク質の溶液で試験することが望ましい。ヒト血清由来の混合IgGの市販溶液は、SeraCare Life Sciences Inc.社(マサチューセッツ州ウエストブリッジウォーター)によって供給されており、本発明で説明されている親水性膜上の多数のスループット試験で使用された。この試験供給物は、タンパク質および他の血液成分の大きな凝集体を含み、サイズ排除メカニズムによるウイルス保持膜のファウリングを速くすると判断された。
【0035】
多層基材膜は、所望の親水性および低タンパク結合を有するヒドロキシルアルキルセルロースを固定化することにより表面修飾される。適当なヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース、好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロースを含む。ヒドロキシエチルまたはヒドロプロピルは、これらの部分を含む小分子が、スルホンポリマーを濡らし、場合によっては、可塑化または溶解するため、良い結合基である。疎水性多層スルホンポリマー膜は、水または水とイソプロピルアルコールなどのアルカノールの混合液中に溶解されたヒドロキシアルキルセルロースの溶液中に浸される。本発明の好ましい一実施形態では、水と5から100容積%、好ましくは10から30容積%のイソプロピルアルコール中のヒドロキシプロピルセルロースが使用される。この溶媒組成およびヒドロキシプロピルセルロースを使用したときに、表面修飾された膜の膜スループットの増大が得られることがわかった。基材表面が適切に覆われるように十分長い時間をとるが、ただし流束に劇的影響を及ぼすほど長くはならないようにしなければならないため、浸漬時間を慎重に選ぶ。好ましい吸着時間は、2から60分である。時間に関してほかに考慮すべき重要な点は、浸漬時間が十分に短くなければならない、連続的な方法では、親水性膜を製造しやすいことである。膜と修飾溶液との間の接触時間は、10分以上とるべきであると米国特許第6,214,382号が教示しているが、この時間は、大半の連続的膜動作では著しく長い。本発明によれば、本明細書で説明されている条件を使用してヒドロキシアルキルセルロースの膜表面への固定化を実行すると、この時間を実用上3分に短縮できると決定された。本発明の好ましい一実施形態では、約2から10分の吸着時間が使用される。その結果得られる表面修飾膜は、必要というわけではないが、その後、好ましくは約2から30分間過剰溶媒で洗浄し(つまり、修飾溶液から修飾高分子を除く)、過剰な相互作用のない高分子を除去することができる。代替的に、膜は、修飾高分子溶液に浸した直後に乾燥させ、次いで、後述の熱水および蒸気の熱処理に曝すことができる。その結果得られる生成物は、表面のほとんどがヒドロキシアルキルセルロースの極薄層の吸着により修飾される基材膜を含む膜である。
【0036】
次いで、修飾多層膜は、場合によって、室温で乾燥させることができる。最終プロセスの工程で、表面修飾膜は、次に、約40℃から約140℃まで、好ましくは約90℃から約122℃までの温度の沸騰水または蒸気雰囲気またはオートクレーブ処理器内などで、水または蒸気の存在下で、オートクレーブ処理することで加熱するか、または沸騰水(100℃)の槽内に沈める。オートクレーブ処理されない膜あるいは水または蒸気の存在しない場合にオートクレーブ処理される膜と比べて、流束が著しく改善された表面修飾膜は、水または蒸気の存在下でオートクレーブ処理することにより、あるいは膜を沸騰水中に沈めることにより得られることがわかった。また、本発明により処理された膜は、水または蒸気の存在下でオートクレーブ処理しないヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などのヒドロキシアルキルセルロースの単純吸着により、あるいは通常は約3〜4ダイン/cmまでの沸騰水に沈めることにより得られるものよりも高い臨界濡れ表面張力(CWST)を有することがわかった。ポリエーテルスルホンフィルムについて得られたデータは、吸着されたHPCを熱蒸気による処理で動的水接触角、最も顕著には、後退水接触角(約30度から約9度まで)が非常に小さくなることを示し、これは、親水性が高いことの現れである。
【0037】
水または蒸気の存在下でオートクレーブ処理した後、あるいは沸騰水中に沈めることにより膜が改善することをさらに示すのは、膜を通過する水と空気流との関係である。水流は、明らかに、濡れた膜上で測定され、したがって、水和し膨潤した状態での親水性コーティングを特徴付ける。一方、乾燥膜の空気流は、膨潤を考慮しない膜修飾の尺度となっている。熱蒸気による処理の前後の修飾膜の空気流束および水流束が比較された。空気流は著しく変化しないが(修飾高分子が検知可能な程度まで除去されないことを示唆している)、水流は劇的に改善し、修飾高分子が膨潤の影響をあまり受けないことを示している。
【表1】

【0038】
本発明の膜のスループットが高いことにより、これらの膜でウイルスを除去するためタンパク質溶液をろ過する方法は、膜を使用して比較的大量のタンパク質溶液をろ過することができ、また流束がより大きいので従来技術の膜に比べてろ過時間が短縮されるという点で有利である。
【0039】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、本発明を制限することは意図されていない。
【0040】
(実施例1)
2層ポリエーテルスルホン基材膜は、N−メチルピロリドン中でポリエーテルスルホンの2溶液を同時キャスティングし、その後、2層を水と接触させて、限外ろ過層および微細ろ過層を形成することにより作られた。基材膜は、PhiX174に対し4.0のLRV、および80L/mh−psiの水流束を有していた。基材膜は、室温で1%のヒドロキシプロピルセルロースおよび20%のイソプロピルアルコールを含む水溶液中に浸けられた。膜は、この溶液中に30分間浸され、溶液から取り出され、脱イオン水で5分間軽くかき混ぜながらすすいだ。次いで、沸騰水中に10分間入れ、室温で乾燥させた。膜の臨界水表面張力(CWST)は77ダイン/cmであった。膜流束は、30psiの定圧においてDifko FAリン酸緩衝液(150mM NaCl、pH7.2)の流れを測定することにより33.3L/mh−psiと記録された。スループットは、30psiの定圧で膜を通してろ過されたのと同じDifko FAリン酸緩衝液中のBSA(カリフォルニア州テメキュラSerologicals Inc.社)の1.45g/L溶液で測定したところ、2152L/mであった。
【0041】
比較実施例1a
修飾後に膜を沸騰水に曝すことなく、実施例1で説明されている手順に従った。膜のCWSTは74ダイン/cmであった。
【0042】
比較実施例1b
アルコールが意図的に添加されていない1%のヒドロキシプロピルセルロースを含む水溶液を使用して実施例1で説明されている手順に従った。
【0043】
比較実施例1c
イソプロパノール中のヒドロキシプロピルセルロースの1%溶液を使用して、実施例1で説明されている手順に従った。
【0044】
比較実施例1d
アルコールが意図的に添加されていない1%のヒドロキシプロピルセルロースを含む水溶液を使用して実施例1で説明されている手順に従った。吸着を16時間の間実行し、すすぎ、室温で乾燥した。
【0045】
比較実施例1e
浸漬時間を3分に短縮して、実施例1で説明されている手順に従った。
【0046】
比較実施例1f
浸漬後に膜を冷水ですすぐことなく、実施例1で説明されている手順に従った。
【0047】
(実施例2)
2層ポリエーテルスルホンウイルス保持基材膜は、N−メチルピロリドン中でポリエーテルスルホンの2溶液を同時キャスティングし、その後、2層を水と接触させて、限外ろ過層および微細ろ過層を形成することにより作られた。基材膜は、PhiX174に対し4.0のLRV、および80L/mh−psiの水流束を有していた。基材膜は、室温で0.5%のヒドロキシプロピルセルロース、20%のイソプロピルアルコール、および0.023%の界面活性剤Zonyl FSN(コネチカット州ブリッジポートのDuPont社)を含む水溶液中に浸けられた。膜は、2分間この溶液に浸され、溶液から取り出され、過剰な溶液を取り除き、膜は、120℃で15分間加熱された。膜流束は、41.8L/mh−psiと記録され、スループットは、1608L/mであった。
【0048】
(実施例3)
実施例2で説明されている手順に従った。膜は、5分間沸騰水に浸けられた。
【0049】
表1。膜流束は、30psiの定圧においてDifko FAリン酸緩衝液(150mM NaCl、pH7.2)の流れを測定することにより記録されたとおりであり、スループットは、30psiの定圧で膜を通してろ過されたのと同じDifko FAリン酸緩衝液中のBSA(カリフォルニア州テメキュラSerologicals Inc.社)の1.45g/L溶液で測定したとおりである。Aは、上述の式2により計算された。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性表面、および表面を有する限外ろ過基材膜を含むPhiX174に対する少なくとも4.0の初期LRVを有するウイルス保持限外ろ過膜であって、前記表面はヒドロキシアルキルセルロースで親水性にされ、前記親水性表面は、(a)蒸気または水の存在下でオートクレーブ処理すること、および(b)沸騰水に浸けることからなる群から選択された工程に従って処理され、約1000L/mを超えるスループットを有する、ウイルス保持限外ろ過膜。
【請求項2】
ヒドロキシアルキルセルロースで親水性にされる本質的に疎水性表面を有する微細ろ過層を含む多層膜を含む、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項4】
第1の外面を有する第1のスルホンポリマーから形成された少なくとも1つの担体層を有する基材膜を含む親水性表面、第2の外面を有する第2のスルホンポリマーから形成された限外ろ過層を含む限外ろ過膜であって、前記第1の外面および前記第2の外面はヒドロアルキルセルロースで親水性にされ、前記親水性表面は、(a)蒸気または水の存在下でオートクレーブ処理すること、および(b)沸騰水に浸けることからなる群から選択された工程に従って処理され、該多層限外ろ過膜は約1000L/mを超えるスループットを有する、限外ろ過膜。
【請求項5】
前記第1のスルホンポリマーおよび前記第2のスルホンポリマーは、同じスルホンポリマーである、請求項4に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項6】
前記スルホンポリマーは、ポリスルホンである請求項5に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項7】
前記スルホンポリマーは、ポリエーテルスルホンである請求項5に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項8】
前記第2のスルホンポリマーまたは前記第1のスルホンポリマーのいずれかが、ポリスルホンである、請求項4に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項9】
前記第2のスルホンポリマーまたは前記第1のスルホンポリマーのいずれかが、ポリエーテルスルホンである、請求項4に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項10】
約1500L/mよりも大きいスループットを有する、請求項4に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項11】
ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項4に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項12】
ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項10に記載の多層限外ろ過膜。
【請求項13】
約1000L/mを超えるスループットを有する限外ろ過膜を形成する方法であって、
(a)第1の外面を有する第1の高分子化合物から形成された少なくとも1つの微小孔層、および第2の外面を有する第2の高分子化合物から形成された限外ろ過層を有する基材膜を備えること、
(b)第1の外面および前記第2の外面をヒドロキシアルキルセルロースの溶液と接触させ、前記ヒドロキシアルキルセルロースを前記第1の外面および前記第2の外面上または中に吸着させること、
(c)前記基材膜から過剰なヒドロキシアルキルセルロースを場合によって除去して表面修飾基材膜を形成すること、
(d)前記表面修飾基材膜を場合によって乾燥させて乾燥修飾基材膜を形成すること、ならびに
(e)工程b、工程(c)、または工程(d)のいずれかからの表面修飾基材膜に、(1)蒸気または水の存在下でオートクレーブ処理すること、および(2)沸騰水中に浸けることからなる群から選択された工程を適用することを含む、方法。
【請求項14】
工程(e)は、沸騰水で実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程(e)は、蒸気で実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
工程(e)は、沸騰水に浸けることにより行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
約1000L/mを超えるスループットを有する多層限外ろ過膜を形成する方法であって、
(a)第1の外面を有する第1のスルホンポリマーから形成された少なくとも1つの微小孔層、および第2の外面を有する第2のスルホンポリマーから形成された限外ろ過層を有する基材膜を備えること、
(b)第1の外面および前記第2の外面をヒドロキシアルキルセルロースの溶液と接触させ、前記ヒドロキシアルキルセルロースを前記第1の外面および前記第2の外面上または中に吸着させること、
(c)前記基材膜から過剰なヒドロキシアルキルセルロースを場合によって除去して表面修飾基材膜を形成すること、
(d)前記表面修飾基材膜を場合によって乾燥させて乾燥修飾基材膜を形成すること、ならびに
(e)工程b、工程(c)、または工程(d)からの表面修飾基材膜に、(1)蒸気または水の存在下でオートクレーブ処理すること、および(2)沸騰水中に浸けることからなる群から選択された工程を適用することを含む、方法。
【請求項19】
工程(e)は、沸騰水で実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程(e)は、蒸気で実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
工程(e)は、沸騰水に浸けることにより行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
工程(b)における溶液に対する溶媒は、水と約5から100容積%のイソプロパノールである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシルプロピルセルロースである、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシルプロピルセルロースである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のスルホンポリマーおよび前記第2のスルホンポリマーは、同じスルホンポリマーであり、前記同じスルホンポリマーは、ポリスルホンである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記第1のスルホンポリマーおよび前記第2のスルホンポリマーは、同じスルホンポリマーであり、同じスルホンポリマーは、ポリエーテルスルホンである、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記第1のスルホンポリマーまたは前記第2のスルホンポリマーのいずれかは、ポリスルホンである、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のスルホンポリマーまたは前記第2のスルホンポリマーのいずれかは、ポリエーテルスルホンである、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
請求項1に記載の限外ろ過膜上にウイルスを保持させ、前記限外ろ過膜に溶液中のタンパク質を通過させる条件の下でタンパク質溶液を前記限外ろ過膜と接触させることを含むタンパク質溶液から前記ウイルスを除去する、方法。
【請求項30】
請求項4に記載の限外ろ過膜上にウイルスを保持させ、前記限外ろ過膜に溶液中のタンパク質を通過させる条件の下でタンパク質溶液を前記限外ろ過膜と接触させることを含むタンパク質溶液から前記ウイルスを除去する、方法。
【請求項31】
請求項13に記載の限外ろ過膜上にウイルスを保持させ、前記限外ろ過膜に溶液中のタンパク質を通過させる条件の下でタンパク質溶液を前記限外ろ過膜と接触させることを含むタンパク質溶液から前記ウイルスを除去する、方法。
【請求項32】
請求項18に記載の限外ろ過膜上にウイルスを保持させ、前記限外ろ過膜に溶液中のタンパク質を通過させる条件の下でタンパク質溶液を前記限外ろ過膜と接触させることを含むタンパク質溶液から前記ウイルスを除去する、方法。

【公開番号】特開2007−136449(P2007−136449A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−277182(P2006−277182)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】