説明

除氷システム

【課題】疎氷性表面をもつ物品並びにかかる物品の製造方法及び使用方法を開示する。
【解決手段】表面に、シリコーン組成物とその上に適用された流体滑剤成分及び、増稠剤成分を含有するグリースを含む物品を得た。この物品の製造方法は、表面にシリコーン組成物を配置し、硬化後、その上にグリースを適用してグリース付シリコーンを形成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は除氷システムに関する。特に、本発明は被覆表面を有する除氷物品に関する。
【背景技術】
【0002】
重要な構造物の表面に氷が付着すると、運転効率及び安全性に関して多くの問題が生じる。たとえば、航空機エンジンへの氷の付着は航空機産業において重大な問題である。大気からの氷結は、ファンブレード、入口ガイドベーン、ファン出口ガイドベーンなどの性能に影響を与えるおそれがあり、極端な場合には、エンジンのフレームアウトにつながるおそれがある。航空機の胴体及び翼への氷付着も危害をもたらし、空気力学的性能及び安全性に影響を与える。この問題は航空機産業に限定されない。寒冷気候での風力タービンブレードへの積氷は、運転効率に悪影響を及ぼし、安全上の問題を引き起こすおそれがあり、タービンの停止が必要となることもある。
【0003】
現行の氷付着防止方法には、液状融氷剤の適用、重要な部品の電気又は熱風加熱、氷層の機械的な除去などがある。液状融氷剤は有効期間が短くかつ環境問題を引き起こし、熱的及び機械的な解決策は実施に費用がかかる。本質的に氷の付着に対して耐性であったり、非常に小さな力で氷を除去できるので付着する氷塊の大きさが制限されたりする表面を提供することが望ましい。特殊な疎氷性皮膜は魅力的な代替手段である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7514017号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膜側からのアプローチは氷付着を制御する受動的な方法であり、これは既存の構造物及び設計に組込むことができる。融氷液と異なり、これらの皮膜は、永続性があり、環境に対して有害でない。さらに、翼/ブレードを加熱したり空気カバーするアプローチと異なり、皮膜はシステムのエネルギーコストを増加しない。半世紀以上にわたり目標を決めて研究開発が行われたのにもかかわらず、この分野で商業化に成功しかつ有効性が十分に証明された皮膜技術は存在しない。したがって、部品に設けて氷の堆積を防止できる、耐久性、疎氷性皮膜が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の皮膜が被覆部品の表面への氷の接着強度を著しく低減することを見出した。
【0007】
一実施形態では、物品を開示する。物品は物品の表面に設けられたシリコーン組成物及びシリコーン組成物に適用したグリースを含有する。グリースは流体滑剤成分及び増稠剤成分を含有する。
【0008】
別の実施形態では、物品の製造方法を開示する。本方法は、シリコーン組成物を物品の表面に配置し、シリコーン組成物を硬化し、硬化シリコーン組成物上にグリースを適用してグリース付シリコーンを形成する工程を含む。グリースは流体滑剤成分及び増稠剤成分を含有する。
【0009】
他の実施形態では、物品の製造方法を開示する。本方法は、シリコーン組成物を硬化し、硬化シリコーン組成物上にグリースを適用してグリース付シリコーンを形成し、グリース付シリコーンを物品の表面に取り付ける工程を含む。グリースは流体滑剤成分及び増稠剤成分を含有する。
【0010】
さらに他の実施形態では、方法を開示する。本方法は、物品にシリコーン皮膜及びグリース皮膜を適用してグリース付シリコーン表面を形成し、グリース付シリコーン表面を氷形成雰囲気に曝露する工程を含み、グリース付表面への氷接着は約14kN/m2未満である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上記その他の特徴、観点及び利点は、添付図面を参照にして以下の詳細な説明を読むことで、一層明らかになるであろう。図面全体を通して同じ参照番号は同じ部品を表す。
【図1】本発明の一実施形態による、室温及び40℃で状態調整した後のシリコーン皮膜へのグリース吸収量の関数として氷接着をプロットしたグラフである。
【図2】本発明の一実施形態による、グリース被覆シリコーン基材と無被覆シリコーン基材の氷接着性を比較するのにプロットしたグラフである。
【図3】本発明の一実施形態による、グリース被覆シリコーン基材と無被覆シリコーン基材の水に対する安定性を比較する棒グラフである。
【図4】本発明の一実施形態による、グリース被覆シリコーン基材と無被覆シリコーン基材の粗粒子での浸食に対する安定性を比較する棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、基材及び疎氷性を向上した皮膜を有するシステムである。基材に2成分皮膜を組合せることによりシステム表面への氷の接着強度を低減する。
【0013】
ここで用語「疎氷性」は、表面への氷の接着強度を低減する皮膜、具体的には氷の除去に必要な剪断力を低減する皮膜を記述するのに用いる。ある実施形態では、ここで用いるシステムは、空気力学的物品、たとえば航空機部品又は風力タービン部品の表面であるが、これらに限らない。表面は、空気中の湿気などの環境に遭遇する構造物、装置及び装置の部品の表面を包含する。本発明の皮膜により保護することのできる部品の例には、ファンブレード、エアスプリッターなどの航空機エンジン部品、航空機胴体、航空機翼、航空機プロペラブレード、風力タービンブレード、ガスタービン及び海底石油及びガス用構造物が挙げられるが、これらに限らない。
【0014】
本発明の一実施形態は物品である。物品は、安定性及び/又は効率的運転のために疎氷性表面が望ましいデバイスとすることができる。物品の例には、ファンブレード、エアスプリッターなどの航空機エンジン部品、航空機胴体、航空機翼、航空機プロペラブレード、風力タービンブレード、プロペラ、ジェットエンジン部品、着陸装置、ガスタービン及び海底石油及びガス用構造物が挙げられるが、これらに限らない。一般に、これらの物品の表面は、氷形成条件に曝露され、氷が堆積しやすい。物品の表面は、金属、セラミック、ポリマー、ガラス又は複合材料とすることができる。一実施形態では、物品の表面は金属又は合金である。別の実施形態では、表面はアルミニウムである。他の実施形態では、表面は複合材料である。さらに他の実施形態では、表面は被覆金属、たとえばゴム被覆アルミニウムである。
【0015】
氷にほとんど又は全く接着しない材料の皮膜又はカバーが、物品の表面への氷接着を低減するのに望ましい。物品の表面への氷接着を低減するのに適用することができるかかる材料の1つはシリコーン(ポリオルガノシロキサン)である。シリコーン皮膜は、適用した物品表面に疎氷性とともに耐浸食性及び耐発塵性を与えると期待される。したがって、疎氷性が必要な物品表面はシリコーン組成物で被覆される。一実施形態では、シリコーン組成物は、室温硬化性ポリマーの一種であり、物品表面で架橋する。しかし、場合によっては、シリコーンで被覆した物品表面は、まだいくらか氷形成しやすい傾向がある。シリコーンで被覆した物品表面の氷形成は、無被覆物品表面より少ないが、物品表面への氷接着のさらなる低減が望ましい。
【0016】
本発明者らは、シリコーン被覆物品の表面にグリースを適用し、物品表面への氷接着がシリコーン被覆物品表面に比べて少ないことを見出した。ある実施形態では、シリコーン及びグリースで被覆した物品表面への氷接着は、シリコーン被覆物品表面への氷接着の約1/2〜1/10である。
【0017】
ここで用いるグリースは、流体滑剤、増稠剤及び任意の添加剤の半流動体から固体の混合物である。一実施形態では、流体滑剤は潤滑の役割を担い、増稠剤はグリースに稠度を与える。グリースの稠度は加えられた力による変形に対しての耐性である。グリース配合物は、流体滑剤の組成や分子量及び増稠剤の種類や量が変化する。これらすべての変数が氷結に対するグリースの性能に影響を与える。流体滑剤の組成及び分子量は、基材中へ取り込まれるグリースの量及び使用する温度範囲に影響を与える。
【0018】
流体滑剤は、石油(鉱油ともいう)、合成油又は植物油とすることができ、一実施形態によれば炭化水素又はエステルを含有することもできる。鉱油及び合成油は、ナフテン油又はパラフィン油のいずれでもよい。ナフテン油は、パラフィン油に比べて高い比率の環状炭化水素留分を含有する。一実施形態では、グリースの流体滑剤として用いる鉱油はナフテン油である。植物油は植物又は植物製品由来の液状脂である。鉱油及び植物油中の炭化水素/エステルが天然由来であるのに対して、合成油の炭化水素及び/又はエステルは合成によって生成することができる。一般に、合成油は、鉱油及び植物油に比べ、運転温度範囲の極端に高温及び極端に低温で比較的効果的である。一般に、合成油には、合成炭化水素、合成エステル、ポリグリコール、シリコーン、ハロカーボン、フルオロエーテル又はポリフェニルエーテルがある。一実施形態では、ポリオレフィンは本発明で用いるグリースの流体滑剤である。ポリα−オレフィンは、1つの分枝のα位にオレフィン結合をもつ複雑な分枝構造を有する。水素化ポリα−オレフィンは、水素で飽和したオレフィン炭素を有し、これが分子に優れた熱安定性を与える。水素化ポリα−オレフィンの例には水素化デセンホモポリマーがある。
【0019】
増稠剤は石鹸増稠剤又は非石鹸増稠剤いずれでもよい。一実施形態では、本発明で用いる増稠剤は、脂肪酸の塩、たとえば長炭素鎖脂肪酸のアルミニウム、カルシウム、リチウム及びナトリウムの塩を含有する石鹸増稠剤である。石鹸濃度を流体滑剤の粘度とともに変化させて異なるグリース稠度を得ることができる。石油ゼリーはその分子量が流動油にならない程に十分に高いが固体にならない程に十分に低い。石油ゼリーは、独立した増稠剤を含有せず、ここで定義したグリースではない。
【0020】
「コンプレックス石鹸」は、石鹸の他に短鎖有機酸又は無機酸の塩からなるコンプレックス剤(錯化剤)を含有する組成である。有機酸の一般的な例は酢酸及び乳酸であり、一般的な無機酸はカーボネート類又は塩化物である。
【0021】
リチウムグリースは12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを含有する。リチウムコンプレックスグリースはコンプレックス剤を含有する以外リチウム石鹸グリースに類似している。カルシウムコンプレックスグリースは酢酸カルシウムを含有することができる。アルミニウムグリースは脂肪酸のアルミニウム塩を含有する。アルミニウムグリース増稠剤の具体例は、アルミニウムヒドロキシドベンゾエートステアレートである。
【0022】
石鹸以外の増稠剤をグリースの製造に利用できる。非石鹸増稠剤の1つの例はクレイである。ポリ尿素は有機非石鹸増稠剤である。ポリ尿素はアミンをイソシアネートと反応させることにより製造した低分子量有機ポリマーである。ポリ尿素コンプレックスグリースは、ポリマーの他にコンプレックス剤、通常酢酸カルシウム又はリン酸カルシウムを含有する。
【0023】
フッ素化ポリマーは、増稠剤として特にフルオロシリコーン又はペルフルオロエーテルとともに用いることができる。フッ素化ポリマーの例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニリデンフルオライド、ポリヘキサフルオロイソブチレン、ポリペルフルオロアルキルビニルエーテル並びにそれらのコポリマーがある。
【0024】
通常、グリースに添加剤を用いて性能を向上し、グリース及び潤滑された表面を保護する。添加剤は、高圧性能、酸化安定性及び/又は耐錆性を付与することができる。添加剤、たとえば固形滑剤、錆止め剤及び安定剤は微量成分として用いることができる。固形滑剤の例には、PTFE及び二硫化モリブデンがある。
【0025】
グリース付シリコーン(グリース含有シリコーン)の構造は、用いるシリコーンの種類、グリースの種類、シリコーン及びグリースの各量並びに加工時もしくは使用時のグリース付シリコーンにより達成すべき処理に応じて変えることができる。一実施形態では、硬化シリコーンは膨張性網状構造をもち、グリースがシリコーンの網状構造中に吸収される。一実施形態では、グリースはほとんど、グリース付シリコーンの外気にさらされる表面上に存在し、別の実施形態では、グリースが表面上だけでなくシリコーン中に吸収されている。外気にさらされる表面上の過剰なグリースはほこり及び浸食粒子を引き寄せて表面に付着させることがある。したがって、一実施形態では、グリース付シリコーンの表面を拭き取ってシリコーン皮膜に吸収されない余分な適用グリースを除去する。
【0026】
グリースの高い粘性のため、通常、グリースは架橋したシリコーンマトリックス内部に保持され、表面をドライに保つ。しかし、条件によっては、グリース又はグリースの成分が時間が経つにつれてシリコーンから分離し、シリコーン表面上に油性皮膜を形成することがある。油の染み出し、即ちにじみ出しは望ましくない。油が泥や塵を表面にトラップすることがあり、油性物質の存在が望ましくない他の表面へ油性物質が移動することがあり、また最終的に皮膜からグリース成分が失なわれることになるからである。シリコーン/グリース皮膜の染み出し傾向はグリースの組成に依存する。低粘度油を含有し、より流動性になるように配合したグリースは染み出しやすい。表面に適用した、グリースとして配合されていない油及び他の潤滑物質は、ほとんど間違いなく染み出す。それら自体が皮膜から流れ出さないようにするのに十分な粘度をもたないからである。グリース配合物を適切に選択することが、望ましくない染み出しを防止し、同時に皮膜中に十分なグリース濃度を得て所望の疎氷性を表面に付与するのに重要である。
【0027】
シリコーン及びグリース皮膜は、当業者に既知の方法で適用することができる。たとえば、シリコーンは、スプレー、ロール被覆、はけ塗り、ドクターブレード、ディップ被覆、流し被覆又は1つ又は2つ以上の工程での重ね成形により適用することができる。一実施形態では、シリコーンを表面に配置し、硬化した後、グリース組成物を硬化シリコーン組成物に適用してグリース付シリコーンを形成する。別の実施形態では、独立したグリース成分を別々に適用するより完全に配合したグリースを適用するほうが、後天的な配合グリースの構造を利用して流体滑剤の減少を防止できるので、好ましい。一実施形態では、グリースを硬化シリコーンに適用し、相溶する温度範囲及び時間の熱処理を施してグリース付シリコーンを製造する。熱処理の温度及び時間は、シリコーンの種類、用いるグリースの種類及びグリース付シリコーンの対象用途によって異なることがある。一実施形態では、熱処理によりシリコーンがグリースをより速く吸収するようになる。一実施形態では、グリース付シリコーン中のグリースの量は、グリース付シリコーンを設けた物品表面の疎氷性に関係する。一実施形態では、グリース付シリコーン中のグリースの量は、シリコーン組成物の重量に基づき約2重量%以上である。別の実施形態では、グリース付シリコーン中のグリースの量は、シリコーン組成物の重量に基づき約8重量%以上である。
【0028】
物品のグリース付シリコーン表面の形成方法は、物品表面機能、物品表面状態、天候及びグリース付シリコーン表面の形成プロセスの容易さ及び効率によって異なることがある。一実施形態では、物品表面をシリコーンで被覆し、表面でシリコーンを硬化させ、その後、グリースを硬化シリコーン表面に適用する。別の実施形態では、独立した工程で硬化シリコーンシートにグリースを染み込ませた後、これを物品表面に取り付ける。他の実施形態では、シリコーン皮膜及びグリース皮膜を順次仮の表面に適用してグリース付表面を形成する。仮の表面にグリース付シリコーンを形成する場合、シリコーン又はグリース付シリコーン皮膜に対して低接着性表面になるように仮の表面を選択する。そうすれば、仮の表面からグリース付シリコーンを取り外す工程がグリース付シリコーンの疎氷性又は耐浸食性にダメージを与えない。その後、疎氷性を付与する別の表面にグリース付シリコーンを永久的に取り付けることができる。
【0029】
当業者に既知の様々な方法で物品表面にグリース付シリコーンを取り付けることができる。一実施形態では、物品表面に未硬化シリコーン皮膜の層を形成し、その表面にグリース付シリコーンを取り付け、中間のシリコーン層を硬化させることによりグリース付シリコーンを物品表面に設ける。他の実施形態では、独立した耐熱接着剤を加えて物品表面にグリース付シリコーンを取り付ける。一実施形態では、温度、圧力及び/又は化学結合剤を用いることによりグリース付シリコーンを直接物品表面に取り付ける。
【0030】
グリース付シリコーンで被覆した物品は様々な用途に用いることができる。物品の例には、航空機翼、風力タービンブレード、プロペラ、ジェットエンジン部品、航空機胴体及び着陸装置が挙げられる。グリース付シリコーンは、上記の方法及びそれらに明らかな変更を加えた方法により物品表面を被覆することができる。グリース付シリコーン被覆物品を試験及び運転中に氷形成雰囲気に曝露することができる。一実施形態では、グリース付表面の氷接着は約21kN/m2未満である。別の実施形態では、グリース付シリコーン表面への氷接着は約14kN/m2未満である。他の実施形態では、グリース付シリコーン表面への氷接着は約7kN/m2未満である。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、特定の実施形態の方法、材料及び結果を具体的に示すものであり、特許請求の範囲に限定をあたえると解釈すべきではない。すべての成分は一般的な化学薬品業者から市販されている。
【0032】
まず、架橋したシリコーン上の皮膜としてポリアルキレングリコールなどのいくつかの一般的に用いられる薬品を使用して疎氷性表面の開発の研究を始めた。通常、被覆後の架橋シリコーンの表面を暴露後の重量増加、硬度変化及び氷接着性について評価した。Shell Aviation社から入手したAeroshell(登録商標)33MSグリース及びAeroshell(登録商標)22グリース及びRocol社から入手したAerospec(登録商標)100グリースは、基材上のシリコーン上の皮膜として実験した初期の薬品の一部である。予期せざることには、これらの皮膜を有するシリコーンは、架橋したシリコーン被覆基材に比べて氷接着が著しく低減した。
【0033】
Aeroshell(登録商標)33MSグリースは、リチウムコンプレックスで増稠した合成炭化水素/エステル油であり、約5重量%の二硫化モリブデンを含有する。Aeroshell(登録商標)22グリースは通常、ベースの合成油及び不溶融性の無機増稠剤を含有する。Rocol Aerospec(登録商標)100グリースは合成油及びリチウム石鹸増稠剤を含有する。
【0034】
下記の異なる架橋シリコーン基材を用いた。
LIM(登録商標)6030:Momentive Performance Materials社から市販の熱硬化性、液体射出成形可能なシリコーンを公称ショア−Aデュロメータ硬度30のシートに射出成形した。
LIM(登録商標)6050:Momentive Performance Materials社から市販の熱硬化性、液体射出成形可能なシリコーンを公称ショア−A硬度50のシートに射出成形した。
LIM(登録商標)6071:Momentive Performance Materials社から市販の熱硬化性、液体射出成形可能なシリコーンを公称ショア−A硬度70のシートに射出成形した。
AK9*被覆クロロプレンゴム:低弾性率、低充填シリコーン皮膜(AS&M社)
AK12XS被覆クロロプレンゴム:低弾性率、中充填シリコーン皮膜(AS&M社)
AK21XS被覆クロロプレンゴム:中弾性率、高充填シリコーン皮膜(AS&M社)
これらの基材を上記のグリースで被覆し、約40℃の温度に約7日間曝露した。試験前に、被覆表面を拭き取って残留グリースを除去した。氷接着試験は独自開発の氷結チャンバーを用いて行った。試験では、サンプルクーポンの1平方インチ部分上への氷付着、続いて、氷の除去に必要な剪断力を測定する。上記実験の重量増加及び氷接着結果は下記表1に示す通りであった。この試験では、アルミニウムをLIMサンプル用のサンプルクーポンとして用い、クロロプレンゴム被覆アルミニウムをAK9*、AK12XS及びAK21XS用のサンプルクーポンとして用いた。
【0035】
【表1】

3つのグリースすべてが未処理表面に比べて氷接着を低減するのに有効であるとわかった。しかし、Aeroshell(登録商標)22グリース及びRocol Aerospec(登録商標)100グリースで処理した表面は両方、拭き取り後に染み出しが観察され、Rocol Aerospec(登録商標)100グリースでは皮膜の接着が損なわれた。Aeroshell(登録商標)33MSグリースは、最大の重量増加を示し、最初の拭き取り後、乾燥した、非油性、染み出し無しの表面を維持し、試験した3つのグリースのなかで最も優れた氷接着性を示したという点で特異であることが確認された。上記の理由で、Aeroshell(登録商標)33MSグリースをさらに試験した。
【0036】
表1からわかるように、シリコーン表面にAeroshell 33MSグリースを適用した場合、氷接着を1/3〜1/5に低減することが観察された。氷接着の標準材料は7.4psiの値を持つAK9*である。AK9*は、低氷接着性が必要な用途に有望な皮膜であると考えられる。Aeroshell(登録商標)33MS処理は、種々のシリコーン基材に対して氷接着をさらに1/3以下に低減し、このことは、驚くべき大幅な改善である。
【0037】
上記の有望な結果に基づきAeroshell(登録商標)33MSグリース被覆のさらなる評価を異なるシリコーンを有するアルミニウム基材について行い、グリース無しシリコーン被覆アルミニウム基材と比較した。
【0038】
AK12XS、LIM(登録商標)6050シリコーン及びMcMaster−Carr社のシリコーンシートで被覆したアルミニウムクーポンを基材として使用した。McMaster−Carr社のシリコーンシートは厚さ約1/32インチの裏面接着剤付きシリコーンシート(部品番号:86465K34)である。これらの皮膜の処理では、過剰量のAeroshell(登録商標)33MSグリースを表面に塗り広げ、処理したクーポンを3日間にわたって約40℃の温度で保持し、過剰なグリースを室温で拭き取り除去した。3回測定の平均結果及び標準偏差(SD)は下記の表2に示す通りである。
【0039】
【表2】

表2の結果から、Aeroshell(登録商標)33MSグリースで処理した場合、種々の架橋シリコーン皮膜に対して氷接着の大幅な低減を達成できることがわかる。3つの皮膜すべてで、グリースの適用により氷接着が約1/5以下に低減した。
【0040】
上述したように、Aeroshell(登録商標)33MSグリースは二硫化モリブデンを含有する。このグリースを、実質的に同じ組成をもつが、二硫化モリブデン添加剤を含有しないグリースであるAeroshell(登録商標)33と比較した。これら2つのグリースの氷接着性の比較を表3に示す。
【0041】
【表3】

この結果からAeroshell(登録商標)33グリース及びAeroshell(登録商標)33MSグリースの氷接着性は同等であることがわかる。Aeroshell(登録商標)33も室温で染み出さず、Aeroshell(登録商標)33MSグリースと同様な非油性の表面外観を示した。
【0042】
表4は、Aeroshell(登録商標)33グリースで処理した2つの異なるアルミニウム基材クーポンについての3回の連続試験の氷接着結果を示す。どちらのクーポンでも氷への繰り返し暴露による性能の劣化はない。
【0043】
【表4】

アルミニウムクーポン上のAeroshell(登録商標)33グリース被覆シリコーンについて、重量増加及び氷接着性に与える処理時間及び温度の影響を評価した。グリース被覆後のクーポンを室温又は40℃のどちらかで8〜48時間の範囲で状態調整した。結果を表5にまとめ、図1にプロットする。結果は、2つのクーポンそれぞれを氷接着について2回試験して得られた平均値及び標準偏差値である。
【0044】
【表5】

これらの結果から、氷接着に対して有意な有益な性能を認めるのに、最低量のグリースを架橋シリコーンに吸収させる必要があることがわかる。上記のグリースサンプルの場合、最低量のグリースは約0.25gであり、シリコーン皮膜に対しておよそ8%の重量増加である。最低量の重量増加に達すると、氷接着におよそ一桁の低減が認められた。
【0045】
図2のプロットに、グリース付LIM6050の疎氷性挙動に与える繰り返し氷結曝露の影響をグリース無しLIM6050皮膜の場合と比較して示す。グリースで被覆したLIM6050では、21回の氷結試験後に氷接着に若干の増加が起こるだけであり、グリース処理無しLIM6050に比べ氷接着を1/4に低減したままであることが明らかである。グリース処理皮膜は、数多くの氷結実施後でさえ低い氷接着性を維持する。
【0046】
氷接着の低減におけるAeroshell(登録商標)33MSグリースの有効性を第2の試験を用いて評価した。この試験では、−15℃に冷却した冷凍室内にファンを設置した。被覆アルミニウムクーポン上に均一の寸法及び形状の角氷を凍りつかせ、その後、クーポンをファンブレードの中心から15インチの位置に取り付けた。角氷を分離するのに十分な遠心力になるまでファン速度を徐々に増加した。分離時のファン速度、角氷の質量及び角氷の半径方向の位置から、角氷を除去するのに必要な力を計算した。この試験の結果を表6に示す。表中の除去に要した力は、同じクーポンでの2回の試験の平均である。
【0047】
【表6】

表6の結果から、この試験で、Aeroshell 33MSグリースで処理したクーポンで最も良い性能を達成したことがわかる。同じシリコーン皮膜を有する処理及び未処理クーポンの両方を試験した場合、未処理クーポンに対して氷接着が1/5以下に低減することが観察された。
【0048】
次の試験では、グリースで処理したLIM6050の氷接着性に与える水への長期曝露の影響を評価した。氷接着クーポンを室温の水に5週間浸漬した。各週の最後に、クーポンを取り出し、終夜乾燥し、その後、氷接着について評価した。5週間の試験後、クーポンを真空オーブン内で完全に乾燥し、再び試験した。図3に示した結果から、1週間の水浸漬後、LIM6050コントロール及びグリースで処理したLIM6050の両方で氷接着に僅かな増加があることがわかる。しかし、各週の後のLIM6050の氷接着はコントロールの氷接着の1/4以下のままであり、5週間の水浸漬後、氷接着に若干の増加が認められるだけである。グリース処理した表面は水への長期暴露後でさえ低氷接着性を維持する。
【0049】
次の試験で、Aeroshell(登録商標)33グリースを染み込ませたシリコーンの粗粒子による浸食に対する耐性を評価した。図4のプロットは、AK21XS疎氷性皮膜及びAeroshell(登録商標)33グリースで処理した同じ皮膜の粗粒子浸食による摩耗の比較を示す。試験では、300gの粗粒子(グリット)を疎氷性皮膜を有する表面に衝突角度20°で43秒間ノズルから発射し、その後、生じた重量損失を測定する。プロットから皮膜へのグリースの適用は、粗粒子浸食に統計的に有意な影響を与えないことがわかる。
【0050】
Aeroshell 33MS及びAeroshell 33グリースの他に、異なる組成を有するいくつかの他の市販グリースを評価した。これらのグリースは、供給メーカによって提供されたそれらの組成及び推奨使用温度範囲に関する情報とともに以下の表7に示す。NLGI(National Lubricating Grease Institute)は、グリースの稠度番号であり、小さい値ではより流動性になり、大きい値ではより固体のようになる。
【0051】
【表7】

これらのグリースをすべてAeroshell 33グリースに用いたのと同じ方法でLIM6050クーポンに適用した。具体的には、過剰量のグリースをLIM6050の表面に塗り広げ、その後、グリース付クーポンをオーブンで40℃に48時間保持した。室温に冷却後、過剰なグリースを乾燥したティッシュペーパーで除去した。表7に示した各グリースについてLIM6050氷接着クーポンに取り込まれた重量及び氷結試験の結果を、LIM6050コントロールの結果とともに表8に示す。氷接着クーポンに用いたLIM6050の重量は約3gであった。
【0052】
【表8】

Molykote BG 20を除いて、すべてのグリースは、LIM6050の表面に適用した場合、LIM6050に比べて氷接着をいくらか低減する。Molykote 55、Mobilith SHC PM 460、Molykote(登録商標)33 Medium、Molykote(登録商標)3451、Krytox(登録商標)GPL 202、Krytox(登録商標)GPL 206、Molykote(登録商標)G−0010、Molykote(登録商標)G−0051FG、Mobilgrease XHP 222及びTeflon Severe Serviceが氷接着値を低減する程度は、すべて大きくなく、通常1/2以下である。この比較的小さい改善は、これらのグリースのほとんどがAeroshell(登録商標)33に比べて低いレベルでLIM6050に吸収されることを考えれば驚くことではない。Aeroshellグリースであっても低いレベルの吸収では、氷接着の低減に前述のように極めて有効ということはない。Molykote 33 Medium及びMolykote 55は例外であり、両方ともAeroshell 33グリースより多く吸収されたが、同じように大幅に氷接着を低減することはない。これらのグリース両方は、フェニルメチルシリコーン油を含有し、架橋シリコーンマトリックスにすぐに吸収されるが、有効な除氷組成物を形成しない。
【0053】
組成がAeroshell 33に類似しているように考えられるMobilith SHC 220グリースは、Aeroshell 33のたった1/4のレベルでLIM6050に吸収されるのにもかかわらず、氷接着をほぼ1/3に低減する。Aeroshell 33がこれと同等の低いレベルでLIM6050に吸収される場合、氷接着の低減はほとんど認められなかった。
【0054】
最も低い氷接着値は、Aeroshell 7、Aeroshell 22、MolykoteG−2001、MolykoteG−4500及びAeroshell 14グリースで得られた。これらのグリースはAeroshell 33グリースと同様に低い氷接着値を与えた。LIM6050/Aeroshell 33グリース系と同様に、これらの他のLIM6050/グリース組合せ系の表面は、油性の外観も感触もなく、時間が経っても染み出しがない。MolykoteG−4500は油及び増稠剤化学の両方においてAeroshell 33グリースと異なり、増稠剤は、Aeroshell 33ではリチウム石鹸コンプレックスであるのに対してアルミニウム石鹸コンプレックスである。Aeroshell 14はカルシウム石鹸増稠剤を含有し、Aeroshell 7及びAeroshell 22グリースはクレイ増稠剤を含有する。これらのグリースすべてで低い氷接着値を達成したことから、増稠剤がグリースに所望の稠度を付与してシリコーン表面の染み出しを防止するのに十分な濃度と有効性をもち、シリコーンに吸収されるグリースの量が効果的になるのに適当であり、グリース中の油の組成が氷への接着性を低くするという条件をみたせば、様々な種類の油及び増稠剤をグリースに使用可能であることがわかる。
【0055】
また、LIM6050サンプル上に石油ゼリーを用いて同様な試験を行った。得られた平均重量増加は約0.106gであり、平均の氷接着は約11.7、標準偏差は約2.1であった。石油ゼリーの氷接着性は、石油ゼリーが潤滑性であるという事実にもかかわらず本発明で調べたグリースとは比べものにならなく、疎氷性表面を実現するのにすぐれた材料ではない。
【0056】
グリース付シリコーン表面をもつ物品を形成する方法の影響を確認する試験を行った。以下のように3つのサンプルを作製した。第1の物品サンプルは、LIM6050で被覆したアルミニウムクーポンであり、第2のサンプルは、グリース付LIM6050でアルミニウムクーポンを被覆することにより作製した。具体的には、まず、アルミニウムクーポンの表面にLIM6050を設け、LIM6050の上にAeroshell 33グリースを適用し、40℃で状態調整した。第3のサンプルは、まず、グリース付シリコーンシートを準備し、その後、アルミニウムクーポンにグリース付シリコーンを取り付けることにより作製した。具体的には、まずAeroshell 33グリースをLIM6050上に適用し、40℃で状態調整し、その後、Aeroshell 33グリースを染み込ませたLIM6050をアルミニウムクーポンに貼り付けた。表9にこの実験の結果を示す。これから上記のような作製方法の変更は物品表面への氷接着性を低減しないことがわかる。
【0057】
【表9】

本発明を特定の特徴だけについて例示し、説明したが、多くの変更や改変を当業者が想起することができるであろう。したがって、特許請求の範囲は本発明の要旨に入るかかるすべての変更や改変を含むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面に設けられたシリコーン組成物と、
シリコーン組成物に適用された、流体滑剤成分及び増稠剤成分を含有するグリースと
を含む物品。
【請求項2】
前記流体滑剤が炭化水素又はエステルである、請求項1記載の物品。
【請求項3】
前記増稠剤成分がリチウム石鹸、カルシウム石鹸、アルミニウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸、フッ素化ポリマー、クレイ又はポリ尿素である、請求項1記載の物品。
【請求項4】
前記増稠剤成分がアルミニウムヒドロキシドベンゾエートステアレートである、請求項3記載の物品。
【請求項5】
前記グリースの量が、シリコーン組成物の重量に基づいて約2重量%以上である、請求項1記載の物品。
【請求項6】
前記流体滑剤が炭化水素であり、前記増稠剤成分がリチウムコンプレックス石鹸である、請求項1記載の物品。
【請求項7】
前記流体滑剤が水素化デセンホモポリマーであり、前記増稠剤成分がアルミニウムヒドロキシドベンゾエートステアレートである、請求項1記載の物品。
【請求項8】
シリコーン組成物を物品の表面に設ける工程と、
シリコーン組成物を硬化する工程と、
硬化シリコーン組成物上にグリースを適用してグリース付シリコーンを形成する工程とを含む、物品の製造方法であって、前記グリースが流体滑剤成分及び増稠剤成分を含有する、方法。
【請求項9】
シリコーン組成物を硬化する工程と、
硬化シリコーン組成物上にグリースを適用してグリース付シリコーンを形成する工程と、
グリース付シリコーンを物品の表面に取り付ける工程と
を含む、物品の製造方法であって、前記グリースが流体滑剤成分及び増稠剤成分を含有する、方法。
【請求項10】
物品にシリコーン皮膜及びグリース皮膜を適用してグリース付シリコーン表面を形成する工程と、
グリース付シリコーン表面を氷形成雰囲気に曝露する工程と
を含む方法であって、グリース付表面への氷接着が約21kN/m2未満である、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−132006(P2012−132006A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275336(P2011−275336)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】