説明

除草剤耐性植物

本発明は、完全ノックアウトAHASアレルを含むアブラナ属(Brassica)植物、および完全ノックアウトAHASアレルと除草剤耐性AHASタンパク質をコードするAHASアレルの組合せを含むアブラナ属植物、完全ノックアウトAHASアレルを表す核酸配列、ならびに除草剤耐性植物を得るために用いることができる前記植物およびアレルを作製および同定する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除草剤、より具体的にはAHAS阻害除草剤に耐性のある、作物植物および部分、特にアブラナ科(Brassicaceae family)の植物、特にアブラナ属(Brassica)種に関する。本発明はまた、完全ノックアウトAHASアレルを表す突然変異体AHAS核酸に関する。より特には、本発明は、植物のAHAS阻害除草剤に対する耐性に影響を及ぼす完全ノックアウトおよび突然変異体AHASタンパク質を表す核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS;EC 4.1.3.18、アセト乳酸合成酵素またはALSとしても知られる)は、植物における分岐鎖アミノ酸の生合成に重要な酵素である(Tan et al.,2005,Pest Manag Sci,61:246−257)。AHASは、スルホニル尿素、イミダゾリノン、スルホニルアミノカルボニルトリアゾリノン、トリアゾロピリミジンおよびピリミジル(オキシ/チオ)ベンゾエートを含むいくつかの構造的に異なる除草剤ファミリーの作用部位である。AHASは動物中には存在しないので、AHAS阻害除草剤は動物中でごくわずかな毒性しか示さない(Duggleby et al.,2008,Plant Physiology and Biochemistry 46,309−324)。
【0003】
セイヨウアブラナ(Brassica napus)は、AゲノムとCゲノムを有する異質4倍体であり、5つのAHAS遺伝子座を含む。AHAS2、AHAS3およびAHAS4がAゲノムに由来するのに対し、AHAS1およびAHAS5はCゲノムに由来する。AHAS1およびAHAS3は構成的に発現される唯一の遺伝子であり、セイヨウアブラナ(B.napus)の成長および発生に不可欠な主要なAHAS活性をコードしている(Tan et al.,Pest Manag Sci 61,p246−257,2005)。
【0004】
1種以上のAHAS阻害除草剤に対する耐性を付与するAHASの突然変異を有する様々な植物が記載されている(概説については、Duggleby,et al.,2008,表2を参照されたく、この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。例えば、Pro197から、例えば、Ser、Leu、His Thr、Gln、AlaまたはThrへの突然変異は、SU、IMI、PC、TPおよび/またはSACTに対する耐性を付与することができ、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、シロザ、野ダイコン、シュンギク、タバコおよびキャノーラを含む様々な植物種で記載されている(Haugh et al.,1988 Mol Gen Genet 211:266−271;Sibony et al.,Weed Res 41:509−522,2001;Yu et al.,2003,Weed Science,51(6),p.831−838;Tal and Rubin 2004,Resistant Pest Management Newsletter.13:p31−33.;Lee et al.,1988,EMBO J.7(5):p1241−1248;Ruiter et al.,2003,Plant Mol Biol.53(5):p675−89;;Shimizu et al.,2008,Plant Physiol.147(4):p1976−83)。
【0005】
現在、Clearfield(登録商標)キャノーラとして販売されている菜種のイミダゾリノン耐性突然変異体であるPM1およびPM2は、AHAS1タンパク質のアミノ酸位置653におけるアスパラギンからセリンへの置換(PM1)およびAHAS3タンパク質のアミノ酸位置574におけるトリプトファンからロイシンへの置換(PM2)を生じさせる単一ヌクレオチド置換を示す。PM1は、イミダゾリノンに対してしか耐性がないが、PM2は、イミダゾリノンとスルホニル尿素の両方に対して交差耐性があり、そのため、PM2によって与えられるイミダゾリノン耐性レベルは、PM1由来のイミダゾリノン耐性レベルよりもはるかに高い。イミダゾリノン系除草剤に対する耐性の最大レベルは、PM1突然変異とPM2突然変異が重なって、ホモ接合性となるときに得られる(Tan et al.,2005)。
【0006】
国際公開第09/046334号パンフレットには、突然変異したアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)核酸および突然変異した核酸によってコードされるタンパク質、ならびに突然変異した遺伝子を含み、それにより植物がイミダゾリノンおよびスルホニル尿素に対する耐性の増大を示すキャノーラ植物、細胞、および種子が記載されている。
【0007】
国際公開第09/031031号パンフレットには、除草剤抵抗性アブラナ属(Brassica)植物、ならびに野生型およびイミダゾリノン抵抗性アブラナ属(Brassica)アセトヒドロキシ酸合成酵素の巨大サブユニットタンパク質をコードする新規ポリヌクレオチド配列、種子、ならびにそのような植物の使用方法が開示されている。
【0008】
米国特許出願第09/0013424号明細書には、カラシナ(Brassica juncea)を含む改良されたイミダゾリノン系除草剤抵抗性アブラナ属(Brassica)株、そのような株の作製方法、およびそのような株の選択方法、ならびにアブラナ属(Brassica)AHAS遺伝子および配列ならびにイミダゾリノン系除草剤抵抗性を生じる点突然変異を有する遺伝子アレルが記載されている。
【0009】
国際公開第08/124495号パンフレットには、AHAS阻害除草剤に対する改善された耐性レベルを有するトランスジェニックまたは非トランスジェニック植物を産生するのに有用な少なくとも2つの突然変異を含むアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)の巨大サブユニットの突然変異体、例えば、二重および三重突然変異体をコードする核酸が開示されている。本発明はまた、AHAS巨大サブユニットの二重および三重突然変異体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、細胞、植物、2以上のAHAS巨大サブユニットの単一突然変異体ポリペプチドを含む植物、ならびにそれを作製する方法および使用する方法を提供する。
【0010】
それでもなお、作物植物、特に菜種植物におけるAHAS阻害除草剤に対する耐性のさらなる改善が望ましい。
【0011】
本発明は、完全ノックアウトアレルを表すAHASアレルと除草剤耐性AHASタンパク質をコードするAHASアレルの組合せを含む除草剤耐性植物を提供することによって当技術分野に多大な貢献をする。除草剤耐性AHASアレルを完全ノックアウトAHASアレルと組み合わせることにより、本発明は、作物植物、特に菜種植物におけるAHAS阻害除草剤に対する効率的な耐性を得るための代わりのアプローチを提供する。
【0012】
この問題は、以下、様々な実施形態、実施例および特許請求の範囲で記載されているように解決される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の実施形態では、本発明は、完全ノックアウトAHASアレルを含むアブラナ属(Brassica)植物を提供する。完全ノックアウトAHASアレルは、非機能的AHASタンパク質、すなわち、AHAS二量体形成に関与することも影響を及ぼすこともないAHASタンパク質をコードするか、またはAHASタンパク質を全くコードしないAHAS遺伝子の核酸配列を指す。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、完全ノックアウトAHASアレルがナンセンス突然変異を含むアブラナ属(Brassica)植物を提供するものであり、このナンセンス突然変異は、1つ以上の翻訳終止コドンが、対応する野生型AHASアレルのコードDNAおよび対応するmRNA配列に導入され、それにより、終止コドンが非機能的AHASタンパク質の産生をもたらす、AHASアレル中の突然変異である。
【0015】
また別の実施形態では、本発明は、完全ノックアウトAHASアレルが、
a)配列番号:1のnt871〜873または配列番号:3のnt826〜828に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
b)配列番号:1のnt862〜864または配列番号:5のnt808〜810に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
c)配列番号:1のnt775〜777または配列番号:5のnt721〜723に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;または
d)配列番号:1のnt799〜801または配列番号:5のnt745〜747に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列
からなる群から選択されるアブラナ属(Brassica)植物を提供する。
【0016】
本発明はまた、そのゲノム中に少なくとも1つの第2の突然変異体AHASアレルをさらに含み、該第2の突然変異体AHASアレルが除草剤耐性AHASタンパク質をコードするアブラナ属(Brassica)植物を提供する。
【0017】
別の実施形態では、除草剤耐性AHASタンパク質は、配列番号:2の位置197、または配列番号:4の位置182または配列番号:6の位置179に対応する位置にセリンを含む。あるいは、除草剤耐性AHASタンパク質は、少なくとも2つのアミノ酸置換を含む。
【0018】
また別の実施形態では、除草剤耐性AHASタンパク質は、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:6との少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、98%、99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0019】
さらなる実施形態では、本発明のAHASアレルは、配列番号:1、配列番号:3または配列番号:5との少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0020】
本発明の突然変異体AHASアレルを含む植物の植物細胞、配偶子、種子、接合胚もしくは体細胞胚のいずれか、子孫または雑種を提供することも本発明の実施形態である。
【0021】
本発明はさらに、
a)受託番号NCIMB41690の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS1−HETO112を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
b)受託番号NCIMB41687の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO102を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
c)受託番号NCIMB41688の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO103を含むアブラナ属(Brassica)の種子;または
d)受託番号NCIMB41689の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO104を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
からなる群から選択されるアブラナ属(Brassica)の種子を提供する。
【0022】
上記の種子から得られる、アブラナ属(Brassica)植物、またはその細胞、部分、種子もしくは子孫も提供する。
【0023】
一実施形態では、上記のような完全ノックアウトAHASアレルを表す核酸配列を提供する。
【0024】
本発明はまた、1つの植物から別の植物に少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを移動させるための方法であって、
e)少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を同定するかまたは少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を作製する工程と、
f)第1の植物を少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含まない第2の植物と交配し、交配種からF1雑種種子を回収する工程と、
g)場合により、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むF1植物を同定する工程と、
h)少なくとも1世代(x)の間、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むF1植物を、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含まない第2の植物と戻し交配し、交配種からBCx種子を回収する工程と、
i)少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むBCx植物を全ての世代で同定する工程と
を含む、方法を提供する。
【0025】
本発明はさらに、1つの植物中で本発明の完全ノックアウトAHASアレルを除草剤耐性AHASアレルと組み合わせるための方法であって、
j)少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む少なくとも1つの植物および少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルを含む少なくとも1つの植物を作製および/または同定する工程と、
k)少なくとも2つの植物を交配し、少なくとも1つの交配種からF1雑種種子を回収する工程と、
l)場合により、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルおよび少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルを含むF1植物を同定する工程と
を含む、方法を提供する。
【0026】
別の実施形態では、上記のような植物を産生する方法、およびこの植物のゲノムDNA中で本発明の少なくとも1つの完全ノックアウトAHASアレルと少なくとも1つの除草剤耐性AHASアレルとを組み合わせることによって、植物植物の除草剤耐性を増大させる方法を提供する。
【0027】
本発明はさらに、作物植物周辺の雑草を防除する方法、および完全ノックアウトAHASアレルと除草剤耐性AHASアレルの組合せを含む植物を1種以上のAHAS阻害除草剤で処理する方法を提供する。
【0028】
本発明はまた、除草剤耐性植物を得るための本発明の完全ノックアウトAHASアレルの使用に関する。
【0029】
また別の実施形態では、本発明は、1つ以上の完全ノックアウトAHASアレルを含む種子を産生するためのまたは1つ以上の完全ノックアウトAHASアレルを含む菜種の作物を産生するための本発明の植物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】それぞれ、GenBank CAA77613.1、CAA77615.1およびAY042819.1由来のセイヨウアブラナ(B.napus)AHAS1(BN1)、セイヨウアブラナ(B.napus)AHAS3(BN3)およびシロイヌナズナ(A.thaliana)AHAS(AT)タンパク質のアミノ酸配列の多重配列アラインメント。
【図2】温室内での植付け前のチエンカルバゾン−メチル適用に対する耐性に対するAHAS完全ノックアウトとAHASミスセンスアレルとの組合せの効果。A.AHAS1ミスセンスアレル(HETO108)とAHAS3ミスセンスアレル(HETO111)とを組み合わせたもの。左から右:未処理のHETO108/HETO108 HETO111/HETO111;処理したHETO108/HETO108 HETO111/HETO111;処理したHETO108/HETO108 AHAS3wt/AHAS3wt;処理したAHAS1wt/AHAS1wt HETO111/HETO111;処理したAHAS1wt/AHAS1wt AHAS3wt/AHAS3wt。B.AHAS1ノックアウトアレル(HETO112)とAHAS3ミスセンスアレル(HETO111)とを組み合わせたもの。左から右:未処理のHETO112/HETO112 HETO111/HETO111;処理したHETO112/HETO112 HETO111/HETO111;処理したHETO112/HETO112 AHAS3wt/AHAS3wt;処理したAHAS1wt/AHAS1wt HETO111/HETO111;処理したAHAS1wt/AHAS1wt AHAS3wt/AHAS3wt。C.AHAS1ミスセンスアレル(HETO108)とAHAS3ノックアウトアレル(HETO104)とを組み合わせたもの。左から右:未処理のHETO108/HETO108 HETO104/HETO104;処理したHETO108/HETO108 HETO104/HETO104;処理したHETO108/HETO108 AHAS3wt/AHAS3wt;処理したAHAS1wt/AHAS1wt HETO104/HETO104;処理したAHAS1wt/AHAS1wt AHAS3wt/AHAS3wt。Wt=野生型。
【図3】温室内での出芽後のチエンカルバゾン−メチル噴霧に対する耐性に対するAHAS完全ノックアウトとAHASミスセンスアレルとの組合せの効果。A.AHAS1ミスセンスアレル(HETO108)とAHAS3ミスセンスアレル(HETO111)とを組み合わせたもの。左から右:未処理の優良親株;処理したHETO108/HETO108 HETO111/HETO111;処理したHETO108/HETO108 AHAS3wt/AHAS3wt;処理したAHAS1wt/AHAS1wt HETO111/HETO111;処理したAHAS1wt/AHAS1wt AHAS3wt/AHAS3wt。B.AHAS1ノックアウトアレル(HETO112)とAHAS3ミスセンスアレル(HETO111)とを組み合わせたもの。左から右:未処理の優良親株;処理したHETO112/HETO112 HETO111/HETO111;処理したHETO112/HETO112 AHAS3wt/AHAS3wt;処理したAHAS1wt/AHAS1wt HETO111/HETO111;処理したAHAS1wt/AHAS1wt AHAS3wt/AHAS3wt。C.AHAS1ミスセンスアレル(HETO108)とAHAS3ノックアウトアレル(HETO104)とを組み合わせたもの。左から右:未処理の優良親株;処理したHETO108/HETO108 HETO104/HETO104;処理したHETO108/HETO108 AHAS3wt/AHAS3wt;処理したAHAS1wt/AHAS1wt HETO104/HETO104;処理したAHAS1wt/AHAS1wt AHAS3wt/AHAS3wt。Wt=野生型。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一般的な定義
「核酸配列」(または核酸分子)という用語は、一本鎖または二本鎖形態のDNAまたはRNA分子、特に、本発明によるタンパク質またはタンパク質断片をコードするDNAを指す。「内在性核酸配列」は、植物細胞内にある核酸配列、例えば、アブラナ属(Brassica)細胞の核ゲノム内に存在するAHAS遺伝子の内在性アレルを指す。「単離された核酸配列」は、その天然環境内にはもはや存在しない、例えば、試験管内または細菌もしくは植物などの組換え宿主細胞内の核酸配列を指すために用いられる。
【0032】
「遺伝子」という用語は、細胞内で転写されてRNA分子(例えば、イントロン配列を含むプレ−mRNA、これは後に、スプライシングされて成熟mRNAになる)になる領域(転写される領域)を含み、調節領域(例えば、プロモーター)に機能的に連結されている、DNA配列を意味する。したがって、遺伝子は、プロモーター、例えば、翻訳開始に関与する配列を含む5’リーダー配列、(タンパク質)コード領域(cDNAまたはゲノムDNA)および例えば、転写終結部位を含む3’非翻訳配列などの、いくつかの機能的に連結された配列を含むことができる。「内在性遺伝子」は、「外来遺伝子」、「導入遺伝子」または「キメラ遺伝子」と区別するために用いられ、かつ形質転換によってその植物に導入されたのではなく(すなわち、それは「導入遺伝子」ではなく)、その属、種もしくは品種の植物に通常存在しているか、またはそれが通常存在する別の植物の属、種もしくは品種の植物から、通常の育種技術によってもしくは体細胞ハイブリダイゼーションによって、例えば、プロトプラスト融合によって、その植物に導入された、特定の植物の属、種または品種の植物に由来する遺伝子を指す。同様に、遺伝子の「内在性アレル」は、植物形質転換によって植物または植物組織に導入されるのではなく、例えば、植物突然変異誘発および/もしくは選択によって生成されるか、または植物の自然個体群をスクリーニングすることによって得られる。
【0033】
「タンパク質」または「ポリペプチド」という用語は互換的に用いられ、かつ特定の作用様式、サイズ、3次元構造または起源に関係なく、アミノ酸の鎖からなる分子を指す。したがって、AHASタンパク質の「断片」または「部分」もやはり、「タンパク質」と呼ぶことができる。「単離されたタンパク質」は、その天然環境内にもはや存在しない、例えば、試験管内または組換え細菌もしくは植物宿主細胞内のタンパク質を指すために用いられる。「酵素」は、機能的AHAS酵素などの、酵素活性を含むタンパク質またはタンパク質複合体である。
【0034】
本明細書で使用するように、「AHASタンパク質」は、「アセトヒドロキシ酸合成酵素」または「アセト乳酸合成酵素」としても知られる、分岐鎖アミノ酸の生合成に関与するAHAS酵素の触媒サブユニットを構成するタンパク質またはポリペプチドを指す。植物および微生物では、これらのアミノ酸の炭素骨格は、ピルベートのみ(バリン合成)、ピルベート+アセチル−CoA(ロイシン)またはピルベート+2−ケトブチレート(イソロイシン)から合成される。このプロセスの最初の段階では、2−アセトラクテート(AL)または2−アセト−2−ヒドロキシブチレート(AHB)のいずれかが形成されるが、この段階は、アセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS、EC 2.2.1.6)によって触媒される。AHAS酵素は、触媒サブユニットおよび調節サブユニット(それぞれ、大サブユニットおよび小サブユニットとも呼ばれる)という2つのサブユニットから構成される。触媒サブユニットは59〜66kDaの範囲の分子質量を有し、真核生物では、真菌のミトコンドリアや植物の葉緑体にタンパク質を方向付けるのに必要とされるN−末端ペプチドを有するより大きな前駆体タンパク質として合成される。調節サブユニットは、AHAS活性を持たないが、触媒サブユニットの活性を大いに刺激する。調節サブユニットは、植物では50kDaを超えており、これもまたN−末端オルガネラ標的化ペプチドを有するより大きな前駆体タンパク質として合成される。ゲル濾過(Gel in filtration)により、溶液中では、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AHASの触媒サブユニットは二量体として存在することが示された。しかしながら、スルホニルウレア系除草剤のうちのどれかが存在するとき、それは、四量体として結晶化し、調節サブユニットと触媒サブユニット間の複合体の分子質量も、各サブユニットのうちの4つがこの会合体(assembly)に存在することを示唆する。シロイヌナズナ(A.thaliana)AHASの触媒サブユニットの各々の四量体は4つの活性部位を有する。各々の活性部位は2つの単量体の接合部分にある。したがって、AHAS活性の最小必要要件は、触媒サブユニットの二量体である。この四量体の生物学的関連性は不明である。この四量体は、であることができる(Duggleby et al.,2008)。シロイヌナズナ(A.thaliana)由来のAHASタンパク質、セイヨウアブラナ(B.napus)由来のAHAS1およびAHAS3タンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:2、配列番号:4および配列番号:6に記載された配列に表されている。
【0035】
シロイヌナズナ(A.thaliana)では、AHASタンパク質(GenBank:CAB62345.1、AAM92569.1およびAY042819.1)は、663アミノ酸(aa)長の前駆体として合成されるが、葉緑体輸送ペプチドを含まない成熟タンパク質はaa98から始まる。セイヨウアブラナ(B.napus)では、AHAS1(GenBank:CAA77613.1)およびAHAS3(GenBank:CAA77615.1)前駆体タンパク質は、655および652aa長であり、その成熟タンパク質は、それぞれ、aa83および80から始まる。シロイヌナズナ(A.thaliana)AHASの各ポリペプチドは、各々が6〜9本のヘリックスによって囲まれた6本鎖平行b−シートのよく似た全体的フォールドを有するα(残基86〜280)、β(残基281〜451)およびγ(残基463〜639)という3つのドメインからなる。シロイヌナズナ(A.thaliana)での二量体接合部分の形成に関与する残基は、119〜217およびaa508〜607にある。セイヨウアブラナ(B.napus)では、これらは、それぞれ、aa104〜202およびaa493〜592(AHAS1)、ならびにaa101〜199およびaa490〜589(AHAS3)にある。シロイヌナズナ(A.thaliana)AHASタンパク質とセイヨウアブラナ(B.napus)AHASタンパク質のアミノ酸配列のアラインメントを図1に示す。タバコでは、残基M542とH142が三次構造の安定化と二量体相互作用に関与するようである(Le et al.,2004,Biochem Biophys Res Commun.7;317(3),p930−938)。また、タバコAHASタンパク質のaa567〜582の領域およびaa630のC末端の領域の欠失によって単量体形成が生じたため、これらのドメインが活性型二量体の結合/安定化に関与することが分かった(Kim et al.,2004,Biochem J.15;384,p59−68.)。
【0036】
「AHAS遺伝子」という用語は、本明細書では、アセトヒドロキシ酸合成酵素の触媒サブユニットタンパク質(すなわち、AHASタンパク質)をコードする核酸配列を指す。AHAS遺伝子にはイントロンがない(Mazur et al.,1987,Plant Physiol.,Dec;85,p1110−1117.)。シロイヌナズナ(A.thaliana)AHAS(GenBank AY042819)ならびにセイヨウアブラナ(B.napus)AHAS1およびAHAS3遺伝子/コード配列の配列は、それぞれ、配列表中の配列番号:1、配列番号:3および配列番号:5に示されている。
【0037】
本明細書で使用するように、「アレル」という用語は、特定の遺伝子座の1つ以上の代替形態の遺伝子のいずれかを意味する。生物の二倍体(または複二倍体)細胞では、所与の遺伝子のアレルは、染色体上の特定の位置または遺伝子座(locus)(遺伝子座(loci)、複数形)にある。1つのアレルは、相同染色体の対の各染色体上に存在する。
【0038】
本明細書で使用するように、「相同染色体」という用語は、同じ生物学的特徴に関する情報を含み、同じ遺伝子座の同じ遺伝子を含むが、おそらくそれらの遺伝子の異なるアレルを含む染色体を意味する。相同染色体は、有糸分裂中に対合する染色体である。生物の全ての生物学的特徴を表す「非相同染色体」は、セットを形成し、細胞におけるセットの数は倍数性と呼ばれる。二倍体生物は2セットの非相同染色体を含み、その場合、各相同染色体は異なる親から受け継がれる。複二倍体の種では、本質的に2セットの二倍体ゲノムが存在し、2つのゲノムの染色体は、「相同染色体」と呼ばれる(同様に、2つのゲノムの遺伝子座または遺伝子は、相同遺伝子座または遺伝子と呼ばれる)。二倍体、または複二倍体の植物種は、特定の遺伝子座に多数の異なるアレルを含むことができる。
【0039】
本明細書で使用するように、「ヘテロ接合性」という用語は、2つの異なるアレルが特定の遺伝子座に存在するが、細胞内の相同染色体の対応する対に個々に位置付けられる場合に存在する遺伝的条件を意味する。逆に、本明細書で使用するように、「ホモ接合性」という用語は、2つの同一のアレルが特定の遺伝子座に存在するが、細胞内の相同染色体の対応する対に個々に位置付けられる場合に存在する遺伝子の状態を意味する。
【0040】
本明細書で使用するように、「遺伝子座(locus)」(遺伝子座(loci)、複数形)という用語は、例えば、遺伝子または遺伝子マーカーが見出される染色体上の特定の場所(単数もしくは複数)または部位を意味する。例えば、「AHAS1遺伝子座」は、AHAS1遺伝子(および2つのAHAS1アレル)が見出され得る染色体上の位置を指し、一方、「AHAS3遺伝子座」は、AHAS3遺伝子(および2つのAHAS3アレル)が見出され得る染色体上の位置を指す。
【0041】
本明細書で使用される「本質的に同様」は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列を指す。これらの核酸配列は、配列表に示されたAHAS配列と「実質的に同一」または「本質的に同一」であると表すこともできる。パーセンテージで表される、2つの関連するヌクレオチドまたはアミノ酸配列の「配列同一性」は、比較される位置の数で割った、同一の残基を有する2つの最適に整列された配列中の位置の数(×100)を指す。ギャップ、すなわち、残基が一方の配列には存在するが、もう一方には存在しないアラインメント中の位置は、非同一残基を含む位置とみなされる。2つの配列の「最適なアラインメント」は、The European Molecular Biology Open Software Suite(EMBOSS,Rice et al.,2000,Trends in Genetics 16(6):276-277;例えば、http://www.ebi.ac.uk/emboss/align/index.htmlを参照されたい)におけるNeedlemanおよびWunschの全体的アラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J Mol Biol 48(3):443−53)に従って、デフォルト設定(ギャップ開始ペナルティ=10(ヌクレオチドの場合)/10(タンパク質の場合)およびギャップ伸長ペナルティ=0.5(ヌクレオチドの場合)/0.5(タンパク質の場合))を用いて、2つの配列を全長にわたって整列させることにより見出される。ヌクレオチドについて、使用されるデフォルトスコアリングマトリクスはEDNAFULLであり、タンパク質について、デフォルトスコアリングマトリクスはEBLOSUM62である。
【0042】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」を用いて、所与のヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列を同定することができる。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、異なる環境では異なる。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHで特定の配列について熱融点(T)よりも約5℃低くなるように選択される。Tは、標的配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする(規定のイオン強度およびpH下の)温度である。通常、塩濃度が、pH7で約0.02モル濃度、温度が少なくとも60℃であるストリンジェントな条件が選ばれる。塩濃度を低下させることおよび/または温度を増大させることにより、ストリンジェンシーが増大する。RNA−DNAハイブリダイゼーション(例えば、100ntのプローブを用いるノーザンブロット)のためのストリンジェントな条件は、例えば、0.2×SSC中、63℃で20分間の少なくとも1回の洗浄を含む条件、または等価な条件である。
【0043】
「高ストリンジェンシー条件」は、6×SSC(20×SSCは3.0MのNaCl、0.3Mのクエン酸−Na、pH7.0を含む)、5×デンハルト(100×デンハルトは2%フィコール、2%ポリビニルピロリドン、2%ウシ血清アルブミンを含む)、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および非特異的コンペティターとしての20μg/mlの未変性キャリアDNA(平均長120〜3000ヌクレオチドの一本鎖魚精子DNA)を含む水溶液中、65℃でのハイブリダイゼーションによって提供することができる。ハイブリダイゼーションに続き、高ストリンジェンシー洗浄を数回の工程で行ない、最後に、0.2〜0.1×SSC、0.1%SDS中、ハイブリダイゼーション温度で洗浄(約30分)を行なうことができる。
【0044】
「中程度のストリンジェンシー条件」は、上記の溶液中でのハイブリダイゼーションと等価であるが、約60〜62℃での条件を指す。中程度のストリンジェンシー洗浄は、1×SSC、0.1%SDS中、ハイブリダイゼーション温度で行なうことができる。
【0045】
「低ストリンジェンシー」は、上記の溶液中、約50〜52℃でのハイブリダイゼーションと等価な条件を指す。低ストリンジェンシー洗浄は、2×SSC、0.1%SDS中、ハイブリダイゼーション温度で行なうことができる。Sambrookら(1989)ならびにSambrookおよびRussell(2001)も参照されたい。
【0046】
遺伝子またはタンパク質の「オルソログ」という用語は、本明細書では、別の種に見られる相同遺伝子またはタンパク質を指し、これは、その遺伝子またはタンパク質と同じ機能を有するが、その遺伝子を持つ種が分岐した(すなわち、その遺伝子が種分化により共通の祖先から進化した)時点から配列が(通常)分岐している。したがって、セイヨウアブラナ(Brassica napus)AHAS遺伝子のオルソログは、配列比較(例えば、全配列にわたるもしくは特定のドメインにわたる配列同一性パーセンテージに基づくもの)および/または機能解析の両方に基づいて、他の植物種(例えば、カラシナ(Brassica juncea)など)で同定することができる。
【0047】
「突然変異体」または「突然変異」という用語は、例えば、いわゆる「野生型(wild type)」変異体(「野生型(wildtype)」または「野生型(wild−type)」とも書く)とは異なる植物または遺伝子を指す。「野生型」は、例えば、それが最も一般的に天然に生じる植物または遺伝子の典型的な形態を指す。「野生型植物」は、自然個体群においてそのような植物の最も一般的な表現型を有する植物を指す。「野生型アレル」は、野生型表現型を生じさせるのに必要とされる遺伝子のアレルを指す。突然変異体植物またはアレルは、自然個体群に生じるか、またはヒトの介入によって、例えば、突然変異誘発によって生じさせることができ、したがって、「突然変異体アレル」は、突然変異体表現型を生じさせるのに必要とされる遺伝子のアレルを指す。本明細書で使用するように、「突然変異体AHASアレル」(例えば、突然変異体AHAS1またはAHAS3)という用語は、1つ以上のヌクレオチド位置で野生型AHASアレルと異なるAHASアレルを指す。すなわち、それは、野生型アレルと比較したときに、その核酸配列中に1つ以上の突然変異を含む。
【0048】
核酸配列中の突然変異は、例えば、以下を含むことができる:
(a)アミノ酸を別のアミノ酸に置換する核酸配列の変化である「ミスセンス突然変異」;
(b)早過ぎる終止コドンの導入、ひいては(切断タンパク質を生じさせる)翻訳の終結をもたらす核酸配列の変化である「ナンセンス突然変異」または「終止コドン突然変異」;植物遺伝子は、翻訳終止コドン「TGA」(RNA中ではUGA)、「TAA」(RNA中ではUAA)および「TAG」(RNA中ではUAG)を含む。したがって、これらのコドンのうちの1つを(リーディングフレーム中の)翻訳されている成熟mRNA中に存在させる任意のヌクレオチド置換、挿入、欠失は、翻訳を終結させることになる。
(c)核酸のコード配列中に付加された1つ以上のコドンによる、1つ以上のアミノ酸の「挿入突然変異」;
(d)核酸のコード配列中で欠失している1つ以上のコドンによる、1つ以上のアミノ酸の「欠失突然変異」;
(e)突然変異の下流で異なるフレームで翻訳される核酸配列を生じさせる、「フレームシフト突然変異」。フレームシフト突然変異には、1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失または重複などの様々な原因があり得るが、プレ−mRNAスプライシングに影響を及ぼす突然変異(スプライス部位突然変異)によってフレームシフトが生じることもある;
(f)プレ−mRNA配列の正確なスプライシングを変化させるかまたは無効にし、野生型とは異なるアミノ酸配列のタンパク質を生じさせる、「スプライス部位突然変異」。例えば、RNAスプライシングの間に1つ以上のエキソンが飛ばされて、飛ばされたエキソンによってコードされるアミノ酸を欠くタンパク質が生じる場合がある。あるいは、リーディングフレームが不正確なスプライシングを通して変化する場合があるか、または1つ以上のイントロンが保持される場合があるか、または別のスプライスドナーもしくはアクセプターが生成される場合があるか、またはスプライシングが別の位置(例えば、イントロン内)で開始される場合があるか、または別のポリアデニル化シグナルが生成される場合がある。正確なプレ−mRNAスプライシングは、遺伝子のヌクレオチド配列中の様々な突然変異によって影響され得る複雑な過程である。植物などの高等生物では、主要なスプライソソームは、5’スプライス部位(ドナー部位)のGUおよび3’スプライス部位(アクセプター部位)のAGを含むイントロンをスプライスする。このGU−AG則(またはGT−AG則;Lewin,Genes VI,Oxford University Press 1998,pp885−920,ISBN 0198577788を参照されたい)は、真核生物の核遺伝子のスプライス部位の約99%で見られるが、GC−AGおよびAU−ACなどの他のジヌクレオチドを5’および3’スプライス部位で含むイントロンは、それぞれ、約1%および0.1%しか占めない。
【0049】
本明細書で使用するように、「完全ノックアウトアレル」は、インビボの細胞で、機能的AHAS発現の顕著な低下または機能的AHASの無発現、すなわち、機能的AHASタンパク質量の顕著な低下または機能的AHASタンパク質の消失を導く突然変異体アレルである。基本的に、野生型タンパク質と比べて少なくとも1つのアミノ酸挿入、欠失および/または置換を含むタンパク質を生じさせる任意の突然変異は、酵素活性の顕著な低下または酵素活性の消失を生じさせることができる。しかしながら、タンパク質をコードする配列の特定の部分における突然変異、例えば、機能ドメインおよび/または構造ドメインの重要な部分が欠けている切断タンパク質を生じさせる突然変異は、突然変異体AHASタンパク質の機能の低下をもたらす可能性がより高いことが理解される。
【0050】
突然変異体AHASアレルが完全ノックアウトアレルであるかどうかを決定するために、その特定のアレルが実際に、mRNAおよび/またはタンパク質レベルで、発現されていないのか、それとも発現が顕著に少ないのか、およびそれが依然として発現されている場合、例えば、Kimら(Biochem J.15;384,p59−68,2004)に記載されているように、タンパク質の分子質量が多量体を示すのか、単量体形成を示すのかを解析することができる。あるいは、例えば、AHAS機能が不可欠である植物に対して交配を行なうことができる。この交配によって、突然変異体アレルの(二重)ホモ接合が得られることが予想され、これらが回復されない場合、突然変異体アレルは、例えば、本明細書で以下に記載されるように、ノックアウトアレルとして機能する。
【0051】
本明細書で使用するように、「顕著に低下した量の機能的AHASタンパク質」(例えば、機能的AHAS1またはAHAS2タンパク質)は、完全ノックアウトAHASアレルを含まない細胞により産生される機能的AHASタンパク質の量と比較したときの、完全ノックアウトAHASアレルを含む細胞により産生される機能的AHASタンパク質の量の、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%の低下(すなわち、機能的タンパク質は細胞により産生されない)を指す。この定義は、インビボで生物活性がない「非機能的」AHASタンパク質(例えば、切断AHASタンパク質)の産生、機能的AHASタンパク質の絶対量の低下(例えば、AHAS遺伝子における突然変異のために、機能的AHASタンパク質が作られない)および/または機能的な野生型AHASタンパク質の活性と比較して生物活性が顕著に低下したAHASタンパク質(例えば、コードされるAHASタンパク質の生物活性に重要な1つ以上のアミノ酸残基が、別のアミノ酸残基に置換されているかもしくは欠失しているAHASタンパク質)の産生を包含する。
【0052】
本明細書で使用される「非機能的AHASタンパク質」は、二量体および/もしくは四量体形成に関与することができず、かつ/または細胞内に存在し得る他の野生型もしくは(ミスセンス)突然変異体AHASタンパク質の酵素活性に影響を及ぼさないAHASタンパク質を指すことが理解される。非機能的AHASタンパク質は、完全ノックアウトAHASアレルによってコードされる。
【0053】
活性型AHASタンパク質は活性型AHASアレルによってコードされており、かつ野生型AHASタンパク質と、依然として生体活性はあるが、AHAS阻害除草剤によって阻害されない突然変異体AHASタンパク質(例えば、ミスセンス突然変異を含む核酸配列によってコードされるAHASタンパク質)、すなわち、除草剤耐性AHASタンパク質の両方であることができる。
【0054】
本明細書で使用される「突然変異体AHASタンパク質」という用語は、突然変異体AHAS核酸配列(「AHASアレル」)によってコードされるAHASタンパク質を指し、ここで、この突然変異は、AHASタンパク質のアミノ酸配列の変化を生じさせる。突然変異体AHASは、生物活性に不可欠なアミノ酸が置換されているかまたは欠失している非機能的AHASタンパク質であることができる。あるいは、突然変異体AHASタンパク質は、そのためにAHAS阻害除草剤によって阻害されなくなる突然変異を含むことができる。そのような除草剤耐性または除草剤抵抗性AHASタンパク質は、その天然の機能、すなわち、分岐アミノ酸の合成を依然として果たすことができることが好ましい。
【0055】
そのような突然変異体除草剤耐性AHASタンパク質の例は当技術分野で公知であり、例えば、全て参照により本明細書に組み入れられる、Dugglebyら,2008;国際公開第09/046334号パンフレット、国際公開第09/031031号パンフレット、米国特許出願第09/0013424号明細書に記載されている。2以上のアミノ酸置換を含む突然変異体除草剤耐性AHASタンパク質は、例えば、国際公開第08/124495号パンフレットに記載されており、この文献も参照により本明細書に組み入れられる。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
本明細書で使用するように、「除草剤」は、植物、特に、雑草の成長を損なわせるかまたは阻害するために用いられる化学物質である。「AHAS阻害除草剤」または「ALS阻害除草剤」は、AHAS酵素の活性を妨害する除草剤である。そのようなAHAS阻害除草剤は、スルホニルウレア系除草剤、イミダゾリノン系除草剤、スルホニルアミノカルボニルトリアゾリノン系除草剤、トリアゾロピリミジン系除草剤、ピリミジル(オキシ/チオ)ベンゾエート系除草剤、またはそれらの混合物であることが好ましい。AHAS阻害除草剤の例としては、例えば、アミドスルフロン、アジムスルフロン、ベンスルフロン、クロリムロン、クロルスルフロン、シノスルフロン、シクロスルファムロン、エタメトスルフロン、エトキシスルフロン、フラザスルフロン、フルピルスルフロン、フォラムスルフロン、ハロスルフロン、イマゾスルフロン、ヨードスルフロン、メソスルフロン、メトスルフロン、ニコスルフロン、オキサスルフロン、プリミスルフロン、プロスルフロン、ピラゾスルフロン、キンクロラック、リムスルフロン、スルフェントラゾン、スルホメツロン、スルホスルフロン、チエンカルバゾン−メチル、チフェンスルフロン、トリアスルフロン、トリベヌロン、トリフロキシスルフロン、トリフルスルフロン、トリトスルフロン、イマザメタベンズ、イマザモックス、イマザピック、イマザピル、イマザクイン、イマゼタピル、クロランスラム、ジクロスラム、フロラスラム、フルメトスラム、メトスラム、ペノクススラム、ビスピリバック、ピリミノバック、プロポキシカルバゾン、フルカルバゾン、ピリベンゾキシム、ピリフタリドおよびピリチオバックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
本明細書で使用するように、「チエンカルバゾン−メチル」は、メチル4−[(4,5−ジヒドロ−3−メトキシ−4−メチル−5−オキソ−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)カルボニルスルファモイル]−5−メチルチオフェン−3−カルボキシレート(IUPAC)またはメチル4−[[[(4,5−ジヒドロ−3−メトキシ−4−メチル−5−オキソ−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)カルボニル]アミノ]スルホニル]−5−メチル−3−チオフェンカルボキシレート(CAS)としても知られる除草剤である。
【0061】
本明細書で使用するように、「増大した除草剤耐性」または「増大した除草剤抵抗性」は、対応する野生型AHASタンパク質よりもAHAS阻害除草剤よる阻害が顕著に少ないAHASタンパク質(例えば、突然変異体AHASタンパク質)を指すが、これは、例えば、他の種のAHASタンパク質と比較して増大した耐性を示す天然の変異体も指す。これは、そのような除草剤耐性AHASタンパク質(をコードするアレル)を含まないが、その代わりに、除草剤不耐性AHASタンパク質(をコードするアレル)を含む植物と比較したとき、除草剤によるその正常な成長および発生の妨害が顕著に少ないそのような除草剤耐性AHASタンパク質(をコードするアレル)を含む植物も指す。
【0062】
AHASタンパク質の除草剤耐性は、例えば、大腸菌(E.coli)(国際公開第08/124495号パンフレット)における相補性アッセイ、またはAHAS酵素アッセイ(Singh et al.,Anal.Biochem.171:173−179,1988)などの当技術分野で公知の方法によって測定することができる。あるいは、AHASタンパク質を含む植物の除草剤耐性は、これらの植物の(例えば、胚軸の)外植片を、除草剤を含む成長培地(例えば、カルス誘導培地)上で培養し、その後、様々な除草剤濃度下での外植片の成長を測定することによって評価することができる。
【0063】
本明細書で使用するように、除草剤の好ましい量または濃度は、「有効量」または「有効濃度」である。「有効量」および「有効濃度」とは、それぞれ、除草剤耐性AHASアレルおよびタンパク質を欠く、類似した野生型植物、植物組織、植物細胞もしくは種子を死滅させるかまたはこれらの成長を阻害するのに十分であるが、該量が、本発明の除草剤抵抗性植物、植物組織、植物細胞、および種子を死滅させないかまたはこれらの成長をそれほどひどくは阻害しない量および濃度を意図するものである。通常、除草剤の有効量は、目的の雑草を死滅させるために農業生産系で日常的に用いられている量である。そのような量は、当業者に公知である。
【0064】
本明細書で使用される「突然変異誘発」は、植物細胞(例えば、複数のアブラナ属(Brassica)の種子または他の部分、例えば、花粉など)を、細胞のDNA中で突然変異を誘発する技術、例えば、突然変異誘発物質、例えば、化学物質(例えば、エチルメチルスルホネート(EMS)、エチルニトロソ尿素(ENU)など)または電離放射線(中性子(例えば、高速中性子突然変異誘発など)、アルファ線、ガンマ線(例えば、コバルト60供給源により供給されるもの)、X線、UV照射など)、またはこれらのうちの2つ以上の組合せに供するプロセスを指す。したがって、1つ以上のAHASアレルの所望の突然変異誘発は、化学的手段(例えば、1つ以上の植物組織とエチルメチルスルホネート(EMS)、エチルニトロソ尿素などとの接触によるもの)の使用によるか、物理的手段(例えば、x線など)の使用によるか、またはガンマ照射(例えば、コバルト60供給源により供給されるもの)によって達成することができる。放射線照射によって引き起こされる突然変異が、転座または複雑な再配列などの、大きな欠失または他の甚だしい損傷であることが多いのに対し、化学的突然変異原によって引き起こされる突然変異は、点突然変異などの、より不連続な損傷であることが多い。例えば、EMSはグアニン塩基をアルキル化し、それにより、塩基の誤対合が生じる:アルキル化されたグアニンはチミン塩基と対合し、主にG/CからA/Tへの移行が生じる。突然変異誘発後、アブラナ属(Brassica)植物を、処理した細胞から公知の技術を用いて再生させる。例えば、結果として得られたアブラナ属(Brassica)の種子を従来の成長手順に従って植えることができ、自家受粉後に、種子を植物上に形成させる。あるいは、例えば、Coventryら(1988,Manual for Microspore Culture Technique for Brassica napus.Dep.Crop Sci.Techn.Bull.OAC Publication 0489.Univ.of Guelph,Guelph,Ontario,Canada)によって記載されているように、倍加半数体小植物を取り出して、ホモ接合植物を直ちに形成させることができる。この世代またはその後の世代でのそのような自家受粉の結果として形成されるさらなる種子を収穫し、突然変異体AHASアレルの存在についてスクリーニングすることができる。特定の突然変異アレルをスクリーニングするためのいくつかの技術が公知であり、例えば、Deleteagene(商標)(Delete−a−gene;Li et al.,2001,Plant J 27:235−242)では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを用いて、高速中性子突然変異誘発により生成される欠失突然変異体についてスクリーニングし、TILLING(ゲノム中の標的化局所損傷誘導(targeted induced local lesions in genomes);McCallum et al.,2000,Nat Biotechnol 18:455−457)によって、EMS誘発性点突然変異などが同定される。特定の突然変異体AHASアレルの存在についてスクリーニングするためのさらなる技術は、以下の実施例に記載されている。
【0065】
本発明による「植物(plant)」または「植物(plants)」に言及する場合はいつでも、植物部分(細胞、組織または器官、子嚢、種子、切断部分、例えば、根、葉、花、花粉など)、親の識別特徴を保持する植物の子孫、例えば、自家受粉または交配により得られる種子、例えば、雑種種子(2つの近交親系統を交配させることにより得られる)、雑種植物およびそれに由来する植物部分もまた、別途指示しない限り、本明細書に包含されることが理解される。
【0066】
「作物植物」は、限定するものではないが、セイヨウアブラナ(Brassica napus)(AACC、2n=38)、カラシナ(Brassica juncea)(AABB、2n=36)、アビシニアガラシ(Brassica carinata)(BBCC、2n=34)、ハクサイ(Brassica rapa(syn.B.campestris))(AA、2n=20)、ブラッシカ・オレラセア(Brassica oleracea)(CC、2n=18)またはクロガラシ(Brassica nigra)(BB、2n=16)などの、作物として栽培される植物種を指す。この定義は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)などの雑草を包含しない。
【0067】
本明細書で使用される「雑草」という用語は、望ましくないにもかかわらず作物植物と作物植物の間で成長し、作物植物の成長および発生を阻害し得る、例えば、圃場における望ましくない草木、または意図的に植え付けられる作物植物以外の植物を指す。
【0068】
「品種」は、本明細書では、UPOV条約に準拠して用いられており、既知の最も低い階層の単一植物分類群内での植物分類を指す。この分類は、所与の遺伝子型または遺伝子型の組合せに起因する特徴の発現によって定義することができ、該特徴の少なくとも1つの発現によって任意の他の植物分類から識別することができ、かつ不変のまま繁殖させる(安定である)ためのその好適性に関する単位と考えられる。
【0069】
本明細書で使用するように、植物を参照して用いられる場合の「非天然の」または「栽培された」という用語は、人間によって改変されたゲノムを有する植物を意味する。トランスジェニック植物は、例えば、外因性の核酸分子、例えば、転写されたときに内在性遺伝子(例えば、本発明によるAHAS遺伝子)の発現を低下させることができる生物学的に活性のあるRNA分子を生じる転写領域を含むキメラ遺伝子を含み、したがって、人間により遺伝子改変されている非天然植物である。さらに、内在性遺伝子における突然変異、例えば、突然変異誘発物質への曝露の結果としての内在性AHAS遺伝子における(例えば、調節エレメントにおけるまたはコード配列における)突然変異を含む植物も、人間によって遺伝子改変されているので、非天然の植物と考えられる。さらに、特定の種の植物、例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)は、例えば、その植物の同じ種または別の種の植物、例えば、カラシナ(Brassica juncea)またはカブ(Brassica rapa)を用いた、方向性のある育種プロセス、例えば、マーカー利用育種および選択または遺伝子移入の結果として、天然ではその特定の植物種に生じない内在性遺伝子(例えば、内在性AHAS遺伝子)に突然変異を含むが、このような植物もまた非天然の植物と考えられる。対照的に、自然発生的なまたは天然の突然変異だけ含む植物、すなわち、人間により遺伝子改変されていない植物は、本明細書で定義される「非天然の植物」ではなく、したがって、本発明に包含されない。当業者は、非天然の植物は、通常、天然の植物と比較したときに変化したヌクレオチド配列を有するが、非天然の植物はまた、そのヌクレオチド配列を変えることなく、例えば、そのメチル化パターンを改変することによって、人間により遺伝子改変され得ることを理解する。
【0070】
本明細書で使用するように、「農業的に好適な植物の発生」は、通常の農作業でのその性能、より具体的には、圃場でのその樹立、活力、開花期、高さ、成熟、耐倒伏性、収穫高、疾患抵抗性、耐裂莢性などに悪影響を及ぼさない植物、特に、菜種植物の発生を指す。したがって、農業的に好適な植物の発生によって顕著に増大した除草剤耐性を有する株は、他の植物と比較したときに増大した除草剤耐性を有する一方で、同様の圃場での樹立、活力、開花期、高さ、成熟、耐倒伏性、収穫高、疾患抵抗性、耐裂莢性などを維持する。
【0071】
本明細書で使用するように、「位置Xから位置Yまでの配列番号:Zのヌクレオチド配列」は、両方のヌクレオチド終点を含むヌクレオチド配列を示す。
【0072】
「含む」という用語は、記載した部分、工程、または構成要素の存在を特定するものと解釈されるべきであるが、1つ以上のさらなる部分、工程、または構成要素の存在を除外するものではない。したがって、特定の形質を含む植物は、さらなる形質を含むことができる。
【0073】
単数形の単語(例えば、植物または根)に言及するとき、複数形もまた本明細書に含まれることが理解される(例えば、複数の植物、複数の根)。したがって、不定冠詞「a」または「an」による要素への言及は、要素のうちの1つおよびただ1つが存在することが文脈から明らかに要求されない限り、要素のうちの2つ以上が存在する可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞「a」または「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0074】
詳細な説明
セイヨウアブラナ(Brassica napus)(ゲノムAACC、2n=4x=38)は、二倍体祖先が起源であるために本質的に2つの二倍体ゲノム(AゲノムとCゲノム)を含む異質四倍体(複二倍体)種であるが、これは、そのゲノムに5つのAHAS遺伝子座遺伝子を含むと記載されている。AHAS2、AHAS3およびAHAS4は、Aゲノムが起源であるのに対し、AHAS1およびAHAS5は、Cゲノムが起源である。AHAS1およびAHAS3は、構成的に発現され、かつセイヨウアブラナ(B.napus)の成長および発生に不可欠な主要なAHAS活性をコードする唯一の遺伝子である(Tan et al.,2005)。
【0075】
セイヨウアブラナ(Brassica napus)植物の突然変異を誘発させた個体群では、植物が、アミノ酸置換(ミスセンス突然変異)、すなわち、AHAS1とAHAS3の両方におけるP179Sを生じさせ、かつ早過ぎる終止コドンの導入をもたらす突然変異をそのAHASゲノムDNA中に有することを同定することができた。P197Sは、あるレベルのSU耐性を付与するように見えた。しかしながら、驚くことに、一方のAHAS遺伝子中のP197S突然変異をもう一方の遺伝子中の終止コドン突然変異(完全ノックアウトアレル)と組み合わせたとき、一方の遺伝子のみにおけるP197S突然変異と比較して、除草剤耐性が増大した。野生型アレルを、完全ノックアウトAHASアレルと除草剤耐性AHASアレルの組合せと次第に置き換えることによって、AHAS多量体に対するミスセンス除草剤耐性AHASアレルの寄与が高くなれば高くなるほど、植物の除草剤耐性のレベルが高くなることが分かった。
【0076】
したがって、第1の実施形態では、本発明は、完全ノックアウトAHASアレルを含むアブラナ属(Brassica)植物を提供する。
【0077】
本明細書で使用するように、「完全ノックアウトAHASアレル」は、非機能的AHASタンパク質、すなわち、AHAS二量体形成に関与することも、それに影響を及ぼすこともないAHASタンパク質をコードするか、またはAHASタンパク質を全くコードしないAHAS遺伝子の核酸配列を指す。一実施形態では、完全ノックアウトAHASアレルは、(配列番号:2のaa119〜217もしくは508〜607、または配列番号:4のaa104〜202もしくは493〜592または配列番号:6のaa101〜199もしくは490〜589をコードする)2つの二量体接触部分のうちの少なくとも1つの破壊または欠失をもたらし、そのコードされるタンパク質が二量体形成に関与することができないので、完全ノックアウトAHASアレルを生じさせると考えられる、AHASコード配列中の任意の突然変異(ミスセンス、ナンセンスまたはフレームシフト突然変異)を指す。
【0078】
特定の実施形態では、完全ノックアウトAHASアレルは、1つ以上の翻訳終止コドンが対応する野生型AHASアレルのコードDNAおよび対応するmRNA配列に導入されているAHASアレル中の突然変異であるナンセンス突然変異を含むことができる。翻訳終止コドンは、「TGA」(RNA中ではUGA)、「TAA」(RNA中ではUAA)および「TAG」(RNA中ではUAG)である。したがって、コード配列中にインフレームの終止コドンを生成させる任意の突然変異(欠失、挿入または置換)は、翻訳の終結およびアミノ酸鎖の切断をもたらす。一実施形態では、ナンセンス突然変異を含む突然変異体AHASアレルは、インフレームの終止コドンが、単一ヌクレオチド置換によってAHASコドン配列中に導入されているAHASアレル、例えば、HETO112、HETO102、HETO10およびHETO104である。別の実施形態では、完全ノックアウトAHASアレルは、インフレームの終止コドンが二重ヌクレオチド置換によってAHASコード配列に導入されているナンセンス突然変異を含むAHASアレルである。また別の実施形態では、完全ノックアウトAHASは、インフレームの終止コドンが三重ヌクレオチド置換によってAHASコード配列に導入されているナンセンス突然変異を含むAHASアレルである。切断タンパク質は、突然変異の下流(3’)のコードDNAによってコードされたアミノ酸(すなわち、AHASタンパク質のC末端部分)を欠き、突然変異の上流(5’)のコードDNAによってコードされたアミノ酸(すなわち、AHASタンパク質のN−末端部分)を保持する。したがって、(配列番号:2のaa508〜607もしくは配列番号:4のaa493〜592もしくは配列番号:6のaa490〜589をコードする)第2の二量体接触部分をコードするヌクレオチドの上流のどこかにあるまたはそのようなヌクレオチドを含むナンセンス突然変異を含む突然変異体AHASアレルは、完全ノックアウトAHASアレルを生じさせる。また、タバコAHASタンパク質のM542およびH142に対応するアミノ酸が改変されているAHASタンパク質、ならびにタバコAHASタンパク質に対応するaa567〜582の領域とaa630のC末端の領域が改変されているAHASタンパク質をコードするAHASアレルも、完全ノックアウトAHASアレルであると考えられる。
【0079】
本発明はまた、そのゲノム中に少なくとも1つの第2の突然変異体AHASアレルをさらに含む植物であって、この第2の突然変異体AHASアレルが除草剤耐性AHASタンパク質をコードする、植物を提供する。除草剤耐性AHASタンパク質の例は、本出願中の他の場所に、ならびに例えば、Dugglebyら(Plant Phys.Biochem.46,p309−324,2008)、国際公開第08/124495号パンフレットおよび国際公開第09/031031号パンフレットに記載されている。当業者は、特定の除草剤耐性AHASアレルを選ぶことにより、特定のAHAS阻害除草剤に対する植物の耐性を決定することができる。例えば、P197S置換は、例えば、チエンカルバゾン−メチルに対する耐性を付与するが、例えば、残基653におけるSerからAsnへの置換は、イミダゾリノンに対する耐性を付与する(Sathasivan et al.,Plant Physiol.97(3):1044−1050,1991)。
【0080】
本発明によるそのような除草剤耐性AHASタンパク質、またはその変異体のアミノ酸配列は、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:6との少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、98%、99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。これらのアミノ酸配列は、配列表に示したAHAS配列と「本質的に同様」または「本質的に同一」であると表すこともできる。
【0081】
植物中のノックアウトAHASアレルと除草剤耐性AHASアレルの組合せによって置き換えられる野生型(非除草剤耐性)AHASアレルが多ければ多いほど、除草剤耐性AHASタンパク質から構成されるAHAS多量体が多くなり、植物の除草剤耐性が大きくなることが理解されるであろう。
【0082】
したがって、別の実施形態では、除草剤耐性AHASアレルおよび完全ノックアウトAHASアレルだけを含み、もはや活性型AHAS遺伝子の野生型(非除草剤耐性)AHASアレルを含まない植物を提供する。この実施形態は、全ての(非除草剤耐性)野生型アレルが完全ノックアウトAHASアレルによって置き換えられているが、除草剤耐性AHASをコードする導入遺伝子が導入されている植物も包含する。
【0083】
本明細書で使用するように、活性型AHAS遺伝子は、AHASタンパク質機能に寄与するAHAS遺伝子を指す。例えば、本出願中の他の場所に記載したようなセイヨウアブラナ(B.napus)では、セイヨウアブラナ(B.napus)ゲノム中に存在する合計5つのAHAS遺伝子のうちのAHAS1遺伝子およびAHAS3遺伝子だけが活性型AHAS遺伝子である。
【0084】
本発明の突然変異体AHASアレルを含む植物細胞を提供することも本発明の実施形態である。伝統的な育種法によって生産される、本発明の突然変異体AHASアレルを含む植物の配偶子、種子、接合胚もしくは体細胞胚のいずれか、子孫または雑種もまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0085】
本発明はさらに、
e)受託番号NCIMB41690の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS1−HETO112を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
f)受託番号NCIMB41687の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO102を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
g)受託番号NCIMB41688の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO103を含むアブラナ属(Brassica)の種子;または
h)受託番号NCIMB41689の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO104を含むアブラナ属(Brassica)の種子
からなる群から選択されるアブラナ属(Brassica)の種子を提供する。
【0086】
上記の種子から得られる、アブラナ属(Brassica)植物、またはその細胞、部分、種子もしくは子孫も提供する。
【0087】
本発明はさらに、完全ノックアウトAHASアレルを表す核酸配列を提供する。野生型AHASアレルの核酸配列は配列表に示されており、一方、これらの配列ならびにこれらと本質的に同様の配列の突然変異体AHAS配列(ミスセンスおよびノックアウト)は、野生型AHAS配列を参照しながら、以下本明細書中におよび実施例に記載されている。
【0088】
本発明による「AHAS核酸配列」または「AHAS変異体核酸配列」は、配列番号:2、配列番号:4もしくは配列番号:6との少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列、または配列番号:1、配列番号:3もしくは配列番号:5との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有する核酸配列である。これらの核酸配列は、配列表に示したAHAS配列と「本質的に同様」または「本質的に同一」であると表すこともできる。
【0089】
AHAS遺伝子の(産生されるコードされた機能的なAHASタンパク質の消失もしくはその量の顕著な低下または産生されるAHASタンパク質の消失をもたらす1つ以上の突然変異を含む)完全ノックアウト突然変異体AHAS核酸配列を提供する。そのような突然変異体核酸配列(ahas配列と表す)は、以下でさらに記載するような、様々な公知の方法を用いて作製および/または同定することができ、かつ内在性形態と単離された形態の両方で提供される。一実施形態では、アブラナ科(Brassicaceae)、特に、アブラナ属(Brassica)種、とりわけ、セイヨウアブラナ(Brassica napus)由来の完全ノックアウト突然変異体AHAS核酸配列を提供するが、他のアブラナ属(Brassica)作物種由来の完全ノックアウト突然変異体AHAS核酸配列も提供する。例えば、Aゲノムおよび/またはCゲノムを含むアブラナ属(Brassica)種は、本発明による単一の植物中で同定し、かつ組み合わせることができるAHAS遺伝子の異なるアレルを含むことができる。さらに、突然変異誘発法を用いて、野生型AHASアレル中に突然変異を生成させ、それにより、本発明に従って用いられる突然変異体AHASアレルを生成させることができる。特定のAHASアレルは交配および選択によって植物中で組み合わせることが好ましいので、一実施形態では、AHAS核酸配列を、植物、例えば、アブラナ属(Brassica)植物、好ましくは、セイヨウアブラナ(Brassica napus)と交配することができるかまたは「合成」セイヨウアブラナ(Brassica napus)植物を作製するために用いることができるアブラナ属(Brassica)植物内で(すなわち、内在性に)提供する。異なるアブラナ属(Brassica)種間の交雑は、例えば、Snowdon(2007,Chromosome research 15:85−95)で言及されているように、当技術分野で記載されている。例えば、種間交雑を用いて、(そのCゲノムとBゲノムの間での非正統的組換えの散発的事象によって)例えば、セイヨウアブラナ(B.napus)のCゲノム(AACC)からアビシニアガラシ(B.carinata)のCゲノム(BBCC)に、または例えば、セイヨウアブラナ(B.napus)のCゲノム(AACC)からカラシナ(B.juncea)のBゲノム(AABB)にさえも遺伝子を移動させることができる。「再合成」または「合成」セイヨウアブラナ(Brassica napus)株は、もとの祖先であるブラッシカ・オレラセア(B.oleracea)(CC)とカブ(B.rapa)(AA)を交配することによって産生することができる。種間、そしてまた属間の不和合性障壁は、例えば、胚救出技術またはプロトプラスト融合によって、アブラナ属(Brassica)作物種とその近縁種との交配においてうまく乗り越えることができる(例えば、Snowdon、上記を参照されたい)。
【0090】
したがって、核酸分子は、既に上で詳細に記載されているような、1つ以上の突然変異、例えば、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異もしくは「終止コドン突然変異、挿入もしくは欠失突然変異、フレームシフト突然変異および/またはスプライス部位突然変異を含むことができる。基本的に、非機能的AHASタンパク質を形成させるかまたはAHASタンパク質を全く形成させない、野生型タンパク質と比べて少なくとも1つのアミノ酸挿入、欠失および/または置換を含むタンパク質を生じさせる突然変異はいずれも、完全ノックアウトAHASアレルを生じさせる。しかしながら、タンパク質の特定の部分における突然変異、例えば、機能的なアミノ酸残基またはドメインの重要な部分、例えば、二量体接触部分のうちの1つが欠失しているかまたは置換されている切断タンパク質を生じさせる突然変異は、非機能的AHASタンパク質を生じさせる可能性がより高いことが理解される。
【0091】
したがって、一実施形態では、上で記載した突然変異のタイプのいずれかのうちの1つ以上を含む核酸配列を提供する。別の実施形態では、1つ以上の終止コドン(ナンセンス)突然変異を含むahas配列を提供する。そのような配列を内在性に含む植物および植物部分と同様に、上記の突然変異体核酸配列のいずれかをそれ自体で(単離された形態で)提供する。本明細書中の下記表2には、最も好ましい完全ノックアウトAHASアレルが記載されている。
【0092】
突然変異体AHASアレルは、当技術分野で標準的な様々な方法を用いて、例えば、AHASゲノムDNAもしくはcDNAの一部もしくは全てを増幅するPCRに基づく方法を用いて、作製し(例えば、突然変異誘発によって誘導し)、かつ/または同定することができる。
【0093】
突然変異誘発後、植物を、処理した種子から成長させるか、または処理した細胞から既知の技術を用いて再生させる。例えば、突然変異させた種子を従来の成長手順に従って植え、自家受粉後に、種子を植物上に形成させる。あるいは、例えば、Coventryら(1988,Manual for Microspore Culture Technique for Brassica napus.Dep.Crop Sci.Techn.Bull.OAC Publication 0489.Univ.of Guelph,Guelph,Ontario,Canada)によって記載されているように、処理した小胞子または花粉細胞から倍加半数体の小植物体を取り出し、ホモ接合植物を直ちに形成させることができる。この世代またはその後の世代でのそのような自家受粉の結果として形成されるさらなる種子を収穫し、当技術分野で標準的な技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく技術(AHASアレルの増幅)もしくはハイブリダイゼーションに基づく技術、例えば、サザンブロット解析、BACライブラリースクリーニングなど、および/またはAHASアレルの直接シークエンシングを用いて、突然変異体AHASアレルの存在についてスクリーニングすることができる。突然変異体AHASアレル中の点突然変異(いわゆる単一ヌクレオチド多型またはSNP)の存在についてスクリーニングするために、当技術分野で標準的なSNP検出法、例えば、オリゴライゲーションに基づく技術、1塩基伸長に基づく技術(例えば、パイロシークエンシング)、または制限部位の違いに基づく技術(例えば、TILLING)を用いることができる。
【0094】
あるいは、1つ以上の突然変異体AHASアレルを含む植物または植物部分を、他の方法、例えば、PCRを用いて、高速中性子突然変異誘発により生成される欠失突然変異体についてスクリーニングする「Delete−a−gene(商標)」法(Li and Zhang,2002,Funct Integr Genomics 2:254−258により概説されている)、変性高速液体クロマトグラフィー(DHPLC)を用いて、EMS誘導性点突然変異を同定し、ヘテロ二重鎖解析によって塩基対変化を検出するTILLING(ゲノム中の局所損傷の標的化(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes))法(McCallum et al.,2000,Nat Biotech 18:455、およびMcCallum et al.2000,Plant Physiol.123,439−442)などを用いて作製および同定することができる。記述したように、TILLINGでは、(例えば、突然変異体−野生型DNAヘテロ二重鎖のCel 1切断およびシークエンシングゲルシステムを用いる検出を用いる)突然変異のハイスループットスクリーニングが用いられる。したがって、1つ以上の突然変異体AHASアレルを含む植物または植物部分を同定するためのTILLINGの使用、ならびにそのような植物、植物器官、組織および種子を作製および同定するための方法が本明細書に包含される。したがって、一実施形態では、本発明による方法は、植物種子の突然変異誘発(例えば、EMS突然変異誘発)、植物個体またはDNAのプール、目的の領域のPCR増幅、ヘテロ二重鎖形成およびハイスループット検出、突然変異体植物の同定、突然変異体PCR産物のシークエンシングといった工程を含む。他の突然変異誘発法および選択法を用いて、そのような突然変異体植物を同じように作製することができることが理解される。
【0095】
AHASアレルに突然変異を誘導する代わりに、当技術分野で公知の方法によって、天然の(自然発生的な)突然変異体アレルを同定することができる。例えば、ECOTILLING(Henikoff et al.2004,Plant Physiology 135(2):630−6)を用いて、複数の植物または植物部分を天然の突然変異体AHASアレルの存在についてスクリーニングすることができる。上記の突然変異誘発技術については、同定されたAHASアレルを後で交配(種間または種内交配)および選択によって他のアブラナ属(Brassica)種、例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)に導入することができるように、Aゲノムおよび/またはCゲノムを含むアブラナ属(Brassica)種をスクリーニングすることが好ましい。ECOTILLINGでは、個々の植物または植物のプールをAHAS標的のPCR増幅、ヘテロ二重鎖形成およびハイスループット解析に用いる上記のTILLING法によって、育種系統または関連種における天然の多型をスクリーニングする。この後、必要とされる突然変異を有する個々の植物を選択することができ、この植物を後に、所望の突然変異体アレルを組み入れる育種プログラムで用いることができる。
【0096】
次に、同定した突然変異体アレルをシークエンシングすることができ、配列を野生型アレルと比較して、突然変異を同定することができる。場合により、突然変異体アレルが除草剤耐性AHAS突然変異体アレルまたは完全ノックアウトAHAS突然変異体アレルとして機能するかどうかを上で示したように試験することができる。このアプローチを用いて、複数の突然変異体AHASアレル(およびこれらのうちの1つ以上を含むアブラナ属(Brassica)植物)を同定することができる。次に、所望の突然変異体アレルを、以下でさらに記載するような交配および選択法によって所望の野生型アレルと組み合わせることができる。最後に、所望の数の突然変異体AHASならびに所望の数の野生型およびまたは除草剤耐性AHASアレルを含む単一の植物を作製する。
【0097】
突然変異体AHASアレルまたは突然変異体AHASアレルを含む植物は、当技術分野で公知の方法、例えば、直接シークエンシング、PCRに基づくアッセイまたはハイブリダイゼーションに基づくアッセイによって同定または検出することができる。あるいは、本明細書で提供された特定の突然変異体AHASアレル特異的配列情報を用いて方法を開発することもできる。そのような代わりの検出法としては、インベーダー(商標)技術としても知られる、特定の核酸構造の侵襲的切断に基づく線形シグナル増幅検出法(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,985,557号明細書「核酸の侵襲的切断(Invasive Cleavage of Nucleic Acids)」、同第6,001,567号明細書「インベーダー介在性の切断による核酸配列の検出(Detection of Nucleic Acid sequences by Invader Directed Cleavage)」に記載されているもの)、RT−PCRに基づく検出法(例えば、Taqman)、または他の検出法(例えば、SNPlex)が挙げられる。簡潔に述べると、インベーダー(商標)技術では、標的突然変異配列を、例えば、突然変異配列のヌクレオチド配列または5’フランキング領域と突然変異領域の間の接続領域にまたがる配列を含む標識した第1の核酸オリゴヌクレオチドと、ならびに突然変異配列のすぐ下流および突然変異配列に隣接する3’フランキング配列を含む第2の核酸オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせることができ、ここで、第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドは、少なくとも1ヌクレオチド重複する。このハイブリダイゼーションによって生成される二重鎖または三重鎖構造は、標的配列を無傷にしたままで、酵素(クリベース(登録商標))による選択的プローブ切断を可能にする。切断された標識プローブは、その後、さらなるシグナル増幅をもたらす中間工程を介して検出される可能性がある。
【0098】
本発明はまた、1つの植物中での特定のAHASアレルの組合せ、1つの植物から別の植物への1つ以上の特定の突然変異体AHASアレルの移動、1つ以上の特定の突然変異体AHASアレルを含む植物、これらの植物から得られる子孫、ならびにこれらの植物に由来する植物細胞、植物部分、および植物種子に関する。
【0099】
したがって、本発明の一実施形態では、1つの植物から別の植物に少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを移動させる方法であって、
a.上で記載したような、少なくとも1つの完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を作製および/もしくは同定するか、または上で記載したような第1の植物(ここで、第1の植物は、少なくとも1つの完全ノックアウトAHASアレルについてホモ接合性またはヘテロ接合性である)を作製する工程と、
b.少なくとも1つの完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を、少なくとも1つの完全ノックアウトアレルを含まない第2の植物と交配し、交配種からF1種子(ここで、第1の植物がその完全ノックアウトAHASアレルについてホモ接合性である場合、種子は完全ノックアウトAHASアレルについてヘテロ接合性であり、第1の植物がその完全ノックアウトAHASアレルについてヘテロ接合性である場合、種子の半分はヘテロ接合性であり、種子の半分は非接合性である、すなわち、突然変異体AHASアレルを含まない)を回収し、場合により、上で記載したような、1つ以上の選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むF1植物を同定する工程と、
c.1つ以上の世代(x)の間、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むF1植物を、少なくとも1つの選択された突然変異体AHASアレルを含まない第2の植物と戻し交配し、交配種からBCx種子を回収し、上で記載したような、少なくとも1つの選択された突然変異体AHASアレルを含むBCx植物を全ての世代で同定する工程と
を含む、方法を提供する。
【0100】
本発明の別の実施形態では、1つの植物中で、上で記載したような完全ノックアウトAHASアレルを除草剤耐性AHASアレルと組み合わせる方法であって、
a.上で記載したような、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む少なくとも1つの植物および少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルを含む少なくとも1つの植物を作製および/または同定する工程と、
b.少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を、少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルを含む第2の植物と交配し、交配種からF1種子を回収し、場合により、上で記載したような、第1の植物由来の少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを、第2の植物由来の少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルとともに含むF1植物を同定する工程と、
c.場合により、全ての選択されたAHASアレルを含むF1植物が得られるまで工程(b)を繰り返す工程と
を含む、方法を提供する。
【0101】
別の実施形態では、本発明は、完全ノックアウトAHASアレルを含むが、好ましくは農業的に好適な発生を維持する、植物、特に、アブラナ属(Brassica)作物植物、例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)植物を産生する方法であって、上で記載したように、本発明によるAHASアレルを1つの植物中で組み合わせ、かつ/またはそのようなアレルを1つの植物に移動させることを含む、方法を提供する。
【0102】
本発明のまた別の実施形態では、除草剤に対して耐性があるが、農業的に好適な発生を維持する、植物、特に、アブラナ属(Brassica)作物植物、例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)植物を作製する方法であって、上で記載したように、本発明によるAHASアレルを1つの植物中で組み合わせ、かつ/またはそのようなアレルを1つの植物に移動させることを含む、方法を提供する。
【0103】
作物植物周辺の雑草を防除する方法であって、
a)少なくとも1つの完全ノックアウトAHASアレルおよび少なくとも1つの除草剤耐性AHASアレルを含む植物によって産生された種子を圃場に播種する工程と、
b)雑草を防除するために有効量のAHAS阻害除草剤を圃場の雑草および作物植物に適用することと、
c)場合により、工程a)の前に、有効量のAHAS阻害除草剤を圃場に適用する工程をさらに含む工程と
を含む、方法も提供する。
【0104】
本発明はまた、除草剤耐性植物を得るための、除草剤耐性植物、特に、アブラナ属(Brassica)作物植物、例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)植物を得るための本発明の完全ノックアウトAHASアレルの使用に関する。
【0105】
本発明はさらに、1つ以上の完全ノックアウトAHASアレルを含む種子を産生するための、または1つ以上の完全ノックアウトAHASアレルを含む菜種の作物を産生するための、植物、特に、アブラナ属(Brassica)作物植物、例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)植物の使用に関する。
【0106】
本明細書に記載の方法および手段は、全ての植物細胞および植物、双子葉植物と単子葉植物の両方の植物細胞、ならびに限定するものではないが、綿、アブラナ属(Brassica)野菜、菜種、小麦、コーンまたはトウモロコシ、大麦、アルファルファ、落花生、ヒマワリ、イネ、オート麦、サトウキビ、大豆、芝草、大麦、ライ麦、ソルガム、サトウキビ、野菜(チコリ、レタス、トマト、ズッキーニ、ピーマン、ナス、キュウリ、メロン、タマネギ、ニラネギを含む)、タバコ、ジャガイモ、テンサイ、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)をはじめとする植物だけでなく、園芸、草花栽培または林業(ポプラ、モミ、ユーカリなど)で用いられる植物にも好適であると考えられることが当業者には明白であろう。
【0107】
配列
配列番号:1:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(GenBank AY042819.1)由来のAHAS1遺伝子のゲノムDNA/コード配列
配列番号:2:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のAHASタンパク質のアミノ酸配列
配列番号:3:セイヨウアブラナ(Brassica napus)由来のAHAS1遺伝子のゲノムDNA/コード配列
配列番号:4:セイヨウアブラナ(Brassica napus)由来のAHAS1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号:5:セイヨウアブラナ(Brassica napus)由来のAHAS3遺伝子のゲノムDNA/コード配列
配列番号:6:セイヨウアブラナ(Brassica napus)由来のAHAS3タンパク質のアミノ酸配列
【実施例】
【0108】
実施例1−突然変異体アブラナ属(Brassica)AHASアレルの作製および単離
実施例1で同定されるAHAS1およびAHAS3遺伝子の突然変異は、以下の通りに作製および同定された:
− 優良な春菜種育種系統由来の30,000個の種子(M0種子)に、脱イオン水または蒸留水中の湿った濾紙の上で2時間水分を吸収させた。これらの種子の半分を0.8%のEMSに、半分を1%のEMS(Sigma:M0880)に曝露させて、4時間インキュベートした。
− 突然変異させた種子(M1種子)を3回すすぎ、ドラフト内で一晩乾燥させた。30,000個のM1植物を土壌中で成長させ、自家受粉させて、M2種子を作製した。M2種子を各々1つ1つのM1植物について収穫した。
− 二度、異なるM1植物に由来する4800個のM2植物を成長させ、CTAB法(Doyle and Doyle,1987,Phytochemistry Bulletin 19:11−15)に従って、DNAサンプルを各々1つ1つのM2植物の葉サンプルから調製した。
− 標準的なシークエンシング技術(Agowa)によって直接的にシークエンシングし、NovoSNPソフトウェア(VIB Antwerp)を用いて点突然変異の存在について配列を解析することによって、DNAサンプルを、アミノ酸置換(ミスセンス突然変異)を引き起こすAHAS1およびAHAS3遺伝子中の点突然変異の存在またはAHAS遺伝子のタンパク質コード領域中の終止コドン(潜在的な完全ノックアウト突然変異)の導入についてスクリーニングした。
− このようにして、以下の突然変異体AHASアレルを同定した。
【0109】
【表4】

【0110】
結論として、上記実施例は、いかにして突然変異体AHASアレルを作製し、単離することができるかということを示している。また、そのような突然変異体アレルを含む植物材料を用いて、以下の実施例で記載されているように、選択された突然変異体および/またはノックアウトアレルを植物中で組み合わせることができる。
【0111】
実施例2−突然変異体アブラナ属(Brassica)AHASアレルを含むアブラナ属(Brassica)植物の同定
実施例1で同定したAHAS遺伝子中の突然変異を含むアブラナ属(Brassica)植物を以下のように同定した:
− M2植物のDNAサンプルで同定した各々の突然変異体AHASアレルについて、AHAS突然変異を含むM2植物と同じM1植物に由来する少なくとも48個のM2植物を成長させ、DNAサンプルを各々1つ1つのM2植物の葉サンプルから調製した。
− DNAサンプルを、上で実施例1に記載されているように、同定されたAHAS点突然変異の存在についてスクリーニングした。
− 同じ突然変異を含むヘテロ接合およびホモ接合(電気泳動図に基づいて決定される)M2植物を自家受粉させて、戻し交配し、BC1種子を収穫した。
【0112】
実施例3−完全ノックアウトAHASアレルの評価
終止コドン突然変異(HETO102、HETO103、HETO104、HETO112)が、実際に、完全ノックアウトAHASアレル、すなわち、二量体化することができないAHASタンパク質をコードするかまたは全くAHASタンパク質をコードしないAHASアレルを生じさせたかどうかを評価するために、以下の交配を実施した:
1回のBC1交配:
(+=野生型アレル、−=突然変異体アレル)
AHAS1 +/− × AHAS3 +/−
二重BC1植物を生じさせる:
25%AHAS1 +/−、AHAS3 +/−、25%AHAS1 +/−、AHAS3 +/+、25%AHAS1 +/+、AHAS3 +/−および25%AHAS1 +/+、AHAS3+/+。
二重BC2交配:
AHAS1 +/−、AHAS3 +/−(選択された二重BC1植物) × AHAS1 +/+、AHAS3 +/+
二重BC2植物を生じると考えられる:
25%AHAS1 +/−、AHAS3 +/−、25%AHAS1 +/−、AHAS3 +/+、25%AHAS1 +/+、AHAS3 +/−および25%AHAS1 +/+、AHAS3 +/+
【0113】
各々のAHAS1 +/−、AHAS3 +/− × AHAS1 +/+、AHAS3 +/+交配のうち、24個の子孫植物(二重BC2)を直接シークエンシングによって遺伝子型について解析した(表3)。
【0114】
【表5】

【0115】
二重ヘテロ接合BC1植物は回収されなかったので、これらの結果は、AHAS1ノックアウトアレルとAHAS3ノックアウトアレルの両方を含む花粉が生育不能であることを示し、HETO102、HETO103、HETO104およびHETO112終止コドン突然変異が実際に、完全ノックアウトアレルとして機能することを示唆する。
【0116】
実施例4−突然変異体AHASアレルを含むアブラナ属(Brassica)植物の除草剤耐性の測定
温室内で成長したアブラナ属(Brassica)植物中のミスセンスおよび/または完全ノックアウトAHASアレルの存在とチエンカルバゾン−メチルに対する耐性の相関を以下のように決定した。実施例1および2で同定したアブラナ属(Brassica)植物の中から、交配を行なって、突然変異体AHAS1とAHAS3アレルの両方を含む植物(F1)を得た。その後、これを戻し交配して、自家受粉させた(BC1S1)。単一遺伝子AHASミスセンス突然変異体を2回戻し交配した(BC2)。これらのBC1S1(あり得る全ての遺伝子型組合せを表す)、およびBC2単一AHAS遺伝子突然変異体植物(50% +/+、50% +/−)を温室内で植え付けた。1〜2葉期での出芽後処理を5g a.i./haの用量のチエンカルバゾン−メチルを用いて実施し、噴霧10日後、生き残った植物を9cmの鉢に移植した。これらの植物を、移植20日後の表現型(高さ、枝分かれおよび葉の形態)について5〜1のスケールで評価した;タイプ5=正常(噴霧されていない野生型表現型に対応する);タイプ4=正常な高さ、若干の枝分かれ、正常な葉;タイプ3=中間の高さ、中間の枝分かれ、正常な葉;タイプ2=低い、重度の枝分かれ(「株立ち(bushy)」)、若干の葉の奇形;タイプ1=低い、重度の枝分かれ(「株立ち」)、重度の葉の奇形(表4)。
【0117】
【表6】

【0118】
HETO108またはHETO111のみを含むBC2種子のうち、発芽した種子の約半分が噴霧を切り抜けて生き残り、全てタイプ1植物またはタイプ2植物へと成長した。これは、AHAS1−P197SとAHAS3−P197S突然変異が両方とも除草剤耐性を付与すること、およびこれらの生き残った植物が単一ミスセンス突然変異についてヘテロ接合性の植物(AHAS1 HETO108/+、AHAS3 +/+およびAHAS1 +/+、AHAS3 HETO111/+)であったのに対し、生き残れなかった植物は野生型分離個体(AHAS1 +/+、AHAS3 +/+)であった可能性が高いことを示している。驚くことに、BC1S1植物において、一方のAHAS遺伝子中のP197S突然変異をもう一方のAHAS遺伝子中のノックアウトアレル(HETO108/HETO102、HETO108/HETO103、HETO108/HETO104、HETO112/HETO111)と組み合わせたとき、発芽した種子の約4分の3が噴霧を切り抜けて生き残り、そのうちの約4分の1がタイプ3の植物へと成長し、残りはタイプ2また1へと成長した。これは、生き残れなかった植物の4分の1がやはり野生型分離個体であり、生き残った植物は突然変異体アレルを含むことを示唆している。
【0119】
次に、2つのP197S−ノックアウト組合せ、HETO108/HETO104およびHETO111/HETO112の中から、各植物タイプの10個の植物(入手可能な場合)を直接シークエンシングによりジェノタイピングした(表5)。植物タイプごとの遺伝子型分布を比較したとき、ミスセンスアレルの量および完全ノックアウトアレルの量がタイプ1からタイプ3、4および5へと徐々に増加しているようであった。ミスセンスアレル対活性型AHASアレル(ミスセンスアレル+野生型アレル)の比もまた、HETO108/HETO104およびHETO111/HETO112について、ぞれぞれ、タイプ1植物の平均値0.32および0.33、タイプ2植物の平均値0.65および0.65から、タイプ3植物の平均値0.74および0.88へと植物タイプに伴って増加した。タイプ4植物およびタイプ5植物は、HETO108/HETO104植物でのみ観察され、このうち、タイプ4植物は、0.83という平均のミスセンスアレル対活性型アレル比を示した。1つのタイプ5植物は、おそらく噴霧の間に失われた。
【0120】
【表7】

【0121】
これらの結果は、AHASタンパク質プールに対する除草剤耐性AHASタンパク質の寄与が大きければ大きいほど、植物の除草剤耐性のレベルが高いことを示している。
【0122】
別の実験では、チエンカルバゾン−メチルの植付け前適用およびチエンカルバゾン−メチル出芽後噴霧に対する耐性に対するAHAS完全ノックアウトとAHASミスセンス除草剤耐性アレルの組合せの効果を温室内で試験した。この目的のために、実施例1および2で同定したアブラナ属(Brassica)植物を優良親株と2回戻し交配し、その後、2回自家受粉させて、ホモ接合植物(BC2S2)を得た。20g a.i./haの用量のチエンカルバゾンメチルを散布した直後に土壌に対して植付け前処理を実施した。活力スコアの評価のために、植物を1〜9のスケールで評価した。この場合、1=枯死、3=不良、6=一部の異常な表現型および9=活力ありである。活力スコアは、処理の2、3および4週間後に計られたスコアの平均である。第1葉期での出芽後処理を10g a.i./haの用量のチエンカルバゾン−メチルを用いて実施した。活力スコアは、処理後の1、2および3週間後に計られたスコアの平均である。活力スコアの平均値(Av)および標準偏差(SD)を表6に示す。処理後の植物の代表的な写真を図2および3に示す。
【0123】
【表8】

【0124】
表6ならびに図2および3は、チエンカルバゾン−メチルによる植付け前処理と出芽後噴霧の両方により、一方のAHAS遺伝子がミスセンス除草剤耐性アレルについてホモ接合性であり、もう一方のAHAS遺伝子が完全ノックアウトアレルについてホモ接合性である植物が、一方のAHAS遺伝子がミスセンス除草剤耐性アレルについてホモ接合性であり、もう一方のAHAS遺伝子がホモ接合野生型である植物よりも高いチエンカルバゾン−メチル耐性を示すことを示している。これらの結果は、AHASタンパク質プールに対する除草剤耐性AHASタンパク質の寄与が大きければ大きいほど、植物の除草剤耐性のレベルが高いという考えをさらに支持するものである。
【0125】
実施例5−圃場での突然変異体AHASアレルを含むアブラナ属(Brassica)植物の除草剤耐性の測定
AHAS完全ノックアウトアレルを含む植物の成長および性能を評価するために、ならびにアブラナ属(Brassica)植物中の完全ノックアウトおよびミスセンスAHAS遺伝子の存在と圃場でのアブラナ属(Brassica)植物の植物成長および除草剤耐性との相関をさらに解析するために、試験を設定し、実施した。この目的のために、実施例1および2で同定したアブラナ属(Brassica)植物を優良親株と2回戻し交配し、その後、2回自家受粉させて、ホモ接合植物(BC2S2)を得た。植物は、3つの複製物を作って、分割法(split plot design)の列条試験区(row plots)(主試験区=除草剤処理、副試験区=遺伝子型)としてカナダの2つの場所で成長させた。0(処理A)、10(処理B)、20(処理C)または30(処理D)g a.i./haの用量のチエンカルバゾンメチルを散布する約2日前に土壌に対して植付け前処理を実施した。様々なパラメータについてスコア化することにより、除草剤耐性を測定した。子葉期にパラメータ出現(ERG)をスケール1〜9でスコア化した。この場合、1は後期出現を意味し、9は早期出現を意味する。散布14日後(EST1)および散布21日後(EST2)に、樹立をスコア化した。スコアは1〜9であった。この場合、1は最も悪い樹立(出現した植物が最も少ない)であり、9は最も良好な樹立(大部分の植物が出現する)である。樹立後に植物毒性(PPTOX)を決定した。植物を1〜9のスケールで評価した。この場合、1=完全黄変、5=植物の50%が黄色および9=黄変なしである。活力スコア(上記参照)を1〜2葉期(VIG1)、VIG1の7日後(VIG2)およびVIG1の14日後(VIG3)に決定した。様々なパラメータについてのスコアの平均値(Av)および標準偏差(SD)を表7a〜gに示す。
【0126】
【表9】

【0127】
【表10】

【0128】
【表11】

【0129】
【表12】

【0130】
【表13】

【0131】
【表14】

【0132】
【表15】

【0133】
【表16】

【0134】
【表17】

【0135】
【表18】

【0136】
【表19】

【0137】
【表20】

【0138】
【表21】

【0139】
【表22】

【0140】
表7は、ホモ接合形態のどちらのノックアウトアレルの存在も、驚くことに、未処理条件下での全体的な植物の見た目および圃場での成長に対して負の効果を与えないことを示している。さらに、ミスセンスアレルによって付与された除草剤耐性に対するノックアウトアレルの寄与を求めた。まず、除草剤処理とは無関係に、成長それ自体の考えられる効果についてスコアを補正した。この目的のために、処理B、CおよびDのスコアを、同じ遺伝子型および同じパラメータの処理Aのスコアで割った(補正した除草剤耐性スコア)。次に、ミスセンスアレルによって得られるこれらの補正した除草剤耐性スコアに対するノックアウトアレルの効果を求めた。そのため、ミスセンス−ノックアウトアレル組合せの補正した除草剤耐性スコアを、ミスセンスアレル−野生型組合せの補正した除草剤耐性スコアで割った。ノックアウトアレルが、ミスセンスアレルによって付与された除草剤耐性に対して効果がない場合、この比は1となるはずである。ノックアウトアレルがミスセンスアレルによって付与された除草剤耐性に対して正に寄与する場合、この比は1より大きいはずである。上で求められたミスセンスアレルによって付与された除草剤耐性に対するノックアウトアレルの寄与の結果を表8に示す。
【0141】
【表23】

【0142】
表8において、特定の条件下では、ノックアウトアレルが存在するときに除草剤耐性が向上する傾向があることを理解することができる。例えば、ノックアウトアレルHETO104が、場所Bにおけるより高い除草剤濃度のPPTOX、VIG1、VIG2およびVIG3に対して正の効果を有するのに対し、ノックアウトアレルHETO112は、場所Aにおける中間から高い除草剤濃度のERG、EST1、EST2、PPTOX、VIG1、VIG2およびVIG3に対して正の効果を有する。場所AとBの違いは、場所Bにおける処理後の、記録されたより激しい降雨によって説明することができる。この降雨は、場所Bで除草剤処理したときの野生型植物のわずかにより優れた性能(表7;雨は、土壌中の除草剤濃度を希釈した可能性がある)、および場所Bで除草剤処理をしていない場合の野生型植物のわずかにより劣った性能(表7;正常な成長のための準最適(湿)条件)を説明することもできる。
【0143】
場所Aの圃場でのアブラナ属(Brassica)植物の植物成長および除草剤耐性に対するアブラナ属(Brassica)植物中の完全ノックアウト遺伝子の存在とミスセンスAHAS遺伝子の存在の相関も、出芽後除草剤処理によって試験した。圃場の設定は、植付け前試験と同じにした。出芽後処理は、0(処理A)、10(処理B)、20(処理C)g a.i./haのチエンカルバゾンメチルの割合で2〜4葉期に実施した。上で記載した通りに、植物毒性(PPTOX)および活力1(VIG1;除草剤噴霧7日後の活力スコア)を決定した。様々なパラメータについてのスコアの平均値(Av)および標準偏差(SD)を表9に示す。
【0144】
【表24】

【0145】
表9に示すように、この圃場試験でも、植物成長それ自体に対するノックアウトAHASアレルの負の効果はない。出芽後処理による除草剤耐性に対するノックアウトアレルの寄与に関しては、データが1つの場所からしか得られずに数が限られているので、結論を出すことができない。
【0146】
まとめると、表7、8および9に示す圃場結果は、重要なことに、ホモ接合状態でのノックアウトアレルHETO112(AHAS1)およびHETO104(AHAS3)の存在が圃場での植物成長に負の影響を与えないことを示している。さらに、表8において、特定の条件下では、ノックアウトAHASアレルが、圃場でのミスセンスアレルによって付与された除草剤耐性に対して正に寄与することを理解することができる。
【0147】
実施例6−突然変異体AHASアレルの検出および/または(優良)アブラナ属(Brassica)株への移動
突然変異体AHAS遺伝子を以下の方法で(優良)アブラナ属(Brassica)育種系統に移動させた:突然変異体AHAS遺伝子(ドナー植物)を含む植物を(優良)アブラナ属(Brassica)株(優良親/反復親)または突然変異体AHAS遺伝子を欠く品種と交配する。以下の遺伝子移入スキームを用いる(突然変異体AHASアレルはAHASと略し、野生型はAHASと表す):
初回交配:ahas/ahas(ドナー植物) × AHAS/AHAS(優良親)
F1植物:AHAS/ahas
BC1交配:AHAS/ahas × AHAS/AHAS(反復親)
BC1植物:50%AHAS/ahasおよび50%AHAS/AHAS
50%ahas/AHASは、直接シークエンシングによって、または突然変異体AHASアレル(ahas)の分子マーカー(例えば、AFLP、PCR、Invader(商標)、TaqMan(登録商標)など)を用いて選択する。
BC2交配:AHAS/AHAS(BC1植物) × AHAS/AHAS(反復親)
BC2植物:50%AHAS/ahasおよび50%AHAS/AHAS
50%AHAS/AHASは、直接シークエンシングによって、または突然変異体AHASアレル(ahas)の分子マーカーを用いて選択する。
戻し交配をBC3〜BC6まで繰り返す。
BC3〜6植物:50%AHAS/ahasおよび50%AHAS/ahas
50%AHAS/ahasは、突然変異体AHASアレル(ahas)の分子マーカーを用いて選択する。(例えば、BC6の代わりにBC3まで)戻し交配の数を減らすために、優良親の遺伝子バックグラウンドに特異的な分子マーカーを用いることができる。
BC3〜6 S1交配:AHAS/ahas × AHAS/ahas
BC3〜6 S1植物: 25%AHAS/AHASおよび50%AHAS/ahasおよび25%ahas/ahas
ahasを含む植物は、突然変異体AHASアレル(AHAS)の分子マーカーを用いて選択する。突然変異体AHASアレル(ahas/ahas)についてホモ接合性である個々のBC3〜6 S1またはBC3〜6 S2植物は、突然変異体および野生型AHASアレルの分子マーカーを用いて選択する。次に、これらの植物を種子産生に用いる。
【0148】
AHASアレル中に点突然変異を含む植物について選択するために、当技術分野で公知の標準的なシークエンシング技術(例えば、実施例1に記載したもの)による直接シークエンシングを用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
そのゲノム中に少なくとも1つの突然変異体AHASアレルを含み、前記突然変異体AHASアレルが完全ノックアウトAHASアレルである植物。
【請求項2】
前記完全ノックアウトアレルが終止コドン突然変異を含む、請求項1に記載の植物。
【請求項3】
前記完全ノックアウトアレルが、
a)配列番号:1のnt871〜873もしくは配列番号:3のnt826〜828に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
b)配列番号:1のnt862〜864もしくは配列番号:5のnt808〜810に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
c)配列番号:1のnt775〜777もしくは配列番号:5のnt721〜723に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;または
d)配列番号:1のnt799〜801もしくは配列番号:5のnt745〜747に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の植物。
【請求項4】
そのゲノム中に少なくとも1つの第2の突然変異体AHASアレルをさらに含み、前記第2の突然変異体AHASアレルが除草剤耐性AHASタンパク質をコードする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物。
【請求項5】
前記除草剤耐性AHASタンパク質が、配列番号:2の位置197、または配列番号:4の位置182または配列番号:6の位置179に対応する位置にセリンを含む、請求項3または4に記載の植物。
【請求項6】
前記除草剤耐性AHASタンパク質が少なくとも2つのアミノ酸置換を含む、請求項4または5に記載の植物。
【請求項7】
前記除草剤耐性AHASタンパク質が、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:6との少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項4〜6のいずれか一項に記載の植物。
【請求項8】
前記AHASアレルが、配列番号:1、配列番号:3または配列番号:5との少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の植物。
【請求項9】
カラシナ(B.juncea)、セイヨウアブラナ(B.napus)、カブ(B.rapa)、アビシニアガラシ(B.carinata)、ブラッシカ・オレラセア(B.oleracea)およびクロガラシ(B.nigra)からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の植物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の植物の植物細胞、種子、または子孫。
【請求項11】
a)受託番号NCIMB41690の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS1−HETO112を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
b)受託番号NCIMB41687の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO102を含むアブラナ属(Brassica)の種子;
c)受託番号NCIMB41688の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO103を含むアブラナ属(Brassica)の種子;または
d)受託番号NCIMB41689の下、2009年12月17日にNCIMB Limitedに寄託されたAHAS3−HETO104を含むアブラナ属(Brassica)の種子
からなる群から選択される、アブラナ属(Brassica)の種子。
【請求項12】
請求項11に記載の種子から得られる、アブラナ属(Brassica)植物、またはその細胞、部分、種子もしくは子孫。
【請求項13】
完全ノックアウトAHASアレルをコードする核酸分子。
【請求項14】
終止コドン突然変異を含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記ヌクレオチド配列が、
a)配列番号:1のnt871〜873もしくは配列番号:3のnt826〜828に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
b)配列番号:1のnt862〜864もしくは配列番号:5のnt808〜810に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
c)配列番号:1のnt775〜777もしくは配列番号:5のnt721〜723に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;または
d)配列番号:1のnt799〜801もしくは配列番号:5のnt745〜747に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列
からなる群から選択される、請求項13または14に記載の核酸分子。
【請求項16】
配列番号:1、配列番号:3または配列番号:5との少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項13〜15のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項17】
1つの植物から別の植物に少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを移動させるための方法であって、
a)請求項13〜16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を同定するかまたは請求項13〜16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む第1の植物を作製する工程と、
b)前記第1の植物を前記少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含まない第2の植物と交配し、前記交配種からF1雑種種子を回収する工程と、
c)場合により、前記少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むF1植物を同定する工程と、
d)少なくとも1世代(x)の間、前記少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むF1植物を、前記少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含まない第2の植物と戻し交配し、前記交配種からBCx種子を回収する工程と、
e)前記少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含むBCx植物を全ての世代で同定する工程と
を含む、方法。
【請求項18】
1つの植物中で請求項13〜16のいずれか一項に記載の完全ノックアウトAHASアレルを除草剤耐性AHASアレルと組み合わせるための方法であって、
a)少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルを含む少なくとも1つの植物および少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルを含む少なくとも1つの植物を作製および/または同定する工程と、
b)前記少なくとも2つの植物を交配し、前記少なくとも1つの交配種からF1雑種種子を回収する工程と、
c)場合により、少なくとも1つの選択された完全ノックアウトAHASアレルおよび前記少なくとも1つの選択された除草剤耐性AHASアレルを含むF1植物を同定する工程と
を含む、方法。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の植物を産生する方法であって、請求項17または18に従って、1つの植物中で突然変異体AHASアレルを組み合わせることおよび/または1つの植物に突然変異体AHASアレルを移動させることを含む、方法。
【請求項20】
植物の除草剤耐性を増大させるための方法であって、前記植物のゲノムDNA中で少なくとも1つの完全ノックアウトAHASアレルと少なくとも1つの除草剤耐性AHASアレルとを組み合わせることを含む、方法。
【請求項21】
前記完全ノックアウトアレルが、
a)配列番号:1のnt871〜873もしくは配列番号:3のnt826〜828に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
b)配列番号:1のnt862〜864もしくは配列番号:5のnt808〜810に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;
c)配列番号:1のnt775〜777もしくは配列番号:5のnt721〜723に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列;または
d)配列番号:1のnt799〜801もしくは配列番号:5のnt745〜747に対応する位置に終止コドンを含むヌクレオチド配列
からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記完全ノックアウトアレルが、配列番号:1、配列番号:3または配列番号:5との少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
作物植物周辺の雑草を防除する方法であって、
a)請求項4〜9のいずれか一項に記載の植物によって産生された種子を圃場に植える工程と、
b)前記雑草を防除するために有効量のAHAS阻害除草剤を前記圃場の前記雑草および前記作物植物に適用することと
を含む、方法。
【請求項24】
工程a)の前に、有効量のAHAS阻害除草剤を前記圃場に適用する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記植物を1種以上のAHAS阻害除草剤で処理することを特徴とする、請求項4〜9のいずれか一項に記載の植物を処理する方法。
【請求項26】
前記AHAS阻害除草剤が、スルホニル尿素、イミダゾリノン、スルホニルアミノカルボニルトリアゾリノン、トリアゾロピリミジンおよびピリミジル(オキシ/チオ)ベンゾエートからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記AHAS阻害除草剤が、メチル4−[(4,5−ジヒドロ−3−メトキシ−4−メチル−5−オキソ−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)カルボニルスルファモイル]−5−メチルチオフェン−3−カルボキシレートである、請求項23〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記植物が、少なくとも5.0g a.i./haのメチル4−[(4,5−ジヒドロ−3−メトキシ−4−メチル−5−オキソ−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)カルボニルスルファモイル]−5−メチルチオフェン−3−カルボキシレートの適用に対して耐性がある、請求項23〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記植物が、カラシナ(B.juncea)、セイヨウアブラナ(B.napus)、カブ(B.rapa)、アビシニアガラシ(B.carinata)、ブラッシカ・オレラセア(B.oleracea)およびクロガラシ(B.nigra)からなる群から選択される、請求項17〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
除草剤耐性植物を得るための請求項13〜16のいずれか一項に記載の完全ノックアウトAHASアレルの使用。
【請求項31】
1つ以上の完全ノックアウトAHASアレルを含む種子を産生するための請求項1〜9または12のいずれか一項に記載の植物の使用。
【請求項32】
1つ以上の完全ノックアウトAHASアレルを含む菜種の作物を産生するための請求項1〜9または12のいずれか一項に記載の植物の使用。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate


【公表番号】特表2013−514791(P2013−514791A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545130(P2012−545130)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007483
【国際公開番号】WO2011/076345
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512135126)バイエル・クロップサイエンス・エヌ・ヴェー (5)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE N.V.
【Fターム(参考)】