説明

除電器の放電用電極

【課題】 複数本の導電性繊維の束の広がりを防止することができる除電器の放電用電極を提供する。
【解決手段】 除電器の放電用電極5を複数本の導電性繊維の束6により構成する。除電器の放電用電極5は、複数本の導電性繊維の束6が広がることを防止する広がり防止手段11を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の導電性繊維の束により構成された除電器の放電用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平5−36465号公報(特許文献1)及び特開2000−340393号公報(特許文献2)には、絶縁ケースの内部に配置された複数本の導電性繊維の束により構成された放電用電極と、複数本の導電性繊維の束の一方の端部をかしめにより拘束するかしめ金具とを備えた除電器が開示されている。このタイプの除電器では、放電用電極に高電圧を印加して放電用電極の周囲にコロナ放電を発生し、このコロナ放電により放電用電極の周囲の雰囲気の一部を電離させて、この電離により発生したイオンを除電対象に向かって放出することにより除電を行う。
【特許文献1】特開平5−36465号公報
【特許文献2】特開2000−340393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記タイプの除電器で用いられている従来の放電用電極では、使用を継続していくと、複数本の導電性繊維の束の拘束されていない部分が横方向に広がってしまう問題があった。
【0004】
本発明の目的は、複数本の導電性繊維の束の広がりを防止することができる除電器の放電用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の除電器の放電用電極は、複数本の導電性繊維の束により構成されており、複数本の導電性繊維の束が広がることを防止する広がり防止手段を備えている。そのため長期にわたって使用を継続しても、導電性繊維の束が広がることがなく、放電用電極の寿命を従来よりも延ばすことができる。広がり防止手段としては、種々の構成を採用することができる。特に広がり防止手段として、複数本の導電性繊維の束に含浸された合成樹脂を用いると、簡単な構造で導電性繊維の広がりを防止することができる。
【0006】
本発明の放電用電極及びこの放電用電極を備えた除電器のより具体的な構成は以下のとおりである。除電器は、絶縁ケースの内部に配置された複数本の導電性繊維の束により構成された放電用電極と、放電用電極が固定され且つ絶縁ケースに固定される導電性取付部材と、複数本の導電性繊維の束の一方の端部をかしめにより拘束し且つ導電性取付部材に対して固定するかしめ金具とを備えている。そして導電性繊維の束の一方の端部に隣接し且つかしめ金具によっては拘束されていない複数本の導電性繊維の束の一部分に、該一部分の広がりを防止するように接着剤(広がり防止手段)を含浸させる。使用する接着剤は、無機系の接着剤または有機系の接着剤のいずれでもよい。例えば、シリコーン系接着剤を用いると、粘性にもよるが、ある程度の厚みを持った被覆部が形成できる。この被覆部は、放電用電極を大量生産する際及び自動パーツフィーダにより自動送給する際に、他の放電用電極と絡み合うまたは引っ掛かることを防止する機能を果たす。なお接着剤の材料は、樹脂系だけでなく、糊等のデンプン系、セルロース系接着剤等であってもよい。接着剤は、複数本の導電性繊維の束の表面部に位置する導電性繊維を拘束するだけでなく、束の内部にも浸入するため、束の内部においても導電性繊維相互間を結合することができる。そのため長期間に亘って使用した場合でも、接着剤により固められた部分が広がることはなく、導電性繊維の広がりを有効に防止することができる。なお接着剤が含浸されていない部分では繊維の広がりが発生するが、接着剤を含浸させる領域を適宜に定めることにより、導電性繊維が必要以上に広がることを有効に防止することができる。その結果、複数の導電性繊維のそれぞれの先端からの放電を長期に亘って維持することができる。
【0007】
接着剤は、導電性繊維の束の一部分とかしめ金具とに跨って、塗布するのが好ましい。このようにすると、かしめ金具と導電性繊維の束の接触部に形成される隙間に、塵埃が入り込むのを防止できる。またかしめ金具によるかしめ状態にバラツキがあっても、接着剤により導電性繊維の束とかしめ金具との電気的及び機械的結合を補助できる利点が得られる。
【0008】
なお、かしめ金具と導電性取付部材とは、一体に形成されていてもよいが、それぞれ別体に形成されているのが好ましい。この場合には、かしめ金具は、導電性取付部材との間に複数本の導電性繊維の束の一方の端部を挟むようにして、導電性取付部材にかしめ留めされる。かしめ金具と導電性取付部材とを別体に形成すれば、導電性取付部材は変形しにくい導電性材料で形成し、かしめ金具はアルミニウム等のように変形が容易な材料により形成することができる。その結果、導電性取付部材の取付を確実且つ安定した状態で行うことを可能にして、しかも金具によるかしめ留めを容易且つ確実なものとすることが可能になる。
【0009】
複数本の導電性繊維の束は、丸刷毛状に束ねられていても、また平刷毛状に束ねられていてもよく、その束ね方は任意である。特に複数本の導電性繊維の束を、平刷毛状に束ねる場合には、複数本の導電性繊維の束の一方の端部の導電性取付部材と対向する面及び一方の端部のかしめ金具と対向する面のいずれか一方の面に接着テープを貼っておいてもよい。このような接着テープを用いると、かしめ金具によるかしめ作業を行う際に、導電性繊維の束がバラバラになるのを防ぐことができるので、かしめ作業が容易なる。そして接着テープは一方の面に貼り付けられているだけであるため、接着テープが絶縁性を有するものであっても、導電性繊維の束の他方の面は導電性を有する導電性取付部材またはかしめ金具と確実に接触させて、電気的導通を確保することができる。
【0010】
なお導電性取付部材としては、厚み方向に対向する表面と裏面とを有する板形状を有しているものを用いるこができる。そして前述の接着テープとしては、両面接着テープを用いても良い。この場合には、両面接着テープにより導電性繊維の束の一方の端部の一方の面を導電性取付部材の表面に接合する。このようにすると、導電性取付部材に対して、両面接着テープを用いて導電性繊維の束の一方の端部を仮固定した状態で、かしめ金具によるかしめ作業を行うことができるので、作業性を大幅に向上させることができる。また、かしめ金具としては、両面接着テープにより導電性取付部材に接合されている一方の端部の他方の面と接触する接触部と、この接触部の両端に一体に設けられて導電性取付部材の裏面と接触するようにかしめられる一対の被かしめ部とを備えたものを用いることができる。このようなかしめ金具は、製造が入手が容易であり、また簡単にかしめ作業を行えるので、放電用電極の製造コストを下げることができる。
【0011】
なお接着テープとして、熱硬化性の導電性接着テープを用いると、接着テープの存在が導電性取付部及びかしめ金具との電気的な接続の障害となることがなくなる。
【0012】
また複数本の導電性繊維の束の一方の端部が固定される導電性取付部材の端部の先端面が、かしめ金具の接触部及び一対の被かしめ部よりも出っ張るように、かしめ金具は、導電性取付部材の先端面から下がった位置で、導電性取付部材に対してかしめ留めするのが好ましい。またかしめ金具の接触部及び一対の被かしめ部よりも出っ張った導電性取付部材の端部と、一対の被かしめ部と複数本の導電性繊維の束とに跨って接着剤を塗布し、裏面側被覆部をさらに形成してもよい。このような裏面側被覆部を形成すると導電性繊維の束と導電性取付部材との電気的な接続を強化することができる。また導電性繊維が導電性取付部材の先端面の縁部と擦れ合うことにより断裂することを防止できる。
【0013】
また絶縁ケースのイオン放出用開口部には、イオンの放出を阻害せず、且つイオン放出用開口部を通って進入物が入り、この進入物が放電用電極に接触するのを阻止するガード部材を設けてもよい。このようなガード部材を設ければ、除電器の安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の除電器の放電用電極によれば、複数本の導電性繊維の束が広がることを防止する広がり防止手段を備えているので、長期にわたって使用を継続しても、導電性繊維の束が広がることがなく、放電用電極の寿命を従来よりも延ばすことができる利点が得られる。また広がり防止手段として、複数本の導電性繊維の束に含浸された樹脂を用いると、簡単な構造で導電性繊維の広がりを防止することができる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の除電器の放電用電極の一実施の形態及びこの放電用電極を備えた除電器の一例について説明する。図1(A)及び(B)は、本実施の形態の放電用電極を用いた除電器の正面図及び底面図である。図2は、図1(A)の除電器の内部構造を示す断面図である。図3は、本実施の形態の放電用電極を導電性取付部材に固定した状態の拡大図である。これらの図において、符号1で示したものは、本実施の形態の放電用電極を用いた除電器1である。
【0016】
この除電器1は、絶縁ケース3、放電用電極5、導電性取付部材7及びかしめ金具9を備えている。絶縁ケース3は、後に詳しく説明するように二つ割になった絶縁樹脂製の絶縁ケース半部3a及び3bが組み合わされて構成された中空構造を有している。絶縁ケース3の一方の端部には、イオン放出用開口部4を有している。また絶縁ケース3のイオン放出用開口部4とは反対側の端部には、除電器1を各種の機器に設置する際に使用されるサドル2が設けられている。また、絶縁ケース3の一対の側壁部には、絶縁ケース3の内部に、後述する絶縁被覆電線13,15を導入するために一対の導入口17及び19が形成されている。絶縁ケース3の内部には、イオン放出用開口部4側に本実施の形態の放電用電極5が配置され、イオン放出用開口部4とは反対側に導電性取付部材7が配置されている。
【0017】
本実施の形態では、放電用電極5として、複数本の導電性繊維の束6から構成されたものを用いている。使用する導電性繊維は、繊維半径が0.2〜0.4mmのステンレス繊維であり、この実施の形態では40〜100本の導電性繊維が平刷毛状に束ねられている。た。放電用電極5は、導電性取付部材7に固定されている。導電性取付部材7は、放電用電極5を絶縁ケース3に固定するための導電性の部材であり、この例では導電性金属板により構成されている。導電性取付部材7の略中央の部分には、ネジ止め用の貫通孔7aが設けられている。図2に示すように導電性取付部材7の貫通孔7aにネジ8を貫通して、絶縁ケース半部3aの内壁部にネジ止めされることにより、導電性取付部材7は絶縁ケース3に対して固定されている。
【0018】
かしめ金具9は、複数本の導電性繊維の束6の一方の端部6aをかしめにより拘束し且つ導電性繊維の束6を導電性取付部材7に対して固定するための金具であり、その形状や材料等は任意に定めることができる。この例では、かしめ金具9を、変形が容易な材料(アルミニウム)により形成している。かしめ金具9は、導電性取付部材7と一体に形成されていてもよい。本例では、かしめ金具9と導電性取付部材7とが別体に形成されているため、導電性取付部材7を変形し難い導電性材料で形成し、かしめ金具9はこの例で用いるアルミニウム等のように変形が容易な材料により形成することができる。このようにすると、導電性取付部材7の取付を確実且つ安定した状態で行うことが可能になる。
【0019】
絶縁被覆電線13,15は、図2に示すように絶縁ケース3内に位置する芯線14,16の端部が、導電性取付部材7に半田付けで接続されている。なお、絶縁被覆電線13,15の芯線14,16の端部を導電性取付部材7に接続する方法としては、半田付けの代わりに導電性接着剤を用いた接続方法を採用することもできる。本実施の形態では、放電用電極5が固定された導電性取付部材7に、絶縁被覆電線13,15(電圧供給電線)の芯線14,16が直接取り付けられている。このような構成を採用すると、コネクタのようなカップリング部材を使用する必要がないため、除電器の価格を従来よりも大幅に下げることができる。
【0020】
本実施の形態では、絶縁ケース3内に収納されている絶縁被覆電線13,15の被収納部分13a,15aが、途中に曲がり部13b,15bを形成するように変形されている。絶縁被覆電線13,15の被収納部分13a,15aの途中に曲がり部13b,15bが形成されると、絶縁被覆電線13,15に絶縁ケース3の外部から引き抜き力や押圧力が加わったときでも、曲がり部13b,15bの変形によって、それらの力が絶縁被覆電線13,15の芯線14,16の端部と導電性取付部材7との接続部に直接伝わるのを防止することができる。そのため芯線14,16の端部を導電性接続部材7に直接取り付けた場合でも、接続不良が発生するのを有効に防止できる。
【0021】
図2に示すように、絶縁ケース3に設けた導入口17,19には、導入口17,19の内面17aと絶縁被覆電線13,15の被覆部の外面13c,15cとに密着するように変形可能なゴム製の鍔付きの筒状ブッシュ21,23が嵌合されている。鍔付きの筒状ブッシュ21,23を導入口17,19に嵌合すると、鍔の存在によって筒状ブッシュ21,23が抜けないだけでなく、筒状ブッシュ21,23を貫通する絶縁被覆電線13,15の動きを規制することができる。なお、筒状ブッシュ21,23としては、導入口17,19の内面17aと絶縁被覆電線13,15の被覆部の外面13c,15cとに密着するように変形可能なものであれば、ゴム製の筒状ブッシュに限定されるものではなく、絶縁樹脂製の筒状ブッシュを用いてもよいのは勿論である。
【0022】
次に図3乃至図5を用いて、本実施の形態の放電用電極5と導電性取付部材7の結合構造の一例を説明する。図4は、放電用電極5を導電性取付部材7に固定する過程を横方向から見た工程図であり、図5は放電用電極5を導電性取付部材7に固定する過程を導電性接続部材7の裏面から見た図である。まず、図4(A)及び図5(A)に示すように、複数本の導電性繊維の束6および導電性取付部材7を用意する。導電性取付部材7は、厚み方向に対向する表面7aと裏面7bとを有する板形状を有している。
【0023】
複数本の導電性繊維6には、図4(B)及び図5(B)に示すように、予め複数本の導電性繊維の束6の一方の端部6に導電性の接着テープ8が貼られている。この例では、複数本の導電性繊維の束6は、平刷毛状に束ねられている。 このような接着テープ8を用いると、かしめ金具9によるかしめ作業を行う際に、導電性繊維の束6がバラバラになるのを防ぐことができるので、かしめ作業が容易なる。この例では、複数本の導電性繊維の束6は、平刷毛状に束ねているが、丸刷毛状に束ねてもよく、その束ね方は任意である。なお、本例のように、複数本の導電性繊維の束6を平刷毛状に束ねた場合には、複数本の導電性繊維の束6の一方の端部6aの、後述するかしめ金具9と対向する面6dにも接着テープ8を貼ってもよい。本実施の形態では、接着テープ8は一方の面に貼り付けられているだけであるため、接着テープ8が絶縁性を有するものであっても、導電性繊維の束6の他方の面は導電性を有する導電性取付部材7またはかしめ金具9と確実に接触させることができ、電気的導通を確保することはできる。
【0024】
本実施の形態では、接着テープ8として両面接着テープを用いている。そこで図4(C)及び図5(C)に示すように、この両面接着テープ(接着テープ8)を介して、導電性繊維の束6の一方の端部6aの一方の面6cを導電性取付部材7の表面7aに接合する。このようにすると、導電性取付部材7に対して、両面接着テープ(接着テープ8)を用いて導電性繊維の束6の一方の端部6aを仮固定した状態で、かしめ金具9によるかしめ作業を行うことができるので、作業性を大幅に向上させることができる。なお、この例では、両面接着テープ(接着テープ8)として、熱硬化性の導電性接着テープを用いている。そのため、かしめ金具9でかしめ留めされた後でも、接着テープの存在が導電性取付部7及びかしめ金具9と導電性繊維の束6との間の電気的な接続の障害となることはない。
【0025】
次ぎに、図4(D)及び図5(D)の工程では、導電性取付部材7との間に複数本の導電性繊維の束6の一方の端部6aを挟むようにして、かしめ金具9を導電性取付部材7に対してかしめ留めする。かしめ金具9は、複数本の導電性繊維の束6の一方の端部6aをかしめにより拘束し且つ導電性繊維の束6を導電性取付部材7に対して固定するための金具であり、その形状や材料等は任意に定めることができる。この例では、かしめ金具9を、変形が容易な材料(アルミニウム)により形成している。かしめ金具9は、導電性取付部材7と一体に形成されていてもよい。本例では、かしめ金具9と導電性取付部材7とが別体に形成されているため、導電性取付部材7を変形し難い導電性材料で形成し、かしめ金具9はこの例で用いるアルミニウム等のように変形が容易な材料により形成することができる。このようにすると、導電性取付部材7の取付を確実且つ安定した状態で行うことが可能になる。
【0026】
図5(C)に示すように、かしめ金具9は、導電性繊維の束6の一方の端部6aの他方の面6dと接触する接触部9aと、この接触部9aの両端9a´,9a´に一体に設けられて導電性取付部材7の裏面7bと接触するようにかしめられる一対の被かしめ部9b,9cとを備えている。このようなかしめ金具9は、製造が入手が容易であり、また簡単にかしめ作業を行えるので、放電用電極の製造コストを下げるのに寄与する。
【0027】
なお、本実施の形態では、図5(C)に示すように、導電性繊維の束6の一方の端部6aが固定される導電性取付部材7の端部7cの先端面7c´が、かしめ金具9の接触部9a及び一対の被かしめ部9b,9cよりも出っ張るように(図の紙面で見て左方向に出っ張るように)、かしめ金具9が、導電性取付部材7の先端面7c´から貫通孔7d側に下がった位置で、導電性取付部材7に対してかしめ留めされている。そして、図4(E)及び図5(E)に示すように、かしめ金具9の接触部9aと導電性繊維の束6とに跨るように接着剤(導電性繊維の束6が広がることを防止するための広がり防止手段)を塗布して表面側被覆部10aを形成し、また一対の被かしめ部9b,9cよりも出っ張った導電性取付部材7の端部7cと、一対の被かしめ部9b,9c及び導電性繊維の束6とに跨るように、接着剤11(導電性繊維の束6が広がることを防止するための広がり防止手段)を塗布して裏面側被覆部10bを形成している。このような表面及び裏面側被覆部10a及び10bを形成すると、導電性繊維の束6と導電性取付部材7との電気的な接続を強化することができる。また導電性繊維が導電性取付部材7の先端面7c´の縁部と擦れ合うことによって断裂することを防止することもできる。この例では、接着剤11(広がり防止手段)は、導電性繊維の束6の一方の端部6aに隣接し且つかしめ金具によっては拘束されていない導電性繊維の束6の一部分6bに、導電性繊維の束6の一部分6bの広がりを防止するように含浸している。そして接着剤11として、流動性を有するシリコーン系接着剤が用いられている。なお、接着剤11(広がり防止手段)としては、このような合成樹脂系接着剤に限られず、特に広がり防止手段として、デンプン系、セルロース系接着剤等の各種接着剤(糊等)を用いることができる。導電性繊維の束6の一部分6bにこのような接着剤11を含浸すると、簡単な構造で導電性繊維の広がりを防止することができる。なお接着剤11の塗布範囲は、導電性繊維の先端6aに各導電性繊維の端部からなる複数の放電部が残る状況であれば、どのように定めてもよい。例えば、導電性繊維の束6の先端近傍付近まで接着剤を塗布することもできる。本実施の形態のようにシリコーン系の接着材を塗布すると、具体的には、図3(B)及び(C)に示すように、導電性繊維の束6の基部(一部分6b)には、ある程度の厚みを持った被覆部10a及び10bが形成される。この被覆部10a及び10bは、放電用電極を大量生産する際及び放電用電極を自動パーツフィーダにより自動送給する際に、他の放電用電極と絡み合うまたは引っ掛かることを防止する機能を果たす。
【0028】
また、接着剤11は、複数本の導電性繊維の束6の表面部に位置する導電性繊維を拘束するだけでなく、束の内部にも浸入するため、束の内部においても導電性繊維相互間を結合することができる。そのため長期間に亘って使用した場合でも、接着剤11により固められた部分が広がることはなく、導電性繊維の広がりを有効に防止することができる。なお、接着剤11が含浸されていない部分では繊維の広がりが発生するが、接着剤11を含浸させる領域を適宜に定めることにより、導電性繊維が必要以上に広がることを有効に防止することができる。その結果、複数の導電性繊維のそれぞれの先端6aからの放電を長期に亘って維持することができる。
【0029】
また、接着剤11は、導電性繊維の束6の一部分6bとかしめ金具9とに跨って塗布されているため、かしめ金具9と導電性繊維の束6の接触部に形成される隙間に、塵埃が入り込むのを防止できる。また、かしめ金具9によるかしめ状態にバラツキがあっても、接着剤により導電性繊維の束6とかしめ金具9との電気的及び機械的結合を補助できる利点が得られる。以上、本実施の形態の放電用電極5の製造工程について述べたが、本発明の除電器の放電用電極の製造方法は、上記の製造工程に限定されるものではなく、任意の製造方法を用いることができるのは勿論である。
【0030】
図1に戻って、本実施の形態の放電用電極を用いた除電器では、絶縁ケース3のイオン放出用開口部4にガード部材12を設けられている。このガード部材12は、イオンの放出を阻害せず、且つイオン放出用開口部4を通って進入物が入らないようにして、進入物が放電用電極5に接触するのを可能な限り阻止する効果がある。したがって、このようなガード部材12を設けると、除電器の安全性を高めることができる。なお、この例では、ガード部材12を設けているが、ガード部材12を設けることは任意である。
【0031】
本実施の形態では、絶縁ケース3に導入口17と別の導入口19とは、互いに対向するように絶縁ケース3に形成されている。そして、絶縁被覆電線13の被収納部分13a及び別の絶縁被覆電線15の被収納部分15aとは、導電性接続部材7の近くでお互いの間の距離が最小になるように、それぞれ変形されている。このような構成により、二本の絶縁被覆電線13,15に押圧力が加わったときでも、それぞれ曲がり部13b,15bが当たることによって、それ以上の変形が防止され、曲がり部13b,15bがストッパとして機能するので絶縁被覆電線13,15への押圧力に対する耐力を高めることができる。
【0032】
なお、この例では、絶縁被覆電線13,15の被収納部の曲がり部13b,15bは、この曲がり部13b,15bの両側の2つの被覆電線部分の間の角度が90度になるように曲がっている。また、絶縁ケース3は、一端にイオン放出用開口部4を有して導電性接続部材7が収納される第1の収納領域25とイオン放出用開口部4とは反対側において第1の収納領域25と連通する第2の収納領域27とを内部に有する。そして導入口17及び別の導入口19は、第2の収納領域27と連通する位置に設けられている。
【0033】
絶縁ケース3は、導入口17と、別の導入口19と、イオン放出用開口部4とがそれぞれ二つに分割される位置に合わせ面を持つように構成された一対の絶縁ケース半部(図1及び図2に示した一方の絶縁ケース半部3aと、図1に示した他方の絶縁ケース半部3b)が、組み合わされて構成されている。このような一対の絶縁ケース半部を用いると、2本の絶縁被覆電線13,15の芯線14,16を1つの導電性接続部材7に接続する際に、導電性接続部材7の片面を全体的に露出することができるため、接続作業を簡単に行える。また、図2に示すように、接続作業を終了した後に、一方の絶縁ケース半部3aに形成された半割り状態の導入口17及び別の導入口19に絶縁被覆電線13,15に嵌めた筒状ブッシュ21,23を入れて仮止めした状態で、他方の絶縁ケース3bを一方の絶縁ケース3aに嵌め合わせることにより組立を行うことができる。したがって絶縁被覆電線13,15に曲がり部13b,15bを形成したとしても、絶縁ケース3の組立中に絶縁被覆電線13,15が簡単に外れることがないという利点がある。
【0034】
なお図1及び図2に示した除電器は、複数個直列に接続されるタイプの除電器である。除電器が一つだけ単独で使用される場合には、上記実施の形態における一本の絶縁被覆電線だけが使用される。そして例えば絶縁被覆電線13が使用される場合には、導入口19には、絶縁性ゴム材料からなるキャップを嵌める。
【0035】
以下、本願明細書及び図面に開示された除電器の構成について、項を分けて構成要件を列挙する。
【0036】
(1) 複数本の導電性繊維の束により構成されて絶縁ケースに収納される放電用電極と、前記放電用電極が固定され且つ前記絶縁ケースに固定される導電性取付部材と、前記複数本の導電性繊維の束の一方の端部をかしめにより拘束し且つ前記導電性取付部材に対して固定するかしめ金具とを備えた除電器であって、
前記一方の端部に隣接し且つ前記かしめ金具によっては拘束されていない前記複数本の導電性繊維の束の一部分に、該一部分の広がりを防止するように接着剤が含浸されていることを特徴とする除電器。
【0037】
(2) 前記一部分と前記かしめ金具とに跨って、前記接着剤が塗布されている上記(1)に記載の除電器。
【0038】
(3) 前記かしめ金具と前記導電性取付部材とは別体に形成されており、
前記かしめ金具は、前記導電性取付部材との間に前記複数本の導電性繊維の束の前記一方の端部を挟むようにして、前記導電性取付部材にかしめ留めされている上記(1)または(2)に記載の除電器。
【0039】
(4) 前記複数本の導電性繊維の束は、平刷毛状に束ねられており、前記複数本の導電性繊維の束の前記一方の端部の前記導電性取付部材と対向する面及び前記一方の端部の前記かしめ金具と対向する面のいずれか一方の面に接着テープが貼られている上記(3)に記載の除電器。
【0040】
(5) 前記導電性取付部材は、厚み方向に対向する表面と裏面とを有する板形状を有しており、
前記接着テープは、両面接着テープであり、
前記両面接着テープにより前記一方の端部の前記一方の面が前記導電性取付部材の前記表面に接合されている上記(4)に記載の除電器。
【0041】
(6) 前記かしめ金具は、前記両面接着テープにより前記導電性取付部材に接合されている前記一方の端部の他方の面と接触する接触部と、前記接触部の両端に一体に設けられて前記導電性取付部材の前記裏面と接触するようにかしめられる一対の被かしめ部とを備えており、
前記かしめ金具は、前記複数本の導電性繊維の束の前記一方の端部が固定される前記導電性取付部材の端部の先端面が、前記かしめ金具の前記接触部及び前記一対の被かしめ部よりも出っ張るように、前記先端面から下がった位置で、前記導電性取付部材に対してかしめ留めされており、
前記かしめ金具の前記接触部及び前記一対の被かしめ部よりも出っ張った前記導電性取付部材の端部と、前記一対の被かしめ部と前記複数本の導電性繊維の束とに跨って前記接着剤が塗布されて裏面側被覆部がさらに形成されている上記(5)に記載の除電器。
【0042】
(7) 絶縁ケースの前記イオン放出用開口部には、前記イオンの放出を阻害せず、且つ前記イオン放出用開口部を通って進入物が入り、該進入物が前記放電用電極に接触するのを阻止するガード部材が設けられている上記(1)に記載の除電器。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(A)及び(B)は、本実施の形態の放電用電極を用いた除電器の正面図及び底面図である。
【図2】図1(A)の除電器の内部構造を示す断面図である。
【図3】(A)は本実施の形態の放電用電極を導電性取付部材に固定した状態の表面図であり、(B)は(A)の正面図であり、(C)は(A)のI−I線拡大断面図である。
【図4】(A)乃至(E)は、本実施の形態の放電用電極を導電性取付部材に固定する過程を横方向から見た工程図である。
【図5】(A)乃至(E)は、本実施の形態の放電用電極を導電性取付部材に固定する過程を導電性取付部材の裏面から見た工程図である。
【符号の説明】
【0044】
1 除電器
5 放電用電極
6 導電性繊維の束
11 接着剤(広がり防止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導電性繊維の束により構成された除電器の放電用電極であって、
前記複数本の導電性繊維の束が広がることを防止する広がり防止手段を備えていることを特徴とする除電器の放電用電極。
【請求項2】
前記広がり防止手段が、前記複数本の導電性繊維の束に含浸された樹脂である請求項1に記載の除電器の放電用電極。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−257897(P2008−257897A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95857(P2007−95857)
【出願日】平成19年3月31日(2007.3.31)
【出願人】(000138473)株式会社ユーシン精機 (117)
【Fターム(参考)】