説明

陰極体、蛍光管、および陰極体の製造方法

【課題】基体との成分元素の相互拡散を防止することのできる希土類元素のホウ化物の膜を有する陰極体を提供すること。
【解決手段】本発明の陰極体は、基体としての円筒状カップ30と、円筒状カップ30の表面に設けられ、SiCを有するバリア層303と、バリア層303の表面に形成された希土類元素のホウ化物を有する膜とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極体、陰極体を用いた蛍光管、および陰極体の製造方法に関し、特に希土類元素を含むホウ化物膜を有する陰極体、希土類元素を含むホウ化物膜を有する陰極体を用いた蛍光管、および希土類元素を含むホウ化物膜を有する陰極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LaB等の希土類元素を含むホウ化物膜は陰極体を含む冷陰極蛍光管等に用いられている。陰極体を含む冷陰極蛍光管は、モニターや液晶テレビ等における液晶表示装置のバックライト用光源等に使用されている。また、冷陰極蛍光管は、ガラス管によって形成され内壁に蛍光体を塗布した蛍光管体、及び、電子を放出する一対の冷電極体を備え、蛍光管体にはHg−Ar等の混合ガスが封入されている。
【0003】
特許文献1には、円筒カップ形状を有する冷陰極体を備えた冷陰極蛍光管が提案されている。具体的に説明すると、電子放出用の円筒カップ形状の冷陰極体は、ニッケルによって形成された円筒状カップと、当該円筒状カップの内壁面及び外壁面に、希土類元素のホウ化物を主体としたエミッタ層を有している。さらに、特許文献1は、希土類元素のホウ化物として、YB、GdB、LaB、CeBを例示しており、これら希土類元素のホウ化物は、微粉末スラリー状に調整して、円筒状カップの内壁面及び外壁面に流し塗り、乾燥、焼結することによって形成されている(特許文献1)。
【0004】
一方、特許文献2には、La、ThO、Yから選択された材料を熱伝導率の高い材料、例えば、タングステンと混合することによって円筒カップ形状の冷陰極体を形成することが開示されている。特許文献2に示された円筒カップ形状の冷陰極体は、例えば、Laを含むタングステン合金粉末を射出成形、即ち、MIM(Metal Injection Molding)することによって形成されている(特許文献2)。
【0005】
さらに、特許文献3は、プラズマディスプレイパネルに用いられる放電陰極装置を開示している。当該放電陰極装置は、ガラス基板上に、下地電極として形成されたアルミニウム層と、アルミニウム層上に形成されたLaB層を有している。また、アルミニウム層は、所定温度に保たれたガラス基板上に、スパッタリング法、真空蒸着法、或いはイオンプレーティング法により形成され、他方、LaB層はアルミニウム層上にスパッタリング法等により形成されている(特許文献3)。
【0006】
特許文献1は、希土類元素を主体とするスラリーをNi(ニッケル)製の円筒状カップに塗布、乾燥、焼結することによって、エミッタ層を形成している。
【0007】
特許文献1は、エミッタ層を円筒状カップの開口端側で薄くし、外部引出し電極側で厚くすることを開示している。通常、円筒状カップは、0.6〜1.0mm程度の内径、2〜3mm程度の長さを有しているから、スラリーを塗布、乾燥、及び焼結する手法によって、エミッタ層を形成した場合、所望の厚さに塗布することは難しい。さらに、塗布、乾燥、焼結することによって得られたエミッタ層は、Niとの密着性の点で不十分であり、またバインダに含まれる有機物質や水分、酸素を完全に除去するのは困難で、この結果、特許文献1では、高輝度で長寿命の冷陰極体を得ることは困難である。
【0008】
特許文献2は、Laを含むタングステン合金粉末をスチレン等の樹脂と混合して得られたペレットを金型に射出成形することによって、円筒カップ形状の冷陰極体を形成している。タングステンのような熱伝導率の高い材料を使用することによって、冷陰極体における熱伝導を改善でき、冷陰極体の長寿命化を実現できるが、電子放出特性の点で不十分である。従って、特許文献2では、高輝度で高効率の冷陰極体を得ることは困難である。
【0009】
特許文献3はLaB層とアルミニウムとを含む放電陰極パターンをガラス基板上にスパッタリング法により形成することを開示している。しかしながら、この手法は、平坦なガラス基板にアルミニウム層及びLaB層をスパッタリングにより形成することを前提としており、凹凸のある円筒カップ形状の冷陰極体にスパッタリングする手法については何等開示していない。また、特許文献3は、ガラス基板以外の材料に、アルミニウムを介することなく、LaB層を密着性良く形成することについて開示していない。さらに、特許文献3は、円筒カップ形状の冷陰極体における電子放出効率を向上させることについても指摘していない。
【0010】
そこで、回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタによって希土類元素のホウ化物の膜を形成することが提案された(特許文献4)。
【0011】
具体的には、特許文献4はターゲット上のリング状プラズマ領域を時間的に移動させることにより、ターゲットの局所的な磨耗を防止すると共に、プラズマ密度を上昇させ、成膜速度を向上させることができるマグネトロンスパッタ装置を提案している。当該マグネトロンスパッタ装置は、被処理基板と対向してターゲットを配置すると共に、ターゲットに対して被処理基板とは反対側に磁石部材を設けた構成を備えている。
【0012】
上記したマグネトロンスパッタ装置の磁石部材は、回転軸の表面に複数の板磁石を螺旋状に貼り付けた回転磁石群と、回転磁石群の周辺にターゲット面と平行に、かつ、ターゲットに対して垂直に磁化された固定外周板磁石とを有している。この構成によれば、回転磁石群を回転させることにより、回転磁石群と固定外周板磁石とによってターゲット上に形成される磁場パターンを回転軸方向に連続的に移動させ、これによって、ターゲット上のプラズマ領域を時間と共に回転軸方向に連続的に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10-144255公報
【特許文献2】国際公開第2004/075242号
【特許文献3】特開平5−250994号公報
【特許文献4】国際公開第2009/035074号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献4記載の技術は、ターゲットを長期間に亘って均一に使用できると共に、成膜速度を向上させることができ、電子放出特性に優れ、長寿命な冷陰極体を製造でき、かつ陰極体が円筒カップ形状であっても容易に膜形成ができるという点では非常に優れた技術である。
【0015】
しかしながら、特許文献4記載のような回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いれば、形成された陰極体、すなわちLaB層で覆われたWまたはWを主体とする陰極体は、用途によっては、使用中に所定の温度を超えると、LaB層とW基体との間で成分元素の相互拡散が生じて、LaB層の組成が維持できなくなり、その結果LaB層としての機能、特性が発揮できなくなってしまう可能性があり、この問題を改善できれば、さらに好ましい。
【0016】
そこで、本発明の技術的課題は、基体との成分元素の相互拡散を防止することのできる、希土類元素のホウ化物の膜を有する陰極体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち、本発明の一態様によれば、基体と、前記基体の表面に設けられ、SiCを有するバリア層と、前記バリア層の表面に形成された希土類元素のホウ化物を有する膜と、を有することを特徴とする陰極体が得られる。
【0018】
前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、La、ThO、及びYからなる群から選択された少なくとも一つを含むタングステンもしくはモリブデンでありうる。特に、体積比で4〜6%のLaを含むタングステンまたはモリブデンでありうる。
【0019】
また、前記希土類元素のホウ化物は、LaB、LaB、YbB、GaB、CeBからなる群から選択された少なくとも一つのホウ化物でありうる。
【0020】
また本発明によれば、基体表面にSiCを有するバリア層を形成する工程(a)と、前記バリア層上に希土類元素のホウ化物を有する膜を形成する工程(b)と、を有することを特徴とする陰極体の製造方法が得られる。前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、4〜6重量%のランタンオキサイドを含むタングステンもしくはモリブデン、であってよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基体との成分元素の相互拡散を防止することのできる、希土類元素のホウ化物の膜を有する陰極体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る陰極体を製造する際に使用されるマグネトロンスパッタ装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る陰極体の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】実施例1〜3の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図4】実施例1〜3の試料の断面の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例4〜6の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図6】実施例4〜6の試料の断面の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例7〜9の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図8】実施例10〜12の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図9】実施例13〜15の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図10】実施例16〜18の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図11】比較例1〜2の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図12】比較例3〜4の試料の深さ方向の組成を示すグラフである。
【図13】比較例1〜2の試料の断面の電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例3〜4の試料の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に使用される回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置の一例を示す図であり、図2は、本発明に係る陰極体、および、その製造に使用される陰極体製造用治具19を説明するための図である。
【0025】
図1に示されたマグネトロンスパッタ装置は、ターゲット1、多角形形状(例えば、正16角形形状)の柱状回転軸2、柱状回転軸2の表面に螺旋状に貼り付けられた複数の螺旋状板磁石群を含む回転磁石群3、回転磁石群3を囲むように、当該回転磁石群3の外周に配置した固定外周板磁石4、固定外周板磁石4に対して、ターゲット1とは反対側に設けられた外周常磁性体5を備えている。さらに、ターゲット1には、バッキングプレート6が接着され、柱状回転軸2及び螺旋状板磁石群のターゲット1側以外の部分は常磁性体15によって覆われ、さらに、常磁性体15はハウジング7によって覆われている。
【0026】
固定外周板磁石4は、ターゲット1から見ると、螺旋状板磁石群によって構成された回転磁石群3を囲んだ構造をなし、ここでは、ターゲット1の側がS極となるように磁化されている。固定外周板磁石4と、螺旋状板磁石群の各板磁石はNd−Fe−B系焼結磁石によって形成されている。
【0027】
さらに、図示された処理室内の空間11には、プラズマ遮蔽部材16が設けられ、陰極体製造用治具19が設置され、減圧されてプラズマガスが導入される。
【0028】
図示されたプラズマ遮蔽部材16は柱状回転軸2の軸方向に延在し、ターゲット1を陰極体製造用治具19に対して開口するスリット18を規定している。プラズマ遮蔽部材16によって遮蔽されていない領域、即ち、スリット18によってターゲット1に対して開口された領域は、磁場強度が強く高密度で低電子温度のプラズマが生成され、陰極体製造用治具19に設けられた陰極部材にチャージアップダメージやイオン照射ダメージが入らない領域であり、かつ、同時に成膜レートが速い領域である。この領域以外の領域をプラズマ遮蔽部材16によって遮蔽することで、成膜レートを実質的に落とすことなくダメージの入らない成膜が可能である。
【0029】
また、バッキングプレート6には冷媒を通す冷媒通路8が形成されており、ハウジング7と処理室を形成する外壁14との間には、絶縁材9が設けられている。ハウジング7に接続されたフィーダ線12は、カバー13を介して外部に引き出されている。フィーダ線12には、DC電源、RF電源、及び、整合器(図示せず)が接続されている。
【0030】
この構成では、DC電源およびRF電源から、整合器、フィーダ線12及びハウジング7を介してバッキングプレート6及びターゲット1へプラズマ励起電力が供給され、ターゲット1表面にプラズマが励起される。DC電力のみ、若しくは、RF電力のみでもプラズマの励起は可能であるが、膜質制御性や成膜速度制御性から、両方印加することが望ましい。また、RF電力の周波数は、通常数100kHzから数100MHzの間から選ばれるが、プラズマの高密度低電子温度化という点から高い周波数が望ましく、本実施の形態においては13.56MHzの周波数を使用している。
【0031】
図1に示すように、処理室内の空間11内に設置された陰極体製造用治具19には、陰極体を形成する円筒状カップ30が複数個取り付けられている。
【0032】
図2をも参照すると、陰極体製造用治具19は円筒状カップ30を支持する複数個の支持部32を有している。ここで、円筒状カップ30は、図2に示されているように、円筒状電極部301と、当該円筒状電極部301の底部中央から、円筒状電極部301とは反対方向に引き出されたリード部302とを備え、この例の場合、円筒状電極部301とリード部302とは、例えば、MIM(Metal Injection Molding)等により一体化成形されているものとする。
【0033】
陰極体製造用治具19の支持部32は、円筒状カップ30の円筒状電極部301を受け入れる大きさの開口部を規定する受容部321、受容部321よりも小径の孔を規定する鍔部322、及び、受容部321と鍔部322との間を接続する傾斜部323とを有している。図示されているように、円筒状電極部301は陰極体製造用治具19の支持部32に挿入位置づけられている。即ち、円筒状電極部301のリード部302は陰極体製造用治具19の鍔部322を通過し、円筒状電極部301の外側端部は陰極体製造用治具19の傾斜部323に接触している。
【0034】
ここで、図示された円筒状カップ30は体積比で4%〜6%の酸化ランタン(La)を含むタングステン(W)によって形成され、内径1.4mm、外径1.7mm、長さ4.2mmの円筒状電極部301を有している。一方、円筒状カップ30のリード部302の長さは例えば1.0mm程度に短くしてもよい。この例では、熱伝導性の良い耐火性金属であるタングステンに、仕事関数が2.8〜4.2eVと小さいLaを混合することによって円筒状カップ30を形成している。タングステンを使用することによって、円筒状カップ30に生じた熱を効率よく排出でき、また、仕事関数の小さい酸化ランタンを混合することによって、当該円筒状カップ30自体からも電子を放出することができる。なお、円筒状カップ30を形成する熱伝導性の高い金属として、タングステンの代わりに、モリブデン(Mo)を使用しても良い。
【0035】
ここで、円筒状カップ30の製造方法について具体的に説明する。まず、Laを体積比で3%含有するタングステン合金粉末と、樹脂粉末と混合した。樹脂粉末としてはスチレンを使用し、タングステン合金粉末とスチレンとの混合比は体積比で0.5:1であった。次に、焼結助剤としてNiを微量添加してペレットを得た。このようにして得られたペレットを用いて、円筒状カップ形状の金型に、150℃の温度で射出成形(MIM)を行なうことによって、カップ形状の成形品を作製する。作製された成形品を水素雰囲気中で加熱することによって脱脂して、円筒状カップ30を得た。
【0036】
次に、円筒状カップ30を図1及び図2に示された陰極体製造用治具19に取り付け、ターゲット1として焼結体SiC(後に述べる低抵抗品)がセットされた回転マグネット式スパッタ装置の処理室内の空間11に搬入した。処理室内の空間11にアルゴンガス流量2SLMで流し、圧力15mTorrで、陰極体製造用治具19の温度を300℃まで加熱して、スパッタリングを行ない、SiC303を成膜した。
【0037】
次に、円筒状カップ30を図1及び図2に示された陰極体製造用治具19に取り付け、ターゲット1としてLaB焼結体がセットされた回転マグネット式スパッタ装置の処理室内の空間11に搬入した。
【0038】
処理室内の空間11にアルゴンを導入して20mTorr(2.7Pa)程度の圧力にし、陰極体製造用治具19の温度を300℃まで加熱して、スパッタリングを行ない、SiC膜303の上にLaB膜341を形成した。
【0039】
図2に戻ると、スパッタリング後の円筒状カップ30の状態が模式的に示されている。図示されているように、円筒状電極部301の深さと内径との比であるアスペクト比が1の領域には、厚いLaB膜341が形成され、陰極体製造用治具19でより下側に位置する部分には、薄いLaB膜342が形成されている。さらに、円筒状電極部301の内部底面には、非常に薄いLaB膜(底面LaB膜343)が形成されている。
【0040】
さらに、各LaB膜と円筒状電極部301間にはSiCを有するバリア層303が形成されている。即ち、円筒状電極部301の表面にはバリア層303が形成され、バリア層303の表面には各LaB膜が形成されている。
【0041】
バリア層303は、円筒状電極部301を構成する材料(ここではW)と各LaB膜との間の相互拡散を防止するための層であり、バリア層303を設けることにより、LaB層の組成が維持される。
【0042】
バリア層303を構成する材料はSiCを含むものが望ましい。これは、後述するように、LaB膜およびW双方との間で拡散が生じにくく、かつ拡散量が温度によって変化しにくい材料だからである。
【0043】
図示された例では、厚いLaB膜341、薄いLaB膜342、及び、底面LaB膜343は、それぞれ300nm、60nm、及び10nmであり、バリア層303の膜厚は50nmであった。SiC膜303はある程度厚いほうが拡散防止のためには良いが、電極の抵抗を高くしないように、10〜100nm程度の厚さにするのが好ましい。
【0044】
上記したLaB膜を有する陰極体は、長時間に亘って高効率及び高輝度を維持できることが、本発明者等の実験によって確認された。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0046】
以下の手順に従い、WとSiC間、およびLaBとSiC間の元素の拡散の度合いを測定し、SiCのバリア層303としての拡散防止作用の有無を評価した。
【0047】
<試料の作製>
[実施例1]
SiCとして、CVD形成炭化珪素(CVD−SiC)基板(8mm×20mm、厚さ0.725mm)を用意し、その上にLaBを回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにLaB、圧力50mTorr、Arガス流量2SLMの条件下で200nm成膜した。その後、ベーキング処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで300℃、30分間熱処理を行い、試料を作製した。
【0048】
なお、SLMとはStandard Liter per Minutesの略であり、0℃、1atm(1.01325×10Pa)における1分間あたりの流量をリットルで表した単位である(以下同じ)。
【0049】
[実施例2]
実施例1の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで1000℃、60分間加熱したものを用意した。
【0050】
[実施例3]
実施例1の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1100℃、60分間加熱したものを用意した。
【0051】
[実施例4]
SiCとして、CVD形成炭化珪素(CVD−SiC)基板(8mm×20mm、厚さ0.725mm)を用意し、その上に、回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにW、圧力10mTorr、Arガス流量322sccmの条件下で、Wを200nm成膜した。その後、ベーキング処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで300℃、30分間熱処理を行い、試料を作製した。
【0052】
[実施例5]
実施例4の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1000℃、60分間加熱したものを用意した。
【0053】
[実施例6]
実施例4の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1100℃、60分間加熱したものを用意した。
【0054】
[実施例7]
SiCとして、住友大阪セメント製セラミック炭化珪素(焼結体SiC)S452(高抵抗品、比抵抗66〜130Ω・cm)の基板(8mm×20mm、厚さ3mm)を用意し、その上に、回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにLaB、圧力50mTorr、Arガス流量2SLMの条件下で、LaBを200nm成膜した。その後、ベーキング処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで300℃、30分間熱処理を行い、試料を作製した。
【0055】
[実施例8]
実施例7の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1000℃、60分間加熱したものを用意した。
【0056】
[実施例9]
実施例7の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1100℃、60分間加熱したものを用意した。
【0057】
[実施例10]
SiCとして、住友大阪セメント製セラミック炭化珪素(焼結体SiC)S312(低抵抗品、比抵抗0.024〜0.03Ω・cm)の基板(8mm×20mm、厚さ3mm)を用意し、その上に、回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにLaB、圧力50mTorr、Arガス流量2SLMの条件下で、LaBを200nm成膜した。その後、ベーキング処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで300℃、30分間熱処理を行い、試料を作製した。
【0058】
[実施例11]
実施例10の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1000℃、60分間加熱したものを用意した。
【0059】
[実施例12]
実施例10の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで1100℃、60分間加熱したものを用意した。
【0060】
[実施例13]
SiCとして、住友大阪セメント製セラミック炭化珪素(焼結体SiC)S452の基板(8mm×20mm、厚さ3mm)を用意し、その上に、Wを回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにW、圧力10mTorr、Arガス流量322sccmの条件下で200nm成膜した。その後、ベーキング処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで300℃、30分間熱処理を行い、試料を作製した。
【0061】
[実施例14]
実施例13の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1000℃、60分間加熱したものを用意した。
【0062】
[実施例15]
実施例13の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで1100℃、60分間加熱したものを用意した。
【0063】
[実施例16]
SiCとして、住友大阪セメント製セラミック炭化珪素(焼結体SiC)S312の基板(8mm×20mm、厚さ3mm)を用意し、その上に、回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにW、圧力10mTorr、Arガス流量322sccmの条件下で、Wを200nm成膜した。その後、ベーキング処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMで300℃、30分間熱処理を行い、試料を作製した。
【0064】
[実施例17]
実施例10の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで1000℃、60分間加熱したものを用意した。
【0065】
[実施例18]
実施例10の試料を、アニール処理として、赤外加熱炉を用い、大気圧下、Ar流量2SLMで1100℃、60分間加熱したものを用意した。
【0066】
[比較例1]
SiO酸化膜が形成されたSi基板上に、回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにW、圧力10mTorr、Arガス流量322sccmの条件下で、90nmのWを成膜した。さらに回転マグネット式スパッタ装置を用いてターゲットにLaB、圧力50mTorr、Arガス流量2SLMの条件下でLaBを90nm成膜した。即ち、WとLaBの間にバリア層303を設けなかった。次に、Ar流量2SLMの条件下で300℃で30分加熱してベーキングを行った。
【0067】
[比較例2]
比較例1の試料を、赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMの条件下で1000℃で60分加熱してアニールを行った。
【0068】
[比較例3]
比較例1の試料を赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMの条件下で1050℃で60分加熱してアニールを行った。
【0069】
[比較例4]
比較例1の試料を赤外加熱炉を用い、大気圧下Ar流量2SLMの条件下で1100℃で60分加熱してアニールを行った。
【0070】
<拡散評価試験>
次に、実施例1〜18および比較例1〜4の試料の相互拡散の程度を測定した。
【0071】
組成分析として、日本電子株式会社(JEOL)製JPS−9010MXを用い、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)により試料の深さ方向の組成分析を行った。
【0072】
また、実施例1〜6、および比較例1〜4について断面観察を行った。具体的には試料を切断した後、日本電子株式会社(JEOL)製JSM−6700Fを用い、倍率50000倍にて観察を行った。
【0073】
実施例1〜18および比較例1〜4の試料の組成分析結果を図3、図5、および図7〜図12に示す。また、実施例1〜6、および比較例1〜4の断面の観察結果を図4、図6、図13、および図14に示す。さらに、比較例1〜4のLaB―W拡散層の厚さを表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
図3〜図10から明らかなように、LaBとSiC間の元素の拡散、およびWとSiC間の元素の拡散は、ほとんど生じていないか、生じていても、その拡散深さがアニール温度によらず一定となっていた。
【0076】
一方で、図11〜14および表1に示すように、SiCを設けない場合、LaBとWの間の元素の拡散は、アニール温度が上昇するに従って進行し、1100℃では拡散層の厚さがLaB単体層の厚さを上回っていた。
【0077】
具体的には、アニール処理をしていない試料(「As DEPO」と記載された試料)では拡散層の厚さが5nm、LaB単体層の厚さが120nmであったものが、アニール処理温度が1000℃、1050℃、1100℃と上昇するに従い、拡散層の厚さがそれぞれ26nm、30nm、48nmと増加し、逆にLaB単体層の厚さは80nm、72nm、44nmと減少していた。
【0078】
以上の結果から、SiCがLaBとWの間の拡散防止層(バリア層303)として好適に利用可能であることが分かった。
【0079】
なお、SiO酸化膜が形成されたSi基板上に、回転マグネット式スパッタ装置を用い、ターゲットとして焼結体SiC(低抵抗品)をセットし、処理室内の空間にアルゴンガス流量2SLMで流し、圧力15mTorr、基板ステージ温度300℃で、スパッタリングによってSiCを200nm成膜し、これをSiC基板として用いて、実施例10〜12と同様にその上にLaB層を、また実施例16〜18と同様にそのSiC基板上にW層をそれぞれ成膜して、上記と同様の測定を行ったところ、それぞれ図8および図10と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
上に述べた実施例では、基体として、タングステンを主成分とする円筒状カップ30を用い、この表面にSiCを有するバリア層を形成した後、LaB膜をスパッタによって形成すること、及び、これによって得られた陰極体について説明したが、本発明は、基体の形状は円筒状に限らず、種々の形状を有する基体に適用することができる。
【0081】
また、本発明に係る基体はタングステンに限らず、モリブデン、シリコン、又は、4〜6重量%のランタンオキサイドを含むタングステン又はモリブデンであっても良いし、体積比で4〜6%のLaを含むタングステン又はモリブデンであっても良い。さらに、基体は、樹脂、ガラス、酸化珪素であっても良い。
【0082】
また、基体はタングステン、モリブデン、シリコン、またはLa、ThO、及びYからなる群から選択された少なくとも一つを含むタングステンもしくはモリブデンであっても良い。
【0083】
一方、本発明に係る陰極体は、LaB膜に限定されることなく、他の希土類元素のホウ化物、例えば,LaB,YbB、GaB、及び、CeBからなる群から選択された少なくとも一つのホウ化物を含めば良い。
【0084】
本発明は、これらの陰極体を含む蛍光管にも適用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 ターゲット
2 柱状回転軸
3 回転磁石群
4 固定外周磁石
5 外周常磁性体
6 バッキングプレート
7 ハウジング
8 冷媒通路
9 絶縁材
11 処理室内の空間
12 フィーダ線
13 カバー
14 外壁
15 常磁性体
16 プラズマ遮蔽部材
18 スリット
19 陰極体製造用治具
30 円筒状カップ
301 円筒状電極部
302 リード部
303 バリア層
321 受容部
322 鍔部
323 傾斜部
341 厚いLaB
342 薄いLaB
343 底面LaB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の表面に設けられ、SiCを有するバリア層と、
前記バリア層の表面に形成された希土類元素のホウ化物を有する膜と、
を有することを特徴とする陰極体。
【請求項2】
前記基体は、
タングステン、モリブデン、シリコン、またはLa、ThO、及びYからなる群から選択された少なくとも一つを含むタングステンもしくはモリブデンであることを特徴とする請求項1に記載の陰極体。
【請求項3】
前記希土類元素のホウ化物は、LaB、LaB、YbB、GaB、CeBからなる群から選択された少なくとも一つのホウ化物を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の陰極体。
【請求項4】
選択された少なくとも一つの前記希土類元素のホウ化物は、LaBであることを特徴とする請求項3記載の陰極体。
【請求項5】
前記基体はタングステン、または体積比で4〜6%のLaを含むタングステンであることを特徴とする請求項4記載の陰極体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の陰極体を陰極として用いた蛍光管。
【請求項7】
基体表面にSiCを有するバリア層を形成する工程(a)と、
前記バリア層上に希土類元素のホウ化物を有する膜を形成する工程(b)と、
を有することを特徴とする陰極体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)は、基体の表面上にCVDまたはスパッタによって前記バリア層を形成する工程であることを特徴とする請求項7記載の陰極体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)は、前記バリア層にスパッタによってLaBの膜を形成する工程であることを特徴とする請求項7または8のいずれか一項に記載の陰極体の製造方法。
【請求項10】
前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、4〜6重量%のランタンオキサイドを含むタングステンもしくはモリブデン、であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の陰極体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図4】
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【図6】
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【図13】
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【図14】
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