説明

陶芸窯の外装構造

【課題】 陶芸窯を大型化することなく、外装材表面の温度を十分に安全な範囲に維持することができるとともに、煉瓦への蓄熱量を低減し、速やかに高温下から低い温度に切り換えることができる陶芸窯の外装構造を提供する。
【課題手段】 焼成炉2の周壁を間隙を介して覆うように外装部材27〜31を備え、焼成炉2の下方においては、外装部材28、29の下端側が焼成炉2の周壁に離間して開口し、且つ、焼成炉2の上方においては、外装部材28、29が焼成炉2の周壁に向かって折曲して、折曲部を介して外装部材28、29の上壁と側壁に、複数の貫通孔28g、29gが備えられている。また、外装部材28、29の側壁に形成された貫通孔には、この貫通孔の上端に連結し、下方、且つ内方に向かって、斜面状に延出するガイド体が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶芸作品を焼成する陶芸窯の外装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陶芸作品を収納して焼成する焼成炉と、焼成炉の内壁に沿って配設され、通電によって発熱し炉内温度を上昇させる電気ヒータとを備えた陶芸窯が知られている。この陶芸窯は、陶芸作品の素焼きや本焼きなどに使用され、焼成炉内の温度が1000℃以上に昇温される。そこで、陶芸窯は、焼成炉の周壁が、耐熱性及び断熱性を有する煉瓦を用いて構成され、さらに、その外周が金属などの外装材で覆って構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2004−197959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
陶芸窯には、炉内の温度を均一に維持すると共に、外面の温度を十分に安全な範囲に維持することが求められる。
【0004】
しかしながら、焼成炉の表面温度を低く維持するためには、焼成炉の周壁を構成する煉瓦の厚みが大きくなり、陶芸窯が大型化してしまうという問題があった。また、焼成炉内の温度を高温下から低い温度に切り換える際には、煉瓦に蓄熱された熱量を放熱する際の時間がかかり、操作性を損なう虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、陶芸窯を大型化することなく、陶芸窯の外面の温度を十分に安全な範囲に維持することができるとともに、焼成炉の周壁(煉瓦)における蓄熱量を低減し、速やかに高温下から低い温度に切り換えることができる陶芸窯の外装構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、陶芸作品を収納して焼成する焼成炉と、前記焼成炉内に配設され、通電によって発熱して焼成炉内の温度を上昇させる電気ヒータと、を備えた陶芸窯の外装構造であって、前記焼成炉の周壁を間隙を介して覆うように外装部材を備え、前記焼成炉の下方においては、前記外装部材の下端側が該焼成炉の周壁に離間して開口し、前記焼成炉の上方においては、前記外装部材が該焼成炉の周壁に向かって折曲して、該折曲部を介して前記外装部材の上壁と側壁に、複数の貫通孔が備えられている、ことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の陶芸窯の外装構造によれば、焼成炉の周壁を間隙を介して覆うように外装部材を備え、焼成炉の下方においては、外装部材の下端側が焼成炉の周壁に離間して開口し、焼成炉の上方においては、外装部材が焼成炉の周壁に向かって折曲して、この折曲部を介して外装部材の上壁と側壁に、複数の貫通孔が備えられているので、焼成炉内の熱が焼成炉の周壁の外面に過大に伝達しても、周壁と外装部材との間隙によって、外装部材への熱伝達が低減され、陶芸窯の外面の温度を十分に安全な範囲に維持することができる。
【0008】
また、請求項1に記載の陶芸窯の外装構造によれば、空気が焼成炉の下方の開口部から流入して外装部材の上方の貫通孔から流出して放熱効果が向上することにより、外装部材表面の温度上昇を低減できると共に、焼成炉内の温度を高温下から低い温度に切り換える際には、速やかに低い温度に切り換えることができる。また、これにより、焼成炉の周壁の厚みを低減できて、陶芸窯の小形化が容易になる。
【0009】
また、請求項1に記載の陶芸窯の外装構造は、請求項2に記載の発明のように、前記外装部材の側面に形成された貫通孔には、貫通孔の上端に連結し、下方且つ内方に向かって、斜面状に延出するガイド体が備えられていることにより、焼成炉の周壁と外装部材との間隙内の空気を、ガイド体を介して、外装部材の外方に速やかに流出させることができる。
【0010】
また、請求項1又は請求項2に記載の陶芸窯の外装構造は、請求項3に記載の発明のように、前記外装部材が、金属体と、該金属体を覆う断熱材とによって構成されていることにより、外装強度を良好に維持しつつ、外装部材表面の温度上昇を低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の陶芸窯の外装構造によれば、焼成炉内の熱が焼成炉の周壁の外面に過大に伝達しても、周壁と外装部材との間隙によって、外装部材への熱伝達が低減され、且つ、空気が焼成炉下方の開口部から間隙内に流入して外装部材上方の貫通孔から流出するので、放熱効果が向上し、外装部材表面の温度上昇を低減できると共に、焼成炉内の温度を高温下から低い温度に切り換える際には、速やかに低い温度に切り換えることができる。また、これにより、周壁の厚みを低減できて、陶芸窯の小形化が容易になる。
【0012】
また、本発明の陶芸窯の外装構造は、外装部材の側面に形成された貫通孔に、貫通孔の上端に連結し、下方且つ内方に向かって斜面状に延出するガイド体が備えられているので、焼成炉の周壁と外装部材との間隙内の空気を、ガイド体を介して、外装部材の外方に速やかに流出させることができる。
【0013】
さらに、本発明の陶芸窯の外装構造は、外装部材が、金属体とこの金属体を覆う断熱材とによって構成されていることにより、外装部材の強度を良好に維持しつつ外装部材表面の温度上昇を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の陶芸用電気窯の一実施例を図面にもとづいて説明する。図1は本発明の一実施例の陶芸窯の外装構造が適用された陶芸窯の外観を表す外観図であって、(a)が平面図、(b)が正面図、図2は同実施例の陶芸窯の外観を表す外観図であって、(a)が図1中の矢印A方向から視た右側面図、(b)が図1中の矢印B方向から視た左側面図、図3は、同実施例の陶芸窯の外装部材を表す外観図であって、(a)が平面図、(b)が正面図、(c)が下面図、(d)が右側面図、図4は図3中のY−Y断面図、図5は、同実施例の陶芸窯の構造を表す断面図であって、(a)が図1中のZ−Z断面図、(b)が図1中のD−D断面図である。
【0015】
図1から図3に表したように、陶芸用電気窯1は、前面側を開口し箱状に形成された焼成炉2、焼成炉2の側部に開閉自在に装着された扉3、扉3内に装着され焼成炉2内の温度を制御する温度制御装置4、焼成炉2内に配設されて温度制御装置4を介して通電され、発熱して焼成炉2内を加熱する電気ヒータ(図5中の符号6である。)、必要に応じて焼成炉2内のガスを外方へ流出させるためのガス抜き孔9、焼成炉2を床面に支持する脚体5等を備えている。なお、電気ヒータ6は、ニクロム線をらせん状に巻いて形成されている。
【0016】
また、陶芸用電気窯1は、その下方の周壁に、図示されないバーナ装置から噴射された還元炎Uを焼成炉内に流入させることができるように、還元ガス導入口(図示せず)を備えている。
【0017】
扉3は、一端が、焼成炉2に固定された上下二つの軸受け10、11に、支軸7を介して揺動自在に係合し、他端側には、オペレータが扉3を開閉する際に把持する取っ手12が備えられている、また、扉3は、焼成炉2の開口部を閉鎖した際に、ハンドル13、14によって、そのロック及び解除が成されるように構成されている。詳しくは、扉3は、ハンドル13、14が支軸15に揺動自在に係合しており、オペレータが、開口部の閉鎖位置において、ハンドル13、14を前方向に揺動させ、扉3から突出した係止片20にハンドル13、14を係合させることによりロックされ、一方、ハンドル13、14を後方向に揺動させることにより、ロックが解除されるように構成されている。
【0018】
また、扉3は、図5に表したように、焼成炉2の開口部を遮蔽するセラミック製の断熱材16と、断熱材16を覆うステンレス製の金属枠17とによって構成され、前方側において、断熱材16と金属枠17との間に、温度制御装置4を収納する収納室18と、収納室18に隣接する空室19とが構成されている。また、収納室18は、温度制御装置4が収納された際に、温度制御装置4の外周に空気が流れる間隙ができるように、温度制御装置4の外形より大きく形成されている。
【0019】
図1に表したように、温度制御装置4は、回路基板が内蔵されて表面には操作パネル4aが設けられている。操作パネル4aには、各工程の温度を設定するための温度設定キー、各工程の時間設定キー、スタート/ストップキー等が設けられている。また、金属枠17は、オペレータが必要に応じて操作パネル4aを操作できるように、収納室(図5中の符号18)及び空室(図5中の符号19)を遮蔽する蓋部17bが、ネジ17cを介して開閉自在に取り付けられている。
【0020】
また、扉3は、金属枠17の上方に複数の貫通孔17aを備えると共に金属枠17の下方に開口孔(図示せず)を備え、外方の空気を下方の開口孔から収納室18及び空室19に流入させ、この空気を上方の貫通孔17aを介して外方へ流出させるように構成されている。
【0021】
次に、図5に表したように、焼成炉2は、複数の耐熱煉瓦21が積層されてその内方に陶芸作品を収納して焼成する焼成室Qを備え、耐熱煉瓦20の外周が、セラミックス製の耐熱ボード22、23により二重に覆われている。
【0022】
また、焼成炉2は、その外周に沿って格子状に組まれた支柱24a〜24d、25a〜25d、支持板26a〜26d等によって支持され、耐熱ボード(所謂、焼成炉2の周壁である。)が23が、間隙Sを介して、外装部材27、28、29、30、31により覆われている。
【0023】
詳しくは、焼成炉2は、底壁が支柱24a〜24dを介して外装部材27に覆われ、左側壁が支柱25a、25bを介して外装部材28に覆われ、右側壁が支柱25c、26dを介して外装部材29に覆われ、後壁が支柱25b、25dを介して外装部材30に覆われ、上壁が支柱26a〜26dを介して外装部材31に覆われ、これらの外装部材との間に間隙Sが構成されている。
【0024】
また、左側壁側における間隙内には温度制御装置4を作動させるための回路部品32が収納され、回路部品32が、ケーブル(図1中の符号33)を介して、温度制御装置4に接続されている。
【0025】
次に、図4に表したように、左右両側方の外装部材28、29は、金属体(ステンレス鋼板である。)28a、29aの内面に断熱材(例えば、断熱性及び耐熱性の優れたセラミック材料である。)28b、29bが積層されて形成されている。
【0026】
また、外装部材28、29は、焼成炉2に取り付けられた際に、耐熱ボード23に沿って下方から上方に延出する側壁28c、29cと、この側壁28c、29cの上縁から焼成炉に向かって折曲して延出する上壁28d、29dとによって構成され、折曲部を介して上壁28d、29dと側壁28c、29cに、複数の貫通孔28g、29g、28h、29hが備えられている。そして、外装部材28、29は、図1に表したように、焼成炉2に取り付けられた際に、下端が焼成炉2の耐熱ボード23に離間して開口し、開口部28m、29mを構成している。
【0027】
また、図4に表したように、外装部材28、29の側壁8c、29cに設けた貫通孔28h、29hには、貫通孔28h、29hの上端に連結し、下方且つ内方に向かって、斜面状に延出するガイド体28j、29jが備えられている。
【0028】
次に、図1に表したように、上方の外装部材31には、複数の貫通孔31a、31bが並設されている。また、後方の外装部材30には、上方に図示されない貫通孔が形成されると共に、下方が耐熱ボード23に離間して開口している。
【0029】
以下に、前記の構成を有する実施例の陶芸窯1の外装構造の作用効果を記載する。
【0030】
実施例に記載の陶芸窯1の外装構造によれば、焼成炉2の周壁(耐熱ボード23)を間隙Sを介して覆うように外装部材27〜31を備え、焼成炉2の下方においては、外装部材28、29の下端側が焼成炉2の周壁に離間して開口し、焼成炉2の上方においては、外装部材28、29が焼成炉2の周壁に向かって折曲して、折曲部を介して外装部材の上壁28d、29dと側壁28c、29cに、複数の貫通孔28g、29g、28h、29hが備えられているので、焼成炉2内の熱が焼成炉2の周壁(耐熱ボード23)の外面に過大に伝達しても、周壁と外装部材28、29との間隙S内の空気によって、外装部材28、29への熱伝達が低減され、外装部材28、29表面の温度が十分に安全な範囲に維持される。
【0031】
また、実施例に記載の陶芸窯1の外装構造によれば、空気が焼成炉2下方の開口部から流入して外装部材28、29上方の貫通孔28g、29g、28h、29hから流出するので、放熱効果が向上し、外装部材28、29表面の温度上昇を低減できると共に、焼成炉2内の温度を高温下から低い温度に切り換える際には、速やかに低い温度に切り換えることができる。また、これにより、耐熱煉瓦21を含む焼成炉2の周壁の厚みを低減できて、陶芸窯1の小形化が容易になる。
【0032】
また、実施例に記載の陶芸窯1の外装構造によれば、外装部材28、29の側面に形成された貫通孔28h、29hには、貫通孔28h、29hの上端に連結し、下方且つ内方に向かって斜面状に延出するガイド体28j、29jが備えられているので、周壁(耐熱ボード23)と外装部材28、29との間隙S内の空気を、外装部材28、29の外方に速やかに流出させ、外装部材28、29及び周壁(耐熱ボード23)表面の放熱効果を向上させることができる。
【0033】
また、実施例に記載の陶芸窯1の外装構造によれば、外装部材28、29が、金属体28a、29aと、金属体28a、29aの内面を覆う断熱材28b、29bとによって構成されていることにより、外装部材28、29の強度を良好に維持しつつ、外装部材28、29表面の温度上昇を低減できる。
【0034】
また、実施例に記載の陶芸窯1の外装構造によれば、扉3が、焼成炉2の開口部を遮蔽するセラミック製の断熱材16と、断熱材16を覆うステンレス製の金属枠17とによって構成され、前方側において、断熱材16と金属枠17との間に、温度制御装置4を収納する収納室18と、収納室18に隣接する空室19とが構成され、且つ、収納室18及び空室19の上壁に貫通孔17aが形成され、収納室18及び空室19の下方に開口孔が形成されているので、扉3及び温度制御装置4の温度上昇を低減できる。
【0035】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様をとることができる。例えば、実施例に記載の陶芸窯1の外装構造において、外装部材28、29を、金属体28a、29aの内面に断熱材28b、29bを積層して形成したが、金属体28a、29aの外面にも断熱材28b、29bを積層してもよい。また、扉3の金属枠17の蓋部17aに、収納室18及び空室19に連結する貫通孔を形成してもよい。
【0036】
また、本発明は、電気ヒータを熱源とする陶芸用電気窯の他に、燃焼ガスを熱源とする陶芸窯や焼成炉にも適用できる。
【0037】
また、外装部材28、29、30、31に形成する貫通孔の位置、形状等は、焼成炉2の周壁の温度が均一になるように、設定することが好ましい。また、焼成炉2と外装部材28、29、30、31とによって構成される複数の間隙Sは、互いに連通して空気が出入りできるように構成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例の陶芸窯の外装構造が適用された陶芸窯の外観を表す外観図であって、(a)が平面図、(b)が正面図である。
【図2】同実施例の陶芸窯の外観を表す外観図であって、(a)が図1中の矢印A方向から視た右側面図、(b)が図1中の矢印B方向から視た左側面図である。
【図3】同実施例の陶芸窯の外装部材を表す外観図であって、(a)が平面図、(b)が正面図、(c)が下面図、(d)が右側面図である。
【図4】図3中のY−Y断面図である。
【図5】同実施例の陶芸窯の構造を表す断面図であって、(a)が図1中のZ−Z断面図、(b)が図1中のD−D断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…陶芸用電気窯、2…焼成炉、3…扉、4…温度制御装置、4a…操作パネル、6…電気ヒータ、7…支軸、8…耐熱ボード、9…ガス抜き孔、10,11…軸受け、12…取っ手、13,14…ハンドル、15…支軸、16…断熱材、17…金属枠、17a…貫通孔、17b…蓋部、18…収納室、19…空室、20…係止片、21…耐熱煉瓦、22,23…耐熱ボード、24a〜24d…支柱、25a〜25d…支柱、27〜31…外装部材、28g,29g,28h,29h,31a,31b…貫通孔、28a,29a…金属体、28b,29b…断熱材、28c,29c…側壁、28d,29d…上壁、28j,29j…ガイド体、28m,29m…開口部、32…回路部品、Q…焼成室、S…間隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶芸作品を収納して焼成する焼成炉と、.
前記焼成炉内に配設され、通電によって発熱して該焼成炉内の温度を上昇させる電気ヒータと、
を備えた陶芸窯であって、
前記焼成炉の周壁を間隙を介して覆うように外装部材を備え、
前記焼成炉の下方においては、前記外装部材の下端側が該焼成炉の周壁に離間して開口し、
前記焼成炉の上方においては、前記外装部材が該焼成炉の周壁に向かって折曲して、該折曲部を介して前記外装部材の上壁と側壁に、複数の貫通孔が備えられている、
ことを特徴とする陶芸窯の外装構造。
【請求項2】
前記外装部材の側壁に形成された貫通孔には、
該貫通孔の上端に連結し、下方且つ内方に向かって斜面状に延出するガイド体が備えられている、
ことを特徴とする、
請求項1に記載の陶芸窯の外装構造。
【請求項3】
前記外装部材は、
金属体と、該金属体を覆う断熱材とによって構成されている、
ことを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の陶芸窯の外装構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate