説明

障害波遮断変圧器

【課題】 障害波遮断変圧器の1次巻線及び2次巻線などの全ての導電部分への放射ノイズの侵入防止効果を大幅に向上させた信頼性の高い障害波遮断変圧器を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る障害波遮断変圧器は、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15で鉄心から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を前記鉄心の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、前記鉄心の外周面を非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1次巻線と2次巻線と鉄心を含んで構成された露出鉄心型の障害波遮断変圧器の放射ノイズの侵入防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
障害波遮断変圧器は、1次と2次のコイルを密接させず引き離し、コイル内の空心と周辺の空間を通る磁束が互いに鎖交し難い位置に配置すること、各コイルと端子やリード線などのすべての導電部を遮へい体ですき間なく覆い、電力の伝達方向に対して設け、接地導体や相手機器のグランドに、低インピーダンスで接続できる構造であること、及び、鉄心の実効透磁率が電力用周波では高く高周波になるに従いできるだけ急速に低下する材質と形状であることの3つの条件を備えているものである。障害波遮断変圧器は、1次と2次のコイルが主として同軸異心、異軸異心、異軸異心ツイストのいずれかの配置となっている。
【0003】
これに対して、絶縁トランス或いはシールドトランスとも呼ばれる通常の電源トランスは、障害波遮断変圧器と異なり、1次と2次のコイルが互いに軸心を共有して重なり合った同軸同心に配置されているため1次コイルの磁束は即2次コイルの磁束になってしまい、高周波磁束の弁別はできない。また、通常の電源トランスがシールドトランスであった場合のシールドは、1次と2次のコイル間や外周に設けただけにすぎず、これで高周波を取り除くことは殆ど不可能である。そこで、各コイルと端子やリード線などのすべての導電部は、遮へい体で隙間なく覆わなければならない。
【0004】
線路を伝播するノイズを阻止する障害波遮断変圧器は、例えば実公昭60−17882号公報(特許文献1)に開示されている如く、各巻線の内外上下全周面をそれぞれ一定厚の導電板で均一に包覆した1次巻線と2次巻線を、高周波実効透磁率の低い鉄心の中央軸に装着するとともに、両巻線の間に隔離間隙を形成した構造である。
【0005】
また、空間を伝搬する放射ノイズに対しては、障害波遮断変圧器を含めてノイズ発生源や機器を導電性材料で完全に覆って電磁波シールドすることで、放射ノイズの侵入を防止している。障害波遮断変圧器の1次巻線及び2次巻線などの全ての導電部分は、導電性材料によって全体が隙間なく覆われていて、放射ノイズが直接侵入してくるのを防いでいる。放射ノイズの侵入防止手段を施した従来の障害波遮断変圧器は、障害波遮断変圧器本体を導電性材料のケースに収納した障害波遮断変圧器と、露出鉄心型の障害波遮断変圧器の2つに大別できる。
【0006】
上記の露出鉄心型の障害波遮断変圧器は、図6、図7又は図8に示す如く、鉄心13の両側の1次巻線及び2次巻線などの全ての導電部分を左右の導電性材料の合せカバー14,15で覆い、鉄心13は導電性材料のカバーで覆わないで露出したままにした構造の障害波遮断変圧器である。換言すれば、上記の露出鉄心型の障害波遮断変圧器は、導電性の鉄心13を1次巻線及び2次巻線の電磁波シールドの一部として利用した障害波遮断変圧器である。この露出鉄心型の障害波遮断変圧器は産業界で広く使われており、放射ノイズの侵入防止効果は実用的なレベルにあることが実証されている。しかしながら、近年、障害波遮断変圧器の放射ノイズの侵入防止効果を更に向上させることが要求されてきた。
【0007】
ところで障害波遮断作用を有しない変圧器においては、従来から鉄心の周囲に筒状カバーを装着することが行われている。例えば、実開昭54−19921号公報(特許文献2)の第2頁第5行目〜同第8行目には、トランス本体の鉄心の周側面に、帯状の珪素鋼板を四角枠状に折曲形成してなるシールド枠としてのハムプルーフベルトを巻装した電源トランスが記載されている。そして、上記ハムプルーフベルトは電源トランスのリーケージフラックスの増大を防止するためのものである旨も記載されている。また、特開平8−153636号公報(特許文献3)の図1には、開口部を有し、かつ一部が開放されたほぼロ字状のハムプルーフベルトを押し広げて鉄心の外周に装着し、このハムプルーフベルトの上部からコ字型形状のベルトで取付金具を介して締め付け固定する構造とした小型変圧器が記載されている。そして、その第2頁左欄第17行目〜同第20行目には、上記小型変圧器は磁束の漏れを防止すべく鉄心の外周に磁気遮蔽用のハムプルーフベルトを巻装したものである旨も記載されている。要するに、鉄心の周囲に珪素鋼板などの磁性体の筒状カバーを巻装して、漏洩磁束の外部への遮断を実現した変圧器は従来から存在している。
【特許文献1】実公昭60−17882号公報
【特許文献2】実開昭54−19921号公報
【特許文献3】特開平8−153636号公報
【非特許文献1】株式会社電研精機研究所の総合カタログ「ノイズカットトランス 障害波遮断変圧器」第10頁「NCT−I1型」「NCT−I2型」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、障害波遮断変圧器の1次巻線及び2次巻線などの全ての導電部分への放射ノイズの侵入防止効果を大幅に向上させた信頼性の高い障害波遮断変圧器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、従来の露出鉄心型の障害波遮断変圧器の鉄心の電磁波遮断効果に着目した。即ち、従来の露出鉄心型の障害波遮断変圧器において、鉄心部は導電性材料であり、厚さも合せカバーの厚さよりも遥かに大きいため、電磁波シールド効果が十分あると認識されている業界の常識に、本発明者達は疑問を持ち、確認のための実験を行った。その結果、従来の露出鉄心型の障害波遮断変圧器の鉄心の電磁波遮断効果は十分なものではないことを確認した。
【0010】
そして、上記課題を解決するために、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバーで鉄心から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を前記鉄心の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、前記鉄心の外周面を非磁性体の導電性筒状カバーで被覆した。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、鉄心部の放射ノイズの侵入防止効果が顕著に向上し、これによって障害波遮断変圧器の1次巻線及び2次巻線などの全ての導電部分への放射ノイズの侵入防止効果を大幅に向上させた信頼性の高い障害波遮断変圧器が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバーで鉄心から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を前記鉄心の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、前記鉄心の外周面を非磁性体の導電性筒状カバーで被覆したことを特徴とする障害波遮断変圧器である。
【実施例1】
【0013】
本発明の第1実施例の障害波遮断変圧器は、図1の斜視図に示す如く、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15で鉄心13から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を鉄心13の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、鉄心13の周囲を筒状に形成した非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。
【0014】
換言すれば、図6に示す第1の従来の障害波遮断変圧器において、鉄心13の周囲を筒状に形成した非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。そして、非磁性体の導電性筒状カバー18は、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスなどの非磁性体の導電性材料によって製作されたものである。また、磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15は、鉄、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスなどの磁性体又は非磁性体の導電性材料によって製作されたものである。
【0015】
より詳細に説明すれば、本発明の第1実施例の障害波遮断変圧器の変圧器本体は、図2の分解図に示す如く、1次巻線11と2次巻線12と鉄心13を含んで構成されたものである。鉄心13は、例えば厚さ0.5mmの無方向性珪素鋼板を打ち抜いて製作した所定寸法のE型コア片とI型コア片を所定の厚さに積層して形成されたものである。また、1次巻線11と2次巻線12はいずれも、所定の径の被覆銅線を多数巻回して構成されたコイルである。そして、図2の分解図に示す障害波遮断変圧器の変圧器本体は、同軸異心の障害波遮断変圧器である。
【0016】
又は、本発明の第1実施例の障害波遮断変圧器の変圧器本体は、図3の分解図に示す如く、1次巻線11と2次巻線12と鉄心13を含んで構成されたものである。鉄心13は、上述のE型コア片とI型コア片を所定の厚さに積層して形成されたものである。また、1次巻線11と2次巻線12はいずれも、所定の径の被覆銅線を多数巻回して構成されたコイルである。そして、図3の分解図に示す障害波遮断変圧器の変圧器本体は、同軸同心の障害波遮断変圧器である。なお、図2又は図3に示す障害波遮断変圧器の鉄心は、上述の積層型鉄心でなく、カットコアやその他のコアであってもよいことは勿論である。
【0017】
非磁性体の導電性筒状カバー18は、鉄心13の外形に対応した形状と寸法の矩形の筒状カバーである。従って、本発明の第1実施例の障害波遮断変圧器の組立に際しては、先ず、非磁性体の導電性筒状カバー18が変圧器本体の鉄心13の外周に嵌め込まれる。次いで、非磁性体の導電性筒状カバー18が鉄心13の外周に嵌め込まれた変圧器本体の左側に磁性体又は非磁性体の第1カップ状導電性合わせカバー14が配置され、且つその右側に磁性体又は非磁性体の第2カップ状導電性合わせカバー15が配置される。そして、固定部材16と17を所定の位置に配置して、これらを上述の変圧器本体及び左右一対のカップ状導電性合わせカバー14,15と共にネジ等の固定手段で組み付ける。なお、ネジ孔は、カップ状導電性合わせカバー14,15のそれぞれのフランジ部14a,15aに形成されている。
【0018】
ところで、非磁性体の導電性筒状カバー18は平板な板部材で製作されているものとして示したが、放熱のために多数の放熱孔を備えたものであってもよい。前記放熱孔は丸孔がよいが、角、楕円、長穴などでも良いことは勿論である。また、非磁性体の導電性筒状カバー18は網状のカバーでも良い。
【0019】
【表1】

【0020】
1次巻線と2次巻線を同軸異心に配置する鉄心を含んで構成された障害波遮断変圧器に、伝導ノイズと放射ノイズを同時に与えたとき、障害波遮断変圧器の障害波遮断性能は表1の通り、従来の障害波遮断変圧器の障害波遮断性能は減衰率−60dBであったのに対して、本発明に係る障害波遮断変圧器の障害波遮断性能は減衰率−86dBと大幅に性能が向上した。前記従来の障害波遮断変圧器は、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバーで鉄心13から露出している1次巻線11と2次巻線12の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を鉄心13の側面でそれぞれ封鎖して構成されたものであり、前記本発明に係る障害波遮断変圧器は一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバーで鉄心13から露出している1次巻線11と2次巻線12の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を鉄心13の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、アルミニウム製の筒状カバー18で鉄心13の周囲を被覆したものである。上述の障害波遮断性能の大幅向上に加えて、筒状カバー18を磁性体の鉄でなく非磁性体のアルミニウムで製作しているので、鉄心の周りを鉄製カバーで被覆した従来の電源トランスでは不可避の唸りが発生しないという利点もある。
【実施例2】
【0021】
本発明の第2実施例の障害波遮断変圧器は、図4の斜視図に示す如く、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15で鉄心13から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を鉄心13の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、鉄心13の周囲を筒状に形成した非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。
【0022】
換言すれば、図7に示す第2の従来の障害波遮断変圧器において、鉄心13の周囲を筒状に形成した非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。そして、非磁性体の導電性筒状カバー18は、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスなどの非磁性体の導電性材料によって製作されたものである。また、磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15は、鉄、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスなどの磁性体又は非磁性体の導電性材料によって製作されたものである。
【実施例3】
【0023】
本発明の第3実施例の障害波遮断変圧器は、図5の斜視図に示す如く、一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15で鉄心13から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を鉄心13の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、鉄心13の周囲を筒状に形成した非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。
【0024】
換言すれば、図8に示す第3の従来の障害波遮断変圧器において、鉄心13の周囲を筒状に形成した非磁性体の導電性筒状カバー18で被覆したことを特徴とするものである。そして、非磁性体の導電性筒状カバー18は、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスなどの非磁性体の導電性材料によって製作されたものである。また、磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバー14,15は、鉄、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスなどの磁性体又は非磁性体の導電性材料によって製作されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施例の障害波遮断変圧器の斜視図である。
【図2】第1実施例の障害波遮断変圧器の第1の分解図である。
【図3】第1実施例の障害波遮断変圧器の第2の分解図である。
【図4】第2実施例の障害波遮断変圧器の斜視図である。
【図5】第3実施例の障害波遮断変圧器の斜視図である。
【図6】第1の従来の障害波遮断変圧器の斜視図である。
【図7】第2の従来の障害波遮断変圧器の斜視図である。
【図8】第3の従来の障害波遮断変圧器の斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
11 1次巻線
12 2次巻線
13 鉄心
14 第1の合わせカバー
14a フランジ部
15 第2の合わせカバー
15a フランジ部
16 固定部材
17 固定部材
18 非磁性体の導電性筒状カバー















【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の磁性体又は非磁性体のカップ状導電性合わせカバーで鉄心から露出している1次巻線と2次巻線の左右の巻線部分を被覆し且つその開口部を前記鉄心の側面でそれぞれ封鎖して構成された障害波遮断変圧器において、前記鉄心の外周面を非磁性体の導電性筒状カバーで被覆したことを特徴とする障害波遮断変圧器。
【請求項2】
前記導電性筒状カバーは、多数の放熱孔が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の障害波遮断変圧器。
【請求項3】
前記非磁性体の導電性筒状カバーは、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレスのいずれかで製作されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の障害波遮断変圧器。































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−141092(P2008−141092A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327903(P2006−327903)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(397041510)株式会社電研精機研究所 (1)
【Fターム(参考)】