説明

隠蔽性粘着フィルム

【課題】 ハロゲンフリーの隠蔽層を有する隠蔽性粘着フィルムであっても、高温時に樹脂フィルムの反発力によって剥がれが発生しにくく、リワーク時に粘着フィルムのチギレが発生しにくい粘着フィルムを提供する。
【解決手段】 白色基材の片面に粘着剤層を有し、樹脂フィルムと粘着剤層との間に隠蔽層が設けられた粘着フィルムであって、隠蔽層のハロゲン含有量が0.3質量%以下であり、インキ層からなる隠蔽層に使用するインキ組成物が、バインダー樹脂としてtanδのピーク温度が−30〜30℃のポリエステルウレタン樹脂を含有し、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を含有する隠蔽性粘着フィルムにより、高温時にインキが流動しにくく、高温時にもインキと粘着剤の間で優れた密着性を確保でき、リワーク時に高速で剥がした際にも隠蔽層が比較的柔軟な架橋構造を有し、クラックが入りにくく、優れたリワーク性を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話などモバイル電子機器に使用される充電式電池の表示ラベル等に有用な粘着シートに関し、より詳細には、ハロゲンフリーで高い隠蔽性を有する粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラなどのモバイル電子機器に使用される充電式電池の電子部品には表示ラベルとして様々な粘着フィルムが貼付されている。このような携帯電話等のモバイル電子機器は年々小型化や軽量化が進んでおり、使用するリチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニカド電池等の小型充電式電池等の電子部品に貼り付ける表示ラベルにも薄型のものが要求されている。一方で、貼り付ける対象である電池等の筐体表面が透けて、ラベル表面に印刷される文字や模様が不鮮明とならないように、高い隠蔽性が求められる。
【0003】
このような高い隠蔽性を有する粘着シートとしては、例えば、白色樹脂フィルムと粘着剤層の間に密着性に優れる塩酢ビ(塩化ビニル−酢酸ビニル)系黒インキ層を設けた高隠蔽性粘着フィルムが開示されている。(特許文献1参照)。
【0004】
近年、環境への配慮から、これら小型充電式電池等の表示装置の周辺材料においても、VOCフリー材料やハロゲンフリー材料への移行が望まれており、小型充電式電池に使用する高隠蔽性粘着フィルムもその例外ではない。しかし、これら粘着テープにおいては、隠蔽層に塩酢ビ系の樹脂をバインダー樹脂とするインキ層が使用されているため、当該塩酢ビ系の樹脂を使用しないインキ層への転換が必要であった。
【0005】
しかし単に塩酢ビ系樹脂以外の樹脂を使用したインキを隠蔽層として用いても、高温時に基材である樹脂フィルムの反発力によってインキから粘着剤が剥がれる問題が発生する場合があった。また薄い樹脂フィルムや発泡樹脂フィルムを用いた場合には、リワークする際に粘着フィルムのチギレが発生する場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2007−291350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ハロゲンフリーの隠蔽層を有する隠蔽性粘着フィルムであっても、高温時に樹脂フィルムの反発力によって剥がれが発生しにくく、リワーク時に粘着フィルムのチギレが発生しにくい粘着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、バインダー樹脂としてTgの高いポリエステルウレタン樹脂を使用し、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を含有するインキ層を、隠蔽層として有する高隠蔽性粘着フィルムにより、高温時にインキが流動しにくく、高温時にもインキと粘着剤の間で優れた密着性を確保できることを見出した。さらにリワーク時に高速で剥がした際にも隠蔽層が比較的柔軟な架橋構造を有するため、当該隠蔽層にクラックが入りにくく、粘着フィルムがちぎれず優れたリワーク性を示すことを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、白色基材の片面に粘着剤層を有し、該白色基材と粘着剤層との間に隠蔽層が設けられた粘着フィルムであって、前記隠蔽層のハロゲン含有量が0.3質量%以下であり、前記隠蔽層がインキ層からなり、前記インキ層に使用するインキ組成物が、バインダー樹脂として周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルで測定されるtanδのピーク温度が−30〜30℃のポリエステルウレタン樹脂を含有し、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を含有することを特徴とする粘着フィルムを提供するものである。
【0010】
また、本発明は上記の粘着フィルムが貼付されたモバイル電子機器の小型充電式電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の隠蔽性粘着フィルムは、ハロゲンフリーの隠蔽層を有した高隠蔽性粘着フィルムであって、樹脂フィルムの反発力による高温時のハガレやリワーク時のチギレが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の隠蔽性粘着フィルムの構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の隠蔽性粘着フィルムの構成の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の隠蔽性粘着フィルムの構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の隠蔽性粘着フィルムは、白色基材の片面に粘着剤層を有し、該白色基材と粘着剤層との間に隠蔽層が設けられた粘着フィルムであって、
前記隠蔽層のハロゲン含有量が0.3質量%以下であり、前記隠蔽層がインキ層からなり、前記インキ層に使用するインキ組成物が、バインダー樹脂として周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルで測定されるtanδのピーク温度が−30〜30℃のポリエステルウレタン樹脂を含有し、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を含有することを特徴とする。
【0014】
[白色基材]
(ハロゲン含有量)
本発明の隠蔽性粘着フィルムに使用する白色基材は、ハロゲン含有量が0.3質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、ハロゲンを実質的に含有しないものが特に好ましい。ここで、ハロゲン含有量は、蛍光X線で分析したときの検出量である。たとえば、蛍光X線の分析装置としてはRigaku社製「ZSX Primus」、「ZSX PrimusII」等が挙げられる。
【0015】
本発明の隠蔽性粘着フィルムに使用する白色基材としては、樹脂フィルムからなる基材を使用でき、樹脂基材中に白色着色剤を含有する白色樹脂フィルムや、当該白色樹脂フィルムあるいは透明樹脂フィルム等の樹脂フィルムの少なくとも一方の表層に、白色インキ等により白色コート層が設けられた白色コートフィルム等を使用できる。なかでも、白色樹脂フィルムの片面に白色コート層を設けたものが薄型で白色性に優れるため好ましい。
【0016】
当該白色基材を形成する樹脂フィルムとしては、粘着フィルムの基材として使用される樹脂フィルムを適宜使用でき、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルムなどが好ましく例示できる。
【0017】
白色樹脂フィルムとしては、白色着色剤を含有させた樹脂フィルムを使用でき、具体的には白色着色剤を含有する白色ポリエチレンテレフタレートフィルム、白色ポリオレフィンフィルム、白色ポリスチレンフィルム等が挙げられる。添加する白色着色剤としては特に限定はなく、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、クレー等の公的に用いられる白色着色剤を使用できる。白色の着色方法として、白色着色剤の添加だけでなく、ポリエチレンテレフタレートフィルムにポリメチルペンテン等のポリエステル樹脂と非相溶な樹脂を添加するなどした後、二軸延伸を行い、内部に微細な気泡を形成させる方法を併用するなどしても良い。なかでも、白色着色剤を練り込んだ白色樹脂を発泡させた発泡白色樹脂、特に、発泡ポリエステルフィルムが適度な白色度を有し、かつ折り曲げ時の反発応力が少なく好ましい。このような樹脂フィルムの市販品としては東洋紡製ポリエステル系合成樹脂フィルム「クリスパーG2311」等があげられる。また、白色着色剤を練り込んだ未発泡の白色樹脂、特に未発泡の白色ポリエチレンテレフタレートフィルムは、リワーク性や耐落下衝撃性に優れ、スマートフォン用等の電池容量が大きい電池パックに使用した際にも落下時の破れを好適に抑制できるため特に好ましく使用できる。さらに、ラミネートフィルムを使用しなくても良好に使用できるため、ラベルを薄型化することができる。
【0018】
白色樹脂フィルムを使用する際の白色着色剤の含有量としては、10〜40質量%の範囲となるよう添加することが好ましい。当該範囲内であれば、厚さが10〜50μmの薄さであっても適度な隠蔽性を確保でき、またフィルム本来の特性を極端に損なうことがない。
【0019】
白色基材として白色コートフィルムを使用する場合の白色コート層は、白色インキをコートしてなる層が好ましい。白色インキのバインダー樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース、ポリエステル樹脂、ポリエステル−ウレタン樹脂等の単体物あるいは混合物を使用できる。そのなかでも、隠蔽層と同じものを用いるのが、樹脂フィルムとの密着性や黒インキとの密着性の点から好ましい。
【0020】
白色基材は厚さが10〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがさらに好ましく、20〜25μmがより好ましい。10μm以上であると、充分な剛度が得られるため、オートラベラーと呼ばれる自動貼付機においてラベルの頭出しが良好となる。50μm以下、さらに好ましくは30μm以下であると、剛度が高すぎず、電池端部等の二つの平面にて形成される辺部を有する貼付対象に当該二つの平面に跨って折り曲げて貼り付ける際にも好適に接着し、剥がれが生じにくい。なかでも白色基材が発泡白色樹脂からなる基材の場合には10〜30μmであることが好ましく、未発泡白色樹脂からなる基材の場合には25〜50μmであることが好ましい。
【0021】
[粘着剤層]
(ハロゲン含有量)
本発明の隠蔽性粘着フィルムに使用する粘着剤は、ハロゲン含有量が0.3質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、ハロゲンを実質的に含有しないものが特に好ましい。ここで、ハロゲン含有量は、蛍光X線で分析したときの検出量である。たとえば、蛍光X線の分析装置としてはRigaku社製「ZSX Primus」、「ZSX PrimusII」等が挙げられる。
【0022】
本発明の隠蔽性粘着フィルムの粘着剤層に使用する粘着剤としては、ポリマーの種類で、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系等が挙げられる。また、粘着剤の形態として、溶剤系、エマルジョン型粘着剤、水溶性粘着剤等の水系、ホットメルト型粘着剤、UV硬化型粘着剤、EB硬化型粘着剤等の無溶剤系等を用いることができる。
【0023】
そのなかでも、耐反発性と加工性を高度に両立できるアクリル系粘着剤が好ましく、炭素数2〜14(メタ)アルキルアクリレートと極性基含有ビニルモノマーを必須成分としてなるアクリル系共重合体と、粘着付与樹脂とを含有するエマルジョン型アクリル系粘着剤組成物であることが好ましい。
【0024】
このような炭素数2〜14の(メタ)アルキルアクリレートとしては、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート等のモノマーが例として挙げられる。これらのモノマーは単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0025】
そのなかでも、得られる粘着剤組成物の粘着力と凝集力とのバランスを考慮して、炭素数2〜14の(メタ)アルキルアクリレートとして、n−ブチルアクリレート又は2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。また、アクリル系共重合体中の炭素数2〜14の(メタ)アルキルアクリレートの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが最も好ましい。
【0026】
また、極性基含有ビニルモノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、カルボキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート等を用いることができる。
【0027】
そのなかでも、極性基含有ビニルモノマーとして、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。また、アクリル系共重合体中の極性基含有ビニルモノマーの含有量は、0.1〜10質量%が好ましく、1〜10質量%が最も好ましい。含有量を0.1〜10質量%とするのは、0.1質量%以上であると加工適性や接着力が良好であり、10質量%未満であると初期接着力が充分となる。
【0028】
また、本発明で用いる粘着付与樹脂は、特に貼付対象としてポリプロピレンのような低極性被着体が使用される場合に粘着力を高め、耐剥がれ性を高めるために使用されるものであり、ロジンやロジンのエステル化合物等のロジン系樹脂;ジテルペン重合体やα−ピネン−フェノール共重合体等のテルペン系樹脂;脂肪族系(C5系)や芳香族系(C9)等の石油樹脂;その他、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0029】
そのなかでも、ロジン系樹脂を好ましく使用でき、重合ロジンペンタエリスリトールエステルをより好ましく使用できる。
【0030】
粘着剤としてアクリル系共重合体と粘着付与樹脂とを含有するエマルジョン型アクリル系粘着剤組成物を使用する際の粘着付与樹脂の含有量としては、アクリル系共重合体100質量部に対して、3〜20質量部含有するのが好ましく、5〜20質量部含有するのが最も好ましい。粘着付与樹脂の含有量が3質量部以上では、耐剥がれ性が良好であり、20質量部以下であると、良好な低温接着性が得られる。
【0031】
粘着剤の引張弾性率は0.2〜0.4MPaが好ましい。より好ましくは粘着剤の引張弾性率が0.2〜0.3MPaである。粘着剤の引張弾性率とは、棒状の粘着剤単体を引っ張った際に引張伸度が10%以内の引張初期の弾性率を指す。引張弾性率が0.2MPa以上であると、印刷ラベル加工時の打ち抜き工程やカス取り工程の際に、粘着剤のはみ出しが生じにくい。引張弾性率が0.4MPa以下であると、粘着剤の粘性が良好で、貼付初期の接着性が充分得られやすい。
【0032】
乾燥後の粘着剤層の好ましい厚さは、3〜30μm、好ましくは10〜20μmである。粘着剤層の厚さが30μm以下であると印刷ラベル加工時の打ち抜き、カス取り作業の際に粘着剤の伸びが生じず、粘着ラベルの周りに付着しないため、粘着ラベル表面の汚れやロール状に粘着ラベルを巻いた際のブロッキングが発生しにくい。
【0033】
粘着剤層の周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルの損失正接は、85℃下で0.4〜0.80であることが好ましい。さらに好ましくは0.55〜0.65である。0.4未満であると、粘着剤が硬くなりすぎ、初期の密着性と耐反発性が低下する。一方、0.80を越えると、粘着剤が柔らかくなりすぎ、高温で粘着剤が伸びてハガレが発生しやすく、またリワーク時に糊残りしやすい。
【0034】
粘着剤層の周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルの損失正接のピーク温度は、−25℃〜10℃であることが好ましく、更に好ましくは−15℃〜0℃であることが好ましい。−25℃未満であると、粘着剤が柔らかくなりすぎ、加工時に糊のはみ出しが発生しやすくなる。一方、10℃を越えると、粘着剤が硬くなりすぎ、初期タックが低くなりすぎ、電池端部等の二つの平面に跨って折り曲げて貼られる際に充分に密着しにくくなる。
【0035】
粘着剤層のゲル分率は30%〜60%であることが好ましく、さらに好ましくは40%〜55%である。ゲル分率はエージング後の粘着剤をトルエン中に浸漬し、24時間放置後の不溶分の乾燥後の重量を測定し、元の重量に対する百分率で表す。ゲル分率が30%未満ではリワーク時に糊残りが発生しやすくなる。ゲル分率が60%を超えると電池端部等の二つの平面に跨って折り曲げて貼られる際に充分に応力を緩和せず、剥がれやウキが発生しやすくなる。
【0036】
[隠蔽層]
本発明の隠蔽性粘着フィルムに使用する隠蔽層は、薄膜を容易に形成できるインキ層からなり、隠蔽性を確保できるものであれば特に制限されないが、高隠蔽性を確保できることから黒色の着色剤を含有する黒色インキ層が好ましい。
【0037】
(ハロゲン含有量)
本発明の隠蔽性粘着フィルムにおける隠蔽層は、ハロゲン含有量が0.3質量%以下である。好ましくは0.05質量%以下であり、ハロゲンを実質的に含有しないものが特に好ましい。ここで、ハロゲン含有量は、蛍光X線で分析したときの検出量である。たとえば、蛍光X線の分析装置としてはRigaku社製「ZSX Primus」、「ZSX PrimusII」等が挙げられる。
【0038】
(インキの組成)
隠蔽層に使用するインキのバインダー樹脂は周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルで測定されるtanδのピーク温度が−30〜30℃のポリエステルウレタン樹脂である。
【0039】
(ポリエステルウレタン樹脂の動的粘弾性の測定)
バーコーターにてポリエステルウレタン樹脂を厚さ50μmに製膜する。次に試料長さ20mmにカットした試験片(試料長20mm、膜厚50μ)を粘弾性試験機を用いて、周波数1Hz、昇温時間3℃/1分の条件で−150℃から250℃までの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を測定する。損失正接tanδは、以下の計算式より算出する。
損失正接tanδ=G”/G’
粘弾性試験機としては例えば、セイコーインスツル社製DMS210、DMS220、DMS6100等があげられる。
【0040】
ポリエステルウレタン樹脂のtanδのピーク温度は−30℃〜30℃である。より好ましくは−20℃〜30℃であり、特に好ましくは−15℃〜25℃であり、最も好ましくは−10℃〜25℃である。ポリエステルウレタン樹脂のtanδのピーク温度がこの範囲にあると、遮光層のインキが適度な柔軟性と硬さを持つため、リワーク時にインキ層のクラック発生によるチギレが生じにくく、また高温時のインキの流動によるハガレが発生しにくい。tanδのピーク温度が30℃を越えると、インキ層の弾性率が高くなりすぎ、リワーク時にチギレが発生しやすい。tanδのピーク温度が−30℃未満である通常の印刷インキを使用すると、インキ層としての弾性率が低くなりすぎ、高温でインキと粘着剤界面に反発力が負荷された際に剥がれやすい。
【0041】
ポリエステルウレタン樹脂は、ジイソシアネート化合物とポリエステルポリオール化合物及び低分子量の鎖伸長剤等の縮重合反応により得られ、分子内にウレタン結合を多数持った柔軟性、弾性に富んだ樹脂である。ポリエステルポリオール化合物はモノマー成分としてジカルボン酸を含有し、前記ジカルボン酸中の芳香族ジカルボン酸を30〜90質量%とすることがポリエステルウレタン樹脂のtanδのピーク温度を上記範囲に制御しやすいため好ましい。またポリエステルポリオールの分子量は、特に限定されないが、数平均分子量で800〜6,000であることが好ましい。ポリエステルポリオールの数平均分子量が800未満では、得られるポリエステルウレタン樹脂の印刷適性やコーテイング適性が劣ったものに成りやすく、6,000を超えると乾燥性および耐ブロッキング性が低下する傾向がある。ポリエステルウレタン系樹脂としては、質量平均分子量1,000〜500,000のものが好ましく、より好ましくは20,000〜150,000である。
【0042】
前記平均質量分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算である。測定条件として、カラムはTSKgel GMHXL[東ソー製]を用い、カラム温度40℃、溶離液はテトラヒドロフラン、流量は1.0mL/分とし、標準ポリスチレンはTSK標準ポリスチレンを用いる。
【0043】
本発明の隠蔽性粘着フィルムの隠蔽層として用いられるインキのポリエステルウレタン樹脂に好適に用いられるジイソシアネート化合物の具体例としては、例えば、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に置換したダイマージイソシアネートなどの鎖状脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの環状脂肪族ジイソシアネート;4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネートなどのジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルテトラメチルメタンジイソシアネートなどのテトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;リジンジイソシアネートなどのアミノ酸ジイソシアネートなどが挙げられる。これらのジイソシアネート化合物をはじめとする前記ポリイソシアネート化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。そのなかでもイソホロンジイソシアネートが適度な弾性を持つため好ましい。
【0044】
本発明で好適に用いられるポリエステルポリオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、ジプロピレングリコール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA等の飽和または不飽和の低分子量グリコール類とアジピン酸、マレイン酸、フマル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の二塩基酸またはこれらに対応する酸無水物等を脱水縮合して得られる化合物等が挙げられる。なかでも芳香族ジカルボン酸とジオールを脱水縮合したものが好ましく、そのなかでもアジピン酸とテレフタル酸の混合物と3−メチル−1,5−ペンタンジオールを脱水縮合したものが適度な弾性を持つため好ましい。
【0045】
鎖伸長剤としては、各種公知のジアミン類およびグリコール類が挙げられる。ジアミン類としては、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、へキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジー2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジー2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の分子内に水酸基を有するジアミン類およびダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等が代表例として挙げられる。
【0046】
更には、ウレタン化反応の際、反応停止剤を用いることもできる。かかる反応停止剤としては、例えば、ジ−n−ブチルアミン等のジアルキルアミン類、ベンジルアミン、ジベンジルアミン等の芳香族アミン類、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類や工タノール、イソブロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0047】
ポリエステルウレタン樹脂は尿素結合を付与したポリエステルウレタン尿素樹脂が好ましい。
【0048】
ポリエステルウレタン尿素樹脂を製造する方法については特に制限はなく、一般的なポリエステルウレタン尿素樹脂の製法と同様の方法に従って製造すればよい。例えば、ジイソシアネート成分とポリオール成分とをイソシアネート基過剰の当量比で反応させて両末端イソシアネート基のプレポリマーをつくり、次いでこれらを適当な溶媒中で鎖伸長剤および必要に応じて反応停止剤と反応させるが、前記化合物を一括で反応させることもできる。
【0049】
前記製造法において使用される溶剤としては、通常、印刷インキ用の溶剤として知られている溶剤を挙げることができる。例えばトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶剤,アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤が挙げられ、これらを単独または2種以上の混合物で用いることができる。特に芳香族系溶剤としてトルエンを用いることが好ましい。
【0050】
隠蔽層を構成するインキは、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を含有する。そのなかでも脂肪族または脂環族イソシアネート系硬化剤が好ましい。tanδのピーク温度が−30℃〜30℃のポリエステルウレタンと、比較的柔軟な架橋構造を形成する脂肪族または脂環族イソシアネートを架橋させることで、弾性率を制御し高温でのインキの流動に起因するインキ界面と粘着剤界面の剥がれを抑制することができる。さらに適度な弾性率であるためリワーク時にインキ層のクラックが入りにくく、テープのチギレが発生しにくい効果が得られる。
【0051】
芳香族イソシアネートとしては4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、2,4−トリレンダイマー等が例示できる。これらは単独でまたは組み合わせて用いることができる。また、これらイソシアネートの三量体を好ましく使用できる。
【0052】
脂肪族または脂環族イソシアネートとしてはヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートが用いられる。また、これらイソシアネートの三量体を好ましく使用でき、そのなかでもジイソシアネートのアダクト体やビウレット体又はヌレート体であることが好ましい。そのなかでもヘキサメチレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートのアダクト体、又はビウレット体又は、ヌレート体が弾性率を制御しやすく好ましく、ビウレット体又はヌレート体が特に好ましい。硬化剤は単独で添加しても良いし、2種類以上を添加しても良い。
【0053】
また分散剤として、高い分散性の得られるセルロース系樹脂を添加することが、高い隠蔽性が得られるため好ましい。セルロース系樹脂としては、硝化綿、セルロースアセテートプロピオネートが挙げられる。樹脂の添加量としては、インキ固形分に対し、0.05〜10質量%であることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜3質量%である。
【0054】
また、着色材料としては、ハロゲンを含まない公知慣用の顔料や染料を使用することができ、黒の場合はカーボンブラック、白の場合は酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黄色の場合は黄色酸化鉄、赤の場合はべんがら、青の場合はシアニンブルー、銀の場合はアルミニウム粉、パールの場合は雲母チタン粉が、耐候性・耐熱性・インキ樹脂に対する分散性から好ましい。なかでも、黒色インキ層を形成できるものが好ましく、カーボンブラックが隠蔽性に優れるため好ましい。
【0055】
着色材料の添加量としては、用途等に応じて適宜調整すればよく、着色材料を含むインキ固形分中の10〜70%が好ましい。より好ましくは、40〜50%である。10%以上あれば、好適に隠蔽性を示し、70%以下であれば、分散が良好となる。
【0056】
隠蔽層を構成するインキ中には、ブロッキング防止剤を含有することが好ましい。ブロッキング防止剤を含有することでブロッキングによるピンホールの発生を抑制できる。ブロッキング防止剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、タルク等の粒子系ブロッキング防止剤や、ポリエチレンワックス(PEワックス)、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、高級脂肪酸等の有機化合物系ブロッキング防止剤を使用することが好ましい。粒子系ブロッキング防止剤はインキ層表面に凹凸を形成しインキ面と背面の接触面積を減らすことでブロッキングを防止する。一方、有機化合物系ブロッキング防止剤はインキ層表面にブリードアウトすることでブロッキングを防止する。そのため、粒子系ブロッキング防止剤と有機化合物系ブロッキング防止剤を併用することが好ましい。特に粒子系ブロッキング防止剤としては粘着剤との密着性を向上させるシリカが好ましい。また有機化合物系ブロッキング防止剤としては粘着剤との密着性を大きく低下させないPEワックスが特に好ましい。
【0057】
粒子径ブロッキング防止剤の添加量としては、インキ固形分に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。そのなかでも1〜5質量%がより好ましい。0.5質量%以上であれば好適にブロッキング防止の効果を発揮し、10質量%以下であるとインキ皮膜が脆弱化し、リワーク時にテープのチギレが生じやすい。一方、有機系ブロッキング防止剤の添加量としては、インキ固形分に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。そのなかでも2〜7質量%がより好ましい。0.5質量%以上であれば好適にブロッキング防止の効果が得られ、10質量%以下であると粘着剤との密着性やリワーク性も良好となる。また、必要に応じてその他の各種添加剤を含有していてもよい。
【0058】
(弾性率)
隠蔽層に使用するインキは、当該インキにより幅10μm、厚みが40μmのシート状サンプルを形成した際に、その弾性率が0.5GPa〜1.5GPaとなるインキであることが好ましい。さらに好ましくは0.6GPa〜1.2GPaであり、最も好ましくは0.7GPa〜1.1GPaである。0.5GPa未満では、高温でインキが流動し、インキと粘着剤の界面でハガレが発生しやすい。1.5GPaではインキが硬くなり過ぎ、インキが脆くなり高速で剥がす際にテープのチギレが発生しやすい。なお、シート状サンプルの弾性率は温度23℃、湿度50%の条件下で標線間隔100mmにて引張速度300/minで測定した値である。
【0059】
(引張強度10MPaでの伸び率)
隠蔽層に使用するインキは、幅10μm、40μmの厚みとしたシート状サンプルの引張強度10MPaでの引張方向への伸び率が0.5〜15%となるインキである。好ましくは0.5〜5%あり、より好ましくは0.5〜3%である。0.5%未満ではインキが硬くなり過ぎ、インキが脆くなり高速で剥がす際にテープがちぎれやすい。15%を超えるとインキが流動し、インキと粘着剤の界面でハガレが発生する。なお、シート状サンプルの弾性率は温度23℃、湿度50%の条件下で標線間隔100mmにて引張速度300/minで測定した値である。
【0060】
(引張破断強度)
また、隠蔽層に使用するインキは、幅10μm、40μmの厚みとしたシート状サンプルの引張破断強度は15〜50MPaであることが好ましい。さらに好ましくは21MPa〜30MPaである。なお、シート状サンプルの弾性率は温度23℃、湿度50%の条件下で標線間隔100mmにて引張速度300/minで測定した値である。
【0061】
(引張破断伸度)
隠蔽層に使用するインキは、幅10μm、40μmの厚みとしたシート状サンプルの引張破断伸度は10〜70%であることが好ましい。さらに好ましくは20〜50%である。なお、シート状サンプルの弾性率は温度23℃、湿度50%の条件下で標線間隔100mmにて引張速度300/minで測定した値である。
【0062】
遮光層の厚みは、遮光性や粘着フィルム打ち抜き時の加工性の観点から、1〜5μmが好ましく、2〜4μmがより好ましい。尚、インキの厚みが厚いほど、リワーク性の観点からインキ層を低弾性率にすることが好ましい。
【0063】
[粘着フィルム]
(ハロゲン含有量)
本発明の隠蔽性粘着フィルムは、ハロゲン含有量が0.3質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以下であり、ハロゲンを実質的に含有しないものが特に好ましい。ここで、ハロゲン含有量は、蛍光X線で分析したときの検出量である。たとえば、蛍光X線の分析装置としてはRigaku社製「ZSX Primus」、「ZSX PrimusII」等が挙げられる。
【0064】
(構成)
本発明の隠蔽性粘着フィルムは、白色基材の片面に粘着剤層を有し、樹脂フィルムと粘着剤層の間に隠蔽層を設けた構成を有する。具体的な構成例としては、例えば、白色基材として白色樹脂フィルムを使用し、当該白色樹脂フィルムと粘着剤の間に隠蔽層を設けた構成が例示できる(図1)。また、白色基材として白色樹脂フィルムの片面に白色コート層を有する白色コートフィルムを使用し、当該白色コートフィルムの白色コート層上に隠蔽層を設け、当該隠蔽層上に粘着剤層を設けた構成も好ましく例示できる(図2)。さらに、片側に白色コート層を有する白色コートフィルムの白色コート層と反対の表面に隠蔽層を有し、当該隠蔽層上に粘着剤層を有する構成も例示できる(図3)。これらの構成のなかでも図3の構成は、染料インキが透過しにくく、隠蔽性に優れる。
【0065】
本発明の隠蔽性粘着フィルムの隠蔽率は98%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。隠蔽率は粘着フィルムを白色面と黒色面に貼付した際の明るさの差から求める。JIS−Z−8722に規定される色測定方法の三刺激値XYZのうち、明るさを示すY値の比で求める。
【0066】
樹脂フィルム面から見た場合の白色性は、JIS−Z−8722に規定される色測定方法の三刺激値XYZのうち、明るさを示すY値とJIS−Z−8715で規定される白色度指数Wで規定される。本発明の隠蔽性粘着フィルムの白色性は特に限定されるものではないが、Y値は40以上が好ましく、60以上がより好ましい。また、白色度指数Wは70以上が好ましく、75以上がより好ましい。Y値が40以上であり、白色度指数が70以上であると黒色の印刷や印字を行った場合に印字面の表示が読みとりやすい。
【0067】
(製造工程)
本発明の隠蔽性粘着フィルムは、白色基材に少なくとも隠蔽層と粘着剤層とを積層することで得ることができる。隠蔽層に黒色インキを使用する場合には、樹脂フィルムへの黒色インキの塗工は公知の方法で行われる。例えば、ナイフコーター、グラビアコーター、ロールコーター等を使用して塗工することができる。好ましくは、グラビアコーターである。塗工する際には、一度に所定厚さのインキを塗工すると乾燥が不十分となりロール状に巻いた後にブロッキングが発生しやすい。そのため、インキを数回に分けて重ね塗りして規定厚さにすることが好ましい。白色度を向上させるために白色基材の白色コート層を白色インキにより形成する場合にも同様の塗工方法により層形成が可能である。
【0068】
ところで、小型充電式電池のロット番号などを粘着フィルム上へ表示する必要がある場合や粘着フィルムへの表示内容が一品一様で異なるなどで小ロット数の印刷が必要な場合は、紫外線硬化型インキを使用する凸版印刷や熱転写印刷等の印刷方式によって印刷されることが多い。白色基材を構成する樹脂フィルムの表面を印刷できるように改質する方法として一般的に表面へコロナ処理する方法が適用されるが、これらの印刷方式で印刷した場合にはインキの密着が悪く、粘着フィルム加工工程中や被着物への使用の際にインキの剥がれが発生しやすい。したがって、白色基材を構成する樹脂フィルムの表面にインキを密着させるためのアンカーコート層を設けることが好ましい。
【0069】
このような条件を満たすアンカーコート層は、インキと密着しやすい樹脂および分散媒からなるアンカーコート剤を樹脂フィルムの片面に塗工し、乾燥することによって形成される。アンカーコート層を片面に形成した樹脂フィルムをロール状に巻いた場合に、アンカーコート剤と反対面の未塗工のフィルム表面あるいは隠蔽層と接着するのを防止する目的でブロッキング防止剤を添加する場合もある。また、アンカーコート剤には性能を阻害しない範囲で、必要に応じて帯電防止剤、紫外線吸収剤等を添加しても良い。インキと密着しやすい樹脂としては、公知のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ニトロセルロース等を使用することができる。分散媒にはトルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル等の公知の有機溶剤が使用することができる。ブロッキング防止剤には、公知の合成シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン等の無機系添加剤、ポリエチレンワックス樹脂等の有機系添加剤を使用することができる。アンカーコート剤の配合は、インキと密着しやすい樹脂20〜30質量部、分散媒は60〜70質量部、ブロッキング防止剤1〜5質量部が好ましい。アンカーコート剤の塗工量は0.5〜3.0g/m2が好ましく、より好ましくは1.0〜2.0g/m2である。
【0070】
アンカーコート剤の樹脂フィルムへの塗工方法は公知の方法で行われる。例えば、ナイフコーター、グラビアコーター、ロールコーター等を使用して塗工することができる。好ましくは、グラビアコーターである。
【0071】
隠蔽層を設けた白色基材の隠蔽層上に粘着剤層を形成するには、固形分20〜60質量%に調整された粘着剤溶液をロールコーターやダイコーター等で直接隠蔽層に塗工する方法や、剥離ライナー上にいったん粘着剤層を形成後、隠蔽層上に転写する方法を用いる。剥離ライナーには公知のものが使用でき、例えば、ポリエチレンラミネート紙、グラシン紙、クレーコート紙、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム等にシリコーン化合物の剥離層を形成したものが好適に使用できる。
【0072】
(用途)
上記のとおり本発明の隠蔽性粘着フィルムは、薄い基材を使用していながら、下地の模様を表面に透過させない高隠蔽性を示す。また、薄い基材を使用しても印刷ラベル加工時の打ち抜き、カス上げ作業の際に粘着剤のはみ出しが発生しにくく、角から角までの距離が短く貼付面積が小さい筐体面に貼付した場合でも剥がれが発生しにくい。このため、携帯電話などのモバイル電子機器に使用される電子部品等に貼付される表示ラベルとして有用に使用できる。
【0073】
このような電子部品としては、アルミ製の筐体からなる電池セル本体およびポリカーボネート樹脂やポリプロピレン樹脂などのプラスチックからなる外枠筐体から構成されている充電式電池が好ましく、耐反発性が要求される携帯電話等のリチウムイオン電池等の小型充電式電池が好ましく例示できる。このような小型充電式電池は幅50mm、厚さ10mm以下程度の大きさのものであるが、このような小型充電式電池に折れを生じる形で、本発明の隠蔽性粘着フィルムが貼り付けられた電子部品は、二つの平面にて形成される角の部分や端部で浮きや剥がれが発生しにくい。本発明の隠蔽性粘着フィルムは、これら電池パック用途に特に好適であり、なかでも、電池外枠に染料インキにより型番等が印刷された表面を隠蔽する際に、当該染料インキの隠蔽性が良好であるため、電池外枠に染料インキによる印刷が設けられ、当該印刷上に上記本発明の隠蔽性粘着フィルムを貼り付けた電池パックとして好適に使用できる。なかでも、図3のように白色基材として白色樹脂フィルムの片面に白色コート層を有する白色コートフィルムを使用し、当該白色コートフィルムの反対面に隠蔽層を設け、当該隠蔽層上に粘着剤層を設けた構成の隠蔽性粘着フィルムは、特に染料インキの隠蔽性が高く、白色基材表面に各種印刷を設けた際の視認性が良好となるため好ましい。
【0074】
本発明の隠蔽性粘着フィルムは、上記のような表示ラベルとして好適に使用できる。本発明の隠蔽性粘着フィルムは、以下に例示する工程等によりでラベル形状に加工される。剥離ライナーを積層した本発明の隠蔽性粘着フィルムのロール品(例えば、幅50〜200mm、長さ100〜800mの巻物が慣習的な使用サイズ)に対して、樹脂フィルム、隠蔽層を経て粘着剤層までの積層部分をゼンマイ刃等で打ち抜いた後に不要部分を除去する。かくして、必要部分(ラベル)が剥離ライナーの長手方向に並んだロール品が生産され、必要に応じてシート状にカットされる。樹脂フィルム表面に印刷が施される場合は、印刷機にて樹脂フィルム表面にインキ展色層を設け、その後インキ展色層から樹脂フィルム、隠蔽層を経て粘着剤層までの積層部分をゼンマイ刃等で打ち抜いた後に不要部分を除去する。さらに、樹脂フィルム表面に熱転写リボンを用いて熱転写印字を施す場合は、同様に樹脂フィルム、隠蔽層を経て粘着剤層までの積層部分をゼンマイ刃等で打ち抜いた後に不要部分を除去したロール状粘着フィルムを作成した後、熱転写印字機で樹脂フィルム表面に熱転写印字する。
【0075】
表示ラベルの印刷や印字が摩擦等で脱落するのを防止する目的で、前記印刷物の表面にオーバーラミネートフィルムを貼付したりニスを塗工してもよい。オーバーラミネートフィルムの構成は10〜20μmの透明ポリプロピレン樹脂フィルムまたは透明ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの片面に粘着剤もしくは接着剤を塗工した構成が例示できる。前記透明プロピレン樹脂フィルムおよび透明ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムは、透明性を良くするために二軸方向に延伸されたフィルムを用いることが好ましく、印刷物への貼付しやすさを良くするために引張弾性率は2.0〜5.5GPaの範囲であることが好ましい。必要に応じて前記フィルムの表面にサンドブラスト加工等のマット加工を施したり、シリカ等を練り込んでマット化してもよい。これに使用する粘着剤は、印刷ラベル加工時の打ち抜き、カス取り作業の際に粘着剤が伸び、粘着ラベルの周りに付着し、粘着ラベル表面の汚れやロール状に粘着ラベルを巻いた際にブロッキングを発生させないために本発明の樹脂フィルムに使用する粘着剤をオーバーラミネートフィルムの粘着剤にも用いることが好ましい。一方ニスの材質にはとくに限定はなく、一般的に市販されている紫外線硬化型のニスインキ等をシール印刷加工機等で塗工した後、硬化させて粘着フィルムの表面に接着させることができる。
【0076】
本発明の隠蔽性粘着フィルムを貼付する電子部品としては、アルミ製の筐体からなる電池セル本体およびポリカーボネート樹脂やポリプロピレン樹脂などのプラスチックからなる外枠筐体から構成されている充電式電池が好ましく、耐反発性が要求される携帯電話等のリチウムイオン電池等の小型充電式電池がとくに好ましい。この小型充電式電池は、アルミ製筐体の電池セル本体がプラスチック製の外枠筐体に全体が包まれている場合と、部分的に露出している場合がある。
【実施例】
【0077】
以下に実施例および比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」とあるのは、特に断りがない限り質量基準を示す。
【0078】
[ポリエステルウレタンの製造例]
(ポリエステルウレタン樹脂A)
攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにアジピン酸/テレフタル酸=50/50なる酸成分と3−メチル−1,5ペンタンジオールから得られる数平均分子量(以下Mnという)2,000のポリエステルジオール256.3部とイソホロンジイソシアネート36.5部を仕込み、窒素気流下に90℃で15時間反応させた。次いでイソホロンジアミン5.0部、ジ−n−ブチルアミン2.2部、トルエン175部、メチルエチルケトン350部、イソプロピレンアルコール175部を添加し、攪枠下に40℃で3時間反応させ、樹脂固形分濃度30.0%、ガードナー粘度U−V(25℃)、アミン価=0、質量平均分子量(以下Mwという)67,000のポリエステルウレタン樹脂Aを得た。得られた樹脂のtanδのピーク温度は−8℃であった。
【0079】
(ポリエステルウレタン樹脂B)
攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにアジピン酸とネオペンチルグリコールから得られるMn=1,000のポリエステルジオール223.1部とイソホロンジイソシアネート64.4部を仕込み、窒素気流下に90℃で15時間反応させた。次いでイソホロンジアミン11.3部、ジ−n−ブチルアミン1.2部、トルエン175部、酢酸エチル315部、イソプロピレンアルコール210部を添加し、攪枠下に40℃で3時間反応させ、樹脂固形分濃度30.0%、ガードナー粘度S−T(25℃)、アミン価=0.5、Mw=100,000のポリエステルウレタン樹脂Bを得た。得られた樹脂のtanδのピーク温度は−20℃であった。
【0080】
(ポリエステルウレタン樹脂C)
攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにアジピン酸/テレフタル酸=10/90なる酸成分と3−メチル−1,5ペンタンジオールから得られるMn=2,000のポリエステルジオール229.8部とイソホロンジイソシアネート50.5部を仕込み、窒素気流下に90℃で15時間反応させた。次いでイソホロンジアミン17.5部、ジ−n−ブチルアミン2.1部、トルエン175部、メチルエチルケトン350部、イソプロピレンアルコール175部を添加し、攪枠下に40℃で3時間反応させ、樹脂固形分濃度29.0%、ガードナー粘度U−V(25℃)、アミン価=0、Mw=70,000のポリエステルウレタン樹脂Cを得た。得られた樹脂のtanδのピーク温度は+28℃であった。
【0081】
(ポリエステルウレタン樹脂D)
攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにテレフタル酸と3−メチル−1,5ペンタンジオールから得られるMn=2,000のポリエステルジオール229.8部とイソホロンジイソシアネート50.5部を仕込み、窒素気流下に90℃で15時間反応させた。次いでイソホロンジアミン17.5部、ジ−n−ブチルアミン2.1部、トルエン175部、メチルエチルケトン350部、イソプロピレンアルコール175部を添加し、攪枠下に40℃で3時間反応させ、樹脂固形分濃度29.0%、ガードナー粘度U−V(25℃)、アミン価=0、Mw=70,000のポリエステルウレタン樹脂Dを得た。得られた樹脂のtanδのピーク温度は+35℃であった。
【0082】
(ポリエステルウレタン樹脂の動的粘弾性の測定)
バーコーターにてポリエステルウレタン樹脂を厚さ50μmに製膜する。次に試料長さ20mmにカットした試験片(試料長20mm、膜厚50μ)を粘弾性試験機(セイコーインスツル社製、商品名:DMS210)を用いて、周波数1Hz、昇温時間3℃/1分の条件で−150℃から250℃までの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を測定した。損失正接tanδは、以下の計算式より算出した。
損失正接tanδ=G”/G’
【0083】
[黒色インキの製造例1]
デグサ社製「カーボンデグサスペシャル4A」を4部、デグサ社製「カーボンスペシャル250P」6部、ポリエステルウレタン樹脂A(tanδピーク温度=−8℃)を40部、メチルエチルケトンを23部、トルエンを13部、酢酸エチルを6部、N−プロピルアセテートを3部、イソプロピルアルコール3部を添加し、サンドミルで約1時間湿式分散した物に、DIC社製硬化剤「KR90」(ヘキサメチレンジジイソシアネートのビウレット体)を4部、DIC社製希釈剤「ダイレジューサーV No.20」を35部添加して黒色インキAを作成した。なお、樹脂は固形分比を表す。
【0084】
[黒色インキの製造例2]
製造例1のポリエステルウレタン樹脂Aの代わりにポリエステルウレタン樹脂B(ポリエステルウレタン樹脂、tanδピーク温度=−20℃)を使用して、黒色インキの製造例1と同様に黒色インキBを作成した。
【0085】
[黒色インキの製造例3]
製造例1のポリエステルウレタン樹脂Aの代わりにポリエステルウレタン樹脂C(ポリエステルウレタン樹脂、tanδピーク温度=+28℃)を使用して、黒色インキの製造例1と同様に黒色インキCを作成した。
【0086】
[黒色インキの製造例4]
製造例1の硬化剤「KR90」の代わりに、DIC社製「XS−100ハードナー」(トリレンジイソシアネートのアダクト体)を3部添加して、黒色インキの製造例1と同様に黒色インキDを作成した。
【0087】
[黒色インキの製造例5]
製造例1のポリエステルウレタン樹脂Aの代わりにポリエステルウレタン樹脂D(ポリエステルウレタン樹脂、tanδピーク温度=+35℃)を使用して、黒色インキの製造例1と同様に黒色インキEを作成した。
【0088】
[黒色インキの製造例6]
製造例1のポリエステルウレタン樹脂Aの代わりに荒川化学社製「KL−564」(ポリエステルウレタン樹脂、tanδピーク温度=−41℃)を、DIC社製硬化剤「KR90」の代わりにDIC社製硬化剤「CVLハードナーN0.10」を使用して、黒色インキの製造例1と同様に黒色インキFを作成した。
【0089】
[黒色インキの製造例7]
塩酢ビ系樹脂インキDIC社製「パナシアCVL−SP805墨」100部に、DIC社製「CVLハードナーNo.10」を4部、DIC社製「ダイレジューサーV No.20」を35部添加して黒色インキGを調整した。
【0090】
[白色インキの製造例1]
テイカ社製「チタニックスJR−805」30部、ポリエステルウレタン樹脂A(tanδピーク温度=−8℃)を40部、メチルエチルケトンを23部、トルエンを13部、酢酸エチルを6部、N−プロピルアセテートを3部、イソプロピルアルコール3部を添加し、サンドミルで約1時間湿式分散した物に、DIC社製硬化剤「KR90」(ヘキサメチレンジジイソシアネートのビウレット体)を4部、DIC社製希釈剤「ダイレジューサーV No.20」を35部添加して白色インキWを作成した。なお、樹脂は固形分比を表す。
【0091】
[基材フィルムの製造例1]
東洋紡製ポリエステル系合成樹脂フィルム「G2311(25μm)」(白色発泡PET)の非易接コート面に乾燥後の塗工量が3.0g/mとなるようグラビアコーターにて白色インキWを塗布した。さらに反対面であるG2311(25μm)の非易接コート面に乾燥後の塗工量が3.0g/mとなるようグラビアコーターにて黒インキAを塗布し、基材Aを得た。
【0092】
[基材フィルムの製造例2]
東洋紡製ポリエステル系合成樹脂フィルム「クリスパーG2311(25μm)」の易接コート面に乾燥後の塗工量が3.0g/mとなるようグラビアコーターにて白色インキWを塗布した。さらにその白インキ層の上に乾燥後の塗工量が3.0g/mとなるようグラビアコーターにて黒インキAを塗布し、基材A’を得た。
【0093】
[基材フィルムの製造例3]
黒インキAの代わりに黒インキBを使用したこと以外は基材Aと同様にして基材Bを作製した。
【0094】
[基材フィルムの製造例4]
黒インキAの代わりに黒インキCを使用したこと以外は基材Aと同様にして基材Cを作製した。
【0095】
[基材フィルムの製造例5]
黒インキAの代わりに黒インキDを使用したこと以外は基材Aと同様にして基材Dを作製した。
【0096】
[基材フィルムの製造例6]
黒インキAの代わりに黒インキEを使用したこと以外は基材Aと同様にして基材Dを作製した。
【0097】
[基材フィルムの製造例7]
黒インキAの代わりに黒インキFを使用したこと以外は基材Aと同様にして基材Fを作製した。
【0098】
[基材フィルムの製造例8]
黒インキAの代わりに黒インキGを使用したこと以外は基材A’と同様にして基材Gを作製した。
【0099】
[基材フィルムの製造例9]
東レ製ポリエステルフィルム「E20(38μm)」(白色未発泡PET)に乾燥後の塗工量が3.0g/mとなるようグラビアコーターにて白色インキWを塗布した。さらに反対面に乾燥後の塗工量が3.0g/mとなるようグラビアコーターにて黒インキAを塗布し、基材Hを得た。
【0100】
[基材フィルムの製造例10]
黒インキAの代わりに黒インキBを使用したこと以外は基材Hと同様にして基材Jを作製した。
【0101】
[基材フィルムの製造例11]
黒インキAの代わりに黒インキCを使用したこと以外は基材Hと同様にして基材Kを作製した。
【0102】
[基材フィルムの製造例12]
黒インキAの代わりに黒インキDを使用したこと以外は基材Hと同様にして基材Lを作製した。
【0103】
(粘着剤の作製)
[粘着剤a]
攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート92.9部、酢酸ビニル5部、アクリル酸2.0部、β−ヒドロキシエチルアクリレート0.1部と重合触媒としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2部を酢酸エチル100部に溶解し、80℃で8時間重合して、質量平均分子量50万のアクリル共重合体溶液を得た。次に、前記アクリル共重合体溶液の固形分100部に対して重合ロジンペンタエリスリトールエステル(荒川化学社製「D135」)を5部、不均化ロジンエステル(荒川化学社製「A100」)添加し、酢酸エチルを加えて均一に混合して固形分45%の粘着剤主剤aを得た。粘着剤主剤b100部に、イソシアネート系架橋剤(大日本インキ化学工業社製「バーノックNC−40」)を1.5部添加し、15分間攪拌して粘着剤aを得た。
【0104】
[粘着剤b]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、脱イオン水270質量部を入れ、窒素を吹き込みながら75℃まで昇温し、撹拌しながらラテムルE−118B(花王社製)を0.8質量部、過硫酸カリウムを0.1質量部添加した。続いて2−エチルヘキシルアクリレートが296質量部、スチレンが56質量部、メチルアクリレートが20質量部、メチルメタクリレートが20質量部、メタクリル酸が8質量部、N−メチロールアクリルアミドが2質量部からなる単量体混合物に、ラテムルE−118Bを32質量部と脱イオン水を80質量部加えて乳化させたモノマープレエマルジョンの一部(4質量部)を添加し、反応容器温度を75℃に保ちながら60分間重合させた。引き続き、反応容器内温度を75℃に保ちながら、残りのモノマープレエマルジョン509質量部と過硫酸カリウムの水溶液(有効成分1質量%)60質量部を、各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を75℃に保ちながら240分間かけて滴下して重合させた。滴下終了後、同温度にて180分間撹拌し、共重合体を冷却した。次いで、この共重合体に、粘着付与樹脂としてスーパーエステルE−650(荒川化学社製)を添加し(固形分比で、共重合体/粘着付与樹脂=100/15)、60分間撹拌した。その後、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10質量%)でこれらを調製し、100メッシュ金網で濾過して粘着剤bを得た。
【0105】
(実施例1)
ポリエチレン樹脂20g/mを片面に溶融押し出しラミネートしたグラシン紙のポリエチレンラミネート側表面にシリコーン化合物の剥離層を形成した剥離ライナーに、粘着剤aを塗工して90℃で90秒間乾燥し乾燥重量20g/mの粘着剤層を形成した。基材Aの黒色面側と粘着剤層とを貼り合わせることにより、粘着フィルムを作製し、得られた粘着フィルムは40℃で2日間養生した。尚、粘着剤の85℃の損失正接は0.70であり、損失正接のピーク温度は−8℃だった。ゲル分率は45%であった。
【0106】
(実施例2)
粘着剤aの代わりに粘着剤bを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2の粘着フィルムを作製した。尚、粘着剤の85℃の損失正接は0.45であり、損失正接のピーク温度は−10℃だった。ゲル分率は50%であった
【0107】
(実施例3)
基材Aの代わりに基材A’を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例3の粘着フィルムを作製した。
【0108】
(実施例4)
基材Aの代わりに基材Bを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例4の粘着フィルムを作製した。
【0109】
(実施例5)
基材Aの代わりに基材Cを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例5の粘着フィルムを作製した。
【0110】
(実施例6)
基材Aの代わりに基材Dを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例6の粘着フィルムを作製した。
【0111】
(実施例7)
基材Aの代わりに基材Hを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例7の粘着フィルムを作製した。
【0112】
(実施例8)
基材Aの代わりに基材Hを使用した以外は、実施例2と同様にして実施例8の粘着フィルムを作製した。
【0113】
(実施例9)
基材Aの代わりに基材Jを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例9の粘着フィルムを作製した。
【0114】
(実施例10)
基材Aの代わりに基材Kを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例10の粘着フィルムを作製した。
【0115】
(実施例11)
基材Aの代わりに基材Lを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例11の粘着フィルムを作製した。
【0116】
(比較例1)
基材Aの代わりに基材Eを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例1の粘着フィルムを作製した。
【0117】
(比較例2)
基材Aの代わりに基材Fを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例2の粘着ラベルを作製した。
【0118】
(参考例1)
基材Aの代わりに基材Gを、粘着剤aの代わりに粘着剤bを使用した以外は、実施例1と同様にして参考例1の粘着ラベルを作製した。
【0119】
以下に評価測定方法を説明する。
【0120】
〈接着力の測定〉
本発明の隠蔽性粘着フィルムのSUS板に対する180度引き剥がし粘着力の測定は、JIS−Z0237に準じた下記に記載した測定方法で行った。幅25mm、長さ100mmに切断した粘着フィルムを、23℃、50%の環境下、2kgのローラーで300mm/秒の速度にて1往復圧着させた。次いで、同環境下で1時間放置後、引っ張り試験機(エー・アンド・ディ社製テンシロン万能試験機「RTA−100」)にて、300mm/分の速さで、180度引き剥がし粘着力を測定した。
【0121】
<耐反発性>
パナソニックモバイルコミュニケーション製携帯端末P−06A搭載のリチウムイオン電池(厚さ4mm、幅35mm、長さ45mm)の電池ラベルを剥がし、市販品と同様に粘着フィルムを1周巻き付け貼付した。さらに貼付1時間後にヒートショックテスト(−40℃30分/85℃30分×150サイクル)を実施し、端辺(4mmの辺)における粘着フィルムの浮き剥がれを観察した。
◎:ウキ高さが0.5mm未満
○:ウキ高さが0.5mm以上1.0mm未満
×:ウキ高さが1.0mm以上
【0122】
<リワーク性>
幅25mm、長さ100mmに切断した粘着フィルムを、23℃、50%の環境下、2kgのローラーで300mm/秒の速度にて1往復圧着させた。さらに40℃に7日放置した後、常温で粘着フィルムを2cm/秒の速度で剥離した。10個のサンプルを評価し、糊残り・インキの脱落又は粘着フィルムのチギレが発生するか評価した。
◎:全く糊残り・インキの脱落・粘着フィルムのチギレがなかった。
○:糊残り・インキの脱落・粘着フィルムのチギレが1個以下であった。
×:糊残り・インキの脱落又は粘着フィルムのチギレが2個以上発生した。
【0123】
<インキ透過性>
油性染料系インキとして、「TATインキ STSM」(シヤチハタ社製速乾性金属用インキ)をスタンプ台へ充填し、20mm角の大きさに印刷できるゴム製スタンプ版を用いて、0.5mm厚さのアルミ板上に油性染料系インキを印刷した。室温乾燥後、65mm角の粘着フィルムを貼付し、23℃・50%RH中に1日間放置し、目視評価にてインキ透過性を評価した。
◎:全く透過がない。
○:わずかに透過している。
×:はっきりと透過している。
【0124】
<隠蔽率>
粘着ラベルを隠蔽率試験紙(日本テストパネル工業社製)の白色面および黒色面に貼付し、JIS−Z−8722に規定される色の測定方法で、白色面および黒色面に貼付した粘着ラベルの三刺激値のうち明るさを示すY値をそれぞれ測定した。測色光沢計「CM−3500d」(ミノルタ社製)を使用し、2度視野における標準光Cについて測定した。(追加)測定したY値を下記式に当てはめ、隠蔽率を測定した。
隠蔽率(%)=(黒色面に貼付したラベルのY値/白色面に貼付したラベルのY値)
×100%
【0125】
<ハロゲン含有量>
Rigaku社製波長分散型蛍光X線「ZSX Primus」用い、FP法にてハロゲン含有量を分析した。
【0126】
[粘着剤の動的粘弾性の測定]
40℃2日養生した粘着剤を2mm厚まで重ね合わせた試験片を粘弾性試験機(レオメトリックス社製、商品名:アレス2KSTD)を用いて、直径7.9mmの平行円盤形の測定部に試験片を挟み込み、周波数1Hz、昇温時間1℃/1分の条件で−50℃から150℃までの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を測定した。損失正接tanδは、以下の計算式より算出した。
損失正接tanδ=G”/G’
【0127】
<耐落下衝撃性>
市販電池パックP16のラベル(隠蔽性粘着フィルムとラミネートフィルムを貼り合せたもの)を剥がし、同じ形状に加工した実施例7〜11の隠蔽性粘着フィルム(ラミネートフィルムなし)を貼り合せ、常温で1時間放置した。その後、1.5mの高さからコンクリート板に落とし、隠蔽性粘着フィルムが破れるかどうかを評価した。尚、試験は電池パックの各面(6面)を一回ずつ落とし、6回落として破れが発生しない場合は1サイクル破れなしと判断し、5サイクルまで繰り返す。
○:5サイクル落下しても破れなし。
△:4サイクル落下しても破れなし。
×:3サイクル目以内に破れ発生。
【0128】
実施例および比較例の評価結果を表1〜3に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
上記表1〜2から明らかなように、実施例1〜12の本発明の隠蔽性粘着フィルムは、ハロゲン含有量を低減しながらも、適度な弾性と応力緩和性を持つため、高温で粘着フィルムに反発力が掛かって、ハガレが発生しにくく、リワーク時に高速で剥がしてもチギレが発生しにくく、高い隠蔽性と優れたリワーク性とを有するものであった。特に実施例6〜11の隠蔽性粘着フィルムは、白色着色剤を練り込んだ未発泡の練り込みPETを使用しているため、リワーク性に優れ、且つラミネートフィルムを使用しなくても落下衝撃性にも優れていた。一方、比較的高弾性のポリエステルウレタン樹脂を使用した比較例1の粘着フィルムは、隠蔽層にクラックが入りやすく、リワーク時に隠蔽層のクラックを起点としてチギレが発生し、リワーク性に劣るものであった。また、隠蔽層に通常の印刷インキに使用される低Tg(tanδのピーク温度=−40℃程度)のポリエステルウレタンを使用した比較例2の粘着フィルムは上記イソシアネート系硬化剤で架橋させても高温で粘着剤との密着性が不十分であった。
【符号の説明】
【0133】
1 白色基材
2 白色樹脂フィルム
3 隠蔽層
4 粘着剤層
5 白色コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色基材の片面に粘着剤層を有し、該白色基材と粘着剤層との間に隠蔽層が設けられた粘着フィルムであって、
前記隠蔽層のハロゲン含有量が0.3質量%以下であり、前記隠蔽層がインキ層からなり、前記インキ層に使用するインキ組成物が、バインダー樹脂として周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルで測定されるtanδのピーク温度が−30〜30℃のポリエステルウレタン樹脂を含有し、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を含有することを特徴とする隠蔽性粘着フィルム。
【請求項2】
前記イソシアネート系硬化剤が脂肪族系イソシアネート、脂環族イソシアネート又はこれらの三量体である請求項1に記載の隠蔽性粘着フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルウレタン樹脂が、ポリエステルポリオール、有機ジイソシアネート及び鎖伸長剤を反応成分とし、前記ポリエステルポリオールがモノマー成分としてジカルボン酸を含有し、前記ジカルボン酸中の芳香族ジカルボン酸の割合が30〜90質量%である請求項1〜2のいずれかに記載の隠蔽性粘着フィルム。
【請求項4】
前記白色基材の厚さが10〜30μmである請求項1〜3のいずれかに記載の隠蔽性粘着フィルム。
【請求項5】
前記白色基材が白色樹脂フィルムである1〜4のいずれかに記載の隠蔽性粘着フィルム。
【請求項6】
前記白色基材が、樹脂フィルム上に白色インキ層を設けた基材である請求項1〜5のいずれかに記載の隠蔽性粘着フィルム。
【請求項7】
前記粘着剤層の周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルの85℃の損失正接が0.4〜0.8である請求項1〜6のいずれかに記載の隠蔽性粘着フィルム。
【請求項8】
電池外枠に染料インキによる印刷が設けられ、当該印刷上に請求項1〜7の隠蔽性粘着フィルムを貼り付けた電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−137133(P2011−137133A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140446(P2010−140446)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】