説明

雄性又は雌性の不稔性植物を選択的に製造する方法

【課題】雄不稔性又は雌不稔性植物の製造方法を提供する。また、鏡像異性的に純粋なD-ホスフィノスリシン(D-PPT)を製造する方法も提供する。
【解決手段】非植物毒性物質と反応して植物毒性物質を生成する1つ以上の酵素をコードするポリヌクレオチドで植物材料を形質転換し、そしてこうして形質転換された材料を植物中に再生させ、当該非植物毒性物質を雄性又は雌性配偶子の形成時及び/又は成熟時までに該植物に適用する工程を含むことによる。これにより該非植物毒性物質が、前記配偶子の形成を選択的に妨げるか、或いは前記配偶子を選択的に無機能性にする植物毒性物質の生成を可能にする。ここで、非植物毒性物質としてD−PPT、酵素としてD−アミノ酸オキシダーゼを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
作物における雑種強勢が、収穫高改善に対して著しい効果を及ぼすことができる。一般に、雑種は、非雑種系統と比較して収穫高を増大させる。雑種は通常、成長因子、例えば水や肥料に関してより大きな収益単位をもたらす。雑種はしばしば優れた応力耐性、生成物の均一性、及び成熟性を提供し、さらに、他の方法では組み合わせが難しい場合がある特性又は形質を組み合わせるためのシンプルな育種の機会を与える。植物における雑種の成長力は一般に、商業的な開発を保証するのに十分な規模を有する。商業的な雑種は、トウモロコシ、モロコシ、甜菜、ヒマワリ及びカノーラを含む多くの農作物において幅広く使用される。しかし、主として経済的な雑種種子製造法がないことから、小麦、大麦及び稲は依然として主に同系繁殖体として成長させられる。
【0002】
伝統的に、雑種種子製造は、雌性及び雄性の親系列の個別ブロックを、間隔を置いて植え付けると共に、雌性親からの種子だけを収穫することを伴う。この種子が雑種であることを保証するために、系列を雄不稔性にすることにより、雌性親系列の自家受粉を最小化しなければならない。雌性親系列を雄不稔性にする方法は、機械的、化学的及び遺伝学的方法を含む。雌雄同株、例えばトウモロコシの場合、雄不稔性は、雄性花房を除去することにより、機械的に容易に達成することができる。しかし、大抵の農作物は雌雄異体であり、そして同じ花内に雄性及び雌性器官を有することは、このような物理的除雄を非実用的にしてしまう。従って、遺伝学的アプローチが使用されることがある。
【0003】
発生する遺伝的雄不稔性の形質は、通常の場合、核遺伝子によって制御される。これらの核遺伝子において、不稔性表現型に関連する対立遺伝子は、稔性に関連する対応対立遺伝子に対して、一般に劣性発現される。遺伝的雄不稔性が発生する場合、これは通常、雄不稔性が発現されるようにホモ接合型でなければならない単一劣性遺伝子と関連する。このような遺伝的雄不稔性形質を実際に利用するために、育種家は普通、雄不稔性植物と雄稔性植物とに分離される、表現型で見て均一な雌系列を開発する。雄稔性植物は一旦同定されると、間引く必要がある。これは大きな労働力を要する。親系列を維持することに伴う問題が常に存在する。それというのも、雄稔性植物は、個体群の維持にとって重要なため、個体群から排除することができないからである。天然型雄不稔性対立遺伝子の存在に依存するのではなく、分子生物学的な方法を利用することも可能である。例えば生存能力のある花粉の形成に必要なキー遺伝子の発現を低減又は排除するアンチセンス遺伝子又はリボザイム遺伝子を発現させる植物を、遺伝子工学的に作り出すことができる。このような植物トランスジェニック系列は雄不稔性であり、雄稔性植物由来の花粉を使用して交雑することにより、雑種種子の製造のために使用される。このような系列に伴う主な問題は、これらの系列が、後続の世代においては、同質遺伝子型の稔性系列との交雑を介して、へテロ接合状態でしか維持することができないことである。このことは、収穫高が重大である雑種種子生成において問題になるおそれがある。除草剤耐性を雄不稔性に連関させることにより、雄稔性植物を選択的に間引きすることが可能ではあるものの、これも依然として、植物を最初に極めて高密度で植えることを必要とする。
【0004】
商業的な雑種生成のために細胞質雄不稔性を利用するためには、安定的な雄不稔性細胞質及び花粉源が必要となる。雄不稔性の細胞質遺伝系は、雑種生成のための3つの系列タイプ、すなわちA系列(細胞質雄不稔性)、B系列(雄稔性維持体)及びR系列(回復遺伝子を有する雄稔性)の存在を必要とする。この系を用いて生成された3元交雑は、4つの系列、すなわち1つの同系繁殖体及び他方の2つの雄稔性同系繁殖体のA系列及びB系列を維持することを伴う。雄不稔性細胞質の単一の源に依存すると、育種のフレキシビリティが最小限に抑えられ、そして、特定の疾患に大きな規模で罹りやすい子孫が生じるおそれがある。
【0005】
雑種種子は、生存能力のある花粉の形成を阻害する化学物質を使用することにより、生成することもできる。殺配偶子剤とも呼ばれるこれらの化学物質を使用することにより、一時的な雄不稔性を付与する。しかし殺配偶子剤の費用、登録可能性、及び信頼性がこれらの使用を制限している。
【0006】
伝統的な雑種種子生成系が不足していることにより、雄性及び雌性の親系統から成る個別の列又はブロックを植えることが必要である。この場合、効率の低い受粉は、風に乗って遠くへ移動しない少量の花粉を放出する農作物種、例えば小麦の特に重大な問題である。このような農作物の場合、雑種生成田畑の3分の2もが、雄性花粉供与体植物専用に使用される必要があり、従って雑種種子生成は不経済になる。
【0007】
小麦及びその他の農作物においてより経済的に種子を生成するためには、雄性植物と雌性植物とを互いにより近接するように動かし、これにより一層効率的な花粉移動を実現する必要がある。このことはより効率的には、同じ列内で互いに数センチメートル以内に雄及び雌を間作することにより行われる。このような系の場合、(雄不稔性)雌性親からのみ種子を収穫することは、非実用的である。雄性親を起源とする非雑種種子による汚染は、植え付け混合物中のできる限り低いパーセンテージのこのような雄性親植物を使用することにより、且つ/又は、雌不稔性の雄性植物を使用することにより最小化することができる。優性雌不稔性系列を構成する方法は、欧州特許出願公開第412,006号明細書(1990);Goldman 他(1994) EMBO. J., 13, 2976-2984)に記載されているが、しかし、雄不稔性系列と同様に、この系統もヘテロ接合型として維持されなければならない。
【0008】
従って、シンプルで経済的な雑種種子生成方法が依然として必要である。具体的には、効率的に雑種種子を生成するために、純粋なホモ接合型系列として容易に維持することができ、且つ、効率的な雑種種子生成に有用である雄不稔性の雌性親系列、及び雌不稔性の雄性親系列の両方を提供することが依然として必要である。このことを達成するために当業者によって記載された方法は、雄性及び雌性親系列から雑種種子を生成する方法であって、これらの親系列の1つ以上が、花組織に優先的に発現されるヘテロ接合型キメラ遺伝子を含み、このキメラ遺伝子は、非植物毒性物質の外生的な適用に応じて、系列を条件付きで不稔性にし、この非植物毒性物質は、酵素によって特異的且つ局所的に細胞毒素に変換することができ、この酵素はヘテロ接合型キメラ遺伝子によってコードされ、そして雄性又は雌性の生殖構造内で優先的に発現される、雑種種子を生成する方法を含む。非植物毒性物質は、プロ除草剤である。このような条件付き不稔性の親系列を有することの利点は、親系列が不稔性の形質に関してホモ接合型として維持されることを可能にすることである。稔性は、非植物毒性物質の外性的適用時にのみ妨害される。条件付き雄不稔性系のこのような一例の場合、デアセチラーゼ酵素をコードする遺伝子が、雄性花組織のタペート細胞内に優先的に発現され、この組織内で酵素は、外生的に適用されたプロ除草剤N-アセチルLホスフィノスリシンを植物毒素Lホスフィノスリシンに変換し、ひいては生存能力を有する花粉の形成を妨げる。別の類似の例の場合、(i)タペート組織における細菌性シトクロムの優先的発現が、プロ除草剤P7402のスルホニル尿素への変換を触媒し、スルホニル尿素は、生存能力を有する花粉の生成を妨げ、また、(ii)タペート組織におけるホスホン酸モノエステルヒドロラーゼの優先的発現が、グリセリルグリホサート・プロ除草剤の植物毒素グリホサートへの変換を触媒し、植物毒素グリホサートもやはり、生存能力を有する花粉の生成を妨げる。国際公開第98/03838号パンフレットに記載された条件付き雌不稔性系の例の場合、プロ除草剤を植物毒性に変換することができる酵素が、雌性の生殖構造内で優先的に発現される。
【発明の概要】
【0009】
条件付き不稔性である雄性及び雌性の親系列を形成するこれらの方法が存在するのにかかわらず、雑種種子製造が、小麦のような農作物において日常行われていると言うにはほど遠い。本発明は特に、条件付き雄不稔性である雌性親系列、及び、条件付き雌不稔性である雄性親系列を生成することに関して、従来技術を改善することに関する。
【0010】
本発明は、農作物雑種種子の生成方法を改善することに関する。具体的には本発明は、雄性及び雌性の親系統から雑種種子を生成する方法であって、親系統のうちの1つ以上が、農作物に対して非植物毒性でありプロ除草剤を含む物質の外生的適用に応じて条件付きで雌不稔性又は雄不稔性である雑種種子を生成する方法に関する。本発明はさらに、自家稔性が条件付き不稔性親系統において最小化又は防止される時点及び十分な量で、前記非植物毒性物質が適用される、方法に関する。本発明はまた、i)非植物毒性物質と好ましくはプロ除草剤の形で反応して植物毒性物質を生成することができる1つ又は2つ以上の酵素を単独で又は一緒にコードする1つ又は2つ以上のキメラ遺伝子で、植物材料を形質転換することにより、条件付きで雄不稔性又は雌不稔性の植物を生成する方法に関する。酵素は、1つ又は2つ以上のプロモーターの操作可能な制御下で発現され、これらのプロモーターは、条件付き雄不稔性植物の場合、酵素を雄性生殖構造内で優先的に発現させるか、又は条件付き雌不稔性植物の場合、前記酵素を雌性生殖構造内で優先的に発現させる。植物材料は、条件付きで雄不稔性又は雌不稔性である、形態学的に正常な稔性植物中に再生される。本発明はまた、条件付き雌不稔性植物と組み合わせて条件付き雄不稔性植物を使用し、これにより雑種種子をより効率的に生成すること、或る特定のプロ除草剤を非植物毒性物質として使用すること、及びキメラ遺伝子の使用により、本発明に有用な雑種種子、キメラ遺伝子及び酵素をより効率的に生成することを含む。本発明はまた、条件付き雄不稔性植物、条件付き雌不稔性植物、これらの植物の種子、及びこの方法によって製造された雑種種子を提供する。本発明の好ましい実施態様の場合、雑種種子の形成方法が適用される作物は、トウモロコシ、稲、モロコシ、小麦、雑穀、オーツ麦、カノーラ及び大麦である。
【0011】
本発明によれば、非植物毒性物質と反応して植物毒性物質を生成する1つ以上の酵素をコードするポリヌクレオチドで、植物材料を形質転換し、そしてこうして形質転換された材料を植物中に再生させる工程を含む雄不稔性又は雌不稔性植物の製造方法であって、前記非植物毒性物質が、雄性又は雌性配偶子の形成時及び/又は成熟時まで該植物に適用され、これにより該非植物毒性物質が、前記配偶子の形成を選択的に妨げるか、或いは前記配偶子を選択的に無機能性にする植物毒性物質の生成を可能にし、該酵素が、雄性又は雌性の生殖構造内で優先的に発現される形式のものにおいて、(i) 該非植物毒性物質が、葉緑素非含有組織に対して直接的な植物毒性の非ホスホネート除草剤のエステル誘導体、D-アルファアミノ酸、非タンパク質D-アルファアミノ酸のペプチド誘導体、アリールオキシフェノキシプロピオネートのS-鏡像異性体、及びアリールオキシフェノキシプロピオネートのエステル誘導体のS-鏡像異性体から成る群から選択されており、そして(ii)該酵素が、カルボキシルエステラーゼ、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸ラセマーゼ、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ、アルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ、チオエステラーゼ及びアシル-CoAシンテターゼから成る群から選択されていることを特徴とする、雄性不稔性又は雌性不稔性植物の製造方法が提供される。
【0012】
雑種種子の収穫高を最大化し、ひいてはいかなる農作物損傷をも最小化することが所望の目的であるので、好ましい実施態様の場合、非植物毒性物質は、農作物に対して比較的非植物毒性である化合物の中から選択されたプロ除草剤である。花組織に対する効果を可能にするために、プロ除草剤が「葉緑素非含有(非グリーン)」組織において効果的な植物毒素の前駆体であることも望ましい。従って、本発明の好ましい実施態様の場合、プロ除草剤は、光合成又は光合成色素の生成に主要作用部位を有する植物毒素前駆体ではなく、むしろ葉緑素非含有組織に対して直接的に植物毒性を有する植物毒素前駆体であるプロ除草剤から選択される。雑種種子の製造コストを最小限に抑えることも所望の目的である。従って好ましい実施態様の場合、プロ除草剤は、農作物において使用するためのしかるべき行政当局からの認可が既におりているか、申請中である化学物質の中から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、stig 1プロモーター領域の操作可能な制御下における、ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼを有するタバコ形質転換のための構造を示す概略図である。図示の成分はLB(左境界配列)、AOPR1(AoPR1プロモーター)、PSTIG1(EMBL受入番号X77823)、RGDAO(OPT)(SEQ ID NO:7)、PC PROMOTER(EMBL受入番号X16082)、PAT(EMBL受入番号A02774)、NOS(EMBL受入番号ATU237588から得られたnosターミネーター)及びRB(右境界配列)である。
【図2】図2は、ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列が、3'末端で3つのコドンによって切断され、そして5'末端(RGDAO(OPT)-SKL)で、最適化されたトランジット・ペプチド(FR2673643)をコードする領域に融合された、タバコ形質転換のための構造を概略的に示す図である。
【図3a】図3aは、プラスミドUbi-CoAシンテターゼのマップを示し、PUB11-01-01はEMBL受入番号SM29159を有し、そしてCoAシンテターゼは番号J05439を有する。
【図3b】図3bは、プラスミドUbi-エピメラーゼのマップを示し、エピメラーゼはEMBL受入番号Y0817Zを有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
用語:定義
本明細書中に使用される「遺伝子」は、いくつかの作用連関されたDNA断片、例えばプロモータ及び5'調節領域、コード配列、及びポリアデニル化部位を含む未翻訳3'領域、を含む任意のDNA配列を意味する。
【0015】
遺伝子配列又はDNA配列に言及する場合、「キメラ」とは、本質的にはコード配列がプロモーターと、又は遺伝子内のDNAのその他の1つ以上の調節領域と関連していないという事実を意味するのに使用される。
【0016】
本明細書中に使用される「キメラ遺伝子」とは、本質的にはコード配列が、プロモーターと、又は遺伝子内のDNAのその他の1つ以上の調節領域と関連していない遺伝子を意味する。
【0017】
本明細書中に使用される「発現カセット」とは、1つ又は2つ以上の制限部位、又は、1つのDNA座からの正確な切除及び別のDNA座内への正確な挿入を容易にするその他の部位によってフランキングされたキメラ遺伝子を含む転移可能なDNA領域を意味する。
【0018】
「非植物毒性物質」は、本発明の関連においては、本発明の方法が適用される任意の特定の作物の植物、細胞又は組織に対して比較的非植物毒性である物質である。非植物毒性物質は、全ての植物の全ての植物組織において非植物毒性である必要はない。非植物毒性物質は、植物組織に対して直接的な毒性効果をさほど有さない物質ではあるが、しかし活性植物毒素の前駆体であるプロ除草剤を含む。感受性植物種においては、このようなプロ除草剤は、植物中でプロ除草剤を植物毒素に変換する外生的酵素の作用によって、除草剤として間接的に作用する。
【0019】
「植物毒素」は、本発明の関連において、本発明の方法が適用される特定の作物の植物、植物組織及び植物細胞に対して毒性である物質である。このような植物毒素は、全ての植物種の全ての植物組織に対して植物毒性である必要はない。
【0020】
「雌性生殖構造」は、雌性配偶子、及び雌性配偶子の生成、成熟及び生存性に関して特化された植物部分を意味する。通常、雌性生殖構造は、心皮又は雌器(「雌しべ」)を含む植物部分を含む。植物の心皮の一例としては、柱頭、花柱、子房、及び柱頭、花柱及び子房によって構成された細胞又は組織が挙げられる。
【0021】
「雄性生殖構造」は、雄性配偶子、及び雄性配偶子の生成、成熟及び生存性に関して特化された植物部分を意味する。雌性生殖構造は、例えば小胞子、雄しべ、タペート組織、葯及び花粉を含む植物部分を含む。
【0022】
本明細書中に使用される「雌不稔性植物」は、機能性又は生存能力を有する花粉の受粉時に、生存能力を有する種子の形成を支援することができない植物である。このような雌不稔性は、育種選択又は組換え遺伝子の存在の結果であることが可能である。「条件付き雌不稔性植物」とは、通常の成長条件下で雌稔性であり、且つ特定条件下で雌不稔性となり得る植物である。本発明の関連において、前記条件は、プロ除草剤又はその他の非植物毒性物質の外生的適用を含む。本発明の関連において、このような「雌不稔性植物」又は「条件付き雌不稔性植物」は、雄稔性を残しており、生存能力のある花粉を依然として生成可能である。
【0023】
本明細書中に使用される「雄不稔性植物」は、生存能力を有する花粉の形成を支援することができない植物である。このような雄不稔性は、育種選択又は組換え遺伝子の存在の結果であることが可能である。「条件付き雌不稔性植物」とは、通常の成長条件下で雄稔性であり、且つ特定条件下で雄不稔性となり得る植物である。例えば、これらの条件は、物理的除雄又は特異的な化学的殺配偶子剤を含んでよい。本発明の関連において、前記条件は具体的には、プロ除草剤又はその他の非植物毒性物質の外生的適用を含む。本発明の関連において、このような「雌不稔性植物」又は「条件付き雌不稔性植物」は、雌稔性を残しており、機能性又は生存能力を有する花粉の受粉時に、生存能力のある種子を依然として生成可能である。
【0024】
本明細書中に使用される「プロモーター領域」は、少なくとも機能性プロモーター、及び任意には、エンハンサー配列を含むその関連上流調節配列のいくつか又は全て、及び/又は、プロモータに対して内生的な遺伝子の5'未翻訳領域のいくつか又は全てを含む関連下流配列を含むDNA領域である。
【0025】
本明細書中に使用される「間作」とは、雄稔性植物による雄不稔性植物又は条件付き雄不稔性植物の十分な他花受粉を保証する、田畑における種子又は植物の植え付け法を意味する。このことは、雌性及び雄性の親種子を植え付ける前に異なるブレンド(80/20; 90/10;など)でランダムに混合することによって、又は特定のフィールド・パターンで植え付けることによって異なる種子を交互に配置することにより、達成することができる。異なる植物から個別に収穫することが必要となる場合、交互のブロック又は列で植え付けを行うことが好ましい。
【0026】
本明細書中に使用される「カルボキシルエステラーゼ」は、EC 3.1nとして適正に分類された酵素だけを包含する。
【0027】
本発明による方法において、前記非植物毒性物質は、アミノ酸、毒性緩和剤、殺配偶子剤、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ誘発剤、シトクロムP450誘発剤、肥料、除草剤、抗線虫剤、共力剤、殺虫剤、殺菌剤、ホルモン、植物成長調整剤及びシトクロムP450阻害剤から成る群から選択することができる1つ以上の更なる物質とともに、混合物で適用されてよい。具体的な実施態様の場合、前記非植物毒性物質は、ピペロニルブトキシド又はマラチオンとの混合物の形態で適用することができる。具体的な実施態様の場合、前記非植物毒性物質は、この非植物毒性物質を前駆体とする同じ植物毒性物質との混合物の形態で適用することができる。
【0028】
本発明の方法に使用される酵素は、カルボキシルエステラーゼであってよく、該非植物毒性物質は、イムアザメタベンズ(imazamethabenz)又はフラムプロプ(flamprop)のエステルであってよい。具体的に小麦に関連する本発明の特に好ましい形態の場合、非植物毒性物質は、イムアザメタベンズメチル、フラムプロプメチル又はフラムプロプイソプロピルから成る群から選択されたプロ除草剤である。
【0029】
前記酵素は、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ又はD-アミノ酸ラセマーゼであり、そして該非植物毒性物質は、Dアミノ酸であってよく、そして具体的には該非植物毒性物質は、ホスフィノスリシンのD鏡像異性体又はビアラフォスのD鏡像異性体であってよく、又はD-アラニン、Dセリン、Dイソロイシン、Dメチオニン、Dロイシン又はDバリンから成る群から選択されてよい。本明細書中に使用される「Dアミノ酸オキシダーゼ」は、D-アミノ酸を酸化して2ケト酸を生成することができる任意の酵素を意味し、そして、「D-アスパラギン酸オキシダーゼ」として知られている、アスパルテートに対して特異性を有する酵素を含む。
【0030】
或いは、本発明の方法において使用される酵素は、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ、アルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ、チオエステラーゼ及びアシル-CoAシンテターゼから成る群から選択されてよく、非植物毒性物質は、アリールオキシフェノキシプロピオネートのS鏡像異性体又はアリールオキシフェノキシフェノキシプロピオン酸エステルのS鏡像異性体であってよい。
【0031】
単独又は他との組み合わせで、非植物毒性物質と反応して植物毒性物質を生成することができる酵素をコードするキメラ遺伝子は、下記酵素のうちの1つ又は2つ以上をコードするDNAコード配列を含む遺伝子の中から選択することができる。
(1)加水分解反応:
イムアザメタベンズメチル→イムアザメタベンズ+メタノール
を触媒することができるカルボキシルエステラーゼ
(2)加水分解反応:
フラムプロプメチル→フラムプロプ+メタノール及び/又は;
フラムプロプイソプロピル→フラムプロプ+イソプロパノール
を触媒することができるカルボキシルエステラーゼ
(3)酸化:
D-アミノ酸 + O2 + H2O→NH3 + H2O2 + 2-オキソ酸
及び特定の実施態様の場合、具体的には反応:
D-ホスフィノスリシン+ O2 + H2O→NH3 + H2O2 + 2-オキソ-4-メチルホスフィノブチレート
を触媒することができるD-アミノ酸オキシダーゼ
(4)酸化:
D-ホスフィノスリシン+ 電子受容体 + H2O→NH3 + 2e-還元型電子受容体+ 2-オキソ-4-メチルホスフィノブチレート
を触媒することができるD-アミノ酸デヒドロゲナーゼ。D-アミノ酸デヒドロゲナーゼは、膜関連酵素であってよい。膜関連酵素は電子受容体を介して、電子を膜結合型電子伝達連鎖にカップリングする。この膜結合型電子伝達連鎖からの最終的な電子レシピエントは、例えばNAD+又はO2であってよい。
(5)相互変換:
D-ホスフィノスリシン<>L-ホスフィノスリシン
を触媒することができるアミノ酸ラセマーゼ
(6)反応:
S-フルアジフォプ(Fluazifop)-CoA → R-フルアジフォプ-CoA及び/又は
S-キザロフォプ(Quizalofop)-CoA → R-キザロフォプ-CoA及び/又は
S-プロパキザフォプ(Propaquizafop)-CoA → R-プロパキザフォプ-CoA及び/又は
S-ハロキシフォプ(Haloxyfop)-CoA → R-ハロキシフォプ-CoA及び/又は
S-フェノキサプロプ(Fenoxaprop)-CoA → R-フェノキサプロプ-CoA及び/又は
S-ジクロフォプ(Diclofop)-CoA → R-ジクロフォプ-CoA及び/又は
S-シハロフォプ(Cyhalofop)-CoA → R-シハロフォプ-CoA及び/又は
S-クロジナフォプ(Clodinafop)-CoA → R-クロジナフォプ-CoA及び/又は
のうちの1つ又は2つ以上を触媒することができる2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ又はアルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ
(7)加水分解反応:
R-フルアジフォプ-CoA → R-フルアジフォプ+CoA及び/又は
R-キザロフォプ-CoA → R-キザロフォプ+CoA及び/又は
R-プロパキザフォプ-CoA → R-プロパキザフォプ+CoA及び/又は
R-ハロキシフォプ-CoA → R-ハロキシフォプ+CoA及び/又は
R-フェノキサプロプ-CoA → R-フェノキサプロプ+CoA及び/又は
R-ジクロフォプ-CoA → R-ジクロフォプ+CoA及び/又は
R-シハロフォプ-CoA → R-シハロフォプ+CoA及び/又は
R-クロジナフォプ-CoA → R-クロジナフォプ+CoA
を触媒することができるチオエステラーゼ
(8)反応:
S-フルアジフォプ+CoA+ATP → S-フルアジフォプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-キザロフォプ+CoA+ATP → S-キザロフォプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-プロパキザフォプ+CoA+ATP → S-プロパキザフォプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-ハロキシフォプ+CoA+ATP → S-ハロキシフォプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-フェノキサプロプ+CoA+ATP → S-フェノキサプロプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-ジクロフォプ+CoA+ATP → S-ジクロフォプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-シハロフォプ+CoA+ATP → S-シハロフォプ-CoA+PPi+AMP及び/又は
S-クロジナフォプ+CoA+ATP → S-クロジナフォプ-CoA+PPi+AMP
を触媒することができるアシル-CoAシンテターゼ
【0032】
カルボキシルエステラーゼ酵素は、カルボキシルエステラーゼB(EC 3.1.1.1)型酵素、特に、Anthrobacter sp、Bacillus sp、ブタ肝臓、サッカロミセス sp.(Saccharomyces sp)又はシネコシスチス sp.(Synechocystis sp)に由来する酵素から選択することができる。好ましいこのような酵素は、Swissprot受入番号Q01470, P37967, Q29550(成熟ペプチド配列60-1703), P40363又はSEQ ID NO:2(本出願)を有するタンパク質の中から選択することができる。そしてカルボキシルエステラーゼ酵素をコードするDNA配列は、EMBL受入M94965, BS06089, SSCE, Z34288及びSEQ ID NO:1(本出願)内に含まれるDNA配列から選択することができる。本発明の実施に適した別のカルボキシルエステラーゼ酵素及びDNAコード配列は、最小培地において、イムアザメタベンズによる成長阻害に対する感受性と同様の、イムアザメタベンズメチルによる成長阻害に対する感受性を示すことが見出される植物及び微生物の中から選択される。このような有機体のDNAライブラリから得られた候補エステラーゼ遺伝子は、好適なDNAプローブを用いて同定され、そしてサブクローニングによって分離される。或いは、好適な酵素をコードする遺伝子が同定され、イムアザメタベンズメチル感受性表現型への形質転換をスクリーニングすることによって、好適なイムアザメタベンズメチル不感受性の宿主有機体における発現ライブラリから選択される。同様に、大腸菌(E.coli)における発現に基づいて、そして、所望のフラムプロプ・エステル又はイムアザメタベンズ・エステルエステラーゼ活性のin vitro又はin vivoアッセイに基づいて、標的酵素、例えばアセトヒドロキシ酸シンターゼの阻害によって、且つ/又はHPLC/UVによって、且つ/又は誘導体化及びGC MSによってイムアザピル(imazapyr)又はフラムプロプを検出することを含む一般的な方法を介して、好適な改善された遺伝子及び酵素が選択される。
【0033】
D-アミノ酸オキシダーゼ(DAMOX)酵素は、ロドスポリジウム sp.(Rhodosporidium sp.)(ロドトルルラ sp.(Rhodotorula sp.))、トリゴノプシス sp.(Trigonopsis sp), ブタ、フザリウム sp.(Fusarium sp), カンジダ sp.(Candida sp), シゾサッカロミセス sp.(Schizosasaccharomyces sp)及びベルチシリウム sp.(Verticillium sp)によって生成された酵素の中から選択することができ、そして、Swissprot受入番号P80324, Q99042, P00371, P24552又はSPTREMBL番号Q9HGY及びQ9Y7N4に対応する配列を有するタンパク質から選択することができる。Dアミノ酸オキシダーゼをコードするDNA配列は、EMBL受入A56901, RGU60066, Z50019, SSDA04, D00809, AB042032, RCDAAOX, A81420及びSOCC1450内に含まれる配列から選択することができる。D-アミノ酸オキシダーゼは遍在するフラボ酵素である。
【0034】
非植物毒性物質がD-ホスフィノスリシン又はD-ビアラフォス又はD-アスパルテート又はD-グルタメートである場合、特に好ましいD-アミノ酸オキシダーゼは、ロドトルラ・グラシリス(Rhodotorula gracilis)突然変異体から得られるか、或いはD-アスパラギン酸オキシダーゼである。このような突然変異体は、非植物毒性物質が何であろうと、野生型配列と比較して、位置213及び/又は238に単一及び二重のアミノ酸置換を含んでよい。好ましくは、位置213で、野生型メチオニンはArg, Lys, Ser, Cys, Asn又はAlaによって置換されており、そして位置238では、野生型TyrはHis, Ser, Gys, Asn又はAlaによって置換されている。
【0035】
しかし、酵素は、前段落において述べた位置に加えて、又はこれらの位置以外で置換を含んでよい。具体的には、野生型配列における位置58のPheは、His, Ser, Lys, Ala, Arg及びAspから成る群から選択された残基によって置換されてよく、そして好ましくは、His, Ser又はAlaによって置換される。これに加えて、又はこれとは別に、野生型配列における位置213のMetは、His, Ser, Lys, Ala, Arg及びAspから成る群から選択された残基によって置換されてよく、そして好ましくは、Ser又はAlaによって置換される。これに加えて、又はこれとは別に、野生型配列における位置223のTyrは、His, Ser, Ala, Arg及びAspから成る群から選択された残基によって置換されてよい。これに加えて、又はこれとは別に、野生型配列における位置238のTyrは、His, Ser, Lys, Ala, Arg及びAspから成る群から選択された残基によって置換されてよい。
【0036】
酵素の特に具体的な突然変異形は、上述の突然変異形の2つ以上を含む。このような二重突然変異体の第1の実施態様は、(野生型配列におけるPheではなく)位置58にHisを有し、そして(Metではなく)位置213にSerを有している。このような二重突然変異体の第2実施態様は、(野生型配列におけるPheではなく)位置58にSerを有し、(野生型配列のMetではなく)位置213にArgを有する。
【0037】
非植物毒性物質がDホスフィノスリシン又はD-ビアラフォス以外のD-アミノ酸である場合、酵素はD-アミノ酸オキシダーゼである。Dアミノ酸は好ましくは内生的植物代謝体ではなく、篩移動性であり且つ植物中で代謝的に安定な(好ましくは約1週間よりも長く植物中でt・1/2を有する)アミノ酸であるように、そして前記オキシダーゼの効率的な基質であるように選択される。酵素によるD-アミノ酸の酸化は、酸素の還元による植物毒性過酸化物及び/又は超酸化物アニオンの形成を伴う。
【0038】
好ましい実施態様の場合、オキシダーゼ酵素の標的は、ペロキシソーム以外の亜細胞位置である。このことは、例えば、3つのC末端アミノ酸(例えばロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼの場合にはSKL)が抹消又は修飾されるように、遺伝子を修飾することによって、及び/又は、葉緑体又はミトコンドリア・トランジット・ペプチドをN末端に加えるように配列を付加することにより達成される。
【0039】
当業者によく知られ、本発明の開示によって補われた突然変異及び選択的な手順によって、更なる好適なDアミノ酸オキシダーゼを好ましくは真菌源から得ることができる。
【0040】
別の好適なDアミノ酸オキシダーゼ(又は同様に、ホスフィノスリシンラセマーゼ)酵素、及び本発明の作業に好適なDNAコード配列は、任意には突然変異生成された有機体であって、D-アミノ酸オキシダーゼ(又はホスフィノスリシンラセマーゼ)が誘発される(例えばD-アラニン上の成長)条件下で、N-限定培地上の成長が、D-ホスヒノスリシンの存在において選択的に阻害されることが見出される有機体の中から選択される。この場合、本発明に適したD-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子は、例えば、(確立されたD-アミノ酸オキシダーゼ・コンセンサス配列、例えばPROSITE, PS0067に基づく)好適な縮重DNAプローブでこのような有機体の遺伝子ライブラリをプローブすることにより得られる。或いは、好適な酵素をコードする遺伝子は、最小培地上のホスフィノスリシンによる成長阻害に対する感受性が高められた表現型に形質転換するための好適な宿主細胞、例えば大腸菌又は酵母(好適な宿主菌株は、D-ホスフィノスリシンに対する内生的オキシダーゼ又はデヒドロゲナーゼ活性を欠いている)において、遺伝子発現ライブラリをスクリーニングすることによって得られる。この方法は、形質転換された大腸菌クローンが、これらの内生的Lトランスアミナーゼ活性及びヘテロ接合型オキシダーゼの複合作用を介してD-PPTからL-PPTを生成する能力に依存する。或いは、改善された好適な遺伝子は、D-ホスフィノスリシンを酸化する所期能力に関して、発現された酵素をin vitroアッセイすることに基づいて選択される。D-アミノ酸オキシダーゼの活性を直接的にアッセイする方法、例えば過酸化物の検出に基づくアッセイ法(Enzyme Microb. Techno., (2000), 27(8), 605-611)、酸素電極を用いた酸素の消耗に基づくアッセイ法、又はアンモニアの直接検出に基づくアッセイ法が数多く存在する。
【0041】
本発明の実施態様の場合、好ましくは真菌に由来するDAMOX遺伝子が、選択が行われる宿主有機体(例えば酵母)内で発現することができるプロモーターの操作可能な制御下で、シャトル・ベクター中にクローニングされる。次いでこの遺伝子に突然変異が生成される。この突然変異生成は、例えばMn2+-毒化PCRによって;又は例えばDNA修復/編集プロセスに欠陥のある菌株、例えば大腸菌菌株XL1レッド中のプラスミドDNA複製によって;又はX線、UV光、化学的突然変異原の付加を用いて突然変異生成された宿主菌株におけるプラスミドDNA複製によって行われ、そしてこの遺伝子は、宿主有機体(好ましくは酵母)内に形質転換される。D-PPTを酸化する高められた能力の所期特性を有するDAMOXをコードする所期DNAは、例えば下記のことを介して選択される(シャトル・ベクター上に存在する選択マーカーに基づいて形質転換物を選択する任意の最初の選択工程に続いて行われる。この最初の選択工程は、例えば、原栄養体の復元又はヒグロマイシンなどの存在における成長を介した選択を可能にする。):
a) 単独窒素源としてD-ホスフィノスリシンと化学的に類似するアミノ酸を活用する能力を有する形質転換された細胞の選択。例えば、D-PPT(及びそのエステル)の類似体上で成長することができる形質転換酵母コロニーが選択される。このD-PPTでは、ホスフィン酸部分が、カルボン酸塩(すなわちD-グルタメート)、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、スルホン、又はスルホキシド部分(又はこれらのエステル)などと単独N源として置換されている。
【0042】
【化1】

【0043】
b) D-PPT自体を単独N源として活用することができる形質転換細胞の選択。この選択を行うために、宿主細胞はまた、グルタミンシンテターゼに対するL-ホスフィノスリシンの阻害効果を打ち消すことができる遺伝子で形質転換されなければならない。例えば、シャトルベクターは、L-PPTを不活性化する酵素、例えばPATをコードする遺伝子を含んでもよい。
【0044】
突然変異及び選択のサイクルを反復することができる。D-アミノ酸オキシダーゼをさらにクローニングし、発現させ、部分精製し、そして動力学的に特徴付けすることにより、最も好適な特性(例えば酵素安定性、D-PPTを酸化するための高いkcat/Km値、任意の内生的植物基質の最小限の酸化、pH最適値など)を有する遺伝子及びDAMOXを同定することができる。
【0045】
非植物毒性物質がD-ホスフィノスリシン(PPT)である場合、D-ホスフィノスリシン(PPT)はD及びL PPTの混合物から得ることができる。例えば形質転換され誘導された大腸菌細胞(任意には、N-アセチルPPTデアセチラーゼ活性のバックグラウンド・レベルを最小化するためのarg E突然変異体)の培地(好ましくは最小培地)にDL PPTを加え、これによりPAT遺伝子(CoAからL-PPTにアセチル基を転移させる酵素をコードする)を高レベルで発現させることができる。L成分がほとんど全てN-アセチル化され(例えば31-P NMRを用いて、変換をモニターすることにより判定される)のに十分な時間を置いた後、連続的な工程、例えば高pH及び低pHの溶剤抽出工程、アニオン及びカチオン交換クロマトグラフィ工程、キラルカチオン、例えばキンコシンによる選択的結晶化工程、又は当業者に知られたその他の手順、例えば相系として2つの不混和性水性相を使用した液/液抽出工程(米国特許第5,153,355号明細書参照)によって、細胞遊離培地からD-PPTを回収して精製する。後期工程は、カチオン交換クロマトグラフィであることが典型的であり、このカチオン交換クロマトグラフィにおいて、D-PPTがアンモニウム塩として回収される。
【0046】
或いは、D-PPTは、酵素的方法によって得ることができる。この場合、DL PPT + 2ケトグルタル酸塩が、(I)L-アミノトランスフェラーゼ(例えば大腸菌由来)と(II)グルタミン酸デカルボキシラーゼとの複合作用によって、主としてD PPTと2-オキソPPT(及びその脱カルボキシル化生成物)とGABAとの混合物に変換される。所期の純粋D PPTは、当業者に知られた上述の方法を用いて反応混合物から分離される。
【0047】
D-PPTを得ることがでできる1つの酵素的方法の場合、DL PPT + 2ケトグルタル酸塩+NADが、(I)L-アミノトランスフェラーゼと(II)グルタミン酸デヒドロゲナーゼとの複合作用によって、主としてD PPTと2-オキソPPT(及びその脱カルボキシル化生成物)NADHとアンモニアとの混合物に変換される。所期の純粋D PPTは、反応混合物から精製される。
【0048】
D-PPT、DL PPTのさらに別の形成方法の場合、残留アミノ酸だけが所期D形となるように、DL PPTがLアミノ酸オキシダーゼで処理される。このD-PPTは次いで反応混合物から精製される。
【0049】
さらに別の方法は(I)(無水酢酸又はその他のアセチル化試薬及び当業者によく知られた方法を用いて)DL PPTからN-アセチルDL PPTへ変換すること、及び(II)NアセチルD-PPTが脱アセチル化されるようにD-アミノアシラーゼによってN-アセチルDL PPTを処理することを伴う。結果として生じたD-PPTは、反応混合物から精製される。例えば、Dowexアニオン交換樹脂との結合及び40mMギ酸による溶離によって、D-PPTがN-アセチル-L-PPTから分離される。好適なローディング条件下で、この酸は、N-アセチル-L-PPTをカラムに結合させたままで、D-PPTを溶離する。
【0050】
さらに別の方法は、所期D-PPTだけが非アセチル化形として残されるように、非水性溶剤中のL-アミノアシラーゼ及びアシル化剤でDL PPTを処理することを伴う。
【0051】
純粋D-PPTのさらに別の調製方法は、キラル塩基、例えばキンコシン、及び純粋D-PPTを有するキラル塩基の種結晶の添加を用いて、DL PPTから鏡像選択的に結晶化することを伴う。
【0052】
DL-PPTから純粋D-PPTを調製するさらに別の方法は、キラル塩基カラムを使用した直接的なキラル・クロマトグラフィによる。
【0053】
純粋D-PPTの生成方法の詳細を、下記実施例の1つに記載する。
【0054】
2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ又はアルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ(EC 5.1.99.4)酵素は、ラット肝臓、アクレモニウム sp.(Acremomium sp)又はニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)によって生成されたものの中から選択することができる。2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ又はアルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ(EC 5.1.99.4)酵素は、GENESEQP Derwent データベースのAAR49827、SwissprotのP70473、又はSEQ ID NO:4(本出願)に対応する配列を有するタンパク質から選択することができ、そして、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ又はアルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ(EC 5.1.99.4)酵素は、GENESEQN Derwent データベース受入AAQ44447、EMBL受入RN2ARYLCO及びRNU89905及びSEQ ID NO:3(本出願)内に含まれる配列から選択されたDNAコード配列によってコードすることができる。
【0055】
本発明に使用するためのアシルCoAシンテターゼは、ブラシッカ・ナプス(Brassica napus)、ラット肝臓、サッカロミセス sp.(Saccaromyces sp)又はアラビドシス(Arabidopsis)によって生成されたものから選択された「長鎖」アシルCoAシンテターゼ(EC6.2.1.3)であってよい。前記シンテターゼは、SRTREMBL配列Q96338、Swissprot P18163、Swissprot P39518、SRTREMBL配列Q9C5U7又はSTREMBL Q9TOAOに対応する配列を有するタンパク質から選択することができ、そして、アシルCoAシンテターゼをコードするDNA配列は、EMBL受入BNAMPBP2, J05439, X77783及びAB030317内に含まれる配列から選択することができる。
【0056】
アシルCoAシンテターゼ、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ及びチオエステラーゼ酵素、及び/又は本発明の方法を実施するのに適したこれらの酵素をコードするDNA配列は、S-アリールオキシフェノキシプロピオネートをR-アリールオキシフェノキシプロピオネートに変換する源有機体の能力、及び/又は、S-イブプロフェンをR-イブプロフェンに変換する源有機体の能力に基づいて選択することができる。このような有機体は、例えば土壌試料から得ることができ、このようなキラル反転を細胞培養及び微生物ブイヨン中でアッセイして検出する方法は、よく知られている(Menzel-Solglowek他(1990)J.Chromatogr., 532, 295-303; Bewick(1986)Pestic. Sci., 17, 349-356)。従って、アシルCoAシンテターゼ、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ及び/又はチオエステラーゼ酵素、及び任意には、これらをコードするDNA配列は、アルトロバクター・シンプレックス(Arthrobacter simplex) NCIB 8929; アルトロバクター・ロゼオパラフィネウス(Arthrobacter roseoparaffineus) ATCC 15584; バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis) ATCC 15841; ボトリチス・シネラエア(Botrytis cinerea) CM1 124882; ブレビバクテリウム・ブタニカム(Brevibacterium butanicum) ATCC 15841; ブレビバクテリウム・ヘアリィ(Brevibacterium healii) ATCC 15527; ブレビバクテリウム・ケトグルタミカム(Brevibacterium ketoglutamicum) ATCC 21004; ブレビバクテリウム・パラフィノリチウム(Brevibacterium paraffinolyticum) ATCC 21195; コネリバクテリウム・ファシカンス(Corynebacterium fascians); コネリバクテリウム・フィジコエンセ(Corynebacterium fijikoense) ATCC 21496; メタノモナス・メタノリカ(Methanomonas methanolica) NRRL B-5758; ミクロコッカス・ロセウス(Micrococcus roseus); ミクロバクテリウム・アウラム(Mycobacterium aurum) NCTC 1043; マイコバクテリウム・ペトロテフィリウム(Mycobacterium petroteophilum) ATCC 21497; マイコバクテリウム・フェレイ(Mycobacterium phlei) NCTC 10266; マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis) ATCC 19420; ノカルジダ・オパカ(Nocardia opaca) NCIB 9409; ノカルジオプシス・アステロイド(Nocardiopsis asteroids) ATCC 21943; シュードモナス・ジミムタ(Psuedomonas dimimuta) NCIB 9393; シュードモナス・レモイグネイ(Psuedomonas lemoignei) NCIB 9947; ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodocrous) ATCC 13808; ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodocrous) ATCC 21197; ロドコッカス sp.(Rhodococcus sp) ATCC 21499;及びロドコッカス sp.(Rhodococcus sp) ATCC 31337を起源としてよい。当業者によく知られた方法を用いて、DNAコード配列を含む改善された候補遺伝子は、容易にクローニングされ、そして他のアシルCoAシンテターゼ、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ及びチオエステラーゼ酵素の既知の配列に基づいた好適に変性されたプローブを使用することにより、これらの有機体の好適な遺伝子ライブラリから選択される。或いは、またこれに加えて、クローンがキラル反転全体を行う能力に関して、又は、個々のアシルCoAシンテターゼ(ミクロソーム画分を使用)、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ又はチオエステラーゼの部分反応のそれぞれを触媒する能力に関して、in vitro又は全体的な有機体培養アッセイを用いて好適な宿主における発現ライブラリを調製し、そしてライブラリをスクリーニングすることに基づいて、好適な遺伝子が選択される。これらの活性のin vitroアッセイのための好適な方法は、イブプロフェンに関する文献に記載されたものと類似しているか又は同一である(例えばShieh及びChen(1993)JBC, 268, 3487-3493)。
【0057】
本発明の方法において使用するための酵素は、ホスフィノスリシンラセマーゼであってよい。これに対応するDNAコード配列は、グルタミン酸ラセマーゼ遺伝子の突然変異生成及び/又は組換えシャフリング、そしてこれに続く、選択と、ホスフィノスリシンラセマーゼ活性レベルを高めるためのさらなる進化とから成る反復ラウンドによって生成される。グルタミン酸ラセマーゼは、細菌の中で遍在性であり、2つのタイプ、すなわち、補因子としてピリドキサルリン酸に依存するタイプと、補因子とは無関係であって2つの活性部位システイン残基を含有するタイプとを有する。本発明の1実施態様の場合、ペジオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus), ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis), ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis), スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus hemolyticus)及びバチルス・スファエリチカス(Bacillus sphaericus)のグルタミン酸ラセマーゼをコードする配列が、突然変異及び/又は組換え群シャフリングに関して選択される。具体的な実施態様の場合、シャフリングに関して選択された遺伝子は、(Swissprot)配列O82826, P94556及び031332に対応する配列を有するタンパク質をコードする。本発明の実施に適した遺伝子は、好適な宿主細胞、例えば大腸菌又は酵母において発現ライブラリをスクリーニングすることにより選択される。好適な宿主細胞のコロニーは、最小培地におけるD-ホスフィノスリシンによる成長阻害に対する高められた感受性を示す。L-PPTはグルタミンシンテターゼを阻害するのに対して、D-PPTはこれを阻害しない。D-PPTをL-PPTに変換したグルタミンラセマーゼ突然変異クローンは、グルタミンを補充しない限り、最小培地上で成長することはない。好適な宿主菌株において、内生的なD-アミノ酸オキシダーゼ又はD-アミノ酸デヒドロゲナーゼの活性は発現されることはなく、或いは、基質としてD-ホスフィノスリシンを包含することもない。或いは、コードされた酵素がD及びLホスフィノスリシンを相互変換する能力のin vitro又はin vivoアッセイに基づいて、好適な遺伝子を選択することもできる。好適なこのようなアッセイは、アルファ・プロトンの交換に基づいて、又はD-ホスフィノスリシンからのL-ホスフィノスリシン形成を検出するためのバイオアッセイを利用するか、又は例えば、好適なD-アミノ酸オキシダーゼとのカップリングによる、L-ホスフィノスリシンからD-ホスフィノスリシンへの変換を検出することによって行うことができる。
【0058】
本発明に使用される酵素をコードするDNA配列は、任意にはさらに突然変異させ、そして、有用性が改善されたさらに有用な酵素を生成するように選択することができる。所期の基質に対する触媒活性(kcat/Km)、温度安定性及びpH最適条件を含む酵素の多くの特性が改善される。このように改善された変異形の生成、スクリーニング及び選択の方法はよく知られている。例えば、突然変異生成プロセス(例えば変異性DNA複製を有する細菌又は酵母菌株、例えば大腸菌 XL1レッドにDNAを通すことによるプロセス、UV、化学物質又は標的オリゴヌクレチドPCR突然変異生成によるプロセス)によって、好適な変異形DNA配列が生成される。具体的には、このような遺伝子は、例えば国際公開第00/61740号パンフレット、第28-41頁に要約されているようなDNAシャフリング又は「性PCR」の数多くの別のプロセスのいずれかによって生成される。前記パンフレットを参考のため本明細書中に引用する。改善されたこのような遺伝子を選択するのに適した多くの方法がある。遺伝子は好適な宿主細胞、例えば大腸菌又は酵母において好適に発現させることができ、そして例えば本明細書中に記載したような好適なアッセイを用いて、改善に関して選択することができる。
【0059】
非植物毒性物質を植物毒性物質に単独で又は組み合わせで変換することができる、本発明において使用するための酵素をコードするキメラ遺伝子は、それぞれ前記酵素のうちの1つをコードするDNA配列を含むことができる。これらの酵素は、雄性又は雌性の生殖構造に優先的に発現を導く5'プロモーター領域に作用連関されている。この発現特異性は、発現された酵素の効果が、生存能力のある種子の形成に必要な組織及び細胞の局所内部にだけ発揮され、そして好適な非植物毒性物質、多くの場合プロ除草剤の存在において、稔性に対するその効果を超えるほど植物に対して有害性をもたらすことにはならないことを保証する。プロモータ領域に加えて、本発明によるキメラ遺伝子はまた、3'転写ターミネーター配列を含む。3'転写ターミネーター配列は、転写及び正しいmRNAポリアデニル化の終結を担う。このような多くの3'転写ターミネーター配列が当業者に知られており、本発明のキメラ遺伝子における使用に適している。具体的な実施態様の場合、3'転写ターミネーター配列は、CMV 35Sターミネーター、tmlターミネーター、ノパリン・シンターゼ(nos)ターミネーター及びエンドウ豆 rbcS E0ターミネーターから選択される。
【0060】
前記キメラ遺伝子の或る特定の実施態様において使用するのに適した5'プロモーター領域は、雌性花組織内に優先的に発現される遺伝子の5'領域を含む。或る特定の実施態様の場合、5'プロモーター領域は、タバコのstig 1プロモーター(Goldman他(1994)EMBO J., 13, 2976-2984)、修飾S13プロモーター(Dzelkans他(1993)Plant Cell. 5, 8555)、AGL5プロモーター(Savidge他(1995)Plant Cell, 7, 721-733)及びトウモロコシ心皮特異的ZAG2遺伝子のプロモーター5'(Thiessen他(1995)Gene, 156, 155-166)から成る群から選択される。任意には、雌性生殖構造内に優先的に発現されることが当業者に知られているcDNA配列に対応するゲノムDNAのコード配列の上流領域から、更なる好適なプロモーター領域が得られる。或る特定の実施態様の場合、このようなプローブcDNAは、Arabidopsis Fbp7及びFbp11遺伝子(Angenent他(1995)Plant Cell, 7, 1569-1582)及びラン特異的cDNA O40, 0108, 039, 0126及びO141(Nadeau他、(1996)Plant Cell, 8, 213-239)から成る群から選択される。具体的な実施態様の場合、雌性生殖構造内での優先的な発現と関連するゲノムDNAを含む5'プロモーター領域は、受入番号NRRL B-21920を有するゲノムDNAクローンpSH64、受入番号NRRL B-21655を有するcDNA p26-A4とハイブリッド形成するゲノム・クローンpCIB 10302、及び受入番号NRRL B-21919を有するcDNAクローンP19-QAとハイブリッド形成するゲノムDNAクローンX2-1から成る群内に含まれるDNA領域から選択される。更なる具体的な実施態様において、これらのプロモーター領域は、国際公開第98/39462号パンフレットに記載されたSEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12のヌクレオチド1〜1390、及びSEQ ID NO:4のヌクレオチド1〜1093を含む。別の実施態様の場合、本発明のキメラ遺伝子において使用するのに適した別の5'プロモーター領域が、当業者によく知られた方法によって分離され、そしてクローニングされる。例えば雌性生殖構造内に発現された新規の転写物は、組織、例えばトウモロコシの毛又は小麦の雌しべからRNAを分離し、続いて、示差表示、PCR選択cDNA減算及び減算cDNAライブラリ構成のような技術を用いて示差スクリーニングを行うことによって同定される。cDNAクローンは雌性組織内に優先的に発現され、植物のその他の部分、例えば葉、根及び雄穂内には発現されない。発現の組織特異性は任意には、ノーザン・ブロッティングによってさらに確認される。cDNAクローンは、ゲノム・ライブラリ・スクリーニングのためのプローブとして使用される。5'プロモーター領域及び任意には、組織優先発現と関連する3'未翻訳DNA領域は、ゲノムDNAクローンから得られ、雌性生殖構造内での優先的な発現のために、キメラ遺伝子の構成において使用される。
【0061】
前記キメラ遺伝子の別の実施態様で使用するのに適した5'プロモーター領域は、雄性花組織内に優先的に発現される遺伝子の5'領域を含む。これらの領域は、花粉、タペート組織、又は葯内のその他の組織において発現するためのプロモーター領域を含む。具体的な実施態様の場合、これらの5'プロモーター領域は、LAT52プロモーター(Twell他、(1989)Dew., 109, 705-713)、トマトA127プロモーター(Dotson他、(1996)Plant J., 10, 383-392)、トウモロコシZmgプロモーター(Hamilton他(1989)Sex. Plant Reprod. 2, 208-212)、トウモロコシCDPKプロモーター(Guerro他(1990)Mol. Gen. Genet., 224, 161-168)、及び、米国特許第5477002号明細書に開示された葯特異的ant32及びant43Dプロモーターから成る群から選択される。前記明細書全体を参考のため本明細書中に引用する。或る特定の別の実施態様の場合、5'プロモーター領域は、トウモロコシ由来のタペート組織特異的プロモーターCN55(国際公開第92/13956号パンフレットに開示された「Pca55」)、稲由来のタペート組織特異的プロモーターE1(米国特許第5639948号明細書に記載)、稲由来のタペート組織特異的プロモーターT72(米国特許第5639948号明細書に記載)、稲由来のRA8葯特異的プロモーター(EMBL/Genbank受入番号AF042275;Jean Js他(1999)PMB, 39, 35-44)、葯特異的Tap1プロモーター(Spena他(1992)Theor Appl Genet 84, 520-527)及びトウモロコシ由来のZmC5-花粉特異的プロモーター(EMBL/Genbank受入番号Y13285; Wakeley他(1998)PMB, 37, 187-192)から成る群から選択される。任意には、雄性生殖構造内に優先的に発現されることが当業者に知られているcDNA配列に対応するゲノムDNAのコード配列の上流領域から、別の好適なプロモーター領域が得られる。或る特定の実施態様の場合、このようなプローブcDNAは、ラン花粉管特異的シトクロムP450遺伝子(Nadeau他、(1996)Plant Cell, 8, 213-239)、アラビドシスのBcp1遺伝子(Xu他(1995)P.N.A.S., 92, 2106-2110)、及びトウモロコシの雄花特異的MFS14遺伝子(Wright S Y他(1993)Plant J3, 41-49)から成る群から選択される。別の実施態様の場合、別の実施態様の場合、本発明のキメラ遺伝子において使用するのに適した別の5'プロモーター領域が、当業者によく知られた方法によって分離され、そしてクローニングされる。例えば雄性生殖構造内に発現された新規の転写物は、組織、例えば雄穂、花粉管、葯、又はタペート組織からRNAを分離し、続いて、示差表示、PCR選択cDNA減算及び減算cDNAライブラリ構成のような技術を用いて示差スクリーニングを行うことによって同定される。cDNAクローンは雄性組織内に優先的に発現され、植物のその他の部分、例えば葉、根及び柱頭内では分離されない。発現の組織特異性は任意には、ノーザン・ブロッティングによってさらに確認される。cDNAクローンは、ゲノム・ライブラリ・スクリーニングのためのプローブとして使用される。5'プロモーター領域、及び、組織優先発現と関連する3'未翻訳DNA領域は、ゲノムDNAクローンから得られ、雄性生殖構造内での優先的な発現のために、キメラ遺伝子の構成において使用される。
【0062】
本発明のキメラ遺伝子において有用な別のプロモーター領域は、稲のOsmads13遺伝子、稲の葯のOSG遺伝子、及び稲のYY2遺伝子の上流領域を含む。一般には、雄性及び雌性の生殖構造における発現が高収量で、早期に、持続的に、且つ優先的に得られるプロモーター領域が、最も好適なものとして選択される。プロモーターはさらに、相互の組み合わせ、及び別のエンハンサー領域とのキメラの組み合わせを含んでもよい。
【0063】
キメラ遺伝子は、任意に、非植物毒性物質の植物毒素への変換に関与する酵素をコードするDNA配列の直前の領域を含む。この領域は、前記酵素の標的を亜細胞小器官、例えば葉緑体、ペロキシソーム(植物性毒素が過酸化物又は超酸化物アニオンである場合を除く)又はミトコンドリアにすることができるペプチド配列をコードし、そして前記標的形成タンパク質は、(i)葉緑体トランジット・ペプチド又は(ii)葉緑体タンパク質-葉緑体トランジット・ペプチドの葉緑体トランジット・ペプチド-N-末端部分の配列を有していてよい。このことは、例えば前記DNA配列が、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ酵素をコードし、この酵素が膜電子伝達連鎖を含むミトコンドリア又は葉緑体のような区画において最良の機能を果たすことが予期される場合、又は、例えばDNA配列が、所期形質転換全体における部分的な工程だけを触媒する酵素をコードする場合、及び、全反応が、区画化された代謝体及び内生的活性との組み合わせを必要とする場合に特に有利である。具体的には、ミトコンドリアを標的にするために、酵素コードDNA領域の直前の前記DNA領域は、ミトコンドリア・トランジット・ペプチド配列をコードする。或る特定の実施態様において、トランジット・ペプチド配列は、ニコチニア・プラムバジニホリア(Nicotinia plumbaginifolia) ミトコンドリア ATPシンターゼのベータ-サブユニット、ミトコンドリアATPシンターゼ、ミトコンドリア特異的NAD依存性イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、呼吸鎖複合体IのNADPH結合サブユニット、及び酵母ミトコンドリア・トリプトファニル-tRNA-シンテターゼ(国際公開61/21513号パンフレット)の内生的トランジット・ペプチド配列から成る群から選択することができる。
【0064】
本発明の方法に使用するためのポリヌクレオチドは、非植物毒性物質から植物毒素を生成することに関与する反応を触媒する酵素をコードする1つ又は2つ以上のキメラ遺伝子を含むことができる。任意には、このようなポリヌクレオチドは更なる遺伝子及びキメラ遺伝子、例えばキメラ・マーカー遺伝子を含む。本明細書中に使用されるキメラ・マーカー遺伝子は、植物細胞中で活性であるプロモータの発現制御下のマーカーDNAを含む。マーカーDNAは、植物中で発現されると、RNA、タンパク質又はポリペプチドをコードし、植物組織又は植物細胞は、このような植物材料が、このマーカーDNAを発現させない植物材料と区別されることを可能にする。マーカー遺伝子の例は、特異的な色を細胞に提供する遺伝子、例えばA1遺伝子(Meyer他、(1987)Nature 330, 667)、又は、抗生物質を用いてさもなければ死に至らしめる選択に対して植物細胞を耐性にする遺伝子(例えばゲンタマイシンに対する耐性をコードするaac(6')遺伝子、国際公開第94/01560号パンフレット、又はヒグロマイシンに対する耐性を提供するヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)、又は除草剤を用いてさもなければ死に至らしめる選択に対して植物細胞を耐性にする遺伝子{例えばグリホサートの場合、例えば米国特許第5510471号明細書又は国際公開第00/66748号パンフレットに記載されているようなEPSPS遺伝子、フェンメジファムの場合、例えばpmph遺伝子、米国特許第5347047号明細書;同第5543306号明細書、ブロモキシニルの場合、例えば米国特許第4810648号明細書に記載された遺伝子、スルホニル尿素の場合、例えば欧州特許第0360750号明細書に記載された遺伝子、ダラポンの場合、国際公開第99/48023号パンフレットに記載された遺伝子、シアナミドの場合、国際公開第98/48023号パンフレット;同第98/56238号パンフレットに記載された遺伝子}、及びグルタミン・シンテターゼ阻害物質に対する耐性をコードする遺伝子{例えばL-ホスフィノスリシンの場合、例えば欧州特許第0242246号明細書及び同第02257542号明細書に記載されたN-アセチル-トランスフェラーゼ遺伝子)である。マーカー遺伝子として除草剤耐性遺伝子を含む本発明のポリヌクレオチドの好ましい実施態様の場合、前記除草剤は、作物中の雑草防除に有用な除草剤であり、そして、除草剤耐性遺伝子は、前記除草剤のフィールド・レートに対する強固な耐性を提供するのに十分に発現される。別の好ましい実施態様の場合、除草剤はグリホサートであり、そして除草剤耐性遺伝子はEPSPシンターゼである。しかし、マーカー遺伝子は、正の選択を可能にする遺伝子であってよく、この場合、マーカー遺伝子は、特定の培地の関連において、形質転換された植物細胞に好都合な代謝上の利点を提供する。米国特許第5767378号明細書には、多数の好適な正の選択系及び遺伝子が記載されている。
【0065】
本発明のポリヌクレオチドが除草剤耐性遺伝子を含む場合、除草剤は外生的に十分な密度で間作された作物に適用され、これにより、非トランスジェニック自家稔性親植物を起源とする非雑種種子の生成を排除する。好ましい実施態様の場合、除草剤はグリホサート、又は農学的に有用なその塩であり、前記除草剤耐性マーカー遺伝子は、国際公開第00/66748号パンフレットに記載されたグリホサート耐性付与遺伝子の中から選択される。
【0066】
マーカー遺伝子が存在する場合、前記マーカーの除去手段を提供することもできる。このことは例えば、特性を組み合わせることが決定された場合に望ましい。加えて、本発明のプロ除草剤依存性の条件付き稔性メカニズムの操作を妨害するおそれがある除草剤耐性マーカー遺伝子を除去することも望ましい。例えば、D-ホスフィノスリシン・プロ除草剤の外生的適用に依存する条件付きの雄性又は雌性不稔性を提供するのに有用なキメラ遺伝子をも含むポリヌクレオチドから、ホスフィノスリシンNアセチルトランスフェラーゼ(PAT)除草剤耐性マーカー遺伝子を除去することが望ましい場合がある。PAT遺伝子の存在は潜在的に、Lホスフィノスリシン植物毒素を不活性化することにより、申し分のない条件付き不稔性を妨害するおそれがある。こうして、マーカー遺伝子を含むポリヌクレオチドは、任意には、マーカー遺伝子をフランキングして、配列が「蹴り出される」のを可能にする位置で、特異的リコンビナーゼに対応する特異的認識部位を含むことができる。このようにフランキングされたマーカー遺伝子を担持する植物を、対応する特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子を担持する植物と交雑することによって、マーカーが特異的に切除された子孫植物が得られる。このような部位特異的相同組換え系は、flp/frt系(Lyznik他(1996)、Nucleic Acids Res. 24, 3784-3789)及びCre/Lox系(Bayley, C.C.他(1992)PMB, 18, 353-361)である。
【0067】
本発明の方法に使用されるポリヌクレオチドは、任意には、タンパク質コード配列の未翻訳領域5'内に位置する1つ又は2つ以上の翻訳エンハンサーを含んでよい。このような好適な翻訳エンハンサー、例えばTMVに由来するオメガ配列及びオメガ・プライム配列、及びタバコ・エッチ・ウィルスに由来する配列の同一性、及び、所望通りにタンパク質発現量を増大させるように、このような翻訳エンハンサーをいかにしてポリヌクレオチド内に導入することができるかは、当業者には明らかである。更なる例としては、トウモロコシ白化斑点ウィルス及びアルファルファ・モザイク・ウィルスに由来する翻訳エンハンサーが挙げられる(Gallie他、(1987)Nucl. Acids Res., 15, 8693-8711; Skuzeski他(1990)PMB., 15, 65-79)。キメラ遺伝子及びキメラ・マーカー遺伝子からのタンパク質の発現をさらに最適化するために、前記ポリヌクレオチドはさらに、エンハンサー、骨格付着領域(SARS又はMARS)及びイントロンのような要素を含むこともできる。種々のイントロン配列、例えばトウモロコシadh1イントロン1は、遺伝子の5'未翻訳領域内に含まれると、発現を増強させることが判っており、そして任意には、本発明のキメラ遺伝子内で使用される。
【0068】
所望の雄/雌不稔性特性を示すように、本発明により形質転換された植物は、下記タンパク質をコードする領域を含むポリヌクレオチドで形質転換されていてもよい。これらのタンパク質は、このポリヌクレオチドを含有する植物材料に、下記農学的に望ましい形質:昆虫、菌類、ウィルス、細菌、線虫、応力、乾燥及び除草剤に対する耐性、の1つ以上を付与することができる。
【0069】
除草剤耐性付与遺伝子は、例えば、下記タンパク質をコードする群から選択することができる:グリホサートオキシダーゼ(GOX)、EPSPシンターゼ、ホスフィノスリシンアセチル・トランスフェラーゼ(PAT)、ヒドロキシフェニルピルベート・ジオキシゲナーゼ(HPPD)、グルタシオンSトランスフェラーゼ(GST)、シトクロムP450、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACCアーゼ)、アセトラクテート・シンターゼ(ALS)、プロトプロフィリノゲン・オキシダーゼ(PPO)、ジヒドロプテロエート・シンターゼ、ポリアミン運搬体タンパク質、超酸化物ジスムターゼ(SOD)、ブロモキシニル・ニトリラーゼ、フィトエン・デサチュラーゼ(PBS)、アルカリゲネス・エウトロフィス(Alcaligenes eutrophus)から得られるtfdA遺伝子の生成物、及び前記タンパク質の突然変異生成された、又はその他の方法で修飾された既知の変異形をコードする群から選択することができる。当業者には明らかなように、非植物毒性物質を変換するために使用する酵素の性質を考慮して、このような遺伝子、及びこれらを発現させるプロモーターを注意深く閉鎖することが必要である。ポリヌクレオチドが多重の除草剤耐性を提供する場合、このような除草剤は、ジニトロアニリン除草剤、トリアゾロピリミジン、ウラシル、フェニル尿素、トリケトン、イソキサゾール、アセトアニリド、オキサジアゾール、トリアジノン、スルホンアニリド、アミド、アニリド、イソキサフルトール、フルオロクロリドン、ノルフルラゾン、及びトリアゾリノン型除草剤から成る群から選択することができ、そして、
出芽後除草剤は、グリホサート及びその塩、グルフォシネート、アスラム、ベンタゾン、ビアラホス、ブロマシル、セトキシジム又は別のシクロヘキサンジオン、ジカンバ、フォサミン、フルポキサム、フェノキシプロピオネート、キザロフォプ又は別のアリールオキシ-フェノキシプロパノエート、ピクロラム、フルオルメトロン、ブタフェナシル、アトラジン又は別のトリアジン、メトリブジン、クロリムロン、クロルスルフロン、フルメトスラム、ハロスルフロン、スルホメトロン、イムアザキン、イムアゼサピル、イソキサベン、イムアザモクス、メトスラム、ピリスロバク、リムスルフロン、ベンスルフロン、ニコスルフロン、フォメサフェン、フルログリコフェン、KIH9201、ET715、カルフェントラゾン、メソトリオン、スルコトリオン、パラコート、ダイコート、ブロモキシニル及びフェノキサプロプから成る群から選択される。
【0070】
ポリヌクレオチドが、殺虫性タンパク質をコードする配列を含む場合、これらのタンパク質は、「VIP」として知られているような分泌型Bt毒素を含む結晶毒素;プロテアーゼ阻害剤、レクチン及びゼンホルブダス(Xenhorabdus)/ホトラブダス(Photorhabdus)毒素から成る群から選択することができる。菌耐性付与遺伝子は、既知のAFP、デフェンシン、キチナーゼ、グルカナーゼ、及びAvr-Cf9をコードする遺伝子から成る群から選択することができる。特に好ましい殺虫性タンパク質は、cryIAc、cryIAb、cry3A、Vip 1A, Vip 1B、Vip 3A、Vip 3B、システインプロテアーゼ阻害物質及びスノードロップ・レクチンである。ポリヌクレオチドが細菌耐性付与遺伝子を含む場合、これらの遺伝子は、セクロピン及びテチプレシン及びこれらの類似体をコードする遺伝子から成る群から選択することができる。ウィルス耐性付与遺伝子は、ウィルス・コート・タンパク質、運動タンパク質、ウィルス・レプリカーゼ、及びウィルス耐性を提供することが知られているアンチセンス配列及びリボザイム配列をコードする遺伝子から成る群から選択することができ;これに対して、応力、塩及び干ばつに対する耐性を付与する遺伝子は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ及びペルオキシダーゼをコードする遺伝子、既知のCBF1調節配列を構成する配列、及びトレハロースの蓄積を可能にすることが知られている遺伝子から選択することができる。
【0071】
本発明に基づいて使用されるポリヌクレオチドは「修飾」されていてよく、これにより、これらのポリヌクレオチドによって形成されるタンパク質コード配列の発現が増強される。その理由は、mRNA不安定性モチーフ及び/又は偶発的スプライス領域を除去することができることにあり、或いは、作物にとって好ましいコドンを使用することにより、植物中のこうして修飾されたポリヌクレオチドの発現が、有機体内の未修飾ポリヌクレオチドのタンパク質コード領域(このような未修飾ポリヌクレオチド領域は内生的である)の発現によって得られるものとほぼ同様の活性/機能を有する実質的に同様のタンパク質を産出することにある。修飾ポリヌクレオチドと、前記植物内部に内生的に含有され、実質的に同じタンパク質をコードするポリヌクレオチドとの間の同一度は、修飾配列と内生的配列との間の共抑制を防止するようになっていてよい。この場合、配列間の同一度は、約70%未満であることが好ましい。加えて、翻訳開始位置の周囲の配列は、「Kozackにとって好ましい」ように修飾することができる。これが意味するところは、当業者によく知られている。
【0072】
本発明はさらに、形態学的に正常な条件付き稔性の植物全体であって、本発明に基づいて核酸で形質転換されており、且つ従ってこのような形質を提供する材料から再生されている植物を交雑した結果得られる植物全体を含む。本発明はまた、その結果得られた植物、これらの種子、及び部分の子孫を含む。
【0073】
本発明の植物は、農作物、果物、野菜、例えばカノーラ、ヒマワリ、タバコ、甜菜、綿、トウモロコシ、小麦、大麦、稲、モロコシ、飼料ビート、トマト、マンゴー、モモ、リンゴ、西洋ナシ、イチゴ、バナナ、メロン、ジャガイモ、ニンジン、レタス、キャベツ、タマネギ、大豆種、サトウキビ、エンドウ豆、ソラマメ、ポプラ、ブドウ、柑橘類、アルファルファ、ライ麦、カラスムギ、芝草及び飼草、亜麻及び脂肪種子、及び既に具体的に述べられていないのであればナッツを生成する植物、これらの子孫、種子、及び部分から成る群から選択することができる。
【0074】
特に好ましいこのような植物は、小麦、大麦、カラスムギ、稲、トウモロコシ、雑穀及びモロコシを含む。
【0075】
本発明はさらに、
(i) プロ除草剤又は他の非植物毒性物質の外生的な適用に応じて条件付きの雄不稔性を付与する遺伝子を含むポリヌクレオチド又はベクターで、植物材料を形質転換し;
(ii) こうして形質転換された材料を選択し;そして、
(iii) こうして選択された材料を、形態学的に正常な条件付き雄不稔性植物全体中に再生し、
(iv) ホモ接合型の条件付き雄不稔性の雌性親系列を育種し、
(v) (i)と同じプロ除草剤又は非植物毒性物質の外生的適用に応じて条件付きの雌不稔性を付与する遺伝子を含むポリヌクレオチド又はベクターで、植物材料を形質転換し;
(vi) こうして形質転換された材料を選択し;そして、
(vii) こうして選択された材料を、形態学的に正常な条件付き雌不稔性植物全体中に再生し、
(viii) ホモ接合型の条件付き雌不稔性の雄性親系列を育種し、
(ix) 前記条件付き不稔性雄性及び雌性の親系列を、効率的な受粉を保証するような比で間作し、
(x) 自家受粉を最小限に抑えるような用量及び発育段階で、該間作された親系列に、前記プロ除草剤又は他の非植物毒性物質を適用し、
(xi) 該間作された親系列から、雑種小麦種子を収穫する
工程を含む雑種小麦種子を製造する好ましい方法を提供する。
【0076】
本発明はまた、上記方法の変化実施態様を提供する。この変化実施態様の場合、雄性親は、任意の手段によって雌不稔性であり、雌性親は、任意の手段によって雄不稔性であり、雄性及び雌性の親系列は、適用される両方の相異なるプロ除草剤の適用に応じて条件付きで不稔性であり、そして作物は小麦以外である。
【0077】
本発明はまた、本発明の方法に従って生成された植物中に存在するタンパク質、又はこれらをコードするDNA配列の検出手段を含む診断キットであって、ひいては、これらのタンパク質及びDNA配列を含有する組織又は試料を同定するのに適した診断キットを含む。DNA配列は、本明細書に開示又は記載した酵素コード配列から容易に誘導することができるプライマーに基づいて、当業者に知られているPCR増幅によって検出することができる。酵素それ自体は、例えば抗体を使用することにより検出することができる。これらの抗体は、酵素が含有する抗原領域を診断的に識別するために、これらの酵素に抗して生じさせられる。
【0078】
本発明はまた、鏡像異性体的に純粋なD-ホスフィノスリシン(D-PPT)を製造する方法であって、
(a) PPTを選択的にN-アシル化することができる酵素を含有する細胞を準備し;
(b) D-L PPTを含有する培地内に前記細胞を成長させることにより、馴化培地を生成し;
(c) (b)の該馴化培地から該細胞を分離し;
(d) 任意には、種々のpHで、非水性の非混和性溶剤を用いて該馴化培地を抽出することにより、PPTよりも高水溶性の分子を含有する画分から、PPT含有画分を分離し;
(e) 任意には、該馴化培地又は工程(d)のPPT含有抽出培地に、カチオン交換樹脂のプロトン化形を、該培地からPTT以外のカチオンの相当の比率を吸収するのに十分な量及びpHで混和し;
(f) 該馴化培地、抽出培地又は工程(e)の結果生じる培地に、カチオン交換樹脂のプロトン化形を、培地中のPPTの大部分に結合するのに十分な量及びpHで混和し;
(g) 該PPTが結合された、工程(f)から生じたカチオン交換樹脂を収集し、そして、十分なpH及びイオン強度を有する溶離培地を用いて、しかも該培地のpHがこうして溶離されるPPTをラセミ化するほどには低くないことを条件として、該カチオン交換樹脂からPPTを選択的に溶離する
工程を含む、鏡像異性的に純粋なD-ホスフィノスリシン(D-PPT)を製造する方法を提供する。
【0079】
植物材料の形質転換に関しては、当業者には明らかなように、特定のタイプの標的材料(例えば胚形成細胞浮遊培養又は脱分化未熟胚)及び特定の形質転換法(例えばアグロバクテリウム(Agrobacterium)又は粒子ボンバードを利用)が下記実施例において特定されているが、本発明は特定の実施態様に限定されるものではなく、このような標的材料及び方法は相互に交換可能に利用することができる。さらに、本明細書全体を通して使用される「植物細胞」という用語は、浮遊培養を含む分離細胞、並びに、無傷又は部分的に無傷の組織内の細胞、例えば胚、胚盤、小胞子、小胞子由来の胚又は植物器官由来の体細胞を意味する。同様に、特定の実施例がトウモロコシ及び小麦に限定されてはいるが、本発明は、好適な植物細胞形質転換法を利用して形質転換することができる広範囲の農作物に、等しく適用可能である。
【0080】
本発明はさらに、配列リスト及び図面との関連において、下記実施例から明らかになる。
SEQ ID NO:1は、エステラーゼBの活性を有する酵素(SEQ ID NO:2と表す)をコードする、シネコシスチス sp.(Synechocystis sp.)から分離されたDNA配列を示す。
SEQ ID NO:3は、アシル-メチルアシル-CoAラセマーゼ配列の活性を有する酵素(SEQ ID NO:4と表す)をコードする、ニューロスポラ・クラッサから分離されたDNA配列を示す。
SEQ ID NO:5及び6は、TA29プロモーター領域を得るために使用されるPCRプライマーを表す。
SEQ ID NO:7は、Dアミノ酸オキシダーゼの活性を有する酵素をコードする、ロドトルラ・グラシリスから分離されたDNA配列を示す。
SEQ ID NO:8及び9は、変異形D-アミノオキシダーゼを提供するために使用される変性オリゴを表す。
SEQ ID NO:10及び11は、変異形D-アミノオキシダーゼを提供するために、別のアミノ酸を置換することができるモチーフを表す。
【0081】
十分に確立された方法に従って、一般的な分子生物法を実施する。
【0082】
おおむね下記実施例はそれぞれ、本発明の多数の例証を含む。「遺伝子のプロモーター領域」という用語が使用される場合、これは、プロモーター、プロモーターの上流の配列、及び任意には、mRNAの5'未翻訳リーダー領域をコードするDNA配列の全て又は一部を含むDNA配列を意味するために採用される。
【実施例】
【0083】
実施例1:D-ホスフィノスリシン又はD-アラニン又はD-ロイシン又はD-メチオニン又はD-アスパラギン又はD-アスパルテート又はD-グルタメートの外生的適用に応じて、条件付きで雌不稔性であるタバコ植物
EMBL配列Z50019内のD-アミノ酸オキシダーゼ・タンパク質配列Q99042(Swissprot)をコードするDNA配列を、トリゴノプシス・バリアブリス(Trigonopsis variablis) mRNAからRT-PCRによって得るか、又は、合成的に得る。或いは、EMBL配列A56901内のD-アミノ酸オキシダーゼ・タンパク質配列P80324(Swissprot)をコードするDNA配列を、ロドスポリジウム・トルルロイデス(Rhodosporidium tolruloides)(ロドトルラ・グラシリス)mRNAからRT-PCRによって得るか、又は、例えばSEQ ID NO:7として合成的に得る(これにより、どの内部制限部位が存在するか制御するのが容易になり、フランキング部位の形成によりクローニングが容易になる)。SEQ ID NO:7は、植物(この場合、小麦)コドン使用の原因となるように、そして発現に対して潜在的に不都合なDNA構成要件を最小化するように構成されている。或いはDNA配列(例えばEMBL受入X95310由来)は、「D-アスパラギン酸オキシダーゼ」、例えばP31228をコードし、そしてこの場合にも、コドン使用の原因となるように、また発現に対して不都合なDNA構成要件を最小化するように合成される。或いは、得られたD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列は、実施例2におけるものと同じである。フランキングPCRプライマー及び合成DNA配列を、クローニングのための有用な固有制限部位を配置するように構成する。好ましくは、またオキシダーゼ・コード配列が、交絡する内部部位を含有しない場合には、Nco 1又はNde 1部位を5'末端に配置し、これにより、5'でORFに加えられた配列、例えば葉緑体トランジット・タンパク質コード配列とのインフレーム融合のクローニングを容易にする。この実施例のいくつかの変更形の場合、末端3アミノ酸が切断され、ひいては、コードされた酵素がもはやペルオキシソームを標的としないように、D-アミノ酸オキシダーゼ(いくつかの変更形では「Dアスパラギン酸オキシダーゼ」と呼ぶ)遺伝子をクローニングする。この方法の付加的な一連の変更形では、遺伝子をPCRによって遺伝子工学的に作り出し、位置213及び238において別のアミノ酸を有するロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼをコードする。ロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼは具体的には、位置213においてメチオニンを置換するアルギニン、セリン、システイン、リシン、アスパラギン又はアラニンを有し、且つ/又は、位置238においてチロシンを置換するヒスチジン、セリン、システイン、アスパラギン又はアラニンを有する。「213」位置のメチオニンは、天然型タンパク質配列モチーフRCTMDSSにおいてMと称される。位置238のチロシンは、天然型タンパク質配列モチーフGGTYGVG内で「Y」と称される。ロドトルラ又は「D-アスパラギン酸オキシダーゼ」に由来するDアミノ酸オキシダーゼのこれらの変異形は、D-アスパルテート、D-グルタメート又はD-ホスフィノスリシンの適用時に雌不稔性を条件付きにしたい場合に使用される。
【0084】
ATG翻訳開始部位介在配列の上流に制限部位を配置して、これにより、Kozakに基づくような植物翻訳コンセンサス配列に一致させることができる。
【0085】
「デルタS13プロモーター」は、雌花部分における優先的な発現を得るのに有用なプロモーター領域である。これは、CMV35Sコア・プロモーターの-46〜+8に融合された、SLG13の領域-339〜-79を含む(Dzelkalns他(1993)Plant Cell, 5,833-863)。このS13プロモーター領域をブルースクリプトsk内にクローニングし、次いでこのプラスミドをさらに制限し、そして、nos3'転写ターミネーター領域及びアミノ酸コード配列の一方又は他方を含む制限フラグメントと連結し、これによりブルースクリプトskプラスミド内に「デルタS13-D-アミノ酸オキシダーゼ-Nos ターミネーター」発現カセットを形成する。次いでこれを例えばEcoR1フラグメントとして好適に制限し、このようなものとして、ベクター、例えばアグロバクテリウムを用いた形質転換に使用するためのpBIN19(Bevan(1984)Nucleic Acids Res.)又はpCIB200又はpCIB2001(国際公開98/39462号パンフレット)内の好適な部位中に連結して戻す。国際公開98/39462号パンフレットに記載されているように、pCIB2001は、下記固有ポリリンカー制限部位:EcoR1, Sst1, Kpn1, BglII, Xba1及びSalIを含有する。pCIB2001はポリリンカー内に、MluI, BclI, AvrII, ApaI, HpaI及びStuIを含む更なる固有制限部位を付加する挿入部分を含有する。pCIB200及びpCIB2001はまた、カナマイシンにおいて植物及び細菌を選択するための選択マーカー遺伝子、左右T-DNA境界、大腸菌とその他の宿主との間の動態化のためのRK2由来trfA機能、及びRK2に由来するoriT及びoriV機能を提供する。或いは、広い宿主範囲のプラスミドpRK252に由来する配列を組み込んだバイナリ・ベクターpCIB10を使用する(Rothstein他(1987)Gene 53, 153-161)か、又は、カナマイシン耐性遺伝子及びヒグロマイシン・ホスホトランスフェラーゼ遺伝子の双方を組み込んだその誘導体の1つ、例えばpCIB715を使用する(Gritz他(1983)Gene 25,179-188)。
【0086】
或いは、約1.6kb Stig1プロモーター領域(EMBL受入X77823)を使用する。例えば、Goldman他(1994)EMBO J., 13, 2976-2984に記載されているstig1-GUS構造内のGUS遺伝子のコード領域を、好適な制限酵素を使用して、P80324コード配列又はQ99042コード配列をコードするDNA配列と置換し、そして、結果として生じたstig1-D-アミノ酸オキシダーゼ発現構造を好適なベクター、例えばpCIB200中に、好適なマーカー遺伝子に隣接した3'ターミネーターの上流位置で、そしてT-DNA境界配列の間でクローニングする。
【0087】
別の具体例において、バイナリ・ベクター内のT-DNA挿入体を図1に従って構成する。stig1プロモーター領域の操作可能な制御下でロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼをコードする合成DNA配列(SEQ ID NO:7)と、エンドウ豆プラストシアニン・プロモーター領域の操作可能な制御下でL-ホスフィノスリシンN-アセチルトランスフェラーゼ(PAT)をコードするDNA配列(A02774)とを含む構造を、バイナリ・ベクターのLB/npt II遺伝子とT-DNAのRBとの間の部位内にクローニングする。手短にいえば、Stig1プロモーターの背後で、またnos ターミネーター領域(EMBL内に含まれる:ATU237588)の前面で、NcoI/PstIフラグメントとして、SEQ ID NO:7をプラスミドpFse4-Stig1nos(国際公開99/42598号パンフレット)中にクローニングする。エンドウ豆プラストシアニン・プロモーター領域(EMBL受入番号X16082)をエンドウ豆ゲノムDNAからPCRによって獲得し、そしてPAT遺伝子/nos ターミネーターの前面でクローニングする。その結果として得られたPC-PAT-nosカセットを、Stig1-RGDAMOX-nosの背後で、NotIフラグメントとしてクローニングし、そしてこの2遺伝子構造全体をバイナリ・ベクター(pVB6, Bin19誘導体)に、FesIフラグメントとして移す。
【0088】
この方法の別の変化形の場合、構造は、図2に概略的に示されたものに従って使用される。任意には特定部位の突然変異生成によりM213R形をコードするロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼ・コード配列SEQ ID NO:7を、3'末端で3つのコドンによって切断し、そして5'末端でクローニングして、葉緑体トランジット・ペプチドをコードする領域のすぐ下流側にこれを配置し、これにより、葉緑体トランジット・ペプチド/D-アミノ酸オキシダーゼ融合タンパク質をコードする。葉緑体トランジット・ペプチド・コード配列は、EPSPシンターゼの小サブユニットをコードするアラビドシス遺伝子から誘導する(Klee他,1987, Mol. Gen. Genet., 210, 437)。任意には、これを修飾して、CTPプロセッシング部位にSph1部位を含むようにし、これにより、この位置のGlu-LysをCys-Met(国際公開第92/044490号パンフレットの図9のSEQ)で置換する。相応に、D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列のN末端で、SPh1部位を遺伝子工学的に作り出すことができる(メチオニンに続くアミノ酸をleuに変換)。或いは、葉緑体トランジット・ペプチド・コード配列を、Petunia遺伝子コードEPSPシンターゼから誘導する(国際公開92/044490号パンフレットの図11)。或いは、葉緑体コード配列は、Rubiscoの小サブユニットをコードする遺伝子に由来する配列、及び、いわゆる「最適化された」キメラ・トランジット・ペプチド配列(FR2673643)を含めた、極めて多くの可能性のいずれか1つである。全ての事例において、サブクローニングに依存するのではなく、葉緑体トランジット・ペプチド/ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼ融合ポリペプチドをコードする所期DNA配列全体は、合成により単純に得ることができる。この配列を、stig1プロモーター領域の下流部位、及び(例えばnos)ターミネーター配列の上流部位中に、好適なベクター内でクローニングする(例えば、stig1を含有するベクターにおけるGUSコード配列の置換→GUS構造、Goldman他(1994), EMBO J., 13, 2976-2984に記載)。次いで、遺伝子発現構造全体を、PBV6ベクターのT-DNAの左右の境界の間で好適な部位内にクローニングする。
【0089】
タバコ・リーフディスクを、Horsch他(1985), Science, 227, 1229-1231に記載されているものと同様の方法を用いて、組換えバイナリ・ベクターで形質転換する。この方法の多くの変更形を用いることができる。バイナリ・ベクターは、例えば形質転換の凍解法を用いて、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) 菌株LBA 4404中に形質転換することができる。タバコの形質転換及び植物全体の再生を、Draper他(Plant Genetid Transformation, Blackwell Sci. Pub. 1989)によって記載されたプロトコルに従って、ニコチニア・タバカム var. サムスン(Nicotina tabacum var. Samsun) を用いて実施する。カナマイシン又はその他の好適な抗生物質を含有するMS-培地上で、形質転換事象を選択する。一体的な導入遺伝子の存在をPCRによって確認する。植物は再生され、そして、成熟に達し、自家受粉して種子を生成するのを可能にする。ノーザン及び/又はウェスタン分析を用いて、D-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子の組織特異的発現を確認する。植物は自家稔性であるが、しかし、条件付き雌不稔性の条件を有する。T1世代の種子を所定の間隔を置いて植える。苗木が十分なサイズまで成長したら、これらを導入遺伝子の存在に関して、PCRによって試験する。PCR陽性植物を温室に移す。これらの植物は、外生的に適用されたプロ除草剤の不存在において、完全に稔性である。これらの(推定上の)条件付き不稔性植物を、種々の量及び種々の成長段階でD-ホスフィノスリシン又はD-アラニン又はD-ロイシン又はD-アスパラギン又はD-メチオニン又はD-アスパルテート又はD-グルタメートで処理する。このような処理は、D-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子に関してPCR陽性として確認されたT1植物上で行うか、又は同様に、このような処理は、To世代の植物上で直接的に行う(これらの植物は栄養的にクローニングされるので、それぞれの事象の未処理クローンは種子生成に際しては除外することができる)。次いで観察された稔性を、最も明白な条件付き不稔性表現型を示す好適な植物系列を選択するためのベースとして使用する。例えばこれらのアミノ酸は純粋D鏡像異性体、又はDLラセミ化合物である。例えばこれらのアミノ酸は、花形成初期前又は花形成初期中に、通常0.25〜20kg/haの率で、葉への噴霧として適用される。葉への適用に続いて、葉上の溶液から晶出することができるアミノ酸を、噴霧ミストとして水をさらに適用することにより、葉の摂取のために再溶解し再動態化することができる。アミノ酸は、例えば根の浸漬液としても適用され、そして任意には、出現しつつある小花の芽内に直接的に流入される、10〜200mMの約50μl溶液として適用される。処理された植物から花粉を捕集し、生存可能性を試験する。D-ホスフィノスリシン又はD-アラニン又はD-ロイシン又はD-アスパラギン又はD-メチオニン又はD-アスパルテート又はD-グルタメートによる処理後に、種子を比較的僅かしか生成しないか、又は全く生成しないが、しかし、それにもかかわらず、同じ処理条件下で、正常レベルに近い生存能力のある花粉を生成する植物を得る。対照植物はトランスジェニック及び非トランスジェニックであり、同一条件下、及び同一の物理的処理方式下で成長させるが、ただし、処理溶液は水又は等濃度の純粋L-アミノ酸である。
【0090】
この方法の1つの変更形の場合、適用されるアミノ酸は、ラセミDLホスフィノスリシンである。この場合、形質転換に使用されるDNA構造は、組織特異的雌性花プロモーター領域、例えば「stig 1」の操作可能な発現制御下でD-アミノ酸オキシダーゼをコードするDNA配列に加えて、プロモーター領域、例えばプシウム・サチバム(Pisum sativum) プラストシアニン遺伝子(EMBL受入番号X16082)のプラストシアニン遺伝子の翻訳開始領域5'の操作可能な制御下で、「PAT」遺伝子をコードするDNA配列(EMBL:A02774)をも含む。例えば、この構造は図1に示したものと同じであるが、但しこの場合には、D-アミノ酸オキシダーゼをコードするDNA配列が、部位特異性突然変異生成されており、従って酵素のM213R形がコードされる。プラストシアニン・プロモーター領域は、植物の葉緑素含有組織内での優先的な発現を可能にする。予期せぬことに、例えば35Sプロモーター領域とは異なって、植物の或る特定の組織にのみ、とりわけ葉緑素含有組織のみに実質的に発現されるこのようなプロモーターが、それにもかかわらず、PAT遺伝子との組み合わせで使用されると、2kg/haを超える率であっても、除草剤DL PPTに対する実質的に完全な生殖耐性を提供することが見出される。さらに、好適なヘテロ接合型D-アミノ酸オキシダーゼ、又は、花組織において同時発現されるDからLへの同様の変換活性が存在しない場合、このプロモーター領域の制御下で発現させると、重要な花組織の多くにおけるPAT発現レベルは低いか又は存在しないにもかかわらず、プラストシアニン/PAT遺伝子の組み合わせは、収穫高を有意に損失させることなしに、事実上完全な生殖耐性を提供する。こうしてこの実施例のこのような変更形の場合、非植物毒性物質Dホスフィノスリシンは、その最も低廉で最も容易に利用可能な形で、商業的な除草剤DLホスフィノスリシン・ラセミ化合物として適用される。DLホスフィノスリシンの適切な噴霧タイミング、及び250g/ha〜5kg/haの率で、処理済植物は肉眼に見えるような損傷を受けないが、しかし、正常又は正常に近い雄稔性を残しつつ、条件付き雌不稔性にさせられる。
【0091】
実施例2:D-ホスフィノスリシン又はD-アラニン又はD-ロイシン又はD-メチオニン又はD-アスパラギン又はD-アスパルテート又はD-グルタメートの外生的適用に応じて、条件付きで雄不稔性であるタバコ植物
EMBL配列AB042032内のD-アミノ酸オキシダーゼ・タンパク質配列Q9HGY3(Sptrembl)をコードするDNA配列を、カンジダ・ボンジィ(Candida boidini) mRNAからRT-PCRによって得るか、又は、合成的に得る。或いは、EMBL配列D00809内のD-アミノ酸オキシダーゼ・タンパク質配列P24552(Swissprot)をコードするDNA配列を、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani) mRNAからRT-PCRによって得るか、又は、例えば合成的に得る。フランキングPCRプライマー又は合成DNA配列を、クローニングのための有用な固有制限部位を配置するように構成する。好ましくは、またオキシダーゼ・コード配列が、交絡する内部部位を含有しない場合には、Nco 1又はNde 1部位を5'末端に配置し、これにより、5'でORFに加えられた配列とのインフレーム融合のクローニングを容易にする。或いは、ATG翻訳開始部位介在配列の上流に制限部位を配置して、これにより、Kozakに基づくような植物翻訳コンセンサス配列に一致させることができる。或いは、得られたD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列は、実施例1と同じである。やはりこの場合にも、D-アスパルテート、D-グルタメート又はD-ホスフィノスリシンの適用に応じて不稔性を形成しようとする前の実施例と同じく、、好ましくはD-アミノ酸オキシダーゼは、アミノ酸位置213及び/又は238において変異形である。
【0092】
プライマー5'-AACTGCAGCTTTTTGGTTAGCGAATGC-3'(SEQ ID NO:5)及び5'-CAGACTAGTTTTAGCTAATTTCTTTAAGTAAAAAC-3'(SEQ ID NO:6)を使用したPCRによって、タバコ・ゲノムDNAから、TA29プロモーター領域(Kriete他(1996)Plant J., 9, 808-818)を、クローニングする。一連の制限工程及びサブクローニング工程を通して、こうして得られたPCRフラグメントを、D-アミノ酸オキシダーゼ・コード領域の上流に配置し、そしてnos転写ターミネーターをコード領域の3'に付加する。その結果得られたTA29-D-アミノ酸オキシダーゼ-nosターミネーター発現カセットを次いでクローニングし、好適な制限フラグメントとして獲得し、そして実施例1におけるようなバイナリ・ベクター内にクローニングする。実施例1におけるように、D-アスパルテート、D-グルタメート又はD-ホスフィノスリシンの適用に応じて、不稔性を条件付きにしようとする場合、ロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼの変異形を、位置213及び/又は238における突然変異と共に使用することが好ましい。
【0093】
或いは、上述のD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列領域を、好適な制限フラグメント(例えばBamH1, Bgl/II、この場合、コード配列の合成変異形は、内部制限部位を除去するように構成される)としてクローニングし、そして、例えばセンス形態のバイナリ・ベクターpROK1(Baulcombe他(1986)Nature, 321, 446-449)のBamH1部位内に挿入することにより、CaMv35Sプロモーター及びノパリン・シンターゼ(nos)ターミネーターの領域に融合する。35Sプロモーター領域を担持するEcoR1-BamR1フラグメントを次いで切除し、TA29sプロモーター領域フラグメント(-810〜+54)を担持するpAP30(Kriete他(1996)The Plant Journal 9, 809-818)に由来するEcoR1-BamH1フラグメントと置換する。その結果得られるベクターを、コードされたタンパク質配列に従って、pGKTA29_Q99042, pGKTA29_P80324, pGKTA29_Q9HGY3及びpGKTA29_P24552などと呼ぶことができる。
【0094】
タバコ植物材料を、アグロバクテリウムを介してベクターで形質転換し、そして前の実施例に記載されているのと同様に、トランスジェニック植物を再生する。生成された植物は、自家稔性であるが、しかし、条件付き雄不稔性の条件を有する。T1世代の種子を所定の間隔を置いて土壌中に植える。苗木が十分なサイズまで成長したら、これらを導入遺伝子の存在に関して、PCRによって試験する。PCR陽性植物を温室に移す。これらの植物は、外生的に適用されたプロ除草剤の不存在において、完全に稔性である。これらの推定上の条件付き不稔性T1植物、或いはT0「事象」の苗木(形質転換からの直接的な再生物)を、種々の量及び種々の成長段階でD-ホスフィノスリシン又はD-アラニン又はD-ロイシン又はD-メチオニン又はD-アスパラギン又は又はD-アスパルテート又はD-グルタメートで処理する。T0植物が処理される場合、これらの植物は栄養的にクローニングされるので、これらの事象の未処理同胞は種子生成に際しては除外される。次いで、観察された稔性を、最も明白な条件付き不稔性表現型を示す好適な植物系列を選択するためのベースとして使用する。例えばこれらのアミノ酸は純粋D鏡像異性体、又はDLラセミ化合物である。例えばこれらのアミノ酸は、花形成初期前又はの花形成初期中に、通常0.25〜20kg/haの率で、葉への噴霧として適用される。葉への適用に続いて、葉上の溶液から晶出することができるアミノ酸を、噴霧ミストとして水をさらに適用することにより、葉の摂取のために再溶解し再動態化することができる。アミノ酸は、例えば根の浸漬液としても適用され、そして任意には、出現しつつある小花の芽内に直接的に、10-200mM溶液として適用される。
【0095】
処理された植物から花粉を捕集し、生存可能性を試験する。花粉を全く又は比較的僅かしか生じさせない植物及び/又は生存能力のない花粉を生じさせる植物を獲得する。処理済植物のいくつかから捕集された花粉を試験し、奇形で生存能力がないことを見出す。しかし、このような不稔性植物は、雌稔性のままであり、そして、他の未処理の非トランスジェニックな又は条件付き雌不稔性のタバコ植物から捕集された花粉を受粉すると、(雑種)種子を生成する。対照植物はトランスジェニック及び非トランスジェニックであり、同一条件下、及び同一の物理的処理方式下で成長させるが、ただし、処理溶液は水又は等濃度の純粋L-アミノ酸である。
【0096】
実施例1と同様に、この実施例の1変更形の場合、適用されるアミノ酸は、ラセミDLホスフィノスリシンである。この場合、形質転換に使用されるDNA構造は、組織特異的雄性花プロモーター領域、例えば「TA29」の操作可能な発現制御下でD-アミノ酸オキシダーゼをコードするDNA配列に加えて、プロモーター領域、例えばプシウム・サチバム遺伝子に由来するプロモーター領域(この場合、プシウム・サチバム プラストシアニン遺伝子に由来する領域)の操作可能な制御下で、ホスフィノスリシンN-アセチル・トランスフェラーゼ遺伝子、例えば「PAT」遺伝子をコードするDNA配列をも含む。DLホスフィノスリシンの適切な噴霧タイミング、及び250g/ha〜5kg/haの率で、処理済植物は肉眼に見えるような損傷を受けないが、しかし、正常又は正常に近い雌稔性を残しつつ、条件付き雄不稔性にさせられる。
【0097】
実施例3:雄性生殖構造内に優先的に発現され、イムアザメタベンズメチル又はフラムプロプMメチル又はフラムプロプMイソプロピルを加水分解して、これらのそれぞれのカルボン酸にすることができる酵素をコードするキメラ遺伝子
EMBL配列M94965内のカルボキシルエステラーゼ・タンパク質配列Q01470(Swissprot)をコードするDNA配列を、アルトロバクター・オキシダンス(Anthrobacter oxydans)のゲノムDNAからPCRによって得るか、又は、合成的に得る。或いは、EMBL配列BS06089内のカルボキシルエステラーゼ・タンパク質配列P37967(Swissprot)をコードするDNA配列を、バチルス・サブチリスゲノムDNAからPCRによって得るか、又は、例えば合成的に得る。或いは、EMBL配列Z34288内のカルボキシルエステラーゼ・タンパク質配列P40363(Swissprot)をコードするDNA配列を、サッカロミセス・セレビジアエ(Saccaromyces cervisiae) mRNAからRT-PCRによって得るか、又は、例えば合成的に得る。フランキングPCRプライマー又は合成DNA配列を、クローニングのための有用な固有制限部位を配置するように構成する。好ましくは、またカルボキシルエステラーゼ・コード配列が、交絡する内部部位を含有しない場合には、Nco 1又はNde 1部位を5'末端に配置し、これにより、5'でORFに加えられた配列とのインフレーム融合のクローニングを容易にする。或いは、ATG翻訳開始部位介在配列の上流に制限部位を配置して、これにより、Kozakに基づくような植物翻訳コンセンサス配列に一致させることができる。
【0098】
プラスミドpGK73は、TA29sプロモーター領域EcoR1-BamH1フラグメント-810〜+54(Kriete他(1996), 9, 809-818)を担持する。この制限フラグメント又は類似の好適なPCR生成フラグメントを、カルボキシルエステラーゼQ01470又はP37967をコードするDNA配列の上流の位置で、好ましくはインフレーム融合として、ブルースクリプトsk内にクローニングする。好適な一連の制限工程、連結工程及びサブクローニング工程を用いて、nos転写ターミネーターをコード領域の3'に付加し、これにより、コード配列に従って、ブルースクリプトskプラスミド、pBLTA_Q01470, pBLTA_P37967及びpBLTA_P40363内にTA29型カルボキスルエステラーゼ-nosの別の発現カセットを生成する。
【0099】
別の実施例の場合、米国特許第5470359号明細書の葯特異性SGB6プロモーター領域SEQ ID NO:1を使用する。例えば、pSGB6g1(米国特許第5470359号明細書)に由来する3kbゲノムEcoR1-Nhe1サブクローニング型フラグメントをさらにサブクローニングすることにより、ブルースクリプトks内にクローニングされた1558bpのApaII/Xba1平滑フラグメントをSmaI部位に配置する。前述のものと同様に、更なる制限工程及びクローニング工程を通して、このフラグメントを、P37967, Q01470又はP40363 DNAコード配列の上流にインフレーム融合する。ここでもやはり、nosターミネーターをコード領域の3'に付加し、これにより、別のSGB6-カルボキシルエステラーゼ-nos発現カセットを含む別のブルースクリプトskプラスミド、pBLB6_Q01470、pBLB6_P37967及びpBLB6_P40363を形成する。
【0100】
類似の一連の実施例において、稲由来のRA8葯特異的プロモーター領域(EMBL/gengank受入AF042275; Jean Js他(1999)PMB, 39, 35-44)を同様に、カルボキシルエステラーゼ・コードDNA配列及びnos3'ターミネーターの一方又は他方の上流のインフレーム部位で融合し、これにより、一連のブルースクリプトskベクター、pBLRA8_Q01470, pBLRA8_P37967及びpBLRA8_P40363における別のRA8-カルボキシルエステラーゼ-nos発現カセットを含む。
【0101】
実施例4:雌性生殖構造内に優先的に発現され、D-ホスフィノスリシン及び/又はD-アラニン及び/又はD-ロイシン及び/又はD-メチオニン及び/又はD-アスパラギン及び/又はD-アスパルテート及び/又はD-グルタメートを酸化することができる酵素をコードするキメラ遺伝子
実施例1及び2に記載されているように、D-アミノ酸オキシダーゼ・タンパク質をコードするDNA配列を得る。
【0102】
ゲノム・クローンpSH64は、ブダペスト条約に基づいて1998年2月27日付けでNRRLで寄託され、番号NRRL B-21920を割り当てられた。このクローンは、シルク特異的cDNAクローンB200i4-2(国際公開第98/39462号パンフレット)とハイブリッド形成するゲノム・クローンとして検出された。雌性生殖構造内に優先的に発現されたキメラ遺伝子を下記のように構成する。5'から3'へ、国際公開第98/39462号パンフレットのSEQ ID NO:11のヌクレオチド1-3790と、BamH1部位と、国際公開第98/39462号パンフレットのSEQ ID NO:11のヌクレオチド4427-6397を含むB200i3'未翻訳ターミネーター領域とを含む「空」発現カセットを有するpSH70と類似するブルースクリプトks誘導型プラスミドを、国際公開第98/39462号パンフレットに記載されているように構成する。部分BamH1消化によって、又は更なるサブクローニング工程、PCR工程及び連結工程によって、別のD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列を、これらがB200iプロモーター領域の3'及びB200iターミネーターの5'に接するように、BamH1部位の位置又はBamH1部位に隣接する位置内に連結する。こうして、別のB200i-D-アミノ酸オキシダーゼ-B200i発現カセットをコードする一連のブルースクリプト・ベクターpBLB200_Q99042, pBLB200_P80324, pBLB200_Q9HGY3及びpBLB200_P24552を形成する。
【0103】
或いは、国際公開98/39462号パンフレットに記載されているように、P19遺伝子の5'プロモーター領域のPst I/Nco Iフラグメントを、ゲノム・クローンX2-1から切除する。ゲノム・クローンX2-1は、ブダペスト条約に基づいて1998年2月27日付けでNRRLで寄託され、番号NRRL B-21919を割り当てられたものである。国際公開第98/39462号パンフレットのSEQ ID NO:14のヌクレオチド1088のNcoI部位は、P19遺伝子のATG翻訳開始と対応する。適切なサブクローニング工程、制限工程、連結工程及びPCR工程を用いて、このフラグメントを連結することにより、D-アミノ酸オキシダーゼをコードするDNA配列及びnosターミネーター配列の一方又は他方とのインフレーム融合を形成する。こうして、別のP19-D-アミノ酸オキシダーゼ-nos発現カセットをコードする一連のブルースクリプト・ベクターpBLP19_Q99042, pBLP19_P80324, pBLP19_Q9HGY3及びpBLP19_P24552などを形成する。或いは、同様の標準的な方法を用いて、P19プロモーター領域の代わりにP26遺伝子の5'プロモーター領域(国際公開98/39462号パンフレットのSEQ ID NO:2のヌクレオチド1-3987のいくつか又は全てを含む)を有する同様のプラスミドを得る。ブダペスト条約に基づいて1998年2月27日付けでAgricultural Research Service特許培養コレクション、(NRRL)受入番号NRRL B-21655で寄託されたゲノムP26-A4クローンpCIB10302を、国際公開98/39462号パンフレットに記載されているようにサブクローニングする。こうして、別のP19-D-アミノ酸オキシダーゼ-nos発現カセットをコードする一連のブルースクリプト・ベクターpBLP26_Q99042, pBLP26_P80324, pBLP26_Q9HGY3及びpBLP26_P24552などを形成する。
【0104】
実施例5:雄性生殖構造内に優先的に発現され、D-ホスフィノスリシン及び/又はD-アラニン及び/又はD-ロイシン及び/又はD-メチオニン及び/又はD-アスパラギン及び/又はD-アスパルテート及び/又はD-グルタメートを酸化することができる酵素をコードするキメラ遺伝子
実施例1及び2に記載されているように、D-アミノ酸オキシダーゼ・タンパク質をコードするDNA配列を得る。
【0105】
プラスミドpGK73は、TA29sプロモーター領域EcoR1-BamH1フラグメント-810〜+54(Kriete他(1996), 9, 809-818)を担持する。この制限フラグメント又は類似の好適なPCR生成フラグメントを、Dアミノ酸オキシダーゼをコードするDNA配列の上流の位置で、好ましくはインフレーム融合として、ブルースクリプトsk内にクローニングする。好適な一連の制限工程、連結工程及びサブクローニング工程を用いて、nos転写ターミネーターをコード領域の3'に付加し、こうして、コード配列に従って、ブルースクリプトskプラスミド内にTA29型アミノ酸オキシダーゼ-nosの別の発現カセットを生成する。
【0106】
別の実施例の場合、米国特許第5470359号明細書の葯特異性SGB6プロモーター領域SEQ ID NO:1を使用する。例えば、pSGB6g1(米国特許第5470359号明細書)に由来する3kbゲノムEcoR1-Nhe1サブクローニング型フラグメントを含有するpSGBNE1をさらにサブクローニングすることにより、ブルースクリプトks内にクローニングされた1558bpのApaII/Xba1平滑フラグメントをSmaI部位に配置する。前述のものと同様に、更なる制限工程及びクローニング工程を通して、このフラグメントを、Dアミノ酸オキシダーゼ・コード配列の上流にインフレーム融合する。ここでもやはり、nosターミネーターをコード領域の3'に付加し、こうして、別のSGB6- Dアミノ酸オキシダーゼ-nos発現カセットを含む別のブルースクリプトskプラスミドを形成する。
【0107】
類似の一連の実施例において、稲由来のRA8葯特異的プロモーター領域(EMBL/gengank受入AF042275; Jean Js他(1999)PMB, 39, 35-44)を同様に、D-アミノ酸オキシダーゼ・コードDNA配列及びnos3'ターミネーターの一方又は他方の上流のインフレーム部位で融合し、これにより、一連のブルースクリプトskベクターにおける別のRA8-D-アミノ酸オキシダーゼ-nos発現カセットを含む。
【0108】
実施例6:(a)DL ホスフィノスリシンの適用に応じて条件付き雄不稔性である雌性同系繁殖親系列、及び、(b)DL ホスフィノスリシンの適用に応じて条件付き雌不稔性である相補的雄性同系繁殖親系列を提供する方法において有用な相補的構造対
DLホスフィノスリシンの適用に応じて条件付き雄不稔性である雌性同系繁殖親の穀物又は稲植物を提供するのに適した第1のDNA構造は、3つの遺伝子A),B)及びC)を含む。A)は、大麦プラストシアニン遺伝子(EMBL:Z28347)に由来する約1kbプロモーター領域の操作可能な制御下でL-ホスフィノスリシンをN-アセチル化することができるPAT酵素をコードするDNA配列と、好適なターミネーター領域、例えばnos又は35S遺伝子に由来するターミネーター領域とから成り、B)は、最初の配列と類似しているがしかし、ここでは組織特異的な雌性花プロモーター領域(例えば実施例4に記載されたP19又はP26)の操作可能な制御下にあるPATコード配列と、好適なターミネーターとから成り、そしてC)は、実施例1, 2, 12及び13に記載された好適なDAMOXであって、例えば組織特異的な雄性花プロモーター領域(例えば実施例5に記載されているSGB6又はRA8)の操作可能な制御下で、位置213においてメチオニンを置換するアルギニン、セリン、システイン、リシン、アスパラギン又はアラニンを有し、且つ/又は、位置238においてチロシンを置換するヒスチジン、セリン、システイン、アスパラギン又はアラニンを有するロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼの突然変異形をコードする好適なDAMOXと、好適なターミネーター領域とから成る。この構造を、前述の実施例によって情報提供された、当業者には標準的な方法を用いて集成する。
【0109】
DL ホスフィノスリシンの適用に応じて条件付き雌不稔性である雄性同系繁殖親の穀物又は稲植物を提供するのに適した第2のDNA構造は、3つの遺伝子A), D)及びF)を含む。A)は、大麦プラストシアニン遺伝子に由来するプロモーター領域の操作可能な制御下でL-ホスフィノスリシンをN-アセチル化することができるPAT酵素をコードするDNA配列と、好適なターミネーター、例えばnos又は35S遺伝子に由来するターミネーターとから成り、D)は、最初の配列と類似しているがしかしこの場合、ここでは同じ組織に対して特異的な雄性花プロモーター領域(例えば実施例5に記載されたSGB6又はRA8)の操作可能な制御下にあるPATコード配列と、好適なターミネーターとから成り、F)は、実施例1, 2, 12及び13に記載されているような好適なDAMOX、例えば構造1において使用されるような、同じ組織に対して特異的な雌性花プロモーター領域(例えば実施例4に記載されているP19又はP26)の操作可能な制御下で、位置213においてメチオニンを置換するアルギニン、セリン、システイン、リシン、アスパラギン又はアラニンを有し、且つ/又は、位置238においてチロシンを置換するヒスチジン、セリン、システイン、アスパラギン又はアラニンを有するロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼの突然変異形をコードする好適なDAMOXと、好適なターミネーター領域とから成る。この構造を、前述の実施例によって情報提供された、当業者には標準的な方法を用いて集成する。
【0110】
この実施例のDNA構造対は例えば下記要素を含有する:
構造1
A=大麦プラストシアニン・プロモーター領域→PATコード配列、Nosターミネーター;
B=P19プロモーター領域→PATコード配列、35Sターミネーター;
C=RA8プロモーター領域→ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼ(M213R突然変異体)コード配列、Nosターミネーター;
構造2
A=大麦プラストシアニン・プロモーター領域→PATコード配列、Nosターミネーター;
D=RA8プロモーター領域→PATコード配列、35Sターミネーター;
F=P19プロモーター領域→ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼ(M213R突然変異体)コード配列、Nosターミネーター
【0111】
実施例7:小麦の形質転換のためのポリヌクレオチド・ベクター
実施例3,4,5及び6には、通常ブルースクリプトsk中にクローニングされる発現カセットにおける種々のキメラ遺伝子の構成が記載されている(例えばpBLRA8_Q01470, pBLRA8_P37967, pBLRA8_P40363, pBLB200_Q99042, pBLB200_P80324, pBLB200_Q9HGY3及びpBLB200_P24552など)。任意には、これらのベクターを、同時ボンバードされた選択マーカー、例えば国際公開第98/39462号パンフレットに記載されているようなpSOG35(DHFR/メトトレキサート)又はpUbi-Hyg(ヒグロマイシン・ホスホトランスフェラーゼ/ヒグロマイシン)と共に使用するために、直接DNE形質転換用に大量に調製する。好ましくは、大量に調製した後、好適な制限酵素を使用してベクターを線状化し、これによりブルースクリプトのアンピシリン耐性遺伝子を除去する。
【0112】
任意には、同時ボンバードを利用するのではなく、前記ブルースクリプト・ベクターを標準的な方法によって遺伝子工学的に作り出し、これにより、ブルースクリプト・ベクターがさらに、植物選択マーカー遺伝子、例えばカナマイシン耐性、ヒグロマイシン耐性、メトトレキサート耐性又はグリホサート耐性を含み、直接的に使用されるようにする。前記例のいくつかにおいて、PAT遺伝子はベクターの構成と一体的であり、そしてこれらの場合、形質転換後の何らかの段階で、DLホスフィノスリシンを任意には選択のために使用することができる。
【0113】
或いは、発現カセットを好適な制限フラグメント内で切り取り、pIGPD9に由来するベクター(国際公開第00/66748号パンフレットの図12に記載)内にクローニングする。このベクターを形質転換のために使用することにより、抗生物質マーカー遺伝子が植物に転移するのを回避する。それというのも、細菌中のベクターの維持は、栄養要求性his B 大腸菌突然変異体の相補性に依存するからである。このベクターは、IGPD(hisB生成物)を発現させる遺伝子を含み、そしてさらに、植物選択マーカー遺伝子、例えば国際公開第00/66748号パンフレットのpZEN16i及びpZEN18iにおけるようなXmaI部位中にクローニングされたEPSPS遺伝子を含むように、遺伝子工学的に作り出される。或いは、マンノース又はキシロース上で正の選択を可能にするマーカーを使用する(米国特許第5767378号明細書)。
【0114】
pIGPD9ベクターを使用する具体例において、小麦の形質転換のためのプラスミドを構成する。説明に役立つ例は、pZEN18_BLB200_Q99042及びpZEN18_BLRA8_Q01470である。これらは、pZEN18 EPSPS遺伝子(国際公開第00/66748号パンフレット)と、この場合、それぞれB200i-(Q99042)D-アミノ酸オキダーゼ-B200i発現カセット又はRA8-(Q01470)カルボキシルエステラーゼ-nos発現カセットとを含むpIGPD9由来ベクターである。
【0115】
植物形質転換に用いるための大規模なDNA調製を、製造元によって提供されたプロトコルを用いて、Maxi-prep手順(Qiagen)によって達成する。
【0116】
実施例8:雄性又は雄性の生殖構造内に優先的に発現され、D-ホスフィノスリシン及び/又はD-アラニン及び/又はD-ロイシン及び/又はD-メチオニン及び/又はD-アスパラギン及び/又はD-アスパルテート及び/又はD-グルタメートを酸化することができる酵素をコードするキメラ遺伝子を含むポリヌクレオチドによる、小麦の形質転換/再生
一例において、遺伝子型UC703の未成熟胚(0.75〜1.0mm長さ)を、3mg/lの2,4-D及び3%スクロースを含有するMS培地上で平板培養する。約4時間後、15%マルトース、3%スクロース及び3mg/lの2,4-Dを含有するMS培地上に、同じ成分を含有するアガロースの、ろ紙で支持されたスラブを被せた状態で、胚を平板培養する。これらの胚を、ボンバード前の2〜3時間にわたって原形質分離させておく。
【0117】
実施例7及び前記実施例に記載されたように調製されたDNAを、標準的な手順を用いて、マイクロメートル・サイズの金粒子上に析出する。バースト圧力1100psiを用いて、DuPont Biolistics ヘリウム装置で、1標的当たり16個の胚を有する4つの標的プレートを2回撃つ。キャリヤ段と標的との間に80メッシュ・スクリーンを配置した状態でプレートを撃つ。ボンバード後、標的を24時間にわたって25℃で暗所に置いたあと、胚を有するスラブを、3%スクロース及び3mg/lの2,4-Dを含有するMS培地のプレート上に載せる。さらに48時間後、個々の胚をスラブから取り出し、そして同じ組成物の新鮮培地上に直接的に置く。遺伝子送達の約6週間後、組織を3mg/lの2,4-D、3%スクロース及び0.2ng/lのメトトレキサートを含有するMS培地上に置く。次いで、1mg/lのゼアチンリボシドと1mg/lのメトトレキサートとを含有するMS培地から成る再生培地上に、組織を置く。2週間後、再生しつつある小植物を、2%スクロース、1mg/lのナフチル酢酸及び4mg/lのメトトレキサートを含有する半強度の滅菌容器内に入れる。
【0118】
この実施例の特定の変更形において、雄性生殖構造内で優先的に発現されるキメラ遺伝子を含むベクターを、別の選択マーカー遺伝子と共に同時ボンバードする。こうして例えば、RA8プロモーター領域の操作可能な制御下で実施例3と同様に形成されたプラスミドのDNA(しかしここでは、カルボキシルエステラーゼ配列ではなく、D-アミノ酸オキシダーゼを発現させる)、例えばpBLRA8_P24552を調製し、pUbiHyg(トウモロコシ・ポリユビキチン・プロモーターの操作可能な制御下でヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするプラスミド)と共に金粒子上にコーティングする。この場合、形質転換及び再生を上述のように行うが、但しここでは、ボンバード後、再生培地は2〜10mg/lの増大した濃度のヒグロマイシンを含有する。
【0119】
別の例において、小麦をpZEN18_BLB200_Q99042で形質転換し、グリホサートを用いて選択し、そして国際公開第00/66748号パンフレットの実施例15に記載されているように再生する。
【0120】
形質転換から誘導された植物の葉組織から、DNAを抽出し、選択マーカー遺伝子及びDアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子の存在に関してPCRを実施する。PCR陽性植物を繁殖させる。開花中、雌しべ及び葯を捕集し、そしてRNAを調製する。DNA発現をノーザン分析によって確認する。加えて、大腸菌中のpETベクターを使用して、D-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子を発現させ、そして部分精製する。発現されたタンパク質のタンパク質バンドをSDSゲルから切り出し、そして、これらのバンドを使用してポリクローナル抗体を生成する。これらの抗体を使用して、花組織及びその他の組織における発現をウェスタン分析によって検出する。
【0121】
実施例9:雑種穀物を効率的に生成する方法(この方法において、DLホスフィノスリシンが雑草防除のために、そして同時に化学的な雑種形成剤として適用され、そしてこうして生成された雑種種子がDLホスフィノスリシンの適用に対して、栄養上及び生殖上実質的に耐性である)
化学的な雑種形成剤は高価である。比較的低廉な物質、例えば商業的な除草剤を、化学的な雑種形成剤として使用することが望ましい。このことはまた、さらなる効率を達成する。それというのは、雑草防除を化学的雑種形成と組み合わせることができる。しかし、この提案が実現されるためには、克服すべき多くの問題がある。まず、雄性及び雌性の親系列はさらに、どれが当該除草剤に耐性であるかが確立される必要がある。除草剤の適用に応じた所期「条件付き」稔性を達成するためには、除草剤に対する耐性が全ての組織に及ぶことがないが、しかし組織特異的に発現され、これにより、必要となる花組織のうちのそれぞれ1つが選択的に感受性のままであるように、2つの系列を遺伝子工学的に作り出すことが必要である。このように、一方の系列(雌性親系列)において、植物及び雌性組織の大部分を耐性にしなければならず、これに対して、雄性花組織の何らかの重要部分は適用に対して感受性を有したままでなければならない。他方(雄性親系列)において、その逆が必要となり、この場合、組織を形成する雌性配偶子の何らかの重要部分だけが感受性を有したままでなることが必要である。このことを達成できるとしても、雑種種子及びF1世代に関して、克服すべき更なる問題が残っている。作物のこの世代が除草剤に耐性を付与することができる2つ以上の遺伝子を必然的に含有するならば、この同じ除草剤を作物中の雑草防除のためにも使用できることが望ましい。しかし、除草剤と、組織特異的プロモーター領域と、F1世代において同じ除草剤のこのような使用を可能にする耐性遺伝子との組み合わせを考え出すのは極めて難しい。雑種作物は栄養耐性を示すが、F1世代への除草剤適用後には穀粒収量が殆ど又は全く生じない。例えば、除草剤グリホセートの場合、耐性の通常のメカニズムは、EPSPシンターゼの耐性形の発現である。雄しべ又は柱頭の発育の臨界期以外の全ての組織及び全ての時点で、R-EMSPSの十分な発現を可能にするプロモーター領域又は複数のプロモーター領域の組み合わせを同定することは難しい。このことに関する最も簡単な方法は、アンチセンス又は類似のアプローチを用いることである。この場合、R-EPSPSの発現は、組織非特異的/構成プロモーターによって推進され、そして、例えばアンチセンスEPSPS遺伝子の発現によって、局所的且つ一時的にのみ雄しべ内で抑制される(例えば国際公開99/46396号パンフレット参照)。しかしこの場合、雄しべ(又は柱頭)における発現の抑制は、優性遺伝子によって推進される。このようないかなるメカニズムの場合にも、F1世代に除草剤を適用すると、雄性及び雌性の条件付き不稔性優性遺伝子の付加的な効果に起因して、不稔性無収穫作物が生じる。
【0122】
本発明は、低廉な商業的除草剤DLホスフィノスリシンを、雑種穀物を生成する上で雑草防除剤及び雑草形成剤の双方として使用することを可能にする問題克服法を提供する。この方法が結果として提供する雑種穀物又は雑種稲において、DLホスフィノスリシン(又はLホスフィノスリシン)を実質的な収穫損失なしに、雑草防除のために安全に使用することができる。さらに別の利点として、後続の作物中で自生植物として後から生じることができる、F1世代に由来する自家受粉種子を管理しやすくなる。それというのも、これらの自生植物自体は、DLホスフィノスリシン量を制御して噴霧すると、一般に不稔性になるからである。同じことが、F1植物が雑草(例えば赤米(red rice))又は他の穀物と異系交配した場合の花粉の子孫にもあてはまる。本発明は、DLホスフィノスリシン配合物の非植物毒性成分D-ホスフィノスリシンを活性L形に変換する遺伝子および酵素を提供する。L-ホスフィノスリシンをN-アセチルL-ホスフィノスリシンに変換するPAT遺伝子が既知であり、これは、作物中のDLホスフィノスリシンに対する耐性を提供するために商業的に使用される。この実施例に関連する別の重要な観察によれば、驚くべきことに、大麦プラストシアニン・プロモーター領域の操作可能な発現制御下でPAT遺伝子を含有する小麦が、2kg/ha以上の率上昇でDLホスフィノスリシンの適用に対して実質的に生殖耐性を有することが見出された。こうして、本発明の植物を提供するために用いられる実施例6に記載された構造の重要な構成要件は、耐性形質を提供するPAT遺伝子が、実質的に葉緑素含有組織にしか発現を可能にしないプロモーター領域の操作可能な制御下で発現されることである。このような有用なプロモーター領域の特徴は、プロモーター領域が葉に適用されたDLホスフィノスリシンから葉緑素非含有花組織すべてを十分に保護すると同時に、花組織自体において最小限レベルしかPATを発現させず、条件付き不稔性の標的にされた部分には特に低レベルしかPATを発現させないように、PATを発現させることである。大麦プラストシアニン・プロモーター領域の操作可能な制御下でPATが発現されることにより、この条件は満たされると考えられる。それというのも、噴霧され、葉を介して進入するL-ホスフィノスリシンの実質的に全てが妨害され、発育中の花組織に転移される前に非植物毒性N-アセチル-N-ホスフィノスリシンに変換されるからである。従って、本発明の場合、親系列に組織選択的不稔性効果を及ぼすLホスフィノスリシンは、篩移動性の非植物毒性D-ホスフィノスリシンからDアミノ酸オキシダーゼを介して、一時的且つ局所的にのみ発生させられる。PATの発現を推進する花制御要素を、構造の相補対(実施例6)におけるD-アミノ酸オキシダーゼの発現を推進する花制御要素に正確に適合させることにより、F1雑種において、標的花組織におけるL-ホスフィノスリシンの一時バーストが、同時に且つ同じ局所組織でPAT発現を対応バーストさせることにより中和されることが保証される。このように、除草剤の適用が、雑種に不稔性効果を誘発することはない。しかし更なる世代において、雑種の花対応PAT及びD-アミノ酸オキシダーゼは分離され、ひいては、その結果生じた植物は、制御量のDLホスフィノスリシンの適用時に、またしても雄又は雌不稔性になる。
【0123】
実施例7及び8に記載された方法を用いて、実施例6に記載された構造を、小麦中に形質転換するか、又は選択されて小植物中に再生された(標準的な超バイナリ・ベクター法を用いて)稲中に形質転換する。T0形質転換物事象を(未処理系列を維持するための若木のクローン繁殖を用いて)選択し、そして、DLホスフィノスリシン適用に応じて条件付き雌不稔性である雄性同系繁殖親系列として、又は、DLホスフィノスリシン適用に応じて条件付きで雄不稔性である雌性同系繁殖親系列として、育種に適した事象を、事実上実施例1及び2に記載した方法を用いて選択する。最良の系列は、最良の除草剤耐性、最小収穫損失、最も明白な条件付き不稔性表現型などを示す。別の雄性親系列及び雌性親系列を選択し、そして任意には戻し交配して、多数の世代に好適な選良系列を形成する。これらの最終的に選択された事象における遺伝子挿入体を、条件付き稔性及び除草剤耐性形質の継承遺伝特性、及び発現された遺伝子生成物の特性と同様に、十分に特徴付けする。
【0124】
こうして選択された雌性及び雄性の親系列を次いで、フィールド内で好適な比率で一緒に間作し、そしてこれに、DLホスフィノスリシンを好適な率0.05〜5kg/haで、また雑種種子の生成を最適化するために選択された早咲き期間までのタイミングで噴霧する。こうして生成された種子の利点は、種子の活力から利益を得るだけでなく、DLホスフィノスリシンを含有する除草剤配合物に対して耐性である植物を発生させ、ひいてはこのDLホスフィノスリシンを雑草防除のために使用できることである。雑種種子の利点はまた、これらが発現させる除草剤耐性が、将来の自家受粉世代又は異系交配によって形成される近親関係の雑草には不完全にしか伝わらないことである。このように、例えば本発明から得られる雑種稲は、有意な収穫損失なしに、雑草防除剤としてDLホスフィノスリシンを使用して成長させることができる。しかし、赤米雌性親と異系交配した雑種稲に由来する花粉の子孫として生じた赤米植物の将来世代は、DLホスフィノスリシンによる処理に対して栄養耐性となるがしかし、(花組織内のD-アミノ酸オキシダーゼの発現により)自家稔性を低減しており、わずかな穀粒しか生成しない。従って、本発明の雑種稲によって、DLホスフィノスリシンは、異系交配により生じた密接な近親関係にある赤米中に除草剤耐性形質が形成される結果としての、赤米による将来の穀粒汚染リスクが大幅に低減した状態で、雑草防除のために使用することができる。同様に、雑種作物から生じる稲又は小麦の第2世代自生植物の大部分は、DLホスフィノスリシンによる噴霧後に穀粒を生成することはない。
【0125】
実施例10:雄性生殖構造内に優先的に発現され、イムアザメタベンズメチル又はフラムプロプメチル又はフラムプロプイソプロピルを加水分解して、これらのそれぞれの酸にすることができる酵素をコードするキメラ遺伝子を含むポリヌクレオチドによる、トウモロコシの形質転換/生成
RA8-カルボキシエステラーゼ-nos発現カセットを、上述の一連のブルースクリプトskベクター、pBLRA8_Q01470, pBLRA8_P37967及びpBLRA8_P40363中にクローニングする。任意には、これらを、選択マーカーを含むDNA、例えばpUbiHyg又はpSOG35と同時ボンバードし、選択し、そして、例えば国際公開第98/39462号パンフレットの実施例11に上述したようなヒグロマイシン又はメトトレキサートを使用して再生する。
【0126】
或いは、pZEN18_BLRA8_Q01470を直接的にボンバードするか、又は炭化ケイ素ホイスカー上でトウモロコシ細胞中に移し、そしてトウモロコシ植物を選択し、そして、例えば国際公開第00/66748号パンフレットの実施例12及び13に記載されているようにグリホサート上で再生する。
【0127】
或いは、超バイナリ・ベクターを含有するアグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を使用して、トウモロコシ形質転換を実施する。例えば、pZEN18発現カセット及びBLRA8_Q01470キメラ遺伝子をpZEN18_BLRA8_Q1470から切り取り、そして国際公開第00/66748号パンフレットに記載されたものと類似の一連の工程において、一連のサブクローニング及び相同組換えによって、pSB1由来の超バイナリ・ベクターの左右T-DNA境界間の位置内にクローニングする。未成熟胚に由来する植物材料に、グリホサート・マーカー遺伝子と本発明のキメラ遺伝子とを含む超バイナリ・ベクターを含有するAgrobacteriumを感染させる。植物を選択し、そして、国際公開第00/66748号パンフレットに記載されているように、グリホサートを使用して再生する。
【0128】
形質転換から誘導された植物の葉組織から、DNAを抽出し、選択マーカー遺伝子及びカルボキシルエステラーゼをコードする遺伝子の存在に関してPCRを実施する。PCR陽性植物を繁殖させる。開花中、雌しべ及び葯を捕集し、そしてRNAを調製する。DNA発現をノーザン分析によって確認する。加えて、大腸菌中のpETベクターを使用して、カルボキシルエステラーゼ遺伝子を発現させ、そして部分精製する。発現されたタンパク質のタンパク質バンドをSDSゲルから切り出し、そして、これらのバンドを使用してポリクローナル抗体を生成する。これらの抗体を使用して、花組織及びその他の組織における発現をウェスタン分析によって検出する。
【0129】
実施例11:S-フルアジフォプ酸による成長阻害に対して高められた感受性を示す表現型への、トウモロコシ細胞の形質転換
2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ・タンパク質配列をコードするDNA配列AAR49827(GENESEQN Derwent データベース受入AA4447のDNA配列内に含まれるGENESEQP Derwent データベース)、又は、P70473(EMBL受入RN2ARYLCOのDNA配列内に含まれるSwissprot)を、RT-PCR又は合成的に獲得し、これにより植物組織内の発現を最適化する。フランキングPCRプライマー及び合成DNA配列を、クローニングのための固有制限部位を配置するように構成する。好ましくは、またエピメラーゼ・コード配列が、交絡する内部部位を含有しない場合には、Nco 1又はNde 1部位を5'末端に配置し、これにより、5'でORFに加えられた配列とのインフレーム融合のクローニングを容易にする。或いは、ATG翻訳開始部位介在配列の上流に制限部位を配置して、これにより、Kozakに基づくような植物翻訳コンセンサス配列に一致させることができる。
【0130】
それぞれEMBL受入J05439又はX77783のDNA配列内に含まれる、「長鎖」アシルCoAシンテターゼ・タンパク質配列P18163又はP39518(Swissprot)をコードするDNA配列を、RT-PCR又は合成的に得る。フランキングPCRプライマー及び合成DNA配列を、クローニングのための有用な固有制限部位を配置するように構成する。好ましくは、またエピメラーゼ・コード配列が、交絡する内部部位を含有しない場合には、Nco 1又はNde 1部位を5'末端に配置し、これにより、5'でORFに加えられた配列とのインフレーム融合のクローニングを容易にする。或いは、ATG翻訳開始部位介在配列の上流に制限部位を配置して、これにより、Kozakに基づくような植物翻訳コンセンサス配列に一致させることができる。
【0131】
実施例1及び2と同様に、上記コード配列を最初にuPC19内又はブルースクリプトsk内にクローニングする。次いで、好ましくはコード配列の5'末端でNco 1部位を用いて、好適な制限酵素でコード配列を切り取ってpMJB1内に挿入し、これにより、別のインフレーム融合発現カセットを形成する。これらのカセットは、5'から3'に向かって、CaMV35Sプロモーター、TMV翻訳エンハンサー、アシルCoAシンテターゼ又はエピメラーゼ・コード配列-nosターミネーターを含む。pMJB1は、植物操作性二重増強型CaMV35Sプロモーター;TMVオメガ・エンハンサー及びnosターミネーター配列を含有するpUC19誘導型プラスミドである。pMJB1の概略は、国際公開第98/20144号パンフレットの図2に示されている。
【0132】
こうしてpMJB1誘導体、すなわち、別のエピメラーゼ発現カセットを含むpMJ35S_AAR49827など、及び別のアシルCoAシンテターゼ発現カセットを含むpMJ35S_P18163などが形成される。標準的な技術を用いて、これらは任意にはさらにベクター内、例えば植物選択マーカー遺伝子を含むpUbiHyg内にクローニングされる。
【0133】
或いは、2つの構造、つまり一方は、「長鎖」アシルCoAシンテターゼの発現のための構造、そして他方は、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼの発現のための構造を、図3A及び図3Bの概略的な構成に基づいて形成する。図3Aにおいて、DNA構造は、5'から3'に向かって、トウモロコシ・ポリユビキチン・プロモーター領域(EMBL:ZM29159)、アシルCoAシンテターゼをコードするDNA配列(ELBL:J05439)、nosターミネーター領域、CMV35Sプロモーター領域、トウモロコシADHイントロンを含む5'未翻訳リーダー配列をコードする領域、ホスフィノスリシン・アセチル・トランスフェラーゼをコードするDNA配列、及びnosターミネーターを含む。通常通り、DNA構造全体を、大腸菌複製起源とアンピリシン耐性遺伝子とを含むベクター(例えばpUC誘導体)内の好適な部位内にクローニングする。構造3Bも同じであるが、但しこの場合には、アシルCoAシンテターゼをコードするDNA配列が、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼをコードするDNA配列(EMBL:Y08172)と置換されている。
【0134】
これらのベクターを、ホイスカーを使用して、トウモロコシ植物細胞培養中に形質転換する。例えば、事実上Frame 他(1994), Plant J., 6, 941-948によって記載されたような方法を用いて、DNAがコーティングされている炭化ケイ素ホイスカーと細胞とを接触させることにより、BMS細胞の細胞懸濁液を形質転換する。このように生成された形質転換カルスを、広範囲の濃度の選択剤を含有する培地内での示差成長に基づいて選択する。この選択剤は、形質転換に使用されるDNAに応じて、例えば、グリホセート、ヒグロマイシン、L-ホスフィノスリシン又はカナマイシンであってよい。図3A及び3Bに示された構造の場合、選択は、DLホスフィノスリシン又はその誘導体上で実施される。繁殖させられ、選択剤中で成長を続けるカルスとして、安定的に形質転換された系列を選択する。
【0135】
例えば、炭化ケイ素ホイスカーを使用した形質転換に続いて、1mg/L Bialaphosが補充されたMS培地上で、BMSを成長させる。2週間後に、5mg/L Bialaphosが補充されたMS系培地に、これらの細胞を移し、ここで、細胞は6〜8週間にわたって留まる。耐性カルスを形成し、2mg/L Bialaphosが補充されたMS培地に移す。安定的に形質転換されたカルスを、液状MS系培地内に移し、ここでこれらのカルスを2週間にわたって成長させておく。この期間終了後に、細胞をぺレット化し、1:10の希釈率の培地内に再懸濁させる。次いでこれらを6ウェル・アッセイ・プレート内に均一に分配し、2.5ppm及び10ppmのR又はS フルアジフォプに暴露する。R又はS フルアジフォプの存在における4日間経過後、0.1mlの沈澱容積の細胞をウェルから取り出し、新鮮な液状MS培地で洗浄し、そして固形MS系培地上に平板培養する。細胞が活性成長し分裂する能力に対して、7日後に得点をつけた。
【0136】
形質転換系列を、S-フルアジフォプ、S-フルアジフォプブチル又は類似のS-アリールオキシフェノキシプロピオネート及び誘導体に対する感受性に関して、形質転換されていない系列と比較する。BMS細胞内で発現されると、比較的高濃度のS-フルアジフォプ、S-フルアジフォプブチルによる成長阻害に対してのみ感受性を有するものから、極めて低濃度(2分の1〜3分の1以下)に対して感受性を有するものへ、形質転換トウモロコシ細胞の表現型を転換する酵素又は酵素複合体をコードする配列として、本発明の方法における使用に好ましい酵素をコードするDNAコード配列を選択する。
【0137】
他の実施例において記載されているように、こうして選択されたDNAコード配列を使用して、S-フルアジフォプ又はS-フルアジフォプエステルの外生的適用に応じて雄又は雌不稔性である小麦植物系列を形成する。
【0138】
実施例12:D-ホスフィノスリシンを酸化するD-アミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子を生成するための特定部位突然変異形成
この実施例は、D-ホスフィノスリシンを酸化する改善された能力を有するR.グラシリス D-アミノ酸オキシダーゼ変異形をコードする遺伝子の生成に関する。本発明の好ましい実施態様において、他の実施例において説明したようにこれらの遺伝子を使用し、D-ホスフィノスリシン適用時に不稔性を条件付きにする。この実施例において、これらの遺伝子は、位置「213」及び/又は位置「238」に単独のアミノ酸変化を有する酵素をコードする。「213」位置におけるメチオニンを、天然型タンパク質配列モチーフRCTMDSSにおけるMと称する。「238」位置におけるチロシンを、天然型タンパク質配列モチーフGGTYGVG内の「Y」と称する。これらの位置の一方又は両方におけるアミノ酸変化を有する一連のD-アミノ酸オキシダーゼ変異形をコードする一連の遺伝子を提供するためのアプローチは、当業者に数多く知られている。突然変異発生のためのDNA鋳型はまた、用途に応じて選択される。このように例えば、植物内の発現のために突然変異遺伝子を意図する場合には、R.グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼ、例えばSEQ ID NO:7をコードする合成DNAが、好適な開始点となる。他方において、更なる突然変異生成ラウンド及び酵母に基づく選択系の改善のための開始点として、突然変異をすぐに用いたい場合には、(任意にはS. セレビジアエにおける発現のために改善された)天然型DNA配列がより好適である。
【0139】
R.グラシリス D-アミノ酸オキシダーゼの好適な変異形を提供するための好ましい方法は、Strategenes Quickchange 突然変異生成キットを用いて変性オリゴヌクレオチドを使用することである。製造者の指示書に従って方法を実施する。
【0140】
例えば(D-アミノ酸オキシダーゼをコードするR.グラシリス DNA配列が突然変異生成のための鋳型DNAである場合)、「トップ」(RGMUTTOP)及び「ボトム」(RGMUTBOT)変性オリゴヌクレオチド対が、50-250ヌクレオチド長を有し、内部に下記配列領域を含むように構成されていることが好ましい。
RGMUTTOPは内部に配列(SEQ ID NO:8)
【0141】
【化2】

【0142】
を含む。
RGMUTBOTは内部に配列(SEQ ID NO:9)
【0143】
【化3】

【0144】
を含む。
【0145】
加えて、これら2つのオリゴヌクレオチドRGMUTTOP及びRGMUTBOTはそれぞれの末端に、2つのオリゴヌクレオチドが互いにアニールされると、好適な固有制限部位対における鋳型DNAの切り出し時に形成された末端と正確に適合する5'及び3'末端を構成する配列を含む(すなわち、アニールされたオリゴヌクレオチドが、D-アミノ酸オキシダーゼをコードする鋳型DNAから切り出された固有制限フラグメントを置換することができるように構成される)。
【0146】
0.5〜1.0μgの各オリゴヌクレオチドを、0.5mlのEppendorf遠心分離管に移し、好適な温度(計算された融点に応じて、例えば94℃)で5分間にわたって加熱し、そして室温まで冷却することによりゆっくりとアニールする。次いで鋳型DNA(例えばpYEA6/CT酵母シャトル・ベクター)を2つの制限酵素で切り出し(置換されるべき2つのコドンを含む領域に跨がり、そしてアニールされたDNAの末端を特徴付けする、鋳型DNA内の2つの固有制限部位に従う)、ゲル精製し、アニールされたオリゴヌクレオチドと連結し、そして例えば実施例13に記載されているように、酵母内に形質転換し、これにより、突然変異生成によって形成されたD-アミノ酸オキシダーゼを酵母内に発現させる。次いで、上述のように、単独窒素源としてのDホスフィノスリシンの類似体(例えばD-ホモシステイン酸)又はD-ホスフィノスリシン(PAT遺伝子が同時発現される場合)上で最良の成長をもたらす酵母クローンを、所期特性を有する変異形D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列を含有するクローンとして選択する。或いは、酵母以外の何らかの微生物内で、そして大腸菌溶原中のpETベクターのt7プロモーター発現制御下で、D-アミノ酸オキシダーゼを発現させる。この場合には、形質転換に続いて、個々のコロニーを採取し、複製平板培養し、成長させ、誘導し、溶解し、そして、当業者に知られた方法(例えば過酸化物発生に対する蛍光分析スクリーン、又はアンモニア発生に対する比色分析アッセイ)を用いて、Dホスフィノスリシンに対する所期基質活性に関してスクリーニングする。こうして選択された酵母又はその他の微生物クローンを成長させ、DNAを調製し、そして、PCRのプルーフリーディング及びInvitrogens Zero Blunt TOPOキットを使用したpCRBlunt II内へのクローニングを介して、完全長D-アミノ酸オキシダーゼDNA配列をクローニングする。選択されたクローンを特徴付けするD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列を決定する。これらのD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列を、pETベクター(例えばNovagen pET 24a)内での発現のためにさらにサブクローニングし、そして大腸菌 BL21 DE3中に形質転換する。細胞を、発酵槽内の100μg/mlカナマイシンを含有するLCM50培地上で成長させ、IPTGで誘導し、破壊し、抽出物を部分精製し、そしてD-アミノ酸オキシダーゼ活性に関してアッセイする(下記の通り)。許容可能な安定性と、pH7.0のD-ホスフィノスリシンに対して純粋タンパク質1mg当たり最高の活性(kcat/Km)とをもたらすD-アミノ酸オキシダーゼ酵素をコードするD-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子を選択する。
【0147】
加えて、具体的に標的を絞ったD-アミノ酸オキシダーゼ酵素をコードする一連の具体的なDNA配列が生成される。具体的には、位置213においてメチオニンを置換するアルギニン、セリン、システイン、リシン、アスパラギン又はアラニンを有し、且つ/又は、位置238においてチロシンを置換するヒスチジン、セリン、システイン、アスパラギン又はアラニンを有するロドトルラ・グラシリス Dアミノ酸オキシダーゼをコードする遺伝子が生成される。上述のものと同じ方法を用いるが、但しここでは、オリゴヌクレオチドの混合物ではなく、個々のオリゴヌクレオチド対を、それぞれ単一又は二重のアミノ酸変化を生じさせるように構成し、これらを使用する。結果として生じた突然変異形D-アミノ酸オキシダーゼ配列を、Novagen pET24AにおけるT7プロモーターの背後での(標識付けされていない)発現のためにクローニングし、そして大腸菌 BL21 DE3中に形質転換する。細胞を、1.0L発酵槽内で100μg/mlカナマイシンを補充されたLCM50培地中で成長させ、1mM IPTGで発現のために誘導し、そして低速遠心分離によって採取する。
【0148】
LCM50培地は1リットル中に下記のものを含む:
KH2PO4(3g), Na2HPO4(6g), NaCl(0.5g), カゼイン加水分解物(Oxoid)(2g), (NH4)2SO4(10g), 酵母抽出物(Difco)(10g), グリセロール(35g)(これらの成分を溶液中に形成し、そしてオートクレーブ処理する)。下記付加的な成分: MgSO4(246.5mg/ml溶液2.5ml)、チアミン.HCl(8mg/ml溶液1ml)、CaCl2.2H2O(147g/l溶液0.2ml)、*FeSO4.7H2O/クエン酸ストック(2ml)、**微量元素溶液(5ml)を溶液としてろ過滅菌し、これらを培地に添加し、そして1リットルまで形成する。
*100ml当たりのFeSO4.7H2O/クエン酸ストックは、FeSO4.7H2O(0.415mg)、クエン酸(0.202mg)から成る。
**1 ml当たりの微量元素溶液組成物は、AlCl3.6H2O(20mg)、CoCl2.6H2O(8mg), KCo(SO4)212H2O(2mg), CuCl2.H2O(2mg), H3BO3(1mg), KI(20mg), MnSO4.H2O(0.8mg), Na2MoO4.2H2O(4mg), ZnSO4.7H2O(4mg)である。
【0149】
湿潤重量約7gの細胞を水中で洗浄する。細胞を2mM EDTA, 2mM DTT及び0.01mM FADを含有するpH7の等容積の50mM/Mops/KOH緩衝液中に再懸濁させる。ガラス・ホモジネイザーを使用して、細胞を均一に懸濁させ、次いでConstant Systems(BudBrooke Rd, Warwick U.K.)Basc Z細胞破壊器のワンショット・ヘッドを使用して、13500psiで破壊する。粗抽出物を1時間にわたって30,000gavで低温(約4℃)遠心分離させておき、ぺレットを廃棄する。抽出物タンパク質のいくらかを、クーマシー・ブルーで染色されたSDS PAGEゲル上で走行させ、そして、「空」pETベクターだけを含有する細胞の同様に調製された抽出物と並行して比較することにより、抽出物中の総可溶性タンパク質の2〜50%がDアミノ酸オキシダーゼであることを評価する。抽出物タンパク質のいくらかを、0.01mM FADを含有するpH7.0の50mM/Mops/KOH緩衝液中に交換する。これを標準酸素電極セル(ゼロ濃度の酸素と飽和濃度の酸素との間で25℃で校正する)内で同じ緩衝液で希釈する。任意には、Dアミノ酸オキシダーゼを、イオン交換、フェニルセファロース、分別硫酸アンモニウム沈澱及びゲルろ過を用いてさらに精製する。希釈された酵素に、DLホスフィノスリシンのアンモニウム塩の200mM溶液を添加することにより、アッセイを25℃で開始する。酸素電極セルにおける最終反応容積は2mlである。酸素消費速度(ベースラインにおけるドリフトを差し引いた後)を測定する。R. gracilis Dアミノ酸のM213R(メチオニンに対するアルギニン置換)突然変異形は、DLホスフィノスリシンを約14nmol/分/mgの粗抽出物タンパク質の速度で酸化する(各抽出物中のD-アミノ酸オキシダーゼの評価された純度は、総タンパク質の35+/-15%である)。対照試験において、純粋L形は全く酸化されず、そして、純粋D形はDLが酸化される速度の最大2倍で酸化される。類似条件下では、天然型(突然変異されていない)R.グラシリス D-アミノ酸オキシダーゼは、DL又はDホスフィノスリシンを酸化する有意な能力(<0.4nmol/分/mg)を示さない。
【0150】
実施例13:D-ホスフィノスリシンの酸化に対して改善された特異性(Kcat/Km)を有する酵素をコードするD-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子を生成するための突然変異及び選択
天然型ロドトルラ・グラシリス D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列を、GAL1プロモーターの下流のHindIII/PmeIフラグメントとして、InvitrogenのpYES6/CTシャトル・ベクター内にクローニングする。同様に、天然型ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列を、ADHI構成プロモーターの下流のXbaIフラグメントとして、pAUR123タンパク質発現シャトル・ベクター(Panvera)内にクローニングする。これらのベクターの構成を大腸菌内で行い、これに続いて、S288C サッカロミセス・セレビジアエ中に形質転換する。適切な場合には、PAT遺伝子を使用して、それぞれpYES6/CT/pAUR123上のブラスチシジン又はオーレオバシジン抗生物質を置換し、そして抗生物質ではなくDLホスフィノスリシンを使用することにより、選択を維持する。加えて、ロドトルラ D-アミノ酸オキシダーゼのM213R又はM213S遺伝子、又はM213S, Y238S突然変異形を、野生型コード配列の代わりにクローニングする。
【0151】
種々の突然変異生成法を用いて、D-アミノ酸オキシダーゼの更なる突然変異形を形成する。例えば、Mn2+-D-毒化PCRによって、アミノ酸オキシダーゼ・コード配列の多数の変異形を生成し、2つのシャトル・ベクターのGAL1又はADH1プロモーターの前面に、混合された個体群をクローニングし、酵母中に形質転換し、そして、単独窒素源としてのD-ホモシステイン酸上で成長する能力を酵母に付与するという新しい配列の能力に基づいて、選択を行う。或いは、形質転換された酵母上に直接的に突然変異及び選択を行う。例えば、化学的な突然変異原、例えば10〜50mM D-ホモシステイン酸又は(PAT遺伝子が発現される場合)20〜100mM DL-ホスフィノスリシンを含有する窒素制限培地中のEMSの存在において、発酵槽内で上述のプラスミドで形質転換された酵母を成長させ、そしてD-アミノ酸オキシダーゼ発現(例えば炭素源としてのガラクトース上で成長させる)のために誘導する。連続的な継代培養後、単独N源としてのD-ホモシステイン酸又はホスフィノスリシン上で成長する継代培養を同定し、平板培養し、D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列をサブクローニングし、配列決定し、そして更なる特徴付けのために大腸菌内で発現させる。
【0152】
別の好ましい方法において、増幅を用いて、また大腸菌菌株SL1-redに通すことによって、2つのシャトル・ベクター上で突然変異生成を実施する。この菌株は、3つの主要なDNA修復経路、mut S, mut D及びmut Tが欠失している。その結果、DNA複製中に突然変異率が約5000倍増大する。Stratageneによるプロトコルを使用する。例えば、10ngのシャトル・ベクターを大腸菌菌株SL1-red中に形質転換し、細胞を成長させ、そして次いで、アンピリシンを含有するL-ブイヨン寒天上に24時間にわたって平板培養する。
【0153】
プレートからコロニーをL-ブイヨン中にすくい取ることにより、それぞれのプレートから200個を上回る形質転換物コロニー・ロットをプールし、1〜2週間にわたってL-ブイヨン/アンピリシン中で37℃で連続的に継代培養し、これにより多数の細胞分裂が生じた。多数のプレートから出発して、同様の手順を実施する。一晩成長させた細胞から、シャトル・ベクターDNAのミニプレップを調製し、そして酵母内に戻して形質転換する。形質転換された酵母を成長させ、改善されたD-アミノ酸オキシダーゼを含有するコロニーを上述のように選択する。
【0154】
或いは、D-アミノ酸オキシダーゼの発現及び選択を、酵母以外の何らかの微生物内で、そして大腸菌溶原中のpETベクターのt7プロモーター発現制御下で実施する。この場合、D-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列(任意にはMn2+-D-毒化PCRによって突然変異生成される)を、pETベクター中にクローニングし、大腸菌 XL 1red中に形質転換し、そして多数の世代にわたる継代後、大腸菌溶原、例えば大腸菌 BL212 DE3中に戻して形質転換する。次いで個々のコロニーを採取し、複製平板培養し、成長させ、IPTGで誘導し、溶解し、そして、当業者に知られた方法(例えば過酸化物発生に対する蛍光分析スクリーン、又はアンモニア発生に対する比色分析アッセイ)を用いて、Dホスフィノスリシンに対する所期基質活性に関してスクリーニングする。
【0155】
或いは、ロドトルラ・グラシリスにおいて直接的に、突然変異を生成し、改善されたD-アミノ酸オキシダーゼ・コード配列のための選択を行う。単独窒素源としてD-アラニン又はD-グルタメートを有する最小培地内でR.グラシリスを成長させ、EMSによる連続的な突然変異生成ラウンドを施し、そして、緊縮度を増大した培地中への継代培養を介して選択する。この培地では、単独窒素源がD-グルタメートからD-ホモシステイン酸にシフトされる。この実施例の変更形において、ロドトルラ・グラシリスを、これがPATを発現させるように(ガラクトース上で又は構成的に成長させられる場合)、上記酵母ベクターの1つで形質転換し、そして、単独窒素源としてのDLホスフィノスリシン又はDホスフィノスリシン上で、緊縮選択の最終段を行う。
【0156】
任意には、酵母の選択のために使用される培地は、低濃度の溶剤(例えば0.1% DMSO)を含有する。
【0157】
実施例14:鏡像異性的に純粋な形のD-ホスフィノスリシンの生成
T7プロモーターの背後の(標識付けされていない)発現に関してクローニングされたPATコード配列(A02774)を有するNovage pET 24Aで、大腸菌 BL21 DE3コドン及びRILを形質転換する。カナマイシンを含有するLCM50培地の発酵槽内で約40 OD600nmの密度まで、これらの細胞を成長させ、0.2M IPTGで誘導し、低速遠心分離によって採取し、そしてD/Lホスフィノスリシン(PPT)のアンモニウム塩9.91gを含有する最小培地内に素早く移す。
【0158】
最小培地(1リットル中)は次の通りである:
Na2HPO4(6g), KH2PO4(3g), NaCl(1g), NH4Cl(1g)を水中に溶解し、オートクレーブ処理し、そして下記溶液をろ過滅菌後に添加した:
CaCl2 (14.7g/lで1ml)、MgSO4(246.5g/lで1ml)、チアミン.HCl(1mg/mlで5ml)、グルコース(別個にオートクレーブ処理された20%溶液30ml)、DMSO 0.5ml。
【0159】
発酵の詳細は下記の通りである。10リットルの発酵槽のLCM 50培地に、大腸菌 BL21 DE3コドン及びPAT遺伝子を含有するRILから成るLBブイヨンで成長させた接種材料(200ml)を接種し、そして30℃、200rpm撹拌速度、pH6.5、酸素濃度50%で維持し、空気飽和させる。約12時間後、培養は、約30のOD600nmまで成長する。次いで、0.2mM IPTGを添加することによって、培養をPAT発現のために誘導する。1.5時間後、培養は典型的にはさらに約40のOD600nmまで成長し、その後、細胞を遠心分離によって採取し、そして8リットルの最小培地内で洗浄する。細胞を再度回転させ、D/Lホスフィノスリシンの商業的に入手可能なアンモニウム塩9.91g及びさらに0.2M IPTGを含有する最小培地中で、発酵槽の最終容積10リットルまで再懸濁する。温度を37℃まで上昇させ、プロトン及びリンNMRによって、発酵槽の試料をモニターすることにより、a)グルコースレベルが実質的に低下し、補充が必要になる時、及びb)ホスフィノスリシンからn-アセチルホスフィノスリシンへの変換の規模、を見極める。約12時間の経過に伴って、約500gのグルコースを発酵槽に添加する。n-アセチルホスフィノスリシンの形成は、数時間後に始まり、約20時間後までにL-PPT(D/Lの46.5%)からN-アセチル-L-PPへの93%を上回る変換に達することが観察される。発酵培地をその後まもなく採取するとともに、細胞を低速遠心分離によって取り出す。
【0160】
イオン交換クロマトグラフィを用いて、D-PPTを発酵培地から精製する。発酵培地約9.5 L)を4℃で保存する。これをH+形のDowex 50W-X8 200-400メッシュ・カチオン交換樹脂(HClで前調製)900mlと混合し、これにより樹脂上の上澄みのpHが約3.0に低下するようにする。Dowex樹脂を重力下で沈澱させておき、そして上澄みを、2Lの水ですすいだDowex樹脂と共にデカントし、次いで遠心分離により浄化する。洗浄されたDowexを廃棄し(最終的には再循環させる)、浄化された上澄みを次いで、酢酸エチル(上澄み容積の1/4)及び水性画分(約12L)を保持する分離用漏斗を介して抽出する。次いでH+形Dowex 50W-X8をさらに2.3 L添加し、約12Lと共に撹拌する。次いで樹脂を沈澱させておく。樹脂上方の上澄みのpHは、この段階でpH 1.6である。上澄みをデカントして廃棄し、そして樹脂を約12リットルの水で洗浄し、そして再び沈澱させておく。再び上澄みを廃棄し、樹脂を焼結Buchner漏斗ろ紙上に注ぎ、そしてさらに約4.5Lの水ですすぐ(これにより残留N-アセチル-ホスフィノスリシンの殆どを除去する)。主要なD-ホスフィノスリシン含有画分を、15Lの0.4M 水酸化アンモニウムで樹脂から溶離し、続いて1.4Lの水で樹脂をすすぐ。このD-ホスフィノスリシン含有画分のpHは約11.4である。任意には例えば0.13モルの酢酸及び約600mLのH+形カチオン交換樹脂を添加することにより、このpHを約pH10まで低下させる。添加する場合、樹脂を沈澱させておく。次いで、D-ホスフィノスリシン(上澄み)画分を、OH形のDowex IX8-400メッシュ・アニオン交換樹脂の565ml(5 x 28 cm)カラム(NaOHで前平衡させ、そして水で洗浄する)にローディングする。17カラム床容積にわたって、カラムに、0M〜0.32Mの酢酸アンモニウム勾配をつける。55mlの画分を全体を通して捕集する。これらの画分を215nmのUVによって、そしてまたプロトン及び31P NMRによってモニターする。この分析が示すように、高純度のホスフィノスリシンが画分39と78との間で溶離される。N-アセチルホスフィノスリシンが、未結合材料として勾配の早期に溶離され、いくらかのグルタメートが画分79〜90で遅く溶離する。
【0161】
画分63〜78(6〜7.6床容積に対応)は、高純度ホスフィノスリシンの大部分を構成する。ホスフィノスリシン画分を凍結乾燥させる。ホスフィノスリシン画分を、プロトン及びリンNMRによって純粋であることが見出される(アセテートから離反した他の可視ピークはない。有機材料の>95%はホスフィノスリシンである)。但し、計算された乾燥重量と観察された乾燥重量との間の差異に基づいて、典型的には、無機塩のいくらかの残留物(例えば塩化アンモニウム)が、ホスフィノスリシン試料中に残っていることが見出される。実用的な目的では、D-ホスフィノスリシンが(例えば植物上の噴霧のために)使用される場合、無機物質を不活性と考え、計量された乾燥試料からD-ホスフィノスリシン溶液を形成するときに、計算された濃度の調節を考慮に入れればよい。
【0162】
上記方法に従って分離されたホスフィノスリシンが、実質的に鏡像異性的に純粋なD-ホスフィノスリシンであることが予期される。このことを、Hori他(2002) J.Chrom.B 776, 191〜198の蛍光HPLC分析法に従って検証する。例えば、商業的なDLホスフィノスリシン(0.01〜10μg/ml)又は試料50μlを、0.1Mホウ酸緩衝液pH8.5中に溶解し、そして200μlの同じホウ酸緩衝液と混合する。次いで18mM FLEC((+)-1-(9-フルオレニル)エチルクロロホルメート)を添加し、そして混合物をさらに30分間にわたって、40℃でインキュベートする。500μlの酢酸エチルと共に3分間にわたって震盪することにより、過剰なFLECを除去する。100μlの底部水性層をHPCL分析のために取り出す。
【0163】
Inertsil ODS2(15 x 4.6)5μM部分HPLCカラムを、77% 10mM水性酢酸アンモニウム(pH5.0):23%アセトニトリルで、流量0.8ml/分で平衡させる。カラム上に2μl試料を注入し、そして、60分間にわたって定組成で走行させ、そして、励起260nm及び発光波長305nmの蛍光検出を用いてモニターする。ホスフィノスリシンのD及びL異性体が明らかに分離され、それぞれ12.4分目及び13.4分目で溶離することが観察された。この方法に従って分離されたDホスフィノスリシンの試料を走行させ、99%よりも良好な鏡像異性過剰であることが評価される。このことは、既知量の商業的DLホスフィノスリシンでスパイクし、そして、右手における増加がいかに少ないかを観察することにもとづいて評価される。試料によってもたらされた明らかに単独の12.4分ピークのバックグラウンドに対して、13.4分ピークが検出可能である。
【0164】
加えて、HPLC法を用いて、ピーク積分及び標準曲線との比較に基づいて、ホスフィノスリシンの量を評価する。加えてホスフィノスリシンの総量を、NMR信号を積分することにより評価する。
【0165】
全体的に見て、約9.91gのDLラセミ化合物で始まって、>99%の鏡像異性的過剰で純粋Dホスフィノスリシンアンモニウム塩が約1.9g(収率38%)生成される。試料の乾燥重量50〜70%は、残存する無機塩を含む。任意には、これらの無機塩は、更なるイオン交換工程及び凍結乾燥工程(揮発性塩への交換に続く)によって除去される。
【0166】
実施例15:鏡像異性的に純粋なS-フルアジフォプ及びS-フルアジフォプブチルの生成
文献(例えばD. Cartwright, 「Proceedings of the Brighton Crop Protection Conference-Weeds(1989)」2, 707-716及びその引用文献)中に記載されているような、R-フルアジフォプに関してよく知られているのと同様の方法を用いて、S-フルアジフォプ酸及びそのエステルを生成する。同様に、RSラセミ化合物の製造方法も良く知られている。任意には、RSラセミ化合物から調製クロマトグラフィ分離を介して、純粋S-フルアジフォプを生成する(例えばBewick(1986)Pesticide Sci., 17,349-356によって記載されている)。Bewickによって記載されたHPLC法によって、フルアジフォプブチルのRS混合物から、97%よりも良好な鏡像異性的過剰でS鏡像異性体を分離する。或いは、好適なシクロデキストリン・カラム下のクロマトグラフィ(Journal of Chromatography(1993), 634(2), 197-204)によって、又は、その他のカラム・クロマトグラフィ法(Biomedical Chromatography (1998), 12(6), 309-316; Journal of Chromatography, A(2001), 937(1-2), 135-138)を用いることにより、酸のRS混合物からS フルアジフォプを直接的に分離する。Chimiques Des Pays-Bas(1991)119(05), 185-188には、鏡像異性的に純粋なSアリールフェノキシプロピオン酸及びこれらのエステルを分離するための一般的な調製上有用な別の方法が記載されている。この場合、カルボキシエステラーゼNP酵素を生成し、アリールオキシフェノキシプロピオネートのラセミエステルの鏡像選択的加水分解のために使用する(その結果生じる酸は、残留エステルから容易に分離可能である)。
【0167】
好ましい方法の場合、直接的な合成方法によって、鏡像異性的に純粋なS-フルアジフォプを生成する。第1工程において、中間体4-(5-トリフルオロメチル-オイリジン-2-イルオキシ)-フェノールを合成する。
【0168】
4-(5-トリフルオロメチル-オイリジン-2-イルオキシ)-フェノールの調製
乾燥DMF(200ml)中の炭酸カリウム(13.81g, 99mmol)の懸濁液に、ヒドロキノン(10.0g, 91mmol)を添加し、そして混合物を30分間にわたって撹拌する。2-クロロ-5-トリフルオロメチルピリジン(16.49g, 91mmol)を添加し、そして混合物を90℃まで16時間にわたって加熱する。反応混合物を水中に注ぎ、希釈HClで酸性化し、次いで酢酸エチルで抽出する。合体された有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、そして減圧下で溶剤を除去する。溶離液として10-20%の酢酸エチル/ヘキサンを使用して、シリカゲル上のカラム・クロマトグラフィは、例えば約10.22gの4-(5-トリフルオロメチル-オイリジン-2-イルオキシ)-フェノールを約44%収率で産出する。
δH(400MHz; CDCl3) 8.45, s, 1H; 7.9, dd, 1H; 7.0, m, 1H; 7.0, d, 2H;6.8, d, 2H; 5.75, s, 1H。
【0169】
更なる工程で、中間体(R)-2-ヒドロキシプロピオン酸ベンジルエステルを合成する。
【0170】
(R)-2-ヒドロキシプロピオン酸ベンジルエステルの調製
窒素下の0℃のDMF中のナトリウムD-ラクテートの懸濁液に、臭化ベンジルを液滴状に添加する。混合物を16時間にわたって0℃で撹拌する。次いで溶剤を減圧下で除去し、そしてジエチルエーテルと水との間で残留物を分配する。層を分離し、そして有機相を飽和型重炭酸ナトリウム、ブラインで洗浄し、次いで、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、そして減圧下で溶剤を除去することにより、(R)-2-ヒドロキシプロピオン酸ベンジルエステルを無色油として提供する。例えば2.81gが収率88%で形成される。
δH(400MHz; CDCl3) 7.4, m, 5H; 5.23, s, 2H; 4.35, q, 1H; 2.85, d, 1H;1.45, d, 3H。
【0171】
更なる工程で、中間体(S)-2-[4-(5-トリフルオロメチル-ピリジン-2-イルオキシ)-フェノキシ]-プロピオン酸ベンジルエステルを合成する。
【0172】
(S)-2-[4-(5-トリフルオロメチル-ピリジン-2-イルオキシ)-フェノキシ]-プロピオン酸ベンジルエステルの調製
窒素下の0℃の乾燥THF(100ml)中の4-(5-トリフルオロメチル-オイリジン-2-イルオキシ)-フェノール(2.90g, 11.4mmol)及び(R)-2-ヒドロキシプロピオン酸ベンジルエステルの溶液に、トリフェニルホスフィンを添加し、続いて、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(3.36ml, 17mmol)を液滴状に添加する。その結果生じた黄色の混合物を1時間にわたって撹拌し、続いて、16時間にわたって静止させておく。反応混合物を水と酢酸エチルとの間で分配し、そして層を分離する。水性物質をさらに酢酸エチルで抽出し、そして合体された有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、そして減圧下で溶剤を除去する。溶離液として10%の酢酸エチル/ヘキサンを使用して、シリカゲル上のカラム・クロマトグラフィは、(S)-2-[4-(5-トリフルオロメチル-ピリジン-2-イルオキシ)-フェノキシ]-プロピオン酸ベンジルエステルを無色油として産出する。一例では、69%の収率を示す3.25gが、>99%eeで形成される(nmrによって測定)。
δH(400MHz; CDCl3) 8.42, s, 1H; 7.89, dd, 1H;7.35, m, 5H; 7.25, d, 2H;6.95, d, 1H;6.9, d, 2H;5.22, s, 2H;4.78, q, 1H;1.65, d, 3H。
【0173】
最終工程においてS酸を形成する。
【0174】
(S)-2-[4-(5-トリフルオロメチル-ピリジン-s-イルオキシ)-フェノキシ]-プロピオン酸の調製
酢酸エチル(20ml)中の(S)-2-[4-(5-トリフルオロメチル-ピリジン-2-イルオキシ)-フェノキシ]-プロピオン酸ベンジルエステル(3.12g)とPd/C(5%, 0.1g)との混合物を、2.5barの水素雰囲気下で2.5時間にわたって撹拌する。反応混合物をセライトを通してろ過し、そして減圧下で溶剤を除去する。溶離液として25%の酢酸エチル/ヘキサン1%酢酸を使用して、シリカゲル上のカラム・クロマトグラフィは、(S)-2-[4-(5-トリフルオロメチル-ピリジン-s-イルオキシ)-フェノキシ]-プロピオン酸を無色油として提供した。例えば99%の収率を示す2.41gが、99%ee+/-0.5%で形成される(nmrによって測定)。
DH(400MHz; CDCl3) 8.42, s, 1H; 7.9, dd, 1H; 7.1, m, 2H; 6.9, m, 3H;4.8, q, 1H; 1.7, d, 3H。
【0175】
上述のものと類似の方法を用いて、その他のアリールオキシフェノキシプロピオネート除草剤(例えば、フェノキサプロプ, ハロキシフォプ, フルアジフォプ及びキザロフォプ及びこれらのエステル)のS-鏡像異性体が生成される。
【0176】
本発明を例証してきたが、当業者に明らかなように、上記実施例は本発明の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非植物毒性物質と反応して植物毒性物質を生成する1つ以上の酵素をコードするポリヌクレオチドで、植物材料を形質転換し、そしてこうして形質転換された材料を植物中に再生させる工程を含む雄不稔性又は雌不稔性植物の製造方法であって、前記非植物毒性物質が、雄性又は雌性配偶子の形成時及び/又は成熟時まで該植物に適用され、これにより該非植物毒性物質が、前記配偶子の形成を選択的に妨げるか、或いは前記配偶子を選択的に無機能性にする植物毒性物質の生成を可能にし、該酵素が、雄性又は雌性の生殖構造内で優先的に発現される形式のものにおいて、
(i) 該非植物毒性物質が、葉緑素非含有組織に対して直接的に植物毒性の非ホスホネート除草剤のエステル誘導体、D-アルファアミノ酸、非タンパク質D-アルファアミノ酸のペプチド誘導体、アリールオキシフェノキシプロピオネートのS-鏡像異性体、及びアリールオキシフェノキシプロピオネートのエステル誘導体のS-鏡像異性体から成る群から選択され、そして(ii)該酵素が、カルボキシルエステラーゼ、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸ラセマーゼ、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ、アルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ、チオエステラーゼ及びアシル-CoAシンテターゼから成る群から選択されることを特徴とする、雄性不稔性又は雌性不稔性植物の製造方法。
【請求項2】
前記非植物毒性物質が、毒性緩和剤、殺配偶子剤、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ誘発剤、シトクロムP450誘発剤、除草剤、肥料、抗線虫剤、共力剤、殺虫剤、殺菌剤、ホルモン、植物成長調整剤及びシトクロムP450阻害剤から成る群から選択された1つ以上の更なる物質とともに、混合物で適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非植物毒性物質が葉に適用され、そして篩移動性であり且つ代謝的に安定な酸化され得る該酵素の基質であり、該酵素が、該非植物毒性物質からの直接的又は間接的生成物として、該植物毒性生成物を提供する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該植物毒性生成物が、過酸化物及び/又は超酸化物アニオンの形で生成された間接的生成物である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該非植物毒性物質が、D-アラニン、D-バリン、D-メチオニン、D-セリン、D-ロイシン及びD-イソロイシンから成る群から選択されたD-アルファアミノ酸であり、前記酵素がD-アミノ酸オキシダーゼ、又は、前記アミノ酸を酸化して2-ケト酸にすると同時に、酸素を還元して過酸化物アニオンにするオキシドレダクターゼである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
該非植物毒性物質が、D-アスパルテート又はD-グルタメートであり、前記酵素は、D-アミノ酸オキシダーゼ、又は、前記アミノ酸を酸化して2-ケト酸にすると同時に、酸素を還元して過酸化物アニオンにするオキシドレダクターゼである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記酵素が、野生型配列と比較すると位置213及び/又は238に置換を含む、ロドトルラ・グラシリス(Rhodotorula gracilis)から得ることができる突然変異型D-アミノ酸オキシダーゼ、又は、D-アスパラギン酸オキシダーゼである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ロドトルラから得ることができる該オキシダーゼが、Arg, Lys, Ser, Cys, Asn及びAlaから成る群から選択されたアミノ酸を、位置213に有し、且つ/又は、His, Ser, Cys, Asn及びAlaから成る群から選択されたアミノ酸を、位置238に有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該酵素の標的が、ペルオキシソーム以外のものである、請求項3から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該酵素がカルボキシルエステラーゼであり、該非植物毒性物質が、イムアザメタベンズ又はフラムプロプのエステルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
該非植物毒性物質が、イムアザメタベンズメチル、フラムプロプメチル又はフラムプロプイソプロピルであり、そして該植物が、小麦、又はイムアザメタベンズメチル、フラムプロプメチル又はフラムプロプイソプロピルに対してそれ自体同様に実質的に不感受性の植物である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
該酵素が、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ又はD-アミノ酸ラセマーゼであり、そして該非植物毒性物質は、ホスフィノスリシンのD鏡像異性体又はビアラフォスのD鏡像異性体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
該非植物毒性物質が、植物毒性物質を含有する混合物中に含まれ、そして該酵素がD-アミノ酸オキシダーゼ、又は、アミノ酸を酸化して2-ケト酸にすると同時に、酸素を還元して過酸化物アニオンにすることができるオキシドレダクターゼである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
該酵素が、野生型配列と比較すると位置213及び/又は238に置換を含む、ロドトルラ・グラシリスから得ることができる突然変異型D-アミノ酸オキシダーゼ、又は、D-アスパラギン酸オキシダーゼである、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ロドトルラから得ることができる該オキシダーゼが、Arg, Lys, Ser, Cys, Asn及びAlaから成る群から選択されたアミノ酸を、位置213に有し、且つ/又は、His, Ser, Cys, Asn及びAlaから成る群から選択されたアミノ酸を、位置238に有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
該混合物がD及びL両方のホスフィノスリシンを含み、該植物材料が実質的に、無機能性にされる配偶子以外の配偶子を生成する葉緑素含有組織及び花組織内にのみ、PAT遺伝子を発現させる、請求項13から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
該酵素が、2-アリールプロピオニル-CoAエピメラーゼ、アルファ-メチルアシル-CoAラセマーゼ、チオエステラーゼ及びアシル-CoAシンテターゼから成る群から選択され、該非植物毒性物質が、アリールオキシフェノキシプロピオネートのS鏡像異性体又はアリールオキシフェノキシフェノキシプロピオン酸エステルのS鏡像異性体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項18】
前記アリールオキシフェノキシプロピオネートのS鏡像異性体が、S-フルアジフォプ(Fluazifop)、S-キザロフォプ(Quizalofop)、S-プロパキザフォプ(Propaquizafop)、S-ハロキシフォプ(Haloxyfop)、S-フェノキサプロプ(Fenoxaprop)、S-ジクロフォプ(Diclofop)、S-シハロフォプ(Cyhalofop)、S-クロジナフォプ(Clodinafop)から成る群から選択されている、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
鏡像異性的に純粋なD-ホスフィノスリシン(D-PPT)を製造する方法であって、以下の:
(a) PPTを選択的にN-アシル化することができる酵素を含有する細胞を準備し;
(b) D-L PPTを含有する培地中で上記細胞を成長させて馴化培地を生成し;
(c) (b)の上記馴化培地から上記細胞を分離し;
(d) 任意に種々のpHで、非水性の非混和性溶剤を用いて上記馴化培地を抽出して、PPTよりも水溶性が高い分子を含有する画分から、PPT含有画分を分離し;
(e) 任意に、ステップ(d)のPPT含有抽出培地又は馴化培地と、プロトン化形態のカチオン交換レジンとを、培地から相当の割合のカチオン、つまりPTT以外のものを吸収するために十分である量及びpHで混和し;
(f) 上記馴化培地、抽出培地又は工程(e)の結果生じる培地と、プロトン化形態のカチオン交換樹脂とを、当該培地中のPPTの大部分に結合するのに十分な量及びpHで混和し;そして
(g) 上記PPTが結合された、工程(f)から生じたカチオンイオン交換樹脂を収集し、そして、十分なpH及びイオン強度を有する溶出培地を用い、しかも当該培地のpHがこうして溶離されるPPTをラセミ化するほどには低くないことを条件で、該カチオン交換樹脂からPPTを選択的に溶離する
工程を含むことを特徴とする、鏡像異性的に純粋なD-ホスフィノスライシン(D-PPT)を製造する方法。
【請求項20】
D-PPTであって、98.5%以上の鏡像異性的過剰を有することを特徴とする、D-PPT。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公開番号】特開2009−118850(P2009−118850A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−11273(P2009−11273)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【分割の表示】特願2003−571473(P2003−571473)の分割
【原出願日】平成15年2月14日(2003.2.14)
【出願人】(500371307)シンジェンタ リミテッド (141)
【Fターム(参考)】