説明

集光口付き被覆シートを使用した穿孔性害虫の防除方法

【課題】穿孔性害虫に対して有効であり、人畜等の他の生物に害を与えない、簡便かつ確実な穿孔性害虫の防除方法を提供すること、および人畜等の他の生物に害を与えない、簡便かつ確実な樹木枯損の拡大を防止する方法を提供すること。
【解決手段】マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する枯損木又は伐倒された樹木1を、光透過性の素材又は網目状シートで形成された、集光口4及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シート3で覆い、シート3の集光口4の下又はその周辺に穿孔性害虫にとって天敵である糸状菌の培養物2を設置し、天敵糸状菌に感染させることにより穿孔性害虫を死滅させて元を断つことを特徴とするマツノザイセンチュウによるマツ枯損を防止する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集光口付き被覆シートを使用した穿孔性害虫の防除方法に関する。さらに詳しくは、防除対象となる穿孔性害虫の習性を利用し、人畜をはじめとする他の生物への影響が少ない、簡便かつ効果的な穿孔性害虫の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、青森と北海道を除く全国に広まっている「マツ」の伝染病で、大きな被害をもたらす松くい虫被害は、「マツノザイセンチュウ」という体長1mmにも満たない線虫がマツの樹体内に入ることで引き起こされるが、その線虫をマツからマツへ運ぶのがマツノマダラカミキリ等の穿孔性害虫である。一般にその被害の蔓延を防止するために、運び屋である穿孔性害虫を防除する方法が採られている。
【0003】
従来、穿孔性害虫を対象とした松くい虫防除法としては、先ず、穿孔性害虫の成虫を健全なマツに寄せ付けないようにヘリコプターや地上からの噴霧器により化学農薬を予防散布することで、被害のまん延を防止する方法がある。しかし、この予防散布は薬剤が周囲の河川や集落にも及ぶおそれがあり、また、根本的な穿孔性害虫の駆除の効果は期待できない。それゆえ近年は、化学農薬の使用量は減少し、物理的防除や生物的防除を組合せた総合的害虫管理が行われるようになってきている。特に生物的防除方法としてボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)、メタリジウム・アニソブリェ(Metarhizium anisop1iae)等の天敵糸状菌に穿孔性害虫を感染させて駆除するという試みが、穿孔性害虫の防除でも提唱されるようになった。
【0004】
また、穿孔性害虫の駆除方法としては、被害を受けたマツ材を伐倒し、穿孔性害虫がまだ幼虫で、マツ材内にいる冬の間に駆除する方法がある。この駆除方法としては、マツ材をそのまま焼却する方法が採られてきたが、近年、焼却によるダイオキシン発生の問題から、この方法は行われないようになった。一般的な駆除方法としても、伐倒されたマツ材に対し、薬剤散布が行われている。しかし、薬剤の散布班によって効果にバラツキが見られることがあり、念入りに散布しすぎると環境への負荷がかかりすぎるようになる。
【0005】
別の駆除方法として、松くい虫被害により枯死した木を伐倒したあと集積し、ビニールシートで包んで燻蒸剤で燻蒸する方法が多く取られるようになってきた。しかし、ビニールシートに少しでも隙間が開くと燻蒸剤が漏れ、効果に影響を及ぼす。海岸沿いの砂地では砂からも燻蒸剤が漏洩するため、集積材の底もきれいにシートで包む必要があり、燻蒸剤処理におけるビニールシートの被覆は完璧性が要求され、多大な労力を要するものであった。また、一度薬剤が付着したビニールシートは再使用されないため、処理後生分解するようなシートの使用まで検討されるようになった。
【0006】
一方、穿孔性害虫の駆除方法として、(Beauveria brongniartii)や、ボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・アモルファ(Beauveria amrpha)、メタリジウム・アニソブリェ(Metarhizium anisop1iae)等の天敵糸状菌を、培地成分を含有させた担体で培養して、この担体を羽化脱出したカミキリムシ成虫の生息域内の通り道等に設置して成虫を駆除する方法(特許文献1および2を参照のこと)が開示されている。この方法はキボシカミキリ成虫が桑の樹上で交尾し、その雌成虫は産卵のために桑の株元へ下りてくるという習性を利用したもので、天敵糸状菌を培養した発泡体マトリックス等である害虫駆除用具を桑の木の株元に設置しておくことにより、有効性を高め且つ有効期問を延長し、更には少量の設置で効率よく感染させることを目的とした方法である。
【0007】
しかしながら、この方法によれば害虫が害虫駆除用具に直接接触するか、或いはこの害虫躯除用具に近づいた時のみ有効であって、マツノマダラカミキリの様な害虫に対しては、ほとんどその天敵糸状菌剤の感染域外にいることが多く有効な手段ではなかった。そこで、羽化脱出してくる成虫に天敵糸状菌の培養物が接触するよう、樹木の全部又は一部をシートで覆い、シート内部に天敵糸状菌の培養物を設置する方法(特許文献3を参照のこと)が開示されている。しかし、ここで使用されるシートは、天敵糸状菌剤の効果を高め、さらに、効果をより長く持続させるべく、糸状菌剤との接触確率を高め、さらには、糸状菌剤を風雨から守る目的で使用されたため、そのシート自身の成虫駆除への効果は目的とされていなかった。そのため、シート外に脱出したカミキリムシ成虫のほとんどが2週間以内に致死するものの、糸状菌との接触を免れた数%の成虫は被害を継続する可能性があった。
【0008】
上記実状に鑑み、簡便且つ確実に穿孔性害虫の駆除方法の創出が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−190807号公報
【特許文献2】特開昭63−258803号公報
【特許文献3】特開2000−239115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、穿孔性害虫に対して有効であり、人畜等の他の生物に害を与えない、簡便かつ確実な穿孔性害虫の防除方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、人畜等の他の生物に害を与えない、簡便かつ確実な樹木枯損の拡大を防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する樹木を、集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、該シートの集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置することを特徴とする穿孔性害虫の防除方法、
〔2〕 前記樹木が枯損木である前記〔1〕記載の方法、
〔3〕 前記樹木が伐倒された樹木である前記〔1〕又は〔2〕記載の方法、
〔4〕 集光口付き被覆シートの集光口が、光透過性の素材で形成されてなる前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の方法、
〔5〕 集光口付き被覆シートの集光口が、網目状シートで形成されてなる前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の方法、
〔6〕 集光口付き被覆シートの集光口の部材が、該シートから着脱可能である前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の方法、
〔7〕 天敵糸状菌が、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)、ボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・アモルファ(Beauveria amrpha)及びメタリジウム・アニソブリェ(Metarhizium anisop1iae)からなる群より選ばれた少なくとも1種の糸状菌である、前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の方法、並びに
〔8〕 マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する樹木を、集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、該シートの集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置し、該穿孔性害虫を天敵糸状菌に感染させ、死滅させることを特徴とするマツノザイセンチュウによるマツ枯損を防止する方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の穿孔性害虫の防除方法によれば、樹木からの羽化脱出後に飛翔するマツノマダラカミキリ成虫をターゲットとするのではなく、羽化脱出直後の成虫を天敵糸状菌の培養物に接触させて駆除するため、接触確率が高く、また、雌成虫は産卵する前に致死させることができるという優れた効果を奏する。従って、次世代のカミキリの発生を防ぎ、一層効果的な防除が可能となると共に樹木の枯損の拡大を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の穿孔性害虫の防除方法は、本発明のマツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する樹木を、集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、該シートの集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置することを1つの大きな特徴とする。
【0014】
本発明の防除方法によれば、天敵糸状菌培養物を用いるため、マツ枯損を引き起こす原因となるマツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫に対して特異的に防除効果を得ることができるという優れた効果を発揮する。また、穿孔性害虫が生息する樹木を集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置するため、昆虫の集光性により穿孔性害虫を集光口近傍に誘引し、天敵糸状菌の培養物に効率よく接触させ、感染・死滅させることができるという優れた効果を発揮する。
【0015】
マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫としては、成虫がマツ樹主幹だけでなく枝部にまで広域に羽化脱出するという生態を示す穿孔性害虫が挙げられ、具体的には、マツノマダラカミキリ(Monochamus atternatus HOPE)、カラフトヒゲナガカミキリ(Monochamus saltuarius GEBLER)、ヒゲナガカミキリ(M. grandis WATERHOUSE)が挙げられる。
【0016】
マツノマダラカミキリ等の穿孔性害虫が被害を及ぼす対象である樹木としては、マツ科植物が挙げられる。また、樹木としては、枯損木等が挙げられ、具体的には、立木の状態の被害木、伐倒した被害木等が挙げられる。防除効果を十分に発揮させる観点から、伐倒した被害木を集めて本発明の防除方法により処理することが好ましい。
【0017】
本発明の防除方法に使用する集光口付き被覆シートは、集光口及び遮光性シート部を有する。
【0018】
集光口付き被覆シートの集光口は、集光性により穿孔性害虫を効率的に誘引する観点から、光透過性の素材、例えば、透明又は半透明のシートで形成されてなることが好ましい。かかる素材の具体例としては、特に限定されず、市販されているものが使用できるが、強度の観点からシートの厚さは、0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上の厚さのシート等が好ましい。
【0019】
集光口付き被覆シートの集光口はまた、網目状シートで形成されてなることも好ましい。網目状シートとしては、穿孔性害虫がすり抜けられない網目サイズを有するものであれば特に限定されず、市販されているものが使用できるが、天敵糸状菌の培養物の有効期間を延ばす観点から、雨水が直接かからない網目が細かい素材等が好ましい。また、網目状シートは、穿孔性害虫が噛み破ることが困難な強度を有することが好ましく、穿孔性害虫が噛み破ることができない強度を有することがさらに好ましい。
【0020】
集光口の形状、大きさ及び数は、特に限定されるものではないが、穿孔性害虫を集光性により効率的に誘引する観点から、大きさは縦100cm×横180cm以内が好ましく、数は1又は2が好ましい。
【0021】
集光口付き被覆シートにおける集光口の位置としては、特に限定されないが、天敵糸状菌の培養物の設置の容易さおよび製造コストの観点から、中央部よりも縦方向の端の方が好ましい。
【0022】
集光口付き被覆シートの遮光性シート部は、穿孔性害虫が集光口に誘導され易いように遮光性の素材で形成される。かかる素材としては、樹木から羽化脱出してくるマツノマダラカミキリ成虫が、そのシート外に出ることが困難なシートであればいずれでも良く、有色のポリエチレンシートやビニールシート等が好ましい。遮光性シート部の厚さは0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上が好ましい。被覆シートの具体例としては、市販されているブルー等の色つきポリエチレンシート0.26mm(3.6m×5.4m当り3kg)等が挙げられる。
【0023】
前記シートの大きさは、前記樹木の全部又はその一部を覆うに適した大きさであればよい。
【0024】
集光口付き被覆シートは、前記遮光性シート部と集光口の部材を組み合わせることにより作製することができる。具体的には、例えば、遮光性シートの片側を集光口の大きさ分切り取り、そこに集光口の部材を取り付けることにより作製することができる。
【0025】
また、集光口の部材は、劣化したときに交換可能であるように、及びかかるシートにより樹木を覆った後、敵糸状菌の培養物を集光口下又はその周辺に設置することが容易になるように、かかるシートから着脱可能であることも好ましい。この態様では、例えば、集光口の部材を面ファスナー、ホック、ピン、ファスナー等により遮光性シート部に固定することにより集光口の部材が着脱可能な集光口付き被覆シートを作製することができる。
【0026】
本発明の防除方法で使用する天敵糸状菌の培養物は、例えば、適切な培養基材を用い、適切な培地成分の存在下に、天敵糸状菌の培養に適した条件下で培養することにより得られうる。
【0027】
前記天敵糸状菌としては、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)、ボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・アモルファ(Beauveria amrpha)、メタリジウム・アニソブリェ(Metarhizium anisop1iae)等の糸状菌が挙げられ、なかでも、感染力の強さの観点から、特にボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)及びボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)が望ましい。
【0028】
天敵糸状菌の培養物において、天敵糸状菌の濃度は、例えば、パルプ不織布を用いる場合、10CFU/cm(培養基材表面)以上であることが好ましく、10CFU/cm(培養基材表面)以上であることがより好ましい。
【0029】
前記培養基材としては、天敵糸状菌を培養できるものであればよく、フスマ、ピートモス、或いは発泡体マトリックス、不織布、織布等の基材に培地成分を含有させた培養基材が例示でき、より好ましくは発泡体マトリックス、不織布、織布等の基材に培地成分を含有させた培養基材が望ましい。
【0030】
前記発泡体マトリックスとしては、例えば特開昭63−74479号公報、特開昭63−190807号公報で開示されたポリウレタンフォーム、ポリスチレン発泡体、塩化ビニル発泡体、ポリエチレン発泡体、ポリスチレン発泡体等が挙げられる。かかる発泡体マトリックスを基材として用いる場合、そのまま用いてもよく、前記発泡体を生成しうる発泡体組成物を培地成分とともに発泡させて得られる物質を用いてもよい。
【0031】
前記培養基材として用いる織布又は不織布の素材としては特に限定されず、市販されているものが使用できるが、培地成分の含有性や保水性・親水性、天敵糸状菌の付着性、炭素源としての利用や天然崩壊性等の観点から、パルプ、レーヨン、ポリエステル等を素材とする織布や不織布が特に好ましい。
【0032】
前記培養基材の形状は、樹木に簡便且つ確実に設置でき、しかも防除効果の有効性を長期間持続させることができるので少数配置するだけで効率よくマツノマダラカミキリ等の穿孔性害虫を天敵糸状菌に感染させることができる観点から、バンド状又はシート状に形成された基材が望ましい。
【0033】
前記バンド状又はシート状の培養基材としては、例えば、特開昭63−74479号公報、特開昭63−190807号公報で開示された発泡体マトリックス、或いは不織布、織布等の多孔性で見かけの表面積が大きい素材、及びこれらを組合せた素材を有するものが挙げられる。
【0034】
前記培地成分としては、特に限定されないが、例えば、同化が可能な炭素源や窒素源、無機塩類、天然有機物等を含んだもの等が挙げられる。前記炭素源としては、特に限定されないが、例えば、グルコース、サッカロース、ラクトース、マルトース、グリセリン、デンプン、セルロース糖蜜等が挙げられる。前記窒素源としては、特に限定されないが、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。前記無機塩類としては、特に限定されないが、例えば、リン酸二水素カリウム等のリン酸塩、硝酸マグネシウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム等が挙げられる。前記天然有機物としては、特に限定されないが、例えば、肉エキス、魚肉摘出液、サナギ粉等の動物組織抽出物や動物組織粉砕物、麦芽エキス、コーンスチープリカー、大豆油等の檀物組織抽出物、乾燥酵母、酵母エキス、ポリペプトン等の微生物菌体又はその抽出物等が挙げられる。
【0035】
培養基材において天敵糸状菌を培養する方法としては、培養担体に培地成分を含有させた後に菌を接種し培養する方法、予め天敵糸状菌を前培養して得られた培養液と培地成分とを混合し、得られた混合物を培養担体に含有させる方法等が挙げられる。
【0036】
天敵糸状菌の培養物は、集光性により集光口付き被覆シートの集光口に誘引した穿孔性害虫を天敵糸状菌に効率的に接触感染させる観点から、集光口下又はその周辺に配置される。ここで「集光口下又はその周辺」とは、集光口の真下の樹木上の領域若しくはその周辺の領域、又は集光口の部材の下面若しくはその周辺の遮光性シートの下面を意味する。樹木上に天敵糸状菌の培養物を設置すればその菌糸が木部内部に浸透し、幼虫に対しても致死効果を示すため、穿孔性害虫が天敵糸状菌培養物と接触する確率が極めて高くなるので特に好ましい。
【0037】
本発明の防除方法では、集光口付き被覆シートで樹木の全面を覆うが、底面は地面に覆われているため、砂地であっても覆う必要はない。かかるシートで樹木を覆い尽くし、端はシートが飛ばないように、倒木や石、土砂で重石にするだけで十分である。集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置することで樹木から羽化脱出した穿孔性害虫の成虫のほとんどは、シート内部を徘徊するうちに集光口に集まり天敵糸状菌に接触感染し、死に至る。集光口の部材は穿孔性害虫が噛み破ることができない強度を有することが好ましいが、例え、天敵糸状菌に感染した穿孔性害虫が集光口の部材を噛み破る等の理由によりシートから脱出したとしても2週間以内に死に至る。穿孔性害虫は、羽化後2週間は後食期間、すなわち、交尾・産卵のための準備期間であり、その間に致死させれば、次世代の発生を途絶えさせることができる。また、穿孔性害虫からのマツノザイセンチュウの離脱は、羽化後2週間までは非常に少ないとされているため、本発明の防除方法は極めて効果的である。
【0038】
本発明の穿孔性害虫の防除方法において、天敵糸状菌の培養物の設置時期は、成虫が羽化脱出する前、例えば、西日本では4月まで、東日本でも6月初旬までであることが好ましく、冬期は低温のため糸状菌の培養物の有効性は保持されるため、前年の11月に設置しても、翌年の羽化全期間に亘って十分効果が示される。
【0039】
本発明においては、マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する樹木を、集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、該シートの集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置し、該穿孔性害虫を天敵糸状菌に感染させ、死滅させることができるので、これにより効率よくマツノザイセンチュウによるマツ枯損の拡大を防止することができる。
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
シート状の天敵糸状菌剤の作製
パルプ不織布(50cm×5cm×0.5cm)を培養基材として用い、これを液体培地(組成:2重量%グルコース、4重量%コーンスチープリカー、残部水)に含浸させ、ボーベリア・バッシアナを接種し、培養物(シート状の天敵糸状菌剤)を得た。天敵糸状菌剤における細胞濃度は2×10CFU/cm(培養基材表面)であった。
【0042】
集光口付き被覆シートの作製
遮光性シートとして藤森工業(株)のUVシート(縦300cm、横1800cm、厚さ0.4mm)を使用し、集光口として試験例1ではクラレプラスチックス(株)製の糸入り透明シート(縦40cm、横120cm、厚さ0.3mm、型番E−3500)を、試験例2ではNBC(株)製のネット(縦40cm、横120cm、厚さ0.64mm、型番ET6243)を使用した。遮光性シートの片側を集光口の大きさ分切り取り、そこに集光口のシートを取り付け、集光口付き被覆シートを作製した。なお、集光口の部材を着脱可能にするために集光口のシートを面ファスナーにより遮光性シートに取り付けた。
【0043】
実施例1
マツノマダラカミキリが生息する松くい虫被害を受けたアカマツの供試材0.2m(縦200cm、横80cm、3段積み)の縦方向の片側の上面に前記シート状の天敵糸状菌剤を1枚設置した。次いで、図1のように集光口が天敵糸状菌剤の上面を覆うようにして前記集光口付き被覆シートで供試材を全面被覆した。
【0044】
比較例1
実施例1と同様の供試材の中央部上面に、図2に示すように前記シート状の天敵糸状菌剤を2枚設置し、市販のブルーシート(藤森工業(株)製、商品名ハイピーシート、縦3000cm、横1830cm、厚さ0.26mm、規格PLP−401040B−2)で全面被覆した。
【0045】
試験例1
実施例1及び比較例1を各々野外に1ヶ月半放置し、シート外に脱出したマツノマダラカミキリを採集した。採集した個体を実験室内で個別飼育し、死亡状況を調査した。結果を表1に示す。表中の14日以内死亡率は、「シート外へ羽化脱出したマツノマダラカミキリの総数」に対する「マツノマダラカミキリの14日以内の死亡数」の割合(%)を示す。また、破損数はマツノマダラカミキリが被覆シートを噛み破った個数を、破損位置はマツノマダラカミキリが被覆シートを噛み破った位置を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果より、集光口付き被覆シートを用いた実施例1は天敵糸状菌剤の枚数が少なくても、ブルーシートを用いた比較例1よりも多くのマツノマダラカミキリを死亡させることができることがわかる。また、被覆シートの破損状況や観察において、マツノマダラカミキリが集光口に集まることが確認された。
【0048】
以上の結果より、本発明の穿孔性害虫の防除方法は、現在、一般に使用されている被覆シートを用いた防除方法よりも、マツノマダラカミキリを効率的に天敵糸状菌剤に接触させ、死亡させることができることがわかる。
【0049】
試験例2
被覆シートによる温度上昇等が天敵糸状菌剤に与える影響を調査した。実施例1及び比較例1を、天敵糸状菌剤にとって過酷な条件である夏期(7月下旬から8月下旬)に野外でそれぞれ1ヶ月間放置した。1ヶ月後に被覆シート内から取り出した各々の天敵糸状菌剤にマツノマダラカミキリを20秒間接触させた後、個別飼育した。飼育個体の14日以内の死亡率及び菌叢生率を調査した。
【0050】
結果を表2に示す。表中の14日以内死亡率は、天敵糸状菌剤と接触後の「マツノマダラカミキリの14日以内の死亡数」の割合(%)を示す。菌叢生率は、マツノマダラカミキリの死亡時の菌の叢生の割合(%)を示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果より、温度等が上昇する過酷な条件化である夏期においても、集光口付き被覆シート内の天敵糸状菌剤は、マツノマダラカミキリの死亡率及び菌の叢生率が高いことが確認された。菌の叢生率は、死亡時における叢生を確認しているため過小評価であると考えられる。集光口に通気がよい素材を利用しているため菌の状態を良好に保っていると考えられる。
【0053】
以上の結果から、本発明の集光口付き被覆シートは、現在一般に使用されている被覆シートを用いた防除方法よりも天敵糸状菌剤を良好に保ち、有効期間を延ばすことができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の集光口付き被覆シートを使用したマツノマダラカミキリの防除方法によれば、例えば、環境や人体等に実質的に影響を与えずに、マツの枯損又は該枯損の拡大の防止を行なうことが可能になる。また、現在、一般に用いられている防除方法よりも天敵糸状菌の培養物の設置数を削減することができ、網目状シートで形成された集光口を有する被覆シートを用いた場合には天敵糸状菌の培養物の有効期間を延長でき、温暖な地域でも使用可能であるために、より多くの被害材の処理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、実施例1のマツノマダラカミキリの防除方法における、供試木への天敵糸状菌剤の設置の概略の斜視図(左)及び被覆前の集光口付き被覆シート概略図(右)である。
【図2】図2は、比較例1の防除方法における供試木への天敵糸状菌剤の設置の概略の斜視図(左)及び被覆前のブルーシートの概略図(右)である。
【符号の説明】
【0056】
1 供試木
2 天敵糸状菌剤
3 集光口付き被覆シート
4 集光口
5 ブルーシート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する樹木を、集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、該シートの集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置することを特徴とする穿孔性害虫の防除方法。
【請求項2】
前記樹木が枯損木である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記樹木が伐倒された樹木である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
集光口付き被覆シートの集光口が、光透過性の素材で形成されてなる請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
集光口付き被覆シートの集光口が、網目状シートで形成されてなる請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項6】
集光口付き被覆シートの集光口の部材が、該シートから着脱可能である請求項1〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
天敵糸状菌が、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)、ボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・アモルファ(Beauveria amrpha)及びメタリジウム・アニソブリェ(Metarhizium anisop1iae)からなる群より選ばれた少なくとも1種の糸状菌である、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
マツノザイセンチュウを媒介する穿孔性害虫が生息する樹木を、集光口及び遮光性シート部を有する集光口付き被覆シートで覆い、該シートの集光口下又はその周辺に天敵糸状菌の培養物を設置し、該穿孔性害虫を天敵糸状菌に感染させ、死滅させることを特徴とするマツノザイセンチュウによるマツ枯損を防止する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−104924(P2007−104924A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296763(P2005−296763)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(391016082)山口県 (54)
【出願人】(598155438)井筒屋化学産業株式会社 (3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】