説明

集塵効率の優れた積層体

【課題】 耐熱性と耐薬品性が要求される厳しい条件下においても、十分な強度を保持しつつもその機能を維持継続し得る、圧力損失が低く微細なダストが捕集できて、しかも集塵効率が高いバグフィルター用ろ布に好適な積層体を提供する。
【解決手段】 基布の両面にウェブ層を有し、該基布と該ウェブ層が絡合されてなるシート状積層体において、該基布が、ポリフェニレンサルファイド及び/又はポリテトラフルオロエチレンから構成され、且つ該ウェブ層の少なくとも一方の20%以上が表面積230〜800m2 /Kgのポリフェニレンサルファイド繊維で構成されてなる集塵効率の優れた積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド(以下"PPS"と言う)繊維を主体とする積層体に関し、耐熱性、耐薬品性が要求されるフィルターとして好適に用いられる、特に集塵効率の優れた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭焚きボイラー、都市ごみ焼却炉、産業廃棄物焼却炉、金属溶解・焼成炉などから発生する排ガスには、多量の有害物質や煤塵を含んでおり、大気汚染防止策としてその排ガス集塵は非常に重要である。排ガス集塵には、種々の方法が知られているが、最近では、集塵効率の良さやダイオキシン削減対策の観点からバグフィルターによるろ過式集塵法が注目されている。
【0003】
バグフィルターろ過式集塵法は、円筒状や封筒状に縫製されたろ布を用いるのが一般的であり、通常そのろ布には、耐熱温度や耐薬品性の要求度合いに応じて適切な繊維素材が選ばれる。
【0004】
前述のボイラーや焼却炉などの排ガス集塵における集塵機入口の排ガス温度は、130〜250℃程度が一般的である。130℃以下であればポリエステル等の汎用繊維がろ布素材として使われているが、130℃以上の場合は、いわゆる耐熱性繊維が使われている。中でも本発明のPPS繊維は、耐熱温度が190℃であり、さらに耐酸性、耐アルカリ性に優れている為、前述の排ガス集塵に近年、広く使用される様になっている。
【0005】
PPS繊維は耐熱性と耐薬品性の両面を備えている事から、後加工などの方法による機能付加の必要がなく、またポリエステルなど汎用繊維と同等の繊維特性を有する事から、比較的容易に積層体等の製造が行われており、前述の排ガス集塵用ろ布として広く用いられている。
【0006】
しかしながら、最近は地球規模での環境整備問題などの動向から、排ガス集塵に求められる性能もより高度なものとなって来ており、従来のものより集塵効率が高く、圧力損失が低く、より微細なダストが捕集できるろ布が求められるようになっている。
【0007】
圧力損失が低く微細なダストが捕集できて、しかも集塵効率が高いろ布を得る手段として、ろ布を構成する繊維径を細くし合計使用繊維重量を変えずに表面積を大きくする方法や、従来のろ布表面に極薄の微多孔膜を貼り付ける方法などが知られている。ところが、前述の如くPPS繊維は耐熱性、耐薬品性が優れているため当然ながら一般素材に比較して、その使用温度や対象ガスの内容は厳しい条件下で使用される事が多い。よって、繊維径を細くして表面積を大きくした方法では十分なろ布強度が得られ難いため該ろ布の寿命は短くなったり、また、微多孔膜を貼り付ける方法では該微多孔膜が短期に剥がれると言う問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、耐熱性と耐薬品性が要求される厳しい条件下においても、十分な強度を保持しその機能を継続する、圧力損失が低く微細なダストが捕集できて、しかも集塵効率が高いバグフィルター用ろ布の製造に好適に用いられる積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(1) 基布の両面にウェブ層を有し、該基布と該ウェブ層が絡合されてなるシート状積層体において、該基布が、ポリフェニレンサルファイド及び/又はポリテトラフルオロエチレンから構成され、且つ該ウェブ層の少なくとも一方の20%以上が、表面積230〜800m2 /Kgのポリフェニレンサルファイド繊維で構成されてなることを特徴とする集塵効率の優れた積層体、(2)目付が350〜750g/m2 で、厚さが1.5〜3.0mmであることを特徴とする(1)記載の集塵効率の優れた積層体、(3)ポリフェニレンサルファイド繊維が異形断面形状であることを特徴とする(1)記載の集塵効率の優れた積層体、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、耐熱性と耐薬品性が要求される厳しい条件下においても、十分な強度を保持しつつもその機能を維持継続し得る、圧力損失が低く微細なダストが捕集できて、しかも集塵効率が高いバグフィルター用ろ布に好適な積層体を提供することを可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の積層体は、基布の両面にウェブを有し、そして該基布と該ウェブが絡合されているシート状の積層体において、該基布が、PPSおよび/またはポリテトラフルオロエチレンから構成され、該ウェブの少なくとも一方の20%以上が、表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維で構成されていることを特徴とするものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
本発明の積層体は、好ましい実施態様においては、目付が350〜750g/m2で、厚さが1.5〜3.0mmである。
【0013】
本発明で用いられる基布は、PPSおよび/またはポリテトラフルオロエチレンから好適に製造される。基布とウェブの耐熱性および耐薬品性を同じレベルに揃える点から、主として、後述のウェブと同種のPPSを用いることが好ましい。耐薬品性に優れることから、ポリテトラフルオロエチレンもまた好適に用いられる。
【0014】
本発明に用いられるPPSは、(−C6 H4 −S−)の単位を有するポリマーおよび/またはその誘導体で形成される。
【0015】
上記PPSは、通常、N・メチルピロリドンなどの極性溶媒に硫化ナトリウムを溶解し、重合促進剤を添加し、パラジクロールベンゼンとの重縮合反応で得られたポリマーを、溶融紡糸法で紡糸し、延伸して得られる。
【0016】
本発明に用いられるポリテトラフルオロエチレンは、(−CF2 −CF2 −)の単位を有するポリマーおよび/またはその誘導体で形成される。
【0017】
上記ポリテトラフルオロエチレンは、例えば、テトラフルオロエチレンを、少量の酸素を触媒として2200〜1600psiの圧力下にて重合することにより得られる。
【0018】
本発明に用いられる基布は、得られる積層体の通気性が大きく損なわれず、得られる積層体の強度および寸法安定性を向上するという目的が達成される限り、繊維から形成される基布、フィルム状成形体、スリットヤーンからの成形体、網状成形体などであり得る。絡合に用いられるニードルパンチ時の被破損性の点から、繊維から形成される基布が好ましい。
【0019】
上記繊維から形成される基布には、前述のPPS繊維および/またはポリテトラフルオロエチレン繊維のモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、または紡績糸を、単独または組み合わせて、平織、綾織、モクレノ織、からみ織などに製織することにより、好適に形成される。使用される繊維の繊度、織密度などには特に限定されない。
【0020】
本発明の積層体は、上記基布の両面にウェブが絡合しているシート状物であり、該ウェブの少なくとも一方の20%以上が、表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維で構成されていることを特徴とする。
【0021】
従来より、通常、バグフィルター用ろ布に用いられる積層体ウェブを形成するPPS繊維は、2デニール〜3デニールの丸断面が使用されている。その表面積は、210〜160m2 /Kgである。
【0022】
また、PPS繊維以外では、幅広いバリエーションがあるが、特に集塵効率を考慮したものでは、例えば、表面積300〜500m2 /Kgのポリエステル繊維があるが、前述のように、使用温度が高く、厳しい集塵条件下では、ポリエステル繊維はその耐熱温度が低すぎるなどから耐久性に劣り、短時間で機能しなくなり適さない。
【0023】
一方、PPS繊維で丸断面形状のまま、極細化し表面積を大きくすることも可能であるが、極細化に伴い強力も低下するため限度がある。
【0024】
大きな強力低下を伴わず表面積を大きくする具体的手段として、本発明では、PPS繊維の断面形状を異形化した。異形形状としては、特に限定されないが、山と谷を3つずつもったトライローバル形や、山と谷を4つずつとした十字形などが、その代表として上げられる。その他、変則的なものなどでも差し支えない。
【0025】
異形断面のPPS繊維は、PPS繊維が溶融紡糸法であるため、その紡糸ノズルの形状を変更することで容易に得られる。Y字形ノズルを用いればトライローバル断面が得られ、十字形ノズルで十字形断面のPPS繊維が得られる。
【0026】
本発明の積層体は、ウェブに表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維を使用することにより、優れた集塵効率を得ることである。単繊維の表面積が230m2 /Kg未満であれば、従来品と大差が無く集塵効率の向上が期待できないので好ましくない。
【0027】
単繊維の表面積が800m2 /Kgを越えると、繊維強力が極めて小さくなり、ウェブ形成時に切断するなどにより、積層体の製造自体が困難であり好ましくない。
【0028】
本発明でいうバグフィルターによるろ過式集塵法の集塵機構は、一般的に次のように考えられている。ろ布に、ある粒径分布を持ったダストを通すと、粗い粒子は主として慣性衝突により、また細かい粒子は主として拡散作用及び遮り作用によって、ろ布を構成する繊維に付着し、繊維と繊維間に粒子のブリッジを形成する。このようにして形成された一次付着層は、屈曲した多数の細孔を持ち、空間率は元のろ布自体の空間率よりも大きくなる。この小さな細孔によって微細な粒子の捕集が行われる。
【0029】
本発明の積層体は、基布の両面にウェブを有し、該ウェブの少なくとも一方の20%以上が、表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維で構成される。この積層体によって、上記集塵機構で述べた一次付着層の空間率をより大きくすることが出きることから優れた集塵効率が得られる。表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維が、20%に満たなければ、積層体の空間率は、従来のものと大差無く、目的とする集塵効率が得られず好ましくない。
【0030】
表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維の構成率が、一方の20%以上であれば良く、一方のウェブの100%を構成、あるいは他方のウェブのどれだけを占めても、優れた集塵効率が得られるため差し支えない。
【0031】
本発明の積層体において、表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維を、ウェブの少なくとも一方の20%以上構成する具体的な方法は、特に限定されないが、例えば、予め目的の比率に混合しておいたウェブを積層する方法や、厚さ方向に層別し異なった表面積のPPS繊維を積層する方法がある。
【0032】
さらに本発明の積層体は、該ウェブの少なくとも一方の20%以上が、表面積230〜800m2 /KgのPPS繊維で構成されており、目付が350〜750g/m2 で、厚さが1.5〜3.0mmである事を特徴としている。
【0033】
目付が350g/m2 に満たない場合は、通気性が大きくなり、目的の集塵効率が得られないので好ましくない。
【0034】
逆に、目付が750g/m2 より大きくなると、集塵効率では問題はないが、使用原料代が増加し、経済的理由から好ましくない。
【0035】
又、一定状態の目付における厚さの変動は、密度の変動を意味している。密度はすなわち通気性に影響し、本発明の積層体の厚さが3.0mmを越える場合は、その目付の割には通気性が大きくなり、目的の集塵効率が得られず好ましくない。
【0036】
厚さが1.5mm以下の場合は、通気性において問題はなくても、耐摩耗性などの耐久性において問題があり好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によると、耐熱性と耐薬品性が要求される厳しい条件下においても、十分な強度を保持しつつもその機能を維持継続し得る、圧力損失が低く微細なダストが捕集できて、しかも集塵効率が高いバグフィルター用ろ布に好適な積層体を提供することを可能とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の両面にウェブ層を有し、該基布と該ウェブ層が絡合されてなるシート状積層体において、該基布が、ポリフェニレンサルファイド及び/又はポリテトラフルオロエチレンから構成され、且つ該ウェブ層の少なくとも一方の20%以上が、表面積230〜800m2 /Kgのポリフェニレンサルファイド繊維で構成されてなることを特徴とする集塵効率の優れた積層体。
【請求項2】
目付が350〜750g/m2 で、厚さが1.5〜3.0mmであることを特徴とする請求項1記載の集塵効率の優れた積層体。
【請求項3】
ポリフェニレンサルファイド繊維が異形断面形状であることを特徴とする請求項1記載の集塵効率の優れた積層体。

【公開番号】特開2006−199043(P2006−199043A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101550(P2006−101550)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【分割の表示】特願平9−269828の分割
【原出願日】平成9年10月2日(1997.10.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】