集塵機システムの省エネ制御装置
【課題】熱延ラインのような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファンの周波数制御を正確且つ簡単に行うことができ、最適な省エネ運転を実現することができる集塵機システムの省エネ制御装置を提供する。
【解決手段】本省エネ制御装置は、気流を発生させるファン4と、ファン4を駆動するモータ7と、モータ7を制御する制御装置8とを備える。制御装置8には、モータ7を周波数制御するインバータ制御部9と、データ蓄積部10と、演算部11とが備えられている。データ蓄積部10は、モータ7の消費電力データを時系列に蓄積する。演算部11は、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、ファン4の特性と上記気流に関する抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する。
【解決手段】本省エネ制御装置は、気流を発生させるファン4と、ファン4を駆動するモータ7と、モータ7を制御する制御装置8とを備える。制御装置8には、モータ7を周波数制御するインバータ制御部9と、データ蓄積部10と、演算部11とが備えられている。データ蓄積部10は、モータ7の消費電力データを時系列に蓄積する。演算部11は、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、ファン4の特性と上記気流に関する抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製鉄所等において使用される集塵機システムの省エネ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所、例えば、熱延ラインでは、微細な鉄くず等のダストや、油分を含むヒューム(Fume:煙霧)が発生する。このため、熱延ラインでは、スラブを圧延するラインの上方にフードを設置し、このフードからダストやヒュームを吸い込んで集塵処理を行っている。このような集塵機システムでは、ファンを使用し、ダストやヒュームを含む空気をフードから吸い込み、ヒューム等を取り除いた空気を外部に排出する。従来では、ファンを商用周波数(最大)で運転させて必要な風量を確保し、ダンパーによって風量の調整を行っていた。
【0003】
しかし、このような運用では、ファンでの消費エネルギーが大きくなり、省エネルギー(以下、単に「省エネ」ともいう)化を図ることができない。そこで、最近では、集塵機システムに、ファンをインバータ制御するための装置を導入することが多くなってきている(例えば、特許文献1乃至3参照)。かかるシステムであれば、例えば、ラインで製品を生産している時は周波数を上げて必要な風量を確保し、製品を生産していない時は周波数を下げて省エネ化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−285325号公報
【特許文献2】特開2001−38128号公報
【特許文献3】特開2008−64434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成の集塵機システムでは、システム全体を考慮した抵抗曲線とファンの特性とに基づいて、インバータによる周波数制御を行っている。
【0006】
なお、集塵機システムでは、ダストやヒュームが、配管内やファンのブレード等に経年的に堆積する。上記抵抗曲線は流量の二乗で表すことができるため、ダストやヒュームの堆積によって流量が変化することにより、抵抗曲線は経年的に変化してしまう。同様に、ファンの特性についても、化学成分を持った粉塵等があるとブレードに堆積しやすくなる可能性もあることから、その影響を受けて経年的に変化する。
【0007】
このため、例えば、特許文献2に記載のものにおいて初期に最適周波数を設定しても、抵抗曲線及びファン特性の経年変化から、その制御周波数が、時間の経過と共に最適点からずれてしまうといった問題があった。即ち、省エネ運転を長期に渡って維持することはできず、場合によっては、設備に必要な流量が確保できなくなる恐れもあった。
【0008】
また、熱延ラインでは、圧延するスラブの種類によって、発生するダストやヒュームの種類・量が異なる。このため、上記抵抗曲線の変化やファン特性の変化は、集塵機システム毎に異なる挙動を示す。また、集塵機システムでは、配管や煙突の清掃といったメンテナンスが定期・不定期で行われることがあり、かかる場合は、抵抗曲線やファン特性が、それまでのものとは不連続的に変化してしまう。
【0009】
このような理由から、特許文献1に記載のものでは、システム内に種々の測定器を取り付けて、設備状態の把握を行っている。しかし、熱延ラインは設備環境が悪く、測定器の故障等が発生し易い。また、配管等も大型であり、配管内の圧力や温度、風量等、測定器の値そのものにも誤差が含まれる可能性がある。このため、特許文献1に記載のものでは、設備状態を正確に把握することができず、インバータによる適切な周波数制御を実現することが困難であった。
【0010】
なお、特許文献3に記載の集塵機システムでは、多数の配管、ファン、フィルターが用いられており、システム全体の等価抵抗曲線、ファン全体の総合特性等を正確に求めることができない。このため、特許文献3に記載のものでは、排ガスの温度や集塵量を測定し、その測定結果に基づいて周波数制御を行っている。しかし、このものにおいても、上記特許文献1に記載のものと同様の問題が発生してしまう。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、熱延ラインのような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファンの周波数制御を正確且つ簡単に行うことができ、最適な省エネ運転を実現することができる集塵機システムの省エネ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る集塵機システムの省エネ制御装置は、フードから吸い込んだ空気を、配管及び集塵機を経由させて外部に排出するための気流を発生させるファンと、ファンを駆動するモータと、モータを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、モータを周波数制御するインバータ制御部と、モータの消費電力データを時系列に蓄積するデータ蓄積部と、データ蓄積部に蓄積された消費電力データに基づいて、ファンの特性と気流に関する抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する演算部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る集塵機システムの省エネ制御装置であれば、熱延ラインのような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファンの周波数制御を正確且つ簡単に行うことができる。このため、最適な省エネ運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1における省エネ制御装置を備えた集塵機システムを示す構成図である。
【図2】他の集塵機システムの例を示す構成図である。
【図3】省エネ運転の一例を示す図である。
【図4】ファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。
【図5】ファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。
【図6】ファン特性と抵抗曲線との時間推移を示す図である。
【図7】集塵機の必要圧力の時間推移を示す図である。
【図8】モータの消費電力の時間推移を示す図である。
【図9】運転及びメンテナンスを繰り返した時のモータの消費電力トレンドを示す図である。
【図10】この発明の実施の形態1における集塵機システムの省エネ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】流量と圧力との関係を定量的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における省エネ制御装置を備えた集塵機システムを示す構成図である。
図1において、1は熱延ラインである。熱延ライン1では、圧延機で圧延されるスラブから、微細なダストや油分を含むヒューム(Fume:煙霧)が発生する。このため、熱延ライン1には、ダストやヒュームを収集・処理するための集塵機設備が備えられている。なお、熱延ライン1向けの集塵機設備は、製鉄所の中でも比較的簡単な構成を有するものである。
【0017】
集塵機設備には、例えば、フード2、EP集塵機(Electrical Precipitator)3、ファン(Fan)4、煙突5、配管6が備えられている。フード2は、例えば、圧延機の上方等に設置される。熱延ライン1で発生したダスト・ヒュームを含む空気は、フード2から配管6に吸引され、EP集塵機3に送られる。EP集塵機3では、吸い込んだ空気からダストやヒュームを吸着・除去する。ダスト・ヒュームが除去された空気は、EP集塵機3から下流側の配管6へと送られ、煙突5から施設外部へと排出される。
【0018】
ファン4は、例えば、EP集塵機3の下流側に設けられる。ファン4は、熱延ライン1上方の空気をフード2から吸い込み、その空気を配管6やEP集塵機3を経由させて煙突5から外部に排出するための気流を発生させる。7はファン4を駆動するためのモータである。ファン4及びモータ7は、フード2から吸い上げた空気を大気に排出するまでの圧力損失に打ち勝つだけの十分な容量のものが選ばれる。モータ7(ファン4の回転)は、制御装置8によって制御される。
制御装置8には、インバータ制御部9、データ蓄積部10、演算部11、判定部12が備えられている。
【0019】
なお、図2は他の集塵機システムの例を示す構成図であり、ダンパーを用いた従来の電気炉(EAF:Electric Arc Furnace)用の集塵機システムを示している。図2において、13は炉、14はフード、15はダンパー(Damper)、16は熱交換器(Heat Exchanger)、17はバッグフィルター(Bag Filter)、18はファン、19は配管である。
このような多数の配管19、ファン18を備えたシステムにおいても、ダンパー15に代えて、上記制御装置8を採用することが可能である。
【0020】
上記インバータ制御部9は、インバータ制御機能を司る。インバータ制御部9は、モータ7の周波数制御を行い、モータ7を最適な周波数で駆動する。
図3はこれらの設備に対する省エネ運転の基本的考え方の例を示す図である。熱延ライン1の圧延機でスラブを圧延している運転中は、圧延を行っていないアイドル中よりも、ダストやヒュームが多く発生する。このため、十分な流量(風量)を得るために必要なファン4の周波数は、図3に示すように、アイドル中よりも運転中の方が当然に高くなる。
【0021】
インバータ制御部9は、十分な流量を確保した上で、ファン4での消費エネルギーがなるべく少なくなるように設定された周波数で、モータ7を駆動する。例えば、インバータ制御部9は、ラインの運転中とアイドル中とにおいて、異なる周波数でモータ7を駆動する。
【0022】
データ蓄積部10は、モータ7で消費した電力の情報を時系列に蓄積する機能を有している。データ蓄積部10は、例えば、この電力情報を時刻情報とともに記憶することにより、消費電力データの蓄積を行う。
【0023】
演算部11は、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、現状設備に最適な、即ち、ファン4の特性と設備全体の(上記気流に関する)抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する機能を有している。なお、省エネ周波数とは、現状設備において省エネ運転を実現するための周波数である。即ち、省エネ周波数は、現在の運転周波数よりも低い値である必要がある。
【0024】
一方、演算部11によって算出された省エネ周波数は、省エネ運転が実現できることの他に、設備に必要な最低流量が確保できるものでなければならない。なお、最低流量とは、ヒューム等を含む空気が熱延ライン1上に滞留することがないように、上記気流を形成するための最低限必要な流量のことである。判定部12は、演算部11によって算出された省エネ周波数でモータ7を駆動した時の流量と、所定の最低流量とを比較し、上記省エネ周波数によって最低流量が確保できるか否かを判定する。
【0025】
以下に、図4乃至図10も参照し、データ蓄積部10、演算部11、判定部12の機能について具体的に説明する。
図4はファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。図4において、A及びBはファン4の特性曲線である。特性曲線A及びBは、流量が増加するにつれて圧力が低下し、その低下幅も流量が大きいほど大きくなることを示している。なお、Aは周波数60Hzの時の特性曲線、Bは周波数45Hzの時の特性曲線である。
【0026】
図4に示すC及びDは本集塵機設備の抵抗曲線である。抵抗曲線C及びDは、流量が増加するにつれて圧力も増加し、その増加幅も流量が大きいほど大きくなることを示している。抵抗曲線Cは、集塵機設備内、例えば、配管6内や煙突5内に堆積したヒューム等の量が少ない(或いは、ない)場合のものを示している。集塵機設備が稼動した後は、配管6内や煙突5内にヒューム等が徐々に堆積していく。ヒューム等が堆積することによって集塵機設備全体としての抵抗は増加する。このため、ヒューム等が堆積することによって抵抗曲線はその傾きが大きくなり、曲線としては立ち上がった状態となる。抵抗曲線Dは、配管6内や煙突5内にヒューム等が一定量堆積した時のものを示している。
【0027】
例えば、集塵機設備の抵抗曲線がCで示す状態の場合、ファン4を60Hz及び45Hzの周波数で駆動しても、設備に必要な最低流量Q1を十分に確保できる。このため、インバータ制御部9は、周波数を60Hzと45Hzとに切り替えながら、モータ7を駆動することができる。集塵機設備の抵抗曲線がDで示す状態の時も、最低流量Q1は確保できる。しかし、周波数45Hzの時の流量は、最低流量Q1に既にかなり接近している。その後、ヒューム等が配管6内に更に堆積すると、例えば、周波数が60Hzの時は最低流量Q1が確保できるものの、周波数45Hzでは最低流量Q1が確保できない状態となる。かかる場合、インバータ制御部9では、周波数を45Hzに落とすことはできず、60Hzでモータ7を駆動しなければならない。その後、ヒューム等が配管6内に更に堆積すると、抵抗曲線はEの状態となる。かかる場合は、周波数を60Hzにしても最低流量Q1を確保することができない。このため、インバータ制御部9では、周波数を60Hz以上の所定の値に設定して、モータ7を駆動する必要がある。
【0028】
図5はファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。図5において、A1はファン4をある所定の期間使用した後における、周波数60Hzのファン4の特性曲線を示している。周波数60Hzにおけるファン4の特性曲線は、設備稼働当初は、例えば、Aの状態にある。しかし、ファン4自体が経年変化したりヒューム等がブレードに付着したりすることにより、ファン4の性能は徐々に劣化し、その特性曲線は、時間の経過とともに変化する。このため、特性曲線がA1に変化した状態では、同一周波数(60Hz)でファン4を駆動しても、流量・圧力は、当初の流量(特性曲線がAの時の流量・圧力)よりも値が小さくなる。
【0029】
なお、集塵機設備では、配管6やファン4、煙突5の清掃といったメンテナンスが定期・不定期で行われることがある。また、そのメンテナンスも、集塵機設備全体に対して行われたり、配管6のみ、ファン4のみ、煙突5のみといったように部分的に行われたりする。メンテナンスによって集塵機設備全体を稼動初期の状態に戻すことができれば、例えば、図4のEの状態まで悪化した抵抗曲線をCの状態まで戻すことができる。しかし、配管6等の経年変化もあり、稼動後の集塵機設備を、メンテナンスによって稼動初期の状態に戻すことは困難である。集塵機設備全体をメンテナンスした直後の抵抗曲線は、例えば、図4において、抵抗曲線Cの左側に近接した位置に描かれる。また、集塵機設備の一部をメンテナンスした直後の抵抗曲線は、例えば、図4において、抵抗曲線Cの左側に近接した、或いは離れた位置に描かれる。
【0030】
ファン4についても同様に、設備が稼動した後では、図5のA1まで悪化した特性曲線をAの状態まで戻すことは困難である。ファン4をメンテナンスした直後の特性曲線は、例えば、図5において、特性曲線Aの下側に近接した位置に描かれる。
【0031】
図6はファン特性と抵抗曲線との時間推移を示す図である。上述したように、ファン4の特性曲線は種々の要因によって経年的に変化し、AからA1に示す状態に徐々に劣化する。また、抵抗曲線も同様に経年的に変化し、ヒューム等が堆積していない場合はCからC1に示す状態に、ヒューム等が堆積している場合はDからD1に示す状態に徐々に劣化する。
【0032】
ある時間において流量と圧力とを実測した場合、その実測値は、特性曲線Aの抵抗曲線C及びDに挟まれた部分が時間的に推移して形成される湾曲面Fに含まれる。即ち、湾曲面Fは、集塵機設備が持つ制御領域を示している。
なお、ファン4の特性曲線や設備の抵抗曲線は、メンテナンスによって不連続的に変化する場合がある。このため、ある時間に流量と圧力とを実測したとしても、実測値からだけでは、その値が大局的にどのような状況で得られたのかを判断することは難しい。例えば、メンテナンスの前後では、流量・圧力の実測値は、大きく異なる値を示す。しかし、メンテナンスの前後で測定された値は、双方とも上記湾曲面Fに含まれている。
【0033】
図7は集塵機の必要圧力の時間推移を示す図である。集塵に必要な(吸着)圧力は、例えば、集塵機内の目詰まり等により、時間の経過とともに増加し、清掃前に最大値を示す。清掃によって目詰まりを解消すると、必要(吸着)圧力は大幅に減り、その後は上記挙動を繰り返す。なお、実際の必要圧力は、ファン特性の変化やヒューム等の堆積状況にも影響を受ける。
【0034】
なお、モータ7の消費電力は、次式で表すことができる。
L=αQ3
=βP×Q2
上式において、Lは電力、Qは流量、Pは圧力、α及びβは係数である。
【0035】
このため、データ蓄積部10に蓄積される消費電力データは、図7とは逆の挙動を示す。即ち、モータ7の消費電力は、設備の稼動初期に最大値を示し、時間の経過とともに減少する。そして、清掃(メンテナンス)が行われると、消費電力は大幅に増加し、その後は上記挙動を繰り返す。なお、消費電力についても、当然に、ファン特性の変化やヒューム等の堆積状況(抵抗曲線の変化)の影響を受ける。
【0036】
図8はモータの消費電力の時間推移を示す図であり、圧力及び流量と消費電力との関係を示している。例えば、稼動開始直後、集塵機設備は、駆動周波数におけるファン4の特性曲線と抵抗曲線との交点Gが示す圧力・流量で操業される。この時のモータ7の消費電力は、最大値Hを示す。そして、時間の経過とともに抵抗曲線の傾きが大きくなると、流量・圧力の変化に伴い、モータ7の消費電力が減少する。その後、設備のメンテナンス前に特性曲線と抵抗曲線との交点がJの位置に達し、モータ7の消費電力が極値Kとなる。
【0037】
この時点で設備のメンテナンスが行われると、設備の抵抗曲線は、理想的には稼動開始直後の状態となり、ファン4の特性曲線と抵抗曲線との交点はGの位置に戻る。しかし、メンテナンスによって全てのヒュームを除去することは困難であり、また、配管6やファン4にも経年変化が発生する。このため、メンテナンス直後は、ファン4の特性曲線が操業開始直後の状態よりも僅かに下方に移動したり、抵抗曲線の傾きが操業開始直後の状態よりも僅かに大きくなったりする。
【0038】
しかし、メンテナンスが行われることにより、ファン4の特性曲線と抵抗曲線との交点はGの近傍の位置まで戻り、モータ7の消費電力も上記最大値H付近の値H1にまで戻る。そして、時間の経過とともに、上記挙動を繰り返す。
【0039】
なお、モータ7の消費電力の傾き(減少度合い)は、集塵機設備毎に異なる値を示す。また、設備によっては、H1の値がHの大きさよりも極端に減少したりもする。更に、設備によっては、時間の経過に伴い、モータ7の消費電力の傾きが大きくなる場合もある(即ち、H1からK1に至るまでの時間が、HからKに至るまでの時間よりも短くなる設備もある)。これらの挙動は、その設備に固有のものである。
【0040】
そこで、本制御装置8では、データ蓄積部10にモータ7の消費電力データを蓄積していくことにより、演算部11は、このデータ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、その設備の挙動、即ち、ファン特性の変化や抵抗曲線の変化に伴う集塵能力の劣化を学習、推定する。
【0041】
図9は運転及びメンテナンスを繰り返した時のモータの消費電力トレンドを示す図である。集塵機設備が運転とメンテナンスとを繰り返し行うことにより、モータ7の消費電力の変化の中で、抵抗曲線が影響するもの、ファン特性が影響するものが顕在化し、図9に示すようなトレンドを把握することが可能となる。演算部11は、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データからそのトレンドを把握して、現状における最適な周波数を算出する。
【0042】
なお、ある時間にモータ7の消費電力を測定しても、その値だけでは、設備がどのような状態にあるのかを把握することはできず、演算部11は、現状における最適な周波数を導くことはできない。データ蓄積部10にモータ7の消費電力データを時系列に蓄積していくことにより、現状設備における消費電力のトレンドを把握することができ、省エネ運転に最適な周波数を導くことができる。
【0043】
図10はこの発明の実施の形態1における集塵機システムの省エネ制御装置の動作を示すフローチャートである。
図10に示すように、制御装置8では、集塵機設備が商用運転されている間、モータ7の消費電力をデータ蓄積部10に時間情報とともに逐一記録する(S1)。次に、制御装置8では、演算部11が、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、ファン特性と抵抗曲線とから導くことができる制御空間(図6における湾曲面Fに相当)を学習・推定する(S2)。
【0044】
上記制御空間を導くことにより、現状設備における消費電力トレンドを把握することができる。例えば、演算部11は、集塵能力に対するメンテナンス期間やメンテナンス場所の寄与率を数値化して設備の現状を把握し、現状の設備において実施可能な省エネ周波数を算出する(S3)。
【0045】
S3において省エネ周波数が算出されると、次に、判定部12が、算出された周波数によって、設備の最低流量が確保できるか否かを判定する(S4)。S4において最低流量が確保できていれば(最低流量以上であれば)、制御装置8では、S3で算出された省エネ周波数を用いて、インバータ制御部9による制御を行う(S5)。一方、S4において最低流量が確保できていない(最低流量より少ない)場合、制御装置8は、メンテナンスを促すためのメッセージを外部に出力する(S6)。
【0046】
この発明の実施の形態1によれば、熱延ライン1のような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファン4の周波数制御を正確且つ簡単に行うことができ、最適な省エネ運転を実現することができる。本省エネ制御装置では、演算部11が省エネ周波数を算出する際に、測定値として、モータ7の消費電力しか利用していない。即ち、本省エネ制御装置では、モータ7の消費電力以外に、圧力や流量、温度といった、測定しなければ現状の値が分からない他の物理値を利用することなく、省エネ周波数の算出を行っている。モータ7の消費電力は、モータ7に備えられた電力計から正確な値を簡単に取得することができ、デジタル処理も可能である。
【0047】
なお、図10のS2において制御空間を学習・推定する方法としては、様々な数理統計学・遺伝子アルゴリズムを利用することができる。演算部11においてこのような予測モデルを使用する場合は、制御装置8の記憶部(図示せず)に、所定の予測モデルを予め記憶させておけば良い。
【0048】
このような設備は、図11を用いて定量的に論ずることができる。ファン特性の経年変化や抵抗曲線の経年変化を考慮した本方式も、図11と同様に論じることができる。
【0049】
以上のように、本省エネ制御装置であれば、操業者・保全者に対しても可視化された方式を提示することができ、運転により状態が変化する設備に対して、省エネ運転を継続して提供することができるようになる。
【0050】
なお、図6及び図8に示す操業データを取得することができれば、その設備に最適な運転領域を把握することができる。このため、所定の数理統計処理やシミュレータ等を使用することにより、最適な設備仕様を提案することも可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1 熱延ライン
2、14 フード
3 EP集塵機
4、18 ファン
5 煙突
6、19 配管
7 モータ
8 制御装置
9 インバータ制御部
10 データ蓄積部
11 演算部
12 判定部
13 炉
15 ダンパー
16 熱交換器
17 バッグフィルター
【技術分野】
【0001】
この発明は、製鉄所等において使用される集塵機システムの省エネ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所、例えば、熱延ラインでは、微細な鉄くず等のダストや、油分を含むヒューム(Fume:煙霧)が発生する。このため、熱延ラインでは、スラブを圧延するラインの上方にフードを設置し、このフードからダストやヒュームを吸い込んで集塵処理を行っている。このような集塵機システムでは、ファンを使用し、ダストやヒュームを含む空気をフードから吸い込み、ヒューム等を取り除いた空気を外部に排出する。従来では、ファンを商用周波数(最大)で運転させて必要な風量を確保し、ダンパーによって風量の調整を行っていた。
【0003】
しかし、このような運用では、ファンでの消費エネルギーが大きくなり、省エネルギー(以下、単に「省エネ」ともいう)化を図ることができない。そこで、最近では、集塵機システムに、ファンをインバータ制御するための装置を導入することが多くなってきている(例えば、特許文献1乃至3参照)。かかるシステムであれば、例えば、ラインで製品を生産している時は周波数を上げて必要な風量を確保し、製品を生産していない時は周波数を下げて省エネ化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−285325号公報
【特許文献2】特開2001−38128号公報
【特許文献3】特開2008−64434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成の集塵機システムでは、システム全体を考慮した抵抗曲線とファンの特性とに基づいて、インバータによる周波数制御を行っている。
【0006】
なお、集塵機システムでは、ダストやヒュームが、配管内やファンのブレード等に経年的に堆積する。上記抵抗曲線は流量の二乗で表すことができるため、ダストやヒュームの堆積によって流量が変化することにより、抵抗曲線は経年的に変化してしまう。同様に、ファンの特性についても、化学成分を持った粉塵等があるとブレードに堆積しやすくなる可能性もあることから、その影響を受けて経年的に変化する。
【0007】
このため、例えば、特許文献2に記載のものにおいて初期に最適周波数を設定しても、抵抗曲線及びファン特性の経年変化から、その制御周波数が、時間の経過と共に最適点からずれてしまうといった問題があった。即ち、省エネ運転を長期に渡って維持することはできず、場合によっては、設備に必要な流量が確保できなくなる恐れもあった。
【0008】
また、熱延ラインでは、圧延するスラブの種類によって、発生するダストやヒュームの種類・量が異なる。このため、上記抵抗曲線の変化やファン特性の変化は、集塵機システム毎に異なる挙動を示す。また、集塵機システムでは、配管や煙突の清掃といったメンテナンスが定期・不定期で行われることがあり、かかる場合は、抵抗曲線やファン特性が、それまでのものとは不連続的に変化してしまう。
【0009】
このような理由から、特許文献1に記載のものでは、システム内に種々の測定器を取り付けて、設備状態の把握を行っている。しかし、熱延ラインは設備環境が悪く、測定器の故障等が発生し易い。また、配管等も大型であり、配管内の圧力や温度、風量等、測定器の値そのものにも誤差が含まれる可能性がある。このため、特許文献1に記載のものでは、設備状態を正確に把握することができず、インバータによる適切な周波数制御を実現することが困難であった。
【0010】
なお、特許文献3に記載の集塵機システムでは、多数の配管、ファン、フィルターが用いられており、システム全体の等価抵抗曲線、ファン全体の総合特性等を正確に求めることができない。このため、特許文献3に記載のものでは、排ガスの温度や集塵量を測定し、その測定結果に基づいて周波数制御を行っている。しかし、このものにおいても、上記特許文献1に記載のものと同様の問題が発生してしまう。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、熱延ラインのような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファンの周波数制御を正確且つ簡単に行うことができ、最適な省エネ運転を実現することができる集塵機システムの省エネ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る集塵機システムの省エネ制御装置は、フードから吸い込んだ空気を、配管及び集塵機を経由させて外部に排出するための気流を発生させるファンと、ファンを駆動するモータと、モータを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、モータを周波数制御するインバータ制御部と、モータの消費電力データを時系列に蓄積するデータ蓄積部と、データ蓄積部に蓄積された消費電力データに基づいて、ファンの特性と気流に関する抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する演算部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る集塵機システムの省エネ制御装置であれば、熱延ラインのような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファンの周波数制御を正確且つ簡単に行うことができる。このため、最適な省エネ運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1における省エネ制御装置を備えた集塵機システムを示す構成図である。
【図2】他の集塵機システムの例を示す構成図である。
【図3】省エネ運転の一例を示す図である。
【図4】ファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。
【図5】ファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。
【図6】ファン特性と抵抗曲線との時間推移を示す図である。
【図7】集塵機の必要圧力の時間推移を示す図である。
【図8】モータの消費電力の時間推移を示す図である。
【図9】運転及びメンテナンスを繰り返した時のモータの消費電力トレンドを示す図である。
【図10】この発明の実施の形態1における集塵機システムの省エネ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】流量と圧力との関係を定量的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における省エネ制御装置を備えた集塵機システムを示す構成図である。
図1において、1は熱延ラインである。熱延ライン1では、圧延機で圧延されるスラブから、微細なダストや油分を含むヒューム(Fume:煙霧)が発生する。このため、熱延ライン1には、ダストやヒュームを収集・処理するための集塵機設備が備えられている。なお、熱延ライン1向けの集塵機設備は、製鉄所の中でも比較的簡単な構成を有するものである。
【0017】
集塵機設備には、例えば、フード2、EP集塵機(Electrical Precipitator)3、ファン(Fan)4、煙突5、配管6が備えられている。フード2は、例えば、圧延機の上方等に設置される。熱延ライン1で発生したダスト・ヒュームを含む空気は、フード2から配管6に吸引され、EP集塵機3に送られる。EP集塵機3では、吸い込んだ空気からダストやヒュームを吸着・除去する。ダスト・ヒュームが除去された空気は、EP集塵機3から下流側の配管6へと送られ、煙突5から施設外部へと排出される。
【0018】
ファン4は、例えば、EP集塵機3の下流側に設けられる。ファン4は、熱延ライン1上方の空気をフード2から吸い込み、その空気を配管6やEP集塵機3を経由させて煙突5から外部に排出するための気流を発生させる。7はファン4を駆動するためのモータである。ファン4及びモータ7は、フード2から吸い上げた空気を大気に排出するまでの圧力損失に打ち勝つだけの十分な容量のものが選ばれる。モータ7(ファン4の回転)は、制御装置8によって制御される。
制御装置8には、インバータ制御部9、データ蓄積部10、演算部11、判定部12が備えられている。
【0019】
なお、図2は他の集塵機システムの例を示す構成図であり、ダンパーを用いた従来の電気炉(EAF:Electric Arc Furnace)用の集塵機システムを示している。図2において、13は炉、14はフード、15はダンパー(Damper)、16は熱交換器(Heat Exchanger)、17はバッグフィルター(Bag Filter)、18はファン、19は配管である。
このような多数の配管19、ファン18を備えたシステムにおいても、ダンパー15に代えて、上記制御装置8を採用することが可能である。
【0020】
上記インバータ制御部9は、インバータ制御機能を司る。インバータ制御部9は、モータ7の周波数制御を行い、モータ7を最適な周波数で駆動する。
図3はこれらの設備に対する省エネ運転の基本的考え方の例を示す図である。熱延ライン1の圧延機でスラブを圧延している運転中は、圧延を行っていないアイドル中よりも、ダストやヒュームが多く発生する。このため、十分な流量(風量)を得るために必要なファン4の周波数は、図3に示すように、アイドル中よりも運転中の方が当然に高くなる。
【0021】
インバータ制御部9は、十分な流量を確保した上で、ファン4での消費エネルギーがなるべく少なくなるように設定された周波数で、モータ7を駆動する。例えば、インバータ制御部9は、ラインの運転中とアイドル中とにおいて、異なる周波数でモータ7を駆動する。
【0022】
データ蓄積部10は、モータ7で消費した電力の情報を時系列に蓄積する機能を有している。データ蓄積部10は、例えば、この電力情報を時刻情報とともに記憶することにより、消費電力データの蓄積を行う。
【0023】
演算部11は、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、現状設備に最適な、即ち、ファン4の特性と設備全体の(上記気流に関する)抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する機能を有している。なお、省エネ周波数とは、現状設備において省エネ運転を実現するための周波数である。即ち、省エネ周波数は、現在の運転周波数よりも低い値である必要がある。
【0024】
一方、演算部11によって算出された省エネ周波数は、省エネ運転が実現できることの他に、設備に必要な最低流量が確保できるものでなければならない。なお、最低流量とは、ヒューム等を含む空気が熱延ライン1上に滞留することがないように、上記気流を形成するための最低限必要な流量のことである。判定部12は、演算部11によって算出された省エネ周波数でモータ7を駆動した時の流量と、所定の最低流量とを比較し、上記省エネ周波数によって最低流量が確保できるか否かを判定する。
【0025】
以下に、図4乃至図10も参照し、データ蓄積部10、演算部11、判定部12の機能について具体的に説明する。
図4はファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。図4において、A及びBはファン4の特性曲線である。特性曲線A及びBは、流量が増加するにつれて圧力が低下し、その低下幅も流量が大きいほど大きくなることを示している。なお、Aは周波数60Hzの時の特性曲線、Bは周波数45Hzの時の特性曲線である。
【0026】
図4に示すC及びDは本集塵機設備の抵抗曲線である。抵抗曲線C及びDは、流量が増加するにつれて圧力も増加し、その増加幅も流量が大きいほど大きくなることを示している。抵抗曲線Cは、集塵機設備内、例えば、配管6内や煙突5内に堆積したヒューム等の量が少ない(或いは、ない)場合のものを示している。集塵機設備が稼動した後は、配管6内や煙突5内にヒューム等が徐々に堆積していく。ヒューム等が堆積することによって集塵機設備全体としての抵抗は増加する。このため、ヒューム等が堆積することによって抵抗曲線はその傾きが大きくなり、曲線としては立ち上がった状態となる。抵抗曲線Dは、配管6内や煙突5内にヒューム等が一定量堆積した時のものを示している。
【0027】
例えば、集塵機設備の抵抗曲線がCで示す状態の場合、ファン4を60Hz及び45Hzの周波数で駆動しても、設備に必要な最低流量Q1を十分に確保できる。このため、インバータ制御部9は、周波数を60Hzと45Hzとに切り替えながら、モータ7を駆動することができる。集塵機設備の抵抗曲線がDで示す状態の時も、最低流量Q1は確保できる。しかし、周波数45Hzの時の流量は、最低流量Q1に既にかなり接近している。その後、ヒューム等が配管6内に更に堆積すると、例えば、周波数が60Hzの時は最低流量Q1が確保できるものの、周波数45Hzでは最低流量Q1が確保できない状態となる。かかる場合、インバータ制御部9では、周波数を45Hzに落とすことはできず、60Hzでモータ7を駆動しなければならない。その後、ヒューム等が配管6内に更に堆積すると、抵抗曲線はEの状態となる。かかる場合は、周波数を60Hzにしても最低流量Q1を確保することができない。このため、インバータ制御部9では、周波数を60Hz以上の所定の値に設定して、モータ7を駆動する必要がある。
【0028】
図5はファン特性と抵抗曲線との関係を示す図である。図5において、A1はファン4をある所定の期間使用した後における、周波数60Hzのファン4の特性曲線を示している。周波数60Hzにおけるファン4の特性曲線は、設備稼働当初は、例えば、Aの状態にある。しかし、ファン4自体が経年変化したりヒューム等がブレードに付着したりすることにより、ファン4の性能は徐々に劣化し、その特性曲線は、時間の経過とともに変化する。このため、特性曲線がA1に変化した状態では、同一周波数(60Hz)でファン4を駆動しても、流量・圧力は、当初の流量(特性曲線がAの時の流量・圧力)よりも値が小さくなる。
【0029】
なお、集塵機設備では、配管6やファン4、煙突5の清掃といったメンテナンスが定期・不定期で行われることがある。また、そのメンテナンスも、集塵機設備全体に対して行われたり、配管6のみ、ファン4のみ、煙突5のみといったように部分的に行われたりする。メンテナンスによって集塵機設備全体を稼動初期の状態に戻すことができれば、例えば、図4のEの状態まで悪化した抵抗曲線をCの状態まで戻すことができる。しかし、配管6等の経年変化もあり、稼動後の集塵機設備を、メンテナンスによって稼動初期の状態に戻すことは困難である。集塵機設備全体をメンテナンスした直後の抵抗曲線は、例えば、図4において、抵抗曲線Cの左側に近接した位置に描かれる。また、集塵機設備の一部をメンテナンスした直後の抵抗曲線は、例えば、図4において、抵抗曲線Cの左側に近接した、或いは離れた位置に描かれる。
【0030】
ファン4についても同様に、設備が稼動した後では、図5のA1まで悪化した特性曲線をAの状態まで戻すことは困難である。ファン4をメンテナンスした直後の特性曲線は、例えば、図5において、特性曲線Aの下側に近接した位置に描かれる。
【0031】
図6はファン特性と抵抗曲線との時間推移を示す図である。上述したように、ファン4の特性曲線は種々の要因によって経年的に変化し、AからA1に示す状態に徐々に劣化する。また、抵抗曲線も同様に経年的に変化し、ヒューム等が堆積していない場合はCからC1に示す状態に、ヒューム等が堆積している場合はDからD1に示す状態に徐々に劣化する。
【0032】
ある時間において流量と圧力とを実測した場合、その実測値は、特性曲線Aの抵抗曲線C及びDに挟まれた部分が時間的に推移して形成される湾曲面Fに含まれる。即ち、湾曲面Fは、集塵機設備が持つ制御領域を示している。
なお、ファン4の特性曲線や設備の抵抗曲線は、メンテナンスによって不連続的に変化する場合がある。このため、ある時間に流量と圧力とを実測したとしても、実測値からだけでは、その値が大局的にどのような状況で得られたのかを判断することは難しい。例えば、メンテナンスの前後では、流量・圧力の実測値は、大きく異なる値を示す。しかし、メンテナンスの前後で測定された値は、双方とも上記湾曲面Fに含まれている。
【0033】
図7は集塵機の必要圧力の時間推移を示す図である。集塵に必要な(吸着)圧力は、例えば、集塵機内の目詰まり等により、時間の経過とともに増加し、清掃前に最大値を示す。清掃によって目詰まりを解消すると、必要(吸着)圧力は大幅に減り、その後は上記挙動を繰り返す。なお、実際の必要圧力は、ファン特性の変化やヒューム等の堆積状況にも影響を受ける。
【0034】
なお、モータ7の消費電力は、次式で表すことができる。
L=αQ3
=βP×Q2
上式において、Lは電力、Qは流量、Pは圧力、α及びβは係数である。
【0035】
このため、データ蓄積部10に蓄積される消費電力データは、図7とは逆の挙動を示す。即ち、モータ7の消費電力は、設備の稼動初期に最大値を示し、時間の経過とともに減少する。そして、清掃(メンテナンス)が行われると、消費電力は大幅に増加し、その後は上記挙動を繰り返す。なお、消費電力についても、当然に、ファン特性の変化やヒューム等の堆積状況(抵抗曲線の変化)の影響を受ける。
【0036】
図8はモータの消費電力の時間推移を示す図であり、圧力及び流量と消費電力との関係を示している。例えば、稼動開始直後、集塵機設備は、駆動周波数におけるファン4の特性曲線と抵抗曲線との交点Gが示す圧力・流量で操業される。この時のモータ7の消費電力は、最大値Hを示す。そして、時間の経過とともに抵抗曲線の傾きが大きくなると、流量・圧力の変化に伴い、モータ7の消費電力が減少する。その後、設備のメンテナンス前に特性曲線と抵抗曲線との交点がJの位置に達し、モータ7の消費電力が極値Kとなる。
【0037】
この時点で設備のメンテナンスが行われると、設備の抵抗曲線は、理想的には稼動開始直後の状態となり、ファン4の特性曲線と抵抗曲線との交点はGの位置に戻る。しかし、メンテナンスによって全てのヒュームを除去することは困難であり、また、配管6やファン4にも経年変化が発生する。このため、メンテナンス直後は、ファン4の特性曲線が操業開始直後の状態よりも僅かに下方に移動したり、抵抗曲線の傾きが操業開始直後の状態よりも僅かに大きくなったりする。
【0038】
しかし、メンテナンスが行われることにより、ファン4の特性曲線と抵抗曲線との交点はGの近傍の位置まで戻り、モータ7の消費電力も上記最大値H付近の値H1にまで戻る。そして、時間の経過とともに、上記挙動を繰り返す。
【0039】
なお、モータ7の消費電力の傾き(減少度合い)は、集塵機設備毎に異なる値を示す。また、設備によっては、H1の値がHの大きさよりも極端に減少したりもする。更に、設備によっては、時間の経過に伴い、モータ7の消費電力の傾きが大きくなる場合もある(即ち、H1からK1に至るまでの時間が、HからKに至るまでの時間よりも短くなる設備もある)。これらの挙動は、その設備に固有のものである。
【0040】
そこで、本制御装置8では、データ蓄積部10にモータ7の消費電力データを蓄積していくことにより、演算部11は、このデータ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、その設備の挙動、即ち、ファン特性の変化や抵抗曲線の変化に伴う集塵能力の劣化を学習、推定する。
【0041】
図9は運転及びメンテナンスを繰り返した時のモータの消費電力トレンドを示す図である。集塵機設備が運転とメンテナンスとを繰り返し行うことにより、モータ7の消費電力の変化の中で、抵抗曲線が影響するもの、ファン特性が影響するものが顕在化し、図9に示すようなトレンドを把握することが可能となる。演算部11は、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データからそのトレンドを把握して、現状における最適な周波数を算出する。
【0042】
なお、ある時間にモータ7の消費電力を測定しても、その値だけでは、設備がどのような状態にあるのかを把握することはできず、演算部11は、現状における最適な周波数を導くことはできない。データ蓄積部10にモータ7の消費電力データを時系列に蓄積していくことにより、現状設備における消費電力のトレンドを把握することができ、省エネ運転に最適な周波数を導くことができる。
【0043】
図10はこの発明の実施の形態1における集塵機システムの省エネ制御装置の動作を示すフローチャートである。
図10に示すように、制御装置8では、集塵機設備が商用運転されている間、モータ7の消費電力をデータ蓄積部10に時間情報とともに逐一記録する(S1)。次に、制御装置8では、演算部11が、データ蓄積部10に蓄積された消費電力データに基づいて、ファン特性と抵抗曲線とから導くことができる制御空間(図6における湾曲面Fに相当)を学習・推定する(S2)。
【0044】
上記制御空間を導くことにより、現状設備における消費電力トレンドを把握することができる。例えば、演算部11は、集塵能力に対するメンテナンス期間やメンテナンス場所の寄与率を数値化して設備の現状を把握し、現状の設備において実施可能な省エネ周波数を算出する(S3)。
【0045】
S3において省エネ周波数が算出されると、次に、判定部12が、算出された周波数によって、設備の最低流量が確保できるか否かを判定する(S4)。S4において最低流量が確保できていれば(最低流量以上であれば)、制御装置8では、S3で算出された省エネ周波数を用いて、インバータ制御部9による制御を行う(S5)。一方、S4において最低流量が確保できていない(最低流量より少ない)場合、制御装置8は、メンテナンスを促すためのメッセージを外部に出力する(S6)。
【0046】
この発明の実施の形態1によれば、熱延ライン1のような設備環境が極めて悪い状況下においても、インバータによるファン4の周波数制御を正確且つ簡単に行うことができ、最適な省エネ運転を実現することができる。本省エネ制御装置では、演算部11が省エネ周波数を算出する際に、測定値として、モータ7の消費電力しか利用していない。即ち、本省エネ制御装置では、モータ7の消費電力以外に、圧力や流量、温度といった、測定しなければ現状の値が分からない他の物理値を利用することなく、省エネ周波数の算出を行っている。モータ7の消費電力は、モータ7に備えられた電力計から正確な値を簡単に取得することができ、デジタル処理も可能である。
【0047】
なお、図10のS2において制御空間を学習・推定する方法としては、様々な数理統計学・遺伝子アルゴリズムを利用することができる。演算部11においてこのような予測モデルを使用する場合は、制御装置8の記憶部(図示せず)に、所定の予測モデルを予め記憶させておけば良い。
【0048】
このような設備は、図11を用いて定量的に論ずることができる。ファン特性の経年変化や抵抗曲線の経年変化を考慮した本方式も、図11と同様に論じることができる。
【0049】
以上のように、本省エネ制御装置であれば、操業者・保全者に対しても可視化された方式を提示することができ、運転により状態が変化する設備に対して、省エネ運転を継続して提供することができるようになる。
【0050】
なお、図6及び図8に示す操業データを取得することができれば、その設備に最適な運転領域を把握することができる。このため、所定の数理統計処理やシミュレータ等を使用することにより、最適な設備仕様を提案することも可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1 熱延ライン
2、14 フード
3 EP集塵機
4、18 ファン
5 煙突
6、19 配管
7 モータ
8 制御装置
9 インバータ制御部
10 データ蓄積部
11 演算部
12 判定部
13 炉
15 ダンパー
16 熱交換器
17 バッグフィルター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードから吸い込んだ空気を、配管及び集塵機を経由させて外部に排出するための気流を発生させるファンと、
前記ファンを駆動するモータと、
前記モータを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記モータを周波数制御するインバータ制御部と、
前記モータの消費電力データを時系列に蓄積するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部に蓄積された消費電力データに基づいて、前記ファンの特性と前記気流に関する抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する演算部と、
を備えた集塵機システムの省エネ制御装置。
【請求項2】
所定の予測モデルが予め記憶された記憶部と、
を更に備え、
前記演算部は、前記記憶部に記憶された予測モデルと前記データ蓄積部に蓄積された消費電力データとを用いるとともに、測定しなければ現状の値が分からない物理値のうち、前記消費電力データ以外のものを用いることなく、省エネ周波数を算出することを特徴とする請求項1に記載の集塵機システムの省エネ制御装置。
【請求項3】
前記演算部によって算出された省エネ周波数で前記モータを駆動した時の流量が、所定の最低流量を確保できているか否かを判定する判定部と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の集塵機システムの省エネ制御装置。
【請求項1】
フードから吸い込んだ空気を、配管及び集塵機を経由させて外部に排出するための気流を発生させるファンと、
前記ファンを駆動するモータと、
前記モータを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記モータを周波数制御するインバータ制御部と、
前記モータの消費電力データを時系列に蓄積するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部に蓄積された消費電力データに基づいて、前記ファンの特性と前記気流に関する抵抗曲線とを考慮した省エネ周波数を算出する演算部と、
を備えた集塵機システムの省エネ制御装置。
【請求項2】
所定の予測モデルが予め記憶された記憶部と、
を更に備え、
前記演算部は、前記記憶部に記憶された予測モデルと前記データ蓄積部に蓄積された消費電力データとを用いるとともに、測定しなければ現状の値が分からない物理値のうち、前記消費電力データ以外のものを用いることなく、省エネ周波数を算出することを特徴とする請求項1に記載の集塵機システムの省エネ制御装置。
【請求項3】
前記演算部によって算出された省エネ周波数で前記モータを駆動した時の流量が、所定の最低流量を確保できているか否かを判定する判定部と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の集塵機システムの省エネ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−217911(P2012−217911A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85339(P2011−85339)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】
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