説明

集塵装置付き穿孔工具

【課題】
集塵効率を高めるとともに、作業効率を向上させ小型化した集塵装置を有する穿孔工具を提供する。
【解決手段】
モータの回転力を利用してドリル刃を回転させ、ドリル刃の先端付近に、穿孔される被削材から生じる粉塵を集塵する集塵装置を設けた穿孔工具において、集塵装置にドリル刃を貫通させる貫通部と、ドリル刃先端付近から発生する粉塵を吸引する集塵口と、空気を吹き付ける吹出口を設ける。吸引される空気は集塵フィルタを介してモータに接続されたファンに至る通路に接続され、ファンの回転力によって集塵口からの吸引と、吹出口への吹き付け用の空気流を発生させる。吸引される空気の量は、吹出口から吹き付けられる空気の量よりも多くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿孔穴を開けるための電動モータやエンジン等で駆動される穿孔工具に関し、特に、穿孔時に発生する粉塵を効率よく集塵することのできる集塵装置付き穿孔工具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやレンガといった石材に対し穿孔穴を開けるために穿孔工具が用いられる。穿孔工具はドリル刃を駆動することにより被削材に穿孔穴を開けるものであり、一般的な回転ドリルや、ドリル刃を回転打撃させるハンマドリルや、振動ドリルなどがある。穿孔工具を使用して穿孔作業を行う際には粉塵が発生するため、作業者は防塵マスクや保護眼鏡等を装着して作業をすることがある。近年、作業の際に発生する粉塵を取り除くために、粉塵を吸い取る集塵装置を配設したものが広く用いられるようになってきた。
【0003】
例えば、特開2004−276194号公報では、振動ドリル本体に蛇腹部材と塵埃ボックスによってドリルの刃全体を覆う形にし、塵埃ボックスから集塵管によって、別装置である吸引集塵機に接続する。この方法では、蛇腹部材と塵埃ボックスによって、ドリル刃の全体が覆われるため、高い集塵効果が期待できるものの、蛇腹部材と塵埃ボックスが大がかりになるばかりか、別装置である吸引集塵機が必要となり、携帯性に欠ける。
【0004】
一方、より小型化された集塵装置付きの穿孔工具として、特開2006−88285号公報に記載された技術がある。これは、ドリル刃の後端から軸心にそって流体貫通路を形成し、流体貫通路は先端の逃がし溝部でドリルの外に連通する流体排出口を形成し、外部に設けられるコンプレッサによって、流体貫通路及び流体排出口を介して、圧縮空気をドリルの刃の先端付近に送る。ドリルの刃の先端付近には、集塵カップが設けられ、パイプを介して穿孔工具のモータによって回転する吸引ファンにより粉塵が吸引される。この装置においても、コンプレッサという外部装置が必要であり携帯性に欠ける。また、ドリル刃の軸心部に流体貫通路が形成された特殊な構成であるため、コスト的にも上昇する。
【特許文献1】特開2004−276194号公報
【特許文献2】特開2006−88285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した携帯性の問題を解決するために、特開2006−88285号公報に記載された技術から、流体貫通路をなくし、外部のコンプレッサの接続を省略すること、あるいは、コンプレッサを稼働させない状態で使用して、携帯性を良くすることも考えられる。その場合、穿孔作業時に生じる粉塵はドリル刃の螺旋構造により、集塵アダプタ内部へ移動し、集塵ファンの吸引力によって、集塵通路へ導かれ、集塵ケース内のフィルタにて空気と粉塵に分離され、粉塵は集塵ケース内へ貯蔵される。穿孔作業時において、工具本体は被削材の方向へ移動し、その移動に伴って、スライドパイプと集塵ユニットの集塵ユニットスライド部が移動することで、集塵アダプタは被削材と常に接することが可能となる。
【0006】
しかし、粉塵が十分に吸引できずに、集塵アダプタ及びドリル刃の接触部付近から、粉塵がもれることがあり、作業者が手間をとる場合があった。
【0007】
また、穿孔作業時に生じる粉塵は、ドリル刃の螺旋構造により集塵アダプタ内部へ移動し、集塵ファンの吸引力によって集塵されるが、穿孔作業終了後には、穿孔穴内部に粉塵の一部が残留し、穿孔穴にアンカ等を打ち込む際には、残留した粉塵を除去する必要が生じ、この粉塵を除去する作業時に粉塵が舞ってしまうことがあった。特に、ドリル刃を横方向にしての穿孔作業のみならず、下方向に向けての穿孔作業においては、重力の影響により穿孔穴の内部や周囲に粉塵が残留しやすく、残留した粉塵を除去する作業に手間をとる場合があった。
【0008】
本発明の目的は集塵効率を高めるとともに、作業効率を向上させ小型化した集塵装置を有する穿孔工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、モータと、モータの回転力を伝達してドリル刃(先端工具)を回転させる伝達駆動部と、ドリル刃によって穿孔される被削材から生じる粉塵を集塵する集塵装置を有する穿孔工具において、以下の様に構成することにより達成できる。
【0010】
集塵装置に、前記ドリル刃によって貫通される貫通部と、ドリル刃先端付近から発生する粉塵とその周囲の空気を吸引するための集塵口と、前記貫通されたドリル刃付近に空気を吹き付けるための吹出口を設ける。そして、この集塵口から吸引される空気の量は、吹出口から吹き付けられる空気の量よりも多くする。その比率は、穿孔される被削材の材質、ドリル刃の直径、回転速度など、種々の要因により最適値を決めればよい。
【0011】
穿孔工具のモータには、集塵用のファンを新たに設けるか、あるいは、既存の冷却ファンにその機能を兼用させる。このファンの回転力によって集塵口からの吸引と、吹出口への吹き付け用の空気流の両方を発生させるようにすると良い。集塵装置には、集塵口から集塵フィルタを介してファンに至る通路と、そのファンから吹出口に至る通路を有する伸縮ダクトを設ける。伸縮ダクト内に設けられる2つの通路は、同軸状に、あるいは、並べて配置される。ファンによって吸引される集塵口からの空気の一部は吹出口に還元され、残りの空気は穿孔工具の外部に排出される。伸縮ダクトは、固定部分と伸縮部分により形成され、前記ドリル刃の長手方向とほぼ平行に取り付けられ、長手方向に伸縮可能である。
【0012】
吹出口から吹き付けられる空気流の方向は、集塵装置の貫通部の円周方向、中心部に向かう方向か、ドリル刃の軸方向にほぼ平行な方向か、あるいは両方を兼用しても良い。
【0013】
伸縮ダクトにはハウジングが接続され、このハウジングに集塵ケースが着脱可能にセットされ、集塵ケース内にはフィルタが着脱可能に取り付けられる。尚、集塵装置全体を、穿孔工具から着脱自在としてもよい。
【0014】
前記貫通部は円筒形であり、貫通部の開口の一端側に、ドリル刃と貫通部の間の空気の通過を制限するシャッター部材を設ける。また、貫通部付近の通路は、吹出口につながる通路と集塵口からつながる通路が、ドリル刃の長手軸から見て左右方向に並べて配置される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、集塵装置において、粉塵と共に空気を吸引する吸引口に加え、空気を吹き付ける吹付手段を設けたので、少ない吸引力で効率よく集塵でき、さらに集塵装置の外部へ粉塵が漏れることを効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態による穿孔工具を図1〜図2を参照して説明する。図1はその穿孔工具の部分断面図であり、図2はその外観図である。
【0017】
ハンマドリル本体1は、動作モードとして回転・打撃モード、回転モード、打撃モード及びニュートラルモードの4つのモードを備えるものであって、そのハウジング2には、図示しない打撃機構部と、回転伝達機構部及び切替機構部を有する。ハウジング2の後端部(図1の右端部)にはハンドル3が設けられ、このハンドル3にはスイッチ4が設けられるとともに、給電用の電気コード5が接続される。ハウジング2の側部には、動作モード切替用のダイヤル状の切替スイッチ6が設けられる。切替スイッチ6によって、上記4つの動作モードに切替可能である。ハウジングの前端部には工具保持部2aが設けられ、工具保持部2aにはドリル刃26が装着され、このドリル刃26が打撃力又は回転力或はその双方を受けて被削材8に対し所要の作業を行う。
【0018】
被削材8への穿孔作業では、作業者はハンマドリル1のハンドル3を保持し、スイッチ4を操作することで、モータ18を駆動し、モータ18の回転力が伝達されることにより、ハンマドリル本体1の先端部に装着されたドリル刃26が回転・打撃する。作業者はハンマドリル本体1のハンドル3を保持し、ハンマドリル1を被削材8の方向へ押し付けを行うことで、ドリル刃26が被削材8を破砕し、被削材8に穿孔穴を生じさせる。
【0019】
ドリル刃26は、被削材8を破砕する先端部26aと、被削材8を破砕することで生じる粉塵を穿孔穴内で移動させる機能をもつ螺旋部26bを有する。図に示すように、ドリル刃26の先端部付近は、集塵アダプタ10の貫通部を貫通して被削材8に達する。この貫通領域たる貫通部の長さは、ドリル刃26の全長のうちの一部分に相当する。
【0020】
回転・打撃モード作業時において、ドリル刃26の先端部26aから生じた粉塵は、ドリル刃26の回転と螺旋部26bの形状とあいまって、集塵アダプタ10の内部へ導かれ、モータ18の回転軸19に設けられた集塵ファン14の吸引力によって、矢印に示すような空気流に乗って、集塵口10bから集塵通路11へ導かれ、集塵装置のハウジング22に設けられた集塵ケース12内のフィルタ13にて空気と粉塵に分離され、粉塵は集塵ケース12内へ貯蔵される。集塵ケース12は、ハウジング22において着脱可能であり、集塵ケース12内部に貯蔵された粉塵は、集塵ケース12を外した際に廃棄することができる。
【0021】
一方、分離された空気は空気通路15を通過し集塵ファン14へ到達し、集塵ファン14に流入した空気の一部は、第1の排出口60(図2)よりハンマドリル本体1外部へと排出され、残りは集塵アダプタ10へ再度流入する。この構成の詳細については後述する。再度流入される空気は、その風の流れを用いて、集塵アダプタの貫通部に風を吹き付ける際に利用される。
【0022】
ハンマドリル本体1内部にはドリル刃26を駆動する動力源として、モータ18が設けられる。ドリル刃26を駆動する際にはモータ18は回転するとともに発熱する。モータ18の発熱を抑えるためにモータ18の回転軸19には冷却ファン17が設けられ、冷却ファン17の吸引力により、テールカバー16に設けられた図示せぬ冷却風取り入れ口から冷却風を吸引し、矢印に従って、冷却風はモータ18を冷却する。冷却風はモータ冷却後、冷却ファン17へ到達し、図示しない排出口よりハンマドリル本体1外部へと排出される。
【0023】
集塵アダプタ10は、ハンマドリル本体1に取り付けられたスライダー部31により、ドリル刃26付近において、被削材8に接触するように保持される。スライダー部31は、固定パイプ31aとスライダーパイプ31bと、スプリング32を有し、これにより伸縮ダクトとして作用する集塵通路11が形成される。スプリング32は、固定パイプ31aとスライダーパイプ31bとの間に設けられており、互いを離間する方向に付勢するので、スライダーパイプ31bに接続される集塵アダプタ10は被削材8の方向に付勢される。スライダー部31は、ロック41によりスライダーパイプ31bの動きを制限し、任意の伸縮位置にて固定することもできる。
【0024】
回転・打撃モードで作業している時は、穿孔穴を開ける際に、穿孔穴が深くなるに伴いハンマドリル本体1は被削材8の方向へと移動する。集塵アダプタ10は、ハンマドリル本体1が被削材8の方向へと移動するのに伴い、スプリング32が押し縮められ、スライダーパイプ31bの一部が固定パイプ31aの内部に入ることによって、スライダー部31が収縮し、集塵アダプタ10は常に被削材8と接するように構成される。その際、スライダー部31はドリル刃26の長手方向と略平行になるように保持され、集塵アダプタ10はハンマドリル本体1に対して、ドリル刃26の軸方向に移動することになる。このように、スライダー部31である伸縮ダクトは、伸縮可能に設けられる構成としたために、その穿孔穴の深さに応じた長手方向の長さのスライダー部31とすることができ、穿孔穴の深さに対応した集塵を行なうことができる。
【0025】
穿孔作業時に生じる粉塵はドリル刃26の螺旋構造26bにより、集塵アダプタ10内部へ移動する。集塵ファン14によって、粉塵及び空気は、集塵アダプタ10から集塵通路11へと移動する。その後に集塵ケース12に設けられたフィルタ13によって、粉塵は集塵ケース12内部に貯蔵され、フィルタ13により濾過された空気のみが空気通路15へと移動する。尚、詳細を図示していないがフィルタ13は集塵ケース12から着脱可能である。そのため、集塵装置のハウジング22の下部又は側部を開放状態で構成し、又は開閉可能に構成しても良い。このように、集塵ケース12を集塵装置より着脱可能とする構成としたために、集塵ケース12内部に貯蔵された粉塵を容易に廃棄することができる。また、集塵ケース12よりフィルタ13を着脱可能とする構成としたために、例えば、フィルタ13が目詰まりなどした際に容易にフィルタ13の交換をすることができる。
【0026】
空気通路に移動した空気は、集塵ファン14によって、排出口60(図2)を介して本体外部へ一部が排出され、残りは集塵アダプタ10に還流される。還流される空気は、案内通路20へ移動する。案内通路20は、スライダー部31の内部で、集塵通路11の上側に設けられる。
【0027】
案内通路20を通過した空気は、集塵アダプタの端(本体1側)を通り、集塵アダプタ10の上部にある吹出口10aへと案内される。吹出口10aは、集塵アダプタ10に形成される。この吹出口10aによって清浄な空気が、ドリル刃26先端、及び/又は、被削材8の付近に吹き付けられる。このようにドリル刃26先端付近に風を吹きつけることができるため、滞留している粉塵を効果的に巻き上げ、比較的少ない吸引力にて集塵することができ、さらに、集塵アダプタ10の外部への粉塵が漏れることも抑制することができる。
【0028】
また、吹出口10aは、集塵アダプタ10に形成されるため、吹き付け手段として集塵アダプタと別の部材を追加する必要がない。また、吹き付けの際に用いる風は、集塵のために用いる集塵ファン14により起こされるため、新たに送風用ファンなどの送風装置を追加する必要がない。さらに、スライダー部31の内部に設けられた案内通路20の内部を吹き付けに用いる空気が通過するために、吹き付けに用いる空気の風を移動させるために、スライダー部31以外の新たな部材を設ける必要がない。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、部品点数が多くなることを抑制することができ、経済的な集塵装置を有する穿孔工具を実現できる。
【0030】
以上、本発明の第1の実施形態を説明したが、その実施形態は種々の応用や変形が可能である。図3にてその使用例の1つを示す。作業者は穿孔穴8a生成後に一旦穿孔穴8aからドリル刃26を抜く。次に、集塵アダプタ10の吹出口10aを穿孔穴8aへ近接させて、その中心軸が先行穴8a内に位置する様にし、スイッチ4を操作することによってモータ18を駆動すると、吹出口10aから吹き付けられる空気は、ドリル刃26の軸方向に開いた穿孔穴8a内部へ流入し、残留した粉塵を穿孔穴8a内部より吐き出し、集塵口10bから集塵通路11へ導かれる。これにより、穿孔穴内部に残留した粉塵を、良好に除去することが可能となる。
【0031】
ここで、集塵ケース12へ移動する空気の量と、吹出口10aから吹き付けられる空気の量では、後者の方を少なくすると良好な集塵効果が得られる。これにより、吹出口10aから吐き出される空気のほぼ全量が集塵口10bから吸引可能であり、さらに周囲の空気まで吸引するため、残留した粉塵が外部へ吐き出されることを有効に防止できる。
【0032】
図4はさらに別の変形例である。図4において、吹出口10aは、集塵アダプタ10の貫通部10d付近に空気を吹き付ける構成となっている。このように集塵アダプタ10の貫通部10d付近に空気を吹き付ける構成とすれば、貫通部10d付近より粉塵が漏れることを抑制することができる。
【0033】
次に、本発明の第二の実施形態を示す穿孔工具を、図5から図12を用いて説明する。図5は集塵装置を有する穿孔工具の全体図を示す。尚、図1と同じ部分には同じ参照符号を付してあり、同じ部分の重複説明は省略する。
【0034】
ハウジング2は、モータ部と、シリンダ部分と、ハンドル部と、伝達駆動部を収容する。ハウジング2には駆動源としてのモータ18が縦置き状態で収納される。そして、このモータ18の上方へ延出する出力軸(モータ軸)19の上端にはピニオン38が一体に形成される。モータ18の出力軸19を挟んで両側には、クランク軸39と中間軸40がそれぞれ垂直且つ回転可能に支承されており、これらのクランク軸39と中間軸40の各中間高さ位置にはギヤがそれぞれ結着され、これらのギヤは、前記モータ軸18の端部に形成された前記ピニオン38に噛合する。
【0035】
ハウジング2の上部には、シリンダ36がその軸方向両端部をボールベアリング41とメタル軸受42によって回転可能に支承されて水平に配されており、このシリンダ36内にはピストン43と打撃子44が摺動可能に嵌装される。ピストン43は、コンロッド45を介してクランク軸39のクランクピンに連結され、コンロッド45の一端は、ピストンピンを介してピストン43に連結される。
【0036】
クランク軸39の回転は、クランクピンとコンロッド45によってピストン43のシリンダ36内における前後方向の往復直線運動に変換され、ピストン43の往復運動によって空気室の内圧が変動するため、この内圧の変動によって打撃子44がシリンダ36内を前後方向に往復動して中間子46に間欠的に衝突するため、中間子46からドリル刃26に打撃力が伝達される。
【0037】
以上説明したギヤ、クランク軸39、コンロッド45、シリンダ36、ピストン43、打撃子44、中間子46等が打撃機構部を構成しており、この打撃機構部によってモータ18の出力軸19の回転がピストン43の往復運動に変換されてドリル刃26に打撃力が与えられる。ドリル刃26の単純な回転は中間軸40から伝達される回転力がシリンダ36に伝わるもので、中間軸40を含む回転部分が回転伝達機構部を構成する。打撃機構部と回転伝達機構部は同時に、あるいは選択的に駆動させることができ、これらのすべて又は一部がドリル刃を回転させるための伝達駆動部を構成する。
【0038】
図5において、図1との大きな違いは、固定パイプ31aとスライダーパイプ31bから構成されるスライダー部31内の通路の配置である。図5においても、スライダー部31の内部に集塵通路11と案内通路20が形成されることに相違はないが、その位置が異なる。図1においては、その図で示すように2つの通路は上下方向に配置されるが、図5においては同心円状(集塵通路11が内周側で案内通路20が外周側)に配置される。また、図5ではモータ18の冷却用のファンが省略されており、集塵ファン14だけがモータに接続される。また、空気流路15から集塵ファン14、案内通路20に至る通路の配置が異なるが、実質的な効果は、図1も図5も変わりはないものである。
【0039】
図6は、図5の穿孔工具の吹出口10aと集塵口10bと、それらに流れる空気の方向を説明するための図である。吹出口10aから排出される空気は、吹出口10aの軸方向に覆われる被削材8により曲げられて、ドリル刃26の方向(即ち、図6の下方向)に流れる。その下側には、大きな集塵口10bがあるため、集塵アダプタ10内で発生したり、巻き起こった粉塵は、集塵口10bにより吸引される。双方の空気の流量は、例えば、吸込みが0.3m/分、吹出しが0.04m/分であり、その割合が15:2である。この割合は、穿孔される被削材8の材質、ドリル刃の直径、回転速度など、種々の要因により最適値が異なるものであるが、共通して言えることは、集塵口10bから吸引される空気流量を、吹出口10aから吹出される空気流量よりも大きくすれば、粉塵の漏れを有効に防ぐことができることである。その割合は、例えば、吸込み量:吹出し量を30:1〜1:1くらいの割合で設定することが可能である。
【0040】
ドリル刃26は、吹出口と集塵口との間にくるように配置される。これにより吹出口10aより吹き出た空気がドリル刃26に当った後に集塵口10bによって集塵され、吹出口10aから出た空気がドリル刃26に付着した粉塵を吹き飛ばすことができ、効率良く集塵することができる。さらに、集塵アダプタ10の先端側(ドリル刃軸方向で、被削材8側)の貫通部の周囲には、集塵アダプタ10よりもわずかながら突出し、カップ状にやや開いたシール部29が形成される。これにより、集塵アダプタ10と被削材8の間の隙間から粉塵が漏れることを有効に防止できる。
【0041】
図7、8は、集塵ファン14付近の空気の流れを説明するための図であり、図7は縦断面図、図8は横断面図であり、両者は説明のために一部模式的に図示している。図7において、集塵ファン14は遠心ファンであり、空気流路15から導かれた清浄な空気を集塵ファン14の上面から吸引し、外周方向に排出する。排出された空気の一部は案内通路20に導かれる。図8は、その横断面図であり、集塵通路11に流れる空気はフィルタ13の方向(図8の紙面裏側方向)に流れる。またフィルタ13を通過した空気は、空気流路15を経由して集塵ファン14の上部(図8の紙面表側)から流入し、一部は矢印81の流れに沿って案内通路20に導かれ、残りは矢印82で示すように排出口60からハウジング2の外部に放出される。このように、集塵ファン14の排出先を振り分けることによって、集塵口10bから吸引される空気の量と、吹出口10aから吹き付けられる空気の量の比率を決定することができる。尚、排出口60の出口に図示しないシャッター部材を設けて、排出口60の開口面積を可変にすれば、上述した空気量の比率を任意に変えることができる。
【0042】
次に、図9〜12を用いて、図5における集塵アダプタ10の具体的構成を説明する。図9は、集塵アダプタ10をドリル刃26が挿入される側から見た斜視図である。集塵アダプタ10の貫通部の一端側(ハンマドリル本体1側)には、前記ドリル刃と前記貫通部の間の空気の通過を制限するシャッター51が設けられる。シャッター51の材質は、例えばゴムである。しかし、それに限定されるものでなく、弾力性があり、高速で回転するドリル刃26に接触してもその回転を妨害せず、接触によって摩耗しにくい材質であるならば、どのようなものでも良い。シャッター51は、円周方向に伸びる10枚の薄い片で構成された、絞り部材の様な形である。シャッター51の中心部は、ドリル刃26と同軸上に穴50が形成される。穴50の大きさは、ドリル刃26よりも若干大きい程度が好ましい。このように、貫通部は円筒形であり、貫通部の一端側にドリル刃と貫通部の間の空気の通過を制限するシャッター部材を設ける構成としたために、粉塵が、貫通部の一端部より漏れることを抑制することができる。
【0043】
図10は、図9のA−A’部の断面を示す図である。集塵アダプタ10には、吹き付けられる空気を排出する円筒形の吹出口10aが形成され、図中の矢印53に示すような方向に空気を導く。矢印53のうち下方向(貫通部の円周方向中心に向かう方向)の空気流を形成するために、吹出口10aの先端部分下側(図10の左端下側)に切り欠きが設けられる。貫通部57の先端外周部には、シール部29が設けられる。集塵アダプタ10は複数のプラスチック部材から形成できるが、これに限定されるものではなく、ほとんどの部材を一体成形しても良いし、他の材料で製造しても良い。このように、吹出口10aを有し、その先端部分下側に切り欠きを形成する構成としたために、吹出口からでた空気がドリル刃26の方向へと噴出し、ドリル刃26付近に付着した粉塵を吹き飛ばすことができ、効率良く集塵を行うことができる。
【0044】
図11は、図9のB−B’部の断面を示す図である。ただし、図11では、シャッター51は、大きい絞りと小さい絞りを有する2重構成になっているが、このように構成するかは任意である。案内通路20から導かれた清浄な空気は、矢印55の向きに流れて吹出口10aに案内される。集塵口10bより吸引された粉塵を含む空気は、矢印54の方向に流れて、集塵通路11へと案内される。このように集塵通路11と案内通路20をドリル刃26の軸方向にみて前後(図1に示す配置)でなく、図11のように左右に配置をするようにすれば、集塵アダプタ10の厚さ(図5の37aで示す部分)を薄く構成することが可能である。図1のように前後に配置する方法だと吸い込みと吐出しの通路を十分広く配置することが困難な場合もあり得るが、図11の配置だと、通路の容量を確保しやすい。
【0045】
また、図5の37aで示す集塵アダプタ10の厚さとして、ドリル刃で螺旋が切ってない部分の厚さ(図5の37bで示す部分)よりも薄くすれば、集塵アダプタ10が邪魔にならずより深い穴をあけることができるので、作業性が良くなる。
【0046】
図12は、図9のC−C’部の断面を示す図である。この図からわかるように、案内通路20は円筒形の貫通部57の外周側に形成される。
【0047】
以上、第1及び第2の実施形態に基づいて本発明を説明したが、これに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、スライダー部31内の集塵通路11と案内通路20の配置や、その断面積の形状は任意に設定可能である。さらに、スライダー部31の内部に案内通路20を設けるのではなく、案内通路20をスライダー部31とは別に構成しても良い。
【0048】
さらに、本実施形態では、ハンマドリルに電源コード5によって給電を行う構成としたが、充電可能な充電池や、太陽電池、燃料電池などによって給電を行う構成であっても良い。また、本実施形態では、ハンマドリルを例として穿孔工具を説明したが、他の穿孔工具であるハンマ、ドリル、振動ドリル、ドライバドリルなどの構成であっても、同様の効果が得られる。
【0049】
さらに、本発明では、集塵用のファンの駆動に電気モータを用いる構成としたが、内燃機関を使う穿孔工具の場合は、その動力を利用してファンを回転させても良いし、内燃機関で発電される電力を用いて電動ファンを回転させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる穿孔工具の断面図。
【図2】図1の穿孔工具の全体図。
【図3】図1の穿孔工具による穿孔動作を説明するための図。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例を示す部分図。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる穿孔工具の断面図。
【図6】図5の穿孔工具の吹出口10aと集塵口10bと、それらに流れる空気の方向を説明するための図。
【図7】図5の集塵ファン14付近の空気流を説明するための模式図(縦断面図)。
【図8】図5の集塵ファン14付近の空気流を説明するための模式図(横断面図)。
【図9】図5の集塵アダプタ10の詳細を示す斜視図。
【図10】図9のA−A’部の断面図。
【図11】図9のB−B’部の断面図。
【図12】図9のC−C’部の断面図。
【符号の説明】
【0051】
1 ハンマドリル本体 3 ハンドル
4 電源スイッチ 8 被削材
10 集塵アダプタ 10a 吹出口
10b 集塵口 11 集塵通路
12 集塵ケース 13 フィルタ
14 集塵ファン 15 空気通路
17 冷却ファン 18 モータ
20 案内通路 22 ハウジング
26 ドリル刃 26a (ドリル刃の)先端部
26b (ドリル刃の)螺旋部
31 スライダー部 31a 固定パイプ
31b スライダーパイプ 32 スプリング
50 穴 51 シャッター
57 貫通部 60 排出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、該モータの回転力を伝達してドリル刃を回転させる伝達駆動部と、
前記ドリル刃によって穿孔される被削材から生じる粉塵を集塵する集塵装置を有する穿孔工具において、
前記集塵装置に、前記ドリル刃によって貫通される貫通部と、前記発生する粉塵とその周囲の空気を吸引するための集塵口と、前記貫通されたドリル刃付近に空気を吹き付けるための吹出口を設けたことを特徴とする穿孔工具。
【請求項2】
前記集塵装置の前記集塵口から吸引される空気の量は、前記吹出口から吹き付けられる空気の量以上であることを特徴とする請求項1記載の穿孔工具。
【請求項3】
前記モータにファンを設け、前記ファンの回転力によって前記集塵口からの吸引と、前記吹出口への吹き付け用の空気流の供給を行うことを特徴とする請求項2記載の穿孔工具。
【請求項4】
前記集塵装置は、前記集塵口から集塵フィルタを介して前記ファンに至る通路と、前記ファンから前記吹出口に至る通路を有する伸縮ダクトを有することを特徴とする請求項3記載の穿孔工具。
【請求項5】
前記ファンによって吸引される前記集塵口からの空気の一部が、前記吹出口に還元され、残りの空気は外部に排出されることを特徴とする請求項4記載の穿孔工具。
【請求項6】
前記伸縮ダクトは、固定部分と伸縮部分により形成され、前記ドリル刃の長手方向とほぼ平行に取り付けられ、長手方向に伸縮可能であることを特徴とする請求項5記載の穿孔工具。
【請求項7】
前記吹出口から吹き付けられる空気流の方向は、前記集塵装置の貫通部の円周方向、中心部に向かう方向であることを特徴とする請求項6記載の穿孔工具。
【請求項8】
前記吹出口から吹き付けられる空気流の方向は、前記集塵装置の貫通部において、ドリル刃の軸方向にほぼ平行な方向であることを特徴とする請求項6記載の穿孔工具。
【請求項9】
前記集塵装置は、前記伸縮ダクトに接続されるハウジングを有し、該ハウジング内にフィルタが着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項7又は8記載の穿孔工具。
【請求項10】
前記集塵装置は前記穿孔工具に対して着脱自在であることを特徴とする請求項9記載の穿孔工具。
【請求項11】
前記貫通部は円筒形であり、該貫通部の一端側に、前記ドリル刃と前記貫通部の間の空気の通過を制限するシャッター部材を設けたことを特徴とする請求項10記載の穿孔工具。
【請求項12】
前記集塵口と前記吹出口は、前記集塵装置において前記ドリル刃が前記集塵口と前記吹出口との間にある位置に設けられることを特徴とする請求項1記載の穿孔工具。
【請求項13】
前記集塵装置は、前記伸縮ダクトの先端部に前記貫通部を形成する集塵アダプタを有し、該集塵アダプタは、前記吹出口につながる通路と前記集塵口からつながる通路が、前記ドリル刃の長手軸から見て左右方向に並べて配置されることを特徴とする請求項4記載の穿孔工具。
【請求項14】
ドリル刃を回転又は打撃して被削材に穿孔する穿孔工具において、
粉塵と共に空気を吸引する集塵口と、ドリル刃の先端付近に空気を吹き付ける吹出口を有し、前記ドリル刃の先端部の外周を覆う集塵装置と、
前記集塵口により吸引された粉塵を貯蔵する集塵ケースと、
前記吸引及び排出される空気流を発生させるファン手段を有することを特徴とする穿孔工具。
【請求項15】
前記集塵装置から吸引される空気流量は、排出される空気流量よりも大きいことを特徴とする請求項14記載の穿孔工具。
【請求項16】
前記ドリル刃はモータによって駆動されるものであり、前記ファン手段は前記モータによって回転されることを特徴とする請求項14記載の穿孔工具。
【請求項17】
モータと、該モータの回転力を伝達してドリル刃を回転させる伝達駆動部と、
前記ドリル刃によって穿孔される被削材から生じる粉塵を集塵する集塵装置を有する穿孔工具において、
前記集塵装置に前記ドリル刃の軸方向に空気を吹き付けるための吹出口を設けたことを特徴とする穿孔工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−136971(P2009−136971A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316696(P2007−316696)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】