説明

雌側端子の構造

【課題】雄側端子の導体が雌側端子の電気接触部に対して傾いた場合でも、高い接触信頼性を維持することが可能な雌側端子の構造を提供する。
【解決手段】雄側端子の導体を挿入可能な電気接触部2内に、該雄側端子の導体との接点を有する弾性接触片10と、弾性接触片10に対向する面に雄側端子の導体との接点を有する突起12と、が形成され、電気接触部内に雄側端子の導体を挿入することにより、前記雄側端子の導体に弾性接触片10の接点11a,11bが弾性的に接触する雌側端子1の構造であって、前記弾性接触片10に雄側端子の導体と接触するための接点11a,11bを複数形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄側端子と雌側端子との接触信頼性を向上させた雌側端子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、雄側端子の導体を挿入可能な略箱状の嵌合部内に、該雄側端子の導体との接点が形成された弾性接触片を有する雌側端子の構造が一般的に知られている。前記弾性接触片の接点は、上記嵌合部に挿入される雄側端子の導体に対して弾性的に圧接する。
【0003】
図6は上記従来における雌側端子の構造の一例を示す斜視図、図7,図8は電気接触部の断面図(図6のA−A断面図)である。
【0004】
図6,図7に示すように、雌側端子21は略箱状の電気接触部22を有している。該電気接触部22内の天壁26側には弾性接触片23が設けられており、この弾性接触片23には、底壁25側へ突出する接点24が形成されている。また、電気接触部22内の底壁25には、弾性接触片23に対向して、天壁26側へ突出する2つの突起27,27が形成されている。
【0005】
図8に示すように、雄側端子の導体であるタブ状接触片28が雌側端子21の電気接触部22内に挿入されていない状態では、前記弾性接触片23に形成された接点24と、底壁25に形成された突起27,27との間の隙間Bが、前記タブ状接触片28の厚さTよりも小さくなっている。
【0006】
タブ状接触片28が、前記雌側端子21の電気接触部22内(隙間B)に挿入されると、タブ状接触片28により弾性接触片23が天壁10側に押し付けられて接点24が変位し、前記隙間Bはタブ状接触片7の厚さTと同一の長さとなる。
【0007】
この時、タブ状接触片28は、前記弾性接触片23の接点24と底壁25の突起27,27の3点と接触すると共に、接点24からタブ状接触片28に対して接触荷重が発生する。
【0008】
雌側端子21と雄側端子(タブ状接触片28)との間に高い接触信頼性を得るためには、接触荷重を高くすることが有効である。接触荷重を高くする方法としては、例えば、弾性接触片23と対向する突起27,27との隙間Bを小さくする方法等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−123935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、配線作業中や振動などにより、タブ状接触片28が電気接触部22に対して傾いた場合、タブ状接触片28の動きに追従できるのは、弾性接触片23に形成された接点24の1箇所のみであり、対向する突起27,27はタブ状接触片28の動きに追従することができなかった。
【0011】
すなわち、タブ状接触片28が電気接触部22に対して傾いた場合、タブ状接触片28は突起27,27のうち一方から浮いてしまい、タブ状接触片28と電気接触部22との電気的な接触は弾性接触片23に形成された接点24と、突起27,27のうちの一方の2点のみとなり、接触信頼性を維持することができなかった。
【0012】
このような接触点の減少は、通電性が悪化して信号電流の伝達が不正確になることや、導通抵抗が増加して端子が加熱してしまう等の原因となるため問題である。
【0013】
以上示したようなことから、雄側端子の導体が雌側端子の電気接触部に対して傾いた場合でも、高い接触信頼性を維持することが可能な雌側端子の構造を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、雄側端子の導体を挿入可能な電気接触部内に、該雄側端子の導体との接点を有する弾性接触片と、弾性接触片に対向する面に雄側端子の導体との接点を有する突起と、が形成され、電気接触部内に雄側端子の導体を挿入することにより、前記雄側端子の導体に弾性接触片の接点が弾性的に接触する雌側端子の構造であって、前記弾性接触片に雄側端子の導体と接触するための接点を複数形成したことを特徴とする。
【0015】
また、他の態様として、前記弾性接触片は、電気接触部と一体に、電気接触部の端部から電気接触部内に折り返されて形成され、電気接触部における前記突起が形成された面に向かって傾斜する基端部と、前記基端部の一側端から、電気接触部における前記弾性接触片が配置された面に向かって傾斜する第1中間部と、第1中間部の一側端から、電気接触部における前記突起が形成された面に向かって傾斜する第2中間部と、第2中間部の一側端から、電気接触部における前記弾性接触片が配置された面に向かって傾斜する先端部と、で形成され、前記基端部と第1中間部,第2中間部と先端部との間に、雄側端子の導体と接触する接点が形成され、前記弾性接触片に対向する面には1つの突起が形成されたこと特徴としても良い。
【0016】
また、他の態様として、前記弾性接触片は、雄側端子の導体を雌側端子の電気接触部内に挿入した際、前記第1中間部と第2中間部間の折曲部の頂点が、電気接触部内における弾性接触片が配置された面に接触することを特徴としても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、雄側端子の導体が雌側端子の電気接触部に対して傾いた場合でも、高い接触信頼性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態における雌側端子の構造を示す斜視図である。
【図2】実施形態における雌側端子の展開図である。
【図3】実施形態における雌側端子の電気接触部の断面図(図1のB−B断面図)である。
【図4】タブ状接触片挿入時の電気接触部の断面図(図1のB−B断面図)である。
【図5】タブ状接触片が電気接触部に対して傾いた時の状態を示す断面図である。
【図6】従来における雌側端子の構造の一例を示す斜視図である。
【図7】従来における雌側端子の電気接触部の断面図(図5のA−A断面図)である。
【図8】従来における雌側端子の電気接触部の断面図(図5のA−A断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態における雌側端子の構造を図1〜図5に基づき詳細に説明する。
【0020】
[実施形態]
図1は、本実施形態における雌側端子の構造を示す斜視図である。図1に示すように、雌側端子1は、電気接触部2と、電線接続部3と、を備える。
【0021】
図2は、本実施形態における雌側端子1の折曲加工前の展開図である。図2に示すように、前記雌側端子1は銅合金等の一枚の導電金属板から展開状態に打ち抜きされた後、所要の形状に折り曲げ成型される。電気接触部2は、底壁5の両側に側壁4,4が位置し、それぞれの側壁4,4の外側に天壁6,6が続き、内側となる一方の天壁6の後端に弾性接触片10が続いている。
【0022】
前記電線接続部3は、図1,図2に示すように、電気接触部2の両側壁4,4と底壁5から桶状壁7を経て続いており、圧着片8,9が形成されている。
【0023】
図3は、図1のB−B断面図である。図1,図3に示すように、電気接触部2は折曲加工により略箱状に形成され、天壁6は2重に形成されている。
【0024】
電気接触部2の弾性接触片10は、内側の天壁6と一体に形成されており、天壁6の後方から延長された状態から前方に折り返されて略W字状に屈曲して成形されている。また、側壁4,4,底壁5,外側の天壁6が折り曲げられて弾性接触片10を包み込むように保護する。
【0025】
弾性接触片10は、電気接触部2の天壁6の後方(電線接続部3)側から前方に折り返され、底壁5に向かって傾斜する基端部10aと、該基端部10aの一側端から天壁6に向かって傾斜する中間部10bと、該中間部10bの一側端から底壁5に向かって傾斜する中間部10cと、該中間部10cの一側端から天壁6に向かって傾斜する先端部10dと、で形成されている。
【0026】
前記基端部10aと中間部10bとの間には底壁5側に突出する接点11bが形成されており、前記中間部10cと先端部10dとの間には底壁5側に突出する接点11aが形成されている。すなわち、弾性接触片10には、雄側端子との接点が2箇所形成されている。また、中間部10bと中間部10c間の折曲部の頂点を11cとする。
【0027】
電気接触部2の底壁5には、弾性接触片10に対向して小さな山形の突起12が突出形成されており、この突起12の頂点が雄側端子との接点12aとなる。
【0028】
前記雌側端子1の電気接触部2に挿入される雄側端子13は、図4に示すように、タブ状(平板状)の導体(以下、タブ状接触片と称する)14と、タブ状接触片14の基部側に形成される箱状部15と、を備えている。
【0029】
ここで、図3に示すように、弾性接触片10の接点11aと底壁5の接点12aとの間の隙間をBa,接点11bと接点12aとの間の隙間をBbとする。雄側端子13のタブ状接触片14を雌側端子1の電気接触部2に挿入していない時、前記隙間Ba,Bbは、タブ状接触片14の厚さT2よりも小さな寸法となる。
【0030】
図4に示すように、雄側端子13のタブ状接触片14が、雌側端子1の電気接触部2内に挿入されると、弾性接触片10はタブ状接触片14によって天壁6側に押し付けられて撓み変形する。この時、接点11a,11bは天壁6側に変位するため、接点11a,11bと接点12aとの間の隙間Ba,Bbはタブ状接触片14の厚さT2と同一の寸法となる。
【0031】
そして、タブ状接触片14は、底壁5に形成された突起12の接点12aと、弾性接触片10の接点11a,11bとの3点で、雌側端子1の電気接触部2と接触することとなる。
【0032】
また、この状態のとき、弾性接触片10からは、その弾性力によりタブ状接触片14に対して底壁5側に向かって押し付ける接触荷重Fが発生する。さらに、タブ状接触片14が電気接触部2内に挿入されると、弾性接触片10の頂点11cが天壁6に当接し、弾性接触片10が天壁6側に変位することが抑制されるため、弾性接触片10からタブ状接触片14に対して作用する接触荷重Fが増加する。
【0033】
このように、雄側端子13のタブ状接触片14が雌側端子1の電気接触部2内に挿入されると、タブ状接触片14は、雌側端子1における弾性接触片10の接点11a,11b,底壁5の接点12aの3点で接触すると共に、接点11a,11bと接点12a間に挟持されるように弾性接触する。すなわち、弾性接触片10の接点11a,11bからタブ状接触片14に接触荷重Fが生じるため、安定した接触が維持される。
【0034】
次に、本実施形態における雌側端子1の構造において、配線作業中や振動等に起因して、雄側端子13(タブ状接触片14)が雌側端子1の電気接触部2に対して傾いた場合を説明する。
【0035】
図5はタブ状接触片14が雌側端子1の電気接触部2に対して傾いた時の様子を示す図である。なお、図5(a)は、タブ状接触片14の先端が天壁6側に傾いた状態を示し、図5(b)は、タブ状接触片14の先端が底壁5側に傾いた状態を示す図である。
【0036】
図5(a)に示すような場合、タブ状接触片14は、底壁5の接点12aを支点として、先端側が天壁6側に変位し、根元側が底壁5側に変位する。この時、振動等によりタブ状接触片14が変位する前の状態(図4の状態)と比較して、弾性接触片10の接点11b側は押し付けられて天壁6側に変位し、接点11a側は底壁5側に変位する。すなわち、タブ状接触片14の動きに対して、弾性接触片10の接点11a,11bは追従することとなる。
【0037】
図5(b)に示すような場合、タブ状接触片14は底壁5の接点12aを支点として、先端側が底壁5側に変位し、根元側が天壁6側に変位する。この時、振動等によりタブ状接触片14が変位する前の状態(図4の状態)と比較して、弾性接触片10の接点11bは底壁5側に変位し、接点11a側は押し付けられて天壁6側に変位する。すなわち、タブ状接触片14の動きに対して、弾性接触片10の接点11a,11bは追従することとなる。
【0038】
以上示したように、本実施形態における雌側端子1の構造によれば、タブ状接触片14の動きに対して追従することができる弾性接触片10に対して2つの接点が形成されているため、タブ状接触片14が振動等により電気接触部2に対して傾いた場合でも、弾性接触片10に形成された接点11a,11bの2点は必ず、タブ状接触片14に接触した状態を維持し、底壁5に形成された接点12bと合わせて、3点の接触が維持される。その結果、タブ状接触片10が雌側端子1の電気接触部2に対して傾いた場合でも、高い接触信頼性を維持することが可能となる。
【0039】
また、弾性接触片10の接点11a,11bからタブ状接触片14に対して接触荷重Fを発生した状態を維持し、高い接触信頼性を確保することが可能となる。さらに、タブ状接触片14が電気接触部2内に挿入されると、弾性接触片14の凸部11cが天壁6に当接し、弾性接触片14が天壁6側に変位することが抑制されるため、弾性接触片10からタブ状接触片14に対して作用する接触荷重Fが増加する。
【0040】
その結果、接触力の低下により、通電性が悪化して、信号電流の伝達が不正確になることや、導通抵抗が増加して端子が加熱する等の問題を抑制することが可能となる。
【0041】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0042】
例えば、実施形態において雌側端子1の電気接触部12には、雄側端子13との接点を、弾性接触片10に2点,底壁5に1点形成させたが、雄側端子13との接点はさらに増加させても良い。
【符号の説明】
【0043】
1…雌側端子
2…電気接触部
3…電線接続部
5…底壁
6…天壁
10…弾性接触片
10a…基端部
10b,10c…中間部
10d…先端部
11a,11b,12…接点
11c…頂点
13…雄側端子
14…タブ状接触片(導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄側端子の導体を挿入可能な電気接触部内に、該雄側端子の導体との接点を有する弾性接触片と、弾性接触片に対向する面に雄側端子の導体との接点を有する突起と、が形成され、電気接触部内に雄側端子の導体を挿入することにより、前記雄側端子の導体に弾性接触片の接点が弾性的に接触する雌側端子の構造であって、
前記弾性接触片に雄側端子の導体と接触するための接点を複数形成したことを特徴とする雌側端子の構造。
【請求項2】
前記弾性接触片は、
電気接触部と一体に、電気接触部の端部から電気接触部内に折り返されて形成され、
電気接触部における前記突起が形成された面に向かって傾斜する基端部と、
前記基端部の一側端から、電気接触部における前記弾性接触片が配置された面に向かって傾斜する第1中間部と、
第1中間部の一側端から、電気接触部における前記突起が形成された面に向かって傾斜する第2中間部と、
第2中間部の一側端から、電気接触部における前記弾性接触片が配置された面に向かって傾斜する先端部と、で形成され、
前記基端部と第1中間部,第2中間部と先端部との間に、雄側端子の導体と接触する接点が形成され、
前記弾性接触片に対向する面には1つの突起が形成されたこと特徴とする請求項1記載の雌側端子の端子構造。
【請求項3】
前記弾性接触片は、
雄側端子の導体を雌側端子の電気接触部内に挿入した際、前記第1中間部と第2中間部間の折曲部の頂点が、電気接触部内における弾性接触片が配置された面に接触することを特徴とする請求項2記載の雌側端子の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−105642(P2013−105642A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249299(P2011−249299)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)