説明

離床センサシステム

【課題】 システム立ち上げ初期から離床有りの判別漏れが少なく、かつ、システム立ち上げ後に離床の有無の判別精度を向上させやすい離床センサシステムを提供する。
【解決手段】 離床センサシステム1は、被介護者Pの寝具9に配置されエラストマー製のセンサ膜20を有するシート状のセンサ2と、基準データとしきい値データとが格納された記憶部30と、被介護者Pの体圧分布に基づいた演算データと基準データとを比較して被介護者Pの姿勢を判別すると共に、演算データの経時変化としきい値データとを比較して被介護者Pの離床の有無を判別し、離床が有ると判別した場合に通報指示を出力する演算部31と、を有する制御装置3と、介護者に離床通報を発信する通報装置4と、介護者から誤判別情報が入力される入力装置5と、を備える。制御装置3は、誤判別情報に基づいてしきい値データを補正することにより、離床の有無の判別精度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被介護者の離床を検出し、被介護者のベッドからの転落や、転倒等を防止するための離床センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院や介護施設においては、患者や高齢者等の被介護者が、自分で起きあがり、ベッドから離れてしまうことがある。このような離床行動は、ベッドからの転落や、転倒等の事故につながるおそれが大きい。このため、被介護者の離床行動を検出して、介護者に通知するシステムが開発されている。
【0003】
例えば、ベッドの端部に配置して、オン/オフの二値で離床を検出する感圧マットが商品化されている。被介護者が感圧マットに乗ると、感圧マットのスイッチがオンになる。スイッチがオンになると、感圧マットから介護者に通報が発信される。当該通報により、介護者は、被介護者の離床を認識する。
【0004】
また、特許文献1には、被介護者の動作をカメラで撮影して、離床行動が開始された場合に、介護者に通報するシステムが開示されている。また、特許文献2には、ベッド上の体圧分布から被介護者の重心位置を算出して、重心位置の移動範囲に基づいて、離床前行動を検出するシステムが開示されている。システムの記憶部には、被介護者の動作を判別するための基準となる教師情報が、予め格納されている。教師情報には、所定の動作(例えば、寝返り、長座位への体位移動等)を行う際の被介護者の重心位置の移動軌跡の特徴が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−72964号公報
【特許文献2】特開2007−313189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、感圧マットによると、通報により介護者が駆けつけても、被介護者が既に離床した後であることが多く、ベッドからの転落や、転倒等の事故を未然に防ぐことは難しい。また、被介護者が離床する際、感圧マットに乗らないで直接床に着足する場合がある。この場合、感圧マットのスイッチはオフのままである。このため、介護者は被介護者の離床を認識することができない。
【0007】
また、特許文献1のシステムの場合、被介護者の動作は、カメラにより常時監視されることになる。このため、被介護者の安全が確保されやすい反面、被介護者のプライバシーが侵害されやすい。
【0008】
一方、特許文献2のシステムは、カメラによる画像ではなく、被介護者の重心位置の情報を基に、離床の有無を判別している。このため、被介護者の安全の確保と、被介護者のプライバシーの保護と、を両立しやすい。ところが、画像を用いる特許文献1のシステムと比較して、重心位置の情報を用いる特許文献2のシステムは、離床の有無の判別精度が低くなるおそれがある。この点、特許文献2の段落[0038]に記載されているように、特許文献2のシステムは、記憶部の教師情報に事例データを追加する機能を有している。
【0009】
具体的には、システムの操作者は、システムから出力された推定動作と、被介護者の実際の動作と、を比較する。比較の結果、推定動作と実際の動作とが一致している場合、操作者は、推定が合っている旨の信号をシステムに入力する。これにより、当該動作を推定するための情報が、教師情報に追加される。このようにして、特許文献2のシステムによると、システム立ち上げ後に判別精度を向上させることができる。
【0010】
しかしながら、特許文献2のシステムの場合、操作者が、被介護者の実際の動作と、当該動作に対するシステムの推定動作と、を比較し、異同を判別する必要がある。この判別作業は煩雑である。また、特許文献2のシステムの場合、システム立ち上げ後に事例データにより教師情報を補強している。このため、システム立ち上げ初期においては、教師情報に含まれないものの実際には被介護者の離床前行動に該当する動作を、システムが「離床前行動である」と判別することができない。このような被介護者の動作をシステムが「離床前行動である」と判別する確率は、事例データが蓄積されることにより、徐々に高くなる。このため、特にシステム立ち上げ初期においては、離床有りの判別漏れが多い。
【0011】
本発明の離床センサシステムは、このような実情に鑑みて完成されたものである。本発明は、システム立ち上げ初期から離床有りの判別漏れが少なく、かつ、システム立ち上げ後に離床の有無の判別精度を向上させやすい離床センサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するため、本発明の離床センサシステムは、被介護者の寝具に配置され、エラストマー製のセンサ膜と、該センサ膜を介して配置される複数の電極と、複数の該電極の配置に対応して設定される複数の検出部と、を有し、入力される荷重を該検出部に対応する電気量として出力可能なシート状のセンサと、該被介護者の姿勢を特定するための基準データと、該被介護者の該姿勢に対応して該被介護者の離床の有無を判別するためのしきい値データと、が格納された記憶部と、該電気量から該被介護者の体圧分布に基づいた演算データを算出し、該基準データと該演算データとを比較することにより該被介護者の該姿勢を判別すると共に、該演算データの経時変化と該しきい値データとを比較することにより該被介護者の離床の有無を判別し、該離床が有ると判別した場合に通報指示を出力する演算部と、を有する制御装置と、該通報指示により介護者に離床通報を発信する通報装置と、該離床通報が発信されたにもかかわらず該被介護者の離床が無かった場合に、該介護者から誤判別情報が入力される入力装置と、を備え、該制御装置は、該誤判別情報に基づいて該しきい値データを補正することにより、該離床の有無の判別精度を向上させることを特徴とする。
【0013】
本発明の離床センサシステムは、センサと制御装置と通報装置と入力装置とを備えている。制御装置は、記憶部と演算部とを備えている。記憶部には、基準データとしきい値データとが格納されている。演算部は、被介護者の体圧分布に基づいた演算データを算出する。また、演算部は、演算データの経時変化としきい値データとを比較することにより、被介護者の離床の有無を判別する。また、演算部は、離床が有ると判別した場合に通報指示を出力する。通報装置は、介護者に離床通報を発信する。ここで、離床通報が発信されたにもかかわらず、実際には被介護者の離床が無かった場合がある。つまり、演算部が、離床の有無を誤判別する場合がある。この場合、介護者は、入力装置に誤判別情報を入力する。制御装置は、誤判別情報に基づいて、しきい値データを補正する。
【0014】
本発明において、「離床」とは、離床行動と離床前行動との両方を含む。すなわち、本発明の離床センサシステムによると、離床行動だけでなく、離床につながるおそれのある行動を含めて、検出することができる。
【0015】
本発明の離床センサシステムによると、被介護者の安全確保のため、補正前の初期のしきい値データが、離床有りと判別されやすいように設定されている。このため、システム立ち上げ初期においては、離床無しの場合であっても離床有りと判別されやすい。したがって、特許文献2のシステムと同様に、システム立ち上げ初期においては、判別精度が低くなるおそれがある。しかしながら、本発明の離床センサシステムによると、システム立ち上げ初期において、離床有りの場合に離床無しと判別される確率は低い。つまり、特許文献2のシステムとは反対に、離床有りの判別漏れが少ない。このため、被介護者の安全を確保しやすい。
【0016】
また、本発明の離床センサシステムによると、介護者は、被介護者の実際の離床の有無と、通報装置からの離床通報と、を比較して、離床通報の正誤を判別すればよい。この判別作業は容易である。このため、本発明の離床センサシステムによると、システム立ち上げ後に、離床の有無を判別するためのしきい値データを補正しやすい。したがって、離床の有無の判別精度を向上させやすい。また、本発明の離床センサシステムによると、しきい値データを補正することにより、個々の被介護者の体型や動作等に合わせて、離床センサシステムをカスタマイズしやすい。したがって、システムの使用前に、被介護者の姿勢や行動のデータを採取する必要はない。
【0017】
また、本発明の離床センサシステムによると、被介護者の体圧分布を、エラストマー製のセンサ膜を有するシート状のセンサにより検出する。ここで、「エラストマー製」とは、センサ膜のベース材料がエラストマーであることを意味する。よって、エラストマー成分の他に、例えば導電性フィラー等の他の成分を含んでいても構わない。
【0018】
センサは、柔軟であり、伸縮性を有する。このため、センサは、被介護者の体に沿いやすい。また、被介護者の体の動きに対しても追従しやすい。したがって、センサが、被介護者の近く、例えばマットレスの上面に配置されても、被介護者は、硬さ、ごわつき等の違和感を感じにくい。つまり、被介護者への負担が少ない。
【0019】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記センサの前記電極は、前記センサ膜の表側に配置される帯状の表側電極と、該センサ膜の裏側に配置される帯状の裏側電極と、からなり、前記検出部は、該表側電極と該裏側電極とが表裏方向から見て交差することにより形成され、入力される前記荷重により該検出部の静電容量が変化する構成とするとよい。
【0020】
一般に、一対の電極間に誘電膜が介装されてなる静電容量型センサの静電容量(キャパシタンス)は、次式(I)により求めることができる。
C=εεS/d・・・(I)
[C:静電容量、ε:真空中の誘電率、ε:誘電膜の比誘電率、S:電極面積、d:電極間距離]
例えば、本構成のセンサに荷重が加わると、センサ膜(誘電膜)は圧縮され、その分だけ電極面に対して平行方向に伸長する。上記式(I)より、センサ膜の厚さ、すなわち電極間距離dが小さくなると、表側電極と裏側電極との間に形成された検出部の静電容量Cは大きくなる。
【0021】
本構成によると、表側電極、裏側電極は、共に帯状である。並びに、検出部は、表側電極と裏側電極との交差部分を利用して配置されている。このため、表側電極、裏側電極の数に対して、検出部の配置数を多くすることができる。また、表側電極、裏側電極の本数、配置等を変更するだけで、検出部の数、密度等が異なる種々のセンサを構成することができる。
【0022】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記表側電極および前記裏側電極は、エラストマーと、該エラストマーに充填される導電性フィラーと、を含んで形成される構成とするとよい。
【0023】
本構成によると、表側電極、裏側電極は、センサ膜と共に伸縮することができる。したがって、センサ膜の伸縮を、表側電極、裏側電極が規制するおそれは小さい。また、センサ全体の伸縮性がより大きくなる。このため、被介護者の体に対する追従性がより向上すると共に、被介護者の違和感がより少なくなる。また、センサの耐久性も向上する。
【0024】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記演算データは、前記体圧分布の形状、該体圧分布の面積、該体圧分布の重心位置のうち、少なくとも一つを含む構成とする方がよい。被介護者の姿勢が変わると、体圧分布が変化する。本構成によると、被介護者の体圧分布の経時変化に基づいて、離床の有無を判別することができる。このため、判別精度を向上させやすい。
【0025】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記しきい値データは、前記体圧分布の形状の変化率、該体圧分布の面積の変化率、該体圧分布の重心位置の変化率のうち、少なくとも一つを含む構成とする方がよい。本構成によると、被介護者の体圧分布の経時変化に基づいて、離床の有無を判別することができる。このため、判別精度を向上させやすい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態の離床センサシステムのセンサが配置されているベッドの斜視図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】同離床センサシステムのセンサの上面透過図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】同離床センサシステムのセンサおよびマットレスの上面透過図である。
【図6】同離床センサシステムの離床判別時のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の離床センサシステムの実施の形態について説明する。
【0028】
[離床センサシステムの構成]
まず、本実施形態の離床センサシステムの構成について説明する。図1に、本実施形態の離床センサシステムのセンサが配置されているベッドの斜視図を示す。図2に、図1のII−II断面図を示す。なお、図1においては、センサを透過して示す。図1、図2に示すように、ベッド9の床板90の上側には、マットレス91が配置されている。マットレス91の上面および側面は、シーツ92により被覆されている。床板90とマットレス91との間には、センサ2が介装されている。センサ2は、マットレス91下面の略全面に亘って配置されている。ベッド9は、本発明における寝具に含まれる。
【0029】
図3に、センサの上面透過図を示す。図4に、図3のIV−IV断面図を示す。なお、図3においては、表側絶縁被覆層、裏側絶縁被覆層を省略して示す。また、裏側電極、裏側配線を細線で示す。また、検出部にハッチングを施して示す。
【0030】
図3、図4に示すように、離床センサシステム1は、センサ2と、制御装置3と、通報装置4と、入力装置5と、を備えている。
【0031】
センサ2は、センサ膜20と、表側電極01X〜24Xと、裏側電極01Y〜18Yと、検出部A0101〜A2418と、表側配線01x〜24xと、裏側配線01y〜18yと、表側絶縁被覆層21と、裏側絶縁被覆層22と、表側配線用コネクタ23と、裏側配線用コネクタ24と、を備えている。なお、検出部の符号「A○○△△」中、上二桁の「○○」は、表側電極01X〜24Xに対応している。下二桁の「△△」は、裏側電極01Y〜18Yに対応している。
【0032】
センサ膜20は、ウレタンゴム製であって、シート状を呈している。センサ膜20は、XY方向(前後左右方向)に延在している。センサ膜20の表裏方向は、上下方向に対応している。
【0033】
表側電極01X〜24Xは、センサ膜20の上面に、合計24本配置されている。表側電極01X〜24Xは、各々、アクリルゴムと、導電性カーボンブラックと、を含んで形成されている。表側電極01X〜24Xは、各々、帯状を呈している。表側電極01X〜24Xは、各々、X方向(左右方向)に延在している。表側電極01X〜24Xは、Y方向(前後方向)に、所定間隔ごとに離間して、互いに略平行になるように、配置されている。
【0034】
表側配線01x〜24xは、センサ膜20の上面に、合計24本配置されている。表側配線01x〜24xは、各々、アクリルゴムと、銀粉と、を含んで形成されている。表側配線01x〜24xは、各々、線状を呈している。表側配線用コネクタ23は、センサ膜20の左前隅に配置されている。表側配線01x〜24xは、各々、表側電極01X〜24Xの左端と、表側配線用コネクタ23と、を接続している。
【0035】
表側絶縁被覆層21は、センサ膜20の上方に配置されている。表側絶縁被覆層21は、アクリルゴムを含んで形成されている。表側絶縁被覆層21は、シート状を呈している。表側絶縁被覆層21は、センサ膜20、表側電極01X〜24X、表側配線01x〜24xを、上方から覆っている。
【0036】
裏側電極01Y〜18Yは、センサ膜20の下面に、合計18本配置されている。裏側電極01Y〜18Yは、各々、アクリルゴムと、導電性カーボンブラックと、を含んで形成されている。裏側電極01Y〜18Yは、各々、帯状を呈している。裏側電極01Y〜18Yは、各々、Y方向に延在している。裏側電極01Y〜18Yは、X方向に、所定間隔ごとに離間して、互いに略平行になるように、配置されている。
【0037】
裏側配線01y〜18yは、センサ膜20の下面に、合計18本配置されている。裏側配線01y〜18yは、各々、アクリルゴムと、銀粉と、を含んで形成されている。裏側配線01y〜18yは、各々、線状を呈している。裏側配線用コネクタ24は、センサ膜20の左後隅に配置されている。裏側配線01y〜18yは、各々、裏側電極01Y〜18Yの後端と、裏側配線用コネクタ24と、を接続している。
【0038】
裏側絶縁被覆層22は、センサ膜20の下方に配置されている。裏側絶縁被覆層22は、アクリルゴムを含んで形成されている。裏側絶縁被覆層22は、シート状を呈している。裏側絶縁被覆層22は、センサ膜20、裏側電極01Y〜18Y、裏側配線01y〜18yを、下方から覆っている。
【0039】
検出部A0101〜A2418は、図3にハッチングで示すように、表側電極01X〜24Xと、裏側電極01Y〜18Yと、が上下方向に交差する部分(重複する部分)に配置されている。検出部A0101〜A2418は、各々、表側電極01X〜24Xの一部と、裏側電極01Y〜18Yの一部と、センサ膜20の一部と、を備えている。検出部A0101〜A2418は、合計432個(=24個×18個)配置されている。検出部A0101〜A2418は、センサ2の略全面に亘って配置されている。
【0040】
制御装置3は、センサ2の表側配線用コネクタ23、裏側配線用コネクタ24と、各々、電気的に接続されている。制御装置3は、記憶部30と演算部31とを有する。
【0041】
記憶部30は、RAM(Random Access Memory)300と、第一ROM(Read Only Memory)301と、第二ROM302と、を備えている。
【0042】
RAM300には、表側配線用コネクタ23、裏側配線用コネクタ24から入力されるインピーダンス、位相が、一時的に格納される。また、当該インピーダンス、位相を基に演算部31により算出された、検出部A0101〜A2418の静電容量が格納される。さらには、当該静電容量を基に演算部31により算出された、被介護者Pの体圧分布の形状、面積、および重心位置(演算データ)が格納される。
【0043】
図5に、本実施形態の離床センサシステムのセンサの上面透過図を示す。図5中、センサについては、表側電極および裏側電極を一点鎖線で示し、検出部を黒点で示す。図5に示すように、被介護者Pの姿勢(例えば、仰向け、横向き、ベッドサイド腰掛け等)により、被介護者Pの下に敷かれる検出部A0101〜A2418の形状、面積は、様々である。このため、被介護者Pの姿勢に応じた体圧分布の形状、面積、および重心位置が、演算データとして、RAM300に格納される。
【0044】
第一ROM301には、予め、人間の姿勢(仰向け、横向き、ベッドサイド腰掛け等)ごとの標準的な体圧分布の形状、面積、および重心位置(基準データ)が格納されている。
【0045】
第二ROM302には、離床の有無を判別するための体圧分布の形状、面積、および重心位置に関するしきい値データが格納されている。しきい値データは、人間の姿勢に応じて、複数種類(例えば、仰向け用のしきい値データ、横向き用のしきい値データ、ベッドサイド腰掛け用のしきい値データ等)用意されている。なお、初期のしきい値データは、離床の有無が判別しにくいグレーゾーン動作の場合についても「離床有り」と判別するように、厳格に設定されている。第二ROM302は、書き換え可能なEEP(Electrical Erasable Programable)−ROMである。
【0046】
演算部31は、RAM300に格納された演算データと、第一ROM301に格納された基準データと、を比較して、被介護者Pの姿勢を判別する。並びに、当該演算データの経時変化と、第二ROM302に格納されたしきい値データと、を比較して、被介護者Pの離床の有無を判別する。その結果、離床が有ると判別した場合には、通報装置4に通報指示を出力する。
【0047】
通報装置4は、二つのスピーカー(図略)を備えている。一方のスピーカーは、ベッド9の横に配置されている。他方のスピーカーは、介護者が常駐しているナースセンターに配置されている。制御装置3から通報指示を受けると、通報装置4は、スピーカー(図略)からアラーム音を発信する。
【0048】
入力装置5は、制御装置3に電気的に接続されている。入力装置5は、オン/オフのスイッチ(図略)を備えている。スイッチは、ベッド9の横に配置されている。通報装置4のアラーム音が鳴ったにもかかわらず、被介護者Pの離床が無かった場合には、介護者はスイッチを押す。
【0049】
[離床センサシステムの動き]
次に、本実施形態の離床センサシステム1の動きについて説明する。なお、以下の説明は、図5において、仰向けに寝ていた被介護者Pがベッドサイドに腰掛けた場合を想定している。図6に、本実施形態の離床センサシステムの離床判別時のフローチャートを示す。
【0050】
離床センサシステム1を起動すると、まず、演算部31は、センサ2の検出部A0101〜A2418ごとに、静電容量Cを算出する。すなわち、検出部A0101から検出部A2418までを、あたかも走査するように、静電容量Cを算出する。算出された静電容量Cは、RAM300に格納される。続いて、演算部31は、算出された静電容量Cから、センサ2における体圧分布を算出する。算出された体圧分布の形状、面積、および重心位置は、演算データとしてRAM300に格納される。
【0051】
次に、演算部31は、RAM300に格納された被介護者Pの演算データと、第一ROM301に格納された基準データと、を比較して、被介護者Pの姿勢を判別する(S1)。つまり、図5に示すように、被介護者Pが仰向けに寝ていると判別する。
【0052】
続いて、演算部31は、所定時間ごとの演算データの変化率と、第二ROM302に格納されたしきい値データ(判別された仰向け姿勢に対応するしきい値データ)と、を比較する(S2)。ここで、図5に示すように、被介護者Pがベッドサイドに腰掛けると、荷重が加わる検出部の数が少なくなる。また、荷重が加わる検出部の位置が右側に移動する。このため、体圧分布の形状、面積、および重心位置が変化する。
【0053】
比較の結果、演算データの変化率がしきい値データ以下の場合(一例として、演算データの重心位置の変化率が、しきい値データの重心位置の変化率以下の場合。つまり、被介護者Pのベッドサイドへの動きが遅い場合)、演算部31は、被介護者Pの離床行動が無いと判別する(S10)。
【0054】
比較の結果、演算データの変化率がしきい値データよりも大きい場合(一例として、演算データの重心位置の変化率が、しきい値データの重心位置の変化率よりも、大きい場合。つまり、被介護者Pのベッドサイドへの動きが速い場合)、演算部31は、被介護者Pの離床行動が有ると判別する(S3)。
【0055】
この場合、演算部31は、通報装置4に通報指示を出力する(S4)。通報指示を受けた通報装置4は、二つのスピーカーからアラーム音を発信する(S5)。そして、ナースセンター等に居る介護者に、被介護者Pの離床が通知される。通報を受けた介護者は、被介護者Pのベッド9に駆けつけて、アラーム音の発信を停止すると共に(S6)、実際の離床の有無を確認する(S7)。
【0056】
確認の結果、実際に被介護者Pの離床が有った場合、介護者は、被介護者Pをベッド9に寝かせる等、必要な処置を施す。
【0057】
確認の結果、被介護者Pの離床が無かった場合、介護者は、入力装置5のスイッチを押す(S8)。スイッチが押される回数は、制御装置3のカウンタ(図略)により、カウントされている。カウント数が四回になると、すなわち、アラーム音が鳴っても実際には被介護者Pの離床が無いという誤判別が四回発生すると(S9)、第二ROM302に格納されたしきい値データが、離床の有無の判別レベルが緩慢になる方向に、所定補正量だけ書き換えられる(S10)。すなわち、被介護者Pがベッドサイドに移動しても、その動きがある程度遅い場合は、離床有りと判別しにくくするように、しきい値データが書き換えられる。
【0058】
なお、図5において、仰向けに寝ていた被介護者Pが横向きに寝返りを打った場合、横向きに寝ていた被介護者Pがベッドサイドに腰掛けた場合等も、上記の場合と同様に、離床の有無が判別される。
【0059】
[作用効果]
次に、本実施形態の離床センサシステム1の作用効果について説明する。本実施形態の離床センサシステム1によると、使用前に、被介護者Pの姿勢や行動のデータを採取する必要はない。ここで、第二ROM302に格納されている補正前の初期のしきい値データは、離床の有無が判別しにくいグレーゾーン動作の場合についても「離床有り」と判別するように、厳格に設定されている。すなわち、体圧分布の形状、面積、および重心位置の変化率が比較的小さくても、離床有りと判別するように、しきい値データが設定されている。このため、離床センサシステム1を起動させた初期においては、離床無しの場合であっても離床有りと判別されやすく、判別精度が低くなるおそれがある。しかしながら、離床有りの場合に離床無しと判別される確率は低い。すなわち、離床有りの判別漏れが少ない。このため、被介護者Pの安全を確保しやすい。また、本実施形態の離床センサシステム1によると、離床行動だけでなく、離床につながるおそれのある行動を含めて、検出することができる。
【0060】
本実施形態の離床センサシステム1によると、通報装置4からの離床通報(アラーム音)があった場合に、介護者が被介護者Pの実際の離床の有無を確認するだけで、離床通報の正誤を容易に判別することができる。また、誤判別された場合には、入力装置5のスイッチを押すだけで、誤判別情報を容易に入力することができる。これにより、誤判別が四回発生した場合には、第二ROM302に格納されたしきい値データを、離床の有無の判別レベルが緩慢になる方向に、所定補正量だけ書き換えることができる。したがって、本実施形態の離床センサシステム1によると、離床センサシステム1の起動後に、離床の有無を判別するためのしきい値データを補正しやすい。つまり、離床の有無の判別精度を向上させやすい。また、しきい値データを補正することにより、個々の被介護者Pの体型や動作等に合わせて、離床センサシステム1をカスタマイズすることができる。
【0061】
本実施形態の離床センサシステム1によると、離床の有無を、体圧分布の形状、面積、および重心位置の変化により判別している。このため、例えば、重心位置のみで判別する場合と比較して、離床の有無をより正確に判別することができる。
【0062】
本実施形態の離床センサシステム1によると、被介護者Pの体圧分布を、シート状のセンサ2により検出する。センサ2は、エラストマー製のセンサ膜20を有する。また、表側電極01X〜24X、裏側電極01Y〜18Yも、エラストマー製である。よって、センサ2は、柔軟であり、伸縮性を有する。このため、被介護者Pは、硬さ、ごわつき等の違和感を感じにくい。
【0063】
また、センサ2を構成する表側電極01X〜24X、裏側電極01Y〜18Yは、共に帯状である。並びに、検出部A0101〜A2418は、表側電極01X〜24と裏側電極01Y〜18Yとの交差部分を利用して配置されている。このため、電極数および配線数が少なくて済む。すなわち、検出部A0101〜A2418は、センサ2に、合計432個配置されている。ここで、検出部A0101〜A2418ごとに電極を配置すると、表側電極が432個、裏側電極が432個、それぞれ必要になる。これに対して、本実施形態のセンサ2によると、432個の検出部A0101〜A2418を確保するのに、表側電極01X〜24X、裏側電極01Y〜18Yを合計42本(=24本+18本)配置するだけで済む。このように、表側電極、裏側電極の数に対して、検出部の配置数を多くすることができる。加えて、表側電極、裏側電極の本数、配置等を変更するだけで、検出部の数、密度等を調整することができる。
【0064】
[その他]
以上、本発明の離床センサシステムの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、離床の有無を、体圧分布の形状、面積、および重心位置という三つのパラーメータにより判別した。このうち、体圧分布の形状については、円形度、縦横比、二次モーメント等で規定することができる。また、判別に用いるパラメータは、体圧分布の形状、面積、および重心位置の三つに限定されない。これらのうちの一つまたは二つのみを用いてもよいし、これらに新たなパラメータを組合せても構わない。
【0066】
上記実施形態では、誤判別が四回発生した場合に、しきい値データを補正するようにした。しかし、誤判別の回数については、四回に限定されることなく、適宜設定すればよい。また、しきい値データの補正では、パラメータごとのしきい値を書き換える他、判別に使用するパラメータを変更してもよい。
【0067】
上記実施形態では、静電容量型センサを採用した。センサの種類は、入力された荷重を検出部に対応する電気量として出力可能なものであれば、特に限定されない。例えば、センサを、変形により電気抵抗が変化するセンサ膜を用いて構成してもよい。また、センサの形状、大きさ等は、特に限定されない。センサから出力される電気量についても、電圧、電気抵抗、静電容量等のいずれであってもよい。また、上記実施形態では、センサを、マットレスの下側に配置した。しかし、センサを、マットレスの上側あるいは内部に配置してもよい。
【0068】
センサ膜のエラストマーの種類は、特に限定されない。例えば、静電容量型センサについては、伸縮の繰り返しに対する耐久性、および静電容量を大きくするという観点から、伸び、強度、および比誘電率が大きいエラストマーを用いることが望ましい。例えば、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、およびこれらの発泡体や、ウレタンフォーム等が好適である。また、抵抗変化型センサの場合、センサ膜は、エラストマーに導電性フィラーを配合して製造される。よって、エラストマーとしては、導電性フィラーとの相溶性等を考慮して、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム等が好適である。なお、センサ膜の荷重に対する電気抵抗の挙動(増加、減少)については、母材のエラストマーの種類、導電性フィラーの種類および配合量等により、調整することができる。
【0069】
上記実施形態のセンサにおいては、電極および配線を、エラストマーを含んで形成した。この場合、電極および配線が伸縮するため、センサ膜と一体となって変形することができる、という利点がある。電極および配線は、センサ膜に直接形成する他、予め別のエラストマーフィルムに電極および配線を形成しておき、当該フィルムをセンサ膜に積層させて形成してもよい。この場合、エラストマーフィルムとしては、上述したセンサ膜に好適なエラストマーに加えて、より耐久性の高いブチルゴム、エチレンプロピレン共重合ゴム等を用いることができる。なお、電極、配線を、金属材料や、有機繊維の表面に金属めっきを施した材料等で形成しても構わない。また、電極の数、配置場所については、特に限定されない。例えば、上記実施形態のセンサにおいて、帯状の表側電極、裏側電極の数、幅、長さについては、適宜決定すればよい。また、表側電極、裏側電極の配置形態を変えることにより、検出部の数、配置を調整すればよい。
【符号の説明】
【0070】
1:離床センサシステム
2:センサ 20:センサ膜 21:表側絶縁被覆層 22:裏側絶縁被覆層
23:表側配線用コネクタ 24:裏側配線用コネクタ
3:制御装置 30:記憶部 31:演算部 300:RAM 301:第一ROM
302:第二ROM
4:通報装置
5:入力装置
9:ベッド(寝具) 90:床板 91:マットレス 92:シーツ
01X〜24X:表側電極 01Y〜18Y:裏側電極 01x〜24x:表側配線
01y〜18y:裏側配線 A0101〜A2418:検出部
P:被介護者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被介護者の寝具に配置され、エラストマー製のセンサ膜と、該センサ膜を介して配置される複数の電極と、複数の該電極の配置に対応して設定される複数の検出部と、を有し、入力される荷重を該検出部に対応する電気量として出力可能なシート状のセンサと、
該被介護者の姿勢を特定するための基準データと、該被介護者の該姿勢に対応して該被介護者の離床の有無を判別するためのしきい値データと、が格納された記憶部と、該電気量から該被介護者の体圧分布に基づいた演算データを算出し、該基準データと該演算データとを比較することにより該被介護者の該姿勢を判別すると共に、該演算データの経時変化と該しきい値データとを比較することにより該被介護者の離床の有無を判別し、該離床が有ると判別した場合に通報指示を出力する演算部と、を有する制御装置と、
該通報指示により介護者に離床通報を発信する通報装置と、
該離床通報が発信されたにもかかわらず該被介護者の離床が無かった場合に、該介護者から誤判別情報が入力される入力装置と、
を備え、
該制御装置は、該誤判別情報に基づいて該しきい値データを補正することにより、該離床の有無の判別精度を向上させることを特徴とする離床センサシステム。
【請求項2】
前記センサの前記電極は、前記センサ膜の表側に配置される帯状の表側電極と、該センサ膜の裏側に配置される帯状の裏側電極と、からなり、前記検出部は、該表側電極と該裏側電極とが表裏方向から見て交差することにより形成され、入力される前記荷重により該検出部の静電容量が変化する請求項1に記載の離床センサシステム。
【請求項3】
前記表側電極および前記裏側電極は、エラストマーと、該エラストマーに充填される導電性フィラーと、を含んで形成される請求項2に記載の離床センサシステム。
【請求項4】
前記演算データは、前記体圧分布の形状、該体圧分布の面積、該体圧分布の重心位置のうち、少なくとも一つを含む請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の離床センサシステム。
【請求項5】
前記しきい値データは、前記体圧分布の形状の変化率、該体圧分布の面積の変化率、該体圧分布の重心位置の変化率のうち、少なくとも一つを含む請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の離床センサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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