説明

離形材付き高温超電導線材および超電導コイル

【課題】高温超電導線材に働く剥離力が十分に低減され、安定した超電導特性を得ることができる離形材付き高温超電導線材およびこの高温超電導線材を用いた超電導コイルを提供すること。
【解決手段】本発明に係る離形材付き高温超電導線材1は、テープ状の高温超電導線材10の表面の少なくとも一部に離形材層20が形成されたものである。本発明に係る超電導コイル7は、離形材付き高温超電導線材1を用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離形材付き高温超電導線材および超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導技術の向上に伴い、例えば磁気共鳴画像診断装置(MRI)、超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)や単結晶引き上げ装置等の超電導応用機器が実用化されている。これらの超電導応用機器は、超電導線材を巻回してなる超電導コイルを内蔵している。超電導コイルは、一般的に、樹脂が含浸される。
【0003】
近年、高磁場中での臨界電流特性に優れた高温超電導線材を用いた超電導コイルが開発されている。この高温超電導線材としては、たとえば、特許文献1(特開2007−280710号公報)に、テープ状の金属基板、中間層、超電導層および保護金属層を有する多層構造の薄膜超電導線材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−280710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された高温超電導線材を用いて超電導コイルを作製した場合、製造工程での冷却の際に、高温超電導線材のターン間に剥離力が働き、層間剥離が生じたり高温超電導線材内で亀裂が生じたりする可能性がある。この層間剥離や亀裂は、含浸された樹脂と高温超電導線材との熱収縮率の差に起因するものである。このため、得られた超電導コイルは、この層間剥離や亀裂のために安定した超電導特性が得られないおそれがあるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温超電導線材に働く剥離力が十分に低減され、安定した超電導特性を得ることができる離形材付き高温超電導線材およびこの高温超電導線材を用いた超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、テープ状の高温超電導線材の表面の少なくとも一部に離形材層を形成すると、高温超電導線材に働く剥離力が十分に低減され、安定した超電導特性を得ることができる高温超電導線材が得られることを見出して完成されたものである。
【0008】
本発明に係る離形材付き高温超電導線材は、上記問題点を解決するものであり、テープ状の高温超電導線材の表面の少なくとも一部に離形材層が形成されたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る超電導コイルは、上記問題点を解決するものであり、前記離形材付き高温超電導線材を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る離形材付き高温超電導線材および超電導コイルによれば、高温超電導線材に働く剥離力が十分に低減され、安定した超電導特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態の離形材付き高温超電導線材の断面図。
【図2】図1に示す離形材付き高温超電導線材に用いられる高温超電導線材の断面図。
【図3】本発明の第2実施形態の離形材付き高温超電導線材の断面図。
【図4】本発明の第3実施形態の離形材付き高温超電導線材の断面図。
【図5】本発明の第4実施形態の離形材付き高温超電導線材の断面図。
【図6】本発明の超電導コイルを示す図であり、(a)は軸方向中心に空間を有するパンケーキ状の超電導コイルの斜視図、(b)は(a)に示す超電導コイルの巻回途中部の拡大断面図。
【図7】本発明の超電導コイルを示す図であり、(a)は軸方向中心に空間を有するパンケーキ状の超電導コイルの斜視図、(b)は(a)に示す超電導コイルの巻き始め部の拡大断面図。
【図8】本発明の超電導コイルを示す図であり、(a)は軸方向中心に空間を有するパンケーキ状の超電導コイルの斜視図、(b)は(a)に示す超電導コイルの巻き終わり部の拡大断面図。
【図9】従来の超電導コイルを示す図であり、(a)は軸方向中心に空間を有するパンケーキ状の超電導コイルの斜視図、(b)は(a)に示す超電導コイルの巻回途中部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<離形材付き高温超電導線材>
図面を参照して本発明に係る離形材付き高温超電導線材を説明する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の離形材付き高温超電導線材の第1実施形態の断面図である。図2は、図1に示す離形材付き高温超電導線材に用いられる高温超電導線材の断面図である。
【0014】
図1に示すように、離形材付き高温超電導線材1は、テープ状の高温超電導線材10の表面全体に離形材層20が形成されている。離形材付き高温超電導線材1は、テープ状の外観を有する。
【0015】
図2に示すように、高温超電導線材10は、テープ状物の積層体である多層構造体15の表面全体が、安定化金属層17で被覆された構造になっている。この高温超電導線材10は、一般的にCoated Conductorと呼ばれるものである。
【0016】
多層構造体15は、テープ状の金属基板11と、この金属基板11の表面に形成された中間層12と、この中間層12の表面に形成され高温超電導材料からなる超電導層13と、この超電導層13の表面に形成された保護金属層14とを有する。
【0017】
金属基板11としては、たとえば、ハステロイ(登録商標)等のニッケル合金、ステンレス等からなるテープが用いられる。
【0018】
中間層12は表面に形成される超電導層13の酸化物の結晶成長を促進する層である。中間層12としては、たとえば、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム等からなる多結晶薄膜が用いられる。
【0019】
超電導層13は高温超電導を発現する層である。超電導層13としては、たとえば、イットリウム等の希土類酸化物や、Re123系等の高温超電導材料を主成分とする層が用いられる。
【0020】
保護金属層14は超電導層13を保護する層である。保護金属層14としては、たとえば、銀、金またはこれらの合金からなる層が用いられる。超電導層13の高温超電導材料は、一般的に他の金属と反応しやすい活性な材料であるため、金、銀、これらの合金等以外の金属と直接接触させると、反応が生じて超電導層13の性能が低下するおそれがある。保護金属層14は、超電導層13の性能低下を防止するものである。
【0021】
このように高温超電導線材10は、多層構造体15が積層方向に対して非対称な構造になっている。以下、高温超電導線材10の積層方向の2表面のうち、金属基板11側の表面を金属基板側表面51、超電導層13や保護金属層14側の表面を超電導層側表面52という。
【0022】
安定化金属層17としては、たとえば銅、ステンレス等からなる層が用いられる。
【0023】
離形材層20は、離形材層20とエポキシ樹脂硬化物等の樹脂硬化物との間の接着力が、高温超電導線材10と前記樹脂硬化物との間の接着力に比べて弱くなるように形成された層である。
【0024】
樹脂硬化物は、たとえば離形材付き高温超電導線材1を用いて超電導コイルを作製した場合において巻回した離形材付き高温超電導線材1の幅方向の周囲や離形材付き高温超電導線材1のターン間に塗布されたり含浸されたりする樹脂の硬化物である。
【0025】
離形材層20としては、例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、パラフィン、グリースおよびシリコンオイルより選ばれた少なくとも1種からなる層が用いられる。フッ素系樹脂を用いる場合は、フッ素系樹脂テープを用いることが好ましい。離形材層20が上記材質の2種以上を用いて形成される場合としては、例えば、離形材層20を、グリース層およびシリコンオイル層の2層構造からなるものとする場合が挙げられる。
【0026】
離形材付き高温超電導線材1は、図示しない共巻きテープ等とともに共巻きして巻回するとともに離形材付き高温超電導線材1と共巻きテープとの間に樹脂硬化物層を形成すると、パンケーキ状の超電導コイルを作製することができる。
【0027】
離形材層20は、パンケーキ状の超電導コイルにおいて離形材付き高温超電導線材1のターン間を剥離させようとする引張り力が加わった場合に、離形材層20と樹脂硬化物層との間を積極的に剥離させることにより、高温超電導線材10に引張り力が加わらないまたは加わりにくくするものである。
【0028】
離形材付き高温超電導線材1の作用を説明する。
【0029】
離形材付き高温超電導線材1は、たとえば、図示しない共巻きテープ等とともに共巻きして巻回するとともに離形材付き高温超電導線材1と共巻きテープとの間に樹脂硬化物層を形成すると、パンケーキ状の超電導コイルを作製することができる。
【0030】
このパンケーキ状の超電導コイルでは、巻回された離形材付き高温超電導線材1の表面に対して垂直な強い引張り力が加わったときに、離形材層20と図示しない樹脂硬化物層との界面で引張り力により剥離が生じる。しかし、この引張り力は、離形材層20と樹脂硬化物層との界面の剥離により消費されるため、高温超電導線材10には実質的に及ばない。
【0031】
離形材付き高温超電導線材1によれば、離形材付き高温超電導線材1が周囲に設けられた樹脂硬化物と接触する構造の超電導コイルを作製した場合に、高温超電導線材10中の多層構造体15が剥離しにくく高温超電導線材10の信頼性が高い離形材付き高温超電導線材1が得られる。
【0032】
なお、図2には、多層構造体15の表面全体が安定化金属層17で被覆された構造の高温超電導線材10の例を示したが、本発明の高温超電導線材10は安定化金属層17を備えない構造としてもよい。
【0033】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の離形材付き高温超電導線材の第2実施形態の拡大断面図である。
【0034】
第2実施形態として示す離形材付き高温超電導線材1Aは、図1に第1実施形態として示した高温超電導線材1に比較して、離形材層20に代えて離形材層20Aを備える点、および高温超電導線材10に代えて高温超電導線材10Aを備える点が異なり、他の点は同様である。このため、離形材付き高温超電導線材1Aと離形材付き高温超電導線材1とで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を簡略化する。
【0035】
ここで、高温超電導線材10Aは、高温超電導線材10から安定化金属層17を除去したもの、すなわち高温超電導線材10の多層構造体15を意味する。
【0036】
図3に示すように、離形材付き高温超電導線材1Aは、テープ状の高温超電導線材10の表面のうち、超電導層側表面52のみの全面に離形材層20Aが形成されている。
【0037】
離形材層20Aは、離形材層20と同様の材質からなる。
【0038】
離形材付き高温超電導線材1Aの作用を説明する。
【0039】
離形材付き高温超電導線材1Aは、離形材付き高温超電導線材1と同様にしてパンケーキ状の超電導コイルを作製することができる。
【0040】
このパンケーキ状の超電導コイルでは、高温超電導線材10Aの金属基板側表面51の金属基板11が、離形材付き高温超電導線材1Aの周囲に設けられた図示しない樹脂硬化物と直接接着される。このため、巻回された離形材付き高温超電導線材1Aの表面に対して垂直な強い引張り力が加わったときには、金属基板11に直接強い引張り力が加わるが、金属基板11と樹脂硬化物とは接着されているため高温超電導線材10Aの金属基板側表面51は剥離しない。これに対し、高温超電導線材10Aの超電導層側表面52では、引張り力により、離形材層20Aと樹脂硬化物層との界面で剥離が生じる。
【0041】
このように、離形材付き高温超電導線材1Aの表面に垂直方向に加わった引張り力は、離形材層20Aと樹脂硬化物層との界面の剥離により消費されるため、高温超電導線材10Aには実質的に及ばず、高温超電導線材10Aの積層構造は破損しない。特に高温超電導線材10A内の超電導層側表面52の近傍には比較的衝撃に弱い超電導層13が配置されているが、高温超電導線材10Aの超電導層側表面52の離形材層20Aと樹脂硬化物層との界面が剥離しやすいことにより、引張り力が超電導層13に及びにくくなり超電導層13が破損しにくくなる。
【0042】
なお、金属基板11には一般的に強度の高い部材が用いられるため、金属基板11に直接強い引張り力が加わっても、金属基板11の変形に伴う高温超電導線材10Aの積層構造は破損しない。
【0043】
また離形材付き高温超電導線材1Aでは、金属基板11と樹脂硬化物とが直接接するため、超電導コイルの熱伝導性が高くなる。
【0044】
離形材付き高温超電導線材1Aによれば、離形材付き高温超電導線材1Aの周囲に樹脂硬化物層が設けられた構造の超電導コイルを作製した場合に、離形材付き高温超電導線材1を用いる場合に比べて、離形材付き高温超電導線材1Aの積層方向、すなわち厚み方向の引張り力に対する抵抗力と伝熱性能とを向上させることができる。
【0045】
[第3の実施形態]
図4は、本発明の離形材付き高温超電導線材の第3実施形態の拡大断面図である。
【0046】
第3実施形態として示す離形材付き高温超電導線材1Bは、図3に第2実施形態として示した高温超電導線材1Aに比較して、離形材層20Aに代えて離形材層20Bを備える点が異なり、他の点は同様である。このため、離形材付き高温超電導線材1Bと離形材付き高温超電導線材1Aとで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を簡略化する。
【0047】
図4に示すように、離形材付き高温超電導線材1Bは、テープ状の高温超電導線材10Aの表面のうち、超電導層側表面52の一部のみに離形材層20Bが形成されている。より具体的には、離形材層20Bは、高温超電導線材10A中の超電導層13と同じ幅になるように超電導層側表面52に設けられている。これにより、離形材付き高温超電導線材1Bは、高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54においては、離形材層20Bが設けられず高温超電導線材10Aが露出した構造になっている。
【0048】
離形材層20Bは、離形材層20と同様の材質からなる。
【0049】
離形材付き高温超電導線材1Bの作用を説明する。
【0050】
離形材付き高温超電導線材1Bは、離形材付き高温超電導線材1Aと同様にしてパンケーキ状の超電導コイルを作製することができる。
【0051】
このパンケーキ状の超電導コイルでは、高温超電導線材10Aの金属基板側表面51の金属基板11および高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54が、離形材付き高温超電導線材1Bの周囲に設けられた樹脂硬化物と直接接着される。このため、巻回された離形材付き高温超電導線材1Bの表面に対して垂直な強い引張り力が加わったときには、金属基板11および高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54に直接強い引張り力が加わり、離形材付き高温超電導線材1Aを用いた超電導コイルと同様に、離形材層20Bと図示しない樹脂硬化物層との界面で引張り力により剥離が生じる。この界面を剥離させる力は、高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54にも直接強い引張り力が加わる分、離形材付き高温超電導線材1Aを用いた場合に比べてより強くなる。
【0052】
また、離形材付き高温超電導線材1Bでは、離形材層20Bが、高温超電導線材10A中の超電導層13と同じ幅になるように超電導層側表面52に設けられているため、引張り力が超電導層13に及びにくく超電導層13が破損しにくい。
【0053】
さらに、離形材付き高温超電導線材1Bを用いた超電導コイルでは、離形材付き高温超電導線材1Bの周囲に設けられた樹脂硬化物が、高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54と接着して両端部53、54を固定するため、離形材付き高温超電導線材1Aを用いた超電導コイルに比べて、離形材付き高温超電導線材1Bの積層方向、すなわち厚み方向の引張力に対する抵抗力と伝熱性能とが向上する。
【0054】
離形材付き高温超電導線材1Bによれば、離形材付き高温超電導線材1Bが周囲に設けられた樹脂硬化物と接触する構造の超電導コイルを作製した場合に、離形材付き高温超電導線材1Aを用いる場合に比べて、離形材付き高温超電導線材1Bの積層方向、すなわち厚み方向の引張力に対する抵抗力と伝熱性能とを向上させることができる。
【0055】
[第4の実施形態]
図5は、本発明の離形材付き高温超電導線材の第4実施形態の拡大断面図である。
【0056】
第4実施形態として示す離形材付き高温超電導線材1Cは、図4に第3実施形態として示した高温超電導線材1Bに比較して、高温超電導線材10Aの金属基板側表面51に熱伝導テープ4をさらに備える点が異なり、他の点は同様である。このため、離形材付き高温超電導線材1Cと離形材付き高温超電導線材1Bとで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を簡略化する。
【0057】
図5に示すように、離形材付き高温超電導線材1Cは、テープ状の高温超電導線材10Aの表面のうち、金属基板側表面51に高温超電導線材10Aより幅の広い熱伝導テープ4が固着される。すなわち、離形材付き高温超電導線材1Cは、高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54および熱伝導テープ4の表面においては、離形材層20Bが設けられず高温超電導線材10Aが露出している。
【0058】
熱伝導テープ4としては、たとえば、金属基板11の材質であるハステロイ(登録商標)等よりも熱伝導率の良い部材が用いられる。この熱伝導率の良い部材としては、たとえば、銅、ステンレス、アルミ等が挙げられる。
【0059】
離形材付き高温超電導線材1Cの作用を説明する。
【0060】
離形材付き高温超電導線材1Cは、離形材付き高温超電導線材1と同様にしてパンケーキ状の超電導コイルを作製することができる。
【0061】
このパンケーキ状の超電導コイルでは、高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54、および熱伝導テープ4の表面が、離形材付き高温超電導線材1Cの周囲に設けられた樹脂硬化物と直接接着される。このため、巻回された離形材付き高温超電導線材1Cの表面に対して垂直な強い引張り力が加わったときには、高温超電導線材10Aの幅方向の両端部53、54、および熱伝導テープ4の表面に直接強い引張り力が加わり、離形材付き高温超電導線材1Bを用いた超電導コイルと同様に、離形材層20Bと図示しない樹脂硬化物層との界面で引張り力により剥離が生じる。
【0062】
また、離形材付き高温超電導線材1Cを用いた超電導コイルでは、熱伝導率の良い熱伝導テープ4を用いているため、離形材付き高温超電導線材1Bを用いた場合に比べて離形材付き高温超電導線材1Cの幅方向に対する伝熱性能がより高くなる。
【0063】
離形材付き高温超電導線材1Cによれば、離形材付き高温超電導線材1Cが周囲に設けられた樹脂硬化物と接触する構造の超電導コイルを作製した場合に、離形材付き高温超電導線材1Bを用いる場合に比べて、離形材付き高温超電導線材1Cの幅方向に対する伝熱性能をより高くすることができる。
【0064】
<超電導コイル>
図6〜図8を参照して本発明の超電導コイルを説明する。
【0065】
図6は、本発明の超電導コイルとその断面を示す図である。具体的には、図6(a)は軸方向中心に筒状空間を有するパンケーキ状の超電導コイル7の斜視図、図6(b)は図6(a)に示す超電導コイル7の巻回途中部79の拡大断面図である。
【0066】
図6(a)に示す超電導コイル7は、図6(b)に示すように、巻回途中部79において、テープ状の離形材付き高温超電導線材1Bと絶縁テープ5とが、共巻きされて同心円状に巻回されるとともに周囲に設けられた樹脂硬化物層6で固定される。これにより、超電導コイル7は、外形が、軸方向中心を貫通する空間95を有するいわゆるパンケーキ状に形成されている。なお、図6ではシングルパンケーキコイルを図示しているが、本発明は2枚のパンケーキ状に形成されたいわゆるダブルパンケーキコイルとしても良い。
【0067】
なお、超電導コイル7は、巻回途中部79以外の部分である巻き始め部77や巻き終わり部78では、離形材層20Bを備えない高温超電導線材10Aが用いられ、この高温超電導線材10Aは巻回途中部79の離形材付き高温超電導線材1Bに接合されている。このため、超電導コイル7では、離形材付き高温超電導線材1Bの両端に高温超電導線材10Aが電気的に接合されてなる構造、すなわち高温超電導線材10A―離形材付き高温超電導線材1B―高温超電導線材10Aの構造の高温超電導線材接合材料が用いられる。
【0068】
絶縁テープ5としては、たとえばカプトン(登録商標)等が用いられる。
【0069】
樹脂硬化物層6は、エポキシ樹脂等の硬化樹脂からなる絶縁層である。樹脂硬化物層6は、離形材付き高温超電導線材1Bと絶縁テープ5との幅方向を被覆して巻線側面部72A、72Bを形成するとともに、離形材付き高温超電導線材1Bと絶縁テープ5との積層方向の間隙にも形成される。
【0070】
樹脂硬化物層6は、高温超電導線材接合材料や絶縁テープ5が巻回されて形成されるコイル形状を接着により維持するとともに、高温超電導線材接合材料で発生した熱を導く伝熱経路としても作用する。
【0071】
超電導コイル7は、外形が、筒状空間95に面した内周面75と、外周面76と、軸方向の1対の端面であるリング状の1対の巻線側面部72A、72Bとを備えるものになっている。巻線側面部72A、72Bは、巻回された高温超電導線材接合材料や絶縁テープ5等の幅方向の両端部の集合体が、樹脂硬化物層で被覆される等により形成された面状部分である。
【0072】
超電導コイル7において、高温超電導線材接合材料は、通常、内周面75側から巻き始め、外周面76で巻き終わるように巻回される。以下、高温超電導線材接合材料を巻き始める1ターン目の部分を巻き始め部77という。また、高温超電導線材接合材料を巻き終わる最後の1ターンの部分を巻き終わり部78という。さらに、巻回した高温超電導線材接合材料のうち、巻き始め部と巻き終わり部とを除いた部分を巻回途中部79という。また、巻き始め部77、巻回途中部79および巻き終わり部78からなる部分を巻線部71という。
【0073】
超電導コイル7では、高温超電導線材接合材料のうち、離形材付き高温超電導線材1Bの部分が巻回途中部79に用いられ、高温超電導線材10Aの部分が巻き始め部77および巻き終わり部78に用いられている。
【0074】
図7は、図6に示す超電導コイルとその断面を示す図である。具体的には、図7(a)は図6に示す超電導コイルと同じ超電導コイル7を示す斜視図、図7(b)は図7(a)に示す超電導コイル7の巻き始め部77の拡大断面図である。
【0075】
図7(b)に示すように、巻き始め部77では、図6に示す巻回途中部79と異なり、離形材層20Bの設けられない高温超電導線材10Aが用いられる。
【0076】
巻き始め部77を構成する高温超電導線材10Aは、超電導層側表面52が内周面75側に向くように配置される。
【0077】
この巻き始め部77における高温超電導線材10Aの超電導層側表面52が内周面75側に向く配置は、図6(b)に示す巻回途中部79や図8(b)に示す巻き終わり部78において高温超電導線材10Aの超電導層側表面52が外周面76側に向く配置と、高温超電導線材10Aの配置が逆向きになっている。
【0078】
また、巻き始め部77では、高温超電導線材10Aが最も内周面75側に位置するように配置され、内周面75に高温超電導線材10Aが露出した構造になっている。
【0079】
図8は、図6に示す超電導コイルとその断面を示す図である。具体的には、図8(a)は図6に示す超電導コイルと同じ超電導コイル7を示す斜視図、図8(b)は図8(a)に示す超電導コイル7の巻き終わり部78の拡大断面図である。
【0080】
図8(b)に示すように、巻き終わり部78では、図6に示す巻回途中部79と異なり、離形材層20Bの設けられない高温超電導線材10Aが用いられる。
【0081】
巻き終わり部78では、高温超電導線材10Aが最も外周面76側に位置するように配置され、外周面76に高温超電導線材10Aが露出した構造になっている。
【0082】
このように、超電導コイル7は、巻き始め部77および巻き終わり部78では、離形材層20Bが設けられないとともに、高温超電導線材10Aの超電導層側表面52が内周面75および外周面76に露出した構造になっている。
【0083】
超電導コイル7に用いられる高温超電導線材接合材料は、通常、巻き始め部77用の高温超電導線材10Aと、巻回途中部79用の離形材付き高温超電導線材1Bと、巻き終わり部78用の高温超電導線材10Aとを、それぞれ別部材として用意し、これらの部材を巻回前、巻回中または巻回後に電気的に接続することにより作製される。
【0084】
巻き始め部77用の高温超電導線材10Aと、巻回途中部79用の離形材付き高温超電導線材1Bとを電気的に接続する場合には、高温超電導線材10Aの超電導層側表面52が内周面75側と外周面76側とに逆向きになるように接続する。
【0085】
超電導コイル7によれば、図4に第3実施形態として示した離形材付き高温超電導線材1Bを高温超電導線材接合材料の一部に用いているため、離形材付き高温超電導線材1Bを用いてパンケーキ状の超電導コイルを作製した場合に同様の効果を奏する。
【0086】
また、超電導コイル7によれば、巻き始め部77および巻き終わり部78に離形材層のない高温超電導線材10Aを用い、しかも、この高温超電導線材10Aは超電導層側表面52が樹脂硬化物層6と直接接しないように形成されるため、高温超電導線材10Aが樹脂硬化物層6からの引張り力を受けて、高温超電導線材10A中の超電導層13が破損するおそれが少ない。
【0087】
さらに、超電導コイル7によれば、巻き始め部77および巻き終わり部78に離形材層のない高温超電導線材10Aを用いているため、離形材層の形成による伝熱性能の低下も小さい。
【0088】
図9は、従来の超電導コイルとその断面を示す図である。具体的には、図9(a)は軸方向中心に筒状空間を有する従来のパンケーキ状の超電導コイル8の斜視図、図9(b)は図9(a)に示す従来の超電導コイル8の巻回途中部89の拡大断面図である。
【0089】
図9(a)、(b)に示すように、従来の超電導コイル8は、離形材層が設けられないテープ状の高温超電導線材10Aと絶縁テープ5とが、共巻きされて同心円状に巻回されるとともに周囲に設けられた樹脂硬化物層6で固定され、軸方向中心を貫通する空間95を有するいわゆるパンケーキ状に形成されたものである。
【0090】
従来の超電導コイル8は、離形材層が設けられないため、巻回された高温超電導線材10Aの表面に対して垂直な強い引張り力が加わったときに、高温超電導線材10A中の図示しない多層構造体が破損する可能性がある。
【0091】
これに対し、超電導コイル7によれば、高温超電導線材接合材料の一部として図4に第3実施形態として示した離形材付き高温超電導線材1Bを用いているため、巻回された離形材付き高温超電導線材1Bの表面に対して垂直な強い引張り力が加わっても、離形材付き高温超電導線材1Bの高温超電導線材10A中の多層構造体15が破損しにくいという効果を奏する。
【0092】
なお、図6〜8に示す超電導コイル7は、離形材付き高温超電導線材として離形材付き高温超電導線材1Bを用いた例であるが、本発明の超電導コイルは離形材付き高温超電導線材1Bに代えて離形材付き高温超電導線材1、1Aや1Cを用いてもよい。得られた超電導コイルは、用いられた離形材付き高温超電導線材の特長を備えるものになる。
【0093】
また、上記図6から図8の実施形態においては通常のパンケーキコイルを例として示したがレーストラック形状のパンケーキコイルにおいても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1、1A、1B、1C 離形材付き高温超電導線材
10、10A 高温超電導線材
11 金属基板
12 中間層
13 超電導層
14 保護金属層
15 多層構造体
17 安定化金属層
20、20A、20B 離形材層
4 熱伝導テープ
5 絶縁テープ
51 金属基板側表面
52 超電導層側表面
53、54 高温超電導線材10の幅方向の端部
6 樹脂硬化物層
7 超電導コイル
71 巻線部
72A、72B 巻線側面部
75 内周面
76 外周面
77 巻き始め部
78 巻き終わり部
79 巻回途中部
8 従来の超電導コイル
81 従来の超電導コイルの巻線側面部
810 従来の超電導コイルの巻線側面部部分
85 従来の超電導コイルの内周面
86 従来の超電導コイルの外周面
87 従来の超電導コイルの巻き始め部
88 従来の超電導コイルの巻き終わり部
89 従来の超電導コイルの巻回途中部
95 筒状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の高温超電導線材の表面の少なくとも一部に離形材層が形成されたことを特徴とする離形材付き高温超電導線材。
【請求項2】
前記高温超電導線材は、テープ状の金属基板と、この金属基板表面に形成された中間層と、この中間層表面に形成され高温超電導材料からなる超電導層と、この超電導層表面に形成された保護金属層とを有する多層構造体であり、
前記離形材層は、前記高温超電導線材の表面のうち少なくとも前記保護金属層側の表面に形成されたことを特徴とする請求項1記載の離形材付き高温超電導線材。
【請求項3】
前記高温超電導線材の幅方向の両端部は、前記離形材層が設けられず高温超電導線材が露出していることを特徴とする請求項1記載の離形材付き高温超電導線材。
【請求項4】
前記離形材層は、フッ素系樹脂、パラフィン、グリースおよびシリコンオイルより選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載の離形材付き高温超電導線材。
【請求項5】
前記高温超電導線材の少なくともいずれかの表面に、前記高温超電導線材より幅の広い熱伝導テープが固着されるとともに、前記高温超電導線材および熱伝導テープの幅方向の両端部は、前記離形材層が設けられず高温超電導線材および熱伝導テープが露出していることを特徴とする請求項1記載の離形材付き高温超電導線材。
【請求項6】
前記熱伝導テープは、前記高温超電導線材の金属基板側の表面に固着されたことを特徴とする請求項2記載の離形材付き高温超電導線材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の離形材付き高温超電導線材を用いたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項8】
前記離形材付き高温超電導線材が巻回されることにより軸方向中心を貫通する空間を有するパンケーキ状に形成されたことを特徴とする請求項7に記載の超電導コイル。
【請求項9】
前記空間に面した内周面近傍にある前記離形材付き高温超電導線材の巻き始め部、および外周面近傍にある前記離形材付き高温超電導線材の巻き終わり部の少なくともいずれかには、前記離形材層の設けられない高温超電導線材が巻回されてなるターンが前記離形材付き高温超電導線材からなるターンに接続されたことを特徴とする請求項8に記載の超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−267550(P2010−267550A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119308(P2009−119308)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】