説明

離水の抑制された冷凍解凍ゼリー

【課題】
冷凍後解凍しても離水がなく、弾力性、保型性が保持され、良好な食感が維持される冷凍解凍ゼリー、とりわけ低Brixの冷凍解凍ゼリー、及び冷凍解凍ゼリーにおける離水の抑制方法を提供する。
【解決手段】
冷凍解凍ゼリーの原料としてサイリウムシードガムを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍後解凍されるゼリーに関する。また本発明は、冷凍後解凍されるゼリーにおいて発生した離水を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のゼリーの多くは、常温、又は0〜10℃の低温で流通されている。このような状態での流通販売では、長時間の保存に耐えうることが難しく、日持ちを向上させるような流通販売方法、具体的には冷凍輸送・冷凍販売できるゼリーの開発が求められている。
【0003】
また、消費者のニーズの多様性に伴い、冷凍時でも喫食や使用できるゼリーも求められており、冷凍・解凍後も離水やゲルの破壊など品質の劣化が生じないゼリーの開発が望まれている。
【0004】
しかしながら、多くのゼリーは、一旦凍らせると氷結晶が析出してしまいザクザクとした食感となり、ゼリーらしいプルプルとした食感を著しく失ってしまう。また、これらの製品は、寒天、ゼラチン、カラギーナン等を用いて製品化されているが、これらのゼリーは、一旦凍結し、再び解凍するとゲル組織中に包含されていた水がゲル組織を破壊し、凍結前の弾力及び保型性が失われてしまう。その結果、解凍時に離水が生じると共に、ゼリーの強度は減少し、著しい場合にはゲルの破壊を引き起こし、ゼリーとは遠く離れた食感となってしまう。このような傾向は、ゼリー中の可溶性固形分濃度(以下Brix)が低いゼリーで顕著であるため、例えば、近年需要が急拡大している、糖度の低い低カロリーゼリーやノンカロリーゼリーを調製する場合に注意する必要がある。
【0005】
そこで、耐冷凍性を有するゼリーの配合として種々のものが検討されている。例えば、寒天を含有し、糖度を10〜30に調製した冷凍ゼリー(特許文献1)、イオタカラギナン、カッパカラギーナン及びローカストビーンガムを含有する耐冷凍ゼリー(特許文献2)、ネイティブジェランガムを含む凍結解凍耐性ゼリー(特許文献3)、分子内に環状構造を有する澱粉分解物を配合した耐冷凍性ゼリー(特許文献4)、カードランと、セルロース及び/又はセルロース誘導体を含有する冷凍及び解凍耐性を持つゼリー状食品(特許文献5)などが挙げられる。しかしながら、これらのゼリーでは、冷凍後解凍した際に非常に離水が生じやすい条件である低Brixのゼリーにおいて、十分な離水を防止できていないか、離水は抑制されていても食感が好ましくないなど、冷凍後解凍するゼリーとして全ての需要に十分に応えることができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭59−30062号公報
【特許文献2】特公昭61−21058号公報
【特許文献3】特開平10−179054号公報
【特許文献4】特開2000−175634号公報
【特許文献5】特開2007−319048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたもので、冷凍後解凍しても離水がなく、弾力性、保型性が保持され、良好な食感が維持される冷凍解凍ゼリー、とりわけ低Brixの冷凍解凍ゼリー、及び冷凍解凍ゼリーにおける離水の抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、冷凍解凍ゼリーの原料としてサイリウムシードガムを使用することで、冷凍後解凍するゼリー、とりわけ著しい離水が見られがちな低Brixのゼリーにおいて、離水抑制効果が優れており、それでいてゼリーらしいプルプルした良好な食感が維持されたままであることを確認した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
本発明は、以下の態様を有する冷凍解凍ゼリー及び冷凍解凍ゼリーの離水抑制方法に関する。
項1.冷凍後解凍されるゼリーであって、サイリウムシードガムを含有することを特徴とする、冷凍解凍ゼリー。
項2.Brixが15度以下である、項1に記載の冷凍解凍ゼリー。
項3.サイリウムシードガムを含有することを特徴とする、冷凍解凍ゼリーの離水抑制方法。
項4.サイリウムシードガムを含有することを特徴とする、Brixが15度以下である冷凍解凍ゼリーの離水抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、冷凍後解凍するゼリーにおいて、解凍後、離水が有意に抑制されていながら、ゼリーらしいプルプルした弾力のある食感が維持された冷凍解凍ゼリーを提供することができる。さらには、冷凍後解凍した場合、通常のゼリーに比べて離水が多く生じてしまう低Brixのゼリーにおいても、本発明によれば、ゼリーらしいプルプルした食感を維持しつつ、離水が有意に抑制された冷凍解凍ゼリーを提供することができる。
【0011】
すなわち本発明は、Brixが極めて低くても離水が抑制できることから、糖度の低いゼリー、例えば、糖分を抑えた低カロリーの冷凍解凍ゼリーを提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の冷凍解凍ゼリーは、サイリウムシードガムを含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の冷凍解凍ゼリーとは、調製したゼリー液を容器等に充填しゲル化させた後、ゲル化されたゼリーが凍結する温度、例えば、−40〜−18℃の家庭用若しくは業務用冷凍庫で凍結させた後、0℃以上、好ましくは常温下に置いて凍結したゼリーを解凍した際に食感や弾力に変化がほとんどなく、さらに実質的に離水を生じないような、喫食したり使用したりする上で冷凍前とほぼ同じゼリーであるものをいう。また本発明の冷凍解凍ゼリーは、喫食目的にあるゼリー状食品の他、ゼリー状塗薬などの医薬品、ゼリー状接着剤などの工業製品にも有効である。
【0014】
本発明で使用するサイリウムシードガムは、オオバコの一種であるPlantago種(Plantaginaceae)植物の中の、主にplantago ovata forskal等の種子から採った天然植物ガムのことである。サイリウムシードガムは種子の外側を含む外皮の部分を用い、この種皮はサイリウムハスク(Psyllium Husk)あるいはイサゴール(Isagol、Isabgol)とも呼ばれている。サイリウムシードガム中の非セルロース多糖類は、キシランを主鎖として高度に分岐した構造を持ち、側鎖は、アラビノース、キシロース、ガラクツロン酸、ラムノースからなっている。一般的には、製品名「ビストップ(登録商標)D−2074」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)として容易に入手可能である。
本発明におけるサイリウムシードガムの添加量は、ゼリー100質量部に対し、サイリウムシードガム0.001〜5質量部、好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.3〜1.5質量部を例示することができる。
【0015】
なお、本発明におけるサイリウムシードガム以外のゼリー化するためのゲル化剤は任意のものを使用することができる。例えば、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、グァーガム、タラガム、タマリンドシードガム、寒天、ゼラチン、プロピレングリコールエステル、トラガントガム、カラヤガム、プルラン、CMC−Na、カッパカラギーナン、ラムダカラギーナン、アラビアガム、カードラン、ラムザンガム、マクロホモプシスガム、ガティガム、澱粉、加工・化工澱粉、水溶性ヘミセルロース、発酵セルロース、微小繊維状セルロース等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらゲル化剤の添加量としては、ゼリー100質量部に対して、0.001〜5質量部、好ましくは0.2〜1.5質量部を挙げることができる。
【0016】
さらに、本発明では、極めて離水の生じやすいような、Brix(糖度)が通常のゼリーに比べて非常に低いゼリーに対しても、離水を抑制できる。Brixとは、可溶性固形分濃度のことであり、食塩、砂糖など各種可溶性成分の濃度を表す指標で、可溶性固形分が溶解した水溶液若しくはゲルの20℃における屈折率を測定し、純ショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算(ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用)した値をいう。また、Brixは、一般に市販されている糖度計を用いて測定を行うことができる。本発明のゼリーのBrixとしては、低ければ低いほど従来品に比べて本発明の効果が顕著に観察できるが、具体的に15度以下、好ましくは2〜15度、最適には5〜10度といった極めて低いBrixにおいても有効である。
【0017】
本発明における冷凍解凍ゼリーは、本発明の効果を損なわないことを限度として、その他のゲル化剤、果汁、甘味料、乳成分、着色料、着香料及び風味調整剤などを含むことができ、これによって対象とする組成物に所望の色、香り並びに味を均一に付与することができる。また、必要に応じて、乳化剤、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等のカルシウム類、鉄、マグネシウム、リン、カリウム等のミネラル類などを添加してもよい。
【0018】
なお、本発明は、極めて低いBrixのゼリーにも適用が可能であり、糖度やカロリーを従来のゼリーより低く設定することができるため、その場合、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末、ソーマチン等の高甘味度甘味料を好適に併用することで、低糖度若しくはノンカロリーの凍結解凍ゼリーを調製することができる。
【0019】
本発明における冷凍解凍ゼリーの調製方法は、特に制限されず、常法を採ることができる。一例として、サイリウムシードガム及びその他ゲル化剤などの原料を水、好ましくは蒸留水に加熱攪拌溶解し(75〜95℃で5〜15分程度)、必要に応じて、果汁、酸、色素、香料などを添加し、必要に応じてpH調整、全量補正後、容器充填、殺菌、冷却して容器入りゼリーを製造することが出来る。なお、殺菌工程について、40℃で無菌条件下に容器充填を行っても良いし、全量補正後、90〜95℃で容器充填(ホットパック充填)してもよい。また、容器充填後冷却する工程について、室温冷却や、冷却水槽のような設備、冷蔵庫などを使用して冷却する、通常のゼリーの調製に実施されている方法や、本発明においては、容器充填後に家庭用若しくは業務用冷凍庫を使用して冷凍させる過程で冷却して調製するような方法も可能である。
【0020】
「離水抑制」できなかった場合、ゼリーの組織がスポンジ状となり崩れやすくなってしまい、出荷後の運搬中における衝撃や振動などが原因でゼリーとしての商品価値が著しく喪失するほどゼリーが崩れてしまうことがある。つまり本発明における「離水抑制」とは、ゼリーの組織がしっかりとしていて、運搬時における衝撃や振動などにも耐えうる程度に離水しない状態、具体的には、冷凍解凍後に生じる離水の量が、冷凍解凍ゼリー全重量の3%以下、例えば、ゼリーのふたを開封しても水が飛び出してこない程度の量より少ない状態であることをいう。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0022】
実験例1 冷凍解凍ゼリー
下記及び表1の処方に従いゼリーの原料液を調製し、それぞれのゼリー原料液を容器に充填して、急速凍結庫内において−40℃で1日静置して凍結させた後、5℃の冷蔵庫で一晩かけて解凍した。それぞれのBrixは、ゼリー原料液充填後、凍結する前のものをBrix測定機器ATAGOデジタル屈折計RX−5000α(株式会社アタゴ製)によって測定した。さらに、冷凍解凍後におけるゼリーの離水状況は、表2の評価項目に従って評価した。Brixの測定結果について表1に、離水の状況、及び、見た目や食感についての評価結果を表3に示す。
【0023】
<ゼリーの処方>

【0024】
【表1】

【0025】
【表2】



※離水量の評価測定方法:
冷凍解凍して得られた試験区の全量(A量;容器+ゼリー+離水量)を測定して、その後、ゼリーを容器から取り出し、残りの量(B量;容器+離水量)を測定した。最後に容器の重さを測定し、A量及びB量の各々から容器の重さを差し引き、ゼリー全容量(A量−容器)及び離水量(B量−容器)とした。
【0026】
【表3】

【0027】
上記表3の結果より、一般的なゼリーの処方(比較例1及び2のゼリー)にサイリウムシードガムを加えてBrixが15度以下の低Brixゼリーを調製することで、冷凍後解凍させても、離水が非常に抑えられ、冷凍前と比較してほぼ同じような食感のゼリーであった。一般的なゼリー(比較例1及び2のゼリー)や、冷凍後に解凍するゼリーに離水防止のためによく用いられている、ネイティブジェランガムを配合するゼリー(比較例3及び4のゼリー)、タマリンドシードガムを配合するゼリー(比較例5〜8のゼリー)では、冷凍後解凍すると、離水が激しいためゼリーの組織がスポンジ状となってしまい、ゼリーが崩れて見た目が悪く、また、食感も非常に硬いものであったため、冷凍後解凍するゼリーとして利用できないものであった。一方、これら前記のゼリーと比べると、サイリウムシードガムを配合したゼリー(実施例1〜4のゼリー)は、離水が非常に抑えられており、それに伴い、食感もプルプルとしたゼリーらしい弾力のあるものであった。とりわけ、実施例1〜4のゼリーは、サイリウムシードガムの配合量を増やすごとに離水がさらに抑えられて、加えて、プルプルとしたゼリーらしい食感が良好であった。以上より、Brixが15度以下の非常に低いBrixにおいて冷凍後解凍するゼリーを調製するに際し、サイリウムシードガムを配合することにより、離水が抑えられ、良好な食感を有する冷凍解凍ゼリーを調製できることがわかった。
【0028】
実験例2 冷凍解凍ゼリー
表4の処方に従い冷凍解凍ゼリーを調製した。具体的には、水を撹拌しながらエリスリトール、クエン酸三ナトリウム及びゲル化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間撹拌溶解した。次いで甘味料(スクラロース製剤)、クエン酸及び香料を添加し、水にて全量が100%となるよう補正した。容器に充填し、急速凍結庫内において−40℃で1日静置して凍結させた後、5℃の冷蔵庫で一晩かけて解凍した。
【0029】
【表4】

【0030】
冷凍解凍後におけるゼリーの離水状況及び食感を評価した。
サイリウムシードを用いて調製された実施例5の冷凍解凍ゼリーは、Brixが5.8と低Brixにも関わらず、冷凍解凍後の離水が抑えられ、冷凍前と比較してほぼ同じような食感のゼリーであった。一方、サイリウムシードガム不使用の比較例9のゼリーは、離水が激しいためゼリーの組織がスポンジ状となってしまい、食感も非常に硬いものであったため、冷凍後解凍するゼリーとして利用できないものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍後解凍されるゼリーであって、サイリウムシードガムを含有することを特徴とする、冷凍解凍ゼリー。
【請求項2】
Brixが15度以下である、請求項1に記載の冷凍解凍ゼリー。
【請求項3】
サイリウムシードガムを含有することを特徴とする、冷凍解凍ゼリーの離水抑制方法。
【請求項4】
サイリウムシードガムを含有することを特徴とする、Brixが15度以下である冷凍解凍ゼリーの離水抑制方法。