説明

離脱防止管継手

【課題】施工現場での切り管後の施工性にすぐれ、しかも各部における変形の発生なども防止し得る離脱防止管継手を得る。
【解決手段】挿口34における受口33に挿入されていない部分の外周に、溶接ビード38が形成される。溶接ビード38よりも受口33から遠い位置における挿口34の外周に、溶接ビード38に管軸方向に掛かることができる挿口リング39がはめ合わされる。受口33の外周に、受口33の端部の外周に形成されたフランジ状の突部36管軸方向に掛かることができる受口リング43がはめ合わされる。挿口リング39と受口リング43とが、管軸方向に配置された管周方向に複数のボルト47によって互いに締結される。挿口リング39と受口リング43との間における、管径方向に沿ったボルト47に対応する位置に、ディスタンスピース49が挟み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の管の端部に形成された受口の内部に他方の管の端部に形成された挿口が挿入される構造の離脱防止管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の離脱防止管継手として、管路の曲がりの部分に用いられるものは、その管路の曲がりによって管内流体の圧力が平均にかからなくなることにもとづく不平均力が作用する。この不平均力は、継手が抜け出す方向に作用する。このような継手の抜け出しを防止するための離脱防止管継手として、図5に示すものが知られている(特許文献1)。
【0003】
図5において、11は互いに接合されるダクタイル鋳鉄製の一方の管、12はダクタイル鋳鉄製の他方の管である。一方の管11の端部には受口が形成され、他方の管12の端部には、受口13の内部に挿入される挿口14が形成されている。15はシール材で、受口13の内周面と、受口13に挿入された挿口14の外周面との間で圧縮されることで、所定のシール機能を発揮する。
【0004】
挿口14における受口13に挿入されていない部分の外周には、周方向の分割部を有しない環状の挿口フランジ16が外ばめされ、この挿口フランジ16は、すみ肉溶接部17によって挿口14に固定されている。18は挿口リブで、挿口14の外面と挿口フランジ16とに溶接されて一体化されている。19は周方向の分割部を有しない環状の受口リングで、受口13に外ばめされるとともに、受口13の端部の外周に形成されたフランジ状の突部20に管軸方向に掛かることが可能である。挿口フランジ16および挿口リブ18は構造用鋼などにて形成され、受口リング19はダクタイル鋳鉄などによって構成される。
【0005】
21は管軸方向のボルトで、受口13および挿口14の周方向に沿って複数が設けられており、挿口フランジ16と受口リング19とを貫通した状態でナット22がねじ合わされる。これによって、挿口フランジ16と受口リング19とが、受口13の突部20を間に挟んだ状態で互いに締結される。ボルト21およびナット22は、クロム・モリブデン鋼などによって形成されている。
【0006】
このような構成であると、受口13と挿口14とが一体化されるため、管路の曲がりの部分に用いても、管内流体の不平均力によって継手が抜け出すことを、確実に防止することができる。
【0007】
受口13と挿口14とが屈曲した状態で継手を曲げ接合する場合には、事前にボルト21をゆるめておき、受口13と挿口14と屈曲状態での接合が終了した段階で、ボルト21を締め付ける。継手の周方向に沿った各ボルト21の締め付け長さを調節することで、曲げ接合に対応する。
【特許文献1】特開2001−41367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような管継手において、管路の敷設現場の状況によっては、挿口14が形成されている管12に切り管を施して、所定長さに調整しなければならないことがある。このような場合に、図5に示した従来の構成では、切り管を行った後に、新たに挿口フランジ16と挿口リブ18とを溶接して所定の挿口を形成することが必要になる。しかし、挿口フランジ16と挿口リブ18とを新たに用意する必要があり、経済性が悪い。また挿口フランジ16と挿口リブ18の溶接は、溶接脚長が長く、このため施工に長時間を要するとともに、管路の敷設現場において挿口フランジ16を正確な位置に溶接するのが容易ではない。
【0009】
そこで本発明は、このような課題を解決して、施工現場での切り管後の施工性にすぐれ、しかも各部における変形の発生なども防止し得る離脱防止管継手を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため本発明の離脱防止管継手は、挿口における受口に挿入されていない部分の外周に溶接ビードが形成され、この溶接ビードよりも受口から遠い位置における挿口の外周に、前記溶接ビードに管軸方向に掛かることができる挿口リングがはめ合わされ、受口の外周に、この受口の端部の外周に形成されたフランジ状の突部に管軸方向に掛かることができる受口リングがはめ合わされ、前記挿口リングと受口リングとが、管軸方向に配置された管周方向に複数のボルトによって互いに締結され、前記挿口リングと受口リングとの間における、管径方向に沿った前記ボルトに対応する位置に、ディスタンスピースが挟み込まれているようにしたものである。
【0011】
本発明によれば、上記において、挿口リングが、周方向一つ割りであって、その周方向の分割部が締結されることにより縮径されて挿口に締まり付くように構成されていることが好適である。
【0012】
本発明によれば、上記において、挿口リングが、複数の板材が重なり合って所要厚さに配置されたものであることが好適である。
本発明によれば、上記において、挿口リングが、帯状板をC形に曲げ加工したものであることが好適である。
【0013】
本発明によれば、上記において、管周方向に沿ってディスタンスピースの厚みが変化するように構成されて、受口と挿口とが屈曲した状態で継手が曲げ接合されていることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、挿口リングは、挿口に溶接されるのではなく単に外ばめされるだけであるので、管路の施工現場で切り管を行った場合においても、切り管を行わない場合と同様にして離脱防止構造を得ることができ、新たな挿口リングを別途用意しなければならないといった不都合は生じない。また、挿口の外周に溶接ビードを形成するだけでよいため、従来のように挿口リングと挿口フランジとを溶接する場合に比べて溶接脚長が短く、このため容易に施工することができる。挿口リングと受口リングとの間には、管径方向に沿ったボルトに対応する位置にディスタンスピースが挟み込まれているため、ボルトを締めた際に、挿口リングと受口リングとの間に空間が存在する場合のような、挿口リングや受口リングにおける変形の発生を防止することができる。
【0015】
また本発明によると、挿口リングが、周方向一つ割りであって、その周方向の分割部が締結されることにより縮径されて挿口に締まり付くように構成されているため、挿口の外径寸法のばらつきに関係なく挿口リングの確実な締まり付けを行うことができ、このため、比較的高さの低い溶接ビードを用いたものでありながら、十分な離脱防止性能を発揮することができる。
【0016】
また本発明によると、挿口リングが、帯状板をC形に曲げ加工したものであるため、その材料の歩留まりがよく、したがってその製造コストを低減することができる。
また本発明によると、挿口リングが、複数の板材が重なり合って所要厚さに配置されたものであるため、厚肉の挿口リングを用いる場合に比べて各板材を容易に製造することができ、したがってその製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図4において、33は互いに接合される一方の管31の端部に形成された受口、34は他方の管32の端部に形成された挿口、35はシール材、36は受口の端部の外周の突部であって、これらは、図5に示したものと同様の構成である。管31、32は、ダクタイル鋳鉄にて形成されている。
【0018】
挿口34における受口33に挿入されていない部分の外周には、管31、32の径方向の外向きに所定高さで突出する溶接ビード37が、周方向に連続した状態あるいは断続した状態で形成されている。
【0019】
溶接ビード38よりも受口33から離れた位置における挿口34の部分には、複数の挿口リング39が、軸心方向に重なり合った状態で外ばめされている。各挿口リング39は、周方向に沿った1箇所に分割部40を有し、この分割部40がボルト41によって締め付けられることで、その内周面が挿口34の外周面に密接するように構成されている。各挿口リング39には、管軸方向のボルト通し孔42が、その周方向に沿った複数の位置に、貫通状態で形成されている。各挿口リング39は、構造用鋼等にて形成され、長尺の帯状板がC形に曲げ加工されることにより構成されている。
【0020】
43は受口リングで、受口33に外ばめされるとともに、受口33の突部36に管軸方向に掛かることが可能である。この受口リング43も、挿口リング39と同様に周方向に沿った1箇所に分割部44を有し、この分割部44がボルト45によって締め付けられることで、その内周面が受口33の外周面に密接するように構成されている。受口リング43にも、管軸方向のボルト通し孔46が、その周方向に沿った複数の位置に、貫通状態で形成されている。受口リング43は、挿口リング39と同様に構造用鋼等にて形成され、長尺の帯状板がC形に曲げ加工されることにより構成されている。
【0021】
47はボルトで、受口リング43および挿口リング39における周方向に沿って複数が設けられている。48は、ボルト47にねじ合わされるナットである。各ボルト47は、受口リング43のボルト通し孔46と複数の挿口リング39のボルト通し孔42とにわたって貫通されたうえでナット48がねじ合わされることで、受口リング43と複数の挿口リング39とを共に締め付け可能である。このようにすると、受口リング43が受口33の突部36に当たった状態で締め付けが行われる。これによって、受口リング43および挿口リング39における径方向に沿ったボルトに対応する位置では、これら受口リング43と挿口リング39との間に空間が形成されることになる。この空間にはディスタンスピース49が配置される。
【0022】
ディスタンスピース49は、構造用鋼等にて形成されるとともに、図2および図1に示すように直方体状に形成されている。かつ、複数のディスタンスピース49が、受口リング43および挿口リング39の周方向に沿って隣り合うボルト47どうしの間にそれぞれ配置されている。これにより、ディスタンスピース49は、ボルト47およびナット48によって、受口リング43および挿口リング39と共締めされることになる。
【0023】
このような構成の管継手において、受口33と挿口34とを接合する際には、まず、受口33の内部にシール材35を配置し、また受口33に受口リング43を外ばめするとともに、挿口リング39を、あらかじめ溶接ビード38が形成されている挿口34に外ばめする。このとき、受口リング43は、周方向に沿って一つ割りの構成であるため、その分割部44を開いて拡径した状態で突部36を乗り越えることで、受口33の開口端側から容易にこの受口33に外ばめすることができる。突部36を乗り越えたなら、ボルト45を締めることにより受口リング42を縮径させて、その内周面を受口33の外周面に密接させる。また、挿口リング39も、同様に拡径させることで、溶接ビード38を乗り越えて、この溶接ビードよりも開口端から遠い位置における挿口34の外周面に密接させる。
【0024】
この状態で挿口34を受口33の内部に挿入するとともに、受口33と挿口34との間でシール材35を圧縮する。また、受口リング43のボルト通し孔46と挿口リング39のボルト通し孔42とにわたってボルト47を通し、受口リング43と挿口リング39との間にディスタンスピース49を挟み込んだ状態で、ボルト47とナット48とを締め付けて、図1に示す接合完了状態とする。
【0025】
このとき、ボルト47とナット48との締め付けが済むまでの間にディスタンスピース49が落下しないように、たとえば、図2において仮想線で示すようにディスタンスピース49を配置した部分の外周をゴムバンド50で押さえるなどの処置を施すことが好ましい。また、これに代えて、図2において仮想線で示すように、ディスタンスピース49としてボルト47を通す孔を形成したものを用いれば、その孔を加工する分だけ多少のコストアップとなるが、その落下の心配がなくなる。
【0026】
このようなものであると、ボルト47とナット48との締め付けによって、挿口リング39を溶接ビード38と管軸方向に掛かるようにすることができるため、受口33と挿口34とを一体化することができ、このため、管路の曲がりの部分に用いても、管内流体の不平均力によって継手が抜け出すことを、確実に防止できる。また、挿口リング39は、周方向一つ割りであり、その周方向の分割部40がボルト41で締結されることにより縮径されて挿口34に締まり付くように構成されているため、挿口34の外径寸法のばらつきに関係なく挿口リング39を確実に締まり付かせることができる。このため、比較的高さの低い溶接ビード38を用いたものでありながら、十分な離脱防止性能を発揮することができる。
【0027】
また、挿口リング39は、挿口34に溶接されるのではなく単に外ばめされるだけであるので、管路の施工現場で切り管を行った場合においても、切り管を行わない場合と同様に容易に離脱防止構造を得ることができ、新たな挿口リングを別途用意しなければならないといった不都合は生じない。また、挿口39の外周に溶接ビード38を形成するだけでよいため、図5に示した従来のもののように挿口リングと挿口フランジとを溶接する場合に比べて溶接脚長が短く、このため容易に施工することができ、管路の敷設現場で切り管を行った場合にも容易に溶接ビード38を形成することができる。
【0028】
挿口リング39と受口リング43との間にディスタンスピース49を設けて共締めするようにしたため、挿口リング39が溶接ビード38に掛かりあい、かつ受口リング43が突部に掛かりあっただけの、受口リング43と挿口リング39との間に軸心方向の空間が存在する状態で、ボルト47およびナット48を締め付ける場合のような、受口リング43および挿口リング39に変形が生じる可能性を無くすことができる。
【0029】
特に、受口33よりも挿口34の方が口径が小さいことにもとづき、挿口リング39の方が受口リング43よりも径方向の寸法が大きく、したがって変形しやすいものであるにもかかわらず、そのような変形の発生を効果的に防止することができる。
【0030】
挿口リング39は、このような変形の発生を防止するために、軸心方向寸法を大きくするすなわち厚くする必要がある。しかし、厚くすると、上述のように長尺の帯状板をC形に曲げ加工して形成することが不可能または困難になる。曲げ加工が不可能な場合は、大きな板材からC形のリングを切り出して形成しなければならなくなり、その場合はC形依りも内側の部分の材料を捨てることになって無駄である。帯状板を曲げ加工できる場合は、そのような材料の無駄は生じないが、曲げ加工が困難であることは、不経済であるなど、好ましいことではない。これに対し、上記のように、薄い板にて形成された複数の挿口リング39を重ねて所定の厚さを得るようにすれば、それぞれの挿口リング39は帯状板から容易にC形に曲げ加工することができる。このため、厚いものと同等の強度を、より安価に経済的に達成することができる。
【0031】
なお、ディスタンスピースも、上記のように直方体にて形成することで、安価に構成することができる。
図4に示すように、受口13と挿口14とが屈曲した状態で継手を曲げ接合する場合には、継手の周方向に沿って、受口リング43から挿口リング39までの距離が徐々に変化する。すなわち、屈曲の外側においては、その内側に比べて、受口33に固定された受口リング43と挿口34に固定された挿口リング39との間隔が広がる。そこで、図4に示すように、通常のディスタンスピース49のほかに、板厚の薄い別のディスタンスピース51を複数用いて対処する。そして、屈曲の状況に応じて、受口リング43および挿口リング39の周方向に沿った各位置ごとにディスタンスピース51の使用枚数を変更することで、受口リング43および挿口リング39の軸心方向の隙間を埋めるようにする。このようにすれば、上述の従来におけるディスタンスピースを用いない場合のようなボルトの締め付け長さを調節するものに比べて、容易に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態の離脱防止管継手を示す図である。
【図2】図1に示す離脱防止管継手の横断面図である。
【図3】図1における受口リングの側面図である。
【図4】図1の離脱防止管継手を屈曲状態で曲げ接合したときの様子を示す図である。
【図5】従来の離脱防止管継手の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
31 管
32 管
33 受口
34 挿口
36 突部
38 溶接ビード
39 挿口リング
43 受口リング
47 ボルト
49 ディスタンスピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の管の端部に形成された受口の内部に他方の管の端部に形成された挿口が挿入されている管継手であって、挿口における受口に挿入されていない部分の外周に溶接ビードが形成され、この溶接ビードよりも受口から遠い位置における挿口の外周に、前記溶接ビードに管軸方向に掛かることができる挿口リングがはめ合わされ、受口の外周に、この受口の端部の外周に形成されたフランジ状の突部に管軸方向に掛かることができる受口リングがはめ合わされ、前記挿口リングと受口リングとが、管軸方向に配置された管周方向に複数のボルトによって互いに締結され、前記挿口リングと受口リングとの間における、管径方向に沿った前記ボルトに対応する位置に、ディスタンスピースが挟み込まれていることを特徴とする離脱防止管継手。
【請求項2】
挿口リングは、周方向一つ割りであって、その周方向の分割部が締結されることにより縮径されて挿口に締まり付くように構成されていることを特徴とする請求項1記載の離脱防止管継手。
【請求項3】
挿口リングは、帯状板をC形に曲げ加工したものであることを特徴とする請求項1または2記載の離脱防止管継手。
【請求項4】
挿口リングは、複数の板材が重なり合って所要厚さに配置されたものであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の離脱防止管継手。
【請求項5】
管周方向に沿ってディスタンスピースの厚みが変化するように構成されて、受口と挿口とが屈曲した状態で継手が曲げ接合されていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の離脱防止管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−132478(P2007−132478A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328218(P2005−328218)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】