説明

離脱防止管継手

【課題】離脱防止機能を発揮させるようにした管継手の防食性の向上を図る。
【解決手段】互いに接合される一方の管11の端部に形成された受口12の内部に、他方の管13の端部に形成された挿口14が挿入される。受口12の内周部、または、受口12の外側における挿口14の部分に外ばめされかつ受口12に連結された環状体19の内周部に、押圧爪収容部26が形成される。押圧爪収容部26に、押圧ボルト35の先端部に押されて挿口14の外面18に押圧された状態で挿口14に固定される押圧爪27が配置される。押圧爪収容部26は、この押圧爪収容部26の外部に対して密閉されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離脱防止管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
管継手の一種として、互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入される形式の受挿構造の管継手がある。この受挿構造の管継手は、受口からの挿口の離脱を防止し得る構造を採用した離脱防止管継手と、離脱防止機能を有していない管継手とに大別される。離脱防止管継手は、挿口の先端の外周に形成された環状突部が、受口の内部に収容されたロックリングに、受口の奥側から当たるように構成されることで、所期の離脱防止機能を発揮する。
【0003】
配管路によっては、離脱防止機能を有しない管継手に離脱防止機能を付与することが求められることがある。また受挿構造の管継手を有する管は一定長さの定尺の鋳鉄管によって形成されるのが一般的であるが、配管工事の都合によっては、この定尺の管を所要の長さに切断して用いることがある。その場合には、挿口の先端が一定範囲で切断除去されることになるため、上記の環状突部も除去されてしまい、このために、もはや離脱防止機能を発揮できなくなる。このことへの対処として、切断によって得られた切管を用いた管継手に離脱防止機能を付与することが求められることがある。
【0004】
このような場合に、次のような構成が用いられている。すなわち、受口の外側における挿口の部分に、受口に連結された環状体を外ばめし、この環状体の内部に形成された収容部に押圧爪を配置し、環状体にねじ込まれる押圧ボルトの先端部によって押圧爪を管径方向に沿った内向きに押圧することで、この押圧爪を挿口の外面に食い込ませるようにしたものが用いられている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭60−161774号公報
【特許文献2】実開平4−101886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の構成により離脱防止機能を発揮させるようにした管継手では、管すなわち受口および挿口や、環状体や、押圧爪や、押圧ボルトは、いずれもダクタイル鋳鉄で形成されているのが通例である。そして、管路を地中に埋設したときの各部の防食のため、各部の表面には塗装が施されている。
【0007】
しかし、塗装面に傷が付いたような場合などには、管や、環状体や、押圧爪や、押圧ボルトなどの防食効果を損なうことになってしまう。特に、押圧爪およびその周辺は、上述のように環状体にねじ込まれる押圧ボルトで押圧されることによって押圧爪を挿口の外面に食い込ませるようにしたものであるため、各部の塗装面が傷付きやすい。このため、地中に埋設した場合において土壌や地下水に触れたときには、その傷付いた箇所から腐食が進行しやすいという問題点がある。
【0008】
そこで本発明は、このような問題点を解決して、離脱防止機能を発揮させるようにした管継手の防食性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため本発明の離脱防止管継手は、互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入され、受口の内周部、または、受口の外側における挿口の部分に外ばめされかつ受口に連結された環状体の内周部に、押圧爪収容部が形成され、前記押圧爪収容部に、押圧ボルトの先端部に押されて挿口の外面に押圧された状態で挿口に固定される押圧爪が配置され、前記押圧爪収容部は、この押圧爪収容部の外部に対して密閉された構造とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
したがって本発明によれば、押圧爪収容部がこの押圧爪収容部の外部に対して密閉されているため、管路を地中に埋設した場合においてこの押圧爪収容部に土壌や地下水が入り込むことを防止でき、このため、この押圧爪収容部や、押圧爪や、押圧ボルトや、押圧爪からの押圧力を受ける挿口の外面などが腐食することを防止できて、管継手の防食性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の離脱防止管継手の断面図である。
【図2】図1に示される部分の要部の左側面図である。
【図3】図2に示される部分の要部のZ方向の矢視展開図である。
【図4】本発明の他の実施の形態の離脱防止管継手の要部の断面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施の形態の離脱防止管継手の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1において、互いに接続される一方のダクタイル鋳鉄製の管11の端部には受口12が形成され、他方のダクタイル鋳鉄製の管13の端部には、受口12の内部に挿入される挿口14が形成されている。
【0013】
受口12の開口部の外周にはフランジ15が一体に形成され、受口12の開口部の内周には、その開口端に向かって徐々に拡径するテーパ状のシール材圧接面16が形成されている。挿口14には環状のゴム製のシール材17が外ばめされており、このシール材17は、挿口14の外周面18とシール材圧接面16との間に配置されている。
【0014】
受口12の外側における挿口14の部分には、環状体としての押輪19が外ばめされている。この押輪19は、管11、13と同様にダクタイル鋳鉄にて形成され、周方向に連続した環状に形成されたものとすることができる。あるいは、周方向に沿って適当数に分割され、その分割部がボルトなどによって接合された構成であっても構わない。
【0015】
押輪19における周方向に沿った複数の位置には、フランジ20が形成されている。そして、この押輪19のフランジ20と受口12のフランジ15とにわたって、管軸方向のT頭ボルト21とナット22とを備えた締結要素23が配置されている。すなわち、押輪19の周方向に沿った複数の位置に設けられた締結要素23を作用させることで、押輪19の全周にわたって形成された押圧面24によってシール材17を圧接面16に向けて押圧することができ、それによりシール材17を圧接面16と挿口14の外周面18との間で圧縮させて所要のシール機能を発揮させることが可能である。
【0016】
押輪19における周方向に沿った他の複数の位置には、上記したフランジ20に代えて、ハウジング部25が形成されている。ハウジング部25における押輪19の内周部分には、凹形状の押圧爪収容部26が形成されている。押圧爪収容部26には、ダクタイル鋳鉄によって周方向に一定の長さで形成された押圧爪27が収容されている。押圧爪27は、その内周部に2条の爪部28a、28bが形成されている。これらの爪部28a、28bは、互いに管軸心方向に距離をおいて形成されている。
【0017】
押輪19の内周面29と挿口14の外周面18との間には隙間30が形成されている。またハウジング部25の内周面31と挿口14の外周面18との間にも隙間32が形成されている。
【0018】
図1〜図3に示すように、凹形状の押圧爪収容部26が形成されたハウジング部25は端壁33と一対の側壁34、34とを有する。押輪19におけるフランジ20が形成された部分の内周面29とハウジング部25の内周面31とは、側壁34、34の部分において互いに角張らずに滑らかな面で連続している。
【0019】
35は押圧ボルトであり、同様にダクタイル鋳鉄にて形成されている。この押圧ボルト35は、押圧爪27の外周側のテーパ面36と直交する方向に沿って押輪19にねじ込まれることで、その先端部によってテーパ面36を管径方向に沿った内向きに押圧可能である。
【0020】
押圧爪収容部26は、この押圧爪収容部26の外部に対して密閉されている。詳細には、ハウジング部25の内周面31と挿口14の外周面18との隙間32には、ブチルゴムなどの充填材37が充填されている。充填材37は、図3に示すように、隙間32から隙間30を通ってシール材17に達する範囲38にわたって充填されている。必要であれば、押輪19における押圧ボルト35のねじ込み部にシールが施される。
【0021】
このような構成において、受口12と挿口14とを互いに接合する際には、挿口14に、あらかじめ、押圧爪27をハウジング部25の収容部26に収容した押輪19と、シール材17とを外ばめしておき、その状態の挿口14を受口12に挿入する。そして、締結要素23により押輪19を受口12のフランジ15に締結することで、シール材17を圧縮するとともに、押輪19の固定を行う。次に、押圧ボルト35を操作することで押圧爪27を挿口14の外周面18に押圧して固定する。最後に、隙間32と、隙間30における隙間32とシール材17との間の部分とに充填材37を充填することで、継手の接合作業が完了する。
【0022】
このように充填材37を充填することで、押圧爪収容部26が、この押圧爪収容部26の外部に対して密閉されることになるため、管路を地中に埋設した場合において、押圧爪収容部26に土壌や地下水が入り込むことを防止できる。このため、押圧爪収容部26すなわちハウジング部25や、押圧爪27や、押圧ボルト35や、挿口14の外面18における押圧爪27からの押圧力を受ける部分などが腐食することを防止できる。その結果、管継手の防食性の向上を図ることができる。
【0023】
図4は押圧爪の変形例を示す。この図4の押圧爪27aは、上述の押圧爪27のようにテーパ面36が形成されていることに代えて、横断面半円状の外周面39が形成されている。爪部28cは1条である。
【0024】
この場合は、受口12と挿口14との間に大きな抜出力40が作用したときには、図示の状態から押圧爪27aが立ち上がるように作用し、それによって爪部28cが挿口14に大きく食い込んで、所要の離脱防止機能を発揮する。
【0025】
そしてこの場合も、隙間32などに充填材37が充填されていることで、押圧爪収容部26が、この押圧爪収容部26の外部に対して密閉された構造となる。
上記においては、受口12とは別体の環状体としての押輪19にハウジング部25および押圧爪収容部26を形成したものについて説明したが、これに代えて、受口12自体におけるシール材の収容部よりも開口側の内周に押圧爪収容部26を形成し、これに押圧爪27を収容し、そして受口12の外面側から押圧ボルト35をねじ込むようにしてもよい。
【0026】
図5は、このように受口12に押圧爪収容部26を設けた構造の例を示す。この図5に示される管継手はいわゆるスリップオンタイプの管継手であって、受口12の内周と挿口14の外周との間でシール材17が圧縮されるように構成されている。シール材17はヒール部41とバルブ部42とを有し、バルブ部42は、基端側の第1バルブ43と先端側の第2バルブ44とを備えている。第2バルブ44は、挿口14によって大きく拡径されかつ受口12の内周には接触しない状態で、挿口14の外周に強く圧接している。第1バルブ43は、挿口14によって拡径されることで、挿口14の外周に圧接している。かつ第1バルブ43は、受口12の内周によって縮径されるとともに、第2バルブ44が挿口14によって拡径されることにもとづいて受口12の内周に圧接されることで、受口12の内周に強く圧接している。
【0027】
そして図5の管継手においては、シール材17の設置部よりも開口端側の受口12の内周に、押圧爪収容部26が設けられている。この押圧爪収容部26が設けられることによって、受口12の開口端には内フランジ45が形成されることになるが、この内フランジ45と挿口14の外周面18との隙間46に充填材37が充填されている。
【0028】
このような構成であると、押圧爪収容部26は、それよりも受口12の奥側がシール材17によって密閉されるとともに、それよりも受口12の開口側が充填材37によって密閉され、これによって押圧爪収容部26はその外部に対して密閉された構成となっている。図5の構成では、押圧爪収容部26は管11の周方向に沿って非連続すなわち断続的に複数形成されているものであるが、受口12の開口端の内周と挿口14の外周との隙間46の全周にわたって充填材37を充填することで、これらの複数のすべての押圧爪収容部26をその外部に対して密閉された構成とすることができる。
【0029】
本出願人による特願2009−138737に記載のように、挿口の先端の外周に環状突部を有した離脱防止管継手用の管を所要の長さに切断して用いる場合には、切断した管の切断端に、受挿構造の他の管であってその挿口の外周に離脱防止用の環状突部を形成したものの受口を接合し、切断した管と他の管との合計長さを上記の所要の長さとすれば、定尺よりも短い管であって定尺の管と同様の離脱防止機能を有した管を構成することができる。この場合に、本発明によれば、切断した管の切断端と他の管の受口とを、上述の押圧爪収容部26が密閉された構成の離脱防止構造で接合することができる。
【0030】
図5はそのような切断した管の切断端を挿口14として、それに上述の他の管の受口12を接合した構成を示している。ここでは、挿口14の先端は切断によって鉄地肌が露出しているため、その防食を図るためにゴム製の端面防食部材47が被せられている。
【0031】
実際に防食試験を行った結果について説明する。
図1に示す離脱防止管継手であって、管11、13、押輪19、押圧爪27、押圧ボルト35をすべてダクタイル鋳鉄製としたものを用いた。管11、13、としては、口径Dが75mmのものを用いた。管11、13の外周には、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜を約50μmの厚さで形成した。そして、この被膜を封孔処理したうえで、その外面に合成樹脂塗膜を約100μmの厚さで形成した。
【0032】
押圧爪27は、その内周部にZn−Sn−Mg系合金溶射被膜を約50μmの厚さで形成し、この被膜を封孔処理したうえで、合金溶射被膜を含む押圧爪27の全外面を覆うように合成樹脂塗膜を約100μmの厚さで形成した。
【0033】
押圧ボルト35と押圧爪27との間は、塗膜41、42の作用によって、あるいは必要に応じて絶縁シートを介在させることなどによって、電気的に絶縁された状態となるようにした。
【0034】
ハウジング部25の内周面31と挿口14の外周面18との隙間32と、押輪19の内周面29と挿口14の外周面18との隙間30における必要な部分とには、ブチルゴムを用いた充填材37を充填した。これにより、押圧爪27およびその周囲を外部に対して密閉した。
【0035】
このようにして得られた離脱防止管継手に対して、上記のように管11、13の口径をD[mm]として、継手部に3D[kN]の抜出力を作用させたうえで、複合サイクル腐食試験(自動車技術協会(凍結防止剤対象)JASO M609.610によるもの)を実施した。詳細には、
(1)塩水噴霧(2時間、35±1℃、5%NaCl水溶液)
(2)乾燥(4時間、60±1℃、20〜30±5%RH)
(3)湿潤(2時間、50±1℃、>95%RH)
からなるサイクルを繰り返した。
【0036】
試験を4か月にわたって継続した後に肉眼で観察したところ、押圧爪27、その爪部28a、28b、管11における押圧爪27の近傍の部分には、赤錆の発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0037】
11 管
12 受口
13 管
14 挿口
19 押輪(環状体)
26 押圧爪収容部
27 押圧爪
30 隙間
32 隙間
46 隙間
37 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入され、
受口の内周部、または、受口の外側における挿口の部分に外ばめされかつ受口に連結された環状体の内周部に、押圧爪収容部が形成され、
前記押圧爪収容部に、押圧ボルトの先端部に押されて挿口の外面に押圧された状態で挿口に固定される押圧爪が配置され、
前記押圧爪収容部は、この押圧爪収容部の外部に対して密閉された構造とされていることを特徴とする離脱防止管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112167(P2011−112167A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269360(P2009−269360)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】