説明

難加工性Pt合金線材およびその伸線加工方法

【課題】難加工性Pt合金線材を伸線加工するにあたり、熱間伸線加工で行うと、線材の細線化が難しくなるという問題があり、冷間伸線加工を行うと、材料内部にクラックが発生するという問題がある。
【解決手段】10〜15質量%Ru、35〜50質量%Irもしくは40〜50質量%Rhのいずれか1種を含み、残部がPtよりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難加工性Pt合金線材およびその伸線加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ru−Pt合金、Ir−Pt合金、Rh−Pt合金は、Ptの添加量が一定量以下になると冷間加工では素材にクラックや断線が発生し、加工が困難であった。
このため、これらの合金は素材を再結晶温度以上に加熱する加工(以下、熱間加工という。)が用いられるのが一般的である。
また、熱間加工では、線材の細線化が難しくなるという問題がある。
また、例えば、Ir−Pt系合金における板材については、Irを50質量%以上含むIr−Pt合金板の加工が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、Irを50mol%以下含み、アルカリ土類金属が0.1〜2mol%含む高温下で結晶粒の粗大化しないIr−Pt系合金の冷間圧延加工が提案されている(例えば、特許文献2)。
しかし、伸線工程と圧延工程では変形の挙動が異なるため、冷間板圧延が可能な材料であっても、冷間伸線することによって材料内部でクラックが発生することがある。
また、冷間加工が可能とされている35質量%Ir−Pt合金線であっても、実際の加工においては、加工条件の僅少なばらつき等により、材料内部でのクラック等の欠陥が発生し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−353505公報
【特許文献2】特開2010−138418公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、難加工性Pt系合金の線材を効率的に欠陥のない高品質の線材に成形加工することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Ruが10〜15質量%、Irが35〜50質量%、Rhが40〜50質量%のいずれか1種を含み、残部がPtからなる合金に対して、再結晶温度以下(150〜500°C)の温度に加熱させながら加工する(以下、温間加工という。)。
その温間加工は、減面率が75%以上となるまで行うこととし、材料の内部を繊維組織にさせる。その後、内部を繊維組織にした材料は再結晶温度以下に保持させた加熱装置内を一定の速度で通過させることにより、均一に熱処理され、かつ、繊細な繊維組織を残したまま加工歪を取り除く。これにより、材料に加工性を付与し、冷間での伸線を可能にすることができる。
【0007】
すなわち、Pt合金線の伸線方法は、Ruが10〜15質量%、Irが35〜50質量%、Rhが40〜50質量%のいずれか1種を含み、残部がPtからなる合金を150〜500°Cに加熱し、加工開始時から減面率が75%以上になるまで温間加工した後に300〜500°Cの範囲で連続加熱処理を施すことによって冷間伸線加工が可能となるものである(図1)。
ここで、温間加工の温度を150〜500°Cとする理由は、500°Cを超えて加工すると、再結晶化による結晶の粗大化が進み、伸線加工時に断線が発生するためである。また、150°C未満では、加工歪が緩和されずクラック、ワレ、断線等が発生するためである。
【0008】
また、連続加熱処理の温度を300〜500°Cとする理由は、500°Cを超えた温度で連続加熱処理を行うと、再結晶化による結晶の粗大化が進み、冷間伸線加工時に断線が発生するためである。また、300°C未満では、加工歪が十分に除去されず、冷間伸線時にクラックやワレが発生するためである。
【発明の効果】
【0009】
以上のようにした難加工性Pt合金線によると、冷間伸線加工ができないとされていた10〜15質量%Ru−Pt合金、35〜50質量%Ru−Pt合金、40〜50質量%Rh−Pt合金の線材を冷間加工によって伸線することができ、これによって生産性の向上と細線化をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の特徴を示す工程フローチャート
【図2】実施例を示す工程フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例を説明する。
【0012】
実施例1
10質量%Ru−Pt合金、15質量%Ru−Pt合金、35質量%Ir−Pt合金、40質量%Ir−Pt合金、50質量%Ir−Pt合金、40質量%Rh−Pt合金、50質量%Rh−Pt合金をそれぞれ同工程によって製造し(図2)、これらの線材加工の可否を検討した。
【0013】
(溶解、鍛造工程)
純Ru粉末、純Ir粉末、純Rh粉末、純Pt板を上記の所定組織となるように秤量し、これらをアーク溶解して棒状のRu−Pt合金インゴット、Ir−Pt合金インゴット、Rh−Pt合金インゴットを製造し、その後、鍛造でそれぞれ□10mmの棒材とした。
【0014】
(温間溝圧延工程)
上記各棒材を500°Cで温間溝圧延を行い□3mmの線材とした。
(温間伸線工程)
上記角線材を500°Cで温間伸線を行い、φ1.0mmの線材にした。
【0015】
(連続加熱工程)
上記各線材を、炉内温度を500°Cに保持した管状炉内を速度3m/minで通過させ、連続加熱処理を行った。
(冷間伸線工程)
上記各線材を冷間伸線により、φ0.25mmまで伸線した。その後、サンプルを20本取って断面観察を行った結果、クラックがないことを確認した。
【0016】
実施例2
実施例1と同様の方法で得られた□3mmの線材を、温間伸線工程の温度を150°Cとしてφ1.0mmに加工した後、連続加熱処理を300°Cで行い、冷間にてφ0.25mmに伸線した。その後、サンプルを20本取って断面観察を行った結果、クラックがないことを確認した。
【0017】
比較例1
上記実施例1と同様の方法で得られたφ1.0mmに伸線した線材を、連続加熱処理を250°Cで行い、冷間にて伸線した結果、いずれの材料もφ0.8mmまで伸線する間に材料が途中から裂けたため、加工性がないと判断し、それ以降の加工を行わなかった。
【0018】
比較例2
上記実施例1と同様の方法で得られたφ1.0mmに伸線した線材を、連続加熱処理を600°Cで行い、冷間にて伸線した結果、いずれの材料もφ0.7mmまで伸線する間に断線が多発したため、加工性がないと判断し、それ以降の加工を行わなかった。
【0019】
比較例3
実施例1と同様の方法で得られた□3mmの線材を、熱間伸線工程の温度を600°Cとしてφ1.0mmに加工した結果、いずれの材質でも材料が剥離してダイスに付着して材料表面がささくれた。このため、連続加熱処理および冷間伸線は行わなかった。
【0020】
比較例4
実施例1と同じ工程で□10mmに鍛造した棒材を、1000°Cで□3mmまで溝圧延した後、150〜500°Cで温間伸線を行った結果、いずれの材料もφ1.0mmまで伸線する間に断線が多発した。このため、量産性がないと判断し、連続加熱処理および冷間伸線は行わなかった。
【0021】
比較例5
実施例と同じ工程でφ1.0mmまで温間伸線した線材をフープ状にまとめ、炉内温度を1000°Cに保持した熱処理炉に入炉後5min保持した後、冷間にて伸線した結果、
15質量%Ru−Pt合金、50質量%Ir−Pt合金、50質量%Rh−Pt合金についてφ0.8mmまで伸線する間に断線が多発したため、量産性がないと判断し、以降の冷間伸線を行わなかった。
【0022】
また、10質量%Ru−Pt合金、40質量%Ir−Pt合金は、φ0.75mmまで伸線する間に材料の途中から裂けたため、加工性がないと判断し、それ以降の加工を行わなかった。
また、35質量%Ir−Pt合金と40質量%Rh−Pt合金については、φ0.25mmまで伸線できたが、サンプルを20本とり、断面観察を行った結果、35質量%Ir−Pt合金で4本、40質量%Rh−Pt合金で5本にクラックが認められた。
【0023】
比較例6
15質量%Ru−Pt合金、50質量%Ir−Pt合金、50質量%Rh−Pt合金について実施例1と同じ工程で作製した□3mmの線材を、100°Cで温間伸線したが、いずれの材料でもφ0.1mmまで伸線する間に断線が多発したため量産性がないと判断し、以降の加工を行わなかった。
【0024】
比較例7
20質量%Ru−Pt合金、60質量%Ir−Pt合金、55質量%Rh−Pt合金について実施例1と同じ工程で加工した結果、いずれの材料でもφ0.9mmまで伸線する間に材料が裂けたため、加工性がないと判断し、以降の冷間伸線加工は行わなかった。
【0025】
比較例8
55質量%Ir−Pt合金につて実施例1と同じ工程でφ1.0mmまで伸線し、1ダイス(減面率で20%以下)伸線するごとに炉内温度500°Cに保持した管状内を速度3m/minで連続加熱処理を行いながらφ0.25mmまで伸線した後、材料断面を20本観察した結果、20本中3本にクラックが認められたため、50質量%より多いIrを含むIr−Pt合金は冷間での加工性がないと判断した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

以上の結果から、10〜15質量%Ru−Pt合金、35〜50質量%Ir−Pt合金、40〜50質量%Rh−Pt合金の加工に有効であることが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜15質量%Ru、35〜50質量%Irもしくは40〜50質量%Rhのいずれか1種を含み、残部がPtよりなることを特徴とする難加工性Pt合金線材。
【請求項2】
難加工性Pt合金に対して、加工開始からの減面率が75%以上となるまで150〜500°Cで温間加工を行い、さらに、300〜500°Cで連続的に加熱した後に、冷間伸線加工を行うことを特徴とする難加工性Pt合金線材の伸線加工方法。
【請求項3】
請求項2において、難加工性Pt合金が、10〜15質量%Ru−Pt合金、35〜50質量%Ru−Pt合金、40〜50質量%Rh−Pt合金のいずれかであることを特徴とする難加工性Pt合金線材の伸線加工方法。

【図1】
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【図2】
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