説明

難水溶性医薬品および抗菌剤を含む組成物

本発明は、難水溶性医薬品、担体タンパク質及び抗菌剤を含む組成物であって、この組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物を提供する。本組成物中における抗菌剤の量は、毒性学的作用を惹起するレベル未満である場合もあれば、起こり得る副作用を制御又は耐容できるレベルである場合もある。又、難水溶性医薬品、担体タンパク質、糖、及び場合により抗菌剤を含む組成物も提供する。更に、本組成物を使用する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/712,865号(2005年8月31日出願)、米国仮特許出願第60/736,962号(2005年11月14日出願)、および米国仮特許出願第60/736,931号(2005年11月14日出願)に対する優先権を主張し、これらの米国出願の全ては、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本出願は、非経口又はその他の使用のためのタンパク質関連難水溶性医薬品を含み、更に抗菌剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
非経口用の多くの薬剤、特に静脈内投与される薬剤は、望ましくない副作用を引き起こす。これらの薬剤は非水溶性であることが多いことから、患者に投与すると刺激、アレルギー又は毒性を引き起こす可溶化剤、界面活性剤、溶媒及び/又は乳化剤と配合される(例えば、非特許文献1;及び非特許文献2を参照)。例えば、化学療法薬であるパクリタキセルは、卵巣、乳房、肺、食道及び頭頚部の癌腫に対して活性を示す。しかし、パクリタキセルは、投与に伴う毒性の他、骨髄抑制、好中球減少性発熱、アナフィラキシー反応及び末梢ニューロパチー等の有意に急性及び蓄積性の毒性を惹起することが明らかにされている。パクリタキセルは極めて水に溶けやすく、そのため、実用上静注用水と配合することができない。従来、パクリタキセルは、ポリオキシエチル化ヒマシ油(Cremophor)を第一溶媒とし、高濃度のエタノールを補助溶剤とする溶液にて、静脈内投与用に配合されている。Cremophorは、コルチコステロイド、抗ヒスタミン薬及びH遮断薬の前投薬を必要とする、アナフィラキシー及びその他の過敏性反応を含めた重度になる可能性がある副作用を伴う(例えば、非特許文献3を参照)。同様に、ドセタキセルはアントラサイクリン抵抗性乳癌の処置に使用されるが、重度になる可能性がある過敏症及び体液貯留といった副作用を惹起することが明らかにされている。
【0004】
薬剤配合物の投与関連の副作用に伴う問題を解決するため、代替の配合物が開発されてきた。例えば、AbraxaneTMはCremophorを含まない、パクリタキセルのタンパク質安定化配合物であり、Cremophor EL/エタノール配合物により惹起される副作用をなくすか、最低限に抑えるために開発された。同様のタンパク質安定化配合物も、ドセタキセル及びオルタタキセルといったタキサン類並びにその他の薬剤用に開発されてきた。
【0005】
タンパク質は細菌増殖に良好な基質の役割を果たすことから、このようなタンパク質含有配合物を使用する場合に直面する重大な問題の一つは、細菌汚染の可能性である。例えば、細菌汚染のリスクを最低限にするため、現行の静脈内投与用配合物のAbraxaneTMは、凍結乾燥させた状態で保存され、水性培地で再構成した後は直ちに(数時間以内に)注射する必要がある。細菌増殖は、単回用量を含有する容器内の不注意による汚染により生じる可能性がある。細菌汚染は、容器から複数回の用量を抽出する必要がある場合に、より深刻な問題となる。
【0006】
EDTA、ペンテト酸塩又は亜硫酸塩を含有する薬剤といった抗菌剤は、広く知られており、薬学的組成物に使用されている。例えば、特許文献1〜11を参照されたい。しかし、抗菌剤の多くは極めて高い毒性を有する。例えば、薬剤配合物に亜硫酸塩を添加すると、小児、及び硫黄にアレルギーを有する人々において副作用を生じる恐れがある。例えば、非特許文献4;非特許文献5を参照されたい。有意な細菌増殖を抑えるために、タンパク質を含有しない配合物よりも大量の抗菌剤が必要になる場合が多い、タンパク質を含有する薬学的組成物を配合する際に、これらの抗菌剤の毒性は重大な問題になる。
【0007】
更に、多くの抗菌剤はタンパク質と相互作用し、凝集等の安定性に問題を引き起こすことが知られている。例えば、非特許文献6を参照されたい。タンパク質の安定性に対する抗菌剤の作用は、難水溶性医薬品のタンパク質含有組成物を配合する場合に困難な問題を生じる。なぜなら、一般的に組成物中の難水溶性医薬品を安定させるには、タンパク質の適切な構成が必要となるためである。
【0008】
このように、所望の抗菌効果を提供するが、タンパク質の安定性を有意に損なわず、投与に対して許容されない毒性作用を引き起こすことがない、抗菌剤を含有する難水溶性医薬品のタンパク質含有配合物の開発が求められている。又、より容易に再構成することができる難水溶性医薬品のタンパク質含有配合物の開発も求められている。
【0009】
本明細書で引用する全ての出版物、特許、特許出願及び公開特許出願の開示内容は、全体が参考として本明細書で援用されている。
【特許文献1】米国特許第5,714,520号明細書
【特許文献2】米国特許第5,731,355号明細書
【特許文献3】米国特許第5,731,356号明細書
【特許文献4】米国特許第6,028,108号明細書
【特許文献5】米国特許第6,100,302号明細書
【特許文献6】米国特許第6,147,122号明細書
【特許文献7】米国特許第6,177,477号明細書
【特許文献8】米国特許第6,399,087号明細書
【特許文献9】米国特許第6,469,069号明細書
【特許文献10】国際公開第99/39696号パンフレット
【特許文献11】米国特許出願第2005/0004002号明細書
【非特許文献1】Briggs,ら,Anesthesis 37:1099(1982)
【非特許文献2】Waugh,ら,Am.J.Hosp.Pharmacists,48:1520(1991)
【非特許文献3】Gelderblom,ら,Eur.J.of Cancer,37:1590−1598,(2001)
【非特許文献4】Baker,ら,Anesthesiology,103(4):1−17(2005)
【非特許文献5】Mirejovsky,Am.J.Health Syst.Pharm.,58:1047(2001)
【非特許文献6】Lam,ら,Pharm.Res.14:725−729(1997)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)等のアルブミン)及び抗菌剤を含む組成物(例えば、薬学的組成物)であって、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物を提供する。幾つかの実施形態において、組成物における有意な細菌増殖は、所定の期間、例えば少なくとも約4時間(例えば少なくとも約8、12、16、24、36、48、60、72、84、96、108又は120時間の何れかを含む)にわたり阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、抗菌剤を含有しない組成物に比べて細菌汚染されにくい。幾つかの実施形態において、本発明の組成物は、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)及び抗菌剤を含み、該抗菌剤は本組成物における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量存在する。
【0011】
幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、抗新生物薬又は化学療法薬である。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、パクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル又はその他のタキサン類、ゲルダナマイシン、17−アリルアミノゲルダナマイシン、チオコルヒチン及びその二量体、ラパマイシン、シクロスポリン、エポチロン、ラジシコール及びコンブレタスタチンの何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)。例えば、幾つかの実施形態においては、タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)及び抗菌剤を含む組成物であって、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物が提供される。幾つかの実施形態においては、タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)、及び抗菌剤を含む組成物であって、該抗菌剤が組成物における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量存在する、組成物が提供される。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、アモルファス及び/又は非晶質のタキサン(例えば、パクリタキセル)である。幾つかの実施形態において、組成物を作製するのに使用される難水溶性医薬品は、無水形態(例えば、無水ドセタキセル)である。幾つかの実施形態において、抗菌剤はデフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外の抗菌剤である)。
【0012】
幾つかの実施形態においては、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)及び抗菌剤を含む組成物であって、該抗菌剤がキレート化剤であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物が提供される。幾つかの実施形態においては、タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)及び抗菌剤を含む組成物であって、該抗菌剤がキレート化剤であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物が提供される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は多座配位子キレート化剤である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は1つ以上のカルボン酸基を含む。幾つかの実施形態において、キレート化剤はデフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、キレート化剤は、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物である。幾つかの実施形態において、キレート化剤はクエン酸塩及びEDTAを含む。
【0013】
幾つかの実施形態においては、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)及び抗菌剤を含む組成物であって、該抗菌剤が非キレート化剤であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物が提供される。幾つかの実施形態においては、タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)、担体タンパク質(例えば、HSA等のアルブミン)及び抗菌剤を含む組成物であって、該抗菌剤が非キレート化剤であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される、組成物が提供される。幾つかの実施形態において、非キレート化剤の抗菌剤は、酸化促進剤として機能する。幾つかの実施形態において、非キレート化剤の抗菌剤は、抗酸化剤として機能する。幾つかの実施形態において、非キレート化剤の抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン及びそれらの誘導体の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)。
【0014】
幾つかの実施形態において、組成物は、難水溶性医薬品、アルブミン及び抗菌剤を含み、組成物におけるアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.01:1〜約100:1であり、該組成物中における有意な細菌増殖は阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、難水溶性医薬品、アルブミン及び抗菌剤を含み、組成物中におけるアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)、アルブミン及び抗菌剤を含み、組成物中におけるアルブミン 対 タキサン又はその誘導体の重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品(例えば、タキサン又はその誘導体)は、アルブミンでコーティングされる。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)キレート化剤である。幾つかの実施形態において、キレート化剤はデフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)非キレート化剤である。幾つかの実施形態において、組成物は更に糖(例えば、本明細書に記載の糖)も含む。
【0015】
幾つかの実施形態において、組成物は、タンパク質関連難水溶性医薬品及び抗菌剤を含み、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、タンパク質関連タキサン又はその誘導体(例えば、タンパク質関連パクリタキセル、タンパク質関連ドセタキセル又はタンパク質関連オルタタキセル)及び抗菌剤を含み、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)キレート化剤である。幾つかの実施形態において、キレート化剤はデフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)非キレート化剤である。
【0016】
幾つかの実施形態において、タンパク質/医薬品は、種々の実施形態において本明細書に記載のような平均直径を有する場合がある微粒子形態である。
【0017】
幾つかの実施形態において、組成物は、(1)難水溶性医薬品及び担体タンパク質を含む(種々の実施形態においては、これらから構成される、又はこれらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)抗菌剤を含み、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、難水溶性薬剤は担体タンパク質でコーティングされる。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)及び担体タンパク質;及び(2)抗菌剤を含む(種々の実施形態においては、これらから構成される、又はこれらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子)を含み、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)キレート化剤である。幾つかの実施形態において、キレート化剤はデフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩又はその誘導体、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)非キレート化剤である。
【0018】
幾つかの実施形態において、組成物は、(1)難水溶性医薬品及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらから構成される、又はこれらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)抗菌剤を含み、該組成物におけるアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.01:1〜約100:1であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)難水溶性医薬品及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらから構成される、又はこれらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)抗菌剤を含み、組成物におけるアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)タキサン又はその誘導体(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)及びアルブミンを含む粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)抗菌剤を含み(例えば、これらからなるか、これらから本質的に構成される)、組成物におけるアルブミン 対 タキサン又はその誘導体の重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品(例えば、タキサン又はその誘導体)は、アルブミンでコーティングされる。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物である(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)キレート化剤である。幾つかの実施形態において、キレート化剤は、デフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、キレート化剤はクエン酸塩ではない(即ち、クエン酸塩以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)非キレート化剤である。幾つかの実施形態において、組成物は更に糖(例えば、本明細書に記載の糖)も含む。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、ドセタキセル又はその誘導体である。
【0019】
幾つかの実施形態において、組成物は、(1)パクリタキセル及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらから構成される、又はこれらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)抗菌剤を含み、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比(w/w)は、約0.01:1〜約100:1であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)パクリタキセル及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらから構成される、又はこれらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)抗菌剤を含み、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下、15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下、及び3:1以下の何れかである。幾つかの実施形態において、パクリタキセルはアルブミンでコーティングされる。幾つかの実施形態において、組成物はCremophorを実質的に含まない(例えば、これを含まない)。幾つかの実施形態において、組成物は、パクリタキセル及びアルブミンを含む粒子(例えば、ナノ粒子)(例えば、アルブミンでコーティングされたパクリタキセルの粒子)の安定した水性懸濁液を含み、組成物は更に抗菌剤も含み、組成物におけるアルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約9:1以下であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、組成物は、再構成(再懸濁又は再水和)することで、一般的には、パクリタキセル及びアルブミン(例えば、アルブミンでコーティングしたパクリタキセル)を含む粒子(例えば、ナノ粒子)の安定した水性懸濁液を形成することができる、乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物を含み、該組成物は更に抗菌剤も含み、組成物におけるアルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、該組成物における有意な細菌増殖が阻害される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物である(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)キレート化剤である。幾つかの実施形態において、キレート化剤はデフェロキサミンではない(即ち、デフェロキサミン以外のキレート化剤である)。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)非キレート化剤である。幾つかの実施形態において、組成物は更に糖(例えば、本明細書に記載の糖)も含む。
【0020】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載の粒子(例えば、ナノ粒子)の直径の平均値又は中央値は、約1000、900、800、700、600、500、400、300、200及び100nm未満の何れかである。幾つかの実施形態において、粒径の平均値又は中央値は約200nm未満である。幾つかの実施形態において、粒径の平均値又は中央値は20〜400nmである。幾つかの実施形態において、粒径の平均値又は中央値は40〜200nmである。幾つかの実施形態において、粒子は滅菌濾過可能である。
【0021】
幾つかの実施形態において、組成物は、難水溶性医薬品(例えば、タキサン又はその誘導体)、担体タンパク質(例えば、アルブミン)及び、該組成物における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量の抗菌剤を含む。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品(例えば、タキサン又はその誘導体)、水性培地で難水溶性医薬品を安定化させるのに有効な量の担体タンパク質(例えば、アルブミン)、及び該組成物における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量の抗菌剤を含む。幾つかの実施形態において、組成物は、難水溶性医薬品(例えば、タキサン又はその誘導体)、ヒトに難水溶性医薬品を投与した場合の1つ以上の副作用を低減するのに有効な量の担体タンパク質(例えば、アルブミン)、及び該組成物における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量の抗菌剤を含む。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)キレート化剤である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、例えば、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物の何れかである(並びに幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)非キレート化剤である。抗菌剤の具体的な量を以下に詳細に説明する。
【0022】
本明細書に記載の組成物は、難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液、例えば、約0.1〜約100mg/mL、約0.1〜約50mg/mL、約0.1〜20mg/mL、約1〜約10mg/mL、約2〜約8mg/mL、約4〜約6mg/mL、及び約5mg/mLの濃度である難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液である場合がある。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品の濃度は、少なくとも1.3mg/mL、1.5mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、及び50mg/mLである。
【0023】
幾つかの実施形態において、組成物は、再構成、再懸濁又は再水和することで、一般的には、難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液を形成することができる、乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物である。幾つかの実施形態において、組成物は、乾燥組成物を再構成又は再懸濁することによって得られる液体(例えば、水性)の組成物である。幾つかの実施形態において、組成物は乾燥(例えば、凍結乾燥させた)することができる中間液体(例えば、水性)組成物である。
【0024】
幾つかの実施形態において、組成物は非経口投与(例えば、静脈内投与)に好適である。幾つかの実施形態において、組成物は反復投与に好適である。幾つかの実施形態において、組成物は滅菌濾過可能である。幾つかの実施形態において、組成物は、個体に投与した場合に、その個体(例えば、ヒト)において有意な副作用を引き起こすことがない。幾つかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、Cremophorを実質的に含まない(例えば、これを含まない)。本明細書に記載の組成物を含有する抗菌剤は、更に糖又はその他の凍結乾燥若しくは再構成補助剤も含む場合がある。
【0025】
幾つかの実施形態において、組成物中における抗菌剤の量は、毒性学的作用を惹起するレベル未満である(即ち、許容される毒性レベルを超える)か、組成物を個体に投与した場合に起こり得る副作用が制御又は耐容できるレベルである。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、組成物中の担体タンパク質の安定性又は特徴に悪影響を及ぼさない量存在する。
【0026】
別の態様においては、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、アルブミン)及び糖を含む組成物(例えば、凍結乾燥組成物又は凍結乾燥することができる中間液体組成物)が提供される。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)難水溶性医薬品(タキサン又はその誘導体)及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらからからなるか、これらから本質的に構成される)粒子(ナノ粒子);及び(2)糖を含み、組成物におけるアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.01:1〜約100:1である。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)難水溶性医薬品(タキサン又はその誘導体)及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらからからなるか、これらから本質的に構成される)粒子(ナノ粒子);及び(2)糖を含み、組成物におけるアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)である。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品はアルブミンでコーティングされる。幾つかの実施形態において、組成物は乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物を含み、凍結乾燥させた組成物は、再構成(再懸濁又は再水和)することで、一般的には、難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液を形成することができ、水性溶液中の組成物の再構成の時間は、糖が不在の組成物でかかる時間よりも短い。幾つかの実施形態において、組成物中又は組成物から生じる再構成懸濁液中の糖濃度は、約50mg/mL超である。幾つかの実施形態において、組成物は更に本明細書に記述の抗菌剤のような抗菌剤も含む。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品はドセタキセル又はその誘導体である。
【0027】
幾つかの実施形態において、本発明は、パクリタキセル、アルブミン及び糖を含む組成物を提供し、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約9:1以下であり、組成物中又は組成物から生じる再構成懸濁液中の糖濃度は、50mg/mL超である。幾つかの実施形態において、組成物は、(1)パクリタキセル及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらからからなるか、これらから本質的に構成される)粒子(ナノ粒子);及び(2)糖を含み、組成物におけるアルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下(例えば、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1、及び約9:1の何れかを含む)であり、組成物中又は組成物から生じる再構成懸濁液中の糖濃度は、50mg/mL超である。
【0028】
幾つかの実施形態において、糖は、糖非含有組成物に比べて、組成物中における難水溶性医薬品の安定性を高めるのに有効な量存在する。幾つかの実施形態において、糖は、糖非含有組成物に比べて、組成物の濾過性を高めるのに有効な量存在する。幾つかの実施形態において、糖は、糖非含有組成物に比べて、凍結乾燥させた組成物の再構成において生じる発泡を抑えるのに有効な量存在する。
【0029】
又、本明細書に記載の組成物の単位剤型、本発明の組成物又は好適な包装(例えば、バイアル又は容器(密封バイアル又は容器及び滅菌密封バイアル又は容器を含む))に入った単位剤型、及び組成物を含むキットも提供される。本発明は又、本明細書に記載のこれらの組成物を作製及び使用する方法も提供する。
【0030】
本明細書に記載の種々の実施形態の1つ、幾つか、又は全ては、組み合わせて本発明の他の実施形態を形成する場合があることを理解するものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は一態様において、難水溶性医薬品、担体タンパク質及び抗菌剤を含む薬学的組成物を含めた組成物を提供する。組成物中の担体タンパク質は一般的に、担体タンパク質を含まない組成物に比べて、難水溶性医薬品が水性培地により容易に懸濁できるようにするか、懸濁液を維持するのを助けるか、又はその両方を行う。担体タンパク質は一般的に、必須ではないが、水性培地中で難水溶性医薬品を安定化するのに十分な量、及び/又は難水溶性医薬品を個体(例えば、ヒト)に投与した場合の副作用の1つ以上を抑えるのに有効な量存在する。抗菌剤は一般的に、組成物における有意な細菌増殖を阻害(例えば、遅延、抑制、緩徐化及び/又は予防)するのに有効な量存在する。望ましくは、組成物中における抗菌剤の量は、毒性学的作用を惹起するレベル未満であるか、起こり得る副作用を制御又は耐容できるレベルであるのがよい。
【0032】
別の態様においては、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、アルブミン)及び糖を含む組成物(例えば、凍結乾燥させた組成物又は凍結乾燥させることができる中間液体組成物)が提供される。
【0033】
「組成物」という一般的な言及は、本発明の組成物を包含し、本発明の組成物に適用することができる。本発明は又、本明細書に記載の成分を含む薬学的組成物も提供する。
【0034】
本明細書におけるパクリタキセルの言及は、パクリタキセル又はその誘導体に適用され、従って、本発明はこれらの実施形態の両方を考慮及び包含する。「パクリタキセル」の言及は、説明を簡略化するためのものであり、例示的なものである。パクリタキセルの誘導体又は類似体には、パクリタキセルに構造が類似するか、パクリタキセル、例えばドセタキセルと同じ一般化学分類に属する化合物が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、パクリタキセルの誘導体又は類似体は、パクリタキセルの同様の生物学的、薬理学的、化学的及び/又は物理的特性(例えば官能性を含む)を保有する。パクリタキセルの誘導体又は類似体の例には、ドセタキセル及びオルタタキセルが含まれる。この説明の同じ原理は、本明細書に記載のその他の薬剤、例えば、抗菌剤及び難水溶性医薬品(例えば、タキサン(ドセタキセル、オルタタキセル又はその他のタキサン類を含む)、ゲルダナマイシン、17−アリルアミノゲルダナマイシン、チオコルヒチン及びその二量体、ラパマイシン、シクロスポリン、エポチロン、ラジシコール及びコンブレタスタチン)に適用される。
【0035】
本明細書に記載の本発明の態様及び実施形態は、それらの態様及び実施形態「から構成される」及び/又はこれら「から本質的に構成される」ことを包含することが理解される。
【0036】
(抗菌剤)
本明細書で使用される「抗菌剤」という用語は、1つ以上の微生物の増殖を阻害(例えば、遅延、抑制、緩徐化及び/又は予防)することができる薬剤を指す。有意な細菌増殖は、当該技術分野で既知の幾つかの方法で測定又は示すことができる。例としては、以下の1つ以上が含まれる:(1)組成物を個体に投与した場合に、その個体に1つ以上の副作用を引き起こすのに十分な組成物における細胞増殖;(2)特定の期間(例えば24時間)にわたって外因性汚染(例えば、20〜25℃での10〜10のコロニー形成単位への曝露)を受けての約10倍を超える細胞増殖。有意な細菌増殖を示すその他の例は、本明細書に記載されている。
【0037】
本明細書に記載の抗菌剤は、1つ以上の細菌(グラム陽性及びグラム陰性細菌の両方を含む)、真菌又はカビの増殖に対して有効な場合がある。例えば、幾つかの実施形態において、抗菌剤は、グラム陽性球菌(例えば、Staphylococcus aureus及びStaphylococcus epidermidis)、発酵性グラム陰性桿菌(例えば、Klebsiella pneumoniae、Enterobacter cloaceae、Escherichia Coli、Proteus species及びEnterobacter gergoviae)、非発酵性グラム陰性桿菌(例えば、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas capecia、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas putida、Flavobacterium及びAcinetobacter species)、及び胞子形成細菌(例えば、Bacillus subtilis)の何れか1つ以上の増殖に対して有効である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、酵母(例えば、Candida albicans、Candida parapsilosis)及びカビ(例えば、Aspergillus niger及びPenicillium notatum)の何れか1つ以上の増殖に対して有効である。
【0038】
増殖が阻害されるその他の細菌には、例えば、B. cereus、B. cohaerens、B. megatherium、B. plicatus、B. ubicuitarius、Corynebacterium nicotinovorans、Enterobacter aerogenes、Lactobacillus arabinosus、L. asei、Ps. Effuse及びPs. Ovalisが含まれる。増殖が阻害されるその他の真菌には、例えば、Candida krusei、C. pseudotropicalis、Hansenula anomala、Pichia membranaefaciens、S. anamensis、S. cerevisiae、S. elllipsoideus、S. spec、Torula lipolytica、Willia anomala及びZ. nussabaumiiが含まれる。増殖が阻害されるその他のカビには、例えば、Trichoderma lignorm、Fusarium spec、Gliocladium roseum、Mucor spec及びPenicillium glausumが含まれる。
【0039】
種々の微生物に対する抗菌剤の有効性は、USP/EP保存有効性試験又はその改変等の当該技術分野で既知の方法で測定することができる。Sutton and Porter, PDA J. Pharm. Sci. Tech., 2002; 56:6, 300−311を参照されたい。又、米国特許公開第2004/009168号も参照されたい。例えば、最終組成物における抗菌剤の増殖阻害能力は、膜濾過法及びブロス培養により評価することができる。保存有効性試験用に米国薬局方(USP)が推奨する4種類の標準微生物を、各配合物に約50〜200コロニー形成単位(CFU)/mL接種することができる。この4種類の微生物は、Staphylococcus aureus(ATCC 6538)、Escherichia Coli(ATCC 8739)、Pseudomonas aeruginosa (ATCC 9027)及びCandida albicans (ATCC 10231)として同定される。これらの微生物に加えて、S. epidermidis (ATCC 12228)及びS. aureus(コアグラーゼ陰性、ATCC 27734)を試験することもできる。被験微生物の接種後、被験配合物を30〜35℃で培養することができる。選択した時点(例えば、接種直後及び30〜35℃での培養を24時間行った後)での被験微生物の生存数を測定することができる。
【0040】
幾つかの実施形態において、抗菌剤は、少なくとも約4、8、12、18、24、36、48、60、72、84、96又は108又は120時間の何れかの期間にわたって有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量、存在する。
【0041】
抗菌剤が有効とみなされるのは、例えば、外因性汚染から約24時間で、組成物中の微生物が約1ログ(10倍)以上増加するまで増殖するのを遅延させることができる場合である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、細菌試料において7日間で細菌を初回の計数から少なくとも約1.0ログ減少させる場合、14日間で約3.0ログ減少させる場合、及び/又は約28日目に増加が認められない場合に有効である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、細菌試料において約6時間で細菌を初回の計数から少なくとも約2.0ログ減少させる場合、約24時間で約3.0ログ減少させる場合、及び/又は約28日目に細菌数の回復が認められない場合に有効である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、酵母及びカビ試料において、約7日間で初回計数から約2.0ログ減少させる場合、及び/又は約28日目に増加が全く認められない場合に有効である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、細菌試料において約24時間後に初回計数から少なくとも約1.0ログ減少させる場合、約7日目に約3.0ログ減少させる場合、及び約28日目に増加が認められない場合に有効である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、酵母及びカビ試料において約14日目に初回計数から約1.0ログ減少させ、約28日目に増加が全く認められない場合に有効である。
【0042】
幾つかの実施形態において、組成物中における抗菌剤の量は、毒性学的作用を惹起するレベル未満である(即ち、臨床的に許容される毒性レベルを超える)か、組成物を個体に投与した場合に起こり得る副作用が制御又は耐容できるレベルである。個体に投与された薬剤の毒性又は副作用を測定する方法は、当該技術分野で一般的に既知であり、組成物中の個々の抗菌剤により異なる。例えば、カルシウムキレート化抗菌剤(例えば、EDTA)は高用量で個体に投与されると、心臓に問題(例えば、不整脈)を引き起こす可能性がある。このため、不整脈の徴候を監視して、カルシウムキレート化剤の毒性作用を評価することができる。貧血(イオンキレート化剤)、体重減少及び死亡率といったその他の徴候も動物モデルで評価して、その抗菌剤の至適量を決定することができる。
【0043】
幾つかの実施形態において、抗菌剤は、組成物中の担体タンパク質の安定性又は特徴に悪影響を及ぼさない量存在する。幾つかの実施形態において、抗菌剤(例えば、抗酸化剤であるEDTA及び非キレート化抗菌剤)は、組成物中の酸化を阻害するのに有効な量存在する。組成物中の抗菌剤の具体的な量は、個々の抗菌剤又は組成物中の薬剤によって異なり、以下に以下で詳細に説明する。
【0044】
(キレート化剤)
幾つかの実施形態において、抗菌剤はキレート化剤である。キレート化剤は、必須の金属イオン(例えば、カルシウム、亜鉛、マグネシウム)を除去して重要な代謝過程を不可能にすることによって抗菌剤として機能する。これらのキレート化剤は、特殊な金属イオン(例えば、カルシウム、亜鉛、マグネシウム)に特異的であるか、金属イオンの特異性に幅広いスペクトルを示すかの何れかである。幾つかの実施形態において、キレート化剤は多座配位子である。幾つかの実施形態において、キレート化剤は1つ以上のカルボン酸基を含む。幾つかの実施形態において、キレート化剤はデフェロキサミンではない。好適なキレート化剤は、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、それらの誘導体、及びそれらの混合物である。
【0045】
本明細書で検討する1つの抗菌剤は、例えば、エデト酸塩、即ち、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)及びその誘導体である。本発明に使用するのに好適な誘導体としては、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、四ナトリウムエデト酸塩、及びエデト酸二ナトリウムカルシウムが含まれる。エデト酸塩は長時間(例えば、少なくとも約24時間)有意な細菌増殖を阻害する機能を満たすかぎり、その性質は重要ではない。幾つかの実施形態において、エデト酸塩は約0.001〜約1mg/mLの濃度で組成物中に存在し、例えば0.01〜約1mg/mL、約0.01〜約0.5mg/mL、約0.01〜約0.3mg/mL、約0.02〜約0.2mg/mL、約0.03〜約0.1mg/mL、及び約0.05mg/mLの何れかの濃度で存在する。幾つかの実施形態において、エデト酸塩の濃度は、約1mg/mL未満、例えば、約0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.009、0.008、0.007、0.006、0.005、0.004、0.003、0.002又は0.001mg/mLである。幾つかの実施形態において、組成物におけるエデト酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.002:1〜約0.2:1であり、例えば、約0.002:1〜約0.1:1、約0.002:1〜約0.06:1、約0.004:1〜約0.04:1、約0.006:1〜約0.02:1及び約0.01:1である。幾つかの実施形態において、組成物におけるエデト酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.2:1、1.5:1、0.1:1、0.05:1、0.01:1及び0.005:1未満の何れかである。
【0046】
本明細書で検討する別の抗菌剤は、クエン酸ナトリウム及びクエン酸等のクエン酸塩である。クエン酸塩の好適な濃度は、例えば、約0.1〜約200mg/mL、約0.2〜約100mg/mL、約0.3〜約50mg/mL、約0.5〜約10mg/mL、及び約1〜約5mg/mLである。幾つかの実施形態において、クエン酸塩の濃度は約200mg/mL未満、例えば100、50、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3又は0.2mg/mL未満の何れかである。幾つかの実施形態において、クエン酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.02:1〜約40:1であり、例えば約0.04:1〜約20:1、約0.06:1〜約10:1、約0.1:1〜約2:1、約0.2:1〜約1mg/mLである。幾つかの実施形態において、クエン酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約40:1、30:1、20:1、10:1、5:1、1:1、0.5:1及び0.1:1未満の何れかである。他の実施形態において、抗菌剤はクエン酸塩ではない(即ち、クエン酸塩以外である)。
【0047】
抗菌剤はペンテト酸塩(カルシウム三ナトリウムペンテト酸塩を含む)であることもできる。幾つかの実施形態において、ペンテト酸塩の量は、約3mg/mL未満(例えば、約2、1.5、1、0.5、0.3、0.1、0.09、0.08、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1及び0.05mg/mL未満の何れか)である。例えば、ペンテト酸塩は約0.005〜約3mg/mL、約0.005〜約0.1mg/mL又は約0.005〜約0.05mg/mLの何れかの範囲で存在する。幾つかの実施形態において、ペンテト酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.001:1〜約0.6:1であり、例えば、約0.001:1〜約0.2:1及び約0.01:1〜約0.1:1である。幾つかの実施形態において、ペンテト酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.6:1、0.3:1、0.1:1、0.05:1及び0.01:1未満の何れかである。
【0048】
本明細書で検討する別の抗菌剤はトロメタミンである。本明細書で使用するトロメタミンは、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールを指し、これはTRISとも呼ばれる。幾つかの実施形態において、トロメタミンは組成物中に、約2.5mg/mL未満(例えば約2.5、2、1.5又は1mg/mL未満の何れか)の量で存在する。例えば、トロメタミンは約1.5〜約2.5mg/mLの範囲で、例えば約2mg/mLで存在する。トロメタミンの別の例示的量は約2.4mg/mLである。幾つかの実施形態において、トロメタミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.1:1〜約0.5:1、例えば約0.2:1〜約0.5:1及び約0.2:1〜約0.4:1である。幾つかの実施形態において、組成物におけるトロメタミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.5:1、0.4:1、0.3:1、0.2:1及び0.1:1未満の何れかである。
【0049】
幾つかの実施形態において、キレート化抗菌剤はソルビン酸塩(ソルビン酸カリウム)である。幾つかの実施形態において、ソルビン酸塩は組成物中に約2.5mg/mL未満(例えば、約2.5、2、1.5又は1mg/mL未満の何れか)の量で存在する。例えば、ソルビン酸塩は約0.5mg/mLの量で存在する場合がある。幾つかの実施形態において、組成物におけるソルビン酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.5:1、0.4:1、0.2:1又は0.1:1未満の何れかである。
【0050】
幾つかの実施形態において、キレート化抗菌剤はアスコルビン酸塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム)である。幾つかの実施形態において、アスコルビン酸塩は組成物中に、約5mg/mL未満(例えば約2.5、2、1.5又は1mg/mL未満の何れか)の量で存在する。例えば、アスコルビン酸塩は1mg/mLの量で存在する場合がある。幾つかの実施形態において、組成物におけるアスコルビン酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約1:1、0.5:1、0.4:1、0.2:1又は0.1:1未満の何れかである。
【0051】
この他好適な金属キレート化抗菌剤及びその例示的な量には、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(0.1mg/mL)及びモノチオールグリセロール(5mg/mL)が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
(非キレート化剤)
幾つかの実施形態において、抗菌剤はキレート化剤ではない(即ち、非キレート化抗菌剤である)。これらの例には、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、その誘導体が含まれるが、これらに限定されない。これらの非キレート化抗菌剤は、種々の機序を介して機能する。幾つかの実施形態において、非キレート化抗菌剤は酸化促進剤として機能する。幾つかの実施形態において、非キレート化抗菌剤は抗酸化剤として機能する。
【0053】
本明細書で検討する1つの抗菌剤は亜硫酸塩である。「亜硫酸塩」という用語は、亜硫酸(オルト亜硫酸)及びメタ亜硫酸の製剤学的に許容可能な全ての誘導体を指す。好適な亜硫酸塩には、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム又はその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、亜硫酸塩は約0.075〜約6.6mg/mL、例えば約0.075〜約1mg/mL、及び約0.25mg/mLで存在する。幾つかの実施形態において、亜硫酸塩は約5mg/mL、3mg/mL、及び1mg/mL未満の何れかの量で存在する。幾つかの実施形態において、亜硫酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.01:1〜約1.5:1であり、例えば0.02:1〜約1:1及び約0.05:1〜約0.5:1である。幾つかの実施形態において、亜硫酸塩 対 難水溶性医薬品の重量比は、約1.5:1、1:1、0.5:1、0.1:1及び0.05:1未満の何れかである。
【0054】
幾つかの実施形態において、抗菌剤は安息香酸、ベンジルアルコール又はその誘導体である。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、ベンジルアルコール、塩化ベンゼトニウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸ベンジル又はその種々の組み合わせからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、ベンジルアルコールの量は約0.175〜約9mg/mLの範囲であり、例えば約0.7〜約4.5mg/mL、約1.5mg/mL、及び約1mg/mLである。幾つかの実施形態において、ベンジルアルコールの量は約0.7〜約9mg/mLであり、例えば場合により約0.05mg/mLのEDTAの量を含む。幾つかの実施形態において、組成物は安息香酸又はその誘導体を、約2〜約50mg/mLの範囲で含み、例えば約1〜約20mg/mL、約2〜約10mg/mL、及び約5mg/mL含む。幾つかの実施形態において、組成物は安息香酸ベンジル又は安息香酸ナトリウムを、約0.1〜約460mg/mLの範囲で含み、例えば約0.5〜約200mg/mL、約1〜約100mg/mL、約1〜約50mg/mL、及び1mg/mL含む。幾つかの実施形態において、組成物は塩化ベンゼトニウムを約0.1〜約1mg/mL含む。幾つかの実施形態において、組成物における安息香酸又はベンジルアルコール 対 難水溶性医薬品の重量比は、約0.02:1〜約150:1、例えば、約0.1:1〜約40:1、約0.2:1〜約20:1及び約0.2:1〜約10:1である。幾つかの実施形態において、組成物における安息香酸又はベンジルアルコール 対 難水溶性薬剤の重量比は、約150:1、100:1、50:1、10:1、5:1、1:1、0.5:1及び0.1:1未満の何れかである。
【0055】
幾つかの実施形態において、抗菌剤はクロロブタノール又はその誘導体(例えば、半水クロロブタノール)である。クロロブタノールの好適な量は、例えば約2.5〜約50mg/mL、約5〜約20mg/mLである。幾つかの実施形態において、抗菌剤はフェノール又はその誘導体である。フェノール(又はその誘導体)の好適な量は、例えば約0.7〜約25mg/mL、約1〜約20mg/mLである。幾つかの実施形態において、抗菌剤はクレゾール(例えば、m−クレゾール)又はその誘導体である。クレゾール(又はその誘導体)の好適な量は、例えば、約1.5〜約31mg/mL、及び約5〜約15mg/mLである。
【0056】
幾つかの実施形態において、非キレート化剤はパラベンであり、これにはメチルパラベン、ブチルパラベン及びプロピルパラベンが含まれるが、これらに限定されない。パラベン(例えば、メチルパラベン)の好適な量は、例えば約0.05〜約5mg/mL、約0.08〜約3mg/mL、約0.1〜約2mg/mL、約0.2〜約1.5mg/mL、及び約1mg/mLである。
【0057】
その他の好適な抗菌剤には、硝酸塩及び亜硝酸塩(例えば、硝酸フェニル水銀)、p−ヒドロキシ安息香酸のエステル、プロピオン酸及びプロピオン酸塩、二酢酸ナトリウム、ソルビン酸及びソルビン酸塩、二酸化硫黄、ジエチルピロカーボネート(DEPC)、次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、チメロサール等が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、少なくとも2種類(例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10種類)の抗菌剤(例えば、本明細書に記載の抗菌剤を少なくとも2種類)を含む。これらの抗菌剤は同じ種類であっても(例えば、異なる亜硫酸塩)、異なる種類であっても(例えば、亜硫酸塩とベンジルアルコール)よい。例えば、メチルパラベンとプロピルパラベン(1〜2mg/mL)の組み合わせは、特に真菌に対して優れていることが明らかにされている。複数の微生物因子が組成物内に存在する場合、各抗菌剤の有効量は抗菌剤の組み合わされた作用によって異なる。例えば、抗菌剤が相乗的に働く場合、各抗菌剤の有効量はその抗菌剤が組成物中に単独で存在する場合に比べてはるかに少なくてよい。幾つかの実施形態において、組成物はクエン酸塩及びEDTAの両方を含む。クエン酸塩及びEDTAはE.coliに対して特に優れていることが明らかにされている。幾つかの実施形態において、組成物は200mMのクエン酸塩及びEDTAを含む。幾つかの実施形態において、組成物は200mMのクエン酸塩及び0.001%、0.01%、0.1%及び0.2%(w/v)の何れかのEDTAを含む。
【0059】
(難水溶性医薬品)
本明細書に記載の組成物は、難水溶性医薬品を含む。例えば、難水溶性薬剤の水への可溶性は、約20〜25℃で、約10mg/mL未満、例えば約5、2、1、0.5、0.2、0.1、0.05、0.02又は0.01mg/mL未満の何れかである。本明細書に記載の難水溶性医薬品は、例えば抗癌剤又は抗新生物剤、抗微小管剤、免疫抑制剤、麻酔剤、ホルモン剤、心血管疾患に使用する薬剤、抗不整脈剤、抗生物質、抗真菌剤、降圧剤、抗喘息剤、抗炎症剤、抗関節炎剤、血管作用剤、鎮痛剤/解熱剤、抗うつ剤、抗糖尿病剤、抗真菌剤、抗炎症剤、抗不安剤、免疫抑制剤、抗偏頭痛剤、鎮静剤、抗狭心剤、抗精神病剤、抗躁剤、抗関節炎剤、抗痛風剤、抗凝固剤、抗血栓剤、抗線維素溶解剤、溶血剤、抗血小板剤、抗痙攣剤、抗パーキンソン病剤、抗ヒスタミン剤/抗掻痒剤、カルシウム調節に有用な薬剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗感染症剤、気管支拡張剤、ホルモン剤、血糖降下剤、脂質低下剤、抗潰瘍/逆流防止剤、制吐剤/鎮吐剤及び油溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、D、E、K)である。
【0060】
幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は抗新生物剤である。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は化学療法剤である。
【0061】
好適な難水溶性医薬品には、タキサン類(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル及び他のタキサン類)、エポチロン、カンプトテシン、コルヒチン、ゲルダナマイシン、アミオダロン、甲状腺ホルモン、アンフォテリシン、コルチコステロイド、プロポフォール、メラトニン、シクロスポリン、ラパマイシン(シロリムス)及び誘導体、タクロリムス、ミコフェノール酸、イホスファミド、ビノレルビン、バンコマイシン、ゲムシタビン、SU5416、チオテパ、ブレオマイシン、診断用放射線造影剤及びその誘導体が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物に有用なその他の難水溶性医薬品に関しては、例えば、米国特許第5,916,596号、第6,096,331号、第6,749,868号及び第6,537,539号に記載されている。難水溶性医薬品の更なる例には、水溶性が低く、The Merck Index(12th Edition 1996)の“Therapeutic Category and Biological Activity Index”に列挙される化合物が含まれる。
【0062】
幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、パクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル又は他のタキサン又はタキサン類似体、17−アリルアミノゲルダナマイシン(17−AAG)、18−誘導体化ゲルダナマイシン、カンプトテシン、プロポフォール、アミオダロン、シクロスポリン、エポチロン、ラジシコール、コンブレタスタチン、ラパマイシン、アンフォテリシン、リオチロニン、エポチロン、コルヒチン、チオコルヒチン及びその二量体、甲状腺ホルモン、血管活性腸管ペプチド、コルチコステロイド、メラトニン、タクロリムス、ミコフェノール酸、エポチロン、ラジシコール、コンブレタスタチン及びその類似体又は誘導体の何れかである。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、パクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル又は他のタキサン類、ゲルダナマイシン、17−アリルアミノゲルダナマイシン、チオコルヒチン及びその二量体、ラパマイシン、シクロスポリン、エポチロン、ラジシコール及びコンブレタスタチンの何れかである(幾つかの実施形態においては、これらからなる群から選択される)。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品はラパマイシンである。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は17−AAGである。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品はチオコルヒチン二量体(例えば、IDN5404)である。
【0063】
幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、パクリタキセル、ドセタキセル及びIDN5109(オルタタキセル)又はその誘導体を含むがこれらに限定されないタキサン又はその誘導体である。幾つかの実施形態において、組成物は非晶質及び/又はアモルファスのタキサン(例えば、パクリタキセル又はその誘導体)を含む。幾つかの実施形態において、組成物は無水タキサン(例えば、無水ドセタキセル又はその誘導体)を使用して調製される。無水ドセタキセルは、ドセタキセル三水和物又は半水ドセタキセルといった水和ドセタキセルで作製されるものよりも、より安定した配合物を生成することが明らかにされている。
【0064】
(担体タンパク質)
本明細書に記載の組成物は、担体タンパク質も含む。「タンパク質」という用語はあらゆる長さ(全長又は断片を含む)のポリペプチド又はアミノ酸のポリマーを指し、これは直鎖であっても分枝鎖であってもよく、修飾アミノ酸を含むか、非アミノ酸によって干渉されるか、又その両方であってよい。又、この用語は、自然に又は例えばジスルフィド結合形成、糖化、脂質化、アセチル化、リン酸化又はその他のあらゆる操作又は修飾といった干渉によって修飾されたアミノ酸ポリマーを含む。又、この用語に含まれるのは、例えば、1つ以上のアミノ酸類似体(例えば非天然アミノ酸等を含む)並びに当該技術分野で既知の他の修飾を含有するポリペプチドである。本明細書に記載のタンパク質は、天然のもの、即ち、天然供給源(例えば、血液)から入手又は派生したものであっても、合成(例えば、化学的合成又は遺伝子組換えDNA技術による合成)されたものであってもよい。
【0065】
好適な担体タンパク質の例には、血液又は血漿に自然に認められるタンパク質が含まれる。これらには、アルブミン、IgAを含む免疫グロブリン、リポタンパク質、アポリポタンパク質B、α酸糖タンパク質、β−2マクログロブリン、チログロブリン、トランスフェリン、フィブロネクチン、VII因子、VIII因子、IX因子、X因子等が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、担体タンパク質は、カゼイン、α−ラクトアルブミン及びβラクトグロブリンといった非血液タンパク質である。担体タンパク質は、発生源が自然であっても合成によって調製されたものであってもよい。幾つかの実施形態において、製剤学的に許容可能な担体には、HSA等のアルブミンが含まれる。HSAは可溶性の高い分子量65000の球状タンパク質で、585個のアミノ酸からなる。HSAは血漿中に最も豊富に存在するタンパク質で、ヒト血漿の膠質浸透圧の70〜80%を占める。HSAのアミノ酸配列には、合計17個のジスルフィド橋、1個の遊離チオール(Cys34)及び単独のトリプトファン(Trp214)が存在する。HSA溶液の静脈内投与は、循環血液量減少性ショックの予防及び処置(例えば、Tullis, JAMA, 237, 355−360, 460−463, (1977)及びHouser, ら, Surgery, Gynecology and Obstetrics, 150, 811−816 (1980)を参照)及び新生児の高ビリルビン血症の処置(例えば、Finlayson, Seminars in Thrombosis and Hemostasis, 6, 85−120, (1980)を参照)における交換輸血に併用して適用されてきた。ウシ血清アルブミン等の他のアルブミンを検討する。例えば、獣医学科の動物(家庭用愛玩動物及び農業動物を含む)等のヒトではない哺乳動物にこれらの組成物を使用するという文脈において、このような非ヒトアルブミンの使用は適切である。
【0066】
ヒト血清アルブミン(HSA)は、複数の疎水性の結合部位を有し(HSAの内因性リガンドである脂肪酸で合計8個)、種々の薬物、特に中性及び負に帯電した疎水性化合物に結合する(Goodman, ら, The Pharmacological Basis of Therapeutics, 9th ed, McGraw−Hill New York (1996))。HSAのサブドメインIIA及びIIIAにおいて、2個の親和性の高い結合部位が提示されており、これらは、表面近傍の帯電したリジン及びアルギニン残基を有する極めて伸展した疎水性ポケットであり、極性を有するリガンドのための結合点として機能する(例えば、Fehske, ら, Biochem. Pharmcol., 30, 687−92 (1981), Vorum, Dan. Med. Bull., 46, 379−99 (1999), Kragh−Hansen, Dan. Med. Bull. 1441, 131−40 (1990), Curry, ら, Nat. Struct. Biol., 5, 827−35 (1998), Sugio, ら, Protein. Eng., 12, 439−46 (1999), He, ら, Nature, 358, 209−15 (1992)及びCarter, ら, Adv. Protein. Chem., 45, 153−203 (1994)を参照)。パクリタキセル及びプロポフォールはHSAと結合することが明らかにされている(例えば、Paal, ら, Eur. J. Biochem., 268(7), 2187−91 (2001), Purcell, ら, Biochim. Biophys. Acta, 1478(1), 61−8 (2000), Altmayer, ら, Arzneimittelforschung, 45, 1053−6 (1995)及びGarrido, ら, Rev. Esp. Anestestiol. Reanim., 41, 308−12 (1994)を参照)。又、ドセタキセルはヒト血漿タンパク質に結合することが明らかにされている(例えば、Urien, ら, Invest. New Drugs, 14(2), 147−51 (1996)を参照)。
【0067】
組成物中の担体タンパク質(例えば、アルブミン)は一般的に、難水溶性医薬品の担体として働く。即ち、組成物中の担体タンパク質は、担体タンパク質を含まない組成物に比べて、難水溶性医薬品を水性培地により容易に懸濁しやすくさせるか、懸濁液を維持するのを手助けする。これにより、難水溶性医薬品を可溶化するために毒性を有する溶媒を使用しなくてもよくなり、それによって難水溶性医薬品を個体(例えば、ヒト)に投与する場合に1つ以上の副作用を低減することができる。このため、幾つかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、Cremophor EL(登録商標)(BASF)等のCremophorを実質的に含まない(例えば、これを含まない)。幾つかの実施形態において、組成物は界面活性剤を実質的に含まない(例えば、これを含まない)。組成物中のCremophor又は界面活性剤が、その組成物を個体に投与した場合に、その個体に1つ以上の副作用を引き起こすのに十分でない量存在する場合に、その組成物は「Cremophorを実質的に含まない」又は「界面活性剤を実質的に含まない」とされる。
【0068】
幾つかの実施形態において、担体タンパク質は難水溶性医薬品を伴う。即ち、組成物は、難水溶性医薬品を伴う担体タンパク質を含む。「随伴」又は「伴う」は、本明細書において一般的な意味で使用され、水性組成物中で、担体タンパク質が難水溶性医薬品の挙動及び/又は特性に作用することを指す。例えば、担体タンパク質と難水溶性医薬品は、担体タンパク質を含まない組成物に比べて、担体タンパク質が難水溶性医薬品を水性培地でより容易に懸濁できるようにしている場合に、「伴って」いるとみなされる。別の例は、担体タンパク質が水性懸濁液で難水溶性医薬品を安定化させている場合に、その担体タンパク質とその難水溶性医薬品は伴っている。例えば、担体タンパク質及び難水溶性医薬品は、本明細書で更に記載される粒子又はナノ粒子中に存在することができる。
【0069】
難水溶性医薬品は、例えば約0.1、0.2、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、24、36、48、60又は72時間と、長時間にわたって水性培地に懸濁し続けている場合(例えば、沈殿や沈渣が目視で確認できない)、水性懸濁液で「安定している」。懸濁液は一般的に、必須ではないが、個体(例えば、ヒト)への投与に好適である。懸濁液の安定性は一般的に、必須ではないが、保存温度で評価する(室温(例えば、20〜25℃)又は冷蔵条件(例えば、4℃))。例えば、懸濁液の調製から約15分後に、裸眼又は1000倍の光学顕微鏡で綿状反応又は粒子の凝集が認められない場合、その懸濁液は保存温度において安定している。安定性は、約40℃以上の温度等の促進老化試験条件下で評価することもできる。
【0070】
組成物中の担体タンパク質及び難水溶性医薬品は種々の方法で関連付けることができる。例えば、幾つかの実施形態において、担体タンパク質は難水溶性医薬品と共に混合される。幾つかの実施形態において、担体タンパク質は難水溶性医薬品をカプセル化するか捕捉する。幾つかの実施形態において、担体タンパク質は難水溶性医薬品と結合する(例えば、非共有結合)。幾つかの実施形態において、組成物は上記の態様の1つ以上を呈することができる。
【0071】
幾つかの実施形態において、組成物は、難水溶性医薬品及び担体タンパク質を含む(種々の実施形態においては、これらからからなるか、これらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。難水溶性医薬品が液体である場合、粒子又はナノ粒子は、小滴又はナノ小滴とも呼ばれる。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は担体タンパク質でコーティングされる。難水溶性医薬品の粒子(例えば、ナノ粒子)は、例えば、米国特許第5,916,596号、第6,506,405号、第6,537,579号及び米国特許公開第2005/0004002A1号に開示されている。
【0072】
幾つかの実施形態において、組成物は、直径の平均値又は中央値が約1000ナノメートル(nm)未満、例えば約900、800、700、600、500、400、300、200及び100nmの何れか未満の粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。幾つかの実施形態において、粒子の直径の平均値又は中央値は約200nm未満である。幾つかの実施形態において、粒子の直径の平均値又は中央値は約20〜約400nmである。幾つかの実施形態において、粒子の直径の平均値又は中央値は約40〜約200nmである。幾つかの実施形態において、粒子は滅菌濾過可能である。
【0073】
本明細書に記載の粒子(例えば、ナノ粒子)は、乾燥配合物(例えば、凍結乾燥組成物)又は生体適合性の培地に懸濁された状態で存在する場合がある。好適な生体適合性培地には、水、緩衝水性培地、生理食塩水、緩衝生理食塩水、任意に緩衝されたアミノ酸溶液、任意に緩衝されたタンパク質溶液、任意に緩衝された糖の溶液、任意に緩衝されたビタミンの溶液、任意に緩衝された合成ポリマー溶液、脂質含有エマルジョン等が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書に記載の組成物中の担体タンパク質の量は、難水溶性医薬品及び組成物中の他の成分によって異なる。幾つかの実施形態において、組成物は水性懸濁液中で難水溶性医薬品を、例えば安定した膠質懸濁液(例えば、安定したナノ粒子の懸濁液)の形態で安定化させるのに十分な量の担体タンパク質を含む。幾つかの実施形態において、担体タンパク質は、水性培地における難水溶性医薬品の沈渣率を抑える量だけ存在する。粒子含有組成物の場合、担体タンパク質の量は、難水溶性医薬品の粒子の大きさ及び密度によって異なる。
【0075】
幾つかの実施形態において、担体タンパク質は、水性懸濁液において一定の濃度で難水溶性医薬品を安定化させるのに十分な量だけ存在する。例えば、組成物中の難水溶性医薬品の濃度は約0.1〜約100mg/mLであり、例えば、約0.1〜約50mg/mL、約0.1〜約20mg/mL、約1〜約10mg/mL、約2〜約8mg/mL、約4〜6mg/mL、約5mg/mLの何れかである。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品の濃度は少なくとも約1.3mg/mL、1.5mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、及び50mg/mLの何れかである。幾つかの実施形態において、担体タンパク質は界面活性剤(例えば、Cremophor)の使用を避けられる量だけ存在し、組成物を、界面活性剤(例えば、Cremophor)を含まないか、実質的に含まないようにする。
【0076】
幾つかの実施形態において、液体の組成物は、約0.1〜約50%(w/v)(例えば、約0.5%(w/v)、約5%(w/v)、約10%(w/v)、約15%(w/v)、約20%(w/v)、約30%(w/v)、約40%(w/v)又は約50%(w/v)の担体タンパク質を含む。幾つかの実施形態において、液体の組成物は、約0.5%〜約5%(w/v)の担体タンパク質を含む。
【0077】
幾つかの実施形態において、担体タンパク質、例えばアルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比は、十分量の難水溶性医薬品が細胞に結合するか、細胞によって運搬されるようなものとする。担体タンパク質 対 医薬品の重量比は、種々の担体タンパク質及び薬物の組み合わせに対して至適化する必要があるが、一般的に担体タンパク質、例えばアルブミン 対 医薬品の重量比(w/w)は、約0.01:1〜約100:1、約0.02:1〜約50:1、約0.05:1〜約20:1、約0.1:1〜約20:1、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1又は約9:1である。幾つかの実施形態において、医薬品 対 担体タンパク質の重量比は、約18:1以下、15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下及び3:1以下の何れかである。
【0078】
幾つかの実施形態において、担体タンパク質は、有意な副作用なしに個体(例えば、ヒト)に組成物を投与することを可能にする。幾つかの実施形態において、担体タンパク質(例えば、アルブミン)は、ヒトに難水溶性医薬品を投与した場合の1つ以上の副作用を低減するのに有効な量存在する。「難水溶性医薬品の投与による1つ以上の副作用を低減すること」という用語は、難水溶性医薬品によって生じる望ましくない作用並びに、難水溶性医薬品を送達するために使用される送達賦形剤(例えば、難水溶性医薬品を注射に好適なものにする溶媒)によって生じる副作用の1つ以上を抑制、緩和、除去又は回避することを指す。このような副作用には、例えば、骨髄抑制、神経毒性、過敏症、炎症、静脈刺激、静脈炎、疼痛、皮膚刺激、末梢ニューロパチー、好中球減少性発熱、アナフィラキシー反応、静脈血栓、血管外漏出及びその組み合わせが含まれる。ただし、これらの副作用は例示を目的とするだけのものであり、種々の医薬品に起因するその他の副作用又は副作用の組み合わせが抑えられる。
【0079】
幾つかの実施形態において、組成物は、難水溶性医薬品及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、これらからからなるか、これらから本質的に構成される)粒子(例えば、ナノ粒子)を含み、アルブミン 対 難水溶性医薬品の重量比(w/w)は、約0.01:1〜約100:1、約0.02:1〜約50:1、約0.05:1〜約20:1、約0.1:1〜約20:1、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1又は約9:1である。幾つかの実施形態において、担体タンパク質 対 医薬品の重量比は、約18:1以下、15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下及び3:1以下の何れかである。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品は、タキサン又はその誘導体、例えばパクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル又はその誘導体である。
【0080】
幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品はアルブミンでコーティングされる。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品及びアルブミンを含む粒子(例えば、ナノ粒子)は、水性培地(例えば、アルブミンを含有する水性培地)に懸濁させる。例えば、組成物は難水溶性医薬品の粒子(例えば、ナノ粒子)の膠質懸濁液であることができる。幾つかの実施形態において、組成物は乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物であり、本明細書に記載の粒子の安定した懸濁液へと再構成又は懸濁させることができる。液体組成物又は再構成組成物における難水溶性医薬品の濃度は、希釈(0.1mg/mL)であっても、濃縮(100mg/mL)であってもよく、これには、例えば、約0.1〜約50mg/mLm、約0.1〜約20mg/mLm、約0.1〜約10mg/mLm、約2〜約8mg/mLm、約4〜約6mg/mLm、約5mg/mLmの何れかが含まれる。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品の濃度は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45又は50mg/mLの何れかである。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品はタキサン又はその誘導体、例えばパクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル又はその誘導体である。
【0081】
幾つかの実施形態において、組成物は、直径の平均値又は中央値が約20〜約400nmの粒子、例えば約40〜約200nmの粒子等、パクリタキセルを含む粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。幾つかの実施形態において、組成物は、パクリタキセル及びアルブミンを含む(種々の実施形態においては、主に上からなる)粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。幾つかの実施形態において、パクリタキセルはアルブミンでコーティングされる。幾つかの実施形態において、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比(w/w)は、約0.01:1〜約100:1、約0.02:1〜約50:1、約0.05:1〜約20:1、約0.1:1〜約20:1、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1及び約9:1の何れかである。幾つかの実施形態において、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下、15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下及び3:1以下の何れかである。
【0082】
幾つかの実施形態において、パクリタキセル及びアルブミンを含む粒子(例えば、ナノ粒子)は、水性培地(アルブミンを含有する水性培地)に懸濁させる。例えば、組成物はパクリタキセル含有粒子(例えば、ナノ粒子)の膠質懸濁液であることができる。幾つかの実施形態において、組成物は乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物であり、パクリタキセル含有粒子の水性懸濁液に再構成することができる。幾つかの実施形態において、組成物中のパクリタキセル濃度は、約0.1〜約100mg/mLであり、例えば約0.1〜約50mg/mL、約0.1〜約20mg/mL、約1〜約10mg/mL、約2〜約8mg/mL、約4〜約6mg/mL、及び約5mg/mLの何れかである。幾つかの実施形態において、パクリタキセル濃度は少なくとも約1.3mg/mL、1.5mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、及び50mg/mLの何れかである。
【0083】
幾つかの実施形態において、組成物はパクリタキセルのアルブミン含有ナノ粒子配合物を含む(以下、Nab−パクリタキセルと呼ぶ)。CapxolTM(AbraxaneTMとも呼ばれる)等のNab−パクリタキセルは、米国特許第6,096,331号に記載されている。CapxolTMは、ヒトアルブミンUSPで安定化させたパクリタキセルの配合物であり、注射用生理学的溶液に直接分散させることができる。0.9%塩化ナトリウム注射液又は5%ブドウ糖注射液等の好適な水性培地に分散させると、CapxolTMは安定したパクリタキセルの膠質懸濁液を形成する。この膠質懸濁液の粒子の大きさ(直径の平均値又は中央値)は、20nm〜8ミクロンと幅があるが、望ましい範囲は約20〜400nmである。HSAは水に溶けやすいため、CapxolTMは希釈(0.1mg/mL)から濃縮(20mg/mLのパクリタキセル)まで、例えば、約2mg/mL〜約8mg/mL、約5mg/mL等、多岐にわたる濃度に再構成することができる。幾つかの実施形態において、パクリタキセルの濃度は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20mg/mLの何れかである。
【0084】
(糖を含有する組成物)
本発明は又、難水溶性医薬品、担体タンパク質(例えば、アルブミン)及び糖を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を提供する。組成物は更に、本明細書に記載の抗菌剤を含むことができる。本明細書に記載の組成物には、例えば、乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物、乾燥組成物を再構成又は再懸濁することにより得られる液体(例えば、水性)の組成物又は乾燥(例えば、凍結乾燥させた)させることができる中間液体(例えば、水性)組成物が含まれる。
【0085】
本明細書で使用する場合、「糖」は、単糖、二糖、多糖及びその誘導体又は修飾物質を含むが、これらに限定されない。本明細書に記載の組成物に好適な糖には、例えば、マンニトール、スクロース、フルクトース、乳糖、マルトース及びトレハロースが含まれる。幾つかの実施形態において、糖は、糖なしに溶解する凍結乾燥組成物よりも、凍結乾燥組成物がより迅速に水及び/又は水性溶液に溶解又は懸濁できるようにする再構成促進剤として働く。例えば、組成物は乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物であって、その組成物が難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液に再構成(又は再懸濁又は再水和)することができ、水性溶液を使用した組成物の再構成時間が糖非含有組成物よりも短くすることができる。幾つかの実施形態において、組成物は約8分、5分又は2分未満で再構成(混合、タッピング又は渦形成等による)することができる。
【0086】
幾つかの実施形態において、糖は組成物中の難水溶性医薬品の化学的安定性を高めるのに有効な量存在する。幾つかの実施形態において、糖は、組成物の濾過可能性を高めるのに有効な量存在する。幾つかの実施形態において、糖は、乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物を再構成する際の発泡を抑えるのに有効な量存在する。これらの改良は、糖なしの組成物との比較の結果である。
【0087】
幾つかの実施形態において、液体の懸濁物(例えば、凍結乾燥前の懸濁液又は再構成した懸濁液)中の糖濃度は、約50、60、70、80、90又は100mg/mLの何れかを超える。幾つかの実施形態において、糖は、約20〜約100mg/mL、約50〜約100mg/mL、約90mg/mLの何れかの量で存在する。組成物における糖 対 難水溶性医薬品の比(w/w)は、難水溶性医薬品によって異なる。難水溶性医薬品(例えば、パクリタキセル)に対する糖の例示的な比は、例えば、約2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1又はそれ以上の何れかである。
【0088】
幾つかの実施形態において、組成物は(1)難水溶性医薬品(例えば、タキサン又はその誘導体)を含む粒子(例えば、ナノ粒子)及びアルブミン及び(2)糖を含み、アルブミン 対 医薬品の重量比(w/w)は、約0.01:1〜約100:1であり、例えば、約0.02:1〜約50:1、約0.05:1〜約20:1、約0.1:1〜約20:1、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1及び約9:1である。幾つかの実施形態において、アルブミン 対 医薬品の重量比は、約18:1以下であり、例えば約15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下及び3:1以下の何れかである。難水溶性医薬品はアルブミンでコーティングすることができる。
【0089】
幾つかの実施形態において、本発明は、パクリタキセル、アルブミン及び糖を含む組成物を提供し、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比(w/w)は約0.01:1〜約100:1であり、例えば、約0.02:1〜約50:1、約0.05:1〜約20:1、約0.1:1〜約20:1、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1及び約9:1である。幾つかの実施形態において、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下であり、例えば約15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下及び3:1以下の何れかである。幾つかの実施形態において、組成物は(1)パクリタキセル及びアルブミンを含む粒子(例えば、ナノ粒子);及び(2)糖を含み、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比(w/w)は、約0.01:1〜約100:1であり、例えば、約0.02:1〜約50:1、約0.05:1〜約20:1、約0.1:1〜約20:1、約1:1〜約18:1、約2:1〜約15:1、約3:1〜約12:1、約4:1〜約10:1、約5:1〜約9:1及び約9:1である。幾つかの実施形態において、アルブミン 対 パクリタキセルの重量比は、約18:1以下であり、例えば約15:1以下、14:1以下、13:1以下、12:1以下、11:1以下、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、6:1以下、5:1以下、4:1以下及び3:1以下の何れかである。パクリタキセルはアルブミンでコーティングすることができる。幾つかの実施形態において、組成物は乾燥した(例えば、凍結乾燥させた)組成物であり、再構成(再懸濁又は再水和)して一般的には、難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液を形成することができ、水性溶液の組成物の再構成の時間は、糖が不在の組成物でかかる時間よりも短い。幾つかの実施形態において、組成物又は組成物から生じる再構成懸濁液における糖濃度は、約50、60、70、80、90又は100mg/mLの何れかを超える。幾つかの実施形態において、糖は、約20〜約100mg/mL、約50〜約100mg/mL、及び約90mg/mLの何れかの量で存在する。
【0090】
本明細書に記載の糖含有組成物は、更に本明細書に記載の抗菌剤等の1つ以上の抗菌剤を含むことができる。糖に加えて、他の再構成促進剤を組成物に添加することもできる(例えば、米国特許出願公開第2005/0152979号に記載のもの)。
【0091】
(組成物中の他の成分)
本明細書に記載の組成物は、組成物の特性を改良するために他の薬剤、賦形剤又は安定化剤を含むことができる。例えば、ナノ粒子の負のゼータ電位を大きくすることにより安定性を高めるため、特定の負に帯電した成分を添加することができる。このような負に帯電した成分としては、胆汁酸塩、胆汁酸、グリココール酸、コール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、グリコケノデオキシコール酸、タウロケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸及びその他;レシチン(卵黄)を含むリン脂質、以下のホスファチジルコリンを含むリン脂質:パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、パルミトイルリノレオイルホスファチジルコリン、ステアロイルリノレオイルホスファチジルコリン、ステアロイルオレオイルホスファチジルコリン、ステアロイルアラキドイルホスファチジルコリン及びジパルミトイルホスファチジルコリン;L−α−ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)及びその他の関連化合物を含むその他のリン脂質が含まれるが、これらに限定されない。負に帯電した界面活性剤又は乳化剤も添加剤として好適である(例えば、硫酸ナトリウムコレステリル)。
【0092】
幾つかの実施形態において、組成物はヒトへの投与に好適である。幾つかの実施形態において、組成物は、獣医学の枠内で家庭の愛玩動物及び農業動物といった哺乳動物への投与に好適である。本発明の組成物には多岐にわたる好適な配合物が存在する(例えば、米国特許第5,916,596号及び第6,096,331号を参照)。以下の配合物及び方法は単に例示的なものであって、制限を目的とするものではない。経口投与に好適な配合物は、(a)水、生理食塩水又はオレンジジュースといった希釈剤に溶解した有効量の化合物といった溶液、(b)それぞれが固形物又は顆粒としての活性成分の所定量を含有するカプセル剤、薬袋又は錠剤、(c)適切な液体を使用した懸濁液、(d)好適なエマルジョン及び(e)粉末を含むことができる。錠剤の剤型は、1種類以上の乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、微結晶セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びその他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、着香剤及び製剤学的に配合可能な賦形剤を含むことができる。ロゼンジの剤型は、通常はスクロース及びアカシア又はトラガカント等のフレーバーに活性成分を含めるか、ゼラチン及びグリセリンといった不活の基剤、又はスクロース及びアカシア、エマルジョン、ゲル等の活性成分に加えて含む香錠を含むことができ、このような賦形剤は当該技術分野で既知である。
【0093】
非経口投与に好適な配合物には、水性及び非水性、等張性の滅菌注射液が含まれ、これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び配合物を意図するレシピエントの血液と適合させることができる溶質、及び懸濁剤、可溶化剤、増量剤、安定化剤及び保存剤を含むことができる水性及び非水性の滅菌懸濁液を含むことができる。配合物は単回用量又は複数回用量のアンプル及びバイアルといった密封容器に入れて提供され、使用直前に注射用水等の滅菌液体賦形剤の添加のみを必要とする凍結乾燥状態で保存することができる。即時注射溶液及び懸濁液は、前述のような滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。注射用の配合物が好ましい。
【0094】
エアロゾル投与に好適な配合物は、水性及び非水性の等張滅菌溶液を含む本発明の組成物を含み、これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び溶質を、単独又は吸入を介して投与するエアロゾル配合物に作製することができる他の好適な成分との組み合わせを含有することができる。これらのエアロゾル配合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等といった加圧された許容可能な噴射剤に入れることができる。又、ネブライザーやアトマイザーといった非加圧調製の医薬品として配合することもできる。
【0095】
幾つかの実施形態において、組成物は、pHが約4.5〜約9.0、例えば、約5.0〜約8.0、約6.5〜約7.5及び約6.5〜約7.0の何れかにして配合する。幾つかの実施形態において、組成物のpHは、約6以上、例えば約6.5、7又は8の何れか以上(例えば、約8)になるよう配合される。又、組成物はグリセロール等の好適な張性調節剤を添加することによって血液と等張に作製することができる。
【0096】
好適な包装に入った本明細書に記載の組成物を含む製品も提供される。本明細書に記載の組成物に好適な包装は当該技術分野で既知であり、例えば、バイアル(例えば、密封バイアル)、容器、アンプル、ボトル、ジャー、柔軟な包装(例えば、密封Mylar又はプラスチック袋)等が含まれる。これらの製品は更に滅菌及び/又は密封することができる。又、本明細書に記載の組成物を含む単位剤型も提供される。これらの単位剤型は、単一又は複数の単位剤型が1つの好適な包装に保存され、更に滅菌され密封されることもできる。
【0097】
又、本発明は本明細書に記載の組成物(又は単位剤型及び/又は製品)を含むキットを提供し、更に本明細書で更に記載する使用法等の組成物を使用する方法の指示書を含むことができる。幾つかの実施形態において、本発明のキットは上述の包装を含む。他の実施形態において、本発明のキットは上述の包装を含み、第二の包装が緩衝剤を含む。幾つかの実施形態において、本発明は、(1)難水溶性医薬品及び担体タンパク質を含む組成物;及び(2)抗菌剤を含むキットを提供し、難水溶性医薬品/タンパク質組成物及び抗菌剤は別々の包装に存在し、組成物中の有意な細菌増殖は、難水溶性医薬品/タンパク質組成物に抗菌剤を添加することによって阻害される。幾つかの実施形態において、キットは更に医薬品/タンパク質組成物への抗菌剤の添加に関する指示書を含む。本明細書に記載のキットは更に、市販及びユーザーの見地から望ましいと思われる材料、例えばその他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ及び本明細書に記載のあらゆる方法を実施するための指示を記した添付文書を含むことができる。
【0098】
又、長期間、例えば1週間、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月等にわたって個体に対する有効な処置を提供するために十分な用量の本明細書に開示の難水溶性医薬品(例えば、パクリタキセル)を含有するキットが提供される。又、キットは、複数の難水溶性医薬品及び薬学的組成物の単位剤型及び使用指示書及び院内薬局及び調剤薬局等の薬局での保存及び使用に十分な量の包装を含むことができる。
【0099】
(組成物の作製及び使用方法)
又、本明細書に記載の組成物の作製及び使用方法が提供される。例えば、難水溶性医薬品(タキサン等、例えばパクリタキセル、ドセタキセル又はオルタタキセル)及び担体タンパク質(例えば、アルブミン)を含有する組成物と抗菌剤を結合させる(例えば、混合する)ことを含む、組成物中における有意な細菌増殖が阻害される、難水溶性医薬品、担体タンパク質及び抗菌剤を含む組成物の調製方法が提供される。
【0100】
担体タンパク質及び難水溶性医薬品を含有する組成物の作製方法は当該技術分野で既知である。例えば、難水溶性医薬品(例えば、パクリタキセル)及び担体タンパク質(例えば、アルブミン)を含有するナノ粒子は、高い剪断力(例えば、超音波処理、高圧ホモジナイゼーション)の条件下で調製することができる。これらの方法は、例えば米国特許第5,916,596号、第6,506,405号及び第6,537,579号及び米国特許出願第2005/0004002A1号に開示されている。
【0101】
要約すれば、難水溶性医薬品(例えば、ドセタキセル)を有機溶媒に溶解し、その溶液をヒト血清アルブミン溶液に添加することができる。この混合物に対して高圧ホモジナイゼーションを行う。その後、有機溶媒を蒸発により除去する。得られた分散液を更に凍結乾燥させることができる。好適な有機溶媒の例としては、ケトン、エステル、エーテル、塩素化溶媒及び当該技術分野で既知のその他の溶媒が含まれる。例えば、有機溶媒は塩化メチレン及びクロロホルム/メタノール(例えば1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1又は9:1の比率)であってもよい。
【0102】
抗菌剤は、難水溶性医薬品/担体タンパク質の組成物を調製する間に難水溶性医薬品及び/又は担体タンパク質に混合するか、難水溶性医薬品/担体タンパク質の組成物が調製された後に添加するかの何れかを行うことができる。例えば、抗菌剤は難水溶性医薬品/担体タンパク質組成物を再構成/懸濁するのに使用する水性培地に添加することができるか、担体タンパク質を伴う難水溶性医薬品の水性懸濁液に添加することができる。幾つかの実施形態において、抗菌剤は凍結乾燥前に難水溶性医薬品/担体タンパク質の組成物に混合される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は凍結乾燥させた医薬品/担体タンパク質の組成物に添加される。
【0103】
抗菌剤の添加が組成物のpHを変化させる幾つかの実施形態において、組成物のpHは一般的に(必須ではないが)所望のpHに調節する。組成物のpH値の例としては、例えば約5〜約8.5が含まれる。幾つかの実施形態において、組成物のpHは約6以上、例えば約6.5、7又は8(例えば、約8)の何れか以上に調節される。
【0104】
又、本明細書に記載の組成物(上記の組成物を含む)の何れかと製剤学的に許容可能な賦形剤を結合させることを含む、薬学的組成物の作製方法が提供される。
【0105】
又、本発明の組成物を使用する方法が提供される。幾つかの実施形態において、難水溶性医薬品の有効量、担体タンパク質及び抗菌剤を含む組成物を投与することを含み、組成物中で細胞成長が阻害される、難水溶性医薬品が奏功する疾患又は病態の処置方法が提供される。例えば、幾つかの実施形態において、有効量の難水溶性抗新生物剤(例えば、タキサン)、担体タンパク質及び抗菌剤を含む組成物を患者に投与することを含み、組成物中で細胞成長が阻害される、個体(例えば、ヒト)の癌を処置する方法が提供される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は組成物中における有意な細菌増殖を阻害するのに十分な量だけ存在する。幾つかの実施形態において、組成物中の抗菌剤は更に、組成物が個体(例えば、ヒト)に投与される場合に、毒性学的作用を全く引き起こさない量だけ存在する。
【0106】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、特定の障害、病態又は疾患を処置する、例えばその症状の1つ以上を改善、緩和、軽減及び/又は遅延させるのに十分な化合物又は組成物の量を指す。癌又はその他の望ましくない細胞成長を引用すれば、有効量とは、腫瘍を縮小させる、及び/又は腫瘍の増殖速度を低下させる(例えば、腫瘍の増殖を抑制する)のに十分な量を含む。幾つかの実施形態において、有効量は発現を遅延させるのに十分な量である。幾つかの実施形態において、有効量は発症及び/又は再発を予防するのに十分な量である。有効量は1回又は複数回の投与で投与される。
【0107】
本明細書に記載の組成物(例えば、タキサン等の抗新生物剤、ラパマイシン及び17−AAGを含む組成物)で処置される癌としては、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載の組成物で処置できる癌の例としては、扁平上皮癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺腫及び肺の扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌(消化器癌を含む)、膵癌、膠芽腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、大腸癌、メラノーマ、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎癌、肝癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、頭頚部癌、結腸直腸癌、直腸癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、B細胞リンパ腫(軽度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中等度/濾胞性NHL、中等度瀰漫性NHL、重度免疫芽球性NHL、重度リンパ芽球性NHL、重度小非分割細胞性NHL、巨大病変NHL、外套細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫及びワルデンストレーム・マクログロブリン血症を含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、骨髄腫、毛様細胞性白血病、慢性骨髄芽球性白血病及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)並びに母斑症、浮腫(例えば、脳腫瘍を伴うもの)及びMeigs症候群を伴う異常な血管増殖が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態においては、転移性癌(即ち、原発腫瘍から転移した癌)を処置する方法が提供される。幾つかの実施形態においては、細胞成長及び/又は細胞移動を低減する方法が提供される。幾つかの実施形態においては、過形成を処置する方法が提供される。
【0108】
幾つかの実施形態において、進行癌を処置する方法が提供される。幾つかの実施形態においては、例えば進行乳癌、ステージIVの乳癌、局所進行性乳癌及び転移性乳癌を含めた乳癌(HER2陽性又はHER2陰性)を処置する方法が提供される。幾つかの実施形態において、癌は、非小細胞肺癌(進行性NSCLC等のNSCLC)、小細胞肺癌(進行性SCLC等のSCLC)及び肺における進行性固形悪性腫瘍を含めた肺癌である。幾つかの実施形態において、癌は、卵巣癌、頭頚部癌、胃癌、メラノーマ(転移性メラノーマを含む)、結腸直腸癌、膵癌及び固形腫瘍(例えば、進行性固形腫瘍)である。幾つかの実施形態において、癌は、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド腫瘍、頭頚部癌、メラノーマ、卵巣癌、中皮腫、グリオーマ、膠芽腫、神経芽腫及び多発性骨髄腫の何れかである(及び幾つかの実施形態においては上からなる群から選択される)。幾つかの実施形態において、癌は固形腫瘍である。
【0109】
これらの組成物を投与されるのに好適な個体は、難水溶性医薬品の性質並びに処置及び/又は予防する疾患/病態/障害によって異なる。従って、「個体」という用語は脊椎動物、哺乳動物及びヒトを全て含む。幾つかの実施形態において、個体は哺乳動物であり、ヒト、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、げっ歯類又は霊長類を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、個体はヒトである。
【0110】
本明細書に記載の組成物は、単独で投与されるか、難水溶性医薬品を含む他の医薬品と併用して投与されることができる。例えば、組成物がタキサン(例えば、パクリタキセル)を含有する場合、カルボプラチン、ナベルビン(登録商標)(ビノレルビン)、アントラサイクリン(Doxil)、ラパチニブ(GW57016)、ハーセプチン、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、アリムタ、シスプラチン、5−フルオロウラシル、エピルビシン、シクロホスファミド、アバスチン、ベルケード(登録商標)等を含むがこれらに限定されない1つ以上の他の化学療法剤と併用投与することができる。幾つかの実施形態において、タキサン組成物は、抗代謝薬(ヌクレオシド類似体を含む)、白金を主成分とする薬剤、アルキル化剤、チロシンキナーゼ阻害剤、アントラサイクリン系抗生物質、ビンカアルカロイド、プロテオソーム阻害剤、マクロライド」及びトポイソメラーゼ阻害剤からなる群から選択される化学療法剤と併用投与される。これらの他の医薬品は、該薬剤(例えば、タキサン)と同じ組成物中に存在することもできれば、別の組成物中に存在して該薬剤(例えば、タキサン)を含有する組成物と同時に又は連続して投与されることもできる。タキサンのナノ粒子配合物と他の薬剤(又は治療法)を使用した併用療法については、国際特許出願第PCT/US2006/006167号に記載されている。
【0111】
個体(例えば、ヒト)に投与される本発明の組成物の用量は、その組成物、投与方法及び処置対象となる疾患によって異なる。用量は、特定の疾患に対する治療的又は予防的反応等、所望の反応を引き起こすのに十分である必要がある。例えば、組成物中のパクリタキセルの用量は、3週間毎のスケジュールで投与する場合100〜400mg/mとなり、毎週投与する場合は50〜250mg/mとなる。又、メトロノーム療法(毎日又は週毎に数回投与)で投与する場合、用量は約5〜75mg/mとなる。
【0112】
本明細書に記載の組成物は、例えば、静脈内、動脈内、肺内、経口、吸入、膀胱内、筋肉内、気管内、皮下、眼内、髄腔内、経粘膜及び経皮といった種々の経路を介して個体(例えば、ヒト)に投与することができる。例えば、本発明の組成物は、気道の病態を処置するために吸入で投与することができる。組成物を使用して、肺線維症、閉塞性細気管支炎、肺癌、気管支肺癌等を処置することができる。
【0113】
又本明細書では、ヒトへの難水溶性医薬品の投与に起因する副作用を低減する方法であって、難水溶性医薬品、担体タンパク質及び抗菌剤を含む薬学的組成物をヒトに投与することを含み、組成物中における有意な細菌増殖が阻害される、方法が提供される。例えば、本発明は、骨髄抑制、神経毒性、過敏症、炎症、静脈刺激、静脈炎、疼痛、皮膚刺激、末梢ニューロパチー、好中球減少性発熱、アナフィラキシー反応、血液毒性及び脳又は神経毒性及びその組み合わせを含むがこれらに限定されない、難水溶性医薬品の投与に起因する種々の副作用を低減する方法を提供する。幾つかの実施形態においては、例えば重度の発疹、尋麻疹、潮紅、呼吸困難、頻脈等を含めた、難水溶性医薬品の投与に起因する過敏性反応を低減する方法が提供される。幾つかの実施形態において、抗菌剤は、薬学的組成物中における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量存在する。幾つかの実施形態において、組成物中の抗菌剤は更に、組成物を個体に投与した場合に毒性学的作用を全く引き起こさない量又は起こり得る副作用を制御又は耐容できる程度の量で存在する。
【0114】
更には、難水溶性医薬品及び担体タンパク質を含む液体の組成物の保存期限を伸ばす方法も提供される。例えば、幾つかの実施形態において、本発明は、水性培地で少なくとも24時間、細菌が増殖しないように(即ち、有意な細菌増殖が全くないか実質的にないように)保存された難水溶性医薬品及び担体タンパク質を含む組成物(例えば、薬学的組成物)を保存する方法であって、組成物に抗菌剤を、組成物中における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量添加することを含む、方法を提供する。幾つかの実施形態において、組成物中における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量の抗菌剤を組成物に添加することを含む、担体タンパク質及び難水溶性医薬品を含む組成物(特に薬学的組成物)における細胞成長の阻害方法が提供される。
【0115】
抗菌剤の添加は、難水溶性医薬品/担体タンパク質の組成物を調製する間に難水溶性医薬品及び/又は担体タンパク質に混合するか、医薬品/担体タンパク質組成物を再構成するのに使用する水性培地に添加するかの何れかで行うことができる。幾つかの実施形態においては、少なくとも24、36、48、60、72、84又は96時間の何れかの間、細菌が増殖しないように(即ち、有意な細菌増殖が全くないか実質的にないように)保存された組成物を保つ方法が提供される。
【0116】
本発明の更なる態様において、薬剤の製造における本明細書に記載の組成物の使用が提供される。特に、病態の処置に使用する薬剤の製造を本明細書に記載する。更に、本明細書でさまざまに記載されたその薬学的組成物も、特に記載がない限り、本明細書に記載の方法に従って、病態の処置に使用する薬剤の製造における使用が意図される。
【0117】
以下の実施例で本発明を説明するが、これらは限定することを目的としたものではない。
【実施例】
【0118】
(実施例1)
本実施例は、パクリタキセル/アルブミン及び保存剤の配合物を提供する。組成物は主に米国特許第5,439,686号及び第5,916,596号に記載の通り調製される。要約すれば、パクリタキセルを有機溶媒(塩化メチレン又はクロロホルム/エタノールの混合物)に溶解し、その溶液をヒト血清アルブミン溶液に添加する。その後、抗菌剤の好適な量をその混合物に添加する。この混合物を低回転数で5分間ホモジナイズし、粗エマルジョンを形成した後、高圧ホモジナイザーに入れる。9000〜40,000psiで乳化を実施し、その間エマルジョンを少なくとも5回リサイクルする。結果得られた系を回転式蒸発器に移し、有機溶媒を40℃の低圧下(30mmHg)で20〜30分間で迅速に除去する。その後、分散液を更に48時間かけて凍結乾燥する。結果得られたケーキは、追加の抗菌剤を含有することができる滅菌水又は生理食塩水を添加することにより、容易に再構成されて元の分散液に戻ることができる。
【0119】
調製することができる組成物の配合物の例を下に挙げる(パクリタキセル、ヒトアルブミン及び抗菌剤の濃度のみを記す)。
【0120】
配合物1:パクリタキセル5mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、メタ重亜硫酸ナトリウム0.25mL
配合物2:パクリタキセル5mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、エデト酸二ナトリウム0.05mg/mL
配合物3:パクリタキセル5mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、ソルビン酸カリウム0.5mg/mL
配合物4:パクリタキセル5mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、安息香酸ナトリウム1mg/mL
配合物5:パクリタキセル7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、アスコルビン酸ナトリウム1mg/mL
配合物6:パクリタキセル7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、メチルパラベン1mg/mL
配合物7:パクリタキセル7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、ベンジルアルコール1mg/mL
(実施例2)
本実施例では、実施例1に記載の組成物中の抗菌剤の有効性をどのように測定するかを説明する。
【0121】
実施例1に記載の配合物中の抗菌剤の増殖阻害能力を、膜濾過法及びブロス培養を使用して評価する。保存有効性試験用に米国薬局方(USP)が推奨する4種類の標準微生物を約50〜200コロニー形成単位(CFU)/mL、各配合物に接種することができる。この4種類の微生物は、Staphylococcus aureus(ATCC 6538)、Escherichia Coli(ATCC 8739)、Pseudomonas aeruginosa (ATCC 9027)及びCandida albicans (ATCC 10231)である。これらの微生物に加え、S. epidermidis (ATCC 12228)及びS. aureus(コアグラーゼ陰性、ATCC 27734)を試験することもできる。被験微生物の接種後、被験配合物を30〜35℃で培養することができる。選択した時点(例えば、接種直後及び30〜35℃での培養を24時間行った後)での被験微生物の生存数を測定することができる。
【0122】
配合物中の抗菌剤が有効とみなされるのは、例えば、外因性汚染から約24時間で、組成物中の微生物が約1ログ(10倍)以上増加するまで増殖するのを遅延させることができる場合である。
【0123】
(実施例3)
本実施例は、糖含有パクリタキセル及びアルブミンの配合物では再構成時間が短縮されることを示す。主に米国特許第5,439,686号及び第5,916,596号の記載に従って、糖含有組成物及び糖非含有組成物を調製した。要約すれば、パクリタキセルをクロロホルム/エタノール(1:1)混合物に溶解し、その溶液をヒト血清アルブミン溶液に添加した。この混合物を低回転数で5分間ホモジナイズし、粗エマルジョンを形成した後、高圧ホモジナイザーに入れる。9000〜40,000psiで乳化を実施し、その間エマルジョンを少なくとも5回リサイクルする。結果得られた系を回転式蒸発器に移し、クロロホルム/エタノールを40℃の低圧下(30mmHg)で20〜30分間で迅速に除去する。その後、分散液を更に48時間かけて凍結乾燥する。結果得られたケーキは、追加の抗菌剤を含有することができる滅菌水又は生理食塩水を添加することにより、容易に再構成されて元の分散液に戻ることができる。
【0124】
糖はヒト血清アルブミン溶液に添加するか、凍結乾燥前の分散液に添加した。
【0125】
抗菌剤は本実験では添加しなかったが、添加することもできる。
【0126】
以下の配合物を調製した。
【0127】
配合物1:凍結乾燥前の懸濁液は、パクリタキセル5mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、マンニトール10mg/mLを含有した。懸濁液をバイアル毎にパクリタキセル250mgが入るようにバイアルに注入した。
【0128】
配合物2:凍結乾燥前の懸濁液は、パクリタキセル5mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、スクロース10mg/mLを含有した。懸濁液をバイアル毎にパクリタキセル250mgが入るようにバイアルに注入した。
【0129】
配合物3:凍結乾燥前の懸濁液は、パクリタキセル7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、スクロース90mg/mLを含有した。懸濁液をバイアル毎にパクリタキセル300mgが入るようにバイアルに注入した。
【0130】
配合物4:凍結乾燥前の懸濁液は、パクリタキセル7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL、マンニトール50mg/mLを含有した。懸濁液をバイアル毎にパクリタキセル300mgが入るようにバイアルに注入した。
【0131】
配合物5:凍結乾燥前の懸濁液は、パクリタキセル7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mLを含有した。懸濁液をバイアル毎にパクリタキセル300mgが入るようにバイアルに注入した。
【0132】
配合物3及び4の凍結乾燥製品を2分未満で再構成した。配合物1、2及び5の凍結乾燥製品の再構成にかかった時間は、同様に約8〜12分であった。驚くべきことに、10mg/mLの糖は、nab−パクリタキセルの再構成時間を有意に短縮するには十分ではなかった。再構成時間を短縮するのに必要な糖は約50〜90mg/mLであった。
【0133】
(実施例4)
本実施例は、糖含有パクリタキセル/アルブミン配合物の有益な特性を示す。
【0134】
一実験において、パクリタキセルとアルブミンの組成物(nab−パクリタキセル)を、上述のように糖含有組成物又は糖が不在の組成物として調製した。アルブミン−パクリタキセルの凍結乾燥バイアルが、この両方の配合物をそれぞれバイアル毎に300mgずつ含有するように調製した。糖を主成分とする配合物は90mg/mLの濃度でスクロースを含有した。この凍結乾燥製品を、55℃で30日間という促進安定条件で試験した。各配合物で7−エピタキソールの不純物率を測定し、ゼロ時間は約0.1%であった。55℃で15日間及び30日間保存したところ、糖を含有しない組成物における不純物率はそれぞれ0.6%及び0.8%であり、糖を主成分とする配合物における不純物率はそれぞれ0.4%及び0.6%であった。糖を主成分とする配合物における驚くべき不純物率の低さに基づけば、その保存期限は糖を含有しない配合物に比べて実質的に長いと考えられる。
【0135】
別の実験において、パクリタキセル約7mg/mL、ヒトアルブミン56mg/mL及びスクロース90mg/mLを含有する各配合物の懸濁液約1500mLを、最終濾紙を0.2μmとする一連の濾紙で濾過した(200cm EKVカプセル)。各配合物の濾過性を、濾紙を介して濾過されることのできたナノ粒子懸濁液の容積に基づいて評価した。糖を含有しない配合物で、濾過された最大容積は1300mLであり、その時点で濾過圧は25psiを超え、濾過膜の目詰まり又は飽和を示した。糖を主成分とする配合物では、1500mLが濾過された時点でも濾過圧の上昇はなく、実質的に高い濾過性が認められた。これは、糖を主成分とするnab−パクリタキセル配合物が、糖含有配合物に比べて、力価の損失を最小限にして容易に濾過されることを驚くべきことに示すものである。
【0136】
(実施例5)
本実施例は、誤って汚染が起こった場合に、nab−配合物が微生物の増殖培地として働くことを示す。配合物はそれぞれ5mg/mLのドセタキセル、パクリタキセル及び17−AAGを含有した。
【0137】
4種類の菌株を実験に使用した:E. coli(ATCCロット番号97−08/ロット番号483284)、S. aureus(ATCCロット番号1836394/ロット番号485823)、C.albicans(ATCCロット番号98−01A/ロット番号443131)及びP. aeruginosa(ATCCロット番号378667/ロット番号484882)。
【0138】
各菌株100〜600μL(約100〜200CFU/mL)を検査用バッチ試料管(表1参照、各試料を2連で試験した)2mLに接種し、TSB 2mLを対照とした。トリプシンダイズ寒天(TSA)プレートに試料の10%(10μL滅菌使い捨てループから20滴)を接種し、各試料とも2連とした。TSAプレートに温度制御培養器中で25℃±1℃で好気的に接種した。被験微生物のコロニー計数及びCFU/mLを、細菌の接種から0時間、24時間及び48時間後に測定した。
【0139】
24時間後又は48時間後の配合物での細胞成長が10倍以下であった場合に、その配合物に「Yes」というスコアをつけた(即ち、配合物は試験に合格した)。
【0140】
(表1.接種から48時間後の細胞成長)
【0141】
【表1】

合格=Yes(Y)又はNo(N)。
【0142】
抗菌剤(Abraxane)を含有しないNab−パクリタキセル(パクリタキセルのナノ粒子アルブミン配合物)、抗菌剤を含有しないnab−ドセタキセル(ドセタキセルのナノ粒子アルブミン配合物)及び抗菌剤を含有しないnab−17AAG(17−AAGのナノ粒子アルブミン配合物)は全て、少なくとも4種類中3種類の試験菌株において、24時間後も48時間後も、実質的な細胞成長(10倍超)を示した。表1を参照されたい。これにより、細胞成長阻害剤を全く含まないnab配合物で誤って汚染が起こった場合には、24又は48時間で10倍を超える微生物の増殖が起こることが確認された。
【0143】
一方、200mMのクエン酸塩を含有するNab−ドセタキセルは、E.coliを除き、24及び48時間後に細菌の増殖抑制が認められた。E.coliについてはEDTAの添加で改善された。クエン酸塩を含有するnab−ドセタキセルにEDTAを0.001%、0.01%、0.1%及び0.2%(w/v)追加すると、E.coliの増殖を完全に抑制できた。
【0144】
以上において、理解を明確にする目的で、例示及び実施例によりある程度詳細に本発明を説明してきたが、特定の小さな変更及び改変は行われることは、当業者に明らかである。従って、本説明及び実施例は、本発明の適用範囲を制限するものとして解釈してはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性医薬品、担体タンパク質、及びデフェロキサミン以外の抗菌剤を含む組成物であって、該組成物中における有意な細菌増殖が阻害される、組成物。
【請求項2】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中におけるアルブミン 対 前記難水溶性医薬品の重量比が約18:1以下である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、前記担体タンパク質でコーティングされた前記難水溶性医薬品のナノ粒子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中におけるアルブミン 対 前記難水溶性医薬品の重量比が約18:1以下である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物中の前記ナノ粒子の平均直径が約200nm以下である、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が滅菌濾過可能である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、約0.1〜約20mg/mLの濃度の前記難水溶性医薬品の水性懸濁液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、約0.1〜約20mg/mLの濃度の前記難水溶性医薬品の水性懸濁液に再構成することができる凍結乾燥組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が非経口投与に好適である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物がCremophor(登録商標)を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物中における抗菌剤の量が、該組成物を個体に投与した場合に毒性学的作用を引き起こすことがない、請求項1〜12の何れか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗菌剤がキレート化剤である、請求項1〜12の何れか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記キレート化剤が、エデト酸塩、クエン酸塩、ペンテト酸塩、トロメタミン、それらの誘導体、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記キレート化剤がクエン酸塩及びエデト酸塩を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記キレート化剤が200mMのクエン酸塩及びEDTAを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記抗菌剤が非キレート化剤である、請求項1〜12の何れか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記非キレート化剤が、亜硫酸塩、安息香酸、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラベン、それらの誘導体、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記難水溶性医薬品が、パクリタキセル、ドセタキセル、オルタタキセル又はその他のタキサン、ゲルダナマイシン、17−アリルアミノゲルダナマイシン、チオコルヒチン二量体、ラパマイシン、シクロスポリン、エポチロン、ラジシコール、及びコンブレタスタチンからなる群から選択される、請求項1〜12の何れか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記難水溶性医薬品がタキサン又はその誘導体である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記難水溶性医薬品がパクリタキセルである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記難水溶性医薬品がパクリタキセルである、請求項17に記載の組成物。
【請求項24】
個体における癌を処置する方法であって、請求項1〜12の何れか1項に記載の組成物の有効量を該対象に投与することを含み、前記難水溶性医薬品が抗新生物薬である、方法。
【請求項25】
前記組成物中における前記抗菌剤の量が、該組成物を個体に投与した場合に毒性学的作用を引き起こすことがない、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
難水溶性医薬品及び担体タンパク質を含む組成物を有意な細菌増殖を起こさないように保存する方法であって、該組成物にデフェロキサミン以外の抗菌剤を、該組成物中における有意な細菌増殖を阻害するのに有効な量添加することを含む、方法。
【請求項27】
難水溶性医薬品、担体タンパク質及び糖を含む乾燥組成物であって、該組成物が該難水溶性医薬品の安定した水性懸濁液に再構成され得、該組成物の再構成時間が該糖を含有しない組成物に比べて短く、該再構成した懸濁液中における糖の濃度が約50mg/mL超である、乾燥組成物。
【請求項28】
抗菌剤を更に含み、前記組成物中における有意な細菌増殖が阻害される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記糖がスクロース又はマンニトールである、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
前記難水溶性医薬品がパクリタキセルである、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
前記担体タンパク質がアルブミンである、請求項27に記載の組成物。
【請求項32】
パクリタキセル、アルブミン及び糖を含む組成物であって、該アルブミン 対 該パクリタキセルの重量比が約9:1以下であり、該組成物又は該組成物から再構成された懸濁液中の該糖が約50mg/mLを超える、組成物。
【請求項33】
前記組成物がアルブミン及びパクリタキセルを含むナノ粒子を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記糖がスクロース又はマンニトールである、請求項32又は33に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−506126(P2009−506126A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529249(P2008−529249)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/033931
【国際公開番号】WO2007/027819
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508061974)アブラクシス バイオサイエンス, エルエルシー (18)
【Fターム(参考)】