説明

難溶性多糖類の溶解剤および該溶解剤と多糖類を含有してなる組成物

【課題】 セルロース、キチン等の難溶性多糖類の溶解性に優れ、且つ、環境に対して低負荷であり、取り扱いの際に危険性を伴わない難溶性多糖類の溶媒および該溶媒と多糖類とを含有する組成物を提供すること。
【解決手段】 高極性の非ハロゲン系イオン液体からなる難溶性多糖類の溶解剤および該溶解剤と難溶性多糖類とを含有してなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性多糖類の溶解剤および該溶解剤と多糖類を含有してなる組成物に関する。より詳細には、高極性の非ハロゲン系イオン液体からなるセルロース、キチン等の難溶性多糖類の溶解剤および当該溶解剤とセルロース、キチン等の難溶性多糖類とを含有してなる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然界で合成される多糖類(天然多糖類)は、再生型の天然高分子資源として、古くから様々な利用が検討されてきた。天然多糖類には、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム等の水可溶性の多糖類もあるが、キチン・キトサンや綿花などの主成分であるセルロース等の難溶性多糖類は、その分子内・分子間に存在する強固な水素結合により、熱可塑性を示さず,水や一般的な有機溶剤にも不溶である。
【0003】
難溶性多糖類の例としてセルロースを挙げ、その溶媒についてまとめると、1857年にセルロースを溶解する銅アンモニウム溶液が発見されて以来、現在までに100以上のセルロース溶解溶媒が報告されている。それらの溶媒はほとんどが単一成分の溶媒でなく、特定の比率で混合された多成分系溶媒であり、例えば、DMSO/二酸化硫黄/アミン(特許文献1)、DMSO/パラホルムアミド(特許文献2)、DMF/四酸化二窒素(非特許文献1)、DMF/塩化ニトロシル(非特許文献2)、DMF/クロラール/ピリジン(非特許文献3)等が知られている。
【0004】
現在のところ、これらの多成分系溶媒を用いて工業的にセルロースの応用がなされている。また、単一成分で使用できる溶媒として、N−メチルモルホリン−N−オキシド(特許文献3及び4)や、ヒドラジン(非特許文献4)等も知られている。しかしながら、これらの公知の溶媒は、毒性の高いものや、爆発性に富むものが多く、その取り扱いには注意が必要である。また、セルロースを誘導体化して溶解させる方法も知られているが、天然状態での溶解ではないので、その利用は限定される。
【0005】
近年、工業化には至っていないものの、学術レベルにおいて、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド等のハロゲン系オニウム塩がセルロースを溶解すること、セルロースの誘導体化を起こさずに天然状態で溶解が可能となることから、溶解後にセルロースの化学修飾をこのイオン液体中で行うことができることが報告されている(非特許文献5)。しかしながら、これらのイオン液体は、環境に好ましくないハロゲンを含み、且つ、セルロースを溶解させるには、100℃以上の高温加熱とマイクロウェーブ等の物理的処理を必要とする。また、これらセルロースを溶解するイオン液体であっても、セルロースよりも難溶なキチンを溶解するには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特公昭44−2592号公報
【特許文献2】英国特許第1309234号明細書
【非特許文献1】W. F. Folwer ; J. Am. Chem. Soc., 69, 1639 (1947)
【非特許文献2】中尾、山崎;19回高分子討論会予稿集、1143(1970)
【非特許文献3】K. H. Meyer ; Monatsch., 81, 151 (1950)
【特許文献3】特公昭46−1854号公報
【特許文献4】特公昭47−13529号公報
【非特許文献4】M. Litt ; Cellu. Div. Preprints. Mtg. NY (1976)
【非特許文献5】R. P. Swatloski et.al., J. Am. Chem. Soc., 124, 4974 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、セルロース、キチン等の難溶性多糖類の溶解性に優れ、且つ、環境に対して低負荷であり、取り扱いの際に危険性を伴わない難溶性多糖類の溶媒および該溶媒と多糖類とを含有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題に鑑み、現在セルロースを溶解すると報告されているイオン液体より優れたイオン液体を得るため鋭意研究を続けてきた結果、極性が高く、粘性が比較的低いイオン液体が、上記の課題を解決することを見出し、本発明に至った。即ち、本発明の要旨は、高極性の非ハロゲン系イオン液体からなる難溶解性多糖類の溶解剤および当該溶解剤と多糖類とを含有してなる組成物に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、セルロース、キチン等の難溶性多糖類の溶解性に優れ、且つ、環境に対して低負荷であり、安全性の高い難溶性多糖類の溶解剤および該溶解剤と多糖類とを含有する組成物が提供される。本発明の組成物は、均一状態でのセルロース、キチン等の難溶性多糖類の化学修飾や機能化に供することができる。また、セルロースやキチン等を誘導体化することなく溶存させることが出来るため、これら難溶性多糖類の膜や繊維等の加工に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についての詳細に説明する。本発明に係るイオン液体は、高極性で且つハロゲンを含まない。この場合のイオン液体の極性は、水素結合受容性で定義できる。正電荷を帯びたカチオンと負電荷を帯びたアニオンから構成されるイオン液体の場合、アニオンは強く水素結合供与性物質との間に相互作用する。この相互作用はイオン液体を構成するアニオン種によって異なるため、水素結合受容性が高いアニオン種を有するイオン液体を高極性イオン液体と定義する。
【0011】
イオン液体の極性(水素結合受容性)は、下式に示す4−ニトロアニリンとN,N−ジエチル−4−ニトロアニリンのソルバトクロミズムを比較し、その差から定義できる(非特許文献6参照)。これら2種類の色素はそれぞれ水素結合受容性溶媒中では水素結合供与性基質となり、水素結合供与性溶媒中では4−ニトロアニリンのみが水素結合受容性基質になる。このソルバトクロミズムの差(δΔν)を水素結合の尺度とみなし、受容能の大きい溶媒であるヘキサメチルリン酸トリアミドのδΔν=2800cm−1を標準値に選んで水素結合受容能(β=1.00)とする。
【非特許文献6】L. Crowhurst et. Al., Phys. Chem. Chem. Phys.,5,2790 (2003)
【0012】
【化1】

【0013】
報告されている通常のイオン液体の水素結合受容性を示すKamlet−Taftβ値は構成するアニオンの種類によって異なり、約0.15から0.9程度の範囲に存在する(表1参照)。難溶性多糖類であるセルロースを溶解したと報告されているブチルメチルイミダゾリウムクロライド(CMI−Cl)の極性(水素結合受容性)が0.87であり、他のイオン液体がセルロースを溶解しないことから、難溶解性多糖類の溶解に適した極性の範囲は0.9以上であり、通常0.9〜1.3、好ましくは1.0〜1.2の範囲である。
【0014】
【表1】

【0015】
本発明に係る高極性の非ハロゲン系イオン液体を構成するカチオンとしては、特に限定されないが、アンモニウムカチオン及びヘテロ環オニウムカチオンが好ましい。アンモニウムカチオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシリルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、ジエチルトリメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン等の脂肪族4級アンモニウムイオン、N−ブチル−N−メチルピロリジニウムイオン等の脂環式4級アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0016】
ヘテロ環オニウムカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン等が挙げられる。イミダゾリウムカチオンの具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン等のジアルキルイミダゾリウムカチオン、1−(1,2または3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2.3−ジメチルイミダゾリウムイオン等のトリアルキルイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0017】
ピリジニウムカチオンとしては、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0018】
本発明に係るイオン液体を構成するカチオンとしては、ハロゲンを含まないものであれば特に限定されないが、例えば、HSO、CHSO等の無機アニオンを用いることも出来るが、多糖類の溶解性を高めるという点から、カルボン酸系アニオンが好ましく、中でも、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン等の炭素数1〜4のカルボン酸系アニオンが特に好ましい。
【0019】
本発明に係る高極性の非ハロゲン系イオン液体の一般的な合成方法としては、例えば、ジアルキルイミダゾリウム塩を例にとって述べると、アルキルイミダゾールとハロゲン化アルキルを反応させてジアルキルイミダゾリウムハライドを作成する。生成したジアルキルイミダゾリウムハライドを、これに対する溶解度が低い有機溶媒に滴下して、沈殿させることで精製を行う。次いで得られたハロゲン化物を目的とするイオン液体のアニオンを含む金属塩やアンモニウム塩と反応させるか、陰イオン交換樹脂を用いてハロゲン化物を水酸化物に変換した後に目的のアニオンを含む酸で中和することによって目的のイオン液体を得る。
【0020】
上記の様にして得られる高極性の非ハロゲン系イオン液体は、高イオン密度であり、広い温度域で液状を示す物質である。融点は、通常100℃未満、好ましくは80℃以下であり、室温で液状のものが、難溶解性多糖類の溶解に好適に使用出来る。また、蒸気圧が極めて低いか、まったく無いため、高温・減圧下でも蒸発しない。
【0021】
本発明に係る難溶解性多糖類としては、例えば、セルロース、キチンやキトサンが挙げられる。特に、セルロースやキチンが好適である。セルロースの基本構造はD−グルコースがβ−1,4−結合した多糖類であり、構成単位である無水グルコース基あたり3つのアルコール性の水酸基を持っている。一方でキチンはN−アセチル−D−グルコサミンがβ−1,4−結合で直鎖状に連なったβ−1,4−ポリ−N−アセチル−D−グルコサミンである。セルロースとキチンの一般的な構造を下式に示す。これらセルロース及びキチンの分子量に関しては特に限定はないが、数十万から数百万程度のものである。
【0022】
【化2】

【0023】
次に、本発明の組成物、すなわち、上記の高極性の非ハロゲン系イオン液体と難溶性多糖類とを含有する組成物について説明する。難溶性多糖類としては、セルロース、キチンやキトサン等が好適に用いられる。イオン液体は、溶解性の点から、加熱真空脱水して含水量0.1質量%以下としたものを使用するのが好ましい。この場合、加熱温度、減圧度などは、イオン液体の種類に応じて適宜選定すればよい。また、含水量は、カーフィッシャー水分計により、簡易に測定することが出来る。多糖類の形状は、溶解促進の点から、細片としたものが好ましい。
【0024】
イオン液体中に多糖類を含有させる方法としては、例えば、イオン液体中に所定量の多糖類を添加した後、加熱して溶解させる。加熱溶解時間は、通常10分間程度で、簡易な攪拌で十分である。溶解温度としては、セルロースの場合、通常40℃以上、好ましくは40〜80℃、特に好ましくは60〜75℃である。多糖類がイオン液体中に溶解したことの確認は、当初白濁状の液状組成物が、均一透明になることにより判断できる。加熱溶解により均一透明になった液状組成物は、その後、室温まで冷却しても、溶解した多糖類が析出して再び白濁を呈することはない。
【0025】
イオン液体中に於ける多糖類の含有量は、使用するイオン液体の種類と多糖類の種類によって溶解度が異なるため、一概には決められないが、組成物中の難溶性多糖類の含有量として、通常1.0〜5質量%程度である。イオン液体に難溶性多糖類を溶解した組成物の性状は、含有する多糖類の種類と量により異なるが、一般に、室温・低濃度ではやや粘稠な液状であり、温度を高めることにより粘度は低下する。従って、適宜加熱することにより、多糖類の化学修飾や機能化などに供する。また、高濃度ではゲル状を示すのでソフトマテリアルとして、種々の応用が可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。尚、以下の実施例におけるイオン液体の構造確認は、1H−NMR(日本電子(株)社製 Alpha−500)を用いて行った。また、イオン液体に添加したセルロース(ろ紙)が溶解したことは、目視により、セルロース(ろ紙)が分散混合した状態から均一透明な溶液になることで判断した。イオン液体の極性値はKamlet−Taftパラメーター測定により行った。
【0027】
実施例1
N−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)社製)と小過剰モル量の1−ブロモブタン(東京化成工業(株)社製)を窒素雰囲気下、0℃で混合し、3日間氷浴中で攪拌した。反応後に減圧下で未反応の1−ブロモブタンを留去し、得られた溶液をジエチルエーテル(関東化学(株)社製)300mlに滴下し、1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、上澄みのジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去し、白色固体を得た。得られた塩を50℃で24時間の加熱真空乾燥を行いブチルメチルイミダゾリウムブロマイド(C4MI−Br)を得た。
【0028】
得られたC4MI−Br3.40gを100mlの脱イオン水に溶解し、2Mの水酸化ナトリウム(関東化学(株)社製)8リットルを72時間かけて通薬することで再生したアニオン交換樹脂(Amberlite IER−400 OH型 Supelco(株)社製)150mlを充填したカラムに72時間かけて通薬し、ブチルメチルイミダゾリウムハイドロキサイド(C4MIm−OH)を得た。
【0029】
次いで、得られたC4MIm−OHに等モル量のギ酸(和光純薬工業(株)社製)を添加し、24時間氷浴中で攪拌した。溶媒を減圧下で留去したあと、反応生成物をジエチルエーテル300mlに滴下して、沈殿した液体を回収した。沈殿物をメタノール(和光純薬工業(株)社製)2mlに溶解させた溶液を、ジエチルエーテル300ml中に滴下し、沈殿した液体を回収した。得られた生成物を80℃において加熱真空乾燥することにより、イオン液体ブチルメチルイミダゾリウムホルメイト(C4MIm−HCOO)を得た。このC4MIm−HCOO 0.25gを80℃で24時間加熱真空乾燥し、窒素雰囲気下でセルロース(ろ紙)10mgと混合し、密閉した後、過熱しながらセルロースの溶解温度を記録した。その結果、セルロース10mgが完全に溶解する温度は65℃であった。このものの極性はβ=1.02であった。
【0030】
実施例2
実施例1において、C4MIm−OHに等モル量の酢酸(和光純薬工業(株)社製)を添加した以外は、実施例1と同様にして、イオン液体ブチルメチルイミダゾリウムアセテート(C4MIm−C1COO)を得た。このものの極性はβ=1.08であった。このC4MIm−C1COO 0.25gを80℃で24時間加熱真空乾燥し、実施例1と同様にして、セルロースの溶解温度を記録した結果、セルロース10mgが完全に溶解する温度は70℃であった。
【0031】
実施例3
実施例1において、N−メチルイミダゾールと小過剰モル量の臭化アリル(和光純薬工業(株)社製)を用い、2日間氷浴中で攪拌した他は、実施例1と同様にして、粘性液体を得た。得られた塩を50℃で24時間の加熱真空乾燥を行いアリルメチルイミダゾリウムブロマイド(AllylMIm−Br)を得、このAllylMIm−Br 3.40gを、実施例1と同様に、アニオン交換樹脂を充填したカラムに通薬して、アリルメチルイミダゾリウムハイドロキサイド(AllylMIm−OH)を得た。
【0032】
次いで、得られたAllylMIm−OHに等モル量のギ酸を添加し、実施例1と同様にして、イオン液体アリルメチルイミダゾリウムホルメイト(AllylMIm−HCOO)を得た。このAllylMIm−HCOO 0.25gを80℃で24時間加熱真空乾燥し、実施例1と同様にして、セルロースの溶解温度を記録した結果、セルロース10mgが完全に溶解する温度は58℃であった。このものの極性はβ=1.02であった。
【0033】
実施例4
実施例1において、N−メチルイミダゾールと小過剰モル量のブロモプロパン(東京化成工業(株)社製)を用い、2日間氷浴中で攪拌した他は、実施例1と同様にして、プロピルメチルイミダゾリウムブロマイド(C3MIm−Br)を得た。このC3MIm−Br 3.40gを、実施例1と同様に、アニオン交換樹脂を充填したカラムに通薬して、プロピルメチルイミダゾリウムハイドロキサイド(C3MIm−OH)を得た。
【0034】
次いで、得られたC3MIm−OHに等モル量のギ酸を添加し、実施例1と同様にして、イオン液体プロピルメチルイミダゾリウムホルメイト(C3MIm−HCOO)を得た。このC3MIm−HCOO 0.25gを80℃で24時間加熱真空乾燥し、実施例1と同様にして、セルロースの溶解温度を記録した結果、セルロース10mgが完全に溶解する温度は60℃であった。このものの極性はβ=1.04であった。
【0035】
実施例5
実施例1において、N−メチルイミダゾールと小過剰モル量のブロモエタン(東京化成工業(株)社製)を用い、2日間氷浴中で攪拌した他は、実施例1と同様にして、エチルメチルイミダゾリウムブロマイド(C2MIm−Br)を得た。このC2MIm−Br 3.40gを、実施例1と同様に、アニオン交換樹脂を充填したカラムに通薬して、エチルメチルイミダゾリウムハイドロキサイド(C2MIm−OH)を得た。次いで、得られたC2MIm−OHに等モル量のギ酸を添加し、実施例1と同様にして、白色固体エチルメチルイミダゾリウムホルメイト(C2MIm−HCOO)を得た。このものの極性はβ=1.05であった。
【0036】
上記により得られたC2MIm−HCOOと実施例4で得られたC3MIm−HCOO とを各0.125gずつ混合し24時間攪拌することで多成分系イオン液体[C3MIm,C2MIm]−2HCOOを得た。この多成分系イオン液体[C3MIm,C2MIm]−2HCOO 0.25gを80℃で24時間加熱真空乾燥し、実施例1と同様にして、セルロースの溶解温度を記録した結果、セルロース10mgが完全に溶解する温度は55℃であった。
【0037】
実施例6
実施例1において、C4MIm−OHに等モル量の酢酸(和光純薬工業(株)社製)を添加した以外は、実施例1と同様にして、イオン液体ブチルメチルイミダゾリウムアセテート(C4MIm−C1COO)を得た。このC4MIm−C1COO 1.0gを80℃で24時間加熱真空乾燥し窒素雰囲気下でキチン(和光純薬工業(株)社製)5mgと混合し、密閉した後、過熱しながらキチンの溶解温度を記録した。その結果、キチン5mgが完全に溶解する温度は120℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の高極性の非ハロゲン系イオン液体からなる難溶性多糖類の溶解剤は、セルロース、キチン等の難溶性多糖類を溶存させる必要がある全ての用途に適用可能であり、均一状態での化学修飾や機能化に供することができる。例えば、本発明の溶解剤にセルロース等の難溶性多糖類を溶解した組成物を用いて、フィルムや繊維等の加工、他の物質との複合材料も可能であり、更には、多糖類を高濃度に溶解させたゲルとしてソフトマテリアルとしての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は実施例1において得られたブチルメチルイミダゾリウムホルメイトの1H−NMRチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高極性の非ハロゲン系イオン液体からなる難溶解性多糖類の溶解剤。
【請求項2】
イオン液体の極性がKamlet−Taftβ値で0.9以上である請求項1記載の溶解剤。
【請求項3】
イオン液体を構成するカチオンが、アンモニウムカチオン及びヘテロ環オニウムカチオンから選ばれる1種以上である請求項1または2記載の溶解剤。
【請求項4】
ヘテロ環オニウムカチオンが、イミダゾリウムカチオン又はピリジニウムカチオンである請求項3記載の溶解剤。
【請求項5】
イオン液体を構成するアニオンが、カルボン酸系アニオンである請求項1乃至4記載の溶解剤。
【請求項6】
カルボン酸系アニオンの炭素数が1乃至3である請求項5記載の溶解剤。
【請求項7】
難溶解性多糖類が、セルロース、キチン、キトサンから選ばれたものである請求項1乃至6記載の溶解剤。
【請求項8】
請求項1乃至6に記載の溶解剤と難溶性多糖類とを含有してなる組成物。
【請求項9】
組成物中の難溶性多糖類の含有量が1乃至5質量%である請求項8記載の組成物。
【請求項10】
難溶解性多糖類が、セルロース、キチン、キトサンから選ばれたものである請求項8又は9記載の組成物


【図1】
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【公開番号】特開2006−137677(P2006−137677A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326165(P2004−326165)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】