説明

難燃助剤及び難燃性塩化ビニル樹脂組成物

【課題】少量の三酸化アンチモンと併用することで塩化ビニル樹脂に高い難燃性を与える難燃助剤を得る。
【解決手段】3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と,平均粒径12μm未満のタルク,ベントナイト,水酸化ドロマイト,又は堆積岩の群より選ばれたいずれか1種以上の無機物微粒子を,質量比で1:1〜4:1の割合で配合してこれを難燃助剤とする。この難燃助剤を,塩化ビニル樹脂,三酸化アンチモン及び可塑剤等から成る塩化ビニル樹脂組成物中に,全体量に対し1〜3.1mass%となるように添加することで,高い難燃性が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,難燃剤と共に塩化ビニル樹脂に添加することで,塩化ビニル樹脂の難燃性を向上させることのできる難燃助剤,及び前記難燃助剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は加工方法によって多方面に素材として利用されており,中でも建築材料として抜群の性能を有しているため多様化されてきた一方,環境面において日本ではその使用を制限する方向にあったが,性能の有利性から再び見直されつつある。
【0003】
塩化ビニル樹脂は分子構造にハロゲン基(塩素:Cl)を有しているため表1に示すようにそれ自体は他の樹脂に比較して酸素指数が高く,高い難燃性を表すが,塩化ビニル樹脂を単体で加工することは難しいため,加工を容易とするためにDOP(フタル酸エステル)等の可塑剤を加えることが一般的である。
【0004】
しかし,DOP等の可塑剤を加えると,塩化ビニル樹脂の持つ難燃性(酸素指数)が大きく低下すること(表1),そして,塩化ビニル樹脂は一旦燃え始めると有毒ガス(塩素:Cl)を発生することから,本来難燃性の良好であった塩化ビニル樹脂においても,可塑剤等の添加剤の添加に伴い難燃化処理が必要となってくる。
【0005】
特に建築材料として使用する場合,消防法の指定可燃物の適用を免れるためには酸素指数が26%以上であることが必要であり,また,サイディング材として使用する場合においても高い防火性が要求される等(非特許文献1),難燃性に対する厳しい規制があり,基本的には火源があっても燃えないこと,又は少なくとも,火源がなくなればすぐに消えること(自己消化性を有すること)が必須条件となってくる。
【0006】
ここで,「酸素指数」とは,材料の燃焼を維持しうる酸素と窒素の混合物における酸素の最低濃度であり,その測定方法はJIS K 7201に規定されている。
【0007】
【表1】

【0008】
プラスチックに添加して使用する難燃剤としてはハロゲン(主として臭素:Br,塩素:Cl)及びアンチモン(Sb)を配合して窒息効果を狙ったものが主流であり,一例として,静電荷現像剤用トナーの難燃化に関し,該トナーの主成分を構成するバインダ樹脂と,使用される難燃剤との組合せとして,バインダ樹脂を塩化ビニル樹脂,難燃剤を塩素化ポリオレフィンと三酸化アンチモンを併用することの提案もされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−019185号公報(請求項1)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】樹脂サイディング普及促進委員会のホームページ「耐火・耐熱性」(http://www.psiding.jp/tech/tech06.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本来難燃性の高い塩化ビニル樹脂であっても,加工性を改良するために可塑剤(例えばDOP)を添加すると,これにより難燃性が低下することは前述した通りであり,また,可塑剤の添加量が増える程,難燃性は低下する(表1)。
【0012】
そのため,このような難燃性の低下を回避しようとした場合,可塑剤の添加量を増やした分,アンチモンの添加量を増加することが考えられる。
【0013】
しかし,アンチモンは,一般に三酸化アンチモン(Sb23)の形で樹脂に添加されるが,三酸化アンチモンは希少金属であり,産出国も限定(主として中国)されるため,社会情勢の変化等に伴い入手が困難となる場合もあり,さらに産出国における急速な経済発展等に伴い価格の上昇も止まるところを知らず上昇し続けており,現在では大変高価な物質となっている。
【0014】
そのため,三酸化アンチモンの添加量増加は,製品の製造コストを上昇させる大きな要因の一つとなる。
【0015】
また,塩化ビニル樹脂の比重が1.4程度であるのに対し,三酸化アンチモンの比重は5.2と大きく,そのため添加量が増えるに従い成分毎の分級,偏在等に伴う配合不良,分散不良が生じ易くなり,品質にばらつきが生じ易く,また,成分の偏在に伴う難燃性,機械強度の低下等が生じ易い。
【0016】
そのため,三酸化アンチモンの添加量を減少させることは,製造コスト面でのメリットだけでなく,製品の品質にばらつきが発生することを抑制し,これにより不良率の減少にもつながり得るものである。
【0017】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,塩化ビニル樹脂に可塑剤を添加した場合であっても比較的少量の難燃剤(アンチモン)と併用することで,高い難燃性,好ましくは酸素指数(JIS K 7201)29.5%以上,より好ましくは30%以上を得ることができ,且つ,安価で,機械的特性を低下させない難燃助剤,及び前記難燃助剤を添加した難燃性塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を達成するために,本発明の難燃助剤は,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と,平均粒径12μm未満のタルク,ベントナイト,水酸化ドロマイト,又は堆積岩の群より選ばれたいずれか1種以上の無機物微粒子を,質量比で1:1〜4:1の割合で配合して成り,アンチモンと共に塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂組成物に添加して使用するものである(請求項1)。
【0019】
前記構成の難燃助剤において,前記ホウ酸亜鉛と,前記無機物微粒子の配合比を質量比で1.5:1〜2:1とすることが好ましい(請求項2)。
【0020】
更に,前記無機物微粒子としては,平均粒径0.5〜10μm,好ましくは平均粒径1〜10μm,より好ましくは平均粒径2〜10μm,更に好ましくは2〜4μmのものを使用する(請求項3)。
【0021】
また,本発明の難燃性塩化ビニル樹脂組成物は,塩化ビニル樹脂を主成分とし,難燃剤としてアンチモンが添加されていると共に,前述したいずれかの難燃助剤を,全体量に対し1〜3.1mass%,好ましくは1.5〜2.5mass%添加したものである(請求項4)。
【0022】
前記構成の難燃性塩化ビニル樹脂組成物は,全体量に対し,可塑剤を20〜40mass%含むものとすることができる(請求項5)。
【0023】
更に,前記難燃性塩化ビニル樹脂組成物は,前記アンチモンを三酸化アンチモンの形態で含むと共に,前記三酸化アンチモンを全体量に対し1.3〜3mass%含むものとすることができる(請求項6)。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した本発明の構成により,本発明の難燃助剤を三酸化アンチモンと共に添加した塩化ビニル樹脂組成物にあっては,三酸化アンチモンの添加量を1/2〜1/4に減らした場合であっても,減らす前と同等程度の難燃性を実現することができた。
【0025】
その結果,DOP等の可塑剤を全体量に対し実施例では約30mass%という高い割合で添加した場合であっても,三酸化アンチモンの添加量を全体量に対し実施例では1.6mass%と比較的少量添加しただけで,29.5%以上,場合によっては30%以上(最大31.5%)という高い酸素指数を得ることができた。
【0026】
なお,本発明の難燃助剤は三酸化アンチモンに比較して安価であることから,難燃性塩化ビニル樹脂組成物を比較的安価に製造することができると共に,本発明の難燃助剤を添加することにより,三酸化アンチモンの分級や偏在が防止され,その結果,得られた難燃性塩化ビニル樹脂組成物を使用した成型品に品質のばらつきやこれに伴う難燃性の低下,機械的強度の低下等が発生することを好適に防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】産地別タルクの成分説明図。
【図2】引張試験における試験片の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔難燃助剤〕
本発明の難燃助剤は,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と,後述する無機物微粒子とを,質量比で1:1〜4:1,好ましくは1.5:1〜2:1の割合で配合したものである。
【0029】
(1)3.5H2Oホウ酸亜鉛
本発明の難燃助剤の構成材料の1つであるホウ酸亜鉛は,一般式として,2ZnO−3B233.5H2Oで表される無機系,3.5H2Oの結晶水を持つ比重2.7g/mlの化合物である。
【0030】
このように,本発明で使用するホウ酸亜鉛化合物は,3.5H2Oの結晶水を持つことが特徴で,結晶水を加熱等によって減少させたものでは効果が著しく落ちる。
【0031】
(2)無機物微粒子
無機物微粒子としては,平均粒径12μm未満,好ましくは0.5〜10μm,より好ましくは平均粒径1〜5μmのものを使用する。
【0032】
この無機物微粒子としては,タルク,ベントナイト,水酸化ドロマイト,堆積岩より選択した微粉末を前記ホウ酸亜鉛と配合して使用する。ホウ酸亜鉛との配合に際しては,前述した無機物微粒子の群より選択した2種以上の微粉末を混合して配合することも可能ではあるが,好ましくは前述した群より選択されたいずれか1種の微粉末を単独でホウ酸亜鉛と配合する。
【0033】
(2−1)タルク
前掲のタルクは,水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる鉱物で一般式としてMg3Si410(OH)2,又は3MgO4SiO22Oの化学式で表される無機化合物混合物であり,図1に示すように産地によって成分の割合が多少異なるが,いずれも本願でいうタルクに該当し,同様に使用できる。
【0034】
(2−2)ベントナイト
前掲のベントナイトは,比重2.38のモンモリロナイト〔一般式(Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si410(OH)2・nH2O〕という鉱物を主成分とし,他に石英や雲母,長石,ゼオライト等の鉱物を含んでいる。
【0035】
ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトの結晶には、Na型とCa型の2種類があり,本発明では,いずれの型のものも使用可能であるが,Na型を使用した方が効果は高い。
【0036】
(2−3)水酸化ドロマイト
水酸化ドロマイトは,別名ドロマイトプラスターとも呼ばれるもので,石灰岩の一種であるドロマイト(苦灰石,白雲石)(CaMg(CO3)2),を焼き,水を加えて熟成し,粉末にしたものである。
【0037】
(2−4)堆積岩
堆積岩は、既存の岩石が風化・侵食されてできた礫・砂・泥、また火山灰や生物遺骸などの粒子(堆積物)が、海底・湖底などの水底または地表に堆積し、続成作用を受けてできた岩石であり,その生成の過程や堆積場所,成分等により,砕屑岩,火山破砕岩,生物岩,蒸発岩等多種多様のものを含むが,いずれのものも本発明で使用可能である。
【0038】
〔難燃性塩化ビニル樹脂組成物〕
本発明の難燃性塩化ビニル樹脂組成物は,塩化ビニル樹脂を主成分とし,難燃剤としてアンチモン〔三酸化アンチモン(Sb23)〕を含む塩化ビニル樹脂組成物に,前述した構成成分を前述した配合比で配合して成る本発明の難燃助剤を,全体量に対し1〜3.1mass%,好ましくは1.5〜2.5mass%となるように配合したものである。
【0039】
この難燃性塩化ビニル樹脂組成物には,少なくとも全体量の57mass%以上を塩化ビニル樹脂とするもので,可塑剤や安定剤等の添加剤を含んでいても良く,可塑剤を全体量の20〜40mass%程度含めることができる。
【0040】
ここで使用する可塑剤としては,塩化ビニル樹脂に添加する可塑剤として既知の各種のものを使用することができ,一例として,フタル酸エステル系の可塑剤,例えばDOP〔フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)〕,DINP(フタル酸ジイソノニル),DIDP(フタル酸ジイソデシル),DUP(フタル酸ジウンデシル)等を使用することができる。
【0041】
三酸化アンチモン(Sb23)は,全体量に対し1.3〜3mass%添加する。三酸化アンチモンの添加量は,低すぎると難燃助剤の添加によっても必要な難燃性が得られない一方,多ければ多いほど難燃性は向上するが,製造コストが高くなると共に機械的特性が低下する。
【実施例】
【0042】
次に,本発明の難燃助剤を添加した難燃性塩化ビニル樹脂組成物を成形して得た試験片を使用して,効果確認試験を行った結果を以下に説明する。
【0043】
〔原材料〕
本試験例で使用した原材料を表2に示す。
【0044】

【表2】

【0045】
〔試験方法及び試験結果〕
塩化ビニル樹脂:可塑剤(DOP):安定剤をそれぞれ100:50:2の質量比で混合したもの(本明細書において,「塩ビコンパウンド」という。)を基本配合とし,この塩ビコンパウンドを使用して,以下の試験を行った。
【0046】
(1)予備試験1(三酸化アンチモンの影響確認)
予備試験として,本発明の難燃助剤を添加することなく,前述した塩ビコンパウンドに対して三酸化アンチモン(Sb23)のみを添加した場合,三酸化アンチモン(Sb23)の添加量の変化に対し,酸素指数,及び機械強度(引張強度)がどのように変化するかを確認する試験を行った。
【0047】
試験を行うにあたり,表3に比較例1〜4として示す,三酸化アンチモン(Sb23)の添加量が異なる4種類の配合物を用意し,それぞれの配合物をロール混練機(原田製作所製/6インチ加熱ミキシングロール)により,165〜170℃の温度条件で約20分間混練した後,手動式油圧プレス成形機により200℃以上の温度で厚み3.0mmのプレスシートを得た。
【0048】
燃焼試験は,前記プレスシートより長さ120mm,厚さ3mm,幅6mmの燃焼試験片を作成し,JIS K 7201に規定する「酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法」(対応国際規格:ISO/DIS 4589-2.2)に従って,酸素指数の測定を行った。
【0049】
また,引張試験は,前記プレスシートより図2に示す1号試験片を作成し,JIS K 7113に規定する「プラスチックの引張試験方法」(対応国際規格:ISO 527-1〜527-5)に従って,引張強度(引張破壊強さ:試験片が破壊した瞬間における引張応力)の測定を行った。
【0050】
図2に示す試験片における各部の寸法は,A:全長170mm,B:両端の幅20mm,C:平行部分の長さ80mm,D:平行部分の幅10mm,E:肩の丸みの半径24mm,F:厚さ4mm,G:標線間距離80mm,H:つかみ具間距離100mmであり,試験速度を10mm/minとした。
【0051】
なお,表3の引張強度欄の[ ]内に記載した保持率とは,三酸化アンチモン(Sb23)を添加していない塩ビコンパウンドより得た試験片(比較例1)の引張強度(MPa)を100%とした場合における,三酸化アンチモンを添加した場合の試験片(比較例2〜4)の引張強度(MPa)を百分率で評価した値である。
【0052】
また,以後説明する試験項目において,酸素指数及び引張強度の測定を行っているものについては,同様の方法で試験を行っているため,以後,試験方法の説明は省略する。
【0053】
【表3】

【0054】
表3から明らかなように,三酸化アンチモンの添加量を増加するに従い,酸素指数が大きくなり,従って難燃性が向上するものの,機械強度は低下することが判明した。
【0055】
また,三酸化アンチモンの添加量が増加するに従い,材料単価が上昇し,無添加の場合に比較して,2.5質量部で7.5%程の上昇であるが,5質量部の添加で約15%,10質量部の添加で約30%単価が上昇した。
【0056】
(2)予備試験2(各種無機フィラー1種類の添加)
前述した三酸化アンチモンと共に,各種の無機物微粒子(1種)を添加した場合における酸素指数の変化を測定した。
【0057】
無機物微粒子として,水酸化アルミ,ベントナイト,タルク,水酸化ドロマイト,堆積岩,千枚岩,ホウ酸亜鉛を用意し,下記の表4に示す配合の配合物を使用して前述した方法でプレスシートを製造し,このプレスシートより燃焼試験片を作成して燃焼試験を行った。
【0058】
【表4】

【0059】
表4から明らかなように,水酸化アルミ(比較例5),ベントナイト(比較例6),水酸化ドロマイト(比較例8),堆積岩(比較例9),千枚岩(比較例10),及び1H2Oホウ酸亜鉛(比較例12)を添加した例では,いずれも無機物微粒子を添加していない場合(比較例4)と同じ,酸素指数28.5%を示しており,無機物微粒子を添加したことによる酸素指数の上昇は確認できなかった。
【0060】
なお,タルクを添加した例(比較例7),及び3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛化合物を添加した例(比較例11)では,いずれも,無機物微粒子を添加していない場合(比較例4)に比較して酸素指数が上昇しており,これらの物質は,塩ビコンパウンドの難燃性向上に一応の効果があることが確認された。
【0061】
また,同じホウ酸亜鉛化合物を添加した場合であっても,1H2Oホウ酸亜鉛(比較例12)を添加した例では酸素指数の向上が得られないことから,比較例11では,ホウ酸亜鉛が3.5H2Oの結晶水を持つことが,酸素指数の上昇に貢献しているものと予測される。
【0062】
(3)本願における難燃助剤の酸素指数
表5に,本願所定の組合せに従って,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛化合物と,その他の無機物微粒子を組み合わせて成る難燃助剤を添加した場合の酸素指数を示す。
【0063】
【表5】

【0064】
前掲の予備試験2の結果より,ベントナイト,水酸化ドロマイト,堆積岩及び千枚岩については,これをホウ酸亜鉛化合物と組み合わせることなく単独で添加した場合には,いずれも酸素指数の上昇は得られなかった(表4の比較例6,8〜10)。
【0065】
また,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛化合物を他の無機物微粒子と組み合わせることなく単独で添加した場合の酸素指数は,29.0%であった。
【0066】
以上の予備試験の結果を踏まえた場合,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛化合物と,ベントナイト,水酸化ドロマイト,堆積岩,又は千枚岩を組み合わせて添加した場合を想定しても,これにより酸素指数が29.0%を越えるという効果が得られることは期待できない。
【0067】
しかし,このような予想に反し,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛化合物に,ベントナイト,水酸化ドロマイト,又は堆積岩を組み合わせて添加した場合には,いずれも酸素指数が0.5%向上して29.5%となっていることが確認された。
【0068】
このことから,単独の添加では難燃助剤として機能していなかったベントナイト,水酸化ドロマイト,又は堆積岩が,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と組み合わされることにより,難燃性の向上に貢献するという新たな効果を発現していることが確認された(表5の実施例1,3,4参照)。
【0069】
しかも,この29.5%という酸素指数は,三酸化アンチモンを5質量部添加した場合の酸素指数30%(表3の比較例3)には僅かに劣るものの,これにほぼ匹敵する酸素指数であり,同様の酸素指数を得るために必要な三酸化アンチモンの添加量を約1/2に減少させることに成功した。
【0070】
また,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と組み合わせたもののうち,タルクについては,これを単独で添加した場合であっても難燃性の向上効果があることは確認できていたが(表4における比較例7参照),3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と組み合わせて添加することにより,31.5%という極めて高い酸素指数が得られた(表5の実施例2参照)。
【0071】
ここで,難燃助剤を添加することなく三酸化アンチモンを5質量部加えた場合の酸素指数は30%(表3の比較例3参照),三酸化アンチモンを10質量部添加した場合の酸素指数が32.0%であるから,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛とタルクの組合せから成る難燃助剤を添加した際に得られた31.5%という酸素指数は,三酸化アンチモン5質量部添加の効果を越え,更に,三酸化アンチモン10質量部添加の効果に迫る高い難燃性を示すものであり,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛化合物とタルクの効果を単純に組合せた場合に予測される効果を遙かに超えた効果が得られており,1/4程の三酸化アンチモンの添加で同程度の酸素指数を得られることが確認できた。
【0072】
なお,千枚岩の微粉末については,3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛との組合せによっても,酸素指数の向上が得られなかった(比較例13)。
【0073】
(4)配合比及び粒径の確認
上記実施例のうち,最も顕著な難燃性の向上を見せた3.5H2Oホウ酸亜鉛とタルクとの組合せにおいて,タルク及びホウ酸亜鉛の添加量を変化させることにより,酸素指数がどのように変化するかを確認した(比較例14,15及び実施例2,5〜8)。
【0074】
なお,実施例2,5〜8及び比較例14,15では,平均粒径4μmのタルクを使用しているが,比較例16では平均粒径12μm,実施例9では平均粒径2μm,実施例10では平均粒径10μmのタルクをそれぞれ使用し,粒径の相違が酸素指数にどのように影響するかを確認した。以上の結果を,表6に示す。
【0075】
また,上記の組合せにおいて,平均粒径4μmのタルクを使用した例において,酸素指数29.5%以上を示したもの(実施例2,5〜8)について,引張強度を測定した結果を表7に示す。
【0076】
ここで,表7の引張強度欄の[ ]内に記載した保持率とは,三酸化アンチモン及び難燃助剤のいずれも添加していない塩ビコンパウンド(表3の比較例1)における引張強度(25MPa)を100%とした場合における,各実施例(実施例2,5〜8)の引張強度(MPa)を百分率で評価した値である。
【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
上記試験の結果,「ホウ酸亜鉛:タルク」が質量比で1:1〜4:1の範囲(実施例2,5〜8)で,酸素指数29.5%以上という高い難燃性が得られる事が確認された。
【0080】
特に,「ホウ酸亜鉛:タルク」が質量比で1.5:1〜2:1(実施例2,6)の範囲では,酸素指数31.5%という,三酸化アンチモンを5質量部添加した場合(表3,比較例3参照)を越え,更に三酸化アンチモンを10質量部添加した場合(表3,比較例2参照)にほぼ匹敵する高い酸素指数を得られることが確認できた。
【0081】
しかも,いずれの例においても,29.5以上という高い酸素指数を示すものでありながら,機械的強度(引張強度)は,23MPa以上(保持率92%以上)と,いずれも高い状態に維持されていた(表7参照)。
【0082】
これらの実施例2,5〜8と同程度の酸素指数を,三酸化アンチモンの添加のみによって得ようとすれば,表7に示すように三酸化アンチモンの添加量を5質量部(比較例3)乃至10質量部(比較例2)迄増量する必要があるが,この場合,引張強度は比較例3で22MPa(保持率88%),比較例2で20MPa(保持率80%)まで低下する。
【0083】
しかし,本実施例では,同程度の酸素指数を,より高い引張強度を維持したまま達成することができており,特に,実施例2及び5にあっては,酸素指数が31.5%迄上昇するものでありながら,引張強度25MPa(保持率100%)を維持しており,三酸化アンチモンの添加に伴う機械的強度の低下が見られていないという驚くべき結果が確認された。
【0084】
このことから,実施例2及び5にあっては,難燃助剤の機能を発揮するのみならず,三酸化アンチモンの添加によって本来低下する筈の機械的強度を維持乃至は向上させる働きをも有するものであることが判る。
【0085】
なお,難燃助剤の添加量は,全体量に対し,1mass%未満では酸素指数の大幅な上昇を得ることができず(比較例14),また,3.4mass%以上添加しても同様に酸素指数の大幅な上昇を得ることができないことから(比較例15),1〜3.1mass%,好ましくは,1.27〜3.1mass%,より好ましくは1.5〜2.5mass%である。
【0086】
更に,平均粒径12μmのタルクを使用した場合(比較例16),本願所定の配合比でホウ酸亜鉛化合物とタルクを配合して得た難燃助剤を,本願所定の配合量で添加した場合であっても,大幅な難燃性の向上が得られないことから,平均粒径12μm未満であることが必要であり,好ましくは,平均粒径10μm以下,上記試験例において酸素指数29.5%以上を達成している平均粒径2〜10μmの範囲(実施例1,5〜10)を使用する。特に,平均粒径は小さくなる程効果が良好であり,下限としては平均粒径0.5μmのものまで使用可能であるが,より好ましくは,平均粒径1〜5μm,上記実施例の範囲では,他の条件の調整により酸素指数30%以上(最大31.5%)という高い酸素指数を示すことが確認されている,平均粒径2〜4μmの範囲(実施例2,5〜7,9)のタルクを使用する。
【0087】
なお,上記の試験例では,ホウ酸亜鉛とタルクとの組合せから成る難燃助剤の配合比及び添加量,及び使用するタルクの微粒子の平均粒径について説明したが,ホウ酸亜鉛化合物と組み合わせる無機物微粒子が,ベントナイト,水酸化ドロマイト,及び堆積岩の場合であって,ホウ酸亜鉛単体を添加した場合に得られる酸素指数29%を越えるものを調べたところ,いずれも同様の結果となることが確認された。
【0088】
また,以上の実験結果から,タルク,ベントナイト,水酸化ドロマイト,及び堆積岩のそれぞれにおいてホウ酸亜鉛との組合せによる効果が確認されていることから,これらのうちから選択した2種類以上の無機物微粒子を,ホウ酸亜鉛と組み合わせて使用した場合であっても,同様の効果が得られることが予測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.5H2Oの結晶水を持つホウ酸亜鉛と,平均粒径12μm未満のタルク,ベントナイト,水酸化ドロマイト,又は堆積岩の群より選ばれたいずれか1種以上の無機物微粒子を,質量比で1:1〜4:1の割合で配合して成り,アンチモンと共に塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂組成物に添加して使用する難燃助剤。
【請求項2】
前記ホウ酸亜鉛と,前記無機物微粒子の配合比が質量比で1.5:1〜2:1であることを特徴とする請求項1記載の塩化ビニル樹脂用難燃助剤。
【請求項3】
前記無機物微粒子が,平均粒径0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の塩化ビニル樹脂用難燃助剤。
【請求項4】
塩化ビニル樹脂を主成分とし,難燃剤としてアンチモンが添加されていると共に,請求項1〜3いずれか1項記載の難燃助剤を,全体量に対し1〜3.1mass%添加したことを特徴とする難燃性塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
全体量に対し,可塑剤を20〜40mass%含むことを特徴とする請求項4記載の難燃性塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
前記アンチモンを三酸化アンチモンの形態で含むと共に,前記三酸化アンチモンを全体量に対し1.3〜3mass%含むことを特徴とする請求項4又は5記載の難燃性塩化ビニル樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172068(P2012−172068A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35743(P2011−35743)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(592060237)株式会社鈴裕化学 (4)
【Fターム(参考)】